作品概要 原題:Hereditary 製作年:2018年 製作国:アメリカ 配給:ファントム・フィルム 上映時間:127分 映倫区分:PG12 ・解説 家長である祖母の死をきっかけに、さまざまな恐怖に見舞われる一家を描いたホラー。 祖母エレンが亡くなったグラハム家。 過去のある出来事により、母に対して愛憎交じりの感情を持ってた娘のアニーも、夫、2人の子どもたちとともに淡々と葬儀を執り行った。 祖母が亡くなった喪失感を乗り越えようとするグラハム家に奇妙な出来事が頻発。 最悪な事態に陥った一家は修復不能なまでに崩壊してしまうが、亡くなったエレンの遺品が収められた箱に「私を憎まないで」と書かれたメモが挟まれていた。 「シックス・センス」「リトル・ミス・サンシャイン」のトニ・コレットがアニー役を演じるほか、夫役をガブリエル・バーン、息子役をアレックス・ウルフ、娘役をミリー・シャピロが演じる。 監督、脚本は本作で長編監督デビューを果たしたアリ・アスター。 より引用 ・予告編 悪夢の元凶 まずはTwitterに上げた感想から。 「ヘレディタリー/継承」観た。 不穏な空気、不気味な雰囲気で視覚的なだけではなく精神的に追い詰められ、徐々に恐怖心を煽られていく。 絶望の負の連鎖は正に悪夢と言うべきか。 ラストに繋がるプロットと見せ方は至極単純なのに単純と思わせない斬新さがあり、他のホラー映画と一線を画す。 『ゴエティア』に記載されているパイモンのシジル パイモンまたはペイモン(Paymon, Paimon)は、ヨーロッパの伝承あるいは悪魔学に登場する悪魔の1体。 悪魔や精霊に関して記述した文献や、魔術に関して記したグリモワールと呼ばれる書物などにその名が見られる。 現れる際には、王冠を被り女性の顔をした男性の姿を取り、ひとこぶ駱駝に駕しているとされる。 召喚者に地位を与え、人々を召喚者の意思に従わせる力も持つ。 より引用 グラハム家はこの悪魔によって絶望の悪夢を体験することになります。 祖母エレンのペンダントにもこの ペイモンのシジルがデザインされていたことから察することができます。 冒頭で妹のチャーリーが鳩の首を切断し、絵を描いていたシーンを思い出してください。 その絵には鳩の生首に王冠が描かれています。 この時点で既に悪魔ペイモンの影響を受けていることが分かります。 その他の不可解な行動も。 チャーリーはケーキを食べて呼吸困難に陥り、病院へと運ばれる途中で電柱に頭部をぶつけて死亡しました。 恐らくチョコレートケーキにナッツが入っていた為にアナフィラキシーショックを起こしたと考えられます。 ここから少し余談に入ります。 クリスマスツリーはキリスト教以前の異教時代で魔除けとして常緑樹を家の内外に飾ったという習慣が起源です。 クリスマスツリーの装飾にもそれぞれ意味があり、例えばリンゴはアダムとイヴを想起させ、楽園の木を。 ナッツは神の計り知れぬ御心を表します。 また、リンゴやナッツは古代ケルト人にとってとても重要な果実です。 寒くて長い冬を乗り越えるにはナッツやドングリは保存食として最適なものであり、中でもヘーゼルナッツは神聖なものとして崇められていました。 言語学的にリンゴを意味するポーモーナという果実と果樹を司る女神と古代ケルト人にとって大事な果実を結びついていったという話もあります。 ナッツには魔除けの力があり、ただのアレルギーだとは思いますが、ペイモンが避けていたということも考えられるのではないでしょうか。 またアニーの話から、祖母エレンから息子であるピーターを遠ざけたとあります。 その理由はアニーの兄チャールズ。 彼は16歳で自殺しており、彼の遺書には「母が自分の中に何かを入れようとした」とされています。 この時にはペイモンはエレンを使ってチャールズを我が肉体として使おうとしていたことが分かります。 ピーターの代わりにチャーリーがエレンに関わることで、そしてエレンが亡くなったことでペイモンの魔の手が チャーリーへと継承されたことになります。 チャーリーはエレンが「男の子なら良かった」と語っていたことも話します。 チャーリーとは本来、男の子に付ける名前であり、このことからもエレンがペイモンの召喚に強い拘りがあったことを窺い知ることができます。 つまり、エレンの死後、チャーリーへ。 チャーリーの死後、アニーへ。 最終的にアニーを使って、ピーターをペイモンの宿主としてラストシークエンスへ。 