そして仕事中。 「……貴史」 「はい?」 「なんか知らないが、おまえ必要以上に石屋さんと距離が縮まってないか?」 「……それはどういう意味ででしょうか?」 石屋さんとの最近の距離感を先輩にツッコまれ、俺は半分とぼけて半分真面目に訊き返してみた。 「物理的な距離ってのは心の距離と同じだぞ。 おまえらの間にパーソナルスペースってものが感じられない」 「……そうですかね?」 俺に関しては、少なくとも以前と比べ何かしら変わったことはないんだけどなあ。 でも、石屋さんはどうだかわからん。 そりゃね、ゼロ距離でしかも一糸まとわぬ姿であれやこれやすれば、服を着てるときでも距離感は感じられないかもしれないわけでさ。 性行為はコミュニケーションなんだよな確かに。 とはいってもそれを露骨に前面に出すわけにはいかないので悩む。 そして一番怖いのは、片平部長の動向だったりするわけで。 「みんな思ってるぞ。 しかも石屋さん、前に比べて失敗が減ったじゃないか。 まだまだ人並みとは言えないが。 それでも俺たちの仕事を邪魔するようなことはなくなっている。 なあ教えろよ、何かあったんだろ?」 「……片平部長をに目をつけられたくないから、必死に頑張っているだけです」 「おお、なんかエリートみたいな物言いだな。 だが確かに言われてみればそうか」 この先輩相手なら適当にかわしても会話が成立するのがいいところ。 半分本当で半分嘘なのだが、真偽を確かめるような度胸は先輩にはないだろう。 「ま、もしこれで上の目に留まったら、貴史もひょっとして直々に部長から声がかかったりしてな」 「……そうだといいんですけどね」 「もしそうなったら、出世街道に乗れるじゃないか」 「……」 直々に声がかかるとすれば、俺が上に行くこととは真逆の可能性しかないのがつらいとこなんだけど。 「もし俺より偉くなったら、俺も出世街道に乗れるよう便宜を図ってくれよ、貴史」 先輩はそう言い残し、自分の持ち場へと帰っていった。 この先輩に自分で這い上がるという向上心はないのが幸いである。 あとは、石屋さんが部長に余計なことを言わなければやり過ごせる可能性は一応あるわけなんだが…… ……口止めはしたものの、ちょっと心配。 いちおう、念を押しとくか。 「ああ、石屋さん」 「は、はははい」 書類のコピーを終えた後らしき石屋さんが、俺に呼ばれてトテトテとマイデスクへと近寄ってきた。 「あのさ、最近の俺たちのことなんだけど」 「は、はははははい。 ななななんでしょう」 「いちおうさ、やましいところはないにせよ、余り大っぴらにするものでもないから、前にも言ったとは思うけど……」 嘘である。 やましいところだらけである。 だが、そこで石屋さんはいきなり、デスクの上に置かれた俺の手をギュッと握りしめてきた。 「ちょ、ちょっと石屋さんどうしたのいきなり」 予期せぬ石屋さんの行動に少し狼狽える俺。 だが石屋さんは逆に落ち着いたような笑顔になり、俺をじっと見つめてくる。 正直ドキッとした。 「……あの、やっぱり先輩とつながってると落ち着いて話せるみたいです」 下半身じゃなくて手でもいいのかよ。 そう思ったが口にはしない。 代わりに焦りが俺の口から出た。 「いや、でもこの状況は知らない人に見られたら誤解されるよ」 「誤解……?」 首かしげんな、かわいいとか思っちまったよ。 ダメな俺。 「仕事をする上で必要なふれあいのコミュニケーション、ですよね?」 「……」 「できれば先輩と下で繋がったまま仕事したいくらいですけど」 「どこの出来の悪いAVだそれは」 「え、でも、こんなにコミュニケーションをとりたいって思う相手は、先輩だけですよ……?」 「……はい?」 「先輩と交わす言葉も、身体も、とっても心地いいんです。 今のわたしには」 そこに色気はないはずなんだが。 社内で手をつないだままこんな話をしていると、石屋さんとオフィスラブしているような錯覚に陥る。 ………… いやいやいや! そこに愛はないから! 脳内で必死に理性フル稼働させるつもりなのに。 「……先輩、もしよければなんですが……昼休みになったら、多目的トイレで……オフィス内コミュニケーション、しませんか?」 耳元で誰にも聞こえないように囁いてくる石屋さんに負けそう。 手だけじゃやっぱりダメなのか。 ダメなんだな。 だが多目的トイレは今はタイムリー過ぎてアカン。 「それはさすがにダメ。 