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両国 タピオカ

2016年の日本の天然でん粉輸入量のうち、84. 5%がタピオカでん粉である()。 そのうち、タイ産が大半を占め、その他わずかにベトナム産やミャンマー産などがある。 輸入タピオカでん粉は、食品用や工業用などさまざまな用途で利用されており、日本のでん粉市場において非常に重要な品目となっている。 しかし、近年タイとベトナムでは、タピオカでん粉の原料であるキャッサバの価格が低水準で推移し、他作物への転作が進むなど厳しい環境となっている。 このような中で、タイでは品種改良や政府支援などによる単収向上、ベトナムでは工場設備の近代化によるキャッサバ製品の品質向上などに取り組んでいる。 そこで本稿では、当機構が6月に実施した現地調査により得られた情報を中心に、タイ、ベトナムのタピオカでん粉の生産動向やそれに関連する政策などについて報告する。 なお、本稿中の為替相場は、1タイバーツ=3. 39円(2017年7月末日TTS相場)および1ベトナムドン=0. 005円(同日参考相場:0. 004867円)を使用した。 (1)キャッサバの生産動向 ア.生産概要 キャッサバ生産量は、病害虫のコナカイガラムシ (注1)が発生した影響により2010〜2011年は大幅に減少したものの、2012年には病害虫発生前の水準にまで回復し、その後はほぼ横ばいで推移している()。 2016年は、作付面積は149万ヘクタール(前年比0. 5トン(同4. タイタピオカ取引協会によると、農地面積には限りがあるため、さらなる作付面積の拡大は難しく、生産量の増加には、単収の向上が必要であるという。 一方、近年のキャッサバの生産者販売価格は、キャッサバ製品の最大の輸出先である中国向け輸出が同国の需要減により減少したことなどから低水準で推移している()。 中国では、2016年3月にトウモロコシの臨時備蓄政策を見直したことで (注2)、でん粉原料向け、エタノール原料向けの双方で、キャッサバ製品(タピオカでん粉やタピオカチップ)よりもトウモロコシの利用が拡大していることに加え、競合するラオスやカンボジア産タピオカチップのシェアが高まっている。 その結果、キャッサバより収益性に勝るサトウキビやトウモロコシなどへの転作が進んでおり、今後の生産量の減少が危惧されている。 (注1)主にキャッサバの茎葉部分に付着し、養分を吸い取ってしまう病害虫。 地中のいもは栄養が足りずに肥大が阻害され、結果として単収が減少してしまう。 (注2)詳細については本誌2017年6月号「中国の穀物需給動向〜穀物政策の変更をめぐる現状〜」を参照。 (2)生産性向上の取り組み 前述の通り、タイでは(1)作付面積の拡大が難しく(2)キャッサバ販売価格が低水準で推移している-ことから、生産性向上に向けたさまざまな取り組みが実施されている。 ア.政府による支援 政府から生産者への直接的な支援として、過去さまざまな施策 (注)が講じられてきたが、現在は「融資制度」のみを実施している。 全体の予算は約23億バーツ(77億9700万円)で、融資の内容ごとに細かく予算が振り分けられている。 例えば、単収向上につながる点滴かんがいを導入する生産者は、タイ農業銀行から1世帯当たり23万バーツ(77万9700円)を上限に低利融資を受けることができる。 この融資を受けるには、点滴かんがいを4年間実施するという条件もあるが、通常の利率が7%のところ、政府が3%の利子補給を行うため4%で融資を受けることができる。 また、キャッサバをタピオカチップ工場へ販売するのではなく、生産者自ら加工し、付加価値を付けて販売できるように、簡易で小規模なタピオカチップ施設を整備する際には、生産者は0. 1%の低利率で融資を受けることができる。 さらに、政府は輸出企業に対するキャッサバ製品の最低輸出価格の設定やエタノール製造企業に対するエタノール製造用キャッサバの最低買い取り価格の設定などを求めているが、これらを義務化できる法律はなく、あくまで政府からの要請にとどまっている。 タイタピオカ取引協会は、キャッサバ製品の最低輸出価格について、主な輸出先である中国からの需要が減少しているため、設定の遵守は厳しい状況にあり企業ごとに対応は異なるだろうとした一方、エタノール製造用キャッサバの最低買い取り価格は、2017年は一部の企業は設定を遵守することができたのではないかとしている。 その他、政府は、生産者価格を維持するため、キャッサバ製品輸出業者に対し、輸出量の1. 5倍の在庫を常時保管するよう求めているが、業界関係者によると、保管経費の負担が増加することに加え、顧客からは過剰在庫と見られるため買いたたかれてしまう要因になっていると疑問を呈していた。 また、民間企業や大学と連携して土壌分析やそれに基づく施肥の研究、点滴かんがいの実証展示なども行っている。 (注)詳細については本誌2015年3月号「タイのキャッサバの需給動向とエネルギー政策」を参照。 イ.新品種の開発・普及 作付面積の拡大が難しいタイにおいて、生産量のさらなる増加には、収量の高い品種の開発・普及が重要な課題の一つであり、複数の団体が開発に尽力している。 中でも、1992年に設立されたタピオカ開発基金(以下「開発基金」という)は、新品種の開発だけでなく、生産者への無料配布、さらには営農指導なども行っている。 開発基金は設立時に政府から拠出された6億バーツ(20億3400万円)の運用益のみで運営を行う非営利組織である。 開発基金では、新品種開発の方向性を決定し、タイを代表する大学の一つであるカセサート大学に資金を提供し開発を依頼する。 開発基金は同大学が開発した新品種を自らが所有する800ヘクタールの土地で育苗し、希望する生産者に無料で配布している。 開発基金では、品種開発において、多収性とでん粉含有率の高さを重視しており、2017年5月に配布を開始したホイボン90もそうした特長を有している()。 加えて、ホイボン90は茎葉の繁茂が早い特長があり、これにより地面に日光が当たらず、雑草が生えにくくなる。 ワキシー品種も同基金で最近開発された特別な品種である。 この品種は主に食品用途の原料として開発されたもので、製造されたでん粉は透明度、粘性、耐老化性などに優れている。 それ故に、他品種の混入を防ぐため、同品種のでん粉製造前に工場内すべての機械を清掃しなければならない。 このように、さまざまな品種の開発を進める要因について、開発基金の会長は「地域によって土壌の状態などが異なるため、生産者は自分の土地にあった品種を選択する必要がある。 より多くの選択肢を用意することが大切だ」としている。 さらに、タイのでん粉産業について「タイはでん粉産業に収益性を感じ、これまで発展してきた。 しかし、ベトナムが米とともにタピオカチップ、タピオカでん粉の生産を拡大し、ラオス、カンボジア、ミャンマーも中国資本の積極的な投資によりタイを上回る速さで、キャッサバ・でん粉産業が発展している。 タイは、土地代、労働費、輸送費などの面では、これらの国々とは競合できないため、将来的には、キャッサバを原料農産物として近隣国から輸入し、それに付加価値をつけて輸出する、または製品ではなく、栽培技術、新品種、マーケティングノウハウを輸出することに重点を置くべきである」と、近隣国の台頭に危機感を抱きつつも、自国の新たな可能性について語った。 ウ.生産者のグループ化 現在拡大している取り組みの一つに生産者のグループ化がある。 タイでは、個々の生産者が有する農地は小さく、また、規模拡大も難しいとされている。 そこで、生産者がグループ化し、農産物の共同販売、農業資材などの共同購入、機材の共同利用によりコスト削減に努めている。 グループ化は、でん粉工場に対する価格交渉力が高まるメリットもある。 全国のキャッサバ生産(約3100万トン)の4分の1を占めるナコーンラーチャシーマ県には現在63のグループがあり、約1万500人が参加し、参加者の作付面積を合計すると約2万3500ヘクタールとなる。 これは同県の作付面積の約8%とまだわずかであるものの、今後の拡大が期待されている。 (3)でん粉の製造企業の動向 タイには天然でん粉工場95施設と化工でん粉工場20施設が存在するが、これらのうち22施設は、同国最大のキャッサバ産地であるナコーンラーチャシーマ県に所在している()。 ここでは、同県の中央部に位置する大手でん粉製造企業であるSanguan Wongse Industries社(以下「SWI社」という)の概要について紹介する。 SWI社は天然でん粉を製造するほか、敷地内でグループ企業が化工でん粉工場、バイオガス工場を運営している。 天然でん粉工場の生産能力は1日当たり5000トン、操業日数は357日にも上る。 稼働率は、雨期である4〜6月はでん粉含有率が低く、集荷量が少ないため、30〜35%程度にとどまるが、年平均では65%程度になる。 その理由は、農業協同組合が利益を得ることで、最終的には農業協同組合に属している生産者が潤うと考えているからである。 SWI社は、調査時点で、でん粉含有率25%を基準に1キログラム当たり1. 6バーツ(5. 4円、以下「基準価格」という) (注)とし、でん粉含有率が1%上回るごとに0. 08バーツ(0. 3円)を上乗せし、逆に1%下回るごとに0. 05バーツ(0. 