マネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為を言います。 このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪及びテロリズムを助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ローンダリングを防止することが重要です。 国際社会は、これまでマネー・ローンダリングを防止して摘発するための制度を工夫し発展させ、連携してこれに対抗し、我が国も、国際社会と歩調を合わせてマネー・ローンダリング対策の強化を図ってきました。 現在のマネー・ローンダリングに関する様々な制度や活動も、こうしたマネー・ローンダリング対策における国際社会との協調と国内での対策の発展の成果と位置付けることができます。 2 国際社会におけるマネー・ローンダリング対策等 1 麻薬対策としてのマネー・ローンダリング対策 1980年代までに、国際社会では麻薬汚染の国際的な広がりが危機感をもって受け止められ、様々な取組が行われていました。 特に、国際的な薬物密売組織による不正取引に関して、組織の資金基盤への打撃、すなわち薬物密造・密売収益の没収やマネー・ローンダリングの取締りが重要であると考えられました。 このため、昭和63年 1988年)12月に採択された麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(以下、「麻薬新条約」という。 )は、薬物犯罪による収益の隠匿等の行為を犯罪化することや、これを剝奪するための制度を構築することを締約国に義務付けました。 平成元年(1989年)7月のアルシュ・サミットで、薬物犯罪に関するマネー・ローンダリング対策における国際協力の強化のため、先進主要国を中心としてFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会 が設立されました。 FATFは、2年(1990年)4月、各国における対策を調和させる必要から、法執行、刑事司法及び金融規制の分野において各国がとるべきマネー・ローンダリング対策の基準として「40の勧告」を策定しました。 「40の勧告」は、麻薬新条約の早期批准やマネー・ローンダリングを取り締まる国内法制の整備、金融機関による顧客の本人確認及び疑わしい取引報告等の措置を求めるものでした。 2 組織犯罪対策としてのマネー・ローンダリング対策 1990年代には、組織犯罪の国際的な広がりが国の安全を脅かす存在として認識され、国連を中心として条約の検討が行われる一方で、平成7年(1995年)6月、ハリファクス・サミットでは、国際的な組織犯罪対策として、薬物取引だけでなく重大犯罪から得られた収益の隠匿を防止する対策も必要であるとされました。 FATFは8年(1996年)6月、「40の勧告」を一部改訂し、前提犯罪(不法な収益を生み出す犯罪であって、その収益がマネー・ローンダリングの対象となるもの)を従来の薬物犯罪から重大犯罪に拡大すべきだとしました。 また、疑わしい取引に関する情報を犯罪捜査に有効活用できるようにするための方策として、10年(1998年)5月、バーミンガム・サミットでは、各国にマネー・ローンダリング情報を一元的に集約し、整理・分析して捜査機関等に提供するFIU(Financial Intelligence Unit:資金情報機関)を設置することが参加国間で合意されました。 FIU相互の情報交換等の場として7年(1995年)に発足したエグモント・グループは、FIUについて「国のマネー・ローンダリング対策を支えるべく、金融機関等からの届出情報を受理・処理し、当局に通知する中央機関であり、法執行機関に重要な情報交換の道筋を提供するものである」と表現しています。 3 テロ資金供与への対応 テロへの対応においては、未然防止が特に重要であり、テロ組織の活動を支える資金供給の遮断と資金供給ルートの解明、国際的な連携が必要なことはマネー・ローンダリング対策と同様であると考えられました。 平成11年(1999年)12月に採択された「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際連合条約(以下「テロ資金供与防止条約」という。 )は、このような考え方に基づき、テロ資金提供・収集行為の犯罪化、テロ資金の没収、金融機関による本人確認・疑わしい取引の届出等の措置を締約国に求めました。 13年(2001年)9月の米国同時多発テロ事件の発生を受けて、FATFは翌10月、臨時会合を開催し、その任務にテロ資金供与対策を含めるとともに、テロ資金供与対策の国際的な標準として、テロ資金供与の犯罪化やテロリストに関わる資産の凍結措置等を内容とする「8の特別勧告(テロ資金に関するFATF特別勧告)」を策定しました。 16年(2004年)には、8の特別勧告に国境を越える資金の物理的移転を防止するための措置に関する項目が追加され、「9の特別勧告」となりました。 4 マネー・ローンダリングの変化への対応 対策の進展に応じ、金融機関以外の業態を利用した隠匿行為などマネー・ローンダリングの傾向にも変化がみられるようになりました。 そこで、FATFは、平成15年(2003年)6月、非金融業者・職業的専門家に対する勧告の適用等を内容とする「40の勧告」の改訂を行いました。 