横溝正史「 八つ墓村」 1951年発表の小説だそうです。 最近初めて原作小説をちゃんと読みました。 きっとたいていの人は、少なくともこの小説(映画)の存在は知ってるだろう超有名な作品かと。 ネタバレあり感想です。 ただ、詳しくない人にとっては、 懐中電灯を頭に巻いた殺人犯が出てくるのと、 水面に足だけ出てる死体のと、どっちが「八つ墓村」でどっちが「 犬神家の一族」なのか区別がつきにくいかも。 それ以前に 横溝正史と江戸川乱歩の区別がつかなかったり、ひいては 金田一耕助と明智小五郎の区別がつかなかったりするのかもしれません。 金田一少年と江戸川コナンの存在があるからそこはそうでもないかな? でもまー「八つ墓村」は何度も何度も映画やドラマになったので、それらを鑑賞してあらましを知ってる人は結構いるのではと思います。 (でも「犬神家」も負けないくらい何度も映像化してるからやっぱり区別つきにくい状態はどうしようもない) 私は江戸川乱歩は好きで、かなり昔に「 講談社江戸川乱歩全集全25巻」を読破したのがささやかな自慢です。 横溝の作品はなんとなく読んだことありませんでした。 でも先日、図書館で借りたい本があって、それ1冊だと物足りないから他になんか借りようと思ってうろうろして見つけたのがこの「八つ墓村」でした。 ……で、読んでみたら「面白かった」の一言でした。 すごいわ。 映画やドラマはすいぶん前に何度かテレビで視聴したことはありました。 確か、 豊川悦司、 古谷一行、 稲垣吾郎が金田一役をやってたやつは、見た記憶があります。 内容うろ覚え。 でも原作を読んでるうちに、映像版もちょっと思い出して、原作と映像版が全然別物であることに気づいて驚きました。 さらにネットでは 「八つ墓村は原作と映画は別物」って言われてたのも思い出しました。 もう本当に別物でした。 読み終わってからwikipediaとかで調べたら改変点はめっちゃありましたが、最大の改変点は「 ヒロインの存在」です。 ツイッターとかではたまに「 横溝ヒロイン総選挙」って企画があって、そこでいつも1位常連になるくらいの超人気ヒロイン。 そのヒロイン、いくつもある映像版のほとんどで存在そのものがカットされてるんです。 映像版しか知らない人にとっては「八つ墓村のヒロインって、なんか都会っぽい年上の美女なんじゃないの」って感じですが、その女性はあくまで ヒロイン3人の中の一人に過ぎませんでした。 メインのヒロインは原作では別にいるのにいつもカットされてるという 超不思議なヒロイン。 それが 里村典子。 典ちゃんです! 本当は横溝ヒロイン総選挙までに前回よりvrupしたギャルゲー風イラストをあげようと思ってたんですけど、間に合いませんでした。 春代、金田一先生、典子のバストアップ絵はおおまかにできてるんですが……。 今年中には完成したらいいなー。 — 佐々木麿 sasakimaro 「八つ墓村」はヒロインが3人います。 森美也子。 多治見春代。 里村典子。 映像版は時間などの制約があってか、下二人をカットすることが多いです。 というか原作では主人公 寺田辰弥は典子と結婚して ハッピーエンドになるのですが、 おどろおどろしい苦い結末に改変するために典子の存在が邪魔なのかも。 (でも映像版はそれはそれで良作) しかしまー、 主人公と結ばれるメインヒロインを存在ごとバッサリカットってのもすごい判断です。 その特殊性がまた横溝ファンにとっては典子の人気をあげる一因になってそうな気もします。 さてヒロイン。 主人公を惑わす怪しい悪女です。 第2のヒロイン、春代(35歳)は、辰弥の異母姉と言いつつ 実は血が繋がってないことを知っており辰弥を異性として愛してしまうけど辰弥からは姉としか見られてないことに悲しんでます。 とても優しいけど美也子や典子に嫉妬の感情も見せたりして、美也子に殺害されますがその際に美也子の指を思い切り噛んで致命的な破傷風を起こさせ 相討ちとなる執念も見せます。 辰弥の胸の中で死ぬシーンが悲しい…。 第3のヒロイン、典子(26歳)は未熟児で生まれたせいか精神的にも肉体的にもどこか足りない印象で、辰弥の一つ下なのに見た目は19歳程度にしか見えなく田舎育ちのぼんやりしたさえない娘でしたが、辰弥と出会い 初恋を経験し乙女回路フル稼動します。 