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次の2 どうしてかゆくなるの? 私たちにとって「痛み」や「かゆみ」は大切な皮膚感覚です。 かゆみは、痛みとよく比較され、両者とも神経を伝わって感じることから、かつては「痛みの神経が感じる弱い痛みがかゆみである」と考えられていました。 私たちは経験的に「痛み」は皮膚だけでなく体の内部でも感じることを知っていますが、「かゆみ」は体内の臓器では感じません。 「胃が痛い」ということはあっても、「胃がかゆい」ということはないことから、痛みとかゆみを脳に伝える神経はそれぞれ別々の神経であるという説が提唱されました。 今では、この説は正しく、痛みとかゆみは異なる神経によって脳に伝えられること、かゆみを伝える神経は「C-線維」とよばれる細く、伝導速度(情報を伝える速度)が遅い神経であることが明らかになりました。 最近の研究では、伝導速度の速い神経であるA-線維の一部もかゆみの伝達に関わることが明らかにされています。 一端、かゆみが生じると私たちはかゆい場所を引っ掻きます。 掻くと最初は気持ちが良いですが、その後は痛みが生じるために掻くことを止めますが、同時にかゆみも鎮まります。 それでは、なぜ、引っ掻くとかゆみが鎮まるのでしょうか。 最近の研究から、皮膚から脳へ感覚情報を伝える中継地点の脊髄のなかで、痛みの神経回路はかゆみを伝える神経回路を抑制することが明らかにされました。 すなわち、かゆいところを引っ掻くと痛みの神経回路が活動し、それがかゆみの神経回路の活動を鎮めるわけです。 後述するように、アトピー性皮膚炎の患者さんでは「掻いても掻いてもかゆい」と訴える場合があります。 近年、この原因の一つに、前述した「痛みによる鎮痒の仕組みの異常」が関係しているのではないかと推察されています。 3 どうして掻くといけないの? かゆいところを掻くと一時的に「気持ちいい」と感じます。 しかし、掻き過ぎると、皮膚を傷つけたり、湿疹などの皮膚のトラブルが悪化したりするだけでなく、わずかな刺激にも反応してかゆみが起こりやすくなる「かゆみの悪循環」を発症します。 かゆみを感じると、ついつい掻いてしまいます。 掻くと気持ちが良いし、ひりひりするまで掻いてしまえば、しつこいかゆみから一時的に逃れることができます。 しかし、強く掻くと皮膚のバリア機能、すなわち外からの異物に対する防御機能が低下してしまいます。 また、体の中から水分が外に逃げてしまい、皮膚から水分が失われることで乾燥肌になります。 バリア機能の弱まった皮膚からは、アレルギー反応を引き起こすアレルゲンなどが体内に入りやすくなり、衣服のこすれなどのちょっとした刺激によってもかゆみ神経を刺激することでますますかゆくなります。 また、かゆいところを掻くと皮膚に存在する細胞から炎症を促すさまざまな物質やかゆみの神経にはたらく物質が放出されて、結果的に皮膚炎がさらに悪化し、かゆみも強くなります。 いったん掻き始めると、そのまわりの皮膚もかゆくなったりします。 すると、もともとかゆかった場所よりも広い範囲を掻いてしまい、皮膚のダメージは広がり、皮膚炎はどんどん悪化します。 例えば、アトピー性皮膚炎の患者さんのしつこいかゆみは、この「かゆみの悪循環」が原因であると考えられています。 オピオイドによるかゆみ かゆみの原因は皮膚局所にある場合が多いですが、最近ではこれとはまったく異なる原因で起こるかゆみがあることがわかってきました。 それがオピオイドによって生じるかゆみです。 強力な鎮痛薬として使用されるモルヒネは、痛みを鎮める作用と同時に、かゆみを起こす作用があることが知られていました。 私たちの体内では、モルヒネと同じ働きをするオピオイドとしてベータエンドルフィンという物質が作られていますが、この物質が増えると強いかゆみが起こります。 体内には、ベータエンドルフィンとは逆に、かゆみを抑えるオピオイドとしてダイノルフィンという物質があります。 ベータエンドルフィンとダイノルフィンはそのバランス(割合)によってかゆみを強めたり弱めたりすると考えられています。 例えば、強いかゆみに悩まされている透析患者さんでは、血液中のベータエンドルフィンの量がダイノルフィンの量に比べて多いことがわかっています。 