さらに24年(2012年)2月、大量破壊兵器の拡散、公務員による贈収賄や財産の横領等の腐敗等の脅威にも的確に対処することなどを目的として、「40の勧告」と「9の特別勧告」を一本化し、新「40の勧告」に改訂しました。 25年(2013年)6月のロック・アーン・サミットでは、法人等の所有・支配構造の不透明な実態によって、法人等がマネー・ローンダリングや租税回避のために利用されている現状を踏まえ、「法人及び法的取極めの悪用を防止するためのG8行動計画原則」(以下「G8行動計画原則」という。 )が参加国間で合意されました。 また、27年(2015年)6月のG7エルマウ・サミットの首脳宣言では、仮想通貨がテロ資金供与・隠匿に悪用される危険性を踏まえ、仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制の導入を含め、全ての金融の流れの透明性の拡大を確保することが掲げられました。 FATFにおいても、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認や疑わしい取引の届出、記録保存の義務等のマネー・ローンダリング及びテロ供与規制を課すべき旨のガイダンスを同年6月に公表しました。 さらに、30年(2018年)3月及び7月、20か国(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議における声明で、暗号資産がマネー・ローンダリングやテロ資金供与等の問題がある旨提起されたことを受け、FATFは、同年10月、FATF勧告を改訂し、仮想通貨交換業者、仮想通貨管理業者、ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)関連サービス業者には、マネロン・テロ資金供与規制が課されなければならないことを規定しました。 3 我が国のマネー・ローンダリング対策等 1 麻薬特例法の施行等 我が国のマネー・ローンダリング対策は、国際社会の動きに合わせ段階的な進展をみてきました。 まず、平成2年6月に、当時の大蔵省銀行局長名で金融団体に対して、顧客の本人確認実施を要請する旨の通達が発出されました。 次に、麻薬新条約の国内担保法の一つとして、薬物犯罪から得られた収益への対策を主眼に、4年7月に「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「麻薬特例法」という。 )が施行されました。 この法律では、薬物犯罪におけるマネー・ローンダリングが初めて犯罪化されるとともに、「40の勧告」に対応して、金融機関等による薬物犯罪収益に関する疑わしい取引の届出制度が創設されました。 2 組織的犯罪処罰法の施行 マネー・ローンダリングの前提犯罪を薬物犯罪に限定していたことに対し、平成6年(1994年)の第1次FATF対日相互審査でその改善が望まれました。 実際、金融機関等が、疑わしい取引の届出を行うに当たり、それが薬物犯罪に関するものであるかどうか判断することは極めて困難なため届出が活発に行われず、また、届出情報の集約と捜査機関への提供を行う仕組みもなく、疑わしい取引の届出制度は、有効に機能していませんでした。 そこで、我が国では、8年(1996年)の「40の勧告」の一部改訂を踏まえ、12年2月に組織的犯罪処罰法が施行されました。 この法律では、いくつかの点で犯罪収益対策における前進がみられました。 その1点目は、マネー・ローンダリングの前提犯罪を薬物犯罪だけでなく重大犯罪にも拡大したこと、2点目は、疑わしい取引の届出の対象犯罪も同様に拡大したこと、3点目は、我が国のFIUを金融監督庁(後の金融庁)に置くこととし、金融監督庁内に特定金融情報室(Japan Financial Intelligence Office:JAFIO が設立されたことです。 3 テロ資金提供処罰法・金融機関等本人確認法の施行と組織的犯罪処罰法の改正 米国同時多発テロ事件後の動きとしては、テロ資金供与防止条約を締結するため、その国内担保法として、平成14年7月、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」(以下、「テロ資金提供処罰法」という。 )が施行され、テロ資金提供等の行為が犯罪化されました。 同時に組織的犯罪処罰法の一部が改正され、テロ資金提供等の罪が前提犯罪に追加されるとともに、テロ資金そのものが犯罪収益として捉えられるようになったため、テロ資金の疑いがある財産に係る取引も疑わしい取引の届出の対象となりました。 さらに、同条約を実施し、合わせて「40の勧告」が求める本人確認と取引記録の保存の措置を法制化するため、「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(以下「金融機関等本人確認法」という。 )が制定されました(15年1月施行)。 なお、同法は、他人名義や架空名義の預貯金口座等が振り込め詐欺等の犯罪に悪用されることが多いことから、16年12月に改正され、預貯金通帳等の譲受・譲渡やその勧誘・誘引行為等が処罰されることとなりました。 4 犯罪収益移転防止法の施行と改正等 平成15 年 2003年 にFATF が本人確認等の措置を講ずべき事業者の範囲を非金融業者・職業的専門家にも拡大したことなどを踏まえ、16 年12 月、内閣官房長官を本部長とする国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において、「40の勧告」の実施の検討を盛り込む「テロの未然防止に関する行動計画」が決定されました。 