短時間で身も心も急速に成長していき辰弥を「 お兄さま」と直球ストレートに慕い最終的には彼をゲットしてしまうヒロインオブヒロイン。 原作の後半の展開も、映像版とは全然違ってて、 八人の落ち武者が隠した財宝を探して洞窟をじっくり探検します。 辰弥と典子の二人は大ピンチになりつつも財宝を見つけてしまうという。 ラストシーンでは典ちゃん 御懐妊。 ネットでは「 八つ墓村はハーレムラノベ」なんて評価するネタも見かけましたが、あながち間違いではないです。 典子ルートがトゥルーエンドだったといった感じです。 この小説、探偵小説(推理小説)ではないですね。 金田一も美也子に完敗してましたし。 ホラーでもサスペンスでもない気がします。 おどろおどろしい猟奇小説に見せかけた冒険恋愛エンターテイメント小説でした! 辰弥は春代と典子からどうしてそんなにモテたのか? ま、イケメンなんでしょうね。
次の「八つ墓村」原作あらすじ解説|映画とは違う爽やかな結末 2019年9月13日 2020年1月13日 12分 どうも、夏蜜柑です。 横溝正史の小説 「八つ墓村」についてまとめました。 昭和24年に発表された、金田一耕助シリーズの長編第4作目にあたります。 『』や『』と同じく、岡山を舞台とする作品。 読み終わったときの感想は、 「『八つ墓村』って、こういう話だったんだ!?」。 タイトルが強烈なのと、子供の頃の映画の印象が強かったので、もっと陰惨で恐ろしい話を想像していました。 映画の名台詞「八つ墓の祟りじゃ~っ!」が当時大流行して、わたしも怖がっていた記憶があって。 原作は、正直そんなに怖くない。 「八つ墓村」は基本的には探偵小説だけど、 伝奇小説や冒険小説、ロマンスの要素もたっぷりで、とてもワクワクする面白い作品でした。 少し不満なところをあげるとしたら、 金田一耕助の出番が少ないことかな…。 最後に事件の真相をまとめていますが、その都度〈ネタバレ〉も付けています。 登場人物 主要人物 金田一耕助(きんだいちこうすけ) 私立探偵。 鬼首村で起きた事件(『夜歩く』)の解決後、ある人物の依頼を受けて八つ墓村にやってきた。 年齢は35、6歳。 もじゃもじゃ頭で風采のあがらぬ小柄な人物。 興奮するとどもりがひどくなり、もじゃもじゃ頭をかき回す。 寺田辰弥(てらだたつや) 本編の主人公で語り部。 色白の美男。 全身に無数の傷痕がある。 7歳の時に母・鶴子が亡くなり、義父・寺田虎造に育てられる。 21歳で召集され、終戦の翌年に復員。 義父が戦争で死に、天涯孤独となる。 神戸の化粧品会社で働いていたが、田治見家の跡取り(田治見要蔵の息子)として八つ墓村に呼び戻され、事件に巻き込まれる。 磯川常次郎(いそかわつねじろう) 岡山県警の警部。 八つ墓村の殺人事件を担当する。 金田一を信頼している。 田治見家(東屋) 田治見小梅/田治見小竹(たじみこうめ/たじみこたけ) 要蔵の伯母(辰弥の大伯母)で、育ての親。 一卵性の双子。 田治見家の財産を狙う里村家に嫌悪感を抱き、要蔵の息子・辰弥を探し出して田治見家を継がせようとする。 田治見要蔵(たじみようぞう) 辰弥の父。 粗暴で残虐な男。 26年前、辰弥の母・井川鶴子を力づくで妾にした。 鶴子が家出したため発狂し、村人32人を虐殺。 山中へと逃げ込み、以来行方不明となっている。 田治見久弥(たじみひさや) 要蔵の長男。 肺病を患い、死期が近い。 辰弥と対面した直後、何者かに毒殺される。 2人目の犠牲者。 田治見春代(たじみはるよ) 要蔵の長女。 物静かで穏やかな女性。 一度は他家に嫁いだものの心臓が弱く子供が産めない体となったため離縁され、実家に戻って小梅と小竹の世話をしている。 辰弥に深い愛情を持って接する。 里村家 里村慎太郎(さとむらしんたろう) 要蔵の甥で、典子の兄。 元軍人(少佐)。 戦時中は羽振りがよかったが、戦後は没落。 村に戻って失意の日々を送っている。 美也子とは戦時中から付き合いがあり、ひそかに好意を寄せていた。 田治見家の財産を狙う者として、田治見家の人々から嫌われている。 里村典子(さとむらのりこ) 慎太郎の妹。 無邪気で天真爛漫な性格。 辰弥に一途な好意を寄せ、辰弥の心強い味方となる。 野村家(西屋) 野村荘吉(のむらそうきち) 野村家当主。 八つ墓村で田治見家と並ぶ分限者。 美也子の亡き夫・達雄の兄。 