イケメン ヴァンパイア 太宰。 太宰治 攻略ルート

イケメンヴァンパイア◆偉人たちと恋の誘惑 THE STAGE ~Episode.1~

イケメン ヴァンパイア 太宰

これを記念し、クリア条件によって特別ストーリーなど様々な特典がもらえる、本編進めようキャンペーンや、太宰治のキャラクターボイスを担当する、八代 拓さんの直筆サイン色紙が抽選で2名様に当たるTwitterキャンペーンも開催します。 これを記念し、クリア条件によって特別ストーリーなど様々な特典がもらえる、本編進めようキャンペーンや、太宰治のキャラクターボイスを担当する、八代 拓さんの直筆サイン色紙が抽選で2名様に当たるTwitterキャンペーンも開催します。 本ストーリーは2019年冬より始まった禁断の第2章の2作目となります。 「太宰治」あらすじをお楽しみ頂ける、本編ダイジェストPVは絶賛公開中です。 本編ダイジェストPV: <本編あらすじ> 飄々として掴みどころのない、日本の文豪・太宰治。 けれど、笑顔の影には罪深い過去があって……。 「あなたのことを、離したくない。 悪気なく人をからかうため、一部の屋敷住人との軋轢を生んでいるが、本人は気にしていない。 本編進めようキャンペーン開催中! 太宰治本編ストーリー配信に合わせ、アプリ内では本編進めようキャンペーン「官能の一頁を綴って」を2020年4月30日(木)16:00 ~ 5月7日(木)23:00まで開催します。 テーマ:とある恋愛小説を読んだ彼から艶っぽく迫られて……。 本編を読み進めたり、期間中ログインすることでもらえる「ハート」の数に応じて、様々なアイテムをゲットでき、特別なストーリーを読むことが出来ます。 ぜひこの機会にキャンペーンへ参加してみてください。 「太宰治」の美麗彼カードが各種ダイヤガチャに登場! 対象の彼カードが確率UPしていますので、この機会に「太宰治」の彼カードを手に入れてみてください。 2019年冬からは、物語の核心に迫っていく『禁断の第2章』が始まり、新たな展開を見せて行きます。 キャラクターボイスは、島崎信長氏・豊永利行氏・木村良平氏・斉藤壮馬氏などの豪華声優陣のほか、2. 5次元舞台で活躍する俳優・荒牧慶彦氏や染谷俊之氏などが担当します。 <報道関係の方からのお問い合わせ先> 株式会社サイバード マーケティング統括部 TEL: 03 6746-3108 E-Mail: press cybird. 恐れ入りますがご連絡についてはメールにてお願いいたします。 *サイバード及び「CYBIRD」ロゴは株式会社サイバードの商標または登録商標です。 *記載されている会社名及び商品名/サービス名は、各社の商標または登録商標です。

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イケメンヴァンパイア◆偉人たちと恋の誘惑 THE STAGE ~Episode.1~

イケメン ヴァンパイア 太宰

確かに存在するのに、明るい空では白く細い月は雲に紛れている。 その儚い姿も沈み切った星の輝く夜、彼女が帰るその日まであと4日となった。 今夜も食堂ではいい香りが立ち込めている。 太宰は自分の席につくと、給仕をする彼女に声を掛けた。 「今日は豆腐があると聞いたのだけれど」 「ありますよ! 湯豆腐作ったんで、後でお出ししますね」 晩餐の出席率はこの一ヶ月弱で驚くほどに上がった。 今晩もジャンヌ以外は揃っている。 他愛ない会話も最近増えた。 それぞれが干渉し合わず、個性の強い屋敷の皆は、少しずつ伯爵の望む、家族のような雰囲気になってきたと言っていいだろう。 全ては屋敷に迷い込んだ彼女の影響だ。 食事の時間も、彼女はやはり輪の中心にいる。 食べ終わった者から席を立ち始めた頃、太宰は彼女に尋ねた。 「ジャンヌちゃんは、部屋かい?」 「部屋でしょうか……?」 「ナポレオンさん、稽古場にジャンヌさんはいませんでしたか?」 「いや。 ここに来る前はいなかったな」 「なら、部屋だろうね。 仕事からは帰ってるだろうし」 彼の一番の友であるモーツァルトが言うのだから間違いないだろう。 「さすがはモー君。 ……ねえ、とし子さん。 先程は太宰が部屋までルージュを持っていく役を買って出たことに、皆が驚いていた。 それでも太宰は、驚いた様子など見せず、いつもの笑みを浮かべていた。 「ルージュだよ」 「何故お前が持ってくるんだ」 「湯豆腐が思いの外多くてねえ。 お裾分けしようと思ったんだ」 「ルージュだけで良い」 お盆の上の小瓶だけを掴もうとしたジャンヌに、太宰は手を制止させる。 「おっと、それはポン酢だよ」 「…………ポンズ?」 疑問符を浮かべるジャンヌに構わず、太宰は部屋へ押し入っていく。 質素な部屋のテーブルに、お盆ごと置くと、小鍋の蓋を開けて見せた。 「湯豆腐にかける調味料だよ」 湯気の立つそれを器に装い、小瓶を開けて上から垂らした。 スプーンと一緒にジャンヌに渡せば、彼は眉間に皺を寄せて、ぷるんとした豆腐を見つめる。 「…………」 「ほら、食べてごらんよ」 押し切られ、ジャンヌはため息をつくと、ひと掬いを口へ運ぶ。 部屋ではカチカチと控えめにスプーンと器が当たる音だけが響く。 もうひと掬い、もうひと掬い……あれよと言う間に空になった。 「……不思議な食べ物だ」 「とし子さんの故郷の食べ物だよ。 その故郷に、あと4日で帰ってしまうからね」 「そう、か……」 それ程までに日にちが経っていた感覚がなかった様子のジャンヌは、何か思慮するかのように、豆腐がなくなり底に溜まったポン酢に視線を落とした。 太宰は袖から小瓶を出すと、ジャンヌに渡す。 無言で受け取った彼は、一気にそれを煽った。 「ああ、それもポン酢だねえ。 こっちだったよ」 太宰が悪びれることなく、もう一つ小瓶を取り出すと、彼の首元にキラリと光る鋭利な物が突きつけられた。 剣の柄を握り締めたジャンヌはコホンと咳払いをする。 「貴様、わざとだろう」 「嫌だなあ……。 ああ、殺してくれるにしても……痛いだけで死ねないのは嫌だよ?」 飄々とした表情のままで、減らず口の太宰に、ジャンヌは毒気を抜かれたように、深く息を吐き、剣を収めた。 今度こそ本物のルージュを、注意深く確認してから飲むジャンヌを横目に、太宰は食器をお盆へ片付けていった。 「あ……でも、死ぬなら、彼女が帰ってからの方がいいかな。 見送ってあげないと」 「……4日後だな。 覚えておう」 ジャンヌの鋭い視線を躱し、太宰は彼に背を向け、振り返ることなく扉を抜けた。 「怖いねえ」 太宰はドアを背に、ジャンヌの瞳を思い出す。 どこか親近感が沸いていた、かつての死の気配は薄れてしまった。 それどころか僅かに宿っていた淡い光を想い、太宰は自然と笑みを溢した。 [newpage] 働き者の彼女は、もう3日で故郷へ帰るというのに、今日も普通に屋敷の仕事をしている。 皆も、意識しないようにしているのか、各々変わらない日常を送っていた。 気持ちのいい風がレースのカーテンを揺らした。 暖かい日差しは、陽気な空気を運んでくれる。 窓辺のソファーはゆっくりするには絶好の場所だ。 「…………」 本の頁を捲っていくのは、どこか心が落ち着くようで、太宰は文字を追う目を細めて、ひとつ大きな欠伸をした。 先程から部屋を支配するのはピアノの音色。 清潔感のある白で統一された空間、ソファーでだらりと腰掛けた太宰は、涙の滲んだ目尻を拭った。 「ねえ」 冷えた声と共に歌うような音がピタリと止んだ。 「なんだい?」 「何で君がいるの」 「駄目かい? 邪魔もしないし、部屋を汚したりはしないよ」 「……それは最低条件だ」 モーツァルトは先程からなかなか進まない作曲作業に苛立っているようだ。 スツールから立ち上がると伸びをして、近くのテーブルのコーヒーを一口飲んだ。 太宰は本に栞を挟んで閉じ、窓の外に広がる青空を見上げる。 「読書にぴったりの場所を探していてねえ。 今日はここにするよ」 「読書……」 ピアノを聴く目的ではない。 そう告げるも同然の彼をモーツァルトは、唖然と見つめた。 「…………好きにすれば」 ため息をついて再び鍵盤と向き合った彼に、ありがとうと言って、太宰も読書を再開させた。 モーツァルトにとって、作曲は集中力を要し、誰かに聴かせる時間ではない。 しかし、空気のように、そこで読み物をしているだけの男ならば、追い出す理由を見つけられなかったのだろうか。 