17 年11 月には、同推進本部において、警察庁が同勧告を実施するための法律案を作成すること、FIU を金融庁から警察庁に移管すること、業所管行政庁が疑わしい取引の届出等に関する関係業界への指導・監督を行うことが決定されました。 警察庁は、関係省庁と協力して、改正金融機関等本人確認法の全部及び組織的犯罪処罰法の一部を母体とした法律案を策定し、19年2月、第166回国会に提出、同年3月に犯罪収益移転防止法が成立しました。 同法は同年4月、FIUの移管等を内容とする部分が施行され、本人確認等の措置を講ずべきとされる事業者の範囲の拡大等、残余の部分については20年3月から施行されました。 23年4月には、20年(2008年)の第3次FATF対日相互審査での指摘事項に関する議論、国内での振り込め詐欺等の被害状況等を踏まえ、特定事業者の取引時の確認事項の追加、電話転送サービス事業者の特定事業者への追加、取引時確認等を的確に行うための措置の追加、預貯金通帳等の不正譲渡等に係る罰則の強化等を内容とする犯罪収益移転防止法の改正が行われ、25年4月に全面施行されました。 また、我が国は25年(2013年)のロック・アーン・サミットで合意されたG8行動計画原則を踏まえ、資金洗浄・テロ資金対策に係る国のリスク評価を行うこと等を盛り込んだ「法人及び法的取極めの悪用を防止するための日本の行動計画」(以下「日本行動計画」という。 )を定め、同年6月に公表しました。 さらに、26年11月には、上記対日相互審査や同年6月の日本に関するFATF声明において指摘された顧客管理に関するFATF勧告の水準を満たすため、疑わしい取引の判断方法の明確化、コルレス契約締結時の厳格な確認、事業者が行う体制整備等の努力義務の拡充等を内容とする犯罪収益移転防止法の一部改正案を行い、28年10月の同法全面施行をもって、当該指摘事項に対応しました。 28年5月には、27年(2015年)のG7エルマウ・サミット首脳宣言やFATFガイダンスを踏まえ、資金決済法の改正により仮想通貨交換業者に対する登録制等の業規制が導入されるとともに、犯罪収益移転防止法の一部改正により仮想通貨交換業者を特定事業者に追加することなどを含む「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が成立し、29年4月に施行されました。 29年6月には、組織的犯罪処罰法の改正による犯罪収益の前提犯罪の拡大に伴い、犯罪収益移転防止法を改正し、疑わしい取引に関する情報の提供先に、新たに犯罪収益の前提犯罪に追加された犯罪の調査を行う国税庁、国税局及び税務署の当該職員等を追加しました。 また、30年7月には、FATF勧告において、カジノにはマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用される危険性があり、顧客が一定の基準額以上の金融取引に従事する場合には顧客管理措置をとること等が求められていること等を踏まえ、犯罪収益移転防止法の一部改正によりカジノ事業者を特定事業者に追加することなどを含む「特定複合観光施設区域整備法」が成立しました。 警察庁と関係省庁においては、犯罪収益移転防止法等のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関連する法律、その下位法令その他各種規定について、その改正を適時に行うなどして、社会情勢の変化やFATF対日相互審査における指摘に適切に対応しています。 4 マネー・ローンダリング対策等の主要な沿革(年表).
次のマネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為を言います。 このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪及びテロリズムを助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ローンダリングを防止することが重要です。 国際社会は、これまでマネー・ローンダリングを防止して摘発するための制度を工夫し発展させ、連携してこれに対抗し、我が国も、国際社会と歩調を合わせてマネー・ローンダリング対策の強化を図ってきました。 現在のマネー・ローンダリングに関する様々な制度や活動も、こうしたマネー・ローンダリング対策における国際社会との協調と国内での対策の発展の成果と位置付けることができます。 2 国際社会におけるマネー・ローンダリング対策等 1 麻薬対策としてのマネー・ローンダリング対策 1980年代までに、国際社会では麻薬汚染の国際的な広がりが危機感をもって受け止められ、様々な取組が行われていました。 特に、国際的な薬物密売組織による不正取引に関して、組織の資金基盤への打撃、すなわち薬物密造・密売収益の没収やマネー・ローンダリングの取締りが重要であると考えられました。 このため、昭和63年 1988年)12月に採択された麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(以下、「麻薬新条約」という。 )は、薬物犯罪による収益の隠匿等の行為を犯罪化することや、これを剝奪するための制度を構築することを締約国に義務付けました。 平成元年(1989年)7月のアルシュ・サミットで、薬物犯罪に関するマネー・ローンダリング対策における国際協力の強化のため、先進主要国を中心としてFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会 が設立されました。 