という流れだと考えられますね。 ペイモンは "女性の顔をした男性の姿" 肉体はピーター、顔は家族のうちの女性の誰かでないといけないんですね。 従って、祖母、母、妹と一族の 女性全員が首を落として亡くなる必要があったのです。 "召喚者に地位を与え、人々を召喚者の意思に従わせる力も持つ。 " とあるように、召喚とは例の降霊術、従わせる力とはラストシーンで神を崇めるように取り囲む人々を指します。 ジョーンが 「降霊術は家族一緒に」と注意喚起したことも、ピーターを降霊術に参加させて ピーターを召喚者とさせる為だと考えられます。 と、Twitterの感想でも書いたように ラストを知ってしまえばラストにつながるプロットは至極単純なんです。 そこに家族の在り方や状況、精神状態などを重ねることで単純ではない恐怖が演出されてるんですよ。 音と光の演出 悪魔ペイモンとラストシークエンスについては簡単にまとめました。 ここからは細かな演出について着目していきたいと思います。 まず印象的なものが "音"です。 そうです、チャーリーの「コッ」という舌鳴らしです。 非常に不快感の募る不気味な音ですよね。 鑑賞後に家に帰って、突然後ろから、暗い部屋の隅から、「コッ」と聞こえてきたらチビること間違いなしです(笑) チャーリーは赤子の頃から泣かない子だったそうで、生まれた時にも鳴き声をあげなかったとあります。 仮にそれが意味のある台詞と捉えるなら、チャーリーは生まれながらにペイモンに操作されていた可能性が高い。 チャーリー=ペイモンとした場合、 "女性の顔をした男性の姿"が当てはまらないので、あくまでもペイモンに唆されている生贄のようなものだと思って間違いないでしょう。 元々音を発さない子供だったとしたら、舌鳴らしはペイモンに唆されてからの癖ではないかと考えられる。 劇中でも舌鳴らしを初めて行ったのは祖母エレンの葬式だったように思います。 では本来、舌を鳴らすとはどのような状況で行うのでしょうか? 1軽蔑・不満の気持ちを表す動作。 特に、おいしい物を食べて、満足した気持ちを表す動作。 つまりはペイモンの感情や心情の現れではないかと。 また、ペイモンの名前の由来はヘブライ語の"POMN"(「チリンチリン」という音)だそうで、ヘブライ語では音節はすべて子音で始まり「コッ」(k)という音も子音です。 次に印象的なのが "光"の演出ですね。 光の演出が可視化されたのは恐らく降霊術後。 皆さんもお分かりだと思いますが、ジョーンに教えて貰った 降霊術は地獄の門を開くこと。 チャーリーではなくペイモンの召喚だったというわけですね。 ということはジョーンもまたエレン同様に悪魔崇拝によりペイモンに唆されていたということになります。 アニーが二度目に彼女の家を訪れた際の部屋の中の儀式、学校でピーターに声をかける姿などからも察することが出来ます。 ここで斬新なのが、悪魔であるペイモンを光として見せたことです。 分かりやすい描写はピーターが窓から転落した際に光が体へと取り込まれるシーン。 ここで ペイモンがピーターに完全に憑依したことが明確に啓示されています。 一般的なイメージとして、悪魔といえば闇を連想すると思います。 実はですね、ペイモンは悪魔でありながら、天使の一面も併せ持つんですよ。 イギリスで発見されたグリモワール『ゴエティア』によると、パイモンは序列9番の地獄の王である。 一部は天使からなり一部は能天使からなる200の軍を率いており、ルシファーに対して他の王よりも忠実とされる。 彼自身は主天使の地位にあったという。 イギリスの文筆家・政治家レジナルド・スコットが記した『妖術の開示(原題:The Discoverie of Witchcraft)』1655年版では、パイモン、バティン、バルマを呼び出し、その恩恵を受ける方法が書かれている。 この書によれば、パイモンは空の軍勢に属し、座天使の位階の16位にあるという。 Corban およびマルバスの配下にあるという。 より引用 主天使とは神学に基づく天使のヒエラルキーにおいて、第四位に数えられる天使の総称。 座天使とは神学に基づく天使のヒエラルキーにおいて、第三位に数えられる上級天使の総称。 また、ペイモンを智天使とされる文献もあります。 