粘膜(膀胱、膣、口腔など)や創傷部位に使用して、まれにショック症状(蒼白、胸内苦悶、血圧低下、呼吸抑制、不快感、口内異常感、ぜん鳴、めまい、便意、耳鳴りなど)を起こすことがある。 71歳、女性。 左下肢骨接合術時に創部を0. 5%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールで消毒した直後、著明な気道内圧の上昇、血圧低下及びほぼ全身に紅斑が出現するなどのアナフィラキシーショックを起こした。 58歳、男性。 腰椎麻酔後、膝蓋腱断裂創周囲をクロルヘキシジングルコン酸塩で消毒後、生理食塩水で洗浄したところ、約5分後にアナフィラキシーショックを認めた。 36歳、男性。 顎洞炎に対する洞開窓術施行時に0. 5%クロルヘキシジングルコン酸塩を用いて口腔内を消毒し、約10分後にアナフィラキシーショックをきたした。 67歳、男性。 人工血管置換術のため0. 5%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールを用いて皮膚消毒を行い、中心静脈カテーテルの挿入、留置を行なった。 カテーテル固定中にアナフィラキシーショックを起こし、血圧低下、頻脈、体幹に不規則な紅斑を認めた。 36歳、男性。 5%クロルヘキシジングルコン酸塩で口腔内を消毒した直後、血圧低下、頻脈、膨疹などのアナフィラキシーショック症状が出現した。 下肢骨折手術に際して麻酔導入後の牽引具刺入部を含む皮膚消毒に4%クロルヘキシジングルコン酸塩を用いたことにより、アナフィラキシーショックをきたした。 66歳、男性。 皮膚消毒に用いた0. 5%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールが内頸静脈穿刺時に血管内に入ったことによると推測される、アナフィラキシーショックによる心室細動をきたした。 62歳、男性。 全身麻酔終了時に、0. 1%クロルヘキシジングルコン酸塩で皮膚消毒したことにより、アナフィラキシーショックを起こした。 24歳、男性。 手術創部の消毒に0. 05%クロルヘキシジングルコン酸塩を長期反復連用したことにより、アナフィラキシー反応を起こした。 19歳、男性。 脊椎麻酔後、創洗浄に用いた4%クロルヘキシジングルコン酸塩によりアナフィラキシーショックを起こした。 59歳、男性。 星状神経節ブロック施行の際に0. 5%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールによるアナフィラキシー様反応を起こした。 21歳、男性。 全身麻酔中、顔面皮膚及び口腔内を0. 1%クロルヘキシジングルコン酸塩で消毒、その5分後より徐々に血圧が低下、手掌に紅斑を認めた。 36歳、女性。 血管造影に際し、局所麻酔薬の容器に混入していたクロルヘキシジングルコン酸塩により、アナフィラキシーショックを起こした。 72歳、女性。 硬膜外麻酔中に、0. 02%クロルヘキシジングルコン酸塩で膣洗浄を行った。 その5分後に血圧低下と徐脈を生じ、嘔気を訴え、眼瞼充血、全身発赤浮腫状を認めた。 25歳、男性。 外科的処置施行後、0. 05%クロルヘキシジングルコン酸塩にて口腔内を洗浄した直後、胸内苦悶と不快感を訴えた。 また顔面に浮腫、蕁麻疹、口唇にチアノーゼなどを認めた。 24歳、男性。 左肘関節擦過症にて受診し、クロルヘキシジングルコン酸塩で消毒。 10分後左眼瞼の痒み、熱感、結膜の充血、全身に地図状の蕁麻疹、咳、呼吸困難出現。 53歳、男性。 下顎骨部分切除術の術前口腔内消毒として、0. 1%クロルヘキシジングルコン酸塩を綿球に浸し、数回消毒。 5分後、血圧低下と脈拍数増加、全身皮膚に発赤及び浮腫を認めた。 30歳、女性。 腫瘤摘出術後、閉創前に0. 05%クロルヘキシジングルコン酸塩で創面消毒。 20~30秒後に心拍数低下に気づき、血圧低下、呼吸停止、紅斑などのアナフィラキシーショックを起こした。 61歳、女性。 術前に0. 4%に希釈したクロルヘキシジングルコン酸塩・スクラブでブラッシングを行った。 約2分後に急激な血圧低下、その5分後より全身に発赤及び膨疹がみられるアナフィラキシーショックを起こした。 56歳、女性。 左乳癌に対し乳房温存術、閉創前に0. 05%クロルヘキシジングルコン酸塩で創面消毒。 5分後に血圧低下、上肢の発赤がみられるアナフィラキシーショックを起こした。 発疹、発赤、蕁麻疹などの過敏症状の出現が報告されている。 25歳、女性。 