野村達雄(のむらたつお) 荘吉の弟で、美也子の夫。 太平洋戦争の3年目に脳溢血で亡くなった。 戦時中は電気器具の製造工場を経営し、同郷で軍人の里村慎太郎と親しくしていた。 森美也子(もりみやこ) 未亡人。 荘吉の義妹で、30過ぎの都会的な女性。 姐御肌で、人から頼られることを好む性格。 八つ墓村から辰弥を迎えにくる。 戦時中、軍人だった里村慎太郎の助言で金を儲けている。 村の医者 久野恒実(くのつねみ) 村の診療所の医者。 田治見要蔵の従兄。 久弥の主治医だが、大伯母たちからは「ヤブ医者」扱いされている。 疎開医師の新居に患者を奪われつつあり、新居を妬んでいる。 妙蓮が殺害された後、姿を消す。 趣味は探偵小説を読むこと。 新居修平(あらいしゅうへい) 大阪から疎開してきた医者。 辰弥の祖父・丑松の主治医。 腕と人柄がよく対応も丁寧なことから、村人の信頼を集めている。 患者を奪われたという理由で、久野から逆恨みされている。 そのほか 寺田鶴子(てらだつるこ) 辰弥の母。 旧姓は井川。 19歳の時、妻子持ちの田治見要蔵に拉致され、力づくで妾にされた。 要蔵の異常な執着や度重なる暴力に耐えかね、幼い辰弥を連れて姫路の親戚のもとに身を隠す。 その後、神戸で15歳年上の寺田虎造と結婚。 辰弥が7歳の時に亡くなっている。 終生、要蔵から受けた仕打ちのトラウマに苦しんでいた。 寺田虎造(てらだとらぞう) 鶴子の夫で、辰弥の義父。 神戸の造船所の職工長だったが、戦時中に爆撃で亡くなる。 亀井陽一(かめいよういち) 小学校の訓導で、鶴子の恋人。 鶴子が要蔵の妾となった後も、鍾乳洞で逢い引きを重ねていた。 26年前の事件の時は隣村にいて難を逃れた。 事件後、転勤で村を離れている。 井川丑松(いかわうしまつ) 鶴子の父で、辰弥の祖父。 当初、辰弥を八つ墓村に連れ帰る役目を担わされていたが、諏訪法律事務所で辰弥と会った直後に毒殺される。 一人目の犠牲者。 長英(ちょうえい) 隣村にある麻呂尾寺の住職。 八つ墓村の住人ではないが村に檀家が多く、村民の信望も篤い。 80歳と高齢のため、最近は弟子の英泉が名代をすることが多くなっている。 英泉(えいせん) 長英の弟子。 長英にかわって麻呂尾寺のことを取り仕切っている。 戦争中は満州の寺で苦行僧となっていたが、終戦後に引き揚げて麻呂尾寺に入った。 辰弥を一連の事件の犯人として疑う。 洪禅(こうぜん) 田治見家代々の菩提寺である蓮光寺の住職。 30過ぎで、書生のような風貌。 3人目の犠牲者。 妙蓮(みょうれん) 村人からは「濃茶の尼」と呼ばれる。 26年前の事件で要蔵に夫と子供を殺され、出家した。 迷信深く、八つ墓明神の祟りを恐れている。 辰弥を災いの元と決めつけ、村から出て行くように命じる。 手当たり次第他人のものを盗む癖がある。 梅幸(ばいこう) 慶勝院の尼。 妙蓮とは対照的に人望がある。 辰弥に「話したいことがある」と言った後、何者かに毒殺される。 4人目の被害者。 吉蔵(きちぞう) 西屋の博労。 26年前の事件で新妻を殺され、要蔵の身内である辰弥に激しい憎しみを抱く。 暴徒化した村人たちと共に辰弥を追って鍾乳洞に入り、辰弥を殺そうとする。 諏訪(すわ) 神戸の「諏訪法律事務所」の弁護士。 田治見家からの依頼で、辰弥を探していた。 相関図 津山事件について 作中で描かれている「田治見要蔵の大量虐殺事件」は、本作執筆の11年前(昭和13年)に岡山県で実際に起きた 津山事件(津山30人殺し)がモデルになっています。 事件当時は報道されなかったため、著者が事件について知ったのは戦後になってからでした。 津山事件 23歳の男性が引き起こした日本犯罪史上稀有(けう)な大量殺人事件。 現場が岡山県津山市に近い苫田郡西加茂村 現,加茂町 なので,この名がある。 ついで,この観念を母体にして村人への復讐および殺人衝動が芽生え,周到な計画・訓練・予行ののち,ついに1938年5月21日午前2時,実行に移る。 (世界大百科事典 第2版より) 津山事件で殺害されたのは30人ですが、本作では 32人(8の倍数)に変更されています。 あらすじ(ネタバレ有) 八つ墓村からの使者 物語の主人公(語り手)は、寺田辰弥です。 終始、彼の視点で語られるため、金田一耕助は脇役です(辰弥は金田一が有名な探偵だとは知らず、頼りない男だと思ってます)。 