『悪魔の偽王国』(あくまのぎおうこく、あくまのにせおうこく、Pseudomonarchia Daemonum)はヨハン・ヴァイヤーの主著『悪魔による眩惑について』(De praestigiis daemonum)の1577年の第五版に付された補遺である。 原題は「デーモン(悪霊)の偽君主国」の意であり、地獄の悪霊たちを神聖ローマ帝国の封建体制を思わせる位階秩序をもつものとして記述している。 より引用 このようにペイモンは悪魔でありながら、一部天使であるという光と闇の二面性があるんですよね。 "闇"とは対称的なもの"光"を悪魔として演出したアリ・アスター監督のこのセンスが素晴らしい。 そう、この映画の最大の魅力がこの演出力にあると思います。 ストーリー自体はそこまで目新しいものでもなく、ラストも衝撃と言えば衝撃で後味の悪さもあるのですが、ホラー映画を見慣れた方ならばそこまで驚きはないと思います。 それよりもホラー映画としての散りばめられた伏線と回収、恐怖心の煽り方、家族の精神面の描き方、これらの演出力が他のホラー映画作品と比べても一線を画していると感じました。 もう一度言います。 アリ・アスター監督のセンスが素晴らしい。 これが長編初監督作品というから驚きだ。 タイトルの意味 さて、ここで改めて考えてみましょう。 タイトル 「ヘレディタリー/継承」とはどういうことなのか。 原題 『Hereditary』 直訳すると「遺伝的な」「代々の」「親譲りの」となります。 このタイトルとラストに向けたプロットからも、祖母であるエレンの悪魔崇拝によるペイモンの継承。 もうひとつが、 遺伝的な脳の病気ではないか?です。 父は重度の鬱病で餓死。 兄は統合失調症で自殺。 エレンは解離性同一性障害。 そしてアニー自身も夢遊病。 ここで新たな解釈として 劇中のオカルト的な現象は遺伝的な脳の病気が引き起こした精神の崩壊が見せた幻覚ではないか説です。 アニーの仕事でもあるミニチュアの製作。 冒頭でそのミニチュアの家にカメラが寄っていって物語が始まりました。 そう、我々が観ていた劇中でのオカルト体験は全てアニーがミニチュアの家の中で想像した架空の出来事ではないだろうか。 祖母の死、娘の死、夫の死、これらは全て現実に起こったこと。 チャーリーの死をきっかけに、アニーの精神が壊れてエレンの幽霊を見るなどの幻覚に囚われる。 もしくは夢遊病時の夢オチ。 ピーターは妹を過失事故とはいえ殺してしまい、そのショックや責任感、罪悪感から幻覚を。 夫スティーブもそんなアニーやピーターに囲まれて精神的ストレスに。 精神安定剤を飲んでる描写からも精神的に病んでいたことは明らかです。 また、これとは別にあくまでももうひとつの解釈の仕方として 主軸はエレンが始めた悪魔崇拝が家族崩壊へと繋がるというものであり、その脚色されたオカルト的な演出は精神異常からくる幻覚。 そして、 家族にトラウマを持つアニーが悪魔崇拝を通して擬似家族による集団を形成することである種の救済措置として機能している。 というのも考えられるのではないだろうか。
次のCONTENTS• 映画『へレディタリー 継承』の作品上情報 C 2018 Hereditary Film Productions, LLC 【公開】 2018年 アメリカ映画 【原題】 Hereditary 【脚本・監督】 アリ・アスター 【キャスト】 トニ・コレット、アレックス・ウルフ、ミリー・シャピロ、アン・ダウド、ガブリエル・バーン 【作品概要】 家長である祖母の死をきっかけに、さまざまな恐怖に見舞われる一家を描いたホラー。 『シックス・センス』『リトル・ミス・サンシャイン』のトニ・コレットがアニー役を務め、夫役をガブリエル・バーン、息子役をアレックス・ウルフ、娘役をミリー・シャピロが演じます。 監督・脚本は長編監督デビューを果たしたアリ・アスター。 映画『へレディタリー 継承』のあらすじとネタバレ C 2018 Hereditary Film Productions, LLC ミニチュアジオラマ作家のアニー・ラハムは母エレンが亡くなったばかり。 母親との微妙な関係にあったアニーは、母の死にも微妙な気持ちのままです。 葬儀の直後から家族の周りでは異様な出来事が起き始めます。 特に末娘のチャーリーは、何かに動かされるように奇妙な行動をとり始めます。 さらにエレンの墓が何者かに荒らされたという連絡がスティーブンのもとに入ります。 チャーリーの行動に心を乱されたアニーは、無理やり長男のピーターに妹を押し付けます。 