クロルヘキシジングルコン酸塩によるうがいを実施したところ、約10分後に全身に膨疹が出現した。 66歳、男性。 両鼠径部の皮疹及び併発した感染症の治療にクロルヘキシジングルコン酸塩を使用したところ、皮疹は増悪し、疼痛も出現した。 57歳、女性。 硬膜外麻酔の術野を0. 5%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールで消毒したところ、掻痒を伴う発赤、膨疹などの皮膚症状を呈した。 5%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールの接触部位に圧力が加わり、皮膚刺激が増強された結果、皮膚潰瘍を生じた。 50歳、男性。 点滴の際の消毒にクロルヘキシジングルコン酸塩を使用。 両側前腕の点滴部位に一致して掻痒性紅斑が出現。 60歳、男性。 背部のチューブ挿入部位の消毒に0. 5%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールを使用。 挿入部位の周囲に掻痒のある紅斑を生じた。 53歳、男性。 左耳介の虫刺症のためクロルヘキシジングルコン酸塩にて消毒後、接触皮膚炎を生じた。 19歳、女性。 7%クロルヘキシジングルコン酸塩を使用して手洗いをしたところ、20分後より、前腕から手背にかけて掻痒を伴う発赤(膨疹)が出現した。 高濃度溶液が眼に入ると、重篤な角膜障害が生じる。 66歳、女性。 眼瞼腫瘤切除術の際誤って20%クロルヘキシジングルコン酸塩を使用。 激しい疼痛を訴え、結膜浮腫、角膜混濁、角膜中央部のびらんがみられた。 視力は0. 1であった。 大量の生理食塩水により洗眼を実施。 2週間経過後、角膜は透明に、視力は1. 0まで回復した。 眼科処置時、誤用により角膜化学腐蝕をきたした。 3例が高濃度クロルヘキシジングルコン酸塩、1例がクロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールであった。 59歳、男性。 右白内障手術を施行。 術前処置の際に、誤って1%クロルヘキシジングルコン酸塩が結膜嚢内に入り、角膜障害を起こした。 ディスペンサー容器を眼の高さに置いていて、飛散した4%クロルヘキシジングルコン酸塩・スクラブが眼に入り、角膜障害が生じた。 60歳、男性。 圧平式眼圧測定の際に角膜上皮剝離を生じた。 眼圧計は、0. 1%クロルヘキシジングルコン酸塩・含浸綿で清拭消毒したものを使用。
次のはじめに グルコン酸クロルヘキシジン(以下、クロルヘキシジン)およびポビドンヨードは生体消毒薬として広く繁用されていますが、禁忌や副作用についての注意が必要です。 場合によりアナフィラキシーショックのような重大な副作用が発現することもあり、十分注意して使用する必要があります。 以下、クロルヘキシジンとポビドンヨードの副作用について述べます。 クロルヘキシジン 適用時に殺菌力を発揮するのみならず、皮膚に残留して持続的な抗菌作用を発揮する消毒薬で、皮膚における持続効果が期待される場合、すなわち、手術時手洗い、手術部位の皮膚、創傷部位(創傷周辺皮膚)、血管カテーテル挿入部位などにおいて優れた特性を発揮します。 クロルヘキシジン製剤には手指消毒用として4%スクラブ剤、0. 2%速乾性手指消毒薬があり、患者の生体消毒用として各種濃度のクロルヘキシジン水溶液、0. 5%クロルヘキシジンアルコールがあります。 皮膚に対する刺激性および経口毒性が低いことから、世界的に広く繁用されていますが、発疹・蕁麻疹等の過敏症が報告されています。 日本においては1980年代に膀胱・腟・口腔などの粘膜や創傷部位に使用してアナフィラキシーショック(急激な血圧低下、呼吸困難、全身発赤等)が発現したとの報告が十数症例報告され 1 2 、第24次薬効再評価(昭和60年7月30日公示:薬発第755号)において、結膜のう以外の粘膜(膀胱・腟・口腔など)への適用や創傷、熱傷への適用の一部(広範囲、高濃度)が禁忌となりました。 なおこれらのショック例のほとんどは適正濃度を超えた0. 2~1%での使用によるものでした。 また、近年は適正濃度におけるアナフィラキシーショックも報告されています。 これらの報告は、消毒部位を完全に乾燥させずにカテーテルを挿入したため血管内に直接クロルヘキシジンが混入したと思われる症例や創部の小血管から経静脈的に体内に混入したと思われる症例です 3 4。 したがって消毒した箇所を完全に乾燥し血管内に液が混入しないよう注意が必要です。 