『トーナメント決勝戦! 若き新チャンピオンの英雄ユウリに挑むのは、同じくガラルを救った英雄……ホップ選手だあ!!』 実況の雄叫びによりシュートスタジアムの観客たちが一斉に沸き立つ。 歓声を浴びながら悠然と入場した両選手に、会場のボルテージは最高潮に達した。 先日ガラルを襲ったブラックナイトは人々の記憶に新しい。 それを退け、世界を救った英雄たちの存在も、だ。 その二人が並み居るジムリーダーを破り、こうして決勝戦で相対するこの歴史的瞬間に、観客が、いやガラル地方の全員が注目していた。 「ホップ!」 チャンピオンの声をドローンロトムが拾い、スピーカーを通してスタジアムに響き渡る。 かつてのダンデを思い出させる、初々しくも精力に満ち溢れるその姿。 新チャンピオンが何を話すのかと、先ほどまで熱狂していた観客は水を打ったように静まり返った。 「ここまで勝ち上がってくれてありがとう! 決勝戦……。 ホップが来てくれるって、私信じてたよ!」 「ユウリがチャンピオンになって最初のトーナメント戦に、他でもないオレに招待状を送ってくれた。 そんなの、勝たないわけにはいかないだろ!」 ホップがこぶしを突き上げ、また観客が湧き上がった。 「……試合の前に、一つだけ、聞いてほしいことがあるの。 今日ホップを呼んだのもそれが理由」 予想外の言葉にスタジアムがざわつき始めた。 その場にいる全員がユウリに注目し、ドローンロトムも撮り逃すまいとユウリのにカメラを向けた。 皆が固唾をのむ中、ホップだけはただ一人、変わらぬ笑顔で答えた。 「おう! なんだ!?」 「この試合……私が勝ったら、」 そこで一度言葉を切ったユウリは、大きく息を吸って、 「私が勝ったら! ホップ、私と付き合ってください!」 …………一瞬の静寂。 の、後に爆発したように観客が声を上げた。 それは黄色い悲鳴であったり、はやし立てるような口笛であったり、ユウリかホップどちらかのファンの嘆きの声であったり、ただ純粋に驚きの声であったりと最早判別がつかない。 ばくおんぱよりも強烈な音の波にスタジアムが揺れた。 なおこの波はガラルの各地で起こり、軽微な震度として計測された……、という噂が流れたという。 そんな中、きょとんとした顔でコートに立つホップ。 正面のユウリの顔をしばらく眺め、スタジアムの混乱など気づいていないかのように佇んでいたが、ようやく口を開いた。 まさかの言葉に誰も何も言えず、ただただかたまり静まり返っている。 試合を映し出す大画面にはショックを受けて茫然としたチャンピオンと、眉を寄せたホップの顔が順番に映し出されていた。 「オレだってユウリの事好きなんだぞ!?」 「……え?」 「オレが勝ったらユウリと付き合えなくなる! そんなのだめだ、もっと別のやつにしてほしいぞ!!」 「えっ……ええ?」 茫然としていたユウリの顔が、脳の処理が追いついたのかじわじわと赤くなっていき、それに合わせて会場のざわつきが広がっていく。 やがてオクタンのようになったユウリは、手足を震わせ、やけになったかのように手の中のボールを振りかぶった。 「…………こっ、婚姻届はぁ!! カジッチュ柄がいいです!! 行っておいでセキタンザン!」 「オレはウールー柄がいいな! よし、勝つぞバイウールー!」 両者のモンスターボールは祝福の歓声を受け高く飛んだ。 混乱に混乱を極めいきなり始まった決勝戦。 近い未来、彼らがサインした婚姻届にいたポケモンはどちらになるのか。 それはすぐわかることになるだろう。
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次の「気持ちよかねー」 見上げればどこまでも広がる青空と、ゆるやかに連なる群雲。 片手を翳してそれらを眺めるが、やっぱり眩しくてあたしは目を細めた。 暦の上ではまだ冬だけれど、最近はだいぶ暖かくなってきていて過ごしやすい。 今日も、こうして外でじっとしていても問題ないくらい爽やかな良い陽気だった。 「それにしてもトーナメントがない日は、この辺りもだいぶ静かなんやね」 「うん、人は変わらず多いけど、なんだか落ち着いた空気だ」 あたしとマサルはシュートシティの公園のベンチに並んで座って、のんびりとした時間を過ごしていた。 最近は特別に約束をしなくとも、こうして一緒にいることが増えてきた。 今日もシュートシティに向かう道中で偶然会って、こうして一緒に行動することになったのだった。 