この2つの物質のバランスの異常が、透析患者さんのかゆみの原因の一つであると考えられています。 こうしたかゆみを和らげるために、体内のダイノルフィンの割合を増やせば良いのではないかという発想で長い間研究が行われてきました。 現在では、その努力が実り、ダイノルフィンと良く似た働きをする内服薬が透析患者さんのかゆみ治療薬として使われています。 また、最近の研究ではこの内服薬は原発性胆汁性肝硬変の強いかゆみにも効果があることがわかってきました。 5 なかなか治らないかゆみとは? なかなか治らないかゆみを理解するためには、かゆみを引き起こす物質として有名なヒスタミンについて知ることが大切です。 皮膚のなかにはヒスタミンを作る細胞が存在しており、その代表が肥満細胞(ひまんさいぼう)です。 皮膚に存在する肥満細胞が刺激されると、ヒスタミンを分泌します。 分泌されたヒスタミンは、血管にはたらきかけ、皮膚が赤くはれます。 また、ヒスタミンが神経にはたらくと強いかゆみを起こします。 これが蕁麻疹(じんましん)で、蕁麻疹のかゆみはヒスタミンが神経にはたらきかけることで生じることから、かゆみの第一選択薬である抗ヒスタミン薬によってかゆみが鎮まります。 また、皮膚の表皮ケラチノサイトもヒスタミンを作り、分泌することもわかっています。 イラクサなどの植物のとげにヒスタミンなどが含まれている場合もあり、そのとげが皮膚に刺さることによってもかゆみを感じます。 ヒスタミンを分泌させる刺激とは? 接触アレルギー 肌に何かが接触するとそれが刺激となってかゆくなることがあります。 「かぶれ」ともいいます。 植物アレルギー:ウルシ、タンポポ、イチョウなど• 金属アレルギー:アクセサリー、虫歯や矯正の金属など• 化粧品:口紅、染毛剤、日焼け止め、アロマオイルなど• 薬:湿布、ばんそうこう、目薬、防腐剤、消毒薬など• その他:ゴム手袋、歯みがき粉、シャンプー、洗剤など 食物アレルギー 食べると蕁麻疹を起こしやすい食品があります。 青魚、エビ、カニ、そば、ナッツ類、卵、肉、乳製品、アルコール類などです。 虫刺され 虫に噛まれたり刺されたりすると、赤く腫れてかゆみを感じます。 毒の成分にヒスタミンなどが含まれていてかゆみや炎症を起こします。 蜂、ムカデ、蚊、アブ、毛虫、ガなどです。 温度変化 冷えていた体が急に温まったり、その逆の温度変化が起こると、広い範囲でかゆみを感じることがあります。 お風呂やスポーツ、暖房器具などが原因になります。 ストレス 勉強や仕事などで生じる強いストレスによってかゆみを強めることがあります。 しかし、抗ヒスタミン薬を内服しても効果が無く、なかなかかゆみが鎮まらない場合や、何度も繰り返し、かゆみが生じる場合には、ヒスタミン以外の原因によってかゆみが起きていることが考えられます。 最近の研究では、ヒスタミン以外のいろいろな物質によってかゆみが引き起こされていることがわかっており、例えば、セロトニン、タンパク質分解酵素、脂質、サイトカインなどがあります。 肥満細胞はヒスタミンだけでなく、その他のかゆみ物質も分泌することがわかっています。 これらのヒスタミン以外のかゆみ物質は肥満細胞だけでなく、免疫細胞や表皮ケラチノサイトなどでも作られ、分泌されます。 前述したように、乾燥肌になるとかゆみのC-線維が体の表面近くまで伸びています。 この神経が外界の刺激である衣服のこすれなどの刺激を受けることでもかゆみが起こりますが、このようにして生じたかゆみにヒスタミンは関与していないため、抗ヒスタミン薬が効きません。 抗ヒスタミン薬を使ってもかゆみが改善しない場合には、アトピー性皮膚炎や内臓疾患などを疑って、早めに受診することが大切です。 こうした病気に伴うかゆみは、前述したようにヒスタミン以外の原因でかゆみが起きているために、抗ヒスタミン薬が効きにくいと考えられます。 特に注意したいのは、内臓疾患によるかゆみです。 単なるかゆみと思って放置していると、病気そのものが悪化する可能性があります。 かゆみをともなう内臓疾患として、糖尿病、腎不全、肝硬変の一種(原発性胆汁性肝硬変)、内臓がんなどがあります。 内臓疾患によるかゆみは、抗ヒスタミン薬でかゆみが改善しないことに加えて、肌には目立つ異常はなくても夜も眠れないようなかゆみがしつこく起こり、乾燥肌の特徴がみられる場合があります。 なかでも、透析患者さんや原発性胆汁性肝硬変患者さんのかゆみには、前述した脳内モルヒネともいわれるベータエンドルフィンが関与することが分かっています。 なかなか治らないかゆみが起こったときには病院に行き、検査を受けると良いでしょう。