FATFは、2年(1990年)4月、各国における対策を調和させる必要から、法執行、刑事司法及び金融規制の分野において各国がとるべきマネー・ローンダリング対策の基準として「40の勧告」を策定しました。 「40の勧告」は、麻薬新条約の早期批准やマネー・ローンダリングを取り締まる国内法制の整備、金融機関による顧客の本人確認及び疑わしい取引報告等の措置を求めるものでした。 2 組織犯罪対策としてのマネー・ローンダリング対策 1990年代には、組織犯罪の国際的な広がりが国の安全を脅かす存在として認識され、国連を中心として条約の検討が行われる一方で、平成7年(1995年)6月、ハリファクス・サミットでは、国際的な組織犯罪対策として、薬物取引だけでなく重大犯罪から得られた収益の隠匿を防止する対策も必要であるとされました。 FATFは8年(1996年)6月、「40の勧告」を一部改訂し、前提犯罪(不法な収益を生み出す犯罪であって、その収益がマネー・ローンダリングの対象となるもの)を従来の薬物犯罪から重大犯罪に拡大すべきだとしました。 また、疑わしい取引に関する情報を犯罪捜査に有効活用できるようにするための方策として、10年(1998年)5月、バーミンガム・サミットでは、各国にマネー・ローンダリング情報を一元的に集約し、整理・分析して捜査機関等に提供するFIU(Financial Intelligence Unit:資金情報機関)を設置することが参加国間で合意されました。 FIU相互の情報交換等の場として7年(1995年)に発足したエグモント・グループは、FIUについて「国のマネー・ローンダリング対策を支えるべく、金融機関等からの届出情報を受理・処理し、当局に通知する中央機関であり、法執行機関に重要な情報交換の道筋を提供するものである」と表現しています。 3 テロ資金供与への対応 テロへの対応においては、未然防止が特に重要であり、テロ組織の活動を支える資金供給の遮断と資金供給ルートの解明、国際的な連携が必要なことはマネー・ローンダリング対策と同様であると考えられました。 平成11年(1999年)12月に採択された「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際連合条約(以下「テロ資金供与防止条約」という。 )は、このような考え方に基づき、テロ資金提供・収集行為の犯罪化、テロ資金の没収、金融機関による本人確認・疑わしい取引の届出等の措置を締約国に求めました。 13年(2001年)9月の米国同時多発テロ事件の発生を受けて、FATFは翌10月、臨時会合を開催し、その任務にテロ資金供与対策を含めるとともに、テロ資金供与対策の国際的な標準として、テロ資金供与の犯罪化やテロリストに関わる資産の凍結措置等を内容とする「8の特別勧告(テロ資金に関するFATF特別勧告)」を策定しました。 16年(2004年)には、8の特別勧告に国境を越える資金の物理的移転を防止するための措置に関する項目が追加され、「9の特別勧告」となりました。 4 マネー・ローンダリングの変化への対応 対策の進展に応じ、金融機関以外の業態を利用した隠匿行為などマネー・ローンダリングの傾向にも変化がみられるようになりました。 そこで、FATFは、平成15年(2003年)6月、非金融業者・職業的専門家に対する勧告の適用等を内容とする「40の勧告」の改訂を行いました。 さらに24年(2012年)2月、大量破壊兵器の拡散、公務員による贈収賄や財産の横領等の腐敗等の脅威にも的確に対処することなどを目的として、「40の勧告」と「9の特別勧告」を一本化し、新「40の勧告」に改訂しました。 25年(2013年)6月のロック・アーン・サミットでは、法人等の所有・支配構造の不透明な実態によって、法人等がマネー・ローンダリングや租税回避のために利用されている現状を踏まえ、「法人及び法的取極めの悪用を防止するためのG8行動計画原則」(以下「G8行動計画原則」という。 )が参加国間で合意されました。 また、27年(2015年)6月のG7エルマウ・サミットの首脳宣言では、仮想通貨がテロ資金供与・隠匿に悪用される危険性を踏まえ、仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制の導入を含め、全ての金融の流れの透明性の拡大を確保することが掲げられました。 FATFにおいても、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認や疑わしい取引の届出、記録保存の義務等のマネー・ローンダリング及びテロ供与規制を課すべき旨のガイダンスを同年6月に公表しました。 さらに、30年(2018年)3月及び7月、20か国(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議における声明で、暗号資産がマネー・ローンダリングやテロ資金供与等の問題がある旨提起されたことを受け、FATFは、同年10月、FATF勧告を改訂し、仮想通貨交換業者、仮想通貨管理業者、ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)関連サービス業者には、マネロン・テロ資金供与規制が課されなければならないことを規定しました。 