2円)引き下げて生産者からキャッサバを購入していた(、)。 キャッサバ生産者販売価格は、前述の通り低迷しているが、同県では他地域よりも若干高く、かつ、比較的安定している。 このため、同県の北に位置するウドーンターニー県からSWI社へ販売する生産者もいる。 なお、SWI社は、近年のキャッサバ取引価格(生産者販売価格)下落の一因であるラオスやカンボジアから中国へのタピオカチップの輸出増について、両国は中国で好まれる手作業によるカットに対応しているためとしている。 (注)調査した2017年6月時点の基準価格。 コラム1 グループ化によるキャッサバ生産性向上の取り組み ナコーンラーチャシーマ県のソム・キヤット氏は、56ヘクタール (注1)もの広大な土地でキャッサバ生産を行う一方、生産者グループの代表として96名のメンバーを取りまとめている(、)。 ソム・キヤット氏は、さまざまなセミナーへの参加などにより自身の栽培方法を確立した。 現在では1ライ(0. 16ヘクタール)当たり7トンのキャッサバを生産し (注2)、自身の栽培技術について講演も行うなど、地域を代表する生産者である。 同氏が率いる生産者グループは、近隣のでん粉工場であるSWI社主導で設立され今年で5年目となる。 設立時にSWI社から提供された20万バーツ(67万8000円)の活動資金を原資にグループ内の生産者に低利率(1%)で融資を行っている。 また、グループ内で生産されたキャッサバは、基準価格にかかわらず全量をSWI社へ販売している。 仮に基準価格が非常に低い場合であっても、基準価格の高い他のでん粉工場へ販売するのではなく、SWI社と買い取り価格について交渉を行うという。 ソム・キヤット氏は今後の目標について、自らは「点滴かんがいを実施し、現在の1ライ当たり7トンから同9トンまで単収を伸ばしたい」とした一方で、「グループ内には単収が同3トンにとどまり、赤字となっている者もいることから、グループ内の平均を同5トンまで底上げしたい」ともしている。 同氏は、単収の差は土壌の管理にあり、常に何かを栽培するのではなく、十分に土壌を休めることが大切だとしている。 ソム・キヤット氏は「情報共有を大切にし、例えば農地の半分だけでも私の栽培方法を実践してもらい、その効果から技術を学んで欲しい。 単収の向上は、本人の利益だけでなくやる気にもつながる」と意気込みを語った。 (注1)一般的な生産者の作付面積は4〜7ヘクタールである。 9トンである。 (4)バイオエタノール生産の促進 タイでは、2003年の原油価格の高騰などにより、同年12月に「ガソホール戦略計画(National Ethanol Program Gasohol Strategic Plan)」を公表し、バイオエタノールの生産、消費を推進してきた。 その後、2011年に策定した「代替エネルギー開発計画(Alternative Energy Development Plan )」は一部見直され、2015年から2036年までの計画であるAEDP2015として現在計画が進められている (注1)。 AEDP2015では、1日当たりバイオエタノールの消費を、現在の369万リットルから2036年には同1130万リットルへ増加させるとして、さらなる消費の拡大を推進している。 タイにおけるバイオエタノールの主な原料は、キャッサバと、サトウキビから砂糖を製造した際に生じる「糖蜜」である (注2)。 いずれの原料でもエタノール生産量は増加傾向で推移しており、特にキャッサバ由来は、キャッサバ取引価格の下落により、2011年から2015年までの間に3倍以上にも増加している()。 生産コストの原料による大きな差はなく、生産コストの70%は原料価格に依存する。 そのため、現在、キャッサバの方が安価にバイオエタノールを生産できる環境にある。 また、バイオエタノールの生産量の増加とともに、消費量も増加している()。 これは、政府による(1)2013年からのレギュラーガソリンの販売停止(2)E20 (注3)に価格優位性を持たせた上でのE20供給可能なガソリンスタンドの増設()(3)E10、E20、E85の理解を深めるためのキャンペーンの継続-などの施策を実施していることが大きい。 今後について、エネルギー省の担当者は「まずはキャッサバ由来バイオエタノールの生産量増加を重視する。 糖蜜のバイオエタノール生産への仕向け量はある程度上限に達したと考えているが、キャッサバ製品は、多くを輸出していることから、キャッサバでの生産の伸びしろは十分にあると考えている。 将来的には、キャッサバ製品の輸出量を減らしてでもエタノールに仕向け、いずれはバイオエタノールを輸出したい」とバイオエタノールの生産拡大に向け語った。 (注1)AEDPの詳細については、本誌2013年9月号「タイのエタノール政策と砂糖およびでん粉業界への影響」および2015年3月号「タイのキャッサバの需要動向とエネルギー政策」を参照。 (注2)カドミウム汚染土壌地域で栽培されたサトウキビの搾汁液については、例外的にエタノール生産に仕向けられる。 (注3)エタノールが20%混合されたガソリン。 以下、Eの後の数値がエタノール混合割合を示す。 コラム2 カンボジアのキャッサバ生産概要 カンボジアは、近年キャッサバ生産量が急激に増加しており、今後タイやベトナムとの競合の高まりが予想される存在として注目されている()。 カンボジアで最も栽培されている作物は米であり、農作物栽培面積の7割を占めている。 キャッサバは1割程度となっているが、米の次に多く栽培されている主要作物である()。 近年、栽培面積、生産量、単収すべてにおいて増加傾向にあり、特に2016年の栽培面積は67万6838ヘクタール(前年比18. 0%増)と過去最高を記録している()。 また、生産量の拡大とともに、輸出量も増加している()。 しかし、カンボジアのキャッサバ産業の課題として、国内にはでん粉工場などが少ないことから、多くのキャッサバが未加工のまま輸出されるため、輸出先のタイやベトナムから買いたたかれることがある。 キャッサバ生産量は、2015年現在タイの4割程度であるが、2014年にはベトナムを追い越しており、輸出も着実に増加しているため、今後のカンボジアのキャッサバ産業に注目したい。 (1)キャッサバの生産動向 ア.生産概要 ここ数年間のキャッサバ生産を見ると、作付面積、生産量ともに横ばいで推移し、2016年の作付面積は56万7000ヘクタール(前年比0. 1%増)、生産量は1080万トン(同1. しかし、ベトナムキャッサバ協会によると、2017年の作付面積は30%程度減少する見込みであり、これは、タイと同様、最大の輸出先である中国のキャッサバ製品への需要が減少したことに伴うキャッサバ生産者販売価格の低下などに起因している。 現在、キャッサバの作付面積は、米、トウモロコシ、サトウキビに次ぐ第4位となっているが、低調な価格の推移を受け、生産者の他作物への転作が進んでいるという。 北部では、主にオレンジやヒマワリなどへ、南部ではザボンやパッションフルーツなどの果樹への転作が多く、生産物の収穫まで3年程度を要する作物も多いことから、キャッサバの作付面積は、少なくとも3年間は低水準で推移する可能性がある。 イ.仕向け先 ベトナムでは、生産されたキャッサバのうち、45%はでん粉、40%はチップ・ペレット、15%は加工しないまま飼料へ仕向けられる()。 最も割合の多いでん粉向けについて見ると、ほとんどが天然でん粉向けに使用され、その多くは輸出される。 輸出の80%以上が中国向け、残りがインドネシア、フィリピン向けなどとなっている。 ここでは、タイニン省とタンホア省のでん粉工場を紹介する()。 ア.Dinh Khue社(タイニン省) Dinh Khue社のでん粉工場は、生産能力は1日当たり280トン、タイニン省に存在する26のでん粉工場の中でも最大級である。 同省では、でん粉生産工場に対する環境保全の取り決めがあり、でん粉工場の生産の上限は同200〜280トンと定められている。 原料のキャッサバは3分の2(160万トン)を省内から集荷し、残りはカンボジアから輸入している。 同省産のキャッサバはカンボジア産と比べ品質が良いが、集荷量は、生産者販売価格の低下に伴うサトウキビなどの他作物への転作の進展から、減少傾向となっている。 キャッサバは、でん粉含有率30%を基準価格とし、タイのSWI社と同様に、でん粉含有率に応じた単価で買い取っている。 同工場の稼働期間は7月〜翌4月であり、年間生産量は4万5000〜5万トンである。 生産されたでん粉の15%は国内向けで、インスタントラーメンや菓子の製造企業などへ販売される。 一方、85%は輸出向けであるが、そのほとんどが中国向け、ごく一部がマレーシア向けである。 最近、製品の品質に影響を与える主要な機械については、性能の良いドイツ製と日本製のものを導入したことに加え、これまで輸出実績のないインドからの需要もあり、今後輸出の多様化を進めていくとみられる。 イ.Phuc Thinh社(タンホア省) Phuc Thinh社のでん粉工場は、日本の農林水産省に相当する農業農村開発省の管轄下にあった国有企業で、2014年に株式会社化した。 稼働期間は10月〜翌4月で、生産能力は1日当たり250トン、年間生産量は約3万トンである。 また、ラオスにも合弁会社を所有しており、その工場の生産能力も同程度である。 