net TwitterのDQ10専用アカウントのヲチスレです 話題のハッシュタグ 注目の垢 気になるツイ 要検証 etc. ツイ界隈の事情を語っていってください アスコンスレは別にありますのでそちらへ。 12 ID:EUeBnoYF. 52 ID:vcxFdxsw. 28 ID:UJoooRRR. 61 ID:44UGF5IP. 39 ID:EUeBnoYF. net わざとサクラを慰めてて胡散くせーな 嫌われコロ民すっこんでろカス deleted an unsolicited ad 858 : 名無しさん@お腹いっぱい。 92 ID:DDaaqVIN. net ハナチャンはサクラと関わったから消されたの? 860 : 名無しさん@お腹いっぱい。 94 ID:l3Wqauf9. net 裏で口汚く迷惑料よこせとか喚いてるくらいなんだから、実際レオとトッタンの相方関係の縺れでどれほどの迷惑被ったのかどんな被害に遭ったのか具体的に書けばいいのにな。 861 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net サクラ、被害者と関係者にゴミ箱垢へ誘導するとか逆に怖えーわ。 862 : 名無しさん@お腹いっぱい。 08 ID:iuKk9A7S. net なにこれ、関わってるサクラ側の奴にこのアカウントから発言させるのか? 自分で広げた風呂敷も一人で畳めないのかよ。 収拾つけられなくなったら他人に丸投げてどんだけ無責任だよ。 864 : 名無しさん@お腹いっぱい。 22 ID:w1POHhwc. net 始めて2〜3年の後発奴がキャラメイク人と被ってたからって パクリとか裏で文句言ってたのは凄いなドレア勢はバカなのだろうかキャラメイクなんて大体被るだろ 867 : 名無しさん@お腹いっぱい。 47 ID:qmxklgud. 46 ID:rdL4iM97. 82 ID:x0hUZyiv. net いくらごめんなさい、もうしませんと言われても信じられないよ。 二面性のある信用できない人だって知ってしまったから。 豆レオって人も大概だけど、サクラさんがまさかこんな人だと思わなかった。 870 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net サクラは結果的に自ら騒動拡張したよな 表は沈黙貫いて裏で収拾つけりゃ良かったのにわざわざ自分から広げてんじゃん そもそもここを見過ぎてて影響されすぎなんだよ 何で悪口言い放題の掲示板を興味無い人間にまで告知してんだよww 871 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net サクラさんのTwitterからここにきました このゲーム怖すぎます。 アップデートでみんな盛り上がっていたところなのに 続けたくないです。 裏面が怖すぎて無理です。 89 ID:w1POHhwc. net この調子だとドレアイベだけでなくプレイべ自体怖くて行けないって人がもっと出てくるな。 そりゃそうだ主催者が参加者を影で馬鹿にしてんだもの。 43 ID:647u8gAP. 05 ID:zdDqU8EW. net 今日のハイライト みみの「全力でサクラ守るわ」に草wwwww ハイハイ。 92 ID:OGJ0LruW. net 相方関係の縺れで迷惑かけられたから金払えっていう発想がまずおかしいだろ 879 : 名無しさん@お腹いっぱい。 58 ID:TilD5qEw. net エルおじここ見てない?まとめまだ?w 880 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net 低知能で普段から汚い言葉を使ってる馬鹿が 慣れない事をするとこうなるんだよ ところでメイアはこんな奴をティアフェスに招待する気なの? きゅるるみたいに出禁にしろよな せっかく最近プレイベ行き始めたフレが 裏で何か言われてそうだから行かないと言ってるんだけど 881 : 名無しさん@お腹いっぱい。 01 ID:ebuhScmv. 60 ID:a1IluKHx. net 陰で悪く言って表面上は仲良くするって女ならよくやることだろうによw 885 : 名無しさん@お腹いっぱい。 20 ID:HJqcqgJM. net 小物すぎてエルおじもスルーか 886 : 名無しさん@お腹いっぱい。 22 ID:lowCjaMO. net ツルギ様のASMRて動画あるな。 なんかブログにも出てたけど優勝者に 常闇3種ぬいぐるみセットに 添寝付きだったらしく添寝敢行してた もう隠す気もない見抜き性癖ダダ漏れマンなのか。 887 : 名無しさん@お腹いっぱい。 48 ID:lowCjaMO. net キャラメイク言うならリアルでオシャレしろよ。 こんだけいしきたかいこというくせに 安物をオシャレに着こなすのがとか いいわけにし、やすものこうていにかこつけて しまむらユニクロ着るんだよな。 靴下やエアリズムとか部分的には使えるがな。 ハイネックニットとか。 そんなのだってリアルでもガンガンかぶるってのに。 こんなパターン乏しいアバターで何を抜かすか。 net ツルギは元きゅるるの仲間だったし見抜き好きなのは納得っちゃ納得 こんなのにdisられた奴らが気の毒だわ元気出せよ 889 : 名無しさん@お腹いっぱい。 31 ID:so0RAmDS. net 2,726人もフォロワーいる割に謝罪ツイートにいいね25人とか、他の謝罪ツイートも3人とか…普段からこうなんか…。 桁すら足りない反応にドン引き。 2,721人にとっては無視された存在になってる事が思わず露呈しちゃったのは惨めなもんだ。 45 ID:FYs1ueTM. net 魚サクラは大分前からミユートしてるわ 891 : 名無しさん@お腹いっぱい。 72 ID:f9Nu9L2h. 47 ID:omRZwjBP. net 謝罪 のせいで、晒されるはめになった、ツルギ 893 : 名無しさん@お腹いっぱい。 24 ID:f9Nu9L2h. 16 ID:W9kuGclu. net この期に及んで検索避けしてんの?全然反省してねーなコイツ 896 : 名無しさん@お腹いっぱい。 84 ID:jGNtraFq. net ウズラーコがこの件に関してコメントしてるけどイベント主催してる人間全員敵に回しそうな発言だな。 もちろんサクラの影響だがウズラーコはウズラーコで配慮足りねえ発言内容だわ。 70 ID:1dLsaJpa. 63 ID:juA1yCvM. 42 ID:AaSmadrI. net ここでレオが晒し始めたからなのは分かるけどまあ… 900 : 名無しさん@お腹いっぱい。 02 ID:P6C3ekwp. net 新規が行きにくくなるっていうのは共感できるな でもイベ勢えらいとか思ってこともないぞ なにはともあれ、サクラが及ぼした影響ははかり知れない 901 : 名無しさん@お腹いっぱい。 83 ID:P6C3ekwp. net 桜ルム・DDルムで悪口書いてたって事は そのに入っている奴らみな共犯なのか? よくわからないが、メンバーだれだ? 902 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net その他にサクラの囲いのルムがあったがそこにレオやみみもいて悪口のオンパレード。 全力で守るって言ってるみみの事も別でサクラはみみの悪口言ってたからな。 居場所ないだろもう。 903 : 名無しさん@お腹いっぱい。 94 ID:so0RAmDS. net サクラの終わらせたい発言は、ゴミ垢ごと始末して自分のタイムラインから汚物消毒したかったってことかな? 掲示板の広告PRがウシジマくんなのは多分偶然だろうけど空気読んでるとしか 904 : 名無しさん@お腹いっぱい。 13 ID:Emsa7rhI. 92 ID:TH8rEkvT. net サクラの件で無関係なやつが口出してきたな 無言を貫くのが一番なのに、あんま調子に乗って発言すると飛び火するのをわかってないんだろうか 906 : 名無しさん@お腹いっぱい。 04 ID:AhaPqAQr. net 匿名で調子こいてるおまえよりずっとマシ 907 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net 1番言いたいのはめぐやミィだろうに。 だれかフォローしてあげてるの?サクラ本当に直接謝罪したの? 908 : 名無しさん@お腹いっぱい。 55 ID:qTx764vX. net 今回の事、当事者両方よく知らないけどめぐは無言貫いてそうで好感もてたな。 サクラは謝罪といいながら晒した奴の文句言ったり、全然反省してなさそうなのがすごいと思ったw 909 : 名無しさん@お腹いっぱい。 27 ID:aChVWcsN. net ほんとこれ アストルティアは暇な主婦が多いんだから こんなこと日常茶飯事かと思ってたわ 表ニコニコなやつほど、 腹黒いもんだろ 910 : 名無しさん@お腹いっぱい。 96 ID:zVopurEH. net 豆レオも私の悪口に同調してるからノーカウント!ノーカウントおおー!ノーカンノーカン 911 : 名無しさん@お腹いっぱい。 02 ID:jxkWHWSY. 36 ID:rCkzsM0m. net 自分一切関係ないのにここぞとばかりに便乗していくウズラーコがうぜぇ deleted an unsolicited ad 913 : 名無しさん@お腹いっぱい。 82 ID:6TA6UFfm. net そういうのは表沙汰にならないからまかり通ってるわけで ましてや今回はどこぞの知らない女じゃなくてドレアイベントの主催者が他人のドレアを貶してたのが発覚したからここまで大事になったんだろう 914 : 名無しさん@お腹いっぱい。 04 ID:avyNAawT. net 匿名だから卑怯とか訳の分からない事言って被害者ぶってるけど、お前もただのゲームのキャラクターだろ 915 : 名無しさん@お腹いっぱい。 73 ID:4e4PZ1hc. net DDルム?のりんって奴もサクラと同等かそれ以上に性格悪いのにな、普段のツイートからして 916 : 名無しさん@お腹いっぱい。 92 ID:i5AnCis6. net ここぞとばかりにウズラーコ叩くお前もなw 917 : 名無しさん@お腹いっぱい。 60 ID:jGNtraFq. net いやウズラーコもサクラみたいに何にでも首突っ込んで目立ちたがる害虫ではある。 918 : 名無しさん@お腹いっぱい。 37 ID:fTjgk2zf. 71 ID:rCkzsM0m. 74 ID:MoRQcER8. net 部外者だからツイートするなって方が違和感あるけどな。 ウズラーコ以外の外野の呟きは叩かないのか? 921 : 名無しさん@お腹いっぱい。 03 ID:AhaPqAQr. 13 ID:judMdxyF. 39 ID:BNCh8nqG. 88 ID:FYs1ueTM. net 次スレはワッチョイありでサクラはテンプレ入りかな 925 : 名無しさん@お腹いっぱい。 36 ID:jGNtraFq. 74 ID:rCkzsM0m. 77 ID:MoRQcER8. net とりあえず叩きたいだけの私怨か。 困ったら本人認定しかできないやつはつまんな 928 : 名無しさん@お腹いっぱい。 10 ID:rCkzsM0m. net ウズラーコのウザさは前々からちょくちょく言われてるのに私怨扱いかw ワッチョイもないスレで明確な擁護理由もないまま擁護する奴なんて 本人か身内乙認定されても仕方ないってわからんのかね? 930 : 名無しさん@お腹いっぱい。 93 ID:HJqcqgJM. net お前もいい加減しつこい 監視厨乙 エルおじまだ?これに関してはスルーするつもりか?まとめが読みたいw 931 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net エルおじ、このスレのまとめってやってなくね? どこでもいいから分かりやすくまとめてほしいわ 932 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net サクラ、レオ、みみ、ハナちゃん こいつら、参加者無視するゴミ。 10 ID:rCkzsM0m. net なら勝手にNGでも入れてろボケ エルおじにまとめてほしけりゃ自分で情報まとめてDMでも送れよ能無し クズラーコ(ウズラーコ)の身内はゴミカスばかりだなぁ? ちゃんと検索にのるようにしといてやるからなwwwww 934 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net あとここでウズラーコを執拗に叩いているのはキューコンだろw 935 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net サクラが叩かれるのは納得。 だけどトッタンとレオも同様だと思う。 女のいざこざや陰口は嫌だし醜いが、男のレオが情けなさすぎる。 いさぎよくないし男の器なさすぎる。 いろいろ意見あるだろうが、レオが1番情けない人間。 936 : 名無しさん@お腹いっぱい。 04 ID:HJqcqgJM. net あんまり理解追いついてないけど、魚サクラってやつが陰口叩いたり反省してないってのはわかった。 939 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net ドワオでネタしたり、豆? ダサい魚音だよ。 イケメンや人気魚男を無視するクズ 940 : 名無しさん@お腹いっぱい。 46 ID:rCkzsM0m. 75 ID:AaSmadrI. 71 ID:fztu4pvb. net これは別に間違ったこと言ってないだろ 944 : 名無しさん@お腹いっぱい。 87 ID:1dLsaJpa. 57 ID:kCWG5gSH. net 「一緒くたにされたら困る」っても どのイベンター がどう違うのかなんて外部からはわからんしな。 特にドレアイベなんて「うちは違う!」と声張り上げてももうそういう目で見られるんじゃない? 946 : 名無しさん@お腹いっぱい。 net 20日の魚子フレーム撮影会?だかにサクラがセクシー枠だかで 出るとか言ってた気がしたけども・・・ この騒ぎの中、出るんだろうか 一緒になるメンバーも叩かれなきゃいいが ていうか、出るのだとしたらどんだけ顔の面厚いんだって話だよなw 947 : 名無しさん@お腹いっぱい。 41 ID:1dLsaJpa. 97 ID:N52N4hW4. 62 ID:Gs0S1zhD. 41 ID:jsiX2wiS. net プレイベの影口なんて今に始まった事じゃねーよ、ほとんどの主催はスタッフ間で参加プレイヤーの影口を叩いてるからな サクラは氷山の一角よ 951 : 名無しさん@お腹いっぱい。 74 ID:cDBC7yNn. 69 ID:rCkzsM0m. net カエルとふなさかの二大クズも反応してたよなぁw カエルはウズラーコに喧嘩売ってんなこれw ふなさかwwww deleted an unsolicited ad 総レス数 1008 262 KB.