3 我が国のマネー・ローンダリング対策等 1 麻薬特例法の施行等 我が国のマネー・ローンダリング対策は、国際社会の動きに合わせ段階的な進展をみてきました。 まず、平成2年6月に、当時の大蔵省銀行局長名で金融団体に対して、顧客の本人確認実施を要請する旨の通達が発出されました。 次に、麻薬新条約の国内担保法の一つとして、薬物犯罪から得られた収益への対策を主眼に、4年7月に「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「麻薬特例法」という。 )が施行されました。 この法律では、薬物犯罪におけるマネー・ローンダリングが初めて犯罪化されるとともに、「40の勧告」に対応して、金融機関等による薬物犯罪収益に関する疑わしい取引の届出制度が創設されました。 2 組織的犯罪処罰法の施行 マネー・ローンダリングの前提犯罪を薬物犯罪に限定していたことに対し、平成6年(1994年)の第1次FATF対日相互審査でその改善が望まれました。 実際、金融機関等が、疑わしい取引の届出を行うに当たり、それが薬物犯罪に関するものであるかどうか判断することは極めて困難なため届出が活発に行われず、また、届出情報の集約と捜査機関への提供を行う仕組みもなく、疑わしい取引の届出制度は、有効に機能していませんでした。 そこで、我が国では、8年(1996年)の「40の勧告」の一部改訂を踏まえ、12年2月に組織的犯罪処罰法が施行されました。 この法律では、いくつかの点で犯罪収益対策における前進がみられました。 その1点目は、マネー・ローンダリングの前提犯罪を薬物犯罪だけでなく重大犯罪にも拡大したこと、2点目は、疑わしい取引の届出の対象犯罪も同様に拡大したこと、3点目は、我が国のFIUを金融監督庁(後の金融庁)に置くこととし、金融監督庁内に特定金融情報室(Japan Financial Intelligence Office:JAFIO が設立されたことです。 3 テロ資金提供処罰法・金融機関等本人確認法の施行と組織的犯罪処罰法の改正 米国同時多発テロ事件後の動きとしては、テロ資金供与防止条約を締結するため、その国内担保法として、平成14年7月、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」(以下、「テロ資金提供処罰法」という。 )が施行され、テロ資金提供等の行為が犯罪化されました。 同時に組織的犯罪処罰法の一部が改正され、テロ資金提供等の罪が前提犯罪に追加されるとともに、テロ資金そのものが犯罪収益として捉えられるようになったため、テロ資金の疑いがある財産に係る取引も疑わしい取引の届出の対象となりました。 さらに、同条約を実施し、合わせて「40の勧告」が求める本人確認と取引記録の保存の措置を法制化するため、「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(以下「金融機関等本人確認法」という。 )が制定されました(15年1月施行)。 なお、同法は、他人名義や架空名義の預貯金口座等が振り込め詐欺等の犯罪に悪用されることが多いことから、16年12月に改正され、預貯金通帳等の譲受・譲渡やその勧誘・誘引行為等が処罰されることとなりました。 4 犯罪収益移転防止法の施行と改正等 平成15 年 2003年 にFATF が本人確認等の措置を講ずべき事業者の範囲を非金融業者・職業的専門家にも拡大したことなどを踏まえ、16 年12 月、内閣官房長官を本部長とする国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において、「40の勧告」の実施の検討を盛り込む「テロの未然防止に関する行動計画」が決定されました。 17 年11 月には、同推進本部において、警察庁が同勧告を実施するための法律案を作成すること、FIU を金融庁から警察庁に移管すること、業所管行政庁が疑わしい取引の届出等に関する関係業界への指導・監督を行うことが決定されました。 警察庁は、関係省庁と協力して、改正金融機関等本人確認法の全部及び組織的犯罪処罰法の一部を母体とした法律案を策定し、19年2月、第166回国会に提出、同年3月に犯罪収益移転防止法が成立しました。 同法は同年4月、FIUの移管等を内容とする部分が施行され、本人確認等の措置を講ずべきとされる事業者の範囲の拡大等、残余の部分については20年3月から施行されました。 23年4月には、20年(2008年)の第3次FATF対日相互審査での指摘事項に関する議論、国内での振り込め詐欺等の被害状況等を踏まえ、特定事業者の取引時の確認事項の追加、電話転送サービス事業者の特定事業者への追加、取引時確認等を的確に行うための措置の追加、預貯金通帳等の不正譲渡等に係る罰則の強化等を内容とする犯罪収益移転防止法の改正が行われ、25年4月に全面施行されました。 また、我が国は25年(2013年)のロック・アーン・サミットで合意されたG8行動計画原則を踏まえ、資金洗浄・テロ資金対策に係る国のリスク評価を行うこと等を盛り込んだ「法人及び法的取極めの悪用を防止するための日本の行動計画」(以下「日本行動計画」という。 )を定め、同年6月に公表しました。 さらに、26年11月には、上記対日相互審査や同年6月の日本に関するFATF声明において指摘された顧客管理に関するFATF勧告の水準を満たすため、疑わしい取引の判断方法の明確化、コルレス契約締結時の厳格な確認、事業者が行う体制整備等の努力義務の拡充等を内容とする犯罪収益移転防止法の一部改正案を行い、28年10月の同法全面施行をもって、当該指摘事項に対応しました。 