辰弥は、神戸で母・鶴子と義父・虎造に育てられました。 出生の秘密については何も知らされず、両親亡きあとは天涯孤独の身となっていましたが、ある日突然〝田治見家の跡取り〟であることを知らされます。 辰弥を迎えにきたのは、鶴子の父・井川丑松でした。 その前後、辰弥の身の回りで不審な出来事が起こります。 誰かが辰弥のことを調べ回っていることがわかり、さらに、「八つ墓村に帰ってきてはならぬ」という警告状が届きます。 辰弥を調べていたのは誰なのか? 警告状の送り主は? 井川丑松を殺したのは、森美也子です。 丑松が日頃から飲んでいた喘息の薬の中に、あらかじめ毒を仕込んだ薬を紛れ込ませていました。 彼女は田治見家を皆殺しにして里村慎太郎に財産を継がせるため、今回の計画を実行しました。 田治見家は呪われた家系 祖父の代わりに、森美也子という女性が八つ墓村からやってきます。 都会的で明るく、面倒見のいい美也子に、辰弥はたちまち魅了されます。 そして彼女と諏訪弁護士から、はじめて自分の出生にまつわる出来事を聞かされます。 父・田治見要蔵が母・鶴子を拉致し、無理やり妾にしたこと。 鶴子が自分を連れて姫路に逃げてきたこと。 逆上した要蔵が、八つ墓村で32人を惨殺するという大量虐殺事件を起こしたこと。 八つ墓村に到着すると、辰弥はさっそく村人たちから白い目で見られることになります。 中でも〝濃茶の尼〟と呼ばれる妙蓮は、「おまえが来ると村はまた血でけがれる」「いまに八人の死者が出る」と叫び、辰弥を追い返そうとします。 濃茶の尼(妙蓮)はなぜ辰弥を敵対視するのか? 濃茶の尼は26年前の事件で田治見要蔵に夫と子供を殺され、出家しました。 辰弥を敵対視するのは要蔵の息子だからで、祟りうんぬんの話は後付けです。 屏風の謎 一方、田治見家の人々は、辰弥を喜んで迎え入れます。 とくに腹違いの姉・春代は、ことさら辰弥に優しく接してくれました。 辰弥は、母がかつて暮らしていた離れの座敷に寝泊まりすることになるのですが、その離れには最近妙なことがあったと春代が言います。 戸締まりはされているのに、部屋に誰かが入ったような形跡があったり、屏風の位置がずれていたり。 さらに、この部屋に泊まった奉公人が、「お坊さんが屏風の絵から出てきた」などと証言しているという。 春代が屏風の後ろに落ちていた古い地図の話をしたとき、辰弥は思わず「あっ」と叫びます。 辰弥もまた、それと似たような地図を持っていたからです。 屏風から抜け出た人物は誰なのか? 屏風にどんな秘密が隠されているのか? 辰弥が持っている地図の正体は? 屏風から抜け出た(ように見えた)人物は、麻呂尾寺の英泉です。 屏風には、辰弥の母・鶴子と恋人の亀井陽一が交わした恋文が一面に貼り付けられていました。 英泉は鶴子を思い、屏風を見るために地下道を通って離れに侵入したのです。 辰弥が持っている地図は、地下迷路の地図です。 田治見久弥の死〈第2の殺人〉 翌日、辰弥は腹違いの兄・久弥と対面します。 結核を患う久弥は、病床にありました。 話の途中で発作を起こした久弥は、薬を飲んで血を吐き、亡くなります。 久弥もまた、のちに中毒死であることが判明しました。 久弥と丑松の葬儀が行われた日、金田一耕助が辰弥に会いにやってきます。 金田一は「用心するように」と辰弥に忠告し、「この事件はこのままじゃおさまらない」と不吉なことを言って立ち去ります。 久弥を殺したのは誰なのか? 金田一耕助は、なぜ八つ墓村にやってきたのか? 久弥を殺したのは森美也子です。 久弥に処方された薬の中に、毒を仕込んだ薬を紛れ込ませていました。 金田一は美也子の亡き夫・達雄の兄である野村荘吉に頼まれて、美也子を調べるために八つ墓村に来ました。 洪禅和尚の死〈第3の殺人〉 さらに、久弥の初七日の日、田治見家を訪れていた蓮光寺の住職・洪禅が殺されます。 またしても毒殺でした。 その場に居合わせた麻呂尾寺の英泉は、「俺を殺そうとして、間違えて洪禅を殺したんだろう!」などと叫び、その場は騒然となります。 春代は、先月の初めに英泉がどこかに旅行をしていたことを思い出し、辰弥に打ち明けます。 辰弥はそれを聞いて、「神戸で自分のことを聞いて回っていたのは、英泉さんではないか」と考えます。 洪禅を殺したのは誰なのか? 