望月衣塑子記者の名前を、あなたはいつ知っただろうか。 官房長官の記者会見で質問を重ねる女性記者。 同じ質問を何度もするなと官邸スタッフに咎められたとき、「納得できる答えをいただいていないので繰り返しています」と彼女は即答した。 とても当たり前のこと。 でもその当り前の言葉が、ずっと僕の頭から離れない。 この国のメディアはおかしい。 ジャーナリズムが機能していない。 そんな言葉を日常的に見聞きするようになってから、もう何年が過ぎただろう。 僕のこれまでの人生は、常にメディアと共にあった。 そのうえで断言する。 あなたが右だろうが左だろうが関係ない。 保守とリベラルも分けるつもりはない。 メディアとジャーナリズムは、誰にとっても大切な存在であるはずだ。 だから撮る。 撮りながら考える。 望月記者はなぜこれほどに目立つのか。 周囲と違うのか。 言葉が残るのか。 特異点になってしまうのか。 撮りながら悩む。 考える。 だから観ながらあなたにも考えてほしい。 悩んでほしい。 きっと最後には、あるべきメディアとジャーナリズムの姿が見えてくるはずだ。 蔓延するフェイクニュースやメディアの自主規制。 民主主義を踏みにじる様な官邸の横暴、忖度に走る官僚たち、そしてそれを平然と見過ごす一部を除く報道メディア。 そんな中、既存メディアからは異端視されながらもさまざまな圧力にも屈せず、官邸記者会見で鋭い質問を投げかける東京新聞社会部記者・望月衣塑子。 果たして彼女は特別なのか?そんな彼女を追うことで映し出される、現代日本やメディアが抱える問題点の数々。 本作の監督を務めるのは、オウム真理教の本質に迫った『A』『A2』、ゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守を題材にした『FAKE』などで知られる映画監督で作家の森達也。 この国の民主主義は本当に形だけでいいのか、メディアはどう立ち向かうべきか。 森監督の真骨頂ともいえる新たな手法で、日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体を暴きだす。 菅官房長官や前川喜平、籠池夫妻など、ここ数年でよくメディアに登場した渦中の人間が続々と登場し、これまでの報道では観られなかった素顔をも映し出す。 報道では決して映し出されない、現代日本の真の姿。 既存の社会派ドキュメンタリーとは一線を画する、新たな社会意識をもった前代未聞のドキュメンタリーが誕生した。 監督:森達也 1956年、広島県呉市生まれ。 立教大学在学中に映画サークルに所属し、86年にテレビ番組制作会社に入社、その後にフリーとなる。 地下鉄サリン事件発生後、オウム真理教広報副部長であった荒木浩と他のオウム信者たちを描いた『A』は、98年に劇場公開され、ベルリン国際映画祭など多数の海外映画祭でも上映され世界的に大きな話題となった。 99年にはテレビ・ドキュメンタリー「放送禁止歌」を発表。 2001年には映画『A2』を公開、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。 06年に放送されたテレビ東京の番組「ドキュメンタリーは嘘をつく」には村上賢司、松江哲明らとともに関わり、メディアリテラシーの重要性を訴えた本作は現在でもドキュメンタリーを語る上で重要な作品のひとつとなっている。 11年には東日本大震災後の被災地で撮影された『311』を綿井健陽、松林要樹、安岡卓治と共同監督し、賛否両論を巻き起こした。 16年には、ゴーストライター騒動をテーマとする映画『Fake』を発表した。 出演:望月衣塑子 1975年東京都生まれ。 父親は記者、母親は演劇関係者の家庭に生まれる。 慶應義塾大学法学部卒業後、中日新聞社に入社。 東京本社へ配属。 千葉支局、横浜支局を経て社会部で東京地方検察庁特別捜査部を担当。 その後東京地方裁判所、東京高等裁判所を担当、経済部などを経て、現在社会部遊軍。 