タンホア省の工場では、同省内のほか、近隣のハティン省やゲーアン省からもキャッサバを集荷している。 でん粉製品の価格が高い時期は、ラオスからも輸入することがあるが、2016年は価格が安かったため輸入していない。 タイニン省と同様、キャッサバ生産者販売価格の低下に伴う転作が進んでおり、集荷量は減少している。 同工場は、タイニン省などの南部と異なり、多くが契約に基づきキャッサバの買い取り価格を事前に決める。 生産者を取りまとめるほか、トラックを所有し、工場へのキャッサバの搬入作業も担当する代表者が、集荷計画を作成する。 その後、地方政府立会いの下、工場の担当者が現地視察し、問題なければ代表者と契約する。 契約には、でん粉製品の需給動向などを勘案した保証価格も盛り込まれ、キャッサバの買い取り時は、保証価格と市場価格のいずれか高い価格となる。 2016年の保証価格は1キログラム当たり1000ドン(5円)だったが、2017年は需要が拡大すると見込まれ、同1200ドン(6円)としている。 このような保証価格が設定されていることもあり、同工場では原則としてでん粉含有率22%以上のキャッサバしか仕入れないとする一方、でん粉含有率が高い場合のプレミアムも存在しない。 でん粉含有率22%未満の時は、生産者は同工場と交渉する場合もあるが、買い取り価格が低くなってしまうため、他社へ販売したり自家消費したりすることが多い。 同工場としては南部のようにでん粉含有率に応じて支払いたいが、北部と南部では取引の文化が異なり、生産者が同意しないという。 生産されたでん粉の23%は国内向け、77%は輸出である。 輸出の90%が中国向けで、残りはベラルーシやロシア向けである。 用途は食品用、工業用(製紙、段ボール、薬品など)などさまざまである。 同工場ではスウェーデン製の機械がほとんどであり、製品の品質に影響を与えない細かな部品のみ中国、ベトナム製である。 2018年からは生産ラインを増やし、生産能力を1日当たり400トンへ増やす予定であり、今後は、アラブ諸国への輸出を増やしたいとしている。 ウ.中国依存からの脱却 前述の通り、ベトナムではタピオカでん粉は80%以上、チップ・ペレットに至っては90%以上が中国向けとなっており、キャッサバ製品の輸出は中国に依存している状況である。 しかし、中国では、需要減に加え、2016年に打ち出された環境保全対策により、同国へ製品を輸出するキャッサバ製品製造企業に対し、厳しい検査を課すなど、同国への輸出状況が悪化したことから、タイ同様にキャッサバ生産者販売価格が低下し、キャッサバの生産が減少している。 このようなことを受け、企業は、新たな輸出先を模索しており、その候補として、EU、日本、韓国などが挙がっている。 その中でもEUは、2015年12月にベトナムとFTAを締結し、現在発効に向けた準備を進めているところである。 しかし、AgroMonitorは、EUとのFTAはタピオカでん粉をPRする良い機会であるが、ばれいしょやトウモロコシ由来のでん粉など域内産との競合があるため、大きなメリットがあるかは分からないとみている。 さらに、EUや日本向けに輸出する場合は高品質なでん粉が求められるが、一般的にベトナム産のでん粉は、タイ産などと比べて色が均一でないなど品質面で劣っている。 そのため、でん粉工場は、遠心分離器やフィルターを現在の中国製から性能の良いドイツ製や日本製に入れ替えるなど、品質向上に努めるとともに、品質管理の徹底などにより輸出を拡大させていく考えである。 (3)バイオエタノール生産の促進 タイと同様、ベトナムでも今後バイオエタノール生産の促進を図ることとしている。 その政策の一つとして、E5の普及を加速させるため、政府は2017年12月31日でRON92(レギュラーガソリン)の販売を停止することを発表した。 E5は、1リットル当たりの販売価格がRON92よりも500ドン程度(2. 5円)しか安くないことに加え、相次ぐバイクの爆発事故の原因はバイオガソリンの使用によるものだという噂が広がったことによりあまり普及していない。 現在、エタノール工場は7工場あるが、多くの工場は稼働を停止している。 RON92販売停止の発表を受け、今後はこのような工場を再稼働し、バイオエタノール生産を拡大させていくとみられるが、発表通りRON92の販売が停止されるか注視する必要がある。 なお、エタノール製造の主原料であるキャッサバを確保するために、キャッサバに輸出税(3%)を導入したこともあるが、輸出先国などからの反発が大きく、導入後2カ月で撤廃された。 (4)まとめ タイと同様に他作物への転作が進んでいるベトナムでは、生産量の増加だけでなく、仕向け先の中国依存からの脱却が課題であり、新たな輸出先を模索している。 また、現地報道によると、政府はRON92の販売停止後の良質なバイオエタノールの安定供給に向けて、商工省や科学・技術省、農業農村開発省などの関係省庁だけでなく、石油・ガスグループであるPetro Vietnamやガソリン・石油総公社であるPetro limexなどにも協力を求めている。 数カ月後に迫ったRON92の販売停止の実施により、キャッサバ生産を取り巻く状況がどのように変化するのかが注目されている。 今回の調査では、さまざまな関係者から話を聞くことができたが、タイでは、関係者の多くが、ベトナムをライバルとし、今後の台頭を恐れている印象が強かった。 しかし、対するベトナムの実態は、近年のキャッサバ生産者販売価格の低迷などを受け、タイと同様に生産量が伸び悩んでいる状況にあり、タイが脅威を感じているほど生産余力はなく、温度差を感じることが多かった。 両国ともにキャッサバ生産の現状は厳しいものの、タイでは単収向上による生産の拡大を目指すとともに、今後は、製品だけではなく、栽培技術、新品種、マーケティングノウハウなどの輸出という新たな段階を見据えている。 一方ベトナムは、新たな輸出先の確保に向けた品質向上の取り組みやバイオエタノール生産の促進により、キャッサバ製品の付加価値を高め、需要の拡大に取り組んでいる。 日本の主要輸入先国である両国の今後の動向については、引き続き注視する必要がある。

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東南アジア(タイ、ベトナム)のタピオカでん粉需給動向|農畜産業振興機構

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2016年の日本の天然でん粉輸入量のうち、84. 5%がタピオカでん粉である()。 そのうち、タイ産が大半を占め、その他わずかにベトナム産やミャンマー産などがある。 輸入タピオカでん粉は、食品用や工業用などさまざまな用途で利用されており、日本のでん粉市場において非常に重要な品目となっている。 しかし、近年タイとベトナムでは、タピオカでん粉の原料であるキャッサバの価格が低水準で推移し、他作物への転作が進むなど厳しい環境となっている。 このような中で、タイでは品種改良や政府支援などによる単収向上、ベトナムでは工場設備の近代化によるキャッサバ製品の品質向上などに取り組んでいる。 そこで本稿では、当機構が6月に実施した現地調査により得られた情報を中心に、タイ、ベトナムのタピオカでん粉の生産動向やそれに関連する政策などについて報告する。 なお、本稿中の為替相場は、1タイバーツ=3. 39円(2017年7月末日TTS相場)および1ベトナムドン=0. 005円(同日参考相場:0. 004867円)を使用した。 (1)キャッサバの生産動向 ア.生産概要 キャッサバ生産量は、病害虫のコナカイガラムシ (注1)が発生した影響により2010〜2011年は大幅に減少したものの、2012年には病害虫発生前の水準にまで回復し、その後はほぼ横ばいで推移している()。 2016年は、作付面積は149万ヘクタール(前年比0. 5トン(同4. タイタピオカ取引協会によると、農地面積には限りがあるため、さらなる作付面積の拡大は難しく、生産量の増加には、単収の向上が必要であるという。 一方、近年のキャッサバの生産者販売価格は、キャッサバ製品の最大の輸出先である中国向け輸出が同国の需要減により減少したことなどから低水準で推移している()。 中国では、2016年3月にトウモロコシの臨時備蓄政策を見直したことで (注2)、でん粉原料向け、エタノール原料向けの双方で、キャッサバ製品(タピオカでん粉やタピオカチップ)よりもトウモロコシの利用が拡大していることに加え、競合するラオスやカンボジア産タピオカチップのシェアが高まっている。 その結果、キャッサバより収益性に勝るサトウキビやトウモロコシなどへの転作が進んでおり、今後の生産量の減少が危惧されている。 (注1)主にキャッサバの茎葉部分に付着し、養分を吸い取ってしまう病害虫。 地中のいもは栄養が足りずに肥大が阻害され、結果として単収が減少してしまう。 (注2)詳細については本誌2017年6月号「中国の穀物需給動向〜穀物政策の変更をめぐる現状〜」を参照。 (2)生産性向上の取り組み 前述の通り、タイでは(1)作付面積の拡大が難しく(2)キャッサバ販売価格が低水準で推移している-ことから、生産性向上に向けたさまざまな取り組みが実施されている。 ア.政府による支援 政府から生産者への直接的な支援として、過去さまざまな施策 (注)が講じられてきたが、現在は「融資制度」のみを実施している。 