28年5月には、27年(2015年)のG7エルマウ・サミット首脳宣言やFATFガイダンスを踏まえ、資金決済法の改正により仮想通貨交換業者に対する登録制等の業規制が導入されるとともに、犯罪収益移転防止法の一部改正により仮想通貨交換業者を特定事業者に追加することなどを含む「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が成立し、29年4月に施行されました。 29年6月には、組織的犯罪処罰法の改正による犯罪収益の前提犯罪の拡大に伴い、犯罪収益移転防止法を改正し、疑わしい取引に関する情報の提供先に、新たに犯罪収益の前提犯罪に追加された犯罪の調査を行う国税庁、国税局及び税務署の当該職員等を追加しました。 また、30年7月には、FATF勧告において、カジノにはマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用される危険性があり、顧客が一定の基準額以上の金融取引に従事する場合には顧客管理措置をとること等が求められていること等を踏まえ、犯罪収益移転防止法の一部改正によりカジノ事業者を特定事業者に追加することなどを含む「特定複合観光施設区域整備法」が成立しました。 警察庁と関係省庁においては、犯罪収益移転防止法等のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関連する法律、その下位法令その他各種規定について、その改正を適時に行うなどして、社会情勢の変化やFATF対日相互審査における指摘に適切に対応しています。 4 マネー・ローンダリング対策等の主要な沿革(年表).
次のマネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為を言います。 このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪及びテロリズムを助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ローンダリングを防止することが重要です。 国際社会は、これまでマネー・ローンダリングを防止して摘発するための制度を工夫し発展させ、連携してこれに対抗し、我が国も、国際社会と歩調を合わせてマネー・ローンダリング対策の強化を図ってきました。 現在のマネー・ローンダリングに関する様々な制度や活動も、こうしたマネー・ローンダリング対策における国際社会との協調と国内での対策の発展の成果と位置付けることができます。 2 国際社会におけるマネー・ローンダリング対策等 1 麻薬対策としてのマネー・ローンダリング対策 1980年代までに、国際社会では麻薬汚染の国際的な広がりが危機感をもって受け止められ、様々な取組が行われていました。 特に、国際的な薬物密売組織による不正取引に関して、組織の資金基盤への打撃、すなわち薬物密造・密売収益の没収やマネー・ローンダリングの取締りが重要であると考えられました。 このため、昭和63年 1988年)12月に採択された麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(以下、「麻薬新条約」という。 )は、薬物犯罪による収益の隠匿等の行為を犯罪化することや、これを剝奪するための制度を構築することを締約国に義務付けました。 平成元年(1989年)7月のアルシュ・サミットで、薬物犯罪に関するマネー・ローンダリング対策における国際協力の強化のため、先進主要国を中心としてFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会 が設立されました。 FATFは、2年(1990年)4月、各国における対策を調和させる必要から、法執行、刑事司法及び金融規制の分野において各国がとるべきマネー・ローンダリング対策の基準として「40の勧告」を策定しました。 「40の勧告」は、麻薬新条約の早期批准やマネー・ローンダリングを取り締まる国内法制の整備、金融機関による顧客の本人確認及び疑わしい取引報告等の措置を求めるものでした。 2 組織犯罪対策としてのマネー・ローンダリング対策 1990年代には、組織犯罪の国際的な広がりが国の安全を脅かす存在として認識され、国連を中心として条約の検討が行われる一方で、平成7年(1995年)6月、ハリファクス・サミットでは、国際的な組織犯罪対策として、薬物取引だけでなく重大犯罪から得られた収益の隠匿を防止する対策も必要であるとされました。 FATFは8年(1996年)6月、「40の勧告」を一部改訂し、前提犯罪(不法な収益を生み出す犯罪であって、その収益がマネー・ローンダリングの対象となるもの)を従来の薬物犯罪から重大犯罪に拡大すべきだとしました。 また、疑わしい取引に関する情報を犯罪捜査に有効活用できるようにするための方策として、10年(1998年)5月、バーミンガム・サミットでは、各国にマネー・ローンダリング情報を一元的に集約し、整理・分析して捜査機関等に提供するFIU(Financial Intelligence Unit:資金情報機関)を設置することが参加国間で合意されました。 FIU相互の情報交換等の場として7年(1995年)に発足したエグモント・グループは、FIUについて「国のマネー・ローンダリング対策を支えるべく、金融機関等からの届出情報を受理・処理し、当局に通知する中央機関であり、法執行機関に重要な情報交換の道筋を提供するものである」と表現しています。 