2017年3月から森友学園、加計学園の取材チームに参加し、前川喜平文部科学省前事務次官へのインタビュー記事などを手がけたことや、元TBS記者からの準強姦の被害を訴えた女性ジャーナリスト伊藤詩織へのインタビュー、取材をしたことをきっかけに、2017年6月6日以降、菅義偉内閣官房長官の記者会見に出席して質問を行うようになる。 会見での質問をまとめた動画と単著について「マスコミの最近のありように一石を投じるすもの」として2017メディアアンビシャス賞の特別賞に選ばれた。 2017年、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞。 二児の母。 2019年度、「税を追う」取材チームでJCJ大賞受賞。 企画・製作・エグゼクティヴプロデューサー:河村光庸 1949年8月12日東京都生まれ。 89年にカワムラオフィス、94年に青山出版社を設立、代表取締役就任。 98年、株式会社アーティストハウスを設立し数々のヒット書籍を手掛ける。 一方で、映画出資にも参画し始め、後に映画配給会社アーティストフィルムを設立し会長に就任。 08年に映画配給会社スターサンズを設立。 イ・チュンニョル監督のドキュメンタリー映画『牛の鈴音』(08)、ヤン・イクチュン監督作『息もできない』(08)を買付・配給。 製作では『かぞくのくに』(11)、『二重生活』(16)、『愛しのアイリーン』(18)、『新聞記者』(19)と話題作を立て続けに製作、公開する。 『あゝ、荒野』(16 は日本アカデミー賞をはじめ、各賞を総なめにした。 また、初めて制作した連続ドラマ「潤一」(19)はカンヌ国際シリーズフェスティバル コンペティション部門の正式出品作品に日本ドラマとして初めて選ばれた。 最新プロデュース作は真利子哲也監督『宮本から君へ』(19)。 1983年2月7日、アメリカ・フロリダ州生まれ。 父も母もミュージシャンで、両親とともに各地のフォーク・フェスティバルを中心に演奏を行う。 19歳の時に日本に来日。 そこから音楽活動を続ける中で、アイリッシュ・バンドJOHNSONS MOTORCARを結成。 その後、ハードコア・パンク・バンドBRAHMAN のボーカルTOSHI-LOWと出会い、BRAHMANの4人に、バイオリンストのMARTINとパーカッショニストKAKUEIから成るアコースティック・バンドOAUを結成する。
次のコラボTシャツ 映画『』の監督と、新潟にある市民映画館、シネ・ウインドがコラボレーションしたオリジナルTシャツが受注で販売されることになった。 新型ウイルスの影響による休館や、観客の映画館離れに直面するシネ・ウインドを支援するチャリティーとして、売上が寄付される。 この支援は、シネ・ウインドを拠点に活動する、藤井監督を応援するファンの集い「新潟藤井組」が企画。 新潟藤井組は2019年夏に映画『』(2018)の上映を目指して集結され、その後2回の藤井監督の特集上映を実施したことがある。 この支援企画に賛同した藤井監督は、手書きサイン、監督所属の映像ディレクター集団「BABEL LABEL(バベルレーベル)」はロゴを提供した。 新潟藤井組 5月25日から6月30日の23時59分まで販売されるこのTシャツは、黒と白の2種類、それぞれS、M、L、XLの4サイズで展開。 2,500円(送料別)で、シネ・ウインドのネットショップで受注販売される。 同サイトでは、7月31日まで一口5,000円の「シネ・ウインド明日のため募金」も募っている。 アップリンクの再上映に新潟から来てくれた一人の女性の「新潟で『青の帰り道』を上映したい!」という熱烈なオファーから、シネ・ウインドさん、新潟の皆さんとの関係が始まりました。 情熱的な皆さんのお陰で、映画の持つ力を再認識し、更にいい映画を作りたいという思いが強くなりました。 新作の映画と共に新潟の皆さんにお会いできる日を心から楽しみにしています。 待ち合わせ場所はシネ・ウインドで。 日常はある日いきなり奪われ、私たちのホームであるシネ・ウインドも存続の危機……何かしたい、お世話になってるシネ・ウインドさんに恩返しがしたい。 そんな想いを藤井道人監督、そして監督が所属するBABEL LABELさんにお話したところ、藤井組らしい夢のコラボTシャツが完成しました。 私たちの感謝の気持ちと愛がつまった1枚です。 たくさんの方にお届けできたら幸いです。 この映画を見たい会員が自らの力で成功に導いた、新潟・市民映画館の原点を思い出させてくれたからです。 彼女たちのチャレンジが多くの映画ファンを喜ばせてくれることを願っています。