英泉は、なぜ自分が殺されると思ったのか? 洪禅を殺したのは森美也子です。 彼女の本来の目的は田治見家の皆殺しですが、カムフラージュのために無関係の人を殺害したのです。 英泉は、辰弥が田治見家の財産を手に入れるために、実の父である自分を殺そうとしているのだと勘違いしていました。 梅幸尼の死〈第4の殺人〉 洪禅が殺される直前、辰弥は慶勝院の梅幸尼に「あなたに話があります」と言われていました。 翌朝、辰弥は慶勝院を訪ね、梅幸尼の遺体を発見します。 遺体のそばに一枚の紙片が落ちていて、そこには「田治見久弥と野村荘吉」「妙蓮と梅幸」など、相似する身分や職業の人間ふたりを一組とする、5つの組み合わせが書かれていました。 組み合わせ表を見た金田一は、「犯人は、2人のうちどちらが死んでもよかったのではないか」と推理します。 梅幸尼を殺したのは誰なのか? 彼女は辰弥に何を言おうとしたのか? 梅幸尼を殺したのは森美也子です。 遺体のそばにメモを置いたのも美也子(辰弥と遺体を発見した時に、こっそり落としました)。 梅幸尼は辰弥の実の父親が亀井陽一(英泉)であることを知っていて、それを辰弥に教えようとしていました。 濃茶の尼(妙蓮)の死〈第5の殺人〉 辰弥が尼寺の近くで里村慎太郎の姿を見かけた翌日、濃茶の尼(妙蓮)の遺体が発見されます。 今度は毒殺ではなく、絞殺でした。 さらに、医師の久野が姿を消します。 筆跡鑑定の結果、梅幸尼の遺体のそばに落ちていた組み合わせ表は、久野の筆跡であることが判明。 しかし金田一は、久野にはアリバイがあると言います。 濃茶の尼(妙蓮)を殺したのは誰なのか? 久野はなぜ失踪したのか? 濃茶の尼を殺したのは森美也子です。 殺す予定ではなかったのですが、濃茶の尼が美也子に都合の悪い証言をする可能性があり、口封じのために首を絞めて殺しました。 このとき、慎太郎は男装した美也子が庵室から出てくるところを目撃しています。 久野は、自分の書いたお遊びのメモが殺人に利用されたことを知って驚き、身を隠しました。 納戸の抜け孔 ある夜、辰弥は双子の大伯母たちがこっそりと離れの納戸に入っていくのを見かけ、納戸の長持ちの底に地下に通じる抜け孔があることに気づきます。 抜け孔の奥は鍾乳洞に繋がっており、迷路のようになっていました。 辰弥は自分を追って偶然に鍾乳洞の存在を知った典子と洞窟の中を探検し、そこに重大な秘密が隠されていることを知ります。 鍾乳洞の奥には鎧武者が祀られており、その正体は屍蝋となった田治見要蔵でした。 26年前、双子の大伯母たちは、事件を起こした要蔵を地下にかくまったものの、家名や世間体などを考えひそかに毒殺。 地下で腐敗せず屍蝋と化した要蔵の遺体に380年前の落武者の鎧を着せ、祀ったのでした。 鍾乳洞の秘密 さらに、辰弥は鎧武者が腰掛ける石棺の中に、黄金色に輝く大判三枚を見つけます。 自分が肌身離さず持っている地図が「地下迷路の地図」だと気づいた辰弥は、 鍾乳洞のどこかに黄金三千両が隠されていることを確信します。 辰弥の地図には「竜の顎」「狐の穴」「鬼火の淵」などの地名が書き込まれており、春代が離れで見つけた地図には「猿の腰掛」「天狗の鼻」「木霊の辻」といった地名が書き込まれていました。 辰弥はこのことを誰にも言わず、ひとりで黄金三千両を探し出そうと決意します。 田治見小梅の死〈第6の殺人〉 双子の大伯母のひとり、小梅が地下で何者かにさらわれます。 辰弥は金田一と磯川警部と共に地下の捜索に加わり、3人は「鬼火の淵」で小梅の遺体を発見します。 遺体のそばには久野の帽子と、「小梅様」「小竹様」と書かれた例の組み合わせ表の続きが落ちていました。 警察は捜索隊に洞窟を捜索させますが、犯人は見つかりませんでした。 小梅を殺したのは誰なのか? 久野を殺したのは美也子です。 もともとこの連続殺人計画は、探偵小説マニアの久野が考えた〝お遊び〟でした。 美也子は偶然その計画を書いたノートを拾って、利用したのです。 怯えた久野は逃げようとしましたが、美也子に騙されて洞窟の中に連れ込まれ、毒殺されました。 母の秘密 辰弥は離れの屏風の下貼りに、手紙が貼り付けられていることに気づきます。 それは、母と恋人の亀井陽一が交わした手紙の数々でした。 辰弥は職人を呼び寄せ、その手紙を取り出します。 その中には、当時の亀井陽一の写真が入っていました。 