次の2020. 29 いつも乃木坂46への応援、誠にありがとうございます。 新型コロナウイルス感染拡大防止に伴い、今後の乃木坂46握手会に関しまして、皆さまにお知らせがございます。 25thシングル「しあわせの保護色」の発売を記念した握手会に関しまして、政府からの「緊急事態宣言」が解除... 2020. 29 生田絵梨花がシアタークリエ発の新プロジェクト「TOHO MUSICAL LAB. 」に出演決定いたしました! 東宝演劇再開の第一弾は、新作オリジナル・ミュージカル2本立てプロジェクト。 コロナ禍で休演を余儀なくされた劇場「シアタークリエ」を「LAB. 」(実験室)に... 2020. 29 次回の乃木坂工事中は... 全メンバーからのアンケートをもとに 作成したイメージランキング後半戦! 意外なランキング結果に狂喜乱舞!? メンバーの知られざる一面が明らかに! -------------------------------------------... 2020. 25 「麗しのレイランド様~コンビニ編~」 とあるコンビニエンスストア。 レジ前に早川聖来と筒井あやめが並んでいるが、なぜか店員が出てこない... すると突然、照明が落ちムーディーな音楽の中、店員のレイランド(清宮レイ)が登場! 会計をはじめるレイランドだが、早川... 2020. 23 サンヨー食品スペシャルムービー企画「そのとき、カップスター」が配信されています。 第1弾の齋藤飛鳥に続き、2021年3月まで、様々なメンバーが様々なシーンに登場! 第2弾は遠藤さくらが出演する『ひとりの時間と、カップスター』。 6秒バージョンと15秒バージョンが... 2020. 22 次回の乃木坂工事中は... 日村なんでも廃品回収2020!後半戦! さらにメンバー内の意外な評価を ランキング形式で大発表! イメージと素顔のギャップに バナナマンも驚愕! -------------------------------------------... 2020. 21 本日 2020年6月21日 金 より乃木坂46 定額制動画サービス のぎ動画がOPEN! いつもどこでも、乃木坂46があなたのそばに。
次の三月二十日 月曜日 むかし、あるところに、ひとりの少年がいました。 年は十四ぐらいで、からだは大きくアマ色の 髪 ( かみ )の毛をしていました。 この子は、たいして役にもたちませんでした。 眠 ( ねむ )っては、たべるのがいちばんの 楽 ( たの )しみで、おまけに、いたずらをするのが大すきという子だったのです。 ある 日曜日 ( にちようび )の朝のこと、おとうさんとおかあさんは、 教会 ( きょうかい )へいくしたくをしていました。 少年はシャツ一 枚 ( まい )になって、テーブルのふちに 腰 ( こし )をかけ、こいつはしめた、おとうさんとおかあさんがいってしまえば、二時間ばかりはすきなことがしていられるぞ、と思いました。 そこで、「よし、おとうさんの 鉄砲 ( てっぽう )をおろして、打ってやれ。 だれにもおこられやしないからな。 」と、ひとりごとを言いました。 けれども、おとうさんは、まるで子どもの考えていることを見ぬきでもしたようでした。 だって、そうでしょう。 おとうさんは出かけようとして、しきいをまたごうとしたとき、急に立ちどまったかとおもうと、子どものほうを 振 ( ふ )りかえって、こう言ったのです。 「おまえがおかあさんやおとうさんといっしょに教会へいきたくないのなら、 家 ( うち )にいてもいいが、せめてお 説教 ( せっきょう )だけは読んでおきなさい。 おまえにその約束ができるかね?」 「はい、できます。 」と、少年は答えました。 でも、もちろん、おなかの中では、読みたいだけしか読んでやるもんか、と思っていました。 少年は、おかあさんがこんなにすばしこく何かするのを、いままでに一ども見たことがありません。 おかあさんはたちまち 本棚 ( ほんだな )のところへいって、ルーテルの 説教集 ( せっきょうしゅう )をおろし、その日のお説教のところを 開 ( ひら )いて、 窓 ( まど )ぎわのテーブルの上におきました。 それから、 聖書 ( せいしょ )を開いて、これも説教集のそばにおきました。 さいごに、おかあさんは大きなひじかけイスをテーブルのそばに引きよせました。 このイスは、去年、ヴェンメンヘーイの 牧師館 ( ぼくしかん )であった 競売 ( きょうばい )のときに買ってきたものでした。 そして、いつもは、おとうさんのほかは、だれも 腰 ( こし )かけてはいけないことになっていました。 おかあさんは、よけいな 世話 ( せわ )をやきすぎる、と少年は心の中で思っていました。 なぜって、少年としては、一ページか二ページぐらいしか読むつもりはなかったのですから。 けれども、またしても、おとうさんは少年の心の中を見すかしたようでした。 おとうさんは少年のそばへやってきて、きびしい 調子 ( ちょうし )でこう言いました。 「よく気をつけて、ちゃんと読むんだぞ。 おれたちが帰ってきたら、一ページ 残 ( のこ )らずきくからな。 もしちょっとでも 飛 ( と )ばしていたら 承知 ( しょうち )しないぞ。 」 「お説教は十四ページ半あるのよ。 」おかあさんは、まるで、はっきりさせておこうとでもいうように、こう言いました。 「読んでしまおうと思うんなら、すぐにはじめなくちゃだめよ。 」 こう言いのこして、おとうさんとおかあさんは出ていきました。 少年は戸口に立って、あとを見送りながら、きょうは、とうとうつかまっちまった、と、あきらめました。 「おとうさんとおかあさんは、 るすの間じゅう、ぼくがお説教を読んでいなければならないようにうまくしむけて、うれしがっているんだ。 」 ところが、おとうさんとおかあさんにしてみれば、うれしがっているどころではありません。 心から 悲 ( かな )しんでいるのでした。 ふたりは 貧 ( まず )しい 百姓 ( ひゃくしょう )でした。 持っている土地といえば、わずかに庭ぐらいの大きさのものでした。 ふたりがここへ 移 ( うつ )ってきたときには、ブタを一 頭 ( とう )とニワトリを二 羽 ( わ ) 飼 ( か )っているだけでした。 しかし、ふたりともふつうの人以上によく 働 ( はたら )く 勤勉 ( きんべん )な人たちでしたから、いまでは牛やガチョウも飼えるようになりました。 暮 ( く )らしむきもたいへんよくなっていました。 ですから、子どものことさえ気にかからなかったら、こんなすばらしい朝には、はればれとした、みちたりた気もちで、教会へもいけたことでしょう。 おとうさんは、少年が、ぶしょうで、なまけもので、学校へいっても何一つ 勉強 ( べんきょう )しようともしないし、ガチョウの 番 ( ばん )がどうにかこうにかつとまるといったあんばいの、のらくら者であることを、しょっちゅうこぼしていました。 おかあさんは、そのことにたいしては、べつに反対はしませんでした。 けれども、少年がらんぼうで、 意地 ( いじ )が 悪 ( わる )く、生き物にたいしては ざんこくで、人びとにたいしてはよくないことばかりするので、それを何よりも心配していました。 「ああ、どうか 神 ( かみ )さまがあの子のいじわるなところをなくして、心を入れかえてくださいますように!」と、おかあさんはため 息 ( いき )をついて言うのでした。 「さもないと、いつかは、あの子もあたしたちも、ふしあわせになってしまいます。 」 少年は、お説教を読んだものかどうかと、長い間じっと考えこんでいました。 でも、けっきょく、いまは言いつけに 従 ( したが )うのがいちばんだと思いました。 そこで、 牧師館 ( ぼくしかん )のひじかけイスに 腰 ( こし )をおろして、読みはじめました。 けれども、低い声でしばらくブツブツ言っているうちに、 眠 ( ねむ )たくなってきて、まもなくコックリコックリしはじめました。 外はすばらしいお天気でした。 まだ三月二十日になったばかりですが、少年の住んでいる村は、 南部 ( なんぶ )スコーネのずっと南の、西ヴェンメンヘーイにありました。 そこにはもう春の 香 ( かお )りがみちみちていたのです。 木々はまだ 緑 ( みどり )になってはいませんが、いたるところに新しい 芽 ( め )がもえでています。 堀 ( ほり )という堀には水がいっぱいで、堀ばたにはフキの花がひらき、 石壁 ( いしかべ )の上に 生 ( は )えている草の 茂 ( しげ )みは、つやつやとして 褐色 ( かっしょく )になっています。 はるかかなたのブナの森は、みるみるうちに大きくふくらんでいくように見えます。 空は高く、青くすんで、頭の上にひろがっています。 家の戸がすこし 開 ( あ )いているので、部屋の中でもヒバリのさえずる声が聞こえます。 ニワトリとガチョウたちは庭をあるきまわっていました。 牛は、春のけはいが牛小屋の中にまではいってきたのを感じて、ときどきモウ、モウと 鳴 ( な )きました。 少年は読んだり、コックリコックリしたり、 眠 ( ねむ )るまいとがんばったりしました。 「眠っちゃだめだ。 」と、少年は思いました。 「眠ったら、午前中にお 説教 ( せっきょう )は読みきれっこないぞ。 」 けれども、とうとう、ねこんでしまいました。 どのくらい眠ったのか、じぶんでもわかりませんでしたが、うしろのほうで、なにか 低 ( ひく )い物音がするので、少年は、はっと目をさましました。 少年のまん前の 窓台 ( まどだい )の上には、小さな鏡が一つおいてあります。 その 鏡 ( かがみ )には、 部屋 ( へや )じゅうのものが、ほとんどぜんぶ 映 ( うつ )って見えました。 少年は頭をあげたとき、なにげなくこの鏡をながめました。 すると、おかあさんの 長持 ( ながもち )のふたが 開 ( あ )けっぱなしになっているではありませんか。 おかあさんは、 鉄 ( てつ )の 金具 ( かなぐ )のついた、カシワの木でできている、大きな 重 ( おも )たい長持を持っていたのですが、これはおかあさんのほかは、だれも開けてはいけないことになっていました。 おかあさんは、その中に、じぶんのおかあさんからゆずられたものや、とくべつたいせつなものを一つのこらずしまっていたのです。 それから、 のりをつけて洗ったまっ白な 頭巾 ( ずきん )や、 重 ( おも )たい 銀 ( ぎん )の 装身具 ( そうしんぐ )や、くさりなどもはいっていました。 いまでは、こんなものを身につけようとする人はありません。 おかあさんは、売ってしまおうかと思ったこともたびたびありましたが、思いきってそうする気にもなれませんでした。 ところで、少年は、長持のふたが 開 ( あ )いているのを、いま 鏡 ( かがみ )の中にはっきりと見ました。 どうしたというのでしょう。 さっぱりわけがわかりません。 だって、おかあさんは出かけるまえに、ふたをちゃんと 閉 ( し )めていったのです。 だいいち、少年がひとりっきりで るすをしているときに、長持を開けっぱなしにしておくようなことをするはずはありません。 少年はまったくきみが 悪 ( わる )くなってきました。 どろぼうが 忍 ( しの )びこんできたのかもしれない……そう思うと、こわくなって、 身動 ( みうご )きすることもできず、じっと 腰 ( こし )かけたまま、 鏡 ( かがみ )の中を見つめていました。 こうして、そこに腰かけて、どろぼうが 姿 ( すがた )をあらわすのを、いまかいまかと待っていました。 そのうちに、長持のふちに 黒 ( くろ )い 影 ( かげ )がさしているのを見つけました。 おや、あれはなんだろう? よくよくながめてみましたが、どうしてもじぶんの目のせいとしか思えません。 けれども、さいしょは影のように見えたものが、だんだんはっきりしてきますと、それは影ではなく、ほんとうの 生 ( い )き物であることがわかりました。 しかもまあ、なんということでしょう、それは、 小人 ( こびと )ではありませんか。 その小人がいま、長持のふちにまたがっているのです。 少年はいままで小人のことを話には聞いていましたが、こんなにちっぽけなものだとは 夢 ( ゆめ )にも思ったことがありませんでした。 いまそこの長持のふちに腰かけている小人は、 せいはやっと十センチかそこらです。 そいつは年とった、しわだらけの 顔 ( かお )をしていて、ひげはありません。 すその長い黒の 上着 ( うわぎ )をきこんで、半ズボンをはき、つばの広い黒い 帽子 ( ぼうし )をかぶっています。 なかなか いきで、スマートです。 えりや、そで口には白いレースをつけ、 締金 ( しめがね )でとめた 靴 ( くつ )をはき、靴下どめにはチョウ型リボンがむすんであります。 ちょうどいま、小人は長持の中から 縫取 ( ぬいとり )のしてある 胸着 ( むなぎ )を取りだして、感心した顔つきでその 古風 ( こふう )なつくりかたを 眺 ( なが )めています。 それで、少年が目をさましているのには、すこしも気がついていません。 少年は、小人を見たときには、すっかりびっくりしてしまいましたが、べつにこわくはありませんでした。 そうでしょう。 こんなちっぽけなものを、こわがるわけはありませんもの。 それに、小人は 珍 ( めず )らしい胸着を見るのに 夢中 ( むちゅう )になっていて、ほかのことは耳にも目にもはいらないようすです。 そこで、さっそく、少年は、よし、あいつを長持の中におしこめて、ふたをするとかなんとか、ひとつからかってやれ、という気になりました。 でも、さすがに、小人にさわる気にはなれません。 それで、何か小人をたたくものがないかと、 部屋 ( へや )の中を見まわしました。 まず、長イスからテーブルへ、テーブルから だんろへと目を走らせました。 そして、 だんろのそばの 棚 ( たな )の上にのっている 鍋 ( なべ )やコーヒーわかしや、戸口にある 水桶 ( みずおけ )や、はんぶん 開 ( あ )いている戸棚の中に見えるさじやナイフやフォークや 鉢 ( はち )やお 皿 ( さら )まで眺めわたしました。 つづいて、おとうさんの 鉄砲 ( てっぽう )を見あげました。 これは、 壁 ( かべ )にかかっているデンマークの国王と 皇后 ( こうごう )の 肖像画 ( しょうぞうが )のそばにかけてありました。 それから、 窓台 ( まどだい )のところに 咲 ( さ )いているテンジクアオイやフクシャを 眺 ( なが )めました。 こうして、いちばんおしまいに、窓の 横木 ( よこぎ )にかけてある古い虫とり 網 ( あみ )に目をとめました。 この虫とり網を見るが早いか、少年は 跳 ( は )ねおきて、それをひっつかむと、長持のふたをさっとすくいました。 と、どうでしょう。 まったく、うまいものです。 じぶんでもびっくりしてしまったくらいです。 どうしてこんなにうまくいったのか、いっこうにわかりません。 でも、ともかく、小人はこうして、 生 ( い )けどってしまったのです。 かわいそうに、小人は長い 網 ( あみ )の底のほうに、さかさまになってころがっています。 これでは、とうてい 逃 ( に )げられっこありません。 