全体の予算は約23億バーツ(77億9700万円)で、融資の内容ごとに細かく予算が振り分けられている。 例えば、単収向上につながる点滴かんがいを導入する生産者は、タイ農業銀行から1世帯当たり23万バーツ(77万9700円)を上限に低利融資を受けることができる。 この融資を受けるには、点滴かんがいを4年間実施するという条件もあるが、通常の利率が7%のところ、政府が3%の利子補給を行うため4%で融資を受けることができる。 また、キャッサバをタピオカチップ工場へ販売するのではなく、生産者自ら加工し、付加価値を付けて販売できるように、簡易で小規模なタピオカチップ施設を整備する際には、生産者は0. 1%の低利率で融資を受けることができる。 さらに、政府は輸出企業に対するキャッサバ製品の最低輸出価格の設定やエタノール製造企業に対するエタノール製造用キャッサバの最低買い取り価格の設定などを求めているが、これらを義務化できる法律はなく、あくまで政府からの要請にとどまっている。 タイタピオカ取引協会は、キャッサバ製品の最低輸出価格について、主な輸出先である中国からの需要が減少しているため、設定の遵守は厳しい状況にあり企業ごとに対応は異なるだろうとした一方、エタノール製造用キャッサバの最低買い取り価格は、2017年は一部の企業は設定を遵守することができたのではないかとしている。 その他、政府は、生産者価格を維持するため、キャッサバ製品輸出業者に対し、輸出量の1. 5倍の在庫を常時保管するよう求めているが、業界関係者によると、保管経費の負担が増加することに加え、顧客からは過剰在庫と見られるため買いたたかれてしまう要因になっていると疑問を呈していた。 また、民間企業や大学と連携して土壌分析やそれに基づく施肥の研究、点滴かんがいの実証展示なども行っている。 (注)詳細については本誌2015年3月号「タイのキャッサバの需給動向とエネルギー政策」を参照。 イ.新品種の開発・普及 作付面積の拡大が難しいタイにおいて、生産量のさらなる増加には、収量の高い品種の開発・普及が重要な課題の一つであり、複数の団体が開発に尽力している。 中でも、1992年に設立されたタピオカ開発基金(以下「開発基金」という)は、新品種の開発だけでなく、生産者への無料配布、さらには営農指導なども行っている。 開発基金は設立時に政府から拠出された6億バーツ(20億3400万円)の運用益のみで運営を行う非営利組織である。 開発基金では、新品種開発の方向性を決定し、タイを代表する大学の一つであるカセサート大学に資金を提供し開発を依頼する。 開発基金は同大学が開発した新品種を自らが所有する800ヘクタールの土地で育苗し、希望する生産者に無料で配布している。 開発基金では、品種開発において、多収性とでん粉含有率の高さを重視しており、2017年5月に配布を開始したホイボン90もそうした特長を有している()。 加えて、ホイボン90は茎葉の繁茂が早い特長があり、これにより地面に日光が当たらず、雑草が生えにくくなる。 ワキシー品種も同基金で最近開発された特別な品種である。 この品種は主に食品用途の原料として開発されたもので、製造されたでん粉は透明度、粘性、耐老化性などに優れている。 それ故に、他品種の混入を防ぐため、同品種のでん粉製造前に工場内すべての機械を清掃しなければならない。 このように、さまざまな品種の開発を進める要因について、開発基金の会長は「地域によって土壌の状態などが異なるため、生産者は自分の土地にあった品種を選択する必要がある。 より多くの選択肢を用意することが大切だ」としている。 さらに、タイのでん粉産業について「タイはでん粉産業に収益性を感じ、これまで発展してきた。 しかし、ベトナムが米とともにタピオカチップ、タピオカでん粉の生産を拡大し、ラオス、カンボジア、ミャンマーも中国資本の積極的な投資によりタイを上回る速さで、キャッサバ・でん粉産業が発展している。 タイは、土地代、労働費、輸送費などの面では、これらの国々とは競合できないため、将来的には、キャッサバを原料農産物として近隣国から輸入し、それに付加価値をつけて輸出する、または製品ではなく、栽培技術、新品種、マーケティングノウハウを輸出することに重点を置くべきである」と、近隣国の台頭に危機感を抱きつつも、自国の新たな可能性について語った。 ウ.生産者のグループ化 現在拡大している取り組みの一つに生産者のグループ化がある。 タイでは、個々の生産者が有する農地は小さく、また、規模拡大も難しいとされている。 そこで、生産者がグループ化し、農産物の共同販売、農業資材などの共同購入、機材の共同利用によりコスト削減に努めている。 グループ化は、でん粉工場に対する価格交渉力が高まるメリットもある。 全国のキャッサバ生産(約3100万トン)の4分の1を占めるナコーンラーチャシーマ県には現在63のグループがあり、約1万500人が参加し、参加者の作付面積を合計すると約2万3500ヘクタールとなる。 これは同県の作付面積の約8%とまだわずかであるものの、今後の拡大が期待されている。 (3)でん粉の製造企業の動向 タイには天然でん粉工場95施設と化工でん粉工場20施設が存在するが、これらのうち22施設は、同国最大のキャッサバ産地であるナコーンラーチャシーマ県に所在している()。 ここでは、同県の中央部に位置する大手でん粉製造企業であるSanguan Wongse Industries社(以下「SWI社」という)の概要について紹介する。 SWI社は天然でん粉を製造するほか、敷地内でグループ企業が化工でん粉工場、バイオガス工場を運営している。 天然でん粉工場の生産能力は1日当たり5000トン、操業日数は357日にも上る。 稼働率は、雨期である4〜6月はでん粉含有率が低く、集荷量が少ないため、30〜35%程度にとどまるが、年平均では65%程度になる。 その理由は、農業協同組合が利益を得ることで、最終的には農業協同組合に属している生産者が潤うと考えているからである。 SWI社は、調査時点で、でん粉含有率25%を基準に1キログラム当たり1. 6バーツ(5. 4円、以下「基準価格」という) (注)とし、でん粉含有率が1%上回るごとに0. 08バーツ(0. 3円)を上乗せし、逆に1%下回るごとに0. 05バーツ(0. 2円)引き下げて生産者からキャッサバを購入していた(、)。 キャッサバ生産者販売価格は、前述の通り低迷しているが、同県では他地域よりも若干高く、かつ、比較的安定している。 このため、同県の北に位置するウドーンターニー県からSWI社へ販売する生産者もいる。 なお、SWI社は、近年のキャッサバ取引価格(生産者販売価格)下落の一因であるラオスやカンボジアから中国へのタピオカチップの輸出増について、両国は中国で好まれる手作業によるカットに対応しているためとしている。 (注)調査した2017年6月時点の基準価格。 コラム1 グループ化によるキャッサバ生産性向上の取り組み ナコーンラーチャシーマ県のソム・キヤット氏は、56ヘクタール (注1)もの広大な土地でキャッサバ生産を行う一方、生産者グループの代表として96名のメンバーを取りまとめている(、)。 ソム・キヤット氏は、さまざまなセミナーへの参加などにより自身の栽培方法を確立した。 現在では1ライ(0. 16ヘクタール)当たり7トンのキャッサバを生産し (注2)、自身の栽培技術について講演も行うなど、地域を代表する生産者である。 同氏が率いる生産者グループは、近隣のでん粉工場であるSWI社主導で設立され今年で5年目となる。 設立時にSWI社から提供された20万バーツ(67万8000円)の活動資金を原資にグループ内の生産者に低利率(1%)で融資を行っている。 また、グループ内で生産されたキャッサバは、基準価格にかかわらず全量をSWI社へ販売している。 仮に基準価格が非常に低い場合であっても、基準価格の高い他のでん粉工場へ販売するのではなく、SWI社と買い取り価格について交渉を行うという。 ソム・キヤット氏は今後の目標について、自らは「点滴かんがいを実施し、現在の1ライ当たり7トンから同9トンまで単収を伸ばしたい」とした一方で、「グループ内には単収が同3トンにとどまり、赤字となっている者もいることから、グループ内の平均を同5トンまで底上げしたい」ともしている。 同氏は、単収の差は土壌の管理にあり、常に何かを栽培するのではなく、十分に土壌を休めることが大切だとしている。 ソム・キヤット氏は「情報共有を大切にし、例えば農地の半分だけでも私の栽培方法を実践してもらい、その効果から技術を学んで欲しい。 単収の向上は、本人の利益だけでなくやる気にもつながる」と意気込みを語った。 (注1)一般的な生産者の作付面積は4〜7ヘクタールである。 9トンである。 (4)バイオエタノール生産の促進 タイでは、2003年の原油価格の高騰などにより、同年12月に「ガソホール戦略計画(National Ethanol Program Gasohol Strategic Plan)」を公表し、バイオエタノールの生産、消費を推進してきた。 その後、2011年に策定した「代替エネルギー開発計画(Alternative Energy Development Plan )」は一部見直され、2015年から2036年までの計画であるAEDP2015として現在計画が進められている (注1)。 