【再エネ電力とはなにかを勉強している人向けです。 民主化について追記しました】 まとめ ・電力の価値は電力システムの3E+Sと6つのDのメガトレンドで考える ・ドイツのエネルギー転換は今お金をかけて6つのDを実現する制度改革を目指している ・日本とドイツは6つのDの価値判断が異なるように感じる ・消費者は6つのDに重み付けをし、総合的価値が支払額を上回ると思った電力メニューを選ぶ ・日本の再エネでは脱炭素と地産地消に価値がおかれている このエントリは第3回です。 できればとを先にお読みください。 第2回の終わりに再エネ電力については以下の重要な論点があると書きました。 1.そもそも再エネ電力を選ぶことの価値はなにか? 2.選んだ再エネメニューに追加性はあるのか? 3.FIT電力とはなにか?その価値の取り扱いは? 4.化石燃料電源の課題「負の外部性」とは何か? 5.では、再エネ電力は正当化されるのか? 今回はこの続きで1についてになります。 再エネ電力を選ぶことの価値とはなにか? 最初に言ってしまうと、 各消費者が自分の価値観で判断するわけですから、1つの正解はありません。 みなさんがこれと思う価値があればそれが正解です。 とはいえ、それでは「なんでこんなエントリを書くのか?」という話になりますので、私の考えを書いていきます。 ただしこれも唯一の正解というわけではありません。 まず、経済学では一物一価(1つの商品に1つの価格)と習いますが、実際は同一の商品というのは世の中には稀にしか存在しません。 鉛筆1つとっても売値は様々です。 これは一物に複数の価格がついているのではなく、商品が異なるからです。 いわゆる差別化というやつです。 そして普通ある商品に対して自分が期待している価値よりも売値が低いと思ったとき、人は購入という選択をします(たとえそれが高額だとか、買うしか仕方がないと思ったとしてもです)。 当然電力にも再エネ電力にもこれだ!という1つの価値があるわけではありません。 (1)で触れましたが、100%再エネ電力にもいろいろな種類があります。 様々な価値が混ざって商品というのはできていますから、 再エネ電力も1つの価値しかなく、1つの価格が決まるというわけではありません。 6つのD、3E+S ところで、エネルギー特に電力の分野では4つのメガトレンドがあると言われています。 1. Decarbonization(脱炭素化) 2. Decentralization(分散化) 3. Deregulation(自由化) 4. Digitizatin(デジタル化) です。 これに Depopulation(人口減少・過疎化)を加えて5つにすることもあります(Utility 3. 一方ドイツのエネルギー転換ではDepopulationのかわりに Democratization(民主化)を加えた5つのDという場合もあります。 【追記部分】 民主化は色々な意味がありますが、ドイツの電力市場における文脈で重要なことは「自分たちで決める権利」が保証されることです。 具体的には自分たちが使う電気(電源)を自分たちで決める権利です。 古い例ですが「」が参考になると思います。 1986年のチェルノブイリ事故の際、放射性物質がドイツまで飛来し、大きな被害が出ました。 またソ連側だったことから事故の情報も不透明であり、大きな不安に悩まされました。 当時シェーナウのある南ドイツのバーデン・ビュルテンベルク州では電力の4割が原発であり、シェーナウのスラーデク夫妻を中心に原発を減らすように電力会社に訴える活動が大きくなりましたが電力会社は話を聞きませんでした。 これがきっかけで電力の民主化「自分の使う電気は自分で決める」ことの大切さが認識されるようになったのです。 確かに自家消費という選択肢は当時もありましたがそれは大金持ちしか不可能であり、「誰もが」自分で決める権利を持つことはできませんでした。 ドイツでは1998年の自由化で電力小売を決める権利が保証されましたが、自由化と民主化は同じではありません。 民主化とは、誰もがより多様な電力の使い方を決める権利を持つことです。 現在では、電源(電力小売)を決める権利からより広義な民主化へと変化しつつあるように思います。 その理想形が何かは私にが見えていませんが、スタートラインは「自分の使う電気を自分で決める権利を誰もが持つ」ということでした。 そしてもちろんそのために情報の透明性が高くなければいけないということは言うまでもありません。 今後は情報の透明性がますます重視されるようになるでしょう。 私は発電所の稼働終了後の対応も情報公開に含まれるようになるといいと思います。 正確には、 再エネに適した制度が作られればという条件付きであり、現在の制度設計は過去の経緯もあって必ずしも再エネフレンドリーになっていません。 6つのDのメガトレンドの逆側(例えばCentralized)にある点も多く、制度もそれに最適解して維持されてきたため、早晩に期待される価値に比べて適切な水準まで再エネの価格が下がることは残念ながらないと思います。 また、実際には莫大なコストがかかるのは再エネや調整力の導入そのものよりも制度の変更のほうだと思います。 