さて、少年は、つかまえてはみましたが、さいしょのうちは、この小人をどうしたらいいのか、 見当 ( けんとう )がつきませんでした。 ただ、小人が 這 ( は )いあがってくることができないように、ひっきりなしに網をゆり動かしていました。 そのうちに、小人が口をきいて、どうか 許 ( ゆる )してください、といくたびもいくたびも 頼 ( たの )みました。 そして、じぶんはこの 家 ( うち )のために、長い間ずいぶんいいことをしてきたのだから、もうすこし、よくしてくれたっていいはずだ、もし、少年がじぶんを許してくれるなら、古いお 金 ( かね )を一 枚 ( まい )と、 銀 ( ぎん )のさじを一本と、それに 金貨 ( きんか )も一枚あげよう、その金貨といったら、少年の父親の 銀時計 ( ぎんどけい )の 側 ( かわ )っくらいもある大きなものだと、言いました。 小人の申し出たお 金 ( かね )は、それほどたいしたものとは思いませんでしたが、少年は小人をつかまえてからというもの、なんとなくこわくなっていました。 つまり、この世のものではない、きみのわるい、何かふしぎなものとかかりあいになったのを感じていたのです。 ですから、小人を逃がしてやることは、じつをいえば、うれしくてたまらなかったのです。 こういうわけで、少年はすぐさまその 申 ( もう )し 出 ( いで )を 承知 ( しょうち )しました。 そして、小人が 這 ( は )いだせるように、網をゆり動かすのをやめました。 けれど、小人が網から出かかったとき、少年は、ふと、逃がしてやるかわりに、もっといろんなものがもらえるように、きめておけばよかった、と、思いつきました。 まあ、せいぜい、小人が 魔法 ( まほう )でもって、あのお 説教 ( せっきょう )をおぼえさせてくれることくらいは、取りきめておくべきでした。 「ただ 逃 ( に )がしてやるなんて、なんてぼくはバカなんだ。 」と、少年は思いました。 そこで、 小人 ( こびと )がもう一ど 網 ( あみ )の 底 ( そこ )へころがり落ちるように、またまた網をゆすりはじめました。 ところが、少年が網をゆすりはじめたとたん、ほっぺたをいやっというほどなぐりつけられました。 まるで、頭がメチャメチャになってしまったのではないかと思われました。 そして、一ぽうの 壁 ( かべ )にたたきつけられたかと思うと、こんどはもう一ぽうの壁にぶっつかり、しまいには 床 ( ゆか )の上にぶったおれて、そのまま気を 失 ( うしな )ってしまいました。 気がついたときには、 家 ( うち )の中にひとりっきりでした。 もう小人の 姿 ( すがた )はどこにも見えません。 長持 ( ながもち )のふたはちゃんとしまっています。 虫とり 網 ( あみ )も 窓 ( まど )ぎわのいつものところにかかっています。 ですから、さっきなぐられた右のほっぺたがヒリヒリしなかったら、少年はたぶん、みんな 夢 ( ゆめ )だったんだと、思ったことでしょう。 「こんなことを話したって、おとうさんやおかあさんは、そりゃ夢さ、と言うだろうな。 」と、少年は思いました。 「小人が来たからって、お説教をかんべんなんかしてくれっこない。 いそいで読むよりほかないや。 」 ところが、テーブルのほうへいこうとしますと、なんだかいつもとようすがちがっています。 でも、 部屋 ( へや )が大きくなるなんてはずはありません。 それなら、テーブルのところへいくのに、いつもよりずっとよけいに歩かなければならないというのは、いったいどうしたわけでしょう? それに、イスだってまた、どうしたというのでしょう? まえよりも大きくなったはずなどありませんが、少年が 腰 ( こし )かけようとするには、いったんイスの足のあいだの 横木 ( よこぎ )にのぼって、それからすわるところによじのぼらなければなりません。 テーブルにしたって、すっかり同じことです。 テーブルの上を見ようとすれば、イスのひじかけの上にのぼらなければならないのです。 「いったい、どうしたっていうんだ?」と、少年は言いました。 「そうだ、きっと小人が、ひじかけイスにも、テーブルにも、そればかりか、 部屋 ( へや )じゅうに 魔法 ( まほう )をかけたんだな。 」 説教集 ( せっきょうしゅう )はテーブルの上にありました。 見たところ、 変 ( か )わったようすはありません。 でもやっぱり、ちょっと へんなところがあるようです。 なぜって、少年は本の上にのぼらなければ、一字も読むことができないのです。 少年は二、三行読むと、なにげなく 顔 ( かお )をあげました。 すると、ちょうど 鏡 ( かがみ )に目がとまり、とたんに、大声でさけびました。 「やあ、あそこにまた、べつのやつがいるぞ!」 そのとおりです。 少年は鏡の中に、とんがり 帽子 ( ぼうし )をかぶり、 革 ( かわ )ズボンをはいたちっぽけな小人をはっきりと見たのです。 「あいつは、ぼくとまるっきり、おんなじかっこうをしているな。 」少年はこう言いながら、びっくりして手をたたきました。 と、どうでしょう、鏡の中の小人も同じように手をたたくではありませんか。 そこで少年は、 髪 ( かみ )の毛をひっぱったり、 腕 ( うで )をつねったり、ぐるっとまわったりして見ました。 すると、鏡の中の小人も、すぐそのとおりにするのです。 それから少年は、鏡のまわりを二、三どかけまわりました。 ひょっとしたら、鏡のうしろにちっぽけな者でもかくれていやしないかと思ったのです。 けれども、鏡のうしろにはだれもいません。 こうなると、少年はこわくなって、からだじゅうがブルブルふるえてきました。 そのはずです。 じぶんは小人に 魔法 ( まほう )をかけられたということが、いまはじめてわかったのですもの。 鏡の中に見えたちっぽけな小人は、まちがいようもなく、少年じしんの姿だったのです。 少年は、自分が 小人 ( こびと )になってしまったとは、どうしても信じることができませんでした。 「こいつはきっと 夢 ( ゆめ )なんだ、気の 迷 ( まよ )いなんだ。 ちょっと待ってりゃ、すぐまたもとの人間になれるだろうさ。 」こう思いながら、 鏡 ( かがみ )の前に立って、目をつぶりました。 そして、こんなバカバカしいことが 消 ( き )えてなくなってしまえばいいと 願 ( ねが )いながら、二、三分して目をあけました。 ところが、なんの 変 ( か )わりもありません。 やっぱりまえと同じようにちっぽけなままの姿です。 白っぽいアマ色の 髪 ( かみ )の毛、 鼻 ( はな )の上の そばかす、 革 ( かわ )ズボンにあてた つぎ、 靴下 ( くつした )の 穴 ( あな )、なにもかもが、もとのとおりです。 そしてただ、からだだけが、ひどくちっぽけになっているのです。 いや、こうやって立って待っていたところで、どうにもなりゃしない。 なんとかしなくちゃだめだ。 そうだ、いちばんいいのは、小人をさがしだして、 仲 ( なか )なおりをすることだろう。 こう思うと、少年は 床 ( ゆか )にとびおりて、さっそく、さがしはじめました。 イスや 戸棚 ( とだな )のうしろから、長イスの下や だんろのうしろまでさがしました。 そのうえ、ネズミの 穴 ( あな )にまで 這 ( は )いこんでみましたが、小人の姿はどこにも見あたりません。 少年はさがしながらも、泣いたり、 祈 ( いの )ったり、思いつくはしからさまざまのことを 誓 ( ちか )ったりしました。 これからは、けっして約束をやぶったりしません。 いじわるもしません。 お 説教 ( せっきょう )のときにいねむりもしません。 もう一ど人間の姿になれさえしたら、きっと、おとなしい、りっぱな、いい子になります……けれども、いくら誓ってみたところで、なんの役にもたちませんでした。 小人はよく牛小屋に 住 ( す )んでいると、いつだったか、おかあさんが言っていたのを、少年はふっと思いだしました。 そこで、さっそく牛小屋へいって、小人がいるかどうか、さがしてみることにしました。 ありがたいことに、戸口がすこし 開 ( あ )いていました。 だって、もしそうでなかったら、 錠 ( じょう )まで手がとどかないのですから、戸を開けることができなかったでしょう。 ともかくこうして、らくに 抜 ( ぬ )けでることができました。 玄関 ( げんかん )に出たとき、じぶんの 木靴 ( きぐつ )はどこにあるかと見まわしました。 いままで部屋の中では、 靴下 ( くつした )しかはいていなかったのですからね。 少年は心のうちに思いました。 あんなに大きな、 重 ( おも )たい木靴を、いったいどうしてはいたもんだろう。 でもそのとき、よく見ますと、入口のところにちっぽけな木靴が一 足 ( そく )そろえてあります。 おや、おや、小人は木靴まで小さくするほど気をつかっているのです。 それがわかりますと、少年はひどく心配になってきて、「あいつめ、ぼくにこんなみじめな思いを長いことさせておくつもりなんだな。 」と、思いました。 戸口の前においてある古いカシワの板の上を、スズメが一 羽 ( わ )ピョイピョイととびはねていました。 スズメは少年の姿を見たとたんに、さけびたてました。 「チュン、チュン、ごらんよ、ガチョウ 番 ( ばん )のニールスを! あのチビ 小僧 ( こぞう )を見てごらん! チビ小僧のニールス・ホルゲルッソンを見てごらん!」 すると、たちまち、ガチョウもニワトリも、ニールスのほうを 振 ( ふ )りむきました。 そうして、みんなは、ものすごい 勢 ( いきお )いで 鳴 ( な )きたてました。 「コケッコッコ。 」と、オンドリはがなりたてました。 「ばちがあたったんだ! コケッコッコ、おれのトサカをひっぱったのはあいつさ!」 「コ、コ、コ、コ、ばちがあたったのよ!」と、メンドリたちは、鳴きたてました。 そして、いつまでもいつまでもさけびつづけました。 ガチョウたちはかたまって、たがいにささやきあいました。 「だれがあんなにしたんだい? だれがあんなにしたんだい?」 しかし、何よりもふしぎなのは、鳥のしゃべっていることがニールスによくわかることでした。 ニールスはあんまりびっくりしてしまって、入口のところにつっ立ったまま、ぼんやりとただ聞いていました。 「こりゃあ、きっと、ぼくが小人になったからなんだろう。 それで、鳥のことばがわかるんだ。 」と、ニールスは言いました。 ニワトリたちはいつまでも、ばちがあたった、ばちがあたった、とさけびつづけています。 ニールスはがまんができなくなりました。 そこで、石をぶっつけて、どなりました。 「だまれ! こんちくしょう!」 ところが、つい、だいじなことを 忘 ( わす )れていました。 それはほかでもありません、ニールスは、いまではニワトリたちからこわがられるほど大きくはないのです。 ニワトリたちはニールスめがけて走ってきて、そのまわりをとりかこむと、またまた、さけびました。 「コ、コ、コ、コ、ばちがあたった! コ、コ、コ、コ、ばちがあたった!」 ニールスは 逃 ( に )げようとしました。 けれど、ニワトリたちがあとからとびかかってきては、大声にどなるので、耳がツンボになりそうです。 もしもそのとき、ネコがそこへ来てくれなかったら、きっと逃げだすことができなかったでしょう。 ニワトリたちはネコの姿を見ますと、たちまちだまりこんで、 地面 ( じめん )をつつきまわしては、一生けんめい虫をさがしているようなふりをしはじめました。 ニールスはさっそく、ネコのところへかけていきました。 「ミーや、おまえはこの庭なら、すみのすみから 隠 ( かく )れ 穴 ( あな )まで、すっかり知ってるだろう? いい子だから、小人がどこにいるか教えておくれよ。 」 ネコはなかなか返事をしませんでした。 そこへすわって、しっぽをかわいらしく前足のまわりにまきつけてから、少年を 眺 ( なが )めました。 大きな黒いネコで、 胸 ( むね )にぽっつり白いところがあります。 毛なみはつやつやしていて、お日さまの光をうけると、きれいに 輝 ( かがや )きました。 爪 ( つめ )はおさめていました。 目は 灰色 ( はいいろ )で、まんなかに小さな黒い 点 ( てん )が見えました。 見るからにおとなしそうな黒ネコです。 「小人がどこに 住 ( す )んでいるかぐらい、もちろん知ってるよ。 」と、ネコはやさしい声で言いました。 「といったって、きみに教えてやろうとは思っちゃいないよ。 」 「かわいいミーや、ぼくを 助 ( たす )けておくれよ。 」と、ニールスは言いました。 「ぼくが 魔法 ( まほう )にかけられているのがわからないの?」 ネコが目をすこしあけますと、いじわるそうなようすがあらわれてきました。 それから、満足そうにのどをゴロゴロならして、とうとうこう答えました。 「このぼくが、きみを助けるんだって? きみはあんなにしょっちゅう、ぼくのしっぽをひっぱったじゃないか。 」 ニールスは、しゃくにさわってしかたがありません。 それで、いまはじぶんがちっぽけな 弱 ( よわ )い者になっていることを、またまた 忘 ( わす )れてしまったのです。 「よし、そんなら、もう一ど、しっぽをひっぱってやるぞ、いいか。 」こう言って、ネコにとびかかりました。 その 瞬間 ( しゅんかん )、ネコはいままでのネコとは思えないほど、すっかり 変 ( か )わってしまいました。 毛をさかだて、せなかをまるめ、足をのばしました。 爪 ( つめ )は地面をひっかきしっぽは 短 ( みじ )かく 太 ( ふと )くなり、耳はつったち、口からは あわをふき、目は大きくひらいて、 ほのおのように 輝 ( かがや )きました。 ニールスは、ネコなんかにおどかされてたまるものかと、なおも前にでていきました。 しかし、ネコはおどりあがって、ニールスにとびかかり、そこにたおしてしまいました。 そして、口を大きく 開 ( あ )けて、ニールスの のどをねらいながら、前足で 胸 ( むね )をおさえつけました。 ニールスは、ネコの 爪 ( つめ )がチョッキやシャツをとおして 肌 ( はだ )までくいこみ、 鋭 ( するど )いキバがのどをくすぐったのを感じました。 ああ、たいへん! ニールスは声をかぎりに 助 ( たす )けをもとめました。 けれども、だれも来てはくれません。 ニールスは、いよいよおしまいかと思いました。 ところが、どうしたわけか、そのとき、ネコは爪をひっこめて、のどもはなしてくれました。 「そら、」と、ネコは言いました。 「このくらいで、もういいだろう。 きょうのところはかんべんしといてやる。 きみのおかあさんにめんじてだ。 なあに、きみとおれとではどっちが強いか、知らせてやったまでのことさ。 」 こう言いすてて、ネコは帰っていきました。 そのようすは、来たときと同じように、すなおで、いかにもおとなしそうです。 ニールスはがっかりして、ものを言う元気もありません。 これでは、いよいよ 小人 ( こびと )を見つけるよりほかはないのです。 そこで、おおいそぎで牛小屋へ、かけていきました。 牛小屋には、牛は三 頭 ( とう )しかいませんでした。 ところが、ニールスが、はいっていったとたんに、三頭ともほえはじめました。 