AEDP2015では、1日当たりバイオエタノールの消費を、現在の369万リットルから2036年には同1130万リットルへ増加させるとして、さらなる消費の拡大を推進している。 タイにおけるバイオエタノールの主な原料は、キャッサバと、サトウキビから砂糖を製造した際に生じる「糖蜜」である (注2)。 いずれの原料でもエタノール生産量は増加傾向で推移しており、特にキャッサバ由来は、キャッサバ取引価格の下落により、2011年から2015年までの間に3倍以上にも増加している()。 生産コストの原料による大きな差はなく、生産コストの70%は原料価格に依存する。 そのため、現在、キャッサバの方が安価にバイオエタノールを生産できる環境にある。 また、バイオエタノールの生産量の増加とともに、消費量も増加している()。 これは、政府による(1)2013年からのレギュラーガソリンの販売停止(2)E20 (注3)に価格優位性を持たせた上でのE20供給可能なガソリンスタンドの増設()(3)E10、E20、E85の理解を深めるためのキャンペーンの継続-などの施策を実施していることが大きい。 今後について、エネルギー省の担当者は「まずはキャッサバ由来バイオエタノールの生産量増加を重視する。 糖蜜のバイオエタノール生産への仕向け量はある程度上限に達したと考えているが、キャッサバ製品は、多くを輸出していることから、キャッサバでの生産の伸びしろは十分にあると考えている。 将来的には、キャッサバ製品の輸出量を減らしてでもエタノールに仕向け、いずれはバイオエタノールを輸出したい」とバイオエタノールの生産拡大に向け語った。 (注1)AEDPの詳細については、本誌2013年9月号「タイのエタノール政策と砂糖およびでん粉業界への影響」および2015年3月号「タイのキャッサバの需要動向とエネルギー政策」を参照。 (注2)カドミウム汚染土壌地域で栽培されたサトウキビの搾汁液については、例外的にエタノール生産に仕向けられる。 (注3)エタノールが20%混合されたガソリン。 以下、Eの後の数値がエタノール混合割合を示す。 コラム2 カンボジアのキャッサバ生産概要 カンボジアは、近年キャッサバ生産量が急激に増加しており、今後タイやベトナムとの競合の高まりが予想される存在として注目されている()。 カンボジアで最も栽培されている作物は米であり、農作物栽培面積の7割を占めている。 キャッサバは1割程度となっているが、米の次に多く栽培されている主要作物である()。 近年、栽培面積、生産量、単収すべてにおいて増加傾向にあり、特に2016年の栽培面積は67万6838ヘクタール(前年比18. 0%増)と過去最高を記録している()。 また、生産量の拡大とともに、輸出量も増加している()。 しかし、カンボジアのキャッサバ産業の課題として、国内にはでん粉工場などが少ないことから、多くのキャッサバが未加工のまま輸出されるため、輸出先のタイやベトナムから買いたたかれることがある。 キャッサバ生産量は、2015年現在タイの4割程度であるが、2014年にはベトナムを追い越しており、輸出も着実に増加しているため、今後のカンボジアのキャッサバ産業に注目したい。 (1)キャッサバの生産動向 ア.生産概要 ここ数年間のキャッサバ生産を見ると、作付面積、生産量ともに横ばいで推移し、2016年の作付面積は56万7000ヘクタール(前年比0. 1%増)、生産量は1080万トン(同1. しかし、ベトナムキャッサバ協会によると、2017年の作付面積は30%程度減少する見込みであり、これは、タイと同様、最大の輸出先である中国のキャッサバ製品への需要が減少したことに伴うキャッサバ生産者販売価格の低下などに起因している。 現在、キャッサバの作付面積は、米、トウモロコシ、サトウキビに次ぐ第4位となっているが、低調な価格の推移を受け、生産者の他作物への転作が進んでいるという。 北部では、主にオレンジやヒマワリなどへ、南部ではザボンやパッションフルーツなどの果樹への転作が多く、生産物の収穫まで3年程度を要する作物も多いことから、キャッサバの作付面積は、少なくとも3年間は低水準で推移する可能性がある。 イ.仕向け先 ベトナムでは、生産されたキャッサバのうち、45%はでん粉、40%はチップ・ペレット、15%は加工しないまま飼料へ仕向けられる()。 最も割合の多いでん粉向けについて見ると、ほとんどが天然でん粉向けに使用され、その多くは輸出される。 輸出の80%以上が中国向け、残りがインドネシア、フィリピン向けなどとなっている。 ここでは、タイニン省とタンホア省のでん粉工場を紹介する()。 ア.Dinh Khue社(タイニン省) Dinh Khue社のでん粉工場は、生産能力は1日当たり280トン、タイニン省に存在する26のでん粉工場の中でも最大級である。 同省では、でん粉生産工場に対する環境保全の取り決めがあり、でん粉工場の生産の上限は同200〜280トンと定められている。 原料のキャッサバは3分の2(160万トン)を省内から集荷し、残りはカンボジアから輸入している。 同省産のキャッサバはカンボジア産と比べ品質が良いが、集荷量は、生産者販売価格の低下に伴うサトウキビなどの他作物への転作の進展から、減少傾向となっている。 キャッサバは、でん粉含有率30%を基準価格とし、タイのSWI社と同様に、でん粉含有率に応じた単価で買い取っている。 同工場の稼働期間は7月〜翌4月であり、年間生産量は4万5000〜5万トンである。 生産されたでん粉の15%は国内向けで、インスタントラーメンや菓子の製造企業などへ販売される。 一方、85%は輸出向けであるが、そのほとんどが中国向け、ごく一部がマレーシア向けである。 最近、製品の品質に影響を与える主要な機械については、性能の良いドイツ製と日本製のものを導入したことに加え、これまで輸出実績のないインドからの需要もあり、今後輸出の多様化を進めていくとみられる。 イ.Phuc Thinh社(タンホア省) Phuc Thinh社のでん粉工場は、日本の農林水産省に相当する農業農村開発省の管轄下にあった国有企業で、2014年に株式会社化した。 稼働期間は10月〜翌4月で、生産能力は1日当たり250トン、年間生産量は約3万トンである。 また、ラオスにも合弁会社を所有しており、その工場の生産能力も同程度である。 タンホア省の工場では、同省内のほか、近隣のハティン省やゲーアン省からもキャッサバを集荷している。 でん粉製品の価格が高い時期は、ラオスからも輸入することがあるが、2016年は価格が安かったため輸入していない。 タイニン省と同様、キャッサバ生産者販売価格の低下に伴う転作が進んでおり、集荷量は減少している。 同工場は、タイニン省などの南部と異なり、多くが契約に基づきキャッサバの買い取り価格を事前に決める。 生産者を取りまとめるほか、トラックを所有し、工場へのキャッサバの搬入作業も担当する代表者が、集荷計画を作成する。 その後、地方政府立会いの下、工場の担当者が現地視察し、問題なければ代表者と契約する。 契約には、でん粉製品の需給動向などを勘案した保証価格も盛り込まれ、キャッサバの買い取り時は、保証価格と市場価格のいずれか高い価格となる。 2016年の保証価格は1キログラム当たり1000ドン(5円)だったが、2017年は需要が拡大すると見込まれ、同1200ドン(6円)としている。 このような保証価格が設定されていることもあり、同工場では原則としてでん粉含有率22%以上のキャッサバしか仕入れないとする一方、でん粉含有率が高い場合のプレミアムも存在しない。 でん粉含有率22%未満の時は、生産者は同工場と交渉する場合もあるが、買い取り価格が低くなってしまうため、他社へ販売したり自家消費したりすることが多い。 同工場としては南部のようにでん粉含有率に応じて支払いたいが、北部と南部では取引の文化が異なり、生産者が同意しないという。 生産されたでん粉の23%は国内向け、77%は輸出である。 輸出の90%が中国向けで、残りはベラルーシやロシア向けである。 用途は食品用、工業用(製紙、段ボール、薬品など)などさまざまである。 同工場ではスウェーデン製の機械がほとんどであり、製品の品質に影響を与えない細かな部品のみ中国、ベトナム製である。 2018年からは生産ラインを増やし、生産能力を1日当たり400トンへ増やす予定であり、今後は、アラブ諸国への輸出を増やしたいとしている。 ウ.中国依存からの脱却 前述の通り、ベトナムではタピオカでん粉は80%以上、チップ・ペレットに至っては90%以上が中国向けとなっており、キャッサバ製品の輸出は中国に依存している状況である。 しかし、中国では、需要減に加え、2016年に打ち出された環境保全対策により、同国へ製品を輸出するキャッサバ製品製造企業に対し、厳しい検査を課すなど、同国への輸出状況が悪化したことから、タイ同様にキャッサバ生産者販売価格が低下し、キャッサバの生産が減少している。 このようなことを受け、企業は、新たな輸出先を模索しており、その候補として、EU、日本、韓国などが挙がっている。 その中でもEUは、2015年12月にベトナムとFTAを締結し、現在発効に向けた準備を進めているところである。 しかし、AgroMonitorは、EUとのFTAはタピオカでん粉をPRする良い機会であるが、ばれいしょやトウモロコシ由来のでん粉など域内産との競合があるため、大きなメリットがあるかは分からないとみている。 