ピーターは学校の仲間たちと悪ふざけのパーティーに行くので、正直妹の存在はお荷物でした。 そして目を離した瞬間、ナッツアレルギーのチャーリーが発作を起こしてしまいます。 慌てて車を走らせるピーター。 チャーリーが窓から顔を出した瞬間路上の電柱に激突、チャーリーは命を落とします。 チャーリーの悲劇にアニーの精神状態は悪化していきます。 一方でピーターもまた罪の意識から混乱するようになってきます。 家長のスティーブンは何とか家に安定を持たせようとしますが、うまくいきません。 家族には映画に行くといって大事な人物を亡くした孤独を抱える人々の集まりに出ていた、アニーはそこで息子と孫を失ったジョーンという女性と知り合います。 家の中で不思議なことが起き始め、動揺が広がります。 アニーは救いを求めるようにジョーンの家に向かいます。 ジョーンは親身になって話を聞いて寄り添ってくれます。 数日後、再びジョーンに出会ったアニーは、信じられないだろうと断りを入れられたうえで、降霊術で孫とコンタクトを取れるようになったと言い出します。 さらに、そのことをアニーの眼の前で実践して見せます。 半信半疑のアニーですが、チャーリーともう一度会いたいという思いに押されて降霊術を行います。 これを機にアニーの心理状態は更に混乱していき、ピーターもまた幻覚にさいなまれます。 アニーはエレンの遺品のアルバムの中にジョーンの姿を発見します。 まったくの他人だと装っていたジョーンは、エレンの知り合いだったのです。 そして、エレンやジョーンは、悪魔崇拝者でペイモンと呼ばれる悪魔の王の復活を目指していたことが分かります。 家の屋根裏部屋からエレンの遺体が見つかり、悪魔崇拝者たちの陰謀を知ったアニーは、そのことをスティーブンに訴えますが、逆にすべてアニーの行いなのではと疑われてしまいます。 集会に出向くときに映画を見に行くという嘘が仇になってしまいました。 そのころ、ピーターは学校で何かにとりつかれたように机に頭を打ち付けます。 チャーリーの残したノートを暖炉に投げ込んだ瞬間にスティーブンの体は燃え上がり命を落とします。 完全に我を失ったアニーは、屋根裏部屋で自ら糸鋸で首を切り落とします。 家を飛び出したピーターは、チャーリーの陰に導かれるように庭のログハウスへ向かいます。 そこに多くの悪魔崇拝者が集まっていました。 ペイモンの復活には依り代となる若い男の体が必要でした。 一家を混乱させ崩壊させ、ピーター独りだけの状態にするというエレンの陰謀は成就し、悪の王ペイモンは復活します。 新約聖書やコーラン、仏教では救世主としての存在が出てくこともあって、常に一段下がった存在になっていますが、旧約聖書の段階では神と五分に渡り合う存在でもあります。 いろいろな神・善に対抗する存在が合流離散した中で現在の思想上サタンが確立されいます。 このサタンを信仰する悪魔協会という宗教団体は、欧米に支部を持つれっきとした団体で、少なくとも法令上は犯罪集団のような扱いを受けてはいません。 「死霊館」シリーズなどにも登場していますね。 伏線の嵐 127分の映画の中でこれはどこに向かう映画なのか、とにかく分からなくなります。 それこそまさに 夢の出来事のように、物語のテンションの上下・強弱に翻弄されていきます。 その中で、 これが本筋なのか?と思われるものがいくつも出てきますが、それを見事に裏切ってくれます。 ホラー映画として怖さ以上に、 ストーリテリングの複雑さに感心してしまう。 そんな映画です。 まとめ 2018年のサンダンス映画祭に出品した際に、批評家たちから、「ホラーの常識を覆した最高傑作」「現代ホラーの頂点」と高い評価を受け全米を震撼させたホラー映画『ヘレディタリー 継承』。 亡くなった祖母のエレンから忌まわしいものを受け継いだ家族を、残酷な運命と死よりも恐ろしい出来事が襲ってきます。 彼女たちが祖母から受け継いだものに注目です。 脚本を書き自ら演出を務めたのは、本作が長編映画監督デビュー作となるアリ・アスター。 彼が描いたスクリーンをよぎる光、真夜中に見る夢、屋敷の壁に描かれた文字など、新たな発想と演出を見せながら、すべてのシークエンスがラスト結末への恐怖につながる巧みな脚本の完成度は、お見事の一言です。 ホラー映画の新たな到達点に注目です。