次の現役で活躍する東京新聞社の記者・望月衣塑子の同名ベストセラーを「原案」に、オリジナル脚本で制作された同作は、メディア関係者や弁護士ほか各界の専門家から「衝撃を受けた」「心を揺さぶられた」と反響を呼んでいる。 メガホンを取ったのは、今年に入り劇場公開が続く藤井道人監督。 主演は、韓国の演技派女優シム・ウンギョンと松坂桃李。 ウンギョンは、政府の圧力と折り合いをつけながら情報発信を続ける新聞社の中にあって、権力中枢の闇をひたむきに追いかけ真実に迫ろうとする女性記者役だ。 『青の帰り道』再上映のインタビューに引き続き、6月28日(金)の公開を前にした監督へ今作への思いと今後の映画作りの展望を聞いた。 人としての葛藤、記者としての葛藤を描きたい 同作監督のオファーがあった時「すぐに答えを返せず悩んだ」と話す藤井監督。 その背中を押したのは、今作プロデューサー・河村光庸氏の「こういう映画だからこそ、藤井君たちの世代が撮るべきだ」とのひと言だったという。 藤井監督:映画やドラマを撮るときは全てそうですが、自分に話が来たら絶対に満足させたいし、傑作にしたいと思って取り組みます。 ただ、今回は新聞と政治がテーマ。 このテーマに詳しい人は僕以外にたくさんいるので、最初にオファーをいただいたときは、自分の知識のなさや識者の反応を考えてナーバスになりました。 そんなとき河村さんから「こういう映画だからこそ、藤井君たちのような興味がない世代が撮るべきだ」と言われて。 その発想が新しいと思いましたし、(河村さんは)僕ら若い世代にバトンを渡したがっているのだと感じました。 父子ほど年が離れていますが、彼の男気に惚れ、賭けてみたくなったんです。 僕は基本的に「映画屋」。 そこで記者としての葛藤、そして官僚の立場にいるからこその人としての葛藤を映し出すことを目標にしました。 「まあ、これでいっか」の流れになったら 「違いますよ」と言えなくなる同調圧力 撮影当時32歳の藤井監督が原作と企画を読んで感じたのは、「(この世の中は)誰もが『そうだよな』と思えるのが大事だということ」だという。 藤井監督: どんな組織や団体にも、大多数の意見が「まあ、これでいっか」の流れに傾いたとき、絶対に間違っていると感じていても「違いますよ」と言えなくなる同調圧力が存在します。 ヒエラルキーというものはどこにでもあるし、「国を守る」という大義が例えば「映画を守る」とか他のものに変わっても、そういった空気や人間関係はどの業界にも存在すると感じます。 映画に現れるその雰囲気が、僕ならでは目線でした。 そうした描き方へのこだわりはどこから生まれたのだろう。 冷静に見えるけれど、彼女の中には忘れられない過去があり、自分の真実を伝えることへの強い責任感がある。 日本の属性と少し違うその姿勢は、やがて周りの人間に伝播していきます。 シムさんが素晴らしかったのは、言葉を言わなくても目で伝えられるところ。 普段はすごく小柄でおとなしい方ですが、いざ芝居が始まると強いパッションも相まって韓国映画界のすごみを感じました。 僕の指示を待つのではなく、生き物のように次々と異なる球を投げてくれ、その時々の感情の中で一番いいものを演じてくれました。 藤井監督:杉原は外務省から内閣情報調査室(内調)に出向している存在。 松坂さんとはその設定について深く話をしました。 内調で働く人々も葛藤を抱えているようだと伝えると「官僚はとても遠い世界の人のように思えますが、やはり葛藤はありますよね」と、すぐ理解してくれて。 人間としての部分がぶれないように演じてくれました。 僕の要望を表現してくれるスピード・精度、すべてが完璧で、最後の方は場面ごとの演技に対するお互いのテンションがシンクロしていましたね。 