まあ、そのさわがしいことといったら、どうみても三十頭は、いるのではないかと思われるほどでした。 「モウ、モウ、モウ、」と、マイルースがほえました。 「この世の中にまだ 正義 ( せいぎ )ってものがあるのは、けっこうなことだ。 」 「モウ、モウ、モウ、」と、こんどは三頭がいっせいに 鳴 ( な )きたてました。 何を言っているのやら、とてもわからないほど、メチャメチャに、がなりたてました。 ニールスは小人のことをきいてみたかったのですが、牛たちがすっかりのぼせあがっているので、じぶんの言いたいことを牛たちに聞かせることができませんでした。 牛たちは、まるで見なれない犬をけしかけられたときのように、あばれるのです。 後足 ( あとあし )でける、 首輪 ( くびわ )をゆすぶる、頭をぐっと上へむけて 角 ( つの )をふりたてる、といったありさまです。 「オイッ、ちょっとここへ来な!」と、マイルースが言いました。 「 ぐんとこたえるように、 一 ( ひと )けり、けってやろうじゃないか。 」 「ここへおいで!」と、グルリリアが言いました。 「あたしの 角 ( つの )の上でちょいと 踊 ( おど )らせてあげるよ。 」 「ここへおいでよ、おいで。 おまえに 木靴 ( きぐつ )をぶっつけられると、どんな思いをしたものか、ひとつおまえにも知らせてあげるから!」と、シェルナは言いました。 「さあ、おいでったら。 おまえがあたしの耳にハチを入れてくれたお 礼 ( れい )を、いましてあげるよ!」と、グルリリアはさけびました。 マイルースはいちばん年とっていて、いちばんりこうな牛でした。 そして、中でもいちばん 怒 ( おこ )っていました。 「ここへこい。 おまえはおかあさんから、 牛乳 ( ぎゅうにゅう )のしぼり 台 ( だい )を、なんどもなんどもひったくったな。 それから、おかあさんが 牛乳桶 ( ぎゅうにゅうおけ )を 運 ( はこ )んでいるときに、いろんないたずらをしたっけな。 おかあさんはおまえのために、ずいぶん 涙 ( なみだ )を流したものだ。 いまそのお礼をみんなしてやるぜ。 」 ニールスは、いままでのひどい しうちをどんなに 後悔 ( こうかい )しているか話したり、小人がどこにいるかを教えてくれさえすれば、これからはきっと、いい子になる、と言いたかったのです。 けれど牛たちは、ニールスの言うことなどに、てんで耳をかしてはくれません。 たけりたってほえていますので、もしかして、つないである 綱 ( つな )が切れはしないかと心配になってきました。 そこで、ニールスは、牛小屋からそっと 抜 ( ぬ )けだすよりほかはないと思いました。 ニールスは、やっとの思いで 逃 ( に )げてはきましたが、すっかりがっかりしてしまいました。 むりもありません。 家じゅうどこへいっても、小人をさがす 手助 ( てだす )けをしてくれる者はないのですもの。 それに、こんなぐあいでは、小人を見つけだしたところで、たいして役にはたたないでしょう。 ニールスは 幅 ( はば )の広い 石垣 ( いしがき )によじのぼりました。 石垣は 農場 ( のうじょう )をとりまいていて、その上にはイバラやイチゴのつるが、いちめんにからまっていました。 ニールスはそこに 腰 ( こし )をおろして、つくづく考えました。 もしも人間の姿にもどれなかったら、いったいどうなるんだろう。 おとうさんとおかあさんが 教会 ( きょうかい )から帰ってきたら、どんなにびっくりするだろう。 それどころか、国じゅうの人たちがみんなびっくりするだろう。 そして、じぶんを 見物 ( けんぶつ )しようとして、東ヴェンメンヘーイからもトルプからもスクーループからも、たくさんやってくるだろう。 いや、ヴェンメンヘーイじゅうの人たちが集まってくるだろう。 そして、おとうさんとおかあさんは、じぶんを 市 ( いち )につれていって、見せ物にするかもしれない。 ああ、そんなことは思ってみただけでも、じつにこわいことです! こうなったうえは、もうだれにも姿を見られたくありません。 ああ、それにしても、なんという、ふしあわせな少年でしょう。 これほど、ふしあわせな者は、世界じゅう、どこをさがしたってありません。 この子はもう人間ではないのです。 いまではちっぽけな 化物 ( ばけもの )です。 ニールスは、もう人間ではないということが、いったいどんなことなのか、だんだんわかってきました。 いまでは、すべてのものから切りはなされてしまったのです。 もうほかの子どもたちと 遊 ( あそ )ぶこともできません。 おとうさんおかあさんのあとつぎをすることもできません。 それに、こんなじぶんのところへは、お 嫁 ( よめ )にきてくれるひともないでしょう。 少年は、わが 家 ( や )をながめました。 それは、白くぬってある小さな 百姓家 ( ひゃくしょうや )でした。 とんがった、高いわらぶき 屋根 ( やね )をいただいていて、まるで地面の中にめりこんでいるようなかっこうです。 納屋 ( なや )も小さく、そのうえ、 畑 ( はたけ )の小さいことといったら、それこそ、馬でさえふりむいても見ないくらいです。 だけど、どんなにちっぽけで、 貧弱 ( ひんじゃく )でも、いまのニールスにとっては、よすぎるほどでした。 なぜって、いまのこの身の上では、牛小屋の 床下 ( ゆかした )の 穴 ( あな )よりも ましな 家 ( うち )に住むことなど、とても望めないことですからね。 びっくりするほどすばらしいお天気でした。 少年をとりまくすべてのものが、何かヒソヒソとささやいていました。 新芽 ( しんめ )は、いきいきともえでて、鳥は 楽 ( たの )しそうにさえずっていました。 けれども、ニールスの心は 沈 ( しず )んでいました。 これからはもう、どんなものを見ても、いままでのように、うれしいと思うことは二どとないでしょう。 ニールスは、きょうのように空が青くすんでいるのを見たことがありません。 見れば、 渡 ( わた )り鳥が 飛 ( と )んでいます。 その鳥たちは遠い外国から飛んできて、バルト海をこえ、スミューエ 岬 ( みさき )に 上陸 ( じょうりく )して、いましも北をさして飛んでいくところだったのです。 いろんな種類の鳥がいましたが、ニールスの知っているのはガンだけでした。 ガンのむれは、クサビ 型 ( がた )に長い 列 ( れつ )をつくって、飛んでいました。 ガンのむれは、もういく 組 ( くみ )もいく組も飛んでいきました。 みんな空を高く飛んでいきましたが、それでも、「さあ、 丘 ( おか )へいくんだ! さあ、丘へいくんだ!」とさけんでいるのが聞こえました。 ガンは、庭をぶらぶらしているガチョウを見つけると、さっと 舞 ( ま )いおりてきて、「いっしょにこいよ! いっしょにこいよ! さあ、丘へいくんだ!」と、大きな声で 呼 ( よ )びかけました。 ガチョウたちは、思わずしらず頭をあげて、耳をすましました。 けれども、すぐにふんべつのある返事をしました。 「ここで、たくさん! ここで、たくさん!」 まえにも言ったとおり、たとえようもないほどすばらしいお天気でした。 こんなにさわやかで気もちのいい日に、あの大空を飛びまわったら、さぞ 楽 ( たの )しいことでしょう。 じっさい、新しいガンのむれが、頭の上を飛びすぎるたびに、ガチョウたちもじっとしてはいられなくなってきました。 なんだか、いっしょに飛んでいきたいような気もちにさそわれて、ガチョウたちは、二、三ど、 はねをバタバタやってみました。 でも、そのたびに、年とったおかあさんガチョウが言いました。 「バカなまねをするんじゃないよ。 あの 連中 ( れんちゅう )は、いまにおなかがすいたり、 寒 ( さむ )くてこごえたりするにきまってるんだから。 」 まっ白な一 羽 ( わ )の若いオスのガチョウは、ガンのさけび声を聞いているうちに、どうしても 旅 ( たび )に出かけたくなってしまいました。 そして、 「このつぎ、ガンのむれがきたら、いっしょにいこうっと。 」と、さけびました。 やがて、新しい 一 ( ひと )むれが飛んできました。 そして、まえと同じように呼びかけました。 すると、若いガチョウは、「待って、待って! ぼくもいくよ!」と、さけびました。 そうして、 はねをひろげて、空に 飛 ( と )びあがりました。 けれども、飛ぶのには 慣 ( な )れていないものですから、バタッと地面の上に落っこちてしまいました。 でも、とにかく、若いガチョウのさけび声は、ガンのむれまで聞こえたのにちがいありません。 ガンたちは向きをかえて、ゆっくりと 舞 ( ま )いもどってきました。 ほんとうにいっしょにくるのかどうか、たしかめようというのでしょう。 「待って! 待って!」と、若いガチョウはさけびながら、もう一ど、飛ぼうとしました。 ニールスは 石垣 ( いしがき )の上から、これをのこらず聞いていました。 「あの大きいガチョウに 逃 ( に )げられたら、 大損害 ( だいそんがい )だぞ。 」と、少年は思いました。 「教会から帰ってきて、あいつがいなかったら、おとうさんとおかあさんは、どんなにがっかりするだろう。 」 こう考えたときニールスは、またもや、じぶんがちっぽけで 弱 ( よわ )い者になっていることをすっかり忘れていました。 すぐさま石垣からとびおりると、ガチョウのむれのまんなかに 駆 ( か )けこんで、その若いガチョウの 首 ( くび )っ 玉 ( たま )にかじりついて、さけびました。 「 飛 ( と )んでっちゃだめだよ、いいかい!」 ところが、ちょうどその 瞬間 ( しゅんかん )に、ガチョウは地面から飛びあがる こつをのみこんでしまったのでした。 そして、ニールスを 振 ( ふ )り 落 ( おと )すひまもなく、この子をつれたまま空に 舞 ( ま )いあがってしまいました。 ニールスは、上へ上へとつれていかれました。 それこそ目まいがするほどものすごい早さです。 ああ、これはいけない、ガチョウの首をはなさなければ、と気がついたときには、もう空高くのぼっていました。 こんな高いところから落っこちれば、あっというまに死んでしまうでしょう。 せめて、もうすこしらくな 姿勢 ( しせい )にでもならなければたまりませんが、そのためには、ガチョウのせなかによじのぼるよりほかありません。 それで、ニールスは、さんざん 骨 ( ほね )をおって、やっとのことでガチョウのせなかにのっかりました。 けれど、 羽 ( は )ばたいている二つの はねのあいだの、ツルツルしたせなかにしっかりとのっかっているのは、なかなかたいへんなことでした。 ですから、ころがり落ちないように、両手を はね毛の中までつっこんで、一生けんめいしがみついていました。 少年はひどく めまいがして、長いこと何がなんだかわかりませんでした。 風はピュウピュウうなりをたてて、吹きつけてきます。 すぐそばでは、つばさがバタバタと 羽 ( は )ばたき、その音は、ものすごい 嵐 ( あらし )のようです。 十三 羽 ( ば )のガンはニールスのまわりを 飛 ( と )んで、 勢 ( いきお )いよく羽ばたきながら、ガアガア 鳴 ( な )きたてています。 ニールスは目さきがチラチラし、耳がガンガン鳴っています。 いったい、高いところを飛んでいるのか、低いところを飛んでいるのか、そしてまた、どこへ向かって飛んでいるのか、さっぱりわかりません。 でも、そのうちに、頭がだんだんはっきりしてきて、いったい、どこへつれていかれるのか、それを見きわめなければいけないぞ、と、ニールスは気がつきました。 けれども、それは、なまやさしいことではありません。 下を見る 勇気 ( ゆうき )なんて、とてもわいてきそうもないのです。 ちょっとでも下を見ようとすれば、きっと目がまわってしまうでしょう。 ガンたちは、それほど高いところを飛んではいませんでした。 というのは、新しく 仲間 ( なかま )になったあのガチョウが、空気のすくない高いところで 息 ( いき )をするのになれていなかったからです。 それでみんなは、いつもよりも、いくらかゆっくり飛んでいるのでした。 とうとう思いきってニールスは、下を見おろしました。 目の下には、まるで、とても大きな 布 ( きれ )がひろげられているようです。 そして、その布は、大小さまざまの、かぞえきれない四角い形にわかれています。 「いったい、どこへ来たんだろう?」と、ニールスはふしぎに思いました。 見わたすかぎり、目に 映 ( うつ )るものは、 市松 ( いちまつ )もようばかりです。 ななめになっているものもあれば、細長いものもありますが、どれもこれも、まっすぐの 線 ( せん )にかこまれた四角い形ばかりです。 円いのや、まがったのは一つもありません。 「下に見えるのは、なんて大きな 市松 ( いちまつ )もようなんだろう?」だれも答えてはくれないだろうとは思いながらも、ニールスはこうひとりごとを言いました。 ところが、ニールスのまわりを 飛 ( と )んでいるガンたちがすぐにさけびました。 「 畑 ( はたけ )と 牧場 ( まきば )だよ! 畑と牧場だよ!」 そう言われてみますと、なるほど、下に見える大きな市松もようは、スコーネの 平野 ( へいや )です。 そして、それがどうしてこんな市松もように見え、いろんな色に見えるかも、だんだん、のみこめてきました。 あかるい 緑色 ( みどりいろ )の四角が、まっさきに目につきました。 それは、 去年 ( きょねん )の秋に 種 ( たね )をまいたライ 麦畑 ( むぎばたけ )です。 冬じゅう雪の下でも、ずっと緑の色をしていたのでした。 黄色っぽい 灰色 ( はいいろ )の四角は、去年の夏みのったカラス麦の畑で、いまは 刈 ( か )り 株 ( かぶ )がのこっているのです。 褐色 ( かっしょく )がかったのは 枯 ( か )れたクローヴァの野原で、黒いのは 牧場 ( まきば )のあとや、いまは 耕 ( たがや )されていない 休閑地 ( きゅうかんち )です。 褐色で、はしの黄色い四角は、たしかブナの森にちがいありません。 なぜって、そこには、森のまんなかにあって、冬には葉の落ちてしまう大きな木々も見えますし、森のへりに 生 ( は )えている若いブナの木が、黄色くなった葉を春までつけているのも見えています。 それから、まんなかがいくらか灰色の黒ずんだ四角もありました。 それは黒くなった わらぶき 屋根 ( やね )のある大きな 百姓家 ( ひゃくしょうや )で、 前庭 ( まえにわ )には石がしいてあるのです。 それからまた、まんなかが緑で、ふちが褐色の四角も見えました。 そこは 庭園 ( ていえん )でした。 そこでは、 芝生 ( しばふ )はもう緑に色づいていたのですが、まわりのやぶや木々は、まだ、はだかで、 褐色 ( かっしょく )の木の 肌 ( はだ )を見せているのでした。 ニールスは、あんまりなにもかもが市松もように見えるので、思わずおかしくなって、ふきだしてしまいました。 けれども、ガンたちはニールスがふきだしたのを聞きつけますと、とがめるようにどなりました。 「 肥 ( こ )えたよい 土地 ( とち )だ! 肥えたよい土地だ!」 ニールスはすぐ、まじめになりました。 そして、「こんなこわい目にあってるというのに、ぼく、ふきだしたりして。 