モーツァルトの作曲も、屋敷に彼女が来てから、少し進みが良くなったようで、出不精だった彼もだんだんと街へ出掛けることが増えた。 「そうだ、モー君。 ……今度俺が詩を書いたら、曲を付けてはくれないかい?」 「太宰が詩を……? 俺に何の得があるの?」 どうせ太宰のただの思いつきで、本気ではないと、モーツァルトは流すことにした。 音符の列を書き留めた手は、また音色を奏で始める。 「一応、俺も文豪として名の知れた人物のはずだけれどねえ」 「知名度は関係ない」 「うーん……」 モーツァルトの手が休まることのないのを見て、あまり煩く絡んでは、せっかくの在処を失いかねないと考えた太宰は口を閉じた。 「ねえ、君が居たのは20世紀じゃなかった?」 「そうだよ」 「まだ君の功績はない」 「痛いところを突くねえ。 でも、名声は不要なのだろう?」 モーツァルトの鍵盤上の手が止まり、代わりに紙をペン先が引っ掻いていく。 「はあ…………考えてもいい。 いい詩、だったら」 渋々の回答に満足したように、太宰は微笑う。 会話は終わったとばかりに、ピアノが歌い出す。 「言質は取ったよ」 小さな呟きは掻き消えた。 今夜は新月だ、よく星が見えるだろう。 太宰は星の輝くような音色に、浮かぶ言葉のどれを当てようかと思いを馳せた。 [newpage] 今日も快晴だった。 昼下がりの庭で、乾いたシーツを取り込む彼女に、三日月の2日後だといううことを忘れてしまいそうになる。 「街へ出掛ける予定がご破算になってしまったねえ」 「…………」 「こうなるのだったらセバス君にあの菓子を買ってきてくれるように言っておくんだったよ」 「………………」 デッサン日和だ。 そう言い、部屋に押し入ってきたテオにより、太宰は連れ出され、なんとモデルをしていた。 フィンセントは黙々と鉛筆を動かし続けている。 描き手に背を向ける状態で立っている太宰は、声での抵抗を試みるも不発に終わっている。 「話し相手も居ないなんて……不憫だと思わないかい?」 何を言おうがフィンセントは反応をしない。 始めこそ愉しそうだと臨んだ太宰だったが、フィンセントに会話すらしてもらえず、立っているだけというのはさすがに飽きた。 絵の具の香りなど気を紛らわす材料にもならない。 太宰はフィンセントの方へ、そろりと首を振り返らせる。 「あ……太宰。 動いちゃダメだよ」 「着物なら、とし子さんに着てもらった方が、文字通り絵になると思うけれどねえ」 「今回は資料だからいいんだよ」 「ん……? それは俺では絵にならないのは認めているということかな」 「…………」 再び集中しているようで、返事のないフィンセントに戻ってしまった。 太宰は大人しく前を向き深く息をついた。 フィンセントは浮世絵に影響を受けた一人だとセバスチャンが言っていたことを、太宰は思い出したが、そんな情報は今役に立ちそうにない。 「とし子さんに見返り美人図のポーズをしてもらといい。 俺の後ろ姿よりも妖艶な絵になる」 「…………」 「髪で隠れているけれど、とし子さんのうなじは色っぽいからねえ」 「え……どうして太宰知ってるの?」 暇を紛らわす言葉の一部分が思わぬ成果を得たようだ。 太宰が振り向いても、フィンセントはたしなめたりしない。 「どうして、だろうね?」 意味深に目を細めて見せた。 普段、天使と称されるほどの清らかな感情しか表さないフィンセントから感じ取られた僅かな歪。 彼は自分でも気づいていないこの感情に戸惑っているのだろう。 「どうして……?」 「咬みたくなるうなじだよねえ」 「まさか太宰……っ」 落下した鉛筆が床を打ち、乾いた動揺の音が響く。 「よくキッチンにつまみ食いに行くと、髪を結い上げているからね」 「……! なんだ……そっかあ」 ホッと胸を撫で下ろしたフィンセントは鉛筆を拾い上げて、疑いを知らない微笑みを太宰に向けた。 「ちょっと休憩しよっか。 俺、コーヒー貰ってくるね」 「ああ、今日は緑茶にしないかい?」 扉を開けたフィンセントを引き止めるように提案する。 「着物のデッサン繋がりで、和を感じるのも悪くないよ。 前にセバスが淹れてくれたよ。 