街に着いたのがちょうど昼前で、まずそれぞれの本来の用を済ませてから再度合流し、お昼ごはんを食べ、それからブラブラと散策をした後、今に至る。 穏やかな昼下がり、たわいないお喋りをしながら、あたしたちは流れる時間に身を任せた。 「あ、バトルしてる」 隣でマサルが言った。 「おお、今のはいい判断」 「そやね、受けてたら危なかったと思う」 あたしはマサルの言葉に肯く。 二人のトレーナーの読み合いがぶつかり合う好バトルだ。 ちらりとマサルの様子を窺うと、予想通り目を輝かせながら前のめりになって観戦していた。 相変わらずバトル好きやねー。 ……あたしも人のこと言えんけど。 ふとマサルが、それにしても、と口を開いた。 「それにしても……キレイだなあ」 「えっ?」 マサルの口からはあまり聞いたことのない、驚きのセリフが飛び出してきた。 あたしは先ほどと同じようにマサルの視線をなぞって、その先にあるものを確認する。 確かにミニスカートからすらりと伸びた足は筋肉の均整がとれていて、とても美しかった。 ……だけど。 そうだとして。 いきなり何でマサルはそんなことを? 「………むぅ」 「マリィ、どうしたの?」 あたしの様子に気付いたのか、マサルがこちらを覗き込んできた。 「別に、何でもなか……わけじゃないけど」 そんな言い方をするつもりなんてなかったのに、ついぶっきらぼうな態度で返してしまう。 何故こんなに余裕がなくなっているんだろ。 「え、ええと……僕、なんかしちゃったかな……」 「………マサルって、ああいう人がタイプなん?」 「タイプ?」 「あのミニスカートの人、かわいかもんね」 ああもう! だから何でこんな言い方してるんよ、あたしは! 胸の内に渦巻く何と表現していいのか分からない感情に困惑するしかない。 本当にあたしはどうしてしまったというの。 「ミニスカートの人、って、あのバトルしてるトレーナーさんのこと?」 マサルが首を傾げながら言った。 その様子に少し違和感を覚える。 「だから、さっきあの人のことキレイって言ってたじゃん」 「? ………ああ、なるほど。 もしかしてマリィ、勘違いしてない?」 「勘違い……?」 「僕がキレイって言ったのは、あのトレーナーさんのことじゃなくて、ポニータのことだよ」 「へ?」 マサルの言葉にあたしは間の抜けた声を上げた。 ポニータ? ……ポニータ? 「とても毛並みがキレイで、それから、よく鍛えられていて引き締まった足。 すごく愛情の注がれたポニータだな、って思ったんだ」 その意味を理解したとき、頭の中でカチッと何かが組み合わさるような音が鳴った気がした。 「う、ぅ、あ、も、もしかして……あたしの早とちり……?」 「いやいや、僕がいけなかったんだよ。 紛らわしい言い方しちゃったから!」 「ぁぁああぁぁ……」 なんてことをあたしは……! 勝手に勘違いして、勝手に気分を悪くして、挙句、マサルにあんなことを言うなんて。 あまりの自分の浅慮な行動に恥ずかしくなって、全身がカッと熱くなる。 「マリィ、落ち着いて。 中途半端な言い回しをした僕が悪かったんだから。 ね?」 「そ、そげなことなか……あたしの方が悪かよ……ごめん、マサル。 よく考えたら分かることなのに勘違いしてさ……」 そう謝ると、マサルはいつもの柔らかい微笑みを浮かべて、あたしの肩を優しく引き寄せてくれた。 「あ……」 「マリィ、ありがとう」 「……? ありがとう……って?」 「正直、嬉しかったんだ。 それに何より……」 「何より……?」 「何より、めちゃくちゃかわいかったよ、マリィ」 「~~~っっ!?」 さっきまでの羞恥を塗りつぶしてしまうほどの熱が一気に噴き上がる。 あたしは口をパクパク動かして、「あ、え、えと、そそ、その」などと、声にならない声を出すのが精一杯だった。 「ああもう、本当にマリィはかわいいなぁ」 マサル腕の中で、あたしは頬を真っ赤に染めて小さくなる。 そして、ようやくあたしは気が付いた。 マサルのことだから、あたしはあんなにも冷静さを失ってしまったんだと。 それだけ、マサルという存在があたしの中で大きなものになっているのだと。 あたしはそっと視線を上げて、マサルの横顔を見つめる。 少年らしい無邪気さの中に見える男性としての凛々しさに、心臓がとくんと高鳴った。 「……………卑怯じゃん、こんな」 こんな、かっこいいってさ。 きっと、あたしはこれからもヤキモチをやいてしまうだろうなと、思うのだった。
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