さらに、クロルヘキシジンでコーティングした中心静脈カテーテルを使用した患者においてアナフィラキシーショックが報告され 5 6 、緊急安全性情報が発出されました 7。 現在、このカテーテルは日本では販売されていません。 アナフィラキシーショックの発生頻度は欧米と比較して日本の方が高いと思われますが、通常の適用ではまれにしか発生しないため調査が困難であり、正確な発生頻度は判明していません。 発生機序については、RAST法により特異的IgE抗体が確認されています 1。 クロルヘキシジンの2箇所の4-chlorophenyl基の部分がIgE抗体に結合することが報告されており 8 、IgE抗体に結合後、肥満細胞や好塩基球が脱顆粒しヒスタミン等の化学物質を放出してアナフィラキシーショックを起こします。 したがってクロルヘキシジンを使用する際には過敏症の既往歴などを確認してから使用するべきです。 その他の注意事項として、術前に塗布したクロルヘキシジンアルコールが完全に乾燥する前に電気メスを使用した結果、引火して皮膚を熱傷した報告があります 9。 アルコール溶液で消毒後に電気メスを使用する場合には十分に乾燥させる必要があります。 高濃度(0. 5%以上)のクロルヘキシジンが眼に混入すると角膜障害を起こすため、結膜のうに使用する場合には0. 05%以下で界面活性剤を含有しない製剤を使用します 10。 中枢神経、聴覚神経への適用は障害を引き起こすため禁忌となっています 11。 ポビドンヨード 広い抗微生物スペクトルを持ち手術部位の皮膚や皮膚の創傷部位をはじめ、口腔、腟などの粘膜にも適用が可能で、ウイルスや抗酸菌にも有効な消毒薬です。 ポビドンヨード製剤には手指消毒用として7. 5%スクラブ剤があり、患者の生体消毒用として10%ポビドンヨード水溶液、10%ポビドンヨードアルコール液、7%ガーグル、10%ゲル、10%クリームがあります。 生体への刺激性が低く、比較的副作用も少なことから広く繁用されていますが、発疹等過敏症の報告があり、ショック、アナフィラキシー様症状が発症する場合もあります。 アナフィラキシーショックについては、腟や外陰部等粘膜部位を消毒した際に発症した報告があります 12 13。 したがってポビドンヨードを使用する際にはクロルヘキシジンの場合と同様、過敏症の既往歴などを確認してから使用するべきです。 その他熱傷部位、腟、口腔粘膜などでは吸収されやすいために、長期間または広範囲に使用すると、血中ヨウ素濃度が上昇し甲状腺代謝異常などの副作用が現れることがあります 14 15。 妊産婦、授乳婦にポビドンヨードを使用し、ヨウ素が胎児や乳汁へ移行したという報告があるため 16 、これらの婦人に長期にわたり広範囲に使用することは避けます。 新生児では、皮膚からの吸収による一過性の甲状腺機能低下症が報告されていますので 17 、長期間または広範囲に使用することは避けます。 その他の注意事項として、術前に大量に塗布したポビドンヨードが背部に貯留し長時間接触したために、化学熱傷を生じた報告がありますので 18)、貯留しないよう余分な液を拭き取るなどの注意が必要です。 アルコールを含有する製剤においては、電気メスの使用時に引火して皮膚を火傷させないよう消毒部位を十分に乾燥させることが重要です。 なお腹腔、胸腔など体腔内に使用するべきではありません。 おわりに クロルへキシジン及びポビドンヨードにおいて副作用を回避するには、過敏症既往歴の確認、適正濃度での使用、十分な乾燥、過度な体内吸収の防止などが重要です。 <参考>• Ohtoshi T, Yamauchi N, Tadokoro K,et al. : IgE antibody-mediated shock reaction caused by topical application of chlorhexidine. Clin Allergy 1986;16:155-161. Okano M, Nomura M, Hata S,et al. : Anaphylactic symptoms due to chlorhexidine gluconate. Arch Dermatol 1989;125:50-52. 吉本 男也, 片井 留美, 内山 博子, 他: グルコン酸クロルヘキシジン消毒後にアナフィラキシーショックを起こした一症例. J Anesthesia 2004;18 S• 今沢隆, 小室裕造, 井上雅博,他: グルコン酸クロルへキシジン使用後にアナフィラキシーショックを起こした1症例. 日本形成外科学会誌 2003;23:582-588.