俺も、日本に行ってみたいなあ」 結局同意したのかも告げないまま、フィンセントは出て行った。 空色の瞳に滲んだ嫉妬の色は、おそらく太宰の瞳にも少なからず浮かび出ていただろう。 細く薄い月明かりは今は潜んだまま、これから開かれる瞼のように眠りから覚めるのだろうか。 [newpage] 今夜は晩餐会の予定だ。 明日、屋敷に迷い込んだ彼女がついに故郷へ帰るため、伯爵の提案で催されることになった。 準備をするキッチンでは、セバスチャンの姿があった。 これから買い出しへ行くためか、献立を考えているようだ。 「あとのメニューは……」 「台所に立つ昼下がりの人妻……ならぬ、執事だね。 俺が提案しようか」 ふらりと通りかかった太宰が、セバスチャンの独り言に口を挟む。 「太宰さん、助かります」 「アップルパイはどうかな?」 「いいですね。 用意いたしましょう」 「アイザック君も喜ぶよ」 「アイザックさんのための晩餐会ではないのですが……まあ、彼女は甘い物も好きですしね」 「俺が……何?」 さらさらとメモを取るセバスチャンと太宰の視線が、新たな登場人物に向けられる。 不機嫌そうに顔をしかめたアイザックが入り口に立っていた。 「リンゴは美味しいね、という話だよ」 「違うでしょ、俺の名前言ってたの聞こえたんだから」 「では、私は買い出しに行ってまいりますので」 「あ! セバス!」 セバスチャンは毎度お馴染みの二人の不毛な言い合いのとばっちりを避けるように、アイザックの脇をすり抜けて行ってしまった。 「セバス君も出掛けたことだし……さあ、アイザック君の部屋へ行こうか」 「どうしてそうなるの!? 」 「大事な用があるからね」 がっしりと太宰に腕を掴まれて、アイザックはこの後の不安にため息しか出なかった。 「アイザック君なら解けるだろう?」 「まあ、うん」 アイザックの自室で寛ぐ太宰は、自分のことではないのに、どこか自慢げだ。 当の部屋の主人は、テーブルに置かれた箱を慎重に手に取りまじまじと眺めた。 「からくりか……。 面白い」 「俺も、日本の伝統工芸は素晴らしいと思うよ。 前に伯爵からお土産にと貰ったのだけれど……一度閉じてからそのままなんだ」 開ける手順を忘れてしまってね、と軽く笑う太宰が持ち込んだのは、寄木細工でできた箱。 複雑な仕掛けを一定に操作して開ける必要がある。 依頼された瞬間こそ渋ったアイザックも、実際に目にすると、からくりの仕組みに興味を惹かれたようだ。 「中は何?」 先程から中で何かが動くような振動もせず無音のため、アイザックが軽く振ろうとして、太宰が制止した。 「振るのはよしてくれないかな。 中身は秘密だよ」 「何で! 開けてほしいんでしょ?」 「開けたらわかるよ」 「……あっそ……」 あからさまに眉間に皺を寄せたアイザックとは対照的に、太宰はどこか愉しげだ。 しかし、それも表面のみで開封には程遠い。 「明日じゃ間に合わないって……もしかして、彼女にプレゼント?」 「なら素敵だね」 「すぐはぐらかす……。 まあ、俺には関係ないけど」 彼女への餞別にと、品を用意している者もいるらしい。 少しずつ形を変えていく箱。 太宰も記憶に留め置くよう眼差しはしっかりと向けられていた。 「アイザック君は、彼女に何か贈るのかな?」 「…………一応、お世話になったし」 「へえ。 それは興味深い。 他愛ない会話を続けながらも、アイザックの手は複雑な仕組みを解き明かしていった。 ついに、小さな木片をカチリと嵌め込んだ時、上の部分全体がずれた。 「あ、空いた」 遠慮なく蓋をスライドさせると、アイザックは中を見つめて唖然とする。 「ありがとう、アイザック君。 助かったよ」 「…………か、空……」 目くじらを立てるアイザックに、太宰は人差し指を立てて真面目な表情を返した。 「空ではないよ。 その中には哀れな人妻の魂が閉じ込められていたんだ……。 今、やっと開放されたことで、彼女はきっと成仏できるだろうねえ。 アイザック君は彼女を救ったんだよ。 うんうん、良かった」 「よくも、そんな作り話を……!! 」 からくりの箱を太宰に押し付け、彼を部屋から追い立てた。 あははと笑う太宰はいつもの調子で、悪びれる様子など微塵もない。 「嘘じゃない。 