写真を見た辰弥は、亀井陽一が自分とうりふたつであることを知り、自分の本当の父親が亀井陽一であることに気づきます。 村人たちの暴動 深夜、村人たちが暴動を起こし、田治見家に押し寄せてきます。 目的は、辰弥を捕らえて殺すこと。 彼らは一連の殺人事件の犯人が辰弥であると思い込んでいるのでした。 春代に逃げるように諭され、辰弥は地下に逃げ込みます。 先頭に立って辰弥を追う吉蔵は、26年前の事件で要蔵に新妻を殺され、辰弥を殺して恨みを晴らそうとしていました。 辰弥を心配する典子は、暴動が収まるまでしばらく洞窟から出ない方がいいと言います。 村人たちはなぜ暴動を起こしたのか? 扇動したのは美也子です。 彼女は途中からわざと辰弥に対して冷たい態度を取り、吉蔵たちに「彼女は辰弥が犯人だと思っている」と思わせたのです。 さらに警察に辰弥が犯人だと密告する手紙を出したり、役場の前に貼り紙をしたりして、巧みに誘導していました。 田治見春代の死〈第8の殺人〉 典子が家に戻ったあと、辰弥は暗闇の中で春代が助けを呼ぶ声を聞きます。 辰弥が洞窟の中で探し当てると、春代は「木霊の辻」で何者かに襲われ、鍾乳石のかけらで胸を刺されていました。 春代は辰弥の腕の中で、辰弥への愛を告白します。 彼女は辰弥が要蔵の息子ではなく、自分と血縁にないことを知っていました。 春代は辰弥の腕に抱かれたまま、息を引き取りました。 春代を殺したのは誰なのか? 春代を殺したのも美也子です。 さらに、美也子は春代が持参していた辰弥のお弁当の中に毒を仕込み、辰弥も殺そうと考えていました。 しかし辰弥が意外に早く駆けつけたために、毒を仕込む暇がありませんでした。 地下に閉じ込められた辰弥と典子 辰弥と典子は迫り来る追っ手から逃れるうちに洞窟の奥へと迷い込み、ついに隠された宝の山を見つけますが、同時に落盤によって洞窟内に閉じ込められてしまいます。 春代は死ぬ直前、犯人の小指を噛み切ったと言っていました。 典子は、小指を噛み切られた人物を知っていると打ち明けます。 森美也子でした。 美也子は自分で傷の治療をしようとして失敗し、傷口からばい菌が入って重体に陥っているというのです。 その後、2人は捜索隊によって救出され、美也子が死んだことを知ります。 英泉の秘密 洞窟から無事に脱出した辰弥は、隣村の麻呂尾寺を訪ねます。 村人たちの暴動を鎮めてくれたのは、麻呂尾寺の住職・長英でした。 辰弥は長英から、驚くべき事実を告げられます。 長英の弟子・英泉こそ亀井陽一であり、辰弥の実の父だと。 26年前の事件のあと、英泉は罪悪感から出家し、満州の奥地で苦行僧となり、すっかり人相が変わってしまっていたのでした。 神戸で辰弥のことを聞いて回っていたのは、彼自身にも辰弥が自分の子か要蔵の子かわからなかったからだと言います。 村にやってきた辰弥の顔を見てわが子だと確信するも、辰弥の本心が読めず、田治見家の財産を手に入れるために実の父である自分を殺そうとしている……と思い込んでいたのです。 英泉は、かつて麻呂尾寺に伝わる地図を頼りに宝探しをしたことがあり、辰弥の母・鶴子と逢い引きを繰り返していたのも洞窟の中でした。 そのため、ときどき鶴子を思って地下道をうろついたり、田治見家の離れに入り込んで屏風を眺めたりしていたのでした。 事件の真相(金田一の謎解き) 春代の三十五日の夜、金田一耕助によって田治見家の離れに一同が集められました。 集まったメンバーは、磯川警部、新居医師、野村荘吉、英泉、慎太郎、典子、諏訪弁護士、そして辰弥。 ここで金田一は、次のようなことを明かします。 野村荘吉に頼まれて、森美也子を調査するために八つ墓村にやってきたこと• 荘吉が弟・達雄の死因に疑念を抱き、妻の美也子に毒殺されたのではないかと疑っていたこと• 神戸で辰弥の祖父・丑松が殺された時に、美也子への疑念を深めたこと しかし、連続殺人に一貫した動機が見いだせず、頭を悩ませていたところに、あの組み合わせ表のメモが見つかった。 そこで金田一は、 「ひょっとすると犯人は、ほんとうの動機をカムフラージュするために、ああいう動機を示しておきたかったのではないか」と考えました。 もともとは、探偵小説マニアの久野医師が、新居医師を殺すために企てた空想上の殺人計画でした。 