おまけに俺、ゴム持ってないし」 「お薬飲んでるから、なくて構いませんよ?」 「……」 なんかさ、このままじゃ堕落の果てに身を滅ぼすってオチが待ってないか? オフィス内だからこそそう考えられたのかもしれないが。 一歩も引かない石屋さんに焦れ、仕方なく説教モードへ突入。 「……石屋さん」 「は、はい?」 「ダメだ。 このままではやっぱりダメだ。 石屋さんにとってコミュニケーションだということはわかるけど、そればかりが方法じゃない。 こうして手をつないだだけでも違うじゃないか」 「……」 「もっと前向きに、違う他の方法でもちゃんと人と向き合えるような道を模索しないとならない。 すぐに行為に逃げるのはやめよう」 「……」 「もちろん、そのためには先輩として、俺も協力は惜しまない。 石屋さんには立派な社会人になってほしいからね」 つまり今のままでは社会人失格ということをオブラートに包んで諭してみた。 いいんだよ、他人に説教するときは思いっきり自分のことを棚に上げて。 ………… あれ? なんで石屋さん、感動したように目をウルウルさせてんの? 「……嬉しい……そんなにわたしのことを真剣に考えてくれているなんて……」 「ま、まあ、先輩として当然だ。 だから、頑張ろうな、仕事」 「は、はい! 先輩のために、わたし一人前になります!」 繋がる手が汗ばむ。 俺は冷や汗なのかもしれないが。 さてここからどう持っていこうか悩んでいると、間髪入れずオフィス内がざわめきたった。 思わず俺と石屋さんも振り向いて、その理由を確認したら。 「……小杉くんは、いるかね?」 ここの課にめったに顔を見せない片平部長、降臨。
次のそして仕事中。 「……貴史」 「はい?」 「なんか知らないが、おまえ必要以上に石屋さんと距離が縮まってないか?」 「……それはどういう意味ででしょうか?」 石屋さんとの最近の距離感を先輩にツッコまれ、俺は半分とぼけて半分真面目に訊き返してみた。 「物理的な距離ってのは心の距離と同じだぞ。 おまえらの間にパーソナルスペースってものが感じられない」 「……そうですかね?」 俺に関しては、少なくとも以前と比べ何かしら変わったことはないんだけどなあ。 でも、石屋さんはどうだかわからん。 そりゃね、ゼロ距離でしかも一糸まとわぬ姿であれやこれやすれば、服を着てるときでも距離感は感じられないかもしれないわけでさ。 性行為はコミュニケーションなんだよな確かに。 とはいってもそれを露骨に前面に出すわけにはいかないので悩む。 そして一番怖いのは、片平部長の動向だったりするわけで。 「みんな思ってるぞ。 しかも石屋さん、前に比べて失敗が減ったじゃないか。 まだまだ人並みとは言えないが。 それでも俺たちの仕事を邪魔するようなことはなくなっている。 なあ教えろよ、何かあったんだろ?」 「……片平部長をに目をつけられたくないから、必死に頑張っているだけです」 「おお、なんかエリートみたいな物言いだな。 だが確かに言われてみればそうか」 この先輩相手なら適当にかわしても会話が成立するのがいいところ。 半分本当で半分嘘なのだが、真偽を確かめるような度胸は先輩にはないだろう。 「ま、もしこれで上の目に留まったら、貴史もひょっとして直々に部長から声がかかったりしてな」 「……そうだといいんですけどね」 「もしそうなったら、出世街道に乗れるじゃないか」 「……」 直々に声がかかるとすれば、俺が上に行くこととは真逆の可能性しかないのがつらいとこなんだけど。 「もし俺より偉くなったら、俺も出世街道に乗れるよう便宜を図ってくれよ、貴史」 先輩はそう言い残し、自分の持ち場へと帰っていった。 この先輩に自分で這い上がるという向上心はないのが幸いである。 あとは、石屋さんが部長に余計なことを言わなければやり過ごせる可能性は一応あるわけなんだが…… ……口止めはしたものの、ちょっと心配。 いちおう、念を押しとくか。 「ああ、石屋さん」 「は、はははい」 書類のコピーを終えた後らしき石屋さんが、俺に呼ばれてトテトテとマイデスクへと近寄ってきた。 「あのさ、最近の俺たちのことなんだけど」 「は、はははははい。 ななななんでしょう」 「いちおうさ、やましいところはないにせよ、余り大っぴらにするものでもないから、前にも言ったとは思うけど……」 嘘である。 やましいところだらけである。 