さらに、EUや日本向けに輸出する場合は高品質なでん粉が求められるが、一般的にベトナム産のでん粉は、タイ産などと比べて色が均一でないなど品質面で劣っている。 そのため、でん粉工場は、遠心分離器やフィルターを現在の中国製から性能の良いドイツ製や日本製に入れ替えるなど、品質向上に努めるとともに、品質管理の徹底などにより輸出を拡大させていく考えである。 (3)バイオエタノール生産の促進 タイと同様、ベトナムでも今後バイオエタノール生産の促進を図ることとしている。 その政策の一つとして、E5の普及を加速させるため、政府は2017年12月31日でRON92(レギュラーガソリン)の販売を停止することを発表した。 E5は、1リットル当たりの販売価格がRON92よりも500ドン程度(2. 5円)しか安くないことに加え、相次ぐバイクの爆発事故の原因はバイオガソリンの使用によるものだという噂が広がったことによりあまり普及していない。 現在、エタノール工場は7工場あるが、多くの工場は稼働を停止している。 RON92販売停止の発表を受け、今後はこのような工場を再稼働し、バイオエタノール生産を拡大させていくとみられるが、発表通りRON92の販売が停止されるか注視する必要がある。 なお、エタノール製造の主原料であるキャッサバを確保するために、キャッサバに輸出税(3%)を導入したこともあるが、輸出先国などからの反発が大きく、導入後2カ月で撤廃された。 (4)まとめ タイと同様に他作物への転作が進んでいるベトナムでは、生産量の増加だけでなく、仕向け先の中国依存からの脱却が課題であり、新たな輸出先を模索している。 また、現地報道によると、政府はRON92の販売停止後の良質なバイオエタノールの安定供給に向けて、商工省や科学・技術省、農業農村開発省などの関係省庁だけでなく、石油・ガスグループであるPetro Vietnamやガソリン・石油総公社であるPetro limexなどにも協力を求めている。 数カ月後に迫ったRON92の販売停止の実施により、キャッサバ生産を取り巻く状況がどのように変化するのかが注目されている。 今回の調査では、さまざまな関係者から話を聞くことができたが、タイでは、関係者の多くが、ベトナムをライバルとし、今後の台頭を恐れている印象が強かった。 しかし、対するベトナムの実態は、近年のキャッサバ生産者販売価格の低迷などを受け、タイと同様に生産量が伸び悩んでいる状況にあり、タイが脅威を感じているほど生産余力はなく、温度差を感じることが多かった。 両国ともにキャッサバ生産の現状は厳しいものの、タイでは単収向上による生産の拡大を目指すとともに、今後は、製品だけではなく、栽培技術、新品種、マーケティングノウハウなどの輸出という新たな段階を見据えている。 一方ベトナムは、新たな輸出先の確保に向けた品質向上の取り組みやバイオエタノール生産の促進により、キャッサバ製品の付加価値を高め、需要の拡大に取り組んでいる。 日本の主要輸入先国である両国の今後の動向については、引き続き注視する必要がある。

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両国 タピオカ

2016年の日本の天然でん粉輸入量のうち、84. 5%がタピオカでん粉である()。 そのうち、タイ産が大半を占め、その他わずかにベトナム産やミャンマー産などがある。 輸入タピオカでん粉は、食品用や工業用などさまざまな用途で利用されており、日本のでん粉市場において非常に重要な品目となっている。 しかし、近年タイとベトナムでは、タピオカでん粉の原料であるキャッサバの価格が低水準で推移し、他作物への転作が進むなど厳しい環境となっている。 このような中で、タイでは品種改良や政府支援などによる単収向上、ベトナムでは工場設備の近代化によるキャッサバ製品の品質向上などに取り組んでいる。 そこで本稿では、当機構が6月に実施した現地調査により得られた情報を中心に、タイ、ベトナムのタピオカでん粉の生産動向やそれに関連する政策などについて報告する。 なお、本稿中の為替相場は、1タイバーツ=3. 39円(2017年7月末日TTS相場)および1ベトナムドン=0. 005円(同日参考相場:0. 004867円)を使用した。 (1)キャッサバの生産動向 ア.生産概要 キャッサバ生産量は、病害虫のコナカイガラムシ (注1)が発生した影響により2010〜2011年は大幅に減少したものの、2012年には病害虫発生前の水準にまで回復し、その後はほぼ横ばいで推移している()。 2016年は、作付面積は149万ヘクタール(前年比0. 5トン(同4. タイタピオカ取引協会によると、農地面積には限りがあるため、さらなる作付面積の拡大は難しく、生産量の増加には、単収の向上が必要であるという。 一方、近年のキャッサバの生産者販売価格は、キャッサバ製品の最大の輸出先である中国向け輸出が同国の需要減により減少したことなどから低水準で推移している()。 中国では、2016年3月にトウモロコシの臨時備蓄政策を見直したことで (注2)、でん粉原料向け、エタノール原料向けの双方で、キャッサバ製品(タピオカでん粉やタピオカチップ)よりもトウモロコシの利用が拡大していることに加え、競合するラオスやカンボジア産タピオカチップのシェアが高まっている。 その結果、キャッサバより収益性に勝るサトウキビやトウモロコシなどへの転作が進んでおり、今後の生産量の減少が危惧されている。 (注1)主にキャッサバの茎葉部分に付着し、養分を吸い取ってしまう病害虫。 地中のいもは栄養が足りずに肥大が阻害され、結果として単収が減少してしまう。 (注2)詳細については本誌2017年6月号「中国の穀物需給動向〜穀物政策の変更をめぐる現状〜」を参照。 (2)生産性向上の取り組み 前述の通り、タイでは(1)作付面積の拡大が難しく(2)キャッサバ販売価格が低水準で推移している-ことから、生産性向上に向けたさまざまな取り組みが実施されている。 ア.政府による支援 政府から生産者への直接的な支援として、過去さまざまな施策 (注)が講じられてきたが、現在は「融資制度」のみを実施している。 全体の予算は約23億バーツ(77億9700万円)で、融資の内容ごとに細かく予算が振り分けられている。 例えば、単収向上につながる点滴かんがいを導入する生産者は、タイ農業銀行から1世帯当たり23万バーツ(77万9700円)を上限に低利融資を受けることができる。 この融資を受けるには、点滴かんがいを4年間実施するという条件もあるが、通常の利率が7%のところ、政府が3%の利子補給を行うため4%で融資を受けることができる。 また、キャッサバをタピオカチップ工場へ販売するのではなく、生産者自ら加工し、付加価値を付けて販売できるように、簡易で小規模なタピオカチップ施設を整備する際には、生産者は0. 1%の低利率で融資を受けることができる。 さらに、政府は輸出企業に対するキャッサバ製品の最低輸出価格の設定やエタノール製造企業に対するエタノール製造用キャッサバの最低買い取り価格の設定などを求めているが、これらを義務化できる法律はなく、あくまで政府からの要請にとどまっている。 タイタピオカ取引協会は、キャッサバ製品の最低輸出価格について、主な輸出先である中国からの需要が減少しているため、設定の遵守は厳しい状況にあり企業ごとに対応は異なるだろうとした一方、エタノール製造用キャッサバの最低買い取り価格は、2017年は一部の企業は設定を遵守することができたのではないかとしている。 その他、政府は、生産者価格を維持するため、キャッサバ製品輸出業者に対し、輸出量の1. 5倍の在庫を常時保管するよう求めているが、業界関係者によると、保管経費の負担が増加することに加え、顧客からは過剰在庫と見られるため買いたたかれてしまう要因になっていると疑問を呈していた。 また、民間企業や大学と連携して土壌分析やそれに基づく施肥の研究、点滴かんがいの実証展示なども行っている。 (注)詳細については本誌2015年3月号「タイのキャッサバの需給動向とエネルギー政策」を参照。 イ.新品種の開発・普及 作付面積の拡大が難しいタイにおいて、生産量のさらなる増加には、収量の高い品種の開発・普及が重要な課題の一つであり、複数の団体が開発に尽力している。 中でも、1992年に設立されたタピオカ開発基金(以下「開発基金」という)は、新品種の開発だけでなく、生産者への無料配布、さらには営農指導なども行っている。 開発基金は設立時に政府から拠出された6億バーツ(20億3400万円)の運用益のみで運営を行う非営利組織である。 開発基金では、新品種開発の方向性を決定し、タイを代表する大学の一つであるカセサート大学に資金を提供し開発を依頼する。 開発基金は同大学が開発した新品種を自らが所有する800ヘクタールの土地で育苗し、希望する生産者に無料で配布している。 開発基金では、品種開発において、多収性とでん粉含有率の高さを重視しており、2017年5月に配布を開始したホイボン90もそうした特長を有している()。 加えて、ホイボン90は茎葉の繁茂が早い特長があり、これにより地面に日光が当たらず、雑草が生えにくくなる。 ワキシー品種も同基金で最近開発された特別な品種である。 この品種は主に食品用途の原料として開発されたもので、製造されたでん粉は透明度、粘性、耐老化性などに優れている。 