」と、思いました。 しばらくのあいだは、まじめくさっていましたが、ニールスはすぐまた笑いだしてしまいました。 こうして、ガチョウのせなかに乗っているのにも、早く 飛 ( と )ぶのにも、なれてきますと、ニールスはしっかりしがみついているだけでなく、ようやくほかのことも考えることができるようになりました。 気がついてみますと、たくさんの鳥のむれが空を飛んでいます。 みんな北をめざしています。 そして、たくさんの鳥のむれは、おたがいにさけびあい、話しあっています。 「おや、あんたがたは、きょう来たんですな!」と、さけぶものがあります。 すると、ガンたちは、「そうですよ。 で、どうでしょう、春らしくなってますかね?」と、ききました。 「木にはまだ一枚も 葉 ( は )っぱはないし、 湖 ( みずうみ )の水もつめたいですよ!」という 返事 ( へんじ )です。 ガンたちはニワトリが 遊 ( あそ )んでいるところへ来ますと、大声にさけびました。 「ここはなんていうとこだい? ここはなんていうとこだい?」 すると、ニワトリが頭をぐっとあげて、答えました。 「ここは『 小畑 ( こばたけ )』っていうんだよ。 ことしも 去年 ( きょねん )とおんなじだよ。 ことしも去年とおんなじだよ!」 このへんの 家 ( うち )は、たいてい、その持ち 主 ( ぬし )の名まえで、ペール・マッソンの家だとか、ウーラ・ボッソンの家だとか呼ばれています。 それがスコーネ地方の 習慣 ( しゅうかん )なのです。 けれどもニワトリたちは、そうは言わないで、ニワトリ 流 ( りゅう )に、いちばんふさわしいと思われる名まえをつけて呼んでいるのです。 そこで、ガンたちが呼びかけると、 貧乏 ( びんぼう )な 百姓家 ( ひゃくしょうや )に住んでいるニワトリたちは、「ここは『 穀物 ( こくもつ )なし』っていうんだ。 」と、さけびますし、もっともっと貧乏な百姓家のニワトリは、「ここは『 食物 ( くいもの )なし、食物なし』さ。 」と、どなります。 大きな、お金もちの 農家 ( のうか )は、ニワトリたちからも『 幸 ( さいわ )い 畑 ( ばたけ )』とか、『 卵山 ( たまごやま )』とか、『 宝荘 ( たからそう )』といったように、すばらしい名まえをつけてもらっています。 ところで、 貴族 ( きぞく )のお 屋敷 ( やしき )にいるニワトリともなれば、こうまんちきで、ひとから、からかわれでもすると、たいへんです。 そんなニワトリの一 羽 ( わ )が、天までとどけとばかり、声をかぎりにさけびました。 「ここはデュベックさまのお屋敷だぞ! ことしも 去年 ( きょねん )とおんなじだ。 ことしも去年とおんなじだ。 」 もうすこしさきへいきますと、一 羽 ( わ )のニワトリが、もったいぶって呼ばわりました。 「ここぞスヴァーネホルム、その名も高きスヴァーネホルム!」 ニールスが気がついてみますと、どうやら、ガンのむれは一 直線 ( ちょくせん )に 進 ( すす )んではいないのです。 みんなはスウェーデンの南部の地方を、あちこちと 飛 ( と )びまわっているのです。 まるで、このスコーネ地方にまた来ているのがうれしくてたまらず、一つ一つの場所にいちいちあいさつしていきたいとでも思っているようです。 そのうちに、高いエントツの立っている大きな広い 建物 ( たてもの )がたくさんあって、そのまわりに小さい 家 ( うち )がいくつも 並 ( なら )んでいるところへ来ました。 「ここはヨルドベリヤの 精糖工場 ( せいとうこうじょう )! ここはヨルドベリヤの精糖工場!」と、そこのニワトリたちが大きな声で言いました。 ニールスは、ガチョウのせなかで、思わずはっとしました。 それなら、じぶんも知っているはずです。 ここはおとうさんとおかあさんの家からそんなに遠くはありません。 それに、去年、ここでガチョウ 番 ( ばん )にやとわれていたことがあるのです。 けれども、いま高い空から見おろしますと、なにもかも、すっかりようすがちがっています。 うん、そうだ! ガチョウ番の女の子のオーサと小さいマッツは、あのときぼくの 仲間 ( なかま )だったっけ。 あそこにまだいるだろうか。 ぼくがいま、ふたりの頭の上を 飛 ( と )んでいるのを知ったら、ふたりはなんて言うだろうなあ! まもなく、ヨルドベリヤは見えなくなってしまいました。 こんどはスヴェーダーラとスカーベル 湖 ( こ )のほうへ飛んでゆき、それからまたベリンゲクローステルとヘッケベリヤの上に 舞 ( ま )いもどってきました。 ニールスは、たった一日でも、いままでの長い年月のあいだに見たよりも、スコーネ地方のずっといろんなところを見ることができました。 ガンのむれが地上にガチョウたちを見つけたときは、ほんとにゆかいです。 そんなときには、みんなはゆっくりと飛んで、地上にむかってさけぶのでした。 「これから 丘 ( おか )へゆくんだぜ! いっしょにこないかい! いっしょにこないかい!」 けれど、ガチョウたちは答えました。 「まだこの国は冬なんですよ! ちょっと早すぎますね! まあ、お帰り、まあ、お帰り!」 ガンたちは、もっとよく聞こえるように、ぐっと 舞 ( ま )いおりて、大声で言いかえしました。 「いっしょにこないか。 飛びかたも 泳 ( およ )ぎかたも教えてやるぜ!」 そう言われると、ガチョウたちはプンプン 腹 ( はら )をたてて、もうひとことも返事をしませんでした。 ガンたちはいまにも、地面にさわりそうになるまで下へ下へと 舞 ( ま )いおりて、つぎの 瞬間 ( しゅんかん )、さもびっくりしたように、さっと 舞 ( ま )いあがり、「オヤ、オヤ、オヤ!」と、さけびました。 「なあんだ、ガチョウじゃないや! 羊 ( ひつじ )じゃないか! 羊じゃないか!」 それを聞いた地上のガチョウたちは、カンカンにおこって、どなりたてました。 「おまえたちなんか 殺 ( ころ )されちまえ! 一 羽 ( わ )のこらず、一羽のこらず!」 ニールスはこの口げんかを聞いているうちに、思わず笑いだしてしまいました。 けれど、いまのじぶんの 身 ( み )のふしあわせを思いだしますと、 涙 ( なみだ )がこみあげてきました。 でも、しばらくたつと、またもや笑いだしてしまうのでした。 ニールスはふだんから馬をらんぼうに走らせるのがすきでした。 でも、これほど早く 駆 ( か )けさせたことはありませんでした。 そして、空の上はこんなにも気もちよく、しかも、下からは、土や木の 芽 ( め )のヤニのにおいが、こんなにも、かんばしくにおってこようなどとは、 夢 ( ゆめ )にも思ったことがありませんでした。 そしてまた、こんなにも空高く飛ぼうなどとは、思ってみたこともありませんでした。 こうしていると、まるで、ありとあらゆる 苦 ( くる )しみや 悲 ( かな )しみや わずらわしさをのがれて、飛んでいるような気がするのでした。 [#改ページ] ガンのむれといっしょに 飛 ( と )んでいる大きなガチョウは、ガンの 仲間 ( なかま )にはいってスウェーデンの南の地方を飛びまわり、地上の 飼 ( か )い鳥たちとふざけられるので、 大得意 ( だいとくい )になっていました。 でも、おもしろくはありましたが、お 昼 ( ひる )すぎになると、だんだん、くたびれてきました。 そこで、 深 ( ふか )く 息 ( いき )を 吸 ( す )って、もっと早く はねを動かそうとしてみるのですが、どうしても、みんなからおくれてしまいます。 ずっとしまいのほうを 飛 ( と )んでいるガンたちは、ガチョウがもうこれ 以上 ( いじょう )ついていけそうもないのを見てとりますと、クサビ 型 ( がた )の 先頭 ( せんとう )になって、みんなを 導 ( みちび )いているガンにむかって呼びかけました。 「ケブネカイセのアッカさん! ケブネカイセのアッカさん!」 「なんの用だね?」と、ガンの 隊長 ( たいちょう )はたずねました。 「白がおくれてます! 白がおくれてます!」 「 教 ( おし )えてやんなさい、早く 飛 ( と )ぶほうが、ゆっくり飛ぶより 楽 ( らく )だって!」と、隊長はさけびかえして、まえとおなじようにグングン早く飛んでいきます。 ガチョウはその 忠告 ( ちゅうこく )どおりに、早く飛ぼうと一生けんめいにやってみました。 でも、そのうちに 疲 ( つか )れきって、とうとう、 畑 ( はたけ )と 牧場 ( まきば )をとりかこんでいる、枝を 刈 ( か )られたヤナギの 木立 ( こだち )のほうへおりていきました。 「アッカさん! アッカさん! ケブネカイセのアッカさん!」しまいのほうのガンたちは、ガチョウが 弱 ( よわ )ってきたのを見ますと、またもやこうさけびました。 「なんだね、こんどは?」と、隊長のガンはたずねましたが、ひどく 腹 ( はら )をたてたようすです。 「白がおりていきます! 白がおりていきます!」 「教えてやんなさい、高く飛ぶほうが、 低 ( ひく )く飛ぶより 楽 ( らく )だって!」と、隊長は大声で答えました。 ガチョウはこんどもこの忠告に 従 ( したが )おうとしました。 けれども高くのぼろうとしますと、息ぎれがして、まるで 胸 ( むね )がはりさけそうです。 「アッカさん! アッカさん!」と、またまたうしろのガンたちが呼びかけました。 「すこしはおちつかせてもらえないのかねえ。 」と、 隊長 ( たいちょう )はどなって、まえよりもいっそうきげんが 悪 ( わる )くなったようです。 「白がまいりそうです! 白がまいりそうです!」 「みんなといっしょに飛べないものは、 家 ( うち )へ帰るがいい、と、言ってやんなさい!」と、隊長はさけびました。 ガチョウのために、すこしゆっくり飛んでやろうなんて気は、まるっきりありません。 あいもかわらず、ぐんぐん早く飛んでいきます。 「ああ、ガンなんてものは、みんなこんなんだろうか?」と、ガチョウは思いました。 そして、ガンたちはじぶんをラプランド( ラプ人の住む北の地方)までつれていってくれるつもりはなかったことが、急にはっきりとわかってきました。 ガンたちは、ただからかって、ガチョウを家からさそいだしただけなのでしょう。 ガチョウは、いま、じぶんの力がつきてしまったために、ガチョウだって、ものの役にたつことを、この 宿 ( やど )なしどもに見せてやれないのが、くやしくてくやしくてたまりません。 そして、なによりも 残念 ( ざんねん )に思われるのは、ケブネカイセのアッカになんか 出会 ( であ )ったことでした。 このガチョウは 飼 ( か )い鳥ではありましたが、アッカという、百 歳 ( さい )にもなるガンの隊長のことは、いままでにも うわさに聞いていました。 アッカはみんなからたいへん 尊敬 ( そんけい )されている鳥で、どんなに、りっぱなガンでも、アッカの言いつけには 従 ( したが )うほどだったのです。 けれども、アッカとその 仲間 ( なかま )ぐらい、ガチョウをバカにしているものもありません。 それで、ガチョウは、じぶんだっておまえたちに 負 ( ま )けやしないということを、このガンたちに見せてやりたかったのです。 ガチョウは、いっそのこと引きかえそうかと思ったり、それとも、ついていったものかと思ったりしながら、みんなのあとからのろのろと 飛 ( と )んでいきました。 と、だしぬけに、せなかに 乗 ( の )っかっているチビさんが言いだしました。 「ねえ、ガチョウのモルテンや! いままで飛んだこともないおまえが、ラプランドなんて遠くまで飛んでいけっこないじゃないか。 おまえにだってわかってるだろう。 命 ( いのち )のあるうちに、引きかえしたほうがよくはないかい?」 ところが、せなかの上のこのチビさんぐらい、このガチョウにとっていやなやつはありませんでした。 しかもそいつまでが、じぶんにはもう 旅 ( たび )をつづける力がないと思っているのです。 そう思うと、しゃくにさわって、なんとかしてついていこうと決心しました。 「もう一ど言ってみろ。 みぞの上を通ったら、 振 ( ふ )り 落 ( おと )してやるぜ。 」と、ガチョウは言いました。 怒 ( おこ )ったために力がわいてきたのでしょうか、こんどは、ほかのガンたちにも 負 ( ま )けないくらい、よく飛ぶことができるようになりました。 もちろん、こんなぐあいにして、いつまでも飛びつづけることはできないでしょう。 でも、その心配はありませんでした。 というのは、そのとき、ガンのむれが、グングンおりはじめたからです。 そして、ちょうどお日さまが 沈 ( しず )んだとき、ガンたちは地上に 舞 ( ま )いおりたのでした。 こうして、ニールスもガチョウも、何がなんだかわからないうちに、ヴォンブ 湖 ( こ )の 岸 ( きし )べに 着 ( つ )いていました。 「ここで 一晩 ( ひとばん )すごす気らしいな。 」と、ニールスは思いながら、ガチョウのせなかからとびおりました。 ニールスは、せまい 砂浜 ( すなはま )に立ちました。 目の前にはかなり大きい 湖 ( みずうみ )がひろがっています。 でも、あまり気もちのいい 景色 ( けしき )ではありません。 なにしろ、湖の上には氷がほとんどいちめんに 張 ( は )りつめていて、それがどす黒く、しかも、でこぼこしていて、いたるところに 裂 ( さ )け目や 穴 ( あな )があるのですからね。 もっとも、こういったありさまは、春さきにはよく見られるのですけど。 しかし、氷はもうそう長くはもちそうもありません。 岸 ( きし )のあたりは、もう、とけはじめていて、そこは 幅 ( はば )のひろい、黒くかがやく水の 帯 ( おび )のように見えているのです。 でも、なんといってもまだ氷がのこっているために、あたりいちめんには 寒 ( さむ )さと冬らしい 荒 ( あ )れはてたようすが見えています。 湖の 向 ( む )こうがわには、ひろびろとした気もちのいい 土地 ( とち )があるように見えますが、ガンたちのおりたところには、大きなマツの 木立 ( こだち )があって、そのマツ林は、まるで、冬を自分のとこにひきとめておく力をもってでもいるようです。 どこを見まわしても、 地面 ( じめん )の上にはもう雪はないのに、大きなマツの枝の下だけには、まだ雪がずいぶんつもっています。 そして、それがとけては 凍 ( こお )り、とけては凍って、いまでは氷のようにかたくなっているのです。 これでは、まるで冬にとざされた 荒 ( あ )れはてた国に来ているようです。 ニールスはたまらなくなって、大声で泣きだしたくなりました。 おなかも、ペコペコです。 むりもありません。 一日じゅう、なんにもたべていないのですからね。 だけど、たべる物はどこにあるでしょう? いまはまだ三月です。 木にも地面にも、たべられるようなものは、一つも 生 ( は )えてはいませんでした。 まったく、どこへいったら、たべるものが見つかるでしょう? だれが 宿 ( やど )をかしてくれるでしょう? だれがお 床 ( とこ )をのべてくれるでしょう? そして、だれが火にあたらせてくれるでしょう? だれがケモノをふせいでくれるでしょう? もうお日さまは 沈 ( しず )んでしまったではありませんか。 