次のネタバレ! クリックして本文を読む この映画の不穏で恐ろしいのだけれど、どことなく笑ってしまうような感覚は、どこまでが監督の手のひらの内なのだろうか? とにかく主人公たちを突き放した、ただ無機質に観察しているかのような映像によって、われわれは傍観者の役割を与えられる。 主人公家族はとんでもない悲劇に見舞われ、やがて超常現象的な恐怖が矢継ぎ早に訪れる。 彼らの身になったらとても正気ではいられないのだが、映画の視点の冷徹さが、そしてその冷徹さを成立させるミニチュアを見ているかのような画郭が、感情移入を許さないのだ。 それでいて、あらゆる場面がいちいち異様であり、その圧が尋常でないため、どれだけ静かなシーンであっても目をそらすことができない。 ぶっちゃけるとラストシーンはあれでよかったのだろうかと疑問を抱いたりもするのだが、表現の力という点で、全編、監督の才気に気圧されずはいられないパワーに満ちた新種のエンタメだと思う。 この映画はあまりに危険だ。 最近はホラーというジャンルも様々な偏移をたどって細分化され、決定的な場面を見せずに恐怖を描いたり、また笑いの要素を逆手にとって身の凍えるほどの場面を作り上げるなどの異色作も多く見られたが、本作はそのいずれとも大きく異なる。 ある意味、この時代に現れるべくして現れた、真の恐怖をもたらず人間離れした存在とでも言おうか。 序盤からあらゆる細部に胸の奥をゾワゾワとさせられ、A24らしいアーティスティックな演出(映像、音響、演技)がかつてない感触で肌を撫で続ける。 そして幾つかのシーン。 思わずギャッと悲鳴をあげそうになった。 ストーリーの詳細は明かさないが、一言で言えば「邪悪」。 かつて『エクソシスト』が世に放たれた時にも、人々は触れてはならないもの、見てはいけないものを目にしたような感覚を覚え、この邪悪さに心底恐怖したのだろう。 以上、私は警告した。 後は自己責任で存分に震撼されたい。 ドールハウスから現実の室内へシームレスにつなぐショットの冒頭から異常な感覚が持続する。 不穏な気配をあおるインダストリアル系のBGM。 重さと不気味さに圧倒される。 アリ・アスター監督、戦慄のデビュー作。 30そこそこの若さでこの確かな演出力はどうだ。 自身の脚本で紡ぎ出すストーリーは、欧州由来の伝統的な悪魔信仰や悪魔的な存在への畏怖に根差す要素もあり、ロジカルな点で日本人の腑に落ちるとは言いがたいが、感覚を直撃する恐怖描写でグローバルなホラー映画としての価値を獲得した。 これが長編映画デビューという彼女の出演作をもっと観たい。 近年の「イット・フォローズ」「ドント・ブリーズ」に並ぶ独創的な傑作ホラーだと感じた。 解除明け。 走って見に行きましたよ。 久しぶりの映画!怖いと噂のヘレディタリー。 不気味な少女、怪しげな祖母、狂っていく母、不幸な息子、翻弄される父。 タメのある映像、暗くおぼろげな絵作り、失った死への悲しみ、謎を呼ぶコックリさん。 予言はあった。 無意味な車の窓からの頭出し。 でもそれは、ホラー映画にありがちの演出のためかと、笑いを最小限に抑えた。 ドラマは盛り上がってくる。 暖炉の前、決意した母、夫に最後の決意を伝える!さあ、さあ、さあ! えー!それ?意味わかんない。 どんななってんの?あれあれ、それ?本気?ぶはははは!上いるよ。 後ろにもいるよ。 わーくだらねー。 なんでみんな太ってんの?ワイヤーで釣ってる?だはははは。 なにのこの像。 ダセー。 死体が正座してる。 ぎゃはははは!え?沢山いる内の一人?ちっさ〜。 ハロー、キングヘイモン。 だはははは!頭から離れない。 最高! ネタバレ! クリックして本文を読む 悪魔教の罠にはまっていく家族の姿、そしてその死にざまがとても痛々しいのですが、それはそれですごくはまりました。 こういう映画にこういう評価は?という気持ちがいつもありますが、面白かったし、観てよかったです。 抑圧的な映像音楽も好みです。 ただ、悪魔教の描き方がもっと何とかならなかったのかなと思います。 悪魔の王ペイモンが3つの首を生贄に召喚される絵だけで説明するところは三つの首の箇所を母親が気づいてアップにするとか(そうでないと、自分の首を切るシーンはショックが半減)、ラスト、離れのツリーハウスでの戴冠?の儀式はこれまでの抑圧感がなくなって平板なリアル映像になってしまって、裸の信者たちに淫猥さ不気味さは感じなかったし。 悪魔教の映画はその後味の悪さが大事だと思うので非常にもったいないです。 