これは既存の技術の退場にかかるコストも含めてです(既存技術が維持されやすいことを経路依存性とも言います)。 安いことはどれだけ重要か? ドイツでは電気代が上がっていても今なお再エネが支持されています。 お金はかかるもの。 ドイツのエネルギー転換はこうした考えに基づいています。 大型石炭火力の建設は、脱炭素化、分散化、デジタル化、民主化の分野で特に評価が低いのがドイツでは課題です。 ちなみに原発は資本が集約するという点で民主的ではないというのがドイツの考え方です。 SMRも数10MWと聞いていますから、分散型という点では数kWから導入可能な再エネの方が有利です。 また原発は輸入資源ですから、安定電源ではあっても長期の「安定供給」という点では今なお課題があります。 環境や安全性も残余リスクは再エネよりも大きい。 これが正しいというのではなく、ドイツではこのように考えているということです(実現度はともかく…)。 ドイツの脱炭素化の足取りが遅いというのは事実であり問題ですが、こうした考え方はドイツでは80年代から始まり、90年代から政治にも取り入れられるようになっています。 例えば「日本の高効率石炭火力は世界一」という時は、そもそも世界の(電源開発ではなく)技術開発のトレンドに向き合っているか?という問いも必要です。 6つのDの『 メガトレンド』を考えれば、石炭技術効率化の開発や輸出は本来優先順位が低いはずであり、ドイツでは実際そうなっており、石炭火力の発電効率向上の技術開発はすでにピークを過ぎています。 タービン部分も開発は発電効率ではなく、柔軟性であったり、電力と熱の切り替えの精緻化といったほうに注目が集まっているようです。 日本では脱炭素化に焦点があたりやすい ドイツの考え方を紹介しましたが、日本とドイツでは6つのDの比重が違います。 日本では民主化はあまり議論されないように思いますし、「人口減少・高齢化」はドイツ以上に深刻な課題です。 また、分散化するよりも信頼できる大手に集中した方が3E+Sを満たしてくれるという考えも強いのではないかと思います。 (分散化は電源だけのはなしではありません) 3E+Sはシンプルながら多くの価値を含みます。 これまでは特に安定供給と経済性の価値が重要でしたが、 少しずつ安全、環境の価値が上がっています。 安定供給、経済性の価値が相対的に下がっていることをもって危機感を煽る(例えばドイツのエネルギー転換は失敗している)人もいますが、これは間違いです。 環境の価値が相対的に増すことと安定供給の絶対的な価値が下がることはイコールではないからです。 私は日本でも6つのDにあわせた改正が必要だと思います。 つまり、独占的な市場でまとめて取引されてきた価値を6つのDにあわせて明示的にバラバラに価格付けし、電気代はその合算という形です。 具体的には容量市場、調製電源市場、環境価値取引などなどが別々の市場で取引されるようになります。 ゆっくりと市場が変化していけばよかったのでしょうが、これらがドラスティックに訪れているのが今の日本の状態であり、様々な利害が衝突するのは仕方のないことだと思います。 これは実はすごいことなんですが)。 一部新電力には分散化、人口減少・過疎化といったトレンドも強調しているところもあります。 ざっくりいって再エネ電力を選ぶ価値トレンドとは、 脱炭素化が1番、分散化と人口減少・過疎化(これら2つを合わせて地産地消電源と呼ぶ)がそれに続く、といった感じではないでしょうか。 再エネ以外のメニューを選ぶ人にはデジタル化(スマートメーターによるデジタルサービス)や自由化(電気とガス、電気とネット抱き合わせメニューなど)に価値を置く人もいると思います。 ちなみに安価、価格低減はトレンドには入らないですし、経済性もそもそもは支払い可能な額を意味し、価格を上げないことが絶対的な善というわけでもありません。 長期的に経済性を確保するためには短期的な値上げはやむなしという判断もありえます。 再エネ電力を選ぶ価値は脱炭素 非常に長くなってしまいましたが、 再エネ電力を選ぶ価値は脱炭素、つまりCO2を排出しないという価値になるでしょう。 当たり前の話と思うかもしれませんが、脱炭素という価値を重視する背景でどのような価値判断がなされているかを知っておくことは重要だと思い、長々と私の考えを述べました。 ちなみにCO2を排出しないという点では再エネも原発も違いがありません。 再エネと原発の電気の大きな違いは、脱炭素以外の5Dのトレンドの総合点で再エネが勝っていると思う人が多いという点です。 原発も再エネも同じCO2を排出しない電気ではありますが、それ以外の5Dのトレンドにより適切に対応でき、よってより価値のあるのは再エネです。 より多くの消費者が原発電気ではなく再エネ電気を望むということはそのような価値判断を意識、無意識に関わらずしているからなのです。 続きます。 著者はドイツで10年以上に渡り、エネルギーや環境政策の調査を行い、クライアントに報告書をまとめたり、提案を行ってきました。 本ブログは抽象的ながら必要な背景情報を提供しておりますが、具体事例について興味があったり、ビジネスに関心がある方は下記までお気軽にお問い合わせください。 nishimura a umwerlin.