3 テロ資金供与への対応 テロへの対応においては、未然防止が特に重要であり、テロ組織の活動を支える資金供給の遮断と資金供給ルートの解明、国際的な連携が必要なことはマネー・ローンダリング対策と同様であると考えられました。 平成11年(1999年)12月に採択された「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際連合条約(以下「テロ資金供与防止条約」という。 )は、このような考え方に基づき、テロ資金提供・収集行為の犯罪化、テロ資金の没収、金融機関による本人確認・疑わしい取引の届出等の措置を締約国に求めました。 13年(2001年)9月の米国同時多発テロ事件の発生を受けて、FATFは翌10月、臨時会合を開催し、その任務にテロ資金供与対策を含めるとともに、テロ資金供与対策の国際的な標準として、テロ資金供与の犯罪化やテロリストに関わる資産の凍結措置等を内容とする「8の特別勧告(テロ資金に関するFATF特別勧告)」を策定しました。 16年(2004年)には、8の特別勧告に国境を越える資金の物理的移転を防止するための措置に関する項目が追加され、「9の特別勧告」となりました。 4 マネー・ローンダリングの変化への対応 対策の進展に応じ、金融機関以外の業態を利用した隠匿行為などマネー・ローンダリングの傾向にも変化がみられるようになりました。 そこで、FATFは、平成15年(2003年)6月、非金融業者・職業的専門家に対する勧告の適用等を内容とする「40の勧告」の改訂を行いました。 さらに24年(2012年)2月、大量破壊兵器の拡散、公務員による贈収賄や財産の横領等の腐敗等の脅威にも的確に対処することなどを目的として、「40の勧告」と「9の特別勧告」を一本化し、新「40の勧告」に改訂しました。 25年(2013年)6月のロック・アーン・サミットでは、法人等の所有・支配構造の不透明な実態によって、法人等がマネー・ローンダリングや租税回避のために利用されている現状を踏まえ、「法人及び法的取極めの悪用を防止するためのG8行動計画原則」(以下「G8行動計画原則」という。 )が参加国間で合意されました。 また、27年(2015年)6月のG7エルマウ・サミットの首脳宣言では、仮想通貨がテロ資金供与・隠匿に悪用される危険性を踏まえ、仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制の導入を含め、全ての金融の流れの透明性の拡大を確保することが掲げられました。 FATFにおいても、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認や疑わしい取引の届出、記録保存の義務等のマネー・ローンダリング及びテロ供与規制を課すべき旨のガイダンスを同年6月に公表しました。 さらに、30年(2018年)3月及び7月、20か国(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議における声明で、暗号資産がマネー・ローンダリングやテロ資金供与等の問題がある旨提起されたことを受け、FATFは、同年10月、FATF勧告を改訂し、仮想通貨交換業者、仮想通貨管理業者、ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)関連サービス業者には、マネロン・テロ資金供与規制が課されなければならないことを規定しました。 3 我が国のマネー・ローンダリング対策等 1 麻薬特例法の施行等 我が国のマネー・ローンダリング対策は、国際社会の動きに合わせ段階的な進展をみてきました。 まず、平成2年6月に、当時の大蔵省銀行局長名で金融団体に対して、顧客の本人確認実施を要請する旨の通達が発出されました。 次に、麻薬新条約の国内担保法の一つとして、薬物犯罪から得られた収益への対策を主眼に、4年7月に「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「麻薬特例法」という。 )が施行されました。 この法律では、薬物犯罪におけるマネー・ローンダリングが初めて犯罪化されるとともに、「40の勧告」に対応して、金融機関等による薬物犯罪収益に関する疑わしい取引の届出制度が創設されました。 2 組織的犯罪処罰法の施行 マネー・ローンダリングの前提犯罪を薬物犯罪に限定していたことに対し、平成6年(1994年)の第1次FATF対日相互審査でその改善が望まれました。 実際、金融機関等が、疑わしい取引の届出を行うに当たり、それが薬物犯罪に関するものであるかどうか判断することは極めて困難なため届出が活発に行われず、また、届出情報の集約と捜査機関への提供を行う仕組みもなく、疑わしい取引の届出制度は、有効に機能していませんでした。 そこで、我が国では、8年(1996年)の「40の勧告」の一部改訂を踏まえ、12年2月に組織的犯罪処罰法が施行されました。 この法律では、いくつかの点で犯罪収益対策における前進がみられました。 その1点目は、マネー・ローンダリングの前提犯罪を薬物犯罪だけでなく重大犯罪にも拡大したこと、2点目は、疑わしい取引の届出の対象犯罪も同様に拡大したこと、3点目は、我が国のFIUを金融監督庁(後の金融庁)に置くこととし、金融監督庁内に特定金融情報室(Japan Financial Intelligence Office:JAFIO が設立されたことです。 