久野医師は、新居医師を殺害しても疑われない計画を考案し、楽しんでいたのです。 ところがその計画を書いたノートが入った往診カバンを、濃茶の尼が盗んだ。 ノートは捨てられ、たまたま美也子が拾い、田治見家の皆殺し計画に利用されてしまったのです。 自分が考えた殺人計画が、誰かによって実行されていると知った久野医師は、恐怖におびえて逃げだし、美也子に毒殺されたのでした。 犯人の目的 美也子の目的は、 田治見家の人間を殺し、慎太郎に田治見家を継がせることでした。 そうすれば、慎太郎の自信も回復し、自分に求婚してくるに違いないと考えたのです。 辰弥に「八つ墓村に帰ってきてはならぬ」という警告状を送ったのも、村人たちを巧みに扇動して暴動を引き起こさせたのも、美也子でした。 当初は面倒見がよく、辰弥に親切だった美也子が、途中から急によそよそしくなり冷たい態度を取り始めたのは、「私は辰弥が犯人だと思っている」ということを、それとなく村人たちに信じ込ませるためでした。 金田一は、美也子が息を引き取る前にすべての罪を告白したことを、一同に告げます。 物語の終わり 金田一が事件の真相を語り終えると、今度は辰弥が話し始めます。 財宝を発見したこと。 典子と結婚したこと。 そして慎太郎に向かって、田治見家相続の辞退を申し出ました。 慎太郎は田治見家を継ぐことを受け入れ、生涯結婚しないことを告げます。 辰弥は典子を連れて神戸へ帰ることになり、父・英泉は村に残って老師をみとり、人々の冥福を祈って暮らすことを決めます。 典子から妊娠の知らせを聞いた辰弥は、生まれてくる子供には自分のようなみじめな半生を与えまいと誓います。 感想 8人もの犠牲者が出ているにもかかわらず、読後感は爽やかでした。 後半は殺人事件よりも鍾乳洞での探検がメインになり、辰弥と典子のロマンスも加わって、ワクワクする展開になっていたのと、辰弥が隠された財宝を見つけ出して典子と結ばれる、という冒険小説の大団円のような結末が、明るい印象を残したのだと思います。 序盤の落武者伝説や、要蔵の32人殺しのくだりは凄惨で怖かったですけどね……。 映画のイメージで「祟り」や「呪い」が真っ先に浮かぶけど、作中でそれらが実際に登場する場面はありません。 金田一はあくまで理知的に解決します。 金田一にとっての見せ場は最後の「謎解き」の場面だけ、と言ってもいいほど。 そこがちょっと残念ではありました。 映像は、• 片岡千恵蔵さんの映画(1951年)• 田村正和さんのドラマ(1969年)• 山本耕一さんのドラマ(1971年)• 渥美清さんと萩原健一さんの映画(1977年)• 古谷一行さんのドラマ(1978年)• 古谷一行さんのドラマ(1991年)• 片岡鶴太郎さんのドラマ(1995年)• 豊川悦司さんの映画(1996年)• 稲垣吾郎さんのドラマ(2004年) と、なんと9回! 横溝作品としては最多です。 登場人物が多いので、映像化されると大幅に改変されることが多いようです。 鍾乳洞での探検や典子との逃避行も省かれるみたいで……ここが面白いのに! これから1977年の映画を見ようと思います。 感想は別記事でまとめますね。
次ののシーンが合成天国の の元ネタなんだけど、バックは竹林じゃなくて 桜並木だったか。 まぁ細かいことは置いといて、このシーンがとにかく恐いのだ。 あと400年前の落ち武者惨殺シーンも凄まじい。 ここであらすじを説明すると、まず400年前、毛利の追手から逃れてきた尼子義孝と その家来合わせて8人が岡山の山奥の村の片隅でひっそりと暮らし始める。 落ち武者と 村人が仲良くなってきた頃、毛利の詮議が始まって「尼子の落ち武者があれば差し出せ。 その中に尼子義孝があれば莫大な恩賞をとらせよう」という。 村人達は相談し、夏祭りに 落ち武者達を招待し、酒に毒を盛って痺れさせたところをよってたかって皆殺しにする。 この皆殺しのシーンが 恐いのなんの。 胸に鎌をつきたててそれを腹の方までズズっと かっさばいたり、目ん玉に竹ヤリを突き刺したり、手に鎌をグサリと刺して数秒後に血が ドローっと出てきたり、脳天を斧でかち割ったり、縄で縛り上げて首をはねたらその首が 飛んでいって村人の腕に噛み付いたり(その首は田中邦衛)、全身火だるまになったり。 最後に大将・尼子義孝(夏八木勲)が体に竹ヤリを突き立てられながら弁慶のように 立ち上がり、「騙し討ちとは卑怯な・・・!