次の日本人の4人に1人が悩まされている腰痛、実は安静にするのはあまり良くないということが、最近の研究で分かってきた。 BS日テレ「深層ニュース」では、東大医学部附属病院特任教授の松平浩さんに、「動かして治す」腰痛改善と治療の新常識について聞いた。 (構成 読売新聞専門委員・松井正) 「安静にしない」が共通認識 世界の多くの国の診療ガイドラインには、ぎっくり腰を代表とする腰痛が起こった場合は3日以上の安静は良くなく、痛みの範囲内で動いた方が良いとされています。 様々な研究結果から、3日以上安静にした人の方が、ふだん通り動いた人よりも、その後の経過が悪いことが分かってきたのです。 腰痛への認識は、以前と大きく変わってきています。 腰痛の慢性化率は高いですが、信頼できる研究によると、腰痛でクリニックにかかった人の3分の2には、1年後も腰痛があるとされています。 今回、街頭でどのような対処をしているか聞いてみたところ、「安静にする」「コルセットや湿布、痛み止め薬を使う」「整体院やマッサージ店に行く」など様々でしたが、一番多かったのが「ストレッチをする」でした。 図4 BS日テレ「深層NEWS」より ぎっくり腰は西洋では「魔女の一撃」と言い、原因を示す正式な医学用語ではありませんが、悪い病気がない急性の腰痛のことを、日本ではぎっくり腰と呼ぶことが多いのです。 これに対し、世界標準として図4の重篤な赤い色の部分、「赤信号の腰痛」と呼ばれますが、医師が「治療した方がいい」と想定される腰痛を指します。 神経症状を出す原因の代表格が脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)と椎間板ヘルニアです。 約85%の「心配のない腰痛」の中に、なんとなく長引いてしまう、世界的には「黄信号の腰痛」があります。 つまり青信号の腰痛は防げるし、コントロールできるのですが、悪い病気がないのに重症化してしまう「黄信号の腰痛」が意外と多く、その原因はストレスや腰痛に対する不安・恐怖といった心理社会的因子だということが、世界的に認められています。 慢性腰痛の原因は脳? 腰痛に脳が関わっているというのは、例えばぎっくり腰になった時、「どうなってしまうのか?」「いつ治るのか?」と不安や恐怖が強まると、脳のある部分が過剰に興奮して機能を変えてしまいます。 人間はよくできていて、痛みが起こると体の中で痛みを抑える物質が出ますが、それが出にくくなってしまう。 図5 BS日テレ「深層NEWS」より 医師は患者さんに無駄な心配を与えないことが、腰痛の初期治療として最も重要です。 交通事故でのむち打ちもそうですが、初期段階の不安や恐怖が強まると、何年にもわたり痛みや障害を抱えることにつながります。 そこを慢性化させないよう、初期に骨折や細菌感染、がんの転移といった重篤な原因がないと分かれば、自分は心配のいらない青信号だと思って、なるべく体を今まで通り動かす方が、経過が良いのです。 世界的にその効果が認められており、日本ではまだ導入が遅れていますが、厚生労働省の研究班などで取り組まれています。 生活習慣を含めて予防が重要です。 病院に行く回数が減れば、医療費全体の抑制にもつながります。 青信号の腰痛はそれほど医療費をかけないで、自分でコントロールできると思います。 それが世界の主流な考え方です。 私たちが2011年に全国6万人を対象に調査しところ、20歳代から70歳代までの人の4人に1人が、社会活動を腰痛で休んだことがありました。 腰痛は仕事を休む原因としても、日本でトップなのです。 さらに、近年休まなくても仕事場で腰痛を抱えると、パフォーマンスが落ちてしまう「プレゼンティズム」と呼ばれる労働的な損失が問題視されています。 企業の健康経営に影響する医療経済的な問題もあるわけです。
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