その証拠に、人助けをしたアイザック君には今晩好きなデザートが出るだろうねえ」 「うるさいっ!! 」 ピシャリと閉められた扉を背に太宰は、箱の中を見つめた。 「開くものなんだねえ」 窓の外、日は落ちていた。 気づかれない恐れのある、何とも自己主張しない控えめな月を、太宰は見上げる。 星たちに覚醒を急かされているかのように、淡い光だ。 箱の中に閉じ込めてしまえたら、と太宰はよぎった。 そうすれば幸福で満たされるのかと、どうしようもない空想を想った。 大勢の中心で彼女は笑顔を輝かせていた。 誰しも、その姿を目に焼き付けているようだった。 その華やかな昨夜の反動か、俺は今日は部屋を出る気になれなかった。 図書室から持ち込んだ本もたっぷり有る。 ブランだって今日の分の蓄えは抜かりない。 夜まで出ずに過ごせるだろう。 静寂の時、五感を刺激するのは畳ベッドのい草の香りのみ。 それでも、本の文字も脳までは届かない。 部屋の外で足音が聞こえ、ノックがされた。 これは彼女だと妙な感が働き、居留守を使うことに決め込んだ。 昨夜の内に、皆と一緒に彼女にお別れの言葉は言った。 二人で会えば別れが惜しくなるだけだ。 ただ、それは皆も同じ。 さして特別親しいわけでもない、他に誰かと恋仲だとも聞かなかったが、それは俺も同列だ。 「……太宰さん、いますよね? 太宰さーん」 何を以って確信が有るのか。 退く気配のない可憐な声に、白旗を上げて扉を開けた。 「ごめんね、寝ていたよ」 「いいえ。 太宰さんに挨拶しておこうと思って」 扉を開けたままの立ち話。 これが俺たちの距離。 彼女は恐ろしく人の心に触れようとする人物だ。 俺が躱しても、手を伸ばしてくる。 それでも深くまで踏み込んでは来ない。 絶妙な距離感を保って、その関係性が心地良かった。 これなら、不幸にすることはないだろうから。 「お別れは昨日したつもりだったけれどね」 態との冷たい言い草に、彼女の表情が少し曇った。 これは突き放しすぎたかと、反省してニッコリと笑顔を作った。 「あはは、嘘だよ」 「もう……からかわないでください。 昨日、そんなに話せなかったし……最後に太宰さんの顔見ておこうかなって」 「そうだね、とし子さんの顔が見れて嬉しいよ」 本音だった。 二人では会わないでおこうと頑なになった檻からスラリと出てきた言葉は、彼女に戸惑いを与えてしまっただけだったけれど。 「えっと……。 あの……、深い意味はないですからね?」 「あはは、わかっているよ。 ちょうど良かった、とし子さんに贈り物があったんだ」 昨日、天才科学者に開けてもらった空箱は、すでに再び固く閉じていた。 どこが蓋かさえわからない状態だ。 寄木細工としても美しいこの箱を彼女への贈るかは最後まで迷って、贈らないつもりでいたのに。 部屋の奥から、扉のところまで箱を持って歩む間も逡巡する。 好奇心の瞳が俺の手の中の物を捕らえた。 好奇心は時として罪だ。 渡す際に、僅かに掠めた彼女の指は滑らかな肌をしていた。 「開けてはいけないよ」 「そんな、浦島太郎じゃないんだから」 「竜宮城にしては、この屋敷は物足りないね」 深く捉えず、楽しげに弾んだ声に、こちらまで気分が軽くなる。 渡していい、渡して良かった。 そう自分が言っている気がした。 彼女は大事そうに箱を胸に抱いた。 「ふふ、素敵なことばかりでしたよ! ヴァンパイアと一緒に住むなんて」 「ヴァンパイアの巣窟で女の子一人、よく耐えたと思うよ」 「そんなことないです……太宰さんと会えて嬉しかった」 「ここはロマンチックに俺もだよ、と答えるべきなんだろうねえ」 「もう、すぐ誤魔化すんだから」 俺は元々、人から外れた生き方をしてきた人間だ。 それは日本でもフランスでもあまり関係はないけれど、彼女の存在は間違いなく俺を揺さぶった。 だからこそ、飄々といつも通り振る舞った。 最後まで、彼女の帰る道を閉ざさないために。 「くれぐれも箱を開けてはいけないよ……パンドラさん」 「それギリシャ神話の、ですか? 私はパンドラじゃないです。 ……浦島太郎さんだったかな」 冗談めいた笑いをすれば、一瞬目を見開いた彼女も微笑んでくれた。 この笑顔を記憶に刻もう。 「じゃあ、私行きますね。 