このスタッフならたぶんできたはずです。 エンドロールの音楽も肩透かし感がありました。 ネタバレ! クリックして本文を読む 4DXにて初鑑賞。 アリ監督のミッドサマーは個人的には合わなかったが、公開後は数字は伸びてる事もあってもう一度アリ監督の作品にチャレンジしてみようと思った。 結果としてはやはり合わなかったかな。 個人的にはまだミッドサマーの方が良かった。 2作品見た印象とさてはアリ監督が描く怖さというのは、人間が内に秘めた恐怖だったり、人が創造しえる恐怖ってのを描きたいんだろうけど、そのあたりが自分の怖さ、恐怖とはマッチしていないとやはり合わない。 どうしても作品で描かれている彼らの恐怖とは共感がうまれるず第三者の視線として見てしまう。 今回は4DXで鑑賞したがあまり作品とはマッチしてないようにも見えた。 首を切断するシーンでは切断の動きとマッチするように左右に座席が動くのだが、なんかそこらへんは恐怖というより面白さや楽しさといった気持ちが個人的には先行してしまった。 予告だと妹ちゃんが邪悪な何かに取り憑かれて家族を不幸にしちゃう的な話っぽく作られていたけど鑑賞したら、ぜんっぜん違うw A24の最新作「WAVES」と「ミッドサマー」を観てからの遡り鑑賞。 助走が長い長い。 後半急にダッシュする感じ。 ラストは音楽と光が神々しく見えて、悪魔と神って紙一重なのね、と思ってしまった。 主人公が途中で変わる作品は観たことあるけど、テーマが変化していく(ように見える)作品は久々。 ピーターの演技も母親の演技も、まー素晴らしくて惚れ惚れ! 評価が分かれているけど、伏線や演出の意味が深くて面白いよ。 DVDだから伏線回収に何度も巻き戻してしまったw この監督は、一筋縄ではいかない人だー! これが長編デビュー作品だというから驚きます。 その位とんでもない作品でしょう。 張り巡らせた数々の伏線、様々なホラー要素も綺麗に詰め込まれており、現代ホラーの頂点も頷けます。 また、私は海外ホラーはそこまで怖く感じない方(あの驚かす演出は別)で、宗教的な文化の違いからだと思っています。 でもこの作品は本当に怖かった。 日本人でも実に神経に触ります。 あと、軸が家族という人間だからでしょう。 グロ描写はほぼ無いのですが、その「ほぼ」の1カットが結構重いです。 陰鬱な音楽も良く、とても効果的でした。 音楽なのかSEなのか入り混じってますけど、とても気持ちがざわざわしました。 というか終始ざわざわしっ放しです。 そして何より舌を鳴らす音、あれは劇場を後にしてからも頭から離れませんでした。 話の視点が何度も切り替わる様に作られているので、先が見えにくく不安だけがずっと続くんです。 先がどうなるのかよく分からない、でも絶対悪い事が起こる事だけはわかるんですね。 カメラワークもよく、スクリーン端を使った演出も素晴らしかったです。 観客に「え?」とさりげなく気付かせるところ、うまいですね。 また母親役のトニ・コレットの演技が素晴らしかったです。 だんだんと崩れていく様は本当見事でした。 終盤の畳み掛けるテンポも良く、観客の自分も逃げられない恐怖に取り込まれてました。 ラストこそは見えてしまいましたが、散々伏線を出していたので敢えてそうしたのでしょう。 逆に、絶対に覆る事の無い運命がひしひしと伝わってました。 終始作品に圧倒されてしまい、こんな監督が出てきた事に驚きです。 「ミッドサマー」の話題性からポツポツとアンコール上映が出てきているので、是非この機会にスクリーンでの鑑賞をお勧めします。 狂気に満ち溢れた、とんでもない作品です。 「WAVES ウェイブス」 C 2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved. 「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」 C 2019 Gravier Productions, Inc. 「デスカムトゥルー」 C IZANAGIGAMES, Inc. All rights reserved. 「ドクター・ドリトル」 C 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.
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