次の新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言解除から1月がたち、やっと経済活動も再開の動きが見られるようになった。 パンデミック(世界的な流行)という異常事態での思考停止からやっと立ち直ったというビジネスパーソンも多いのではないだろうか。 今回は、頭をリフレッシュする意味で、2020年度以降の再生可能エネルギービジネスの潮流に影響を与えそうなイベントを、改めてまとめてみた。 COP26が来年に延期 2020年11月に英国グラスゴーにて開催される予定であった、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が、2021年11月まで延期されることが決定した。 COPは毎年、政府関係者、NPO(非営利組織)、企業人、マスコミ関係者など世界中から数万人が参加する大イベントである。 万が一クラスターとなった場合には、世界中にウィルスがばらまかれてしまうため、慎重な判断がされた。 しかし、気候変動枠組み条約のエスピノサ事務局長は「(新型コロナは)人類が直面する緊急の脅威だが、最も大きな脅威は気候変動であることを忘れてはならない」と表明した。 今回のCOPは、排出量取引のルールをどのように決めるのかが最大の焦点である。 排出量取引により、再生可能エネルギーによるCO2削減価値が国際的に取引される。 これにより、固定価格買取(FIT)など再エネを促進するような制度がない国においても、再エネ導入が促進されることが期待されている。 しかし、11月の米大統領選挙において、トランプ大統領が勝利すれば、米国は予定通りパリ協定を離脱する。 一方でバイデン前副大統領が勝てば米国がパリ協定に復帰するかもしれない。 オバマ大統領と習近平総書記で合意した温暖化防止の約束が復活するのか、米大統領選の結果によって、気候変動対策を巡る国際的な枠組みは大きな影響を受ける。 2020年にはCOPが開催されないので、排出量取引スキームを活用した海外での再エネプロジェクトの進捗は、停滞することが予想される。 ベトナムや台湾などで太陽光や風力発電を計画する事業者も増えているが、海外再エネプロジェクトはその国でのFITを活用した案件に限られることになる( 図1)。
次の新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言解除から1月がたち、やっと経済活動も再開の動きが見られるようになった。 パンデミック(世界的な流行)という異常事態での思考停止からやっと立ち直ったというビジネスパーソンも多いのではないだろうか。 今回は、頭をリフレッシュする意味で、2020年度以降の再生可能エネルギービジネスの潮流に影響を与えそうなイベントを、改めてまとめてみた。 COP26が来年に延期 2020年11月に英国グラスゴーにて開催される予定であった、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が、2021年11月まで延期されることが決定した。 COPは毎年、政府関係者、NPO(非営利組織)、企業人、マスコミ関係者など世界中から数万人が参加する大イベントである。 万が一クラスターとなった場合には、世界中にウィルスがばらまかれてしまうため、慎重な判断がされた。 しかし、気候変動枠組み条約のエスピノサ事務局長は「(新型コロナは)人類が直面する緊急の脅威だが、最も大きな脅威は気候変動であることを忘れてはならない」と表明した。 今回のCOPは、排出量取引のルールをどのように決めるのかが最大の焦点である。 排出量取引により、再生可能エネルギーによるCO2削減価値が国際的に取引される。 これにより、固定価格買取(FIT)など再エネを促進するような制度がない国においても、再エネ導入が促進されることが期待されている。 しかし、11月の米大統領選挙において、トランプ大統領が勝利すれば、米国は予定通りパリ協定を離脱する。 一方でバイデン前副大統領が勝てば米国がパリ協定に復帰するかもしれない。 オバマ大統領と習近平総書記で合意した温暖化防止の約束が復活するのか、米大統領選の結果によって、気候変動対策を巡る国際的な枠組みは大きな影響を受ける。 2020年にはCOPが開催されないので、排出量取引スキームを活用した海外での再エネプロジェクトの進捗は、停滞することが予想される。 ベトナムや台湾などで太陽光や風力発電を計画する事業者も増えているが、海外再エネプロジェクトはその国でのFITを活用した案件に限られることになる( 図1)。
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