荷物もまとめなきゃ」 「ああ、そうした方がいい」 「さよなら。 開けてくれたとしても、不幸しか与えることのできない俺を、許してほしい。 扉を抜ければ、そこは私の元いた時代だった。 最後に太宰さんと話した時に、日本の昔話に例えられたけれど、本当にその通りなのかもしれない。 でも、玉手箱を開けても老人にはならなかった。 太宰さんから貰った寄木細工の箱。 開けるなと言われれば開けたくなるのは仕方ない。 それに、太宰さんが本音で開けるなと言っているようは思えなかったから、だいぶ迷った末にネットで調べて開けたのだ。 現代の情報を舐めてはいけない、これは秘密箱というらしい。 開封できても、老人にならないどころか、中身が空っぽだった、それには、太宰さんらしいと、思わず笑ってしまった。 きっとパリで暮らした空気が入ってたんだと閃いて、慌てて閉めた。 海外での私の一ヶ月の失踪は世間を騒がしたけれど、驚くほどすんなり終息した。 職場にも無事に復帰を果たし、何もかも元通りだった。 一つ違うことは、私に19世紀のパリで過ごした大切な思い出があるということ。 でも、お屋敷で過ごした一ヶ月間と、帰ってからの現実があまりに違いすぎて……あれは夢だったのかもしれないと、不安に襲われ出した。 たくさんの出来事は全て忘れたくなくて、覚えているかぎりを日記として書き出していた。 最初は戸惑ったこと。 嘘みたいなヴァンパイアの存在。 でもそんな皆んながとっても温かかったこと。 偉人と言われた人たちとの思い出を、一人ずつ綴っていった。 書き進んでいって、太宰さんのページに取り掛かろうとしたときだった。 「……うーん…………」 何を書けばいいんだろう。 特別な出来事を探したのだけれど思い当たらない。 他の人のページを見返すと、端々に太宰さんの名前が出ているのに。 笑った顔も愉しそうな彼もすぐに思い出せるのに、不思議な人だ。 日常に溶け込んだ遠くて近い人。 心がモヤモヤした。 「何かあったかな……」 一人の部屋でどれだけ呟いても、同意してくれる相手は居ない。 聞こえるのは、点けっぱなしになっているテレビの声だ。 『駄目だ……』 『それでも、私は知りたい』 『不幸になる。 それでも覚悟があるのなら……』 『覚悟があるのなら?』 『……月が、目覚める時。 また会えるよ……この場所で』 ドラマも最終回が近いようだ、ヒロインがぽろぽろと涙を零していた。 今シーズンの最高視聴率を誇るドラマらしかったが、私は最初を見ていないからよく知らない。 「この公園……よく撮影で使えたな……」 よくデートスポットとして挙げられていて、いつも人が多いのだ。 現代の恋愛ストーリーも長く触れていない。 そして、屋敷でもこんなロマンチックなことは起きなかったな、と思い起こした。 日記の筆が止まっているうちに、オペラのような、クラシックな曲調のエンディング曲が流れ出した。 「えっ、このドラマって、ハッピーエンドにならないの!? ……って、もうこんな時間」 慌てて寝支度をする傍ら、携帯端末のメッセージをチェックした。 仲の良い女友達から、美術展に行こうと誘いが入ってたので、いいよと気軽に返した。 お屋敷ではレオナルド・ダ・ヴィンチも、フィンセント・ファン・ゴッホも居たんだよな、と自然と顔が綻んだ。 「そっか……タイムスリップする前より、アーサーのホームズシリーズが増えてたりするかも」 ネットで調べるも、元々がどのタイトルなのか……さらに言えば、すでにヴァンパイアであるアーサーが書いた作品も混ざって現代に伝わっているのかもしれないと気付き、辞めた。 ベッドで寝転がって、一人の部屋で目を閉じる。 全部、何もかもお屋敷が懐かしい。 たった一ヶ月だったけれど、大きな一ヶ月だった。 私というものを形成する大部分は、もう19世紀パリの経験と言ってもいいかもしれない、というぐらい。 「おおげさ、だよね……」 戻りたい、ずっと一緒にいたいと願うことは許されない。 私はここに居るべき人間だから。 ヴァンパイアとは生きる長さも違うのだから。 休日に会った友達は、一ヶ月行方知れずだった私を心配してくれていた。 こちらの世界にも大切な人はいる。 私にとって大事な世界だと実感できるじゃないかと、自分に言い聞かせた。 