しかも 湖 ( みずうみ )の上からは、つめたい風が吹きつけてきます。 いよいよ、 暗 ( くら )やみが空からおりてきました。 恐 ( おそ )ろしいものが、うすあかりのうしろから、そっとしのびよってきました。 森の中では、ガサガサという物音がしはじめました。 こうなりますと、空を 飛 ( と )んでいたときのような 楽 ( たの )しい気もちはすっかり 消 ( き )えてしまいました。 ニールスはとても心ぼそくなってきて、 旅 ( たび )の道づれのほうを、ふりむいてみました。 いまでは、この鳥のほかには、たよりになる者はありません。 ところが、そのガチョウは、じぶんよりも、もっとまいっているではありませんか。 おりたところに、じっとたおれたままです。 そして、いまにも死にそうなようすです。 首 ( くび )はぐったり地べたにつけたまま、目はつぶって、息はかすかにハアハアといっているだけです。 「ガチョウのモルテンや。 」と、ニールスはやさしく言いました。 「水を 一 ( ひと )くち 飲 ( の )んでごらん。 湖 ( みずうみ )まで 二 ( ふた )あしとはないんだよ。 」 けれど、ガチョウは身うごきひとつしませんでした。 ニールスは、いままで 生 ( い )き物という生き物をいじめてばかりいたのでした。 このガチョウのモルテンのことだってそうでした。 ところがいまでは、このガチョウだけがただ一つのたのみなのです。 ああ、このガチョウが死んでしまったら! ニールスは心配で心配でたまりません。 そこで、すぐさま、ガチョウを水のところまでつれていってやろうと、 押 ( お )すやらひっぱるやらしはじめました。 けれど、ちっぽけなニールスにとっては、ガチョウでさえも大きく 重 ( おも )くてずいぶん 骨 ( ほね )がおれたのです。 それでも、どうにか、うまくいきました。 ガチョウは、まず頭を水の中につっこみました。 そうしてしばらく、やわらかい土の上にじっと横になっていましたが、やがて頭をあげると、目から水をはらい 落 ( おと )して、 鼻 ( はな )の 穴 ( あな )から大きく息を 吸 ( す )いました。 それから、 勢 ( いきお )いよくアシとガマのあいだを泳いでいきました。 いっぽう、ガンたちは 湖 ( みずうみ )の中にいました。 みんなは地べたにおりるが早いか、ガチョウやニールスのほうは見むきもせずに、水の中にとびこんで、水をあびては、からだをきれいにしていました。 それからこんどは、くさりかけたヒルムシロや水クローヴァをムシャムシャやりはじめました。 白ガチョウは、 運 ( うん )よく、小さいスズキを見つけました。 すばやくそれをつかまえますと、 岸 ( きし )へもどってきて、ニールスの前におきました。 そして、「さっき水を 飲 ( の )むとき助けてくれたお 礼 ( れい )にあげよう。 」と、言いました。 こんな 親切 ( しんせつ )なことばを聞くのは、けさからはじめてです。 ニールスはすっかりうれしくなって、ガチョウの 首 ( くび )にとびつきたいくらいでした。 でも、やっと思いとどまって、 贈 ( おく )り 物 ( もの )を 喜 ( よろこ )んでもらいました。 さいしょは、 魚 ( さかな )をなまのままたべるなんて、とてもできやしないと思いましたが、そのうちに、まあともかく、たべてみようという気になりました。 ナイフがまだあるかしらんと思いながら、さがしてみますと、うれしいことに、ズボンのうしろのボタンにさがっていました。 もちろん、これも小さくなって、マッチ 棒 ( ぼう )ぐらいの大きさになってはいましたが、これでも魚のウロコを 落 ( おと )して、きれいにすることぐらいはできます。 こうして、まもなくスズキがたべられるようになりました。 ニールスはおなかがいっぱいになりますと、ちょっと 恥 ( は )ずかしくなりました。 とうとう、なまの魚をたべてしまったのです。 「ぼくはもう人間じゃない。 ほんものの 小人 ( こびと )になってしまった。 」と、心の中で思いました。 ニールスが魚をたべている間じゅう、ガチョウはすぐそのそばにじっとしていましたが、ニールスがすっかりたべおわりますと、そっと小さい声で言いました。 「ぼくたちはね、 飼 ( か )い鳥をバカにする、こうまんちきなガンの一 族 ( ぞく )に出会ったんだよ。 」 「うん、ぼくもそう思っていたよ。 」と、ニールスは答えました。 「もしぼくが、あいつらといっしょにラプランドまで飛んでいけて、ガチョウだって、りっぱにやれるんだってことを、あいつらに見せてやれたら、すごいんだけどねえ。 」 「うん、そ、そ、そうとも。 」と、ニールスはためらいながら答えました。 だって、そうでしょう。 このガチョウにそんなことができようとは思えませんもの。 でも、べつに 反対 ( はんたい )する気にもなれませんでした。 「だけど、こんな長い 旅 ( たび )をひとりでやりとおせるとは思えないんだよ。 」と、ガチョウはつづけて言いました。 「どうだろう、いっしょにいって、ぼくを助けてくれないかい?」 ニールスとしては、もちろん、 一時 ( いっとき )も早く 家 ( うち )へ帰りたいと、ただそればかりを 願 ( ねが )っていたのです。 だから、こう言われますと、びっくりして、なんて言ったらいいのか、こまってしまいました。 「でも、ぼくときみとは 仲 ( なか )よしじゃないもの。 」と、とにかく言ってみました。 ところが、ガチョウのほうでは、そんなことはまるっきり 忘 ( わす )れているようです。 さっきニールスに 命 ( いのち )を 助 ( たす )けてもらったことだけが、頭にこびりついているのです。 「やっぱし、おとうさんとおかあさんのところへ帰らなくちゃ。 」と、ニールスはもう一ど、とめてみました。 「うん、秋になったら、かならずおとうさんとおかあさんのところへつれて帰ってあげるよ!」と、ガチョウははっきり答えました。 「それにぼくは、きみの 家 ( うち )の入口のところにきみをおろすまでは、どんなことがあっても、きみを 捨 ( す )てはしないよ。 」 ニールスは、そのとき、ふと、こんなじぶんの 姿 ( すがた )をもうしばらくおとうさんやおかあさんに見せないほうがいいだろう、と、思いつきました。 それで、ガチョウの申し出に 賛成 ( さんせい )して、じゃ、そうしよう、と、言おうとしました。 と、そのとき、うしろのほうでバタバタという大きな音がしました。 ふりかえって見ますと、ガンがみんないっせいに 湖 ( みずうみ )からあがってきて、からだから水をふるい 落 ( おと )しているのです。 それから、ガンのむれは、 隊長 ( たいちょう )を先頭にして、長く一 列 ( れつ )になって、ふたりのほうへやってきました。 白ガチョウは、そのガンの姿を見ますと、いやな気もちがしました。 ガンはもっとじぶんたちガチョウによく 似 ( に )ていて、もっと近い 親類 ( しんるい )だとばかり思っていたのです。 ところが、どうでしょう。 目の前のガンたちは、じぶんよりもずっと小さくて、おまけに、 はねの白いものは一 羽 ( わ )もいないのです。 みんながみんな 灰色 ( はいいろ )で、あちこちに 褐色 ( かっしょく )がまじっています。 それに、目を見れば、 恐 ( おそ )ろしくなるばかりです。 それは 黄色 ( きいろ )くて、そのうしろに火がもえてでもいるように、キラキラと 輝 ( かがや )いています。 ガチョウは、いままでいつも、ゆっくり、ヨタヨタ歩くのがいいと言われてきました。 それなのに、この 連中 ( れんちゅう )ときたら、歩くどころではありません。 まるで走っているようです。 けれど、いちばん 驚 ( おどろ )いたのは、その足です。 じつに大きくて、おまけに足のうらは 裂 ( さ )けて、ゴソゴソしています。 これを見れば、ガンという鳥は、何があっても、まわり道をしないで、平気でその上を歩いていくということが、よくわかります。 といっても、ほかのことにかけては、たいへんきれいずきで、きちんとしているのです。 でもその足は、この 連中 ( れんちゅう )が野原をほっつき歩くあわれな鳥であることを、はっきりと 物語 ( ものがた )っています。 ガチョウがニールスに、「きみもえんりょなく話しなさい。 だけど、きみが人間だってことは言わないほうがいいね。 」とささやいたときには、もうガンたちはすぐそばまで来ていました。 ガンたちはふたりの前に立ちどまって、いくどもおじぎをしました。 そこで、ガチョウも同じように、もっとたくさんおじぎをしました。 こうして、あいさつがすみますと、ガンの 隊長 ( たいちょう )がきりだしました。 「あんたがたは、どういう 方 ( かた )か、聞かせてください。 」 「わたしのことは、とりたてて言うほどのこともありませんが、」と、ガチョウは言いはじめました。 「 去年 ( きょねん )の春スカーネルで生まれました。 そして秋には西ヴェンメンヘーイのホルゲル・ニールスッソンという人に買われて、それからずっとそこに 住 ( す )んでいます。 」 「それなら、あまり 自慢 ( じまん )のできるような家がらじゃありませんね。 」と、 隊長 ( たいちょう )は言いました。 「ところで、あんたが、われわれガンの 仲間 ( なかま )に思いきってはいって来たのは、どういうわけです?」 「わたしたち 飼 ( か )い鳥だって、なにか とりえはあるってことを、あなたがたに知らせたいからですよ。 」 「へーえ、そいつはけっこう。 ひとつ 拝見 ( はいけん )したいものです。 」と、 隊長 ( たいちょう )は言いました。 「 飛 ( と )ぶお手なみはさっき拝見しましたが、ほかのことなら、きっと、もっとおじょうずでしょう。 泳 ( およ )ぎなんかは、さぞおとくいなんでしょうね?」 「いえ、いえ、ぜんぜんだめです。 」と、ガチョウは答えました。 ガチョウは、ガンの隊長が自分を 家 ( うち )へ帰すつもりでいるんだろうと思っていましたので、どう返事したってかまやしない、と考えていたのでした。 そこで、「 堀 ( ほり )を泳いでわたったことしかありません。 」と、つづけて言いました。 「じゃあ、かけっこは早いんでしょう?」 「ガチョウがかけるのなんて、わたしはまだ見たこともありませんし、わたしもやったことがありません。 」ガチョウはこう答えて、じっさいよりも 悪 ( わる )く見えるようにしました。 大きな白ガチョウは、こうなったからには、どうしたって、隊長がじぶんをつれていってくれるようなことはあるまい、と思いました。 それだけに、隊長から、「あんたはまったく どきょうよく答えるんですねえ。 どきょうのいいものは、さいしょは、からっきしだめでも、そのうちにはいい道づれになれますよ。 どうです、あんたが ものになるかどうかわかるまで、二、三日いっしょにいてみたら?」と言われたときには、すっかりびっくりしてしまいました。 「そいつは、まったくありがたいですね。 」と、ガチョウは心から 満足 ( まんぞく )そうに答えました。 と、こんどは、隊長はくちばしでニールスをさしながら、言いました。 「あんたがそこにつれているのは、だれなんです? そんなのは、これまで一ども見かけたことはないが。 」 「わたしの友だちなんです。 」と、ガチョウは言いました。 「ずうっとガチョウ 番 ( ばん )をしていたんですが、いっしょに 旅 ( たび )につれていけば、きっと役にたちますよ。 」 「そうさね、 飼 ( か )い鳥には役にたつかもしれない。 」と、ガンは答えました。 「ところで、なんて名ですね?」 「いろんな名まえがあるんで、」と、ガチョウは、とっさになんて言ったらいいのかわからないものですから、まごまごして、言いました。 なぜって、人間の名まえを持っていることは、かくしておきたかったからです。 「ああ、そう、オヤユビ太郎っていうんです。 」ガチョウはふっと思いついて、こう言いました。 「そうすると、 小人 ( こびと )の 親類 ( しんるい )ですかね?」と、 隊長 ( たいちょう )はききました。 「ところで、あなたがたガンは、いつごろおやすみになるんですか?」と、ガチョウはすばやくたずねました。 こうして、話をかえようというわけです。 「いまごろになれば、ひとりでに目がとじてしまうんですよ。 」隊長のガンは言いました。 いまガチョウと話をしているこのガンが、たいへん年とっていることは、 一目 ( ひとめ )でわかります。 はねはすっかり白っぽい 灰色 ( はいいろ )で、黒いすじ一つ見えません。 頭はいくぶん大きく、足はあらっぽく、足のうらは、ほかのどのガンのよりもガサガサしています。 はね毛はこわく、 肩 ( かた )は骨ばっていて、 首 ( くび )はやせています。 これは、みんな、年のせいです。 ただ目だけは若いものとすこしも変わらず、かえって、ほかのガンのよりも若々しいくらいに、キラキラしています。 そのとき、 隊長 ( たいちょう )はいかにももったいぶって、ガチョウのほうに向いて、言いました。 「ところで、ガチョウさん、わたしはケブネカイセのアッカというものです。 どうかお見知りおきください。 そして、わたしのすぐ右がわを飛ぶガンは、ユクシ、すぐ左がわを飛ぶのは、カクシといいます。 右がわの二ばんめのはコルメ、左がわの二ばんめのはネリエーといい、そのうしろはヴィシと、クウシです。 それから、そのあとを六 羽 ( わ )の若いガンが、右に三 羽 ( ば )、左に三羽飛ぶのです。 どれもこれも、りっぱな 血 ( ち )すじの高山ガンです。 だから、そこらでちょいちょい出会う 宿 ( やど )なしどもとまちがってもらっちゃこまりますよ。 それに、われわれは、じぶんがどんな血すじのものか名のらないようなものとは、いっしょに 暮 ( く )らしはしないんですからね。 」 隊長 ( たいちょう )のアッカがこうしゃべっていますと、ニールスはすっとまえに 進 ( すす )みでました。 いまガチョウが、じぶんのことはスラスラ答えたのに、ニールスのこととなると、 逃 ( に )げるような返事しかしなかったのが、 不満 ( ふまん )でならなかったのです。 「ぼくの 素姓 ( すじょう )をあかしましょう。 」と、ニールスは言いました。 「ぼくはニールス・ホルゲルッソンといって 百姓 ( ひゃくしょう )の子どもです。 ニールスが人間と言ったかと思うと、たちまちガンの隊長は三歩あとへさがりました。 ほかのガンたちはもっとあとへとびのきました。 そして、みんな首をのばしながら、 腹 ( はら )をたててシー、シー、と言いました。 「わたしはこの 岸 ( きし )でおまえを見たときから、あやしいやつだと思っていた。 さあ、さっさといっておしまい。 人間なんかを 仲間 ( なかま )に入れておくことはできないよ。 」と、アッカはどなりつけました。 「あなたがたガンが、こんなちっぽけなやつをこわがるなんて、おかしいじゃありませんか。 」と、ガチョウはなだめるように言いました。 「あしたになれば、きっと 家 ( うち )へ帰るでしょうよ。 