だが、そこで石屋さんはいきなり、デスクの上に置かれた俺の手をギュッと握りしめてきた。 「ちょ、ちょっと石屋さんどうしたのいきなり」 予期せぬ石屋さんの行動に少し狼狽える俺。 だが石屋さんは逆に落ち着いたような笑顔になり、俺をじっと見つめてくる。 正直ドキッとした。 「……あの、やっぱり先輩とつながってると落ち着いて話せるみたいです」 下半身じゃなくて手でもいいのかよ。 そう思ったが口にはしない。 代わりに焦りが俺の口から出た。 「いや、でもこの状況は知らない人に見られたら誤解されるよ」 「誤解……?」 首かしげんな、かわいいとか思っちまったよ。 ダメな俺。 「仕事をする上で必要なふれあいのコミュニケーション、ですよね?」 「……」 「できれば先輩と下で繋がったまま仕事したいくらいですけど」 「どこの出来の悪いAVだそれは」 「え、でも、こんなにコミュニケーションをとりたいって思う相手は、先輩だけですよ……?」 「……はい?」 「先輩と交わす言葉も、身体も、とっても心地いいんです。 今のわたしには」 そこに色気はないはずなんだが。 社内で手をつないだままこんな話をしていると、石屋さんとオフィスラブしているような錯覚に陥る。 ………… いやいやいや! そこに愛はないから! 脳内で必死に理性フル稼働させるつもりなのに。 「……先輩、もしよければなんですが……昼休みになったら、多目的トイレで……オフィス内コミュニケーション、しませんか?」 耳元で誰にも聞こえないように囁いてくる石屋さんに負けそう。 手だけじゃやっぱりダメなのか。 ダメなんだな。 だが多目的トイレは今はタイムリー過ぎてアカン。 「それはさすがにダメ。 おまけに俺、ゴム持ってないし」 「お薬飲んでるから、なくて構いませんよ?」 「……」 なんかさ、このままじゃ堕落の果てに身を滅ぼすってオチが待ってないか? オフィス内だからこそそう考えられたのかもしれないが。 一歩も引かない石屋さんに焦れ、仕方なく説教モードへ突入。 「……石屋さん」 「は、はい?」 「ダメだ。 このままではやっぱりダメだ。 石屋さんにとってコミュニケーションだということはわかるけど、そればかりが方法じゃない。 こうして手をつないだだけでも違うじゃないか」 「……」 「もっと前向きに、違う他の方法でもちゃんと人と向き合えるような道を模索しないとならない。 すぐに行為に逃げるのはやめよう」 「……」 「もちろん、そのためには先輩として、俺も協力は惜しまない。 石屋さんには立派な社会人になってほしいからね」 つまり今のままでは社会人失格ということをオブラートに包んで諭してみた。 いいんだよ、他人に説教するときは思いっきり自分のことを棚に上げて。 ………… あれ? なんで石屋さん、感動したように目をウルウルさせてんの? 「……嬉しい……そんなにわたしのことを真剣に考えてくれているなんて……」 「ま、まあ、先輩として当然だ。 だから、頑張ろうな、仕事」 「は、はい! 先輩のために、わたし一人前になります!」 繋がる手が汗ばむ。 俺は冷や汗なのかもしれないが。 さてここからどう持っていこうか悩んでいると、間髪入れずオフィス内がざわめきたった。 思わず俺と石屋さんも振り向いて、その理由を確認したら。 「……小杉くんは、いるかね?」 ここの課にめったに顔を見せない片平部長、降臨。
次のケイト・ボスワースさんが美しい…。 そして、イタリアの景色も美しく、旅をしているかのような感覚でした。 それだけで見る価値はあったように思います。 細い体と美しい容姿に女の私でさえ魅了されました。 内容的には微妙…。 幸せな結婚生活、責任感のある旦那、何不自由ない暮らしを手にしているのに、満足できない妻。 退屈な毎日に刺激を得るために、年下の少年に浮気する姿がちょっと辛い。 同じ女性として、彼女の身勝手さに腹が立ってしまいました。 もう少し旦那のことを思いやってあげてもいいような気もします。 本当に大事な話を避けてばかりいるから、最終的にあんな別れ方をしてしまったのでしょうね。 子供ができない体だからといって、もっと話し合うべきことはたくさんあったはず…。 彼女にいいように使われた年下の彼と、最後まで信じて待ち続けた夫が可哀想に感じました ほんと、美しいって罪ですね。
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