「自分から誘っといてなんだけどさ。 アタシ、美術館なんて行ったことないんだ……大丈夫かな」 「難しく考えないでいいんじゃない? って、私も受け売りだけどね」 館内に踏み入れてしまえば、異様な静けさに飲まれ、絵の世界に惹き込まれていった。 初来日の絵画があるらしく、話題になっているそうだ。 目玉の絵の前はずいぶん人が多く、掻き分けるように進む友達に手を引かれて、なんとか拝むことができた。 プレートに刻まれていたのはよく知った名だった。 「……レオナルドさん」 「ダ・ヴィンチとか教科書でもよく見るけど……こんな感じなんだー……」 これが、あの居眠りしていた愛煙家のレオナルドさんが描いたなんて……ちょっと信じられなかった。 屋敷に来る前のレオナルドさんの作品だからだろうか。 不思議と懐かしさは沸かない。 人の波に押され、横に逸れてしまった。 「アンタなんで笑ってんの?」 人気があるのは19世紀パリのレオナルドさんと変わらないなと考えて、少しニヤけていたよだ。 「ううん、気にしないで」 「そう? ……あ! ゴッホだ!」 すぐにフラリと歩いていった彼女と一緒に進んだ。 数点の絵画。 無知な人でもわかる有名な絵を見つめる友達を越して、次の絵へ。 そこで息を飲んだ。 「っ、……これ…………」 儚い紫の後ろ姿。 そういえば、着物の絵を描きたいと言っていたフィンセントを思い出した。 「太宰、さん……」 会いたいと、喉まで言葉が出かかる。 ああ、そうか、私はこの人が大切だったんだ心が叫んだ。 喉の奥がぎゅっとなって、我慢したけれど雫が頬を伝った。 「ちょっと! どうしたの!? 」 「え、……あ…………。 ごめん。 すごく素敵だから」 誤魔化しが通じたかはわからないけれど、それ以上深く追求はせずにいてくれるのは彼女の優しさだ。 私が過ごした一ヶ月は夢でもなく、私の書いた妄想でもなく現実。 何か霧が晴れた心地がした。 たくさんの感情が混ざって、私の中で息づく。 あの、手を伸ばせば逃げてしまいそうな背を見て、締め付けられる想いが沸いた。 太宰さんとの特別な思い出がなくて書けなかったのは、彼が日常そのもだったから……。 大きな存在に気づいたのに、そばにはもういない。 カバンの中の太宰さんからの贈り物である秘密箱を、急く手で取り出した。 今日はお屋敷を思い出せると思って、持ってきていたのだ。 「ちょっと、今度は何?」 動揺する友達の声もどこか遠く聞こえる。 手は最初に開けたときの複雑な手順を覚えていた。 まるで何かに導かれるように。 蓋が空いた瞬間、人にぶつかられて、手からそれが滑り落ちた。 「あ、すみません」 「いえ……立ち止まってて、こちらこそすみません」 濡れた頬に気づかれたくなくて、箱を拾って顔を背けた。 「待って、箱から何か落ちましたよ」 手渡されたのは、箱の底板と同じサイズ同じ色の紙。 この箱は空ではなく、底に紙が入っていたらしかった。 あの見覚えのある場所に。 気づけば日は落ち、街灯が爛々と辺りを照らしている。 直感でしかなく、何故、どうして、と浮かぶ疑問はどうでも良かった。 ただ、確かめたい一心で公園へ向かう。 年中ライトアップされている噴水の周りはカップルが多く、一人彷徨う私はどこか滑稽だ。 見渡しても願った人物はいない。 「やっぱり、違うよね……」 汚れるのも構わず、ぺたんとと座り込むほど力が抜けた。 ドラマなんて偶然だ。 こんなところに太宰さんが居るかもしれないなんて、どう考えてもありえない妄想だった。 本当はお屋敷から出る前に、あのメッセージに気づかなければいけなかった。 開けてはいけないという言葉を鵜呑みにしないで……、彼の隠した意味を考えなければいけなかった。 「……メッセージ、気づけなくて……ごめんなさい……」 膝にポタポタと涙が落ちて、布の色を変えていった。 幸せに包まれた公園で、座り込んで泣いているの姿を見つけ歩み寄った。 頭上から着ていたジャケットをふわりと被せると、彼女は藻掻いてそれをどけようとする。 今の自分が表情を取り繕えない自覚があり、彼女の視界を奪ったまま手を押さえた。 「こんなに泣いて……。 