だけど 今夜 ( こんや )だけは、いっしょにいさせてやってください。 こんなあわれなチビスケを、夜ひとりっきりで、イタチやキツネのいっぱいいる中へ 追 ( お )っぱらうこともないじゃありませんか。 」 ガンの 隊長 ( たいちょう )は前に 進 ( すす )みでました。 しかし、こわいのをおさえるのは、なかなかむずかしいようです。 「わたしは、人間だったら、大きかろうと小さかろうと、気をつけるように 教 ( おし )えこまれてきたんでね。 」と、隊長は言いました。 「だけど、ガチョウさん、このチビさんがわれわれになんにも 害 ( がい )を 加 ( くわ )えないと、おまえさんが受けあってくれるんなら、 今夜 ( こんや )はいっしょにいてもいいということにしましょう。 もっとも、今夜の 宿 ( やど )は、おまえさんにもこのチビさんにも向いてはいないでしょうよ。 なにしろ、われわれは、 岸 ( きし )から 離 ( はな )れた 氷 ( こおり )の上にいって、ねるつもりなんだからね。 」 こう言われれば、いくらなんでもガチョウも決心がつかなくなるだろうと、ガンの隊長は思っていたのでした。 ところが、ガチョウは平気なものです。 「そういう安全な 寝場所 ( ねばしょ )をえらぶとは、さすがにえらいものですね。 」 「だがおまえさんは、そのチビさんがあした家に帰ると、受けあってくれるでしょうね。 」と、隊長は 念 ( ねん )をおして言いました。 「そのときは、わたしもあなたがたとお 別 ( わか )れしますよ。 」と、ガチョウは言いました。 「わたしはこのチビさんを、けっして 捨 ( す )てないと、約束してあるんですからね。 」 「どこへ 飛 ( と )んでいこうと、おすきなように。 」と、隊長のガンが答えました。 それから はねをあげて、 氷 ( こおり )の上に飛んでいきました。 そのあとから、ほかのガンたちも一 羽 ( わ )ずつ、つづいていきました。 ニールスは、ラプランドへの 旅 ( たび )はとてもできそうもないと思うと、 悲 ( かな )しくなってきました。 それに、今夜の 寒 ( さむ )い 野宿 ( のじゅく )のことも、心配でたまりません。 「こいつは、ますますひどくなるね、ガチョウくん。 」と、ニールスは言いました。 「だいいち、もうここの氷の上でこごえ死にするかもしれないぜ。 」 ところが、ガチョウときたら、じつにほがらかです。 「あぶなくなんかありゃしないよ。 さあ、おおいそぎで わらや草を、持てるだけ集めてきてくれたまえ。 」 ニールスが 両腕 ( りょううで )にいっぱい 枯 ( か )れ草をかかえてきますと、ガチョウは、くちばしでニールスのシャツの えりをくわえて持ちあげ、 氷 ( こおり )の上に飛んでいきました。 そこでは、ガンたちがくちばしを はねの中につっこんで、グウグウ 眠 ( ねむ )っていました。 「さあ、氷の上に草をひろげなさい。 そうすれば、その上に 寝 ( ね )られるし、こごえることもないからね。 きみはぼくを助けてくれた、そしてぼくも、きみを助けるってわけさ。 」と、ガチョウは言いました。 ニールスは言われたとおりにしました。 それがすみますと、ガチョウはまたもシャツのえりをつかんで、 はねの下に入れました。 「ここにいれば、あたたかくて気もちがいいよ。 」ガチョウはこう言いながら、ニールスをすっぽりと はねの中にくるみこみました。 ニールスは はね毛の中に 埋 ( うず )まっているので、返事をすることができません。 でも、これは、あたたかくて、すてきな 寝床 ( ねどこ )です。 そして、くたびれていたので、ニールスはすぐに眠りこんでしまいました。 ほんとうに、氷というものは、あぶなっかしくて、あてにならないものです。 ヴォンブ 湖 ( こ )のゆるんだ氷も、 夜中 ( よなか )に動きはじめて、とうとう、その一つのすみが 岸 ( きし )にとどいてしまいました。 ちょうどそのころ、 湖 ( みずうみ )の東がわのエーヴェードスクローステル 公園 ( こうえん )に住んでいるキツネのズルスケというのが、夜の えものをさがして歩きまわっていました。 そしてまもなく、この氷の上にガンたちが 寝 ( ね )ているのを見つけました。 ズルスケはこの日の夕方に、ガンたちの姿を見かけていたのですが、そのときには、まだ、どれか一 羽 ( わ )をつかまえてやろうなんて気はすこしもありませんでした。 けれどいまは、いっさんに氷の上を走っていきました。 しかし、ズルスケがガンたちのすぐそばまで来たとき、ふいに足がすべって、 爪 ( つめ )で氷をガリッとやってしまいました。 その音に、ガンたちはハッと目をさまし、 はねをばたばたやって、 飛 ( と )びたとうとしました。 けれども、ズルスケはそれより早く、矢のように 突進 ( とっしん )して、一 羽 ( わ )のガンの はねをくわえるが早いか、ふたたび 岸 ( きし )のほうへかけもどりました。 けれど、この 晩 ( ばん )、氷の上にいたのはガンたちだけではありません。 からだはちっぽけでも、人間にちがいないニールスもいたのです。 ニールスは、ガンが 羽 ( は )ばたいたとき、目をさましました。 そして、氷の上にころげ落ちたものですから、 寝 ( ね )ぼけまなこでぼんやりすわりこんでいました。 さいしょのうちは、いったい、なんのさわぎが 起 ( お )こったのやら、わけがわかりませんでした。 と、とつぜん、氷の上を足の 短 ( みじか )い小犬が、ガンをくわえて走っていくのが、目にはいりました。 それを見るなりニールスは、犬からガンを取りもどそうと、すぐさま、かけだしました。 うしろからガチョウが、「オヤユビくん、気をつけたまえ! 気をつけたまえ!」とさけんでいるのが聞こえました。 しかし、なあに、あんな小犬ぐらい、こわがることなんかないと思って、かまわず、あとを追いかけました。 キツネのズルスケにひきずられていくガンは、ニールスの 木靴 ( きぐつ )が氷にコツコツとぶっつかる音を聞きつけました。 でも、どうしてもじぶんの耳を 信 ( しん )じることができません。 そして、「あのチビさんは、ぼくをキツネから取りかえせると思っているんだろうか?」と、心の中で思いました。 すると、こんなふしあわせな目にあっていながらも、うれしそうにのどの 奥 ( おく )のほうでクックッと鳴きはじめました。 まるで笑っているようでした。 「だけど、あの子はすぐに氷の 割 ( わ )れ目にでも 落 ( お )っこちるぐらいのとこだろうな。 」と、ガンは心ぼそくなってきました。 まっくらな夜でした。 でも、ニールスには氷の上の割れ目も穴もはっきりと見えるものですから、うまくその上をとびこえていきました。 つまり、ニールスはいまでは、夜の 暗 ( くら )やみでもよく見える 小人 ( こびと )の目を持っていたのでした。 なにもかもが 灰色 ( はいいろ )で黒ぐろとしていましたが、ニールスの目には 湖 ( みずうみ )も 岸 ( きし )も、まひると同じようにはっきりと見えました。 ズルスケは、氷が岸にくっついているところから、 陸 ( りく )にとびうつりました。 そして、 土手 ( どて )をかけあがろうとしたとたんに、ニールスが大声で呼びかけました。 「そのガンを 放 ( はな )せ! やい、こそどろめ!」 キツネにはだれがどなっているのかわかりませんが、グズグズ見まわしているようなひまはありません。 もっともっと早く走りだしました。 キツネは美しい大きなブナの森をめがけて、いっさんに、かけていきました。 ニールスもそのあとを追いかけました。 いまは、あぶないことも忘れているのです。 それどころか、ニールスの頭には、この日の夕方にガンたちからバカにされたことだけが、こびりついていて 離 ( はな )れないのです。 そこで、たとえ、からだはちっぽけでも、人間というものがどんな生き物よりもすぐれているということを、ガンたちに見せてやりたいと思っていたのです。 ニールスは、その えものを 放 ( はな )せと、なんどもなんどもさけびました。 「きさまは、なんて犬だ! ガンをぬすんだりして 恥 ( は )ずかしくないのか? すぐ放せ。 放さなきゃ、 痛 ( いた )い目にあわすぞ! 放せったら。 放さなきゃ、きさまのやったことを主人に言いつけるぞ!」 ズルスケは、じぶんがおくびょうな犬とまちがえられたかと思うと、おかしくてたまりません。 つい、そのひょうしに、ガンを 落 ( おと )しそうになりました。 もともと、このズルスケは、野原や山でネズミや川ネズミをつかまえているだけでは 満足 ( まんぞく )できず、人の家まで出かけていっては、ニワトリやガチョウをぬすんでくる、大どろぼうだったのです。 そして、このあたりの人間たちからこわがられていることは、じぶんでもよく知っていました。 そのじぶんにむかって、なんというおどし 文句 ( もんく )でしょう。 こんなばかげたことは、 生 ( う )まれてこのかた聞いたことがありません。 ニールスは力のかぎり走りました。 まるで大きなブナの木々が、うしろへ 飛 ( と )んでいくようです。 ニールスとズルスケの 距離 ( きょり )はだんだんちぢまってきました。 と、ついに追いつきました。 ニールスはズルスケのしっぽにとびつきました。 「さあ、どんなことがあっても、ガンは取りかえしてみせるぞ!」と、ニールスはさけびながら、力いっぱいしっぽをひっぱりました。 けれども、ニールスにはズルスケを引きとめるだけの力がありません。 そのまま、このキツネにズルズルとひきずられていきました。 そうしているうちに、からだのまわりには、 枯 ( か )れ 葉 ( は )がいっぱいまつわりつきました。 ところでズルスケのほうでは、追いかけてきたやつが、たいしたものではないと見てとると、走るのをやめました。 そして、ガンを地べたにおいて、 逃 ( に )げられないように、前足でおさえつけ、いまにもその首をかみきろうとしました。 ところがそのとき、ちょいとこのちっぽけなやつをからかってやれという気まぐれを 起 ( お )こしました。 「さっさと主人に言いつけるがいい。 いまこのガンをかみ 殺 ( ころ )すところだからな。 」と、ズルスケは、ニールスに言いました。 ニールスは、自分の追いかけている犬が、 鼻 ( はな )がとがっていて、しゃがれた、いじわるい声をしているのに気がつくと、びっくりしました。 でも、こんなどろぼうにからかわれたのが、しゃくにさわってたまりません。 それで、こわいなんて気もちは、ちっとも起こりませんでした。 ニールスは、ブナの 幹 ( みき )にからだをささえながら、ズルスケのしっぽをしっかりとにぎっていました。 キツネはパクッと口をあけて、ガンののどもとにあてました。 そのとたん、ニールスはあらんかぎりの力で、そのしっぽをひっぱったのです。 さすがのキツネもこれにはたまらず、思わず二、三歩あとへさがりました。 そのすきに、ガンはすばやく 逃 ( に )げました。 けれども、 弱々 ( よわよわ )しく、ヨタヨタと 舞 ( ま )いあがりました。 かたほうの はねが 傷 ( きず )ついていたので、ほとんどその はねを使うことができなかったのです。 それに、まっくらな森の中では何一つ見えません。 めくらと同じことで、どうすることもできないのです。 ですから、ニールスを助けるなんてことは、思いもよりません。 茂 ( しげ )った 木立 ( こだち )のあいだを、あっちにぶっつかり、こっちにぶっつかりしながら、そのガンは、やっとのことで 湖 ( みずうみ )まで帰ってきました。 いっぽう、ズルスケは、こんどはニールスめがけてとびかかりました。 そして、「あいつは 捕 ( と )りそこなったが、ほかのやつをきっと 捕 ( つかま )えてみせるぞ。 」と、うなって言いました。 その声のようすでは、 腹 ( はら )の 底 ( そこ )から 怒 ( おこ )っています。 「ふん、そんなことができるもんか!」と、ニールスは言いました。 もののみごとに、ガンを助けてやることができたので、 大得意 ( だいとくい )だったのです。 そして、まだキツネのしっぽをしっかりとにぎり、キツネがつかみかかろうとすると、そのたびに、反対がわへグルグルとまわってしまいます。 さあ、森の中でぐるぐる 踊 ( おど )りがはじまりました。 まわりのブナの葉はさかんに 飛 ( と )びちります。 ズルスケは、グルグル、グルグルまわりますが、それにつれて、しっぽもグルグル、グルグルまわります。 ニールスはしっぽにしっかりとつかまっているものですから、キツネには、どうしても 捕 ( つかま )えることができません。 ニールスは、うまくガンを助けてやったので、うれしくてうれしくてたまりません。 はじめのうちは笑いながら、キツネをからかっていました。 でも、キツネ先生は、いつまでも 根気 ( こんき )よくやっています。 まったく、これはどこからみても、りっぱな 狩人 ( かりうど )です。 そこで、ニールスは、この 調子 ( ちょうし )では、いつかはつかまえられるかもしれないぞ、と、だんだん心ぼそくなってきました。 そのとき、ふと、そばを見ますと、 竿 ( さお )のようにすらりとした、小さな若いブナの木が一本 生 ( は )えています。 この木の上には、 年老 ( としお )いたブナの木々の枝がおおいかぶさっているので、その上に出れば、すぐに 逃 ( に )げだすこともできるでしょう。 ニールスはキツネのしっぽをさっと 放 ( はな )して、ブナの木によじのぼりました。 しかし、キツネのほうは むがむちゅうなので、なおもじぶんのしっぽをめがけて、ぐるぐるまわりをつづけています。 と、だしぬけに、「もう 踊 ( おど )りなんかやめたらどうだい。 」と、ニールスが声をかけました。 キツネはプンプン怒っていました。 こんなチビスケが 捕 ( つかま )らない 面目 ( めんぼく )なさに、むしゃくしゃしていました。 そこで、ブナの木の下にじっと 腰 ( こし )をおろして、ニールスを見はることにしました。 ところで、ニールスはいまにも折れそうな枝にのっかっているので、のんきにかまえているわけにはいきません。 ところが、このブナの木は、ほかの木の枝に 乗 ( の )りうつることができるほど高くはなかったのです。 といって、もちろん、下へおりる気にはなれません。 寒 ( さむ )さはひどくなり、手足はしびれきって、枝につかまっているのもやっとになりました。 おまけに、ひどく 眠 ( ねむ )たくなってきました。 でも眠ったがさいご、地べたに 落 ( お )っこちてしまいます。 それで、一生けんめいがまんしていました。 ああ、森のまんなかで、 一晩 ( ひとばん )じゅうこんなふうにしていなければならないなんて、なんという 恐 ( おそ )ろしいことでしょう! ニールスは、いまのいままで、夜ってものがどんなものであるか知りませんでした。 見れば、すべてのものが石になってしまい、もう二どと生きかえってはこないように思われます。 そのうちに、夜があけはじめました。 ニールスは、なにもかもがまたもとの 姿 ( すがた )にかえったのを見て、うれしくなりました。 