それ故に、他品種の混入を防ぐため、同品種のでん粉製造前に工場内すべての機械を清掃しなければならない。 このように、さまざまな品種の開発を進める要因について、開発基金の会長は「地域によって土壌の状態などが異なるため、生産者は自分の土地にあった品種を選択する必要がある。 より多くの選択肢を用意することが大切だ」としている。 さらに、タイのでん粉産業について「タイはでん粉産業に収益性を感じ、これまで発展してきた。 しかし、ベトナムが米とともにタピオカチップ、タピオカでん粉の生産を拡大し、ラオス、カンボジア、ミャンマーも中国資本の積極的な投資によりタイを上回る速さで、キャッサバ・でん粉産業が発展している。 タイは、土地代、労働費、輸送費などの面では、これらの国々とは競合できないため、将来的には、キャッサバを原料農産物として近隣国から輸入し、それに付加価値をつけて輸出する、または製品ではなく、栽培技術、新品種、マーケティングノウハウを輸出することに重点を置くべきである」と、近隣国の台頭に危機感を抱きつつも、自国の新たな可能性について語った。 ウ.生産者のグループ化 現在拡大している取り組みの一つに生産者のグループ化がある。 タイでは、個々の生産者が有する農地は小さく、また、規模拡大も難しいとされている。 そこで、生産者がグループ化し、農産物の共同販売、農業資材などの共同購入、機材の共同利用によりコスト削減に努めている。 グループ化は、でん粉工場に対する価格交渉力が高まるメリットもある。 全国のキャッサバ生産(約3100万トン)の4分の1を占めるナコーンラーチャシーマ県には現在63のグループがあり、約1万500人が参加し、参加者の作付面積を合計すると約2万3500ヘクタールとなる。 これは同県の作付面積の約8%とまだわずかであるものの、今後の拡大が期待されている。 (3)でん粉の製造企業の動向 タイには天然でん粉工場95施設と化工でん粉工場20施設が存在するが、これらのうち22施設は、同国最大のキャッサバ産地であるナコーンラーチャシーマ県に所在している()。 ここでは、同県の中央部に位置する大手でん粉製造企業であるSanguan Wongse Industries社(以下「SWI社」という)の概要について紹介する。 SWI社は天然でん粉を製造するほか、敷地内でグループ企業が化工でん粉工場、バイオガス工場を運営している。 天然でん粉工場の生産能力は1日当たり5000トン、操業日数は357日にも上る。 稼働率は、雨期である4〜6月はでん粉含有率が低く、集荷量が少ないため、30〜35%程度にとどまるが、年平均では65%程度になる。 その理由は、農業協同組合が利益を得ることで、最終的には農業協同組合に属している生産者が潤うと考えているからである。 SWI社は、調査時点で、でん粉含有率25%を基準に1キログラム当たり1. 6バーツ(5. 4円、以下「基準価格」という) (注)とし、でん粉含有率が1%上回るごとに0. 08バーツ(0. 3円)を上乗せし、逆に1%下回るごとに0. 05バーツ(0. 2円)引き下げて生産者からキャッサバを購入していた(、)。 キャッサバ生産者販売価格は、前述の通り低迷しているが、同県では他地域よりも若干高く、かつ、比較的安定している。 このため、同県の北に位置するウドーンターニー県からSWI社へ販売する生産者もいる。 なお、SWI社は、近年のキャッサバ取引価格(生産者販売価格)下落の一因であるラオスやカンボジアから中国へのタピオカチップの輸出増について、両国は中国で好まれる手作業によるカットに対応しているためとしている。 (注)調査した2017年6月時点の基準価格。 コラム1 グループ化によるキャッサバ生産性向上の取り組み ナコーンラーチャシーマ県のソム・キヤット氏は、56ヘクタール (注1)もの広大な土地でキャッサバ生産を行う一方、生産者グループの代表として96名のメンバーを取りまとめている(、)。 ソム・キヤット氏は、さまざまなセミナーへの参加などにより自身の栽培方法を確立した。 現在では1ライ(0. 16ヘクタール)当たり7トンのキャッサバを生産し (注2)、自身の栽培技術について講演も行うなど、地域を代表する生産者である。 同氏が率いる生産者グループは、近隣のでん粉工場であるSWI社主導で設立され今年で5年目となる。 設立時にSWI社から提供された20万バーツ(67万8000円)の活動資金を原資にグループ内の生産者に低利率(1%)で融資を行っている。 また、グループ内で生産されたキャッサバは、基準価格にかかわらず全量をSWI社へ販売している。 仮に基準価格が非常に低い場合であっても、基準価格の高い他のでん粉工場へ販売するのではなく、SWI社と買い取り価格について交渉を行うという。 ソム・キヤット氏は今後の目標について、自らは「点滴かんがいを実施し、現在の1ライ当たり7トンから同9トンまで単収を伸ばしたい」とした一方で、「グループ内には単収が同3トンにとどまり、赤字となっている者もいることから、グループ内の平均を同5トンまで底上げしたい」ともしている。 同氏は、単収の差は土壌の管理にあり、常に何かを栽培するのではなく、十分に土壌を休めることが大切だとしている。 ソム・キヤット氏は「情報共有を大切にし、例えば農地の半分だけでも私の栽培方法を実践してもらい、その効果から技術を学んで欲しい。 単収の向上は、本人の利益だけでなくやる気にもつながる」と意気込みを語った。 (注1)一般的な生産者の作付面積は4〜7ヘクタールである。 9トンである。 (4)バイオエタノール生産の促進 タイでは、2003年の原油価格の高騰などにより、同年12月に「ガソホール戦略計画(National Ethanol Program Gasohol Strategic Plan)」を公表し、バイオエタノールの生産、消費を推進してきた。 その後、2011年に策定した「代替エネルギー開発計画(Alternative Energy Development Plan )」は一部見直され、2015年から2036年までの計画であるAEDP2015として現在計画が進められている (注1)。 AEDP2015では、1日当たりバイオエタノールの消費を、現在の369万リットルから2036年には同1130万リットルへ増加させるとして、さらなる消費の拡大を推進している。 タイにおけるバイオエタノールの主な原料は、キャッサバと、サトウキビから砂糖を製造した際に生じる「糖蜜」である (注2)。 いずれの原料でもエタノール生産量は増加傾向で推移しており、特にキャッサバ由来は、キャッサバ取引価格の下落により、2011年から2015年までの間に3倍以上にも増加している()。 生産コストの原料による大きな差はなく、生産コストの70%は原料価格に依存する。 そのため、現在、キャッサバの方が安価にバイオエタノールを生産できる環境にある。 また、バイオエタノールの生産量の増加とともに、消費量も増加している()。 これは、政府による(1)2013年からのレギュラーガソリンの販売停止(2)E20 (注3)に価格優位性を持たせた上でのE20供給可能なガソリンスタンドの増設()(3)E10、E20、E85の理解を深めるためのキャンペーンの継続-などの施策を実施していることが大きい。 今後について、エネルギー省の担当者は「まずはキャッサバ由来バイオエタノールの生産量増加を重視する。 糖蜜のバイオエタノール生産への仕向け量はある程度上限に達したと考えているが、キャッサバ製品は、多くを輸出していることから、キャッサバでの生産の伸びしろは十分にあると考えている。 将来的には、キャッサバ製品の輸出量を減らしてでもエタノールに仕向け、いずれはバイオエタノールを輸出したい」とバイオエタノールの生産拡大に向け語った。 (注1)AEDPの詳細については、本誌2013年9月号「タイのエタノール政策と砂糖およびでん粉業界への影響」および2015年3月号「タイのキャッサバの需要動向とエネルギー政策」を参照。 (注2)カドミウム汚染土壌地域で栽培されたサトウキビの搾汁液については、例外的にエタノール生産に仕向けられる。 (注3)エタノールが20%混合されたガソリン。 以下、Eの後の数値がエタノール混合割合を示す。 コラム2 カンボジアのキャッサバ生産概要 カンボジアは、近年キャッサバ生産量が急激に増加しており、今後タイやベトナムとの競合の高まりが予想される存在として注目されている()。 カンボジアで最も栽培されている作物は米であり、農作物栽培面積の7割を占めている。 キャッサバは1割程度となっているが、米の次に多く栽培されている主要作物である()。 近年、栽培面積、生産量、単収すべてにおいて増加傾向にあり、特に2016年の栽培面積は67万6838ヘクタール(前年比18. 0%増)と過去最高を記録している()。 また、生産量の拡大とともに、輸出量も増加している()。 しかし、カンボジアのキャッサバ産業の課題として、国内にはでん粉工場などが少ないことから、多くのキャッサバが未加工のまま輸出されるため、輸出先のタイやベトナムから買いたたかれることがある。 キャッサバ生産量は、2015年現在タイの4割程度であるが、2014年にはベトナムを追い越しており、輸出も着実に増加しているため、今後のカンボジアのキャッサバ産業に注目したい。 (1)キャッサバの生産動向 ア.