• 二階堂祥子, 田中源重, 矢本誠城, 他: グルコン酸クロルヘキシジンによるアナフィラキシーショックの2例. 麻酔1998;47:330-334.• 寺澤悦司, 長瀬清, 増江達彦, 他: 抗菌コート中心静脈カテーテルにより繰り返しアナフィラキシーショックを呈した症例. 麻酔 1998;47:556-551.• 緊急安全性情報. 抗菌カテーテルを使用した際に発生したアナフィラキシー・ショックについて. 平成9年8月No. 97-D2.• Pham NH, Weiner JM, Reisner GS,et al. : Anaphylaxis to chlorhexidine. Case report. Implication of immunoglobulin E antibodies and identification of an allergenic determinant. Clin Exp Allergy. 2000;30:1001-1007. 木村哲, 佐藤重仁, 田島啓一, 他: 電気メスの火花がアルコール含有消毒液およびスポンジ枕に引火し熱傷を生じた症例. 手術医学 1995;16:222-223.• 澤充,稲葉全郎. 眼科手術前の消毒薬について. 臨牀眼科 1977;31:443-448.• Bicknell PG. : Sensorineural deafness following myringoplasty operations. J Laryngol Otol 1971;85:957-961. Waran KD, Munsick RA. : Anaphylaxis from povidone-iodine. Lancet 1995;10:345:1506. 中尾佐和子, 中谷圭男, 須山豪通, 他: 臨床経験 冠動脈バイパスの麻酔時にポビドンヨードによるアナフィラキシーショックを起こした症例. 麻酔1997;46:105-109.• Vorherr UF, Mehta P, et al. : Vaginal absorption of povidone-iodine. JAMA 1980;244:2628-2629. Pietsch J, MeakinsJL. : Complications of povidone-iodine absorption in topically treated burn patients. Lancet 1976 7;1:280-282. Chanoine JP, Boulvain M, Bourdoux P,et al. : Increased recall rate at screening for congenital hypothyroidism in breast fed infants born to iodine overloaded mothers. Arch Dis Child 1988;63:1207-1210. Cosman BC, Schullinger JN, Bell JJ,et al. : Hypothyroidism caused by topical povidone-iodine in a newborn with omphalocele. J Pediatr Surg 1988;23:356-358. 中野園子,内山昭則,上山博史,他: ポビドンヨードによる化学熱傷. 麻酔 1991;40:812-815..
次のはじめに グルコン酸クロルヘキシジン(以下、クロルヘキシジン)およびポビドンヨードは生体消毒薬として広く繁用されていますが、禁忌や副作用についての注意が必要です。 場合によりアナフィラキシーショックのような重大な副作用が発現することもあり、十分注意して使用する必要があります。 以下、クロルヘキシジンとポビドンヨードの副作用について述べます。 クロルヘキシジン 適用時に殺菌力を発揮するのみならず、皮膚に残留して持続的な抗菌作用を発揮する消毒薬で、皮膚における持続効果が期待される場合、すなわち、手術時手洗い、手術部位の皮膚、創傷部位(創傷周辺皮膚)、血管カテーテル挿入部位などにおいて優れた特性を発揮します。 クロルヘキシジン製剤には手指消毒用として4%スクラブ剤、0. 2%速乾性手指消毒薬があり、患者の生体消毒用として各種濃度のクロルヘキシジン水溶液、0. 5%クロルヘキシジンアルコールがあります。 皮膚に対する刺激性および経口毒性が低いことから、世界的に広く繁用されていますが、発疹・蕁麻疹等の過敏症が報告されています。 