けれど、 寒 ( さむ )さは 夜中 ( よなか )よりも、かえっていまのほうが、きびしく感じられます。 とうとう、お日さまがのぼってきました。 でも、いまは 金色 ( きんいろ )ではなくて、まっかです。 気のせいか、お日さまは 怒 ( おこ )っているように見えます。 だけど、なにを怒っているのだろう、とニールスはふしぎに思いました。 きっと、お日さまのいないあいだに、夜が地上をこんなにつめたく、 陰気 ( いんき )にしてしまったからなんだろうか。 お日さまの光は、夜が地上で何をしていたかを見るために、ふりそそいできました。 すると、空を流れる 雲 ( くも )、 絹 ( きぬ )のようにつややかなブナの 幹 ( みき )、 細 ( こま )かく入りくんだ枝、ブナの落ち葉をおおっているシモ、こうしたすべてのものがさっと赤くなりました。 お日さまの光が、ますますあかるく 射 ( さ )してきました。 やがて、夜の 恐 ( おそ )ろしさも 消 ( き )えました。 手足のかじかみも、いまでは感じなくなったようです。 すると、びっくりするほどたくさんの生き物の姿が見えてきました。 赤い 首 ( くび )をした黒いキツツキは、くちばしで木の 幹 ( みき )をつつきはじめました。 リスは、クルミをかかえて 巣 ( す )からチョコチョコ出てくると、木の枝にすわって、クルミをかじりはじめました。 ムクドリは細い根をくわえて飛んできました。 アトリは木のこずえでさえずりはじめました。 そのときニールスは、お日さまがこういう小さい生き物たちにむかって、 「さあ、目をさまして、 巣 ( す )から出ておいで! わたしはここにいるんだよ! もうなんにもこわがることはないよ。 」と言っているのを聞きました。 ガンたちが 旅立 ( たびだ )とうとして 鳴 ( な )きたてている声が、 湖 ( みずうみ )のほうから聞こえてきました。 それからまもなく、みんなで十四 羽 ( わ )のガンが、森の上を 飛 ( と )んできました。 ニールスは大声で呼んでみましたが、ガンのむれはずっと上のほうを飛んでいて、そこまでは声がとどきません。 みんなは、きっと、ニールスはもうキツネにたべられてしまったと思っているのでしょう。 そこで、もうじぶんをさがしてみようとはしないのだな、とニールスは思いました。 ニールスはすっかり心ぼそくなってきて、いまにも泣きだしそうになりました。 けれども、空を見あげれば、そこにはお日さまがニコニコと 金色 ( きんいろ )に 輝 ( かがや )いていて、世界じゅうに元気をあたえています。 「ニールス・ホルゲルッソンや、わたしがここにいるかぎり、ちっともこわがることはないよ。 」と、お日さまはそう言っていました。 三月二十一日、火曜日 ガンが、朝ごはんをたべていると思われるあいだは、森の中ではべつに 変 ( か )わったこともありませんでした。 ところが、それからまもなくです。 一 羽 ( わ )のガンが 茂 ( しげ )った枝の下に 飛 ( と )んできました。 そのガンは 幹 ( みき )や枝のあいだを 縫 ( ぬ )って、ゆっくりとあちこちを飛びまわりました。 キツネはガンの姿を見つけますと、すぐさま小さいブナの木の下を 離 ( はな )れて、そっとガンのほうへ 忍 ( しの )んでいきました。 ところが、 驚 ( おどろ )いたことには、ガンはキツネをよけようともしないで、かえって、すぐ近くまで飛んでくるではありませんか。 そのとたんに、ズルスケはさっと高く 跳 ( は )ねあがりました。 けれども、 失敗 ( しっぱい )です。 ガンは 湖 ( みずうみ )のほうへ飛んでいってしまいました。 やがて、もう一羽のガンが飛んできました。 このガンもさっきのガンと同じようにやってきます。 けれども、まえのよりももっと 低 ( ひく )く、もっとゆっくりと飛んでいます。 そのうちに、ズルスケの頭の上まできました。 こんどこそは、とズルスケがとびあがります。 耳がガンの足にさわりました。 けれど、またまたこのガンも、 傷 ( きず )ひとつ受けずに 逃 ( に )げてしまいました。 そして、ひとことも言わないで、 湖 ( みずうみ )のほうへ飛んでいきました。 しばらくすると、また一 羽 ( わ )のガンがやってきました。 さっきのよりも、もっと低く、もっともっとゆっくり飛んでいます。 ブナの枝のあいだをすりぬけていくのが、だいぶむずかしそうに見えます。 ズルスケは 勢 ( いきお )いよくおどりあがりました。 と、このガンは、もうすこしのところで 捕 ( つかま )りそうになりましたが、それでもとうとう逃げてしまいました。 このガンが見えなくなりますと、すぐに四ばんめのガンが姿を見せました。 これはまた、いやにゆっくりと飛んでいます。 ズルスケは、こんどこそわけなく 捕 ( つかま )えられるだろうと思いました。 けれど、ゆだんをして、またしくじってはたいへんです。 それで、こんどはなんにもしないで、しばらく飛ばせておいてやろうと思いました。 けれども、このガンも、さっきまでの 仲間 ( なかま )と同じように、ズルスケの ま上までくると、ぐっと 低 ( ひく )く 舞 ( ま )いおりました。 ズルスケは思わずつりこまれて、またまた力いっぱいおどりあがりました。 すると、 爪 ( つめ )のさきが、ちょっとさわりはしましたが、ガンはすばやく身をかわして、逃げていってしまいました。 ズルスケが 息 ( いき )をつくひまもないうちに、三 羽 ( ば )のガンが、一列にならんでやってきました。 こんども、さっきの仲間たちと同じように飛んできます。 ズルスケは、またしても高くとびあがりましたが、一 羽 ( わ )も 捕 ( つかま )えることができませんでした。 そのあとから、また五 羽 ( わ )のガンがあらわれました。 このガンたちは、いままでの仲間たちよりも、もっとじょうずに飛んできました。 そして、いかにもズルスケがとびつきたくなるようにしむけましたが、ズルスケはやっとのことで思いとどまりました。 かなりたって、また一羽のガンが姿を見せました。 これで十三ばんめです。 このガンはたいそう年とっていて、からだじゅうが 灰色 ( はいいろ )で、黒いすじ一つ見えません。 かたほうの はねがうまく使えないらしく、ひどくへたくそに、かたむいて飛んでいます。 そのため、いまにも 地面 ( じめん )にさわりそうです。 ズルスケはこのガンめがけて、思いきり高く 跳 ( は )ねあがりました。 が、またまた 失敗 ( しっぱい )です。 それで、走ったりとびあがったりしながら、 湖 ( みずうみ )まで追いかけていきました。 けれど、こんども 骨 ( ほね )おっただけで、なんのたしにもなりませんでした。 十四ばんめのガンが飛んできました。 この鳥は、からだじゅうがまっ白で、じつに美しく見えました。 大きな はねが動くたびに、 暗 ( くら )い森の中がキラキラとあかるくなるようでした。 ズルスケはこの鳥の姿を見ますと、からだじゅうの力をこめて、木の半分ほどの高さまでおどりあがりました。 しかし、この白い鳥も、まえのと同じように、 傷 ( きず )ひとつ受けないで逃げていってしまいました。 こうして、ブナの木の下はしばらく 静 ( しず )かになりました。 もうガンのむれは、すっかり飛んでいってしまったようです。 そのときズルスケは、ふと、さっきの ほりょのことを思いだしました。 さいしょのガンを見たときから、あのチビさんのことは 忘 ( わす )れてしまっていたのです。 そして、もちろんニールスの姿は、もうそこには見えませんでした。 しかし、ズルスケがチビさんのことを考えているひまは、あまりありませんでした。 というのは、さいしょ飛んできたガンが、またも 湖 ( みずうみ )のほうからもどってきて、木の下をゆっくりと飛びはじめたからです。 ズルスケはあんなにしくじったあとで、ガンがもどってきたのを見ますと、大よろこびでした。 そこでさっそく、そのガンめがけて、力のかぎりとびあがりました。 けれども、あせりすぎて、よく 狙 ( ねら )いをつけるひまがありませんでしたから、 的 ( まと )がはずれてしまいました。 そのあとから、また一 羽 ( わ )飛んできました。 それから、また一羽、そうして、第三、第四、第五のガンがあらわれたと思うと、とうとうしまいには、白っぽい 灰色 ( はいいろ )の年とったガンと、まっ白い大きなガチョウまで飛んできました。 みんなはゆっくりと 低 ( ひく )く飛んでいます。 そして、キツネの ま上までくると、キツネがつかまえたくなるように、わざわざ、もっと低く 舞 ( ま )いおりるのです。 それを見ると、ズルスケはそのあとを追いかけて、なんどもなんども高くとびあがりました。 けれど、一羽だって 捕 ( つかま )えることはできませんでした。 キツネのズルスケは、この日ぐらいひどい目にあったことはありません。 ガンたちは、あいもかわらずズルスケの頭の上を、あちこちと 飛 ( と )びつづけているのです。 ドイツの 畑 ( はたけ )や野原でたくさんたべて 肥 ( ふと )ってきた、この大きなすばらしいガンたちは、一日じゅう森の中でズルスケのそばをすれすれに飛びまわるのでした。 ズルスケは、いくどもいくども、ガンにさわるくらい高くとびあがりましたが、すいたおなかの たしになってくれるようなガンは、一羽だってありませんでした。 冬はもう終わろうとしていました。 いまズルスケは、いく日もいく 晩 ( ばん )も、 えもの一ぴきつかまらずに、ブラブラほっつき歩かなければならなかった時のことを思い出しました。 むりもありません。 そのころは、 渡 ( わた )り鳥たちはよその国へいってしまい、ネズミたちは 凍 ( こお )った地面の下にかくれ、ニワトリたちは小屋の中にとじこめられていたのですから。 けれど、冬じゅうおなかのへっていたことも、きょう一日の 失敗 ( しっぱい )にくらべれば、なんでもありません。 ズルスケはもう 若僧 ( わかぞう )ではありませんでした。 犬に追いかけられたこともたびたびありますし、鉄砲のたまが耳のそばをヒュウヒュウかすめていったこともあります。 また、 穴 ( あな )の 奥 ( おく )にかくれているとき、はいこんできた犬に、もうすこしで見つかりそうになったこともあります。 けれども、そういうはげしい 狩 ( か )りの間じゅうビクビクしていた不安な気もちも、きょう、このガンたちを 捕 ( と )りそこなうたびに味わった、あのにがい気もちとは、くらべものになりません。 けさ、 狩 ( か )りがはじまったときは、ズルスケはガンたちが目を見はるほど、すばらしい なりをしていました。 なにしろ、このズルスケときたら、 はでなことが大すきなのです。 上着 ( うわぎ )はキラキラ 輝 ( かがや )くほど赤く、 胸 ( むね )は白く、前足は 黒 ( くろ )、そして、しっぽがまた、鳥の はね毛のようにふさふさしていました。 けれども、それよりももっとすばらしいのは、ズルスケが動くときに見せる力づよさ、目のらんらんとした光りかたでした。 ところが、夕方になると、上着は しわがよってクシャクシャになるし、からだは 汗 ( あせ )びっしょり、目の光はどんよりとして、 舌 ( した )はハアハアあえいでいる口からだらりとたれ、おまけに口からは あわを吹いているというありさまでした。 午後になると、ズルスケはすっかりくたびれて、もう何がなんだかわからなくなりました。 とにかく、目の前をガンたちが飛んでいるということのほかは、なんにもわかりません。 とうとうしまいにズルスケは、枝の間から地面の上に 射 ( さ )しているお日さまの光や、サナギからかえったばかりのあわれなチョウにまで、とびかかるのでした。 ガンのむれはひっきりなしに飛びつづけて、一日じゅう、ズルスケを苦しめました。 ズルスケが 疲 ( つか )れはてて、目がまわり、気もくるうばかりになったのを見ても、ちっともかわいそうだと思うようすはありません。 しかも、そのズルスケはもう、ガンの姿を見ることができず、ただその影にむかってとびかかっているだけなのです。 ガンのむれは、そのことをちゃんと知っていながらも、あいかわらず、キツネのまわりを飛びつづけるのでした。 こうして、キツネのズルスケが、からだじゅうの力もぬけ、いまにも気が遠くなりそうになって、つもった 枯 ( か )れ葉の上にぶったおれたとき、ガンのむれはやっと、キツネをからかうのをやめにしました。 「さあ、どうだい、キツネくん。 ケブネカイセのアッカさまを相手にしようとする者は、どんな目にあうか、おわかりだろう!」と、ガンのむれはズルスケの耳もとでこうさけぶと、ようやく、キツネを 許 ( ゆる )してやりました。 [#改ページ] 三月二十四日 金曜日 ちょうどそのころ、スコーネ地方にある 事件 ( じけん )が起こりました。 それは 大評判 ( だいひょうばん )になって、新聞にまでのりました。 けれども、なんとも 説明 ( せつめい )のつかないふしぎなできごとでしたので、たいていの人たちは、そんなものは作り話だろうと思いました。 つまり、その事件というのは、こうなのです。 ヴォンブ 湖 ( こ )の岸べに 生 ( は )えているハシバミのやぶの中で、メスのリスが一ぴき 捕 ( つかま )えられて、近所の 農家 ( のうか )につれていかれました。 農家の人たちは、年よりも子どもも、みんな、このリスの愛くるしい大きなしっぽと、もの 珍 ( めず )らしそうに 眺 ( なが )めまわすりこうそうな目と、かわいらしい小さな足とを見て、大よろこびでした。 みんなは、リスのすばしこい動きかたや、 器用 ( きよう )にクルミの からをかじるところや、たのしそうに 遊 ( あそ )ぶのを見ていれば、夏じゅうおもしろくすごせるだろうと思いました。 さっそく、みんなは古いリスのかごを持ってきてやりました。 このかごには、かわいい 緑 ( みどり )の家と、 針金 ( はりがね )でこしらえた車がはいっていました。 家には戸と 窓 ( まど )もちゃんとついていて、これがリスの 食堂 ( しょくどう )と 寝室 ( しんしつ )というわけです。 そこで、みんなは木の葉っぱの 寝床 ( ねどこ )と、ミルク入れと、それからクルミを二つ三つ入れてやりました。 車のほうはリスの遊び場です。 リスがこれにのっかって、かけのぼれば、グルグルまわる しかけになっているのです。 人々は、リスのためにずいぶん気もちよくしてやったつもりでいました。 ところが、リスはと見れば、ちっとも 満足 ( まんぞく )していないようすです。 みんなはびっくりしてしまいました。 リスは 部屋 ( へや )のすみっこにすわりこんで、 悲 ( かな )しそうに、しょげきって、ときどき 訴 ( うった )えるような、 鋭 ( するど )い 悲 ( かな )しみの声をはりあげているではありませんか。 もちろん、たべものにはさわりもしませんし、車だって一どもまわそうとはしません。 「おっかながっているんだ。 」と、農家の人たちは言いました。
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