やはり、俺はあなたを不幸にしてしまうようだ……」 「…………あ……っ」 しゃがみ込んで、同じようにジャケットの中に潜った。 すぐそこに息遣いを感じる。 「だから、開けないでほしかったんだよ」 「太宰さん……? 本当に、太宰さんですか?」 彼女に名を呼ばれるのは何十年、何百年ぶりだろうか。 両手で彼女の頬を包み込んだ。 突然失ったこの彼女という存在、離れれば情は薄れていくものだと考えていたのに。 「パンドラの匣は開けてはいけないと決まっているんだよ。 災いが出てくるからね」 「太宰さんは嘘ばっかり、いつも誤魔化してばっかりでズルい……」 開けるなと言い、開けてもらえたらとメッセージを残したのは、弱い俺の欲がさせた。 忘れてほしいと願い、もし忘れられなければと道を残したのは、虚しい俺の期待がさせた。 昔何気なく聞いた、彼女がタイムスリップしてきた元の時代が、今年のこの時期だとずっと覚えていたことも、今年のドラマの脚本を受けたのも、昔にモー君に曲を書いてもらった曲をエンディングに指定したことも……罪深い俺の償いだ。 「ズルい自覚はあるよ。 あなたのためにはならないとわかっていて、あの箱を送ったからね」 「たくさんの後悔も不安も、悲しみも……災いは全部涙と一緒に出ていきました。 彼女は握りしめていた紙のようなものを、俺の手の中へ送り込んだ。 「この、太宰さんから贈られた本当の言葉が、残った希望です」 「あなたって人は……。 俺には元来絶望しかないんだよ」 「太宰さんの心を、開けさせてくれますか? 私があなたの希望になります」 彼女を遠ざけようと言葉は出るのに、目の前の光が幻ではないかと、その身体を抱きしめる手を止められなかった。 ジャケットがずり落ちていく。 初めてこの腕に閉じ込めた身体は思ったより細く、温かかった。 「太宰さん、顔が見たいです」 腕を緩めれば、彼女が覗き込んできた。 ライトアップの装飾のカラフルな色に照らされた、涙の痕の付いた、ずっと逢いたかった彼女の微笑み。 手に握らされた紙を確認すれば、自分が彼女に残した言葉だった。 いつもの飄々とした笑みを作ることができない。 「……長い間、待っててくれてありがとうございます」 「あなたのいない数百年は……とても物悲しい時間だったよ」 やっと笑えたけれど、それは自嘲を含んでいた。 彼女は頷きながらまた涙を零し、俺がそれを指で拭う。 永い命など望んだことはなかったけれど、ヴァンパイアの身体で良かった。 彼女とまた会えなければ生きている意味はないと思ったら、逆に死ぬことはできなかった。 彼女がメッセージに気づいてしまったら、俺がそこに居ないわけにはいかないと。 賭けでしかないのに、俺にはこれが生きる意味だった。 この一輪の花の微笑み、これが俺の光……。 新月の闇から目を覚まさした三日月が、明るい街を見守っていた。

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イケメン ヴァンパイア 太宰

本ストーリーは2019年冬より始まった禁断の第2章の2作目となります。 「太宰治」あらすじをお楽しみ頂ける、本編ダイジェストPVは絶賛公開中です。 本編ダイジェストPV: <本編あらすじ> 飄々として掴みどころのない、日本の文豪・太宰治。 けれど、笑顔の影には罪深い過去があって……。 「あなたのことを、離したくない。 悪気なく人をからかうため、一部の屋敷住人との軋轢を生んでいるが、本人は気にしていない。 太宰治本編ストーリーではシャルルが深く関わってくるようで…? 太宰治本編ストーリー配信を記念して公式Twitter をフォローのうえ該当ツイートをRTいただくと、「太宰治」のCVを担当している八代 拓さんの直筆サイン色紙が抽選で【2名様】に当たります。 2019年冬からは、物語の核心に迫っていく『禁断の第2章』が始まり、新たな展開を見せて行きます。 キャラクターボイスは、島﨑信長氏・豊永利行氏・木村良平氏・斉藤壮馬氏などの豪華声優陣のほか、2. 5次元舞台で活躍する俳優・荒牧慶彦氏や染谷俊之氏などが担当します。

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