生産概要 ここ数年間のキャッサバ生産を見ると、作付面積、生産量ともに横ばいで推移し、2016年の作付面積は56万7000ヘクタール(前年比0. 1%増)、生産量は1080万トン(同1. しかし、ベトナムキャッサバ協会によると、2017年の作付面積は30%程度減少する見込みであり、これは、タイと同様、最大の輸出先である中国のキャッサバ製品への需要が減少したことに伴うキャッサバ生産者販売価格の低下などに起因している。 現在、キャッサバの作付面積は、米、トウモロコシ、サトウキビに次ぐ第4位となっているが、低調な価格の推移を受け、生産者の他作物への転作が進んでいるという。 北部では、主にオレンジやヒマワリなどへ、南部ではザボンやパッションフルーツなどの果樹への転作が多く、生産物の収穫まで3年程度を要する作物も多いことから、キャッサバの作付面積は、少なくとも3年間は低水準で推移する可能性がある。 イ.仕向け先 ベトナムでは、生産されたキャッサバのうち、45%はでん粉、40%はチップ・ペレット、15%は加工しないまま飼料へ仕向けられる()。 最も割合の多いでん粉向けについて見ると、ほとんどが天然でん粉向けに使用され、その多くは輸出される。 輸出の80%以上が中国向け、残りがインドネシア、フィリピン向けなどとなっている。 ここでは、タイニン省とタンホア省のでん粉工場を紹介する()。 ア.Dinh Khue社(タイニン省) Dinh Khue社のでん粉工場は、生産能力は1日当たり280トン、タイニン省に存在する26のでん粉工場の中でも最大級である。 同省では、でん粉生産工場に対する環境保全の取り決めがあり、でん粉工場の生産の上限は同200〜280トンと定められている。 原料のキャッサバは3分の2(160万トン)を省内から集荷し、残りはカンボジアから輸入している。 同省産のキャッサバはカンボジア産と比べ品質が良いが、集荷量は、生産者販売価格の低下に伴うサトウキビなどの他作物への転作の進展から、減少傾向となっている。 キャッサバは、でん粉含有率30%を基準価格とし、タイのSWI社と同様に、でん粉含有率に応じた単価で買い取っている。 同工場の稼働期間は7月〜翌4月であり、年間生産量は4万5000〜5万トンである。 生産されたでん粉の15%は国内向けで、インスタントラーメンや菓子の製造企業などへ販売される。 一方、85%は輸出向けであるが、そのほとんどが中国向け、ごく一部がマレーシア向けである。 最近、製品の品質に影響を与える主要な機械については、性能の良いドイツ製と日本製のものを導入したことに加え、これまで輸出実績のないインドからの需要もあり、今後輸出の多様化を進めていくとみられる。 イ.Phuc Thinh社(タンホア省) Phuc Thinh社のでん粉工場は、日本の農林水産省に相当する農業農村開発省の管轄下にあった国有企業で、2014年に株式会社化した。 稼働期間は10月〜翌4月で、生産能力は1日当たり250トン、年間生産量は約3万トンである。 また、ラオスにも合弁会社を所有しており、その工場の生産能力も同程度である。 タンホア省の工場では、同省内のほか、近隣のハティン省やゲーアン省からもキャッサバを集荷している。 でん粉製品の価格が高い時期は、ラオスからも輸入することがあるが、2016年は価格が安かったため輸入していない。 タイニン省と同様、キャッサバ生産者販売価格の低下に伴う転作が進んでおり、集荷量は減少している。 同工場は、タイニン省などの南部と異なり、多くが契約に基づきキャッサバの買い取り価格を事前に決める。 生産者を取りまとめるほか、トラックを所有し、工場へのキャッサバの搬入作業も担当する代表者が、集荷計画を作成する。 その後、地方政府立会いの下、工場の担当者が現地視察し、問題なければ代表者と契約する。 契約には、でん粉製品の需給動向などを勘案した保証価格も盛り込まれ、キャッサバの買い取り時は、保証価格と市場価格のいずれか高い価格となる。 2016年の保証価格は1キログラム当たり1000ドン(5円)だったが、2017年は需要が拡大すると見込まれ、同1200ドン(6円)としている。 このような保証価格が設定されていることもあり、同工場では原則としてでん粉含有率22%以上のキャッサバしか仕入れないとする一方、でん粉含有率が高い場合のプレミアムも存在しない。 でん粉含有率22%未満の時は、生産者は同工場と交渉する場合もあるが、買い取り価格が低くなってしまうため、他社へ販売したり自家消費したりすることが多い。 同工場としては南部のようにでん粉含有率に応じて支払いたいが、北部と南部では取引の文化が異なり、生産者が同意しないという。 生産されたでん粉の23%は国内向け、77%は輸出である。 輸出の90%が中国向けで、残りはベラルーシやロシア向けである。 用途は食品用、工業用(製紙、段ボール、薬品など)などさまざまである。 同工場ではスウェーデン製の機械がほとんどであり、製品の品質に影響を与えない細かな部品のみ中国、ベトナム製である。 2018年からは生産ラインを増やし、生産能力を1日当たり400トンへ増やす予定であり、今後は、アラブ諸国への輸出を増やしたいとしている。 ウ.中国依存からの脱却 前述の通り、ベトナムではタピオカでん粉は80%以上、チップ・ペレットに至っては90%以上が中国向けとなっており、キャッサバ製品の輸出は中国に依存している状況である。 しかし、中国では、需要減に加え、2016年に打ち出された環境保全対策により、同国へ製品を輸出するキャッサバ製品製造企業に対し、厳しい検査を課すなど、同国への輸出状況が悪化したことから、タイ同様にキャッサバ生産者販売価格が低下し、キャッサバの生産が減少している。 このようなことを受け、企業は、新たな輸出先を模索しており、その候補として、EU、日本、韓国などが挙がっている。 その中でもEUは、2015年12月にベトナムとFTAを締結し、現在発効に向けた準備を進めているところである。 しかし、AgroMonitorは、EUとのFTAはタピオカでん粉をPRする良い機会であるが、ばれいしょやトウモロコシ由来のでん粉など域内産との競合があるため、大きなメリットがあるかは分からないとみている。 さらに、EUや日本向けに輸出する場合は高品質なでん粉が求められるが、一般的にベトナム産のでん粉は、タイ産などと比べて色が均一でないなど品質面で劣っている。 そのため、でん粉工場は、遠心分離器やフィルターを現在の中国製から性能の良いドイツ製や日本製に入れ替えるなど、品質向上に努めるとともに、品質管理の徹底などにより輸出を拡大させていく考えである。 (3)バイオエタノール生産の促進 タイと同様、ベトナムでも今後バイオエタノール生産の促進を図ることとしている。 その政策の一つとして、E5の普及を加速させるため、政府は2017年12月31日でRON92(レギュラーガソリン)の販売を停止することを発表した。 E5は、1リットル当たりの販売価格がRON92よりも500ドン程度(2. 5円)しか安くないことに加え、相次ぐバイクの爆発事故の原因はバイオガソリンの使用によるものだという噂が広がったことによりあまり普及していない。 現在、エタノール工場は7工場あるが、多くの工場は稼働を停止している。 RON92販売停止の発表を受け、今後はこのような工場を再稼働し、バイオエタノール生産を拡大させていくとみられるが、発表通りRON92の販売が停止されるか注視する必要がある。 なお、エタノール製造の主原料であるキャッサバを確保するために、キャッサバに輸出税(3%)を導入したこともあるが、輸出先国などからの反発が大きく、導入後2カ月で撤廃された。 (4)まとめ タイと同様に他作物への転作が進んでいるベトナムでは、生産量の増加だけでなく、仕向け先の中国依存からの脱却が課題であり、新たな輸出先を模索している。 また、現地報道によると、政府はRON92の販売停止後の良質なバイオエタノールの安定供給に向けて、商工省や科学・技術省、農業農村開発省などの関係省庁だけでなく、石油・ガスグループであるPetro Vietnamやガソリン・石油総公社であるPetro limexなどにも協力を求めている。 数カ月後に迫ったRON92の販売停止の実施により、キャッサバ生産を取り巻く状況がどのように変化するのかが注目されている。 今回の調査では、さまざまな関係者から話を聞くことができたが、タイでは、関係者の多くが、ベトナムをライバルとし、今後の台頭を恐れている印象が強かった。 しかし、対するベトナムの実態は、近年のキャッサバ生産者販売価格の低迷などを受け、タイと同様に生産量が伸び悩んでいる状況にあり、タイが脅威を感じているほど生産余力はなく、温度差を感じることが多かった。 両国ともにキャッサバ生産の現状は厳しいものの、タイでは単収向上による生産の拡大を目指すとともに、今後は、製品だけではなく、栽培技術、新品種、マーケティングノウハウなどの輸出という新たな段階を見据えている。 一方ベトナムは、新たな輸出先の確保に向けた品質向上の取り組みやバイオエタノール生産の促進により、キャッサバ製品の付加価値を高め、需要の拡大に取り組んでいる。 日本の主要輸入先国である両国の今後の動向については、引き続き注視する必要がある。

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