末代まで祟って祟って・・・!」と言って絶命。 雷雨の中、晒し物にされた8つの首。 雷とともに尼子義孝の首の目がカッと見開き、 口を不気味に開いて高笑いする。 そして数日後、この騙し討ちの首謀者が突然狂い、 村人7人を殺した後に「ひゃはは〜」と笑いながら刀を舐め、その刀を自らの首に当てて 首をはねて計8人死亡。 これは尼子義孝の祟りだとビビりあげた村人は落ち武者達の 墓を作り、これが「八つ墓村」の由来となった。 このほんの3〜5分のシーンだけで、四谷怪談と番町皿屋敷と牡丹灯篭の総恐怖指数を 超えると言えるほど 恐い。 そして時間は流れ、物語の時間から20年前の回想シーンへ。 400年前の首謀者は祟られて自殺したが、一族には毛利から山林の権利を与えられ、 莫大な資産家になる。 そして20年前、その一族の当主・多治見要蔵(山崎努)が突然狂い、 村人32人を殺しまくる。 そのシーンの冒頭が 、もとい、 なんだけど、これまた恐い。 機嫌よく笑ってる赤ちゃんを刺し殺した時の断末魔の声とか、井戸に投げ込まれたあげくに 上から猟銃で撃たれるおばあちゃんとか、首をはねられたが胴体と皮一枚つながっていて ちぎれそうでちぎれない兄ちゃんとか、そして頭に2本の懐中電灯をつけ、祟られて顔が 真っ白になっている山崎努とか、これらはもう間違いなくジェイソンやエイリアンより 恐い。 ・ ・ (どちらも、かなり怖いです。 閲覧注意!) そしてその20年後(物語の中での現在)、八墓村でまた連続殺人事件が起こる。 この殺人は大半が毒殺で大して恐くはないが、そこらのサスペンスドラマのように 毒を盛られた人が胸を押さえて「うっ!」とか言ってバタンと倒れるというようなものではなく、 毒殺される人全員、口から胃液を出しまくってのたうちまわって死ぬので、 相当キモい。 ここから先は横溝正史モンの常で、結局 犯人を含めてみんな死んでしまう のだが、 俺が古谷一行版でもなくトヨエツ版でもなく1977年の渥美清版を推すのはズバリ結末の違い。 俺は原作も読んだが、実は古谷一行版とトヨエツ版の方が原作通りの結末で、渥美清版は 結末が違っていた。 原作では、400年前の落ち武者惨殺・そして20年前の村人32人殺しによって現在の 村人が「八つ墓大明神の祟り」を信じていることを利用して、犯人が財産目当てで8人を殺す というようになっていた。 でも7人までしか殺せなくて最後に犯人は死んでしまい、 ヒロインだの大判小判だのもあって「 めでたしめでたし」という終わり方。 これが1977年の渥美清版では、一応犯人は八つ墓大明神の祟りを利用して殺人計画を たててはいるのだが、この犯人の先祖を辿るとこれがなんと落ち武者の大将・尼子義孝(!) そして20年前に多治見要蔵(山崎努)が狂ってしまった原因ともいえる主人公(ショーケン)の 先祖も、これまた尼子義孝(!!!) つまり主人公と犯人は、本人達も知らない間に 実は協力して400年前の首謀者の子孫・多治見家を祟り殺していたのだ。 更に、原作では1人だけ生き残った多治見家の最後の1人。 渥美版でも犯人はこれを殺す前に 洞窟内の落盤で死んでしまうのだが、その落盤で洞窟から外に出てきたコウモリの群れが 多治見家に群がり、そのうちの1匹に仏壇の火が燃え移り、それがもとで多治見家は全焼、 中にいた最後の1人も死んでしまう。 燃え盛る多治見家を、村を一望できる山頂から見ている 人達がいた。 誰あろう、400年前に「末代まで祟ってやる」と言った尼子義孝ら、 8人の落ち武者達だった・・・ つまり原作やトヨエツの映画ではあくまで「祟り伝説を利用した殺人事件」だったんだけど、 1977年の渥美版は「殺人事件を介して尼子義孝の祟り達成」という結末になっている。 両方見た俺としては、断然後者の方が見終わった後に心がズシっと重くなって しばらく呆然とするという映画鑑賞の醍醐味を味わえたな。 これだけさんざんネタバレをしといてアレだけど、 はマジで お勧めなのでぜひ見ましょう。 日本人ならば、ジェイソンのような訳のわからない殺人者よりも、 こういう「祟り」という日本人固有の感覚の方がきっと精神にくる恐さだと思う。
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