内閣情報調査室官僚・杉原拓海(松坂桃李) 「落ち葉」と「地面」に込めた「民意」への思い 「(杉原の元上司)神崎の自殺のシーンは観る人によっては違和感を覚える画だと思いますが、人が死ぬ場面まで全て監視されているような視点を入れたくて考えました」。 常に誰かに見張られているような独特の構図について藤井監督はそう話す。 また、神崎が死んだ場所は落ち葉が敷き詰められていますが、これはある種の「言葉」を表すメタファーとして、大事な場面に何度も登場させました。 投書箱に出した僕らの意見ってまず届かないですよね。 そんなふうに言葉が落っこちていく状態をどう表現しようかと考えたときに思いつきました。 『青の帰り道』では記憶の堆積をほこりで表していて、前作『デイアンドナイト』では風をメタファーにしていた。 今回は季節柄もあって「葉っぱしかない!」と 笑。 ウンギョンとの仕事には大いに影響を受けたと目を輝かせる。 藤井監督:彼女がすごいのは、圧倒的に技術がある状態で日本に来ていること。 「お勉強しにきました」ではなく、「発揮しにきました」。 その姿勢にすごく刺激をもらいました。 シムさんと会ったことで韓国や中国、台湾など、海外クルーと一緒に仕事をしたい気持ちが加速しました。 ハリウッドではなく、アジア。 そこに若き監督がひきつけられる理由は何なのだろうか。 藤井監督: 東南アジアと日中韓は別物ですが、東南アジアでは今劇場館数が急激に増えています。 親日の国が多いこともあって、日本の映画人が入り込む場所がたくさんある。 海外に出て行く方って、日本の映画界に見切りをつけた人と、逆に拡張するために外でアピールしたい人の2パターンがいると思っていて、僕は基本的に後者。 僕らみたいな小さな島国の映画人が、全アジアに通用するような映画作りをすること。 今はそこを一番狙っていますね。 青春群像劇、ヒューマンドラマ、社会派サスペンス。 作品ごとに全く異なるテーマ・ジャンルへ挑戦を続ける監督に今後の映画作りの軸を尋ねた。 藤井監督: 2020年は国民的な一大イベントが開催されますし、街を歩いていると都市がどんどん均一化されているように感じます。 建物も次々と同じようなものに建て替えられていて、下北沢なんて見ていて悲しくなるくらい。 だからこそ、この変わり行く東京にフォーカスを当てて、今の東京を大事に撮りたいです。 ジャンルには特にこだわりませんし、次がファンタジーやラブストーリーでもいいと思っています。 ただ、働き方も街も驚くほどのスピードで変わっている。 1986年生まれ、東京都出身。 日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。 伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』でデビュー。 『光と血』などの作品を発表する一方で湊かなえ原作ドラマ『望郷』、ポケットモンスター、アメリカンエキスプレス広告など幅広い分野で活躍を続ける。 2017年Netflixオリジナル作品『野武士のグルメ』『100万円の女たち』他を発表。 2019年『デイアンドナイト』発表。 現在『青の帰り道』が公開中。 映画『新聞記者』予告篇 映画作品情報 《ストーリー》 東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。 日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。 一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は、現政権に不都合なニュースをコントロールする仕事と「国民に尽くす」という信念の間で葛藤していた。 そんな中尊敬する昔の上司・神崎と再会するが、数日後に神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。 ひたむきに真実を追いかける新聞記者と、「闇」の存在を前に選択を迫られるエリート官僚。 二人の人生が交差する時、ある衝撃の事実が明らかになる。
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