3 テロ資金提供処罰法・金融機関等本人確認法の施行と組織的犯罪処罰法の改正 米国同時多発テロ事件後の動きとしては、テロ資金供与防止条約を締結するため、その国内担保法として、平成14年7月、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」(以下、「テロ資金提供処罰法」という。 )が施行され、テロ資金提供等の行為が犯罪化されました。 同時に組織的犯罪処罰法の一部が改正され、テロ資金提供等の罪が前提犯罪に追加されるとともに、テロ資金そのものが犯罪収益として捉えられるようになったため、テロ資金の疑いがある財産に係る取引も疑わしい取引の届出の対象となりました。 さらに、同条約を実施し、合わせて「40の勧告」が求める本人確認と取引記録の保存の措置を法制化するため、「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(以下「金融機関等本人確認法」という。 )が制定されました(15年1月施行)。 なお、同法は、他人名義や架空名義の預貯金口座等が振り込め詐欺等の犯罪に悪用されることが多いことから、16年12月に改正され、預貯金通帳等の譲受・譲渡やその勧誘・誘引行為等が処罰されることとなりました。 4 犯罪収益移転防止法の施行と改正等 平成15 年 2003年 にFATF が本人確認等の措置を講ずべき事業者の範囲を非金融業者・職業的専門家にも拡大したことなどを踏まえ、16 年12 月、内閣官房長官を本部長とする国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において、「40の勧告」の実施の検討を盛り込む「テロの未然防止に関する行動計画」が決定されました。 17 年11 月には、同推進本部において、警察庁が同勧告を実施するための法律案を作成すること、FIU を金融庁から警察庁に移管すること、業所管行政庁が疑わしい取引の届出等に関する関係業界への指導・監督を行うことが決定されました。 警察庁は、関係省庁と協力して、改正金融機関等本人確認法の全部及び組織的犯罪処罰法の一部を母体とした法律案を策定し、19年2月、第166回国会に提出、同年3月に犯罪収益移転防止法が成立しました。 同法は同年4月、FIUの移管等を内容とする部分が施行され、本人確認等の措置を講ずべきとされる事業者の範囲の拡大等、残余の部分については20年3月から施行されました。 23年4月には、20年(2008年)の第3次FATF対日相互審査での指摘事項に関する議論、国内での振り込め詐欺等の被害状況等を踏まえ、特定事業者の取引時の確認事項の追加、電話転送サービス事業者の特定事業者への追加、取引時確認等を的確に行うための措置の追加、預貯金通帳等の不正譲渡等に係る罰則の強化等を内容とする犯罪収益移転防止法の改正が行われ、25年4月に全面施行されました。 また、我が国は25年(2013年)のロック・アーン・サミットで合意されたG8行動計画原則を踏まえ、資金洗浄・テロ資金対策に係る国のリスク評価を行うこと等を盛り込んだ「法人及び法的取極めの悪用を防止するための日本の行動計画」(以下「日本行動計画」という。 )を定め、同年6月に公表しました。 さらに、26年11月には、上記対日相互審査や同年6月の日本に関するFATF声明において指摘された顧客管理に関するFATF勧告の水準を満たすため、疑わしい取引の判断方法の明確化、コルレス契約締結時の厳格な確認、事業者が行う体制整備等の努力義務の拡充等を内容とする犯罪収益移転防止法の一部改正案を行い、28年10月の同法全面施行をもって、当該指摘事項に対応しました。 28年5月には、27年(2015年)のG7エルマウ・サミット首脳宣言やFATFガイダンスを踏まえ、資金決済法の改正により仮想通貨交換業者に対する登録制等の業規制が導入されるとともに、犯罪収益移転防止法の一部改正により仮想通貨交換業者を特定事業者に追加することなどを含む「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が成立し、29年4月に施行されました。 29年6月には、組織的犯罪処罰法の改正による犯罪収益の前提犯罪の拡大に伴い、犯罪収益移転防止法を改正し、疑わしい取引に関する情報の提供先に、新たに犯罪収益の前提犯罪に追加された犯罪の調査を行う国税庁、国税局及び税務署の当該職員等を追加しました。 また、30年7月には、FATF勧告において、カジノにはマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用される危険性があり、顧客が一定の基準額以上の金融取引に従事する場合には顧客管理措置をとること等が求められていること等を踏まえ、犯罪収益移転防止法の一部改正によりカジノ事業者を特定事業者に追加することなどを含む「特定複合観光施設区域整備法」が成立しました。 警察庁と関係省庁においては、犯罪収益移転防止法等のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関連する法律、その下位法令その他各種規定について、その改正を適時に行うなどして、社会情勢の変化やFATF対日相互審査における指摘に適切に対応しています。 4 マネー・ローンダリング対策等の主要な沿革(年表).
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