日本においては1980年代に膀胱・腟・口腔などの粘膜や創傷部位に使用してアナフィラキシーショック(急激な血圧低下、呼吸困難、全身発赤等)が発現したとの報告が十数症例報告され 1 2 、第24次薬効再評価(昭和60年7月30日公示:薬発第755号)において、結膜のう以外の粘膜(膀胱・腟・口腔など)への適用や創傷、熱傷への適用の一部(広範囲、高濃度)が禁忌となりました。 なおこれらのショック例のほとんどは適正濃度を超えた0. 2~1%での使用によるものでした。 また、近年は適正濃度におけるアナフィラキシーショックも報告されています。 これらの報告は、消毒部位を完全に乾燥させずにカテーテルを挿入したため血管内に直接クロルヘキシジンが混入したと思われる症例や創部の小血管から経静脈的に体内に混入したと思われる症例です 3 4。 したがって消毒した箇所を完全に乾燥し血管内に液が混入しないよう注意が必要です。 さらに、クロルヘキシジンでコーティングした中心静脈カテーテルを使用した患者においてアナフィラキシーショックが報告され 5 6 、緊急安全性情報が発出されました 7。 現在、このカテーテルは日本では販売されていません。 アナフィラキシーショックの発生頻度は欧米と比較して日本の方が高いと思われますが、通常の適用ではまれにしか発生しないため調査が困難であり、正確な発生頻度は判明していません。 発生機序については、RAST法により特異的IgE抗体が確認されています 1。 クロルヘキシジンの2箇所の4-chlorophenyl基の部分がIgE抗体に結合することが報告されており 8 、IgE抗体に結合後、肥満細胞や好塩基球が脱顆粒しヒスタミン等の化学物質を放出してアナフィラキシーショックを起こします。 したがってクロルヘキシジンを使用する際には過敏症の既往歴などを確認してから使用するべきです。 その他の注意事項として、術前に塗布したクロルヘキシジンアルコールが完全に乾燥する前に電気メスを使用した結果、引火して皮膚を熱傷した報告があります 9。 アルコール溶液で消毒後に電気メスを使用する場合には十分に乾燥させる必要があります。 高濃度(0. 5%以上)のクロルヘキシジンが眼に混入すると角膜障害を起こすため、結膜のうに使用する場合には0. 05%以下で界面活性剤を含有しない製剤を使用します 10。 中枢神経、聴覚神経への適用は障害を引き起こすため禁忌となっています 11。 ポビドンヨード 広い抗微生物スペクトルを持ち手術部位の皮膚や皮膚の創傷部位をはじめ、口腔、腟などの粘膜にも適用が可能で、ウイルスや抗酸菌にも有効な消毒薬です。 ポビドンヨード製剤には手指消毒用として7. 5%スクラブ剤があり、患者の生体消毒用として10%ポビドンヨード水溶液、10%ポビドンヨードアルコール液、7%ガーグル、10%ゲル、10%クリームがあります。 生体への刺激性が低く、比較的副作用も少なことから広く繁用されていますが、発疹等過敏症の報告があり、ショック、アナフィラキシー様症状が発症する場合もあります。 アナフィラキシーショックについては、腟や外陰部等粘膜部位を消毒した際に発症した報告があります 12 13。 したがってポビドンヨードを使用する際にはクロルヘキシジンの場合と同様、過敏症の既往歴などを確認してから使用するべきです。 その他熱傷部位、腟、口腔粘膜などでは吸収されやすいために、長期間または広範囲に使用すると、血中ヨウ素濃度が上昇し甲状腺代謝異常などの副作用が現れることがあります 14 15。 妊産婦、授乳婦にポビドンヨードを使用し、ヨウ素が胎児や乳汁へ移行したという報告があるため 16 、これらの婦人に長期にわたり広範囲に使用することは避けます。 新生児では、皮膚からの吸収による一過性の甲状腺機能低下症が報告されていますので 17 、長期間または広範囲に使用することは避けます。 その他の注意事項として、術前に大量に塗布したポビドンヨードが背部に貯留し長時間接触したために、化学熱傷を生じた報告がありますので 18)、貯留しないよう余分な液を拭き取るなどの注意が必要です。 アルコールを含有する製剤においては、電気メスの使用時に引火して皮膚を火傷させないよう消毒部位を十分に乾燥させることが重要です。 なお腹腔、胸腔など体腔内に使用するべきではありません。 おわりに クロルへキシジン及びポビドンヨードにおいて副作用を回避するには、過敏症既往歴の確認、適正濃度での使用、十分な乾燥、過度な体内吸収の防止などが重要です。 <参考>• Ohtoshi T, Yamauchi N, Tadokoro K,et al. : IgE antibody-mediated shock reaction caused by topical application of chlorhexidine. Clin Allergy 1986;16:155-161. Okano M, Nomura M, Hata S,et al. : Anaphylactic symptoms due to chlorhexidine gluconate. Arch Dermatol 1989;125:50-52. 吉本 男也, 片井 留美, 内山 博子, 他: グルコン酸クロルヘキシジン消毒後にアナフィラキシーショックを起こした一症例. J Anesthesia 2004;18 S• 今沢隆, 小室裕造, 井上雅博,他: グルコン酸クロルへキシジン使用後にアナフィラキシーショックを起こした1症例. 日本形成外科学会誌 2003;23:582-588.• 二階堂祥子, 田中源重, 矢本誠城, 他: グルコン酸クロルヘキシジンによるアナフィラキシーショックの2例. 麻酔1998;47:330-334.• 寺澤悦司, 長瀬清, 増江達彦, 他: 抗菌コート中心静脈カテーテルにより繰り返しアナフィラキシーショックを呈した症例. 麻酔 1998;47:556-551.• 緊急安全性情報. 抗菌カテーテルを使用した際に発生したアナフィラキシー・ショックについて. 平成9年8月No. 97-D2.• Pham NH, Weiner JM, Reisner GS,et al. : Anaphylaxis to chlorhexidine. Case report. Implication of immunoglobulin E antibodies and identification of an allergenic determinant. Clin Exp Allergy. 2000;30:1001-1007. 木村哲, 佐藤重仁, 田島啓一, 他: 電気メスの火花がアルコール含有消毒液およびスポンジ枕に引火し熱傷を生じた症例. 手術医学 1995;16:222-223.• 澤充,稲葉全郎. 眼科手術前の消毒薬について. 臨牀眼科 1977;31:443-448.• Bicknell PG. : Sensorineural deafness following myringoplasty operations. J Laryngol Otol 1971;85:957-961. Waran KD, Munsick RA. : Anaphylaxis from povidone-iodine. Lancet 1995;10:345:1506. 中尾佐和子, 中谷圭男, 須山豪通, 他: 臨床経験 冠動脈バイパスの麻酔時にポビドンヨードによるアナフィラキシーショックを起こした症例. 麻酔1997;46:105-109.• Vorherr UF, Mehta P, et al. : Vaginal absorption of povidone-iodine. JAMA 1980;244:2628-2629. Pietsch J, MeakinsJL. : Complications of povidone-iodine absorption in topically treated burn patients. Lancet 1976 7;1:280-282. Chanoine JP, Boulvain M, Bourdoux P,et al. : Increased recall rate at screening for congenital hypothyroidism in breast fed infants born to iodine overloaded mothers. Arch Dis Child 1988;63:1207-1210. Cosman BC, Schullinger JN, Bell JJ,et al. : Hypothyroidism caused by topical povidone-iodine in a newborn with omphalocele. J Pediatr Surg 1988;23:356-358. 中野園子,内山昭則,上山博史,他: ポビドンヨードによる化学熱傷. 麻酔 1991;40:812-815..
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