この犬夜叉ワイド版コミックスの予約特典にはドラマCDがついていたんですね。 内容は……、ちょっと信じられないです。 キャラクターの性格もアニメより? 殺生丸がそんなこと言うかなぁー? ってのが感想です。 あれだけ自分の内心を他人に悟られるのを嫌がっている殺生丸がですよ? 邪見に相談するとかも、原作を読むとあり得ないし邪見も怖くて聞きたくないでしょう。 かごめも何か怖いし、原作の彼女はあんな強引にプロポーズを強請ったりしないでしょ。 弥勒と珊瑚は幸せそうでした。 珊瑚の悩みも奈落がいた頃に比べたら幸せすぎて、な感じ。 弥勒が浮気するはずないですよ、だって今の彼に双子の娘達以上に心奪われる女子がいる わけないんですから。 犬夜叉の父の遺骨が木っ端みじんってのもありえないです。 あんなにデカいのに、犬夜叉達全員が落ちても穴が開くぐらいでは? しかもあんな骨密度高そうな遺骨、落ちた犬夜叉達の方が複雑骨折しそう。 まぁ、いきなり弟が降って来て父親の遺骨を真っ平らにした瞬間を目にした 兄がどんな顔をしたのか見てみたい気もしますが。 最後壊した父の遺骨を 犬夜叉とかごめが組み立て直すのですが、二人に正しいワンコの骨格知識 があるとは思えないので、珍妙な組み立て方をされそうです。 それ見てまた、殺生丸激怒しそう。 殺生丸のりんへの言葉は、プロポーズと言うより 進学のため実家を離れて一人暮らしを始めた娘を心配する父親みたいです。 あれでヨメに来いとは…、 りんじゃなくても、ごめん、分からないと思います。 しかも何故主婦達( かごめと珊瑚 )の愚痴!? を参考にするの? だいたい、プロポーズなんて、一番回りくどい言い方をしてはいけないものでしょう。 言葉自体は、コメディなお話なのに結構まじめでした。 ただ原作派としては、なんか違う。 そもそも殺生丸って自分の意思は言葉ではなく 行動で示す性格と思っているので、プロポーズなんて言うのかな? それに結婚とか、 家族とか形式的な概念も持っていないと言うか、関心が一切無さそうに思うのですが。 プロポーズと思うから違和感があるんですよね。 この言葉を違う角度から見てみようと思います。 こっからはドラマCDからの殺生丸がりんへ向けた言葉の感想です。 りんよ、里の暮らしにはなれたか? いや、もう三年も立てば慣れるとかの問題ではないと。 りんは適応能力抜群なんで 2・3ヶ月ぐらいで慣れたはず。 人間で3年って短くはない年月だけど、妖怪の 殺生丸にとっては半年ぐらいの感覚なのかな。 なのに楓に「 また来た 」みたい な言われ方してたけど、本当何日おきに会いに来ているの? 誰かに虐められたりしていないか? りんの生まれた村と違って楓や珊瑚がそんなことさせないと思うけど。 っていうか、殺生丸は最初の出会いで何でりんの顔が腫れていたか、 知っていたんですね。 まぁ、臭いで村の大人達に殴られたと分かって いたんでしょうが、あえて聞いたとしたらその時からりんに心許していた? この間の反物、着物にしたか? お前は何本反物を贈っているんだ!? と言いたいです。 でも贈ったその後を気にする なんて不思議だなと思ったのですが、物欲のないりんのこと、案外貰った反物を 村の病人の治療薬( 明からの輸入した漢方薬とか )入手のために使っているとか。 もちろん殺生丸の許しを得てでしょし、贈った方もりんが喜ぶなら、まぁいいか、 な感じでしょう。 でも本心を言えば生きようが死のうが興味のない村人達より、 りん自身のために使って欲しいと思っているのかも。 困った時、辛い時、悲しい時、いつどんな時でもこの殺生丸を呼ぶがよい。 すぐに駆けつけてやろう。 戦国最強のセコムですか? 警備っつーより強力すぎて扱いに困る核兵器だと 思うのですが。 基本、殺生丸はりん以外はどうでも良いので状況によっては トラウマ確実な大量虐殺の可能性が……。 本当、りんさえ無事なら良いの。 ただ、りんは命の危機以外、誰かを頼ったりしないでしょう。 要は 甘えて 欲しいってこと? の割に上からの物言いが殺生丸らしい。 遥か彼方にいても、我が名を呼べば必ず飛んで行く。 声が出なければ口笛でよい。 指笛でもよい。 どんだけ呼んで欲しいんですか!? 指笛って犬じゃないんだし……って、 あ! 犬か化け犬の妖怪でしたね。 声が出ないってのは最初の出会いででしたね。 過去なんて片端から忘れているような殺生丸ですが、意外と覚えているんですね。 しかしここまで念の入れよう。 裏を返せばりんから「 会いに来て欲しい 」とか、 「 一緒に連れて行って欲しい 」との言葉を3年間一回も言われた事ないとか。 隔たりは何もない。 心は繋がっておる。 いや、あなたと心が繋がっているのはりんより 邪見だと思います! ( 断言 ) 信じる力があれば恐れることはない。 その気持ちさえあれば心は満ちるはずだ。 これ、りんに対してより 自分に言い聞かせているようにしか思えない言葉なんですが。 だから今はまだこのままでよい。 時は十分にある。 ゆっくりとお前の心を見つめておればよい。 怖い!! なんか色々考えだしている!? やばい、かつて死神鬼に自分に逃げと言う言葉は無い! とか言っていた殺生丸ですが、 りんに対しては選ばせると言う言葉は……、無さそうです。 奈落と違って策略とかじゃ無く 天然で外堀を埋めてきそうなのが、本気で怖いんですが……。 それまで己を大事にしろ。 確かにりんは、琥珀を助けるため毒蛇を掴もうとしたり、曲霊の毒気にあたって気絶したり、 神楽を助けようとして溺れたり、我が身にたいしては無頓着ですからね。 殺生丸も心配 でしょう。 小さいし、怪我したらすぐ死ぬとか、結構失礼な心配の仕方をしてそうです。 なんだろう、りんは誰かに頼る子ではないし、一緒に旅をしている時は その独立心と手を煩わせない所が気に入った理由の一つだと思うのですが、 離れてみるとその独立心ゆえに甘えてくれなくて「 寂しい 」と言う感情を覚えた? 一緒にいるときは、半ば育児放棄ぎみだったのに、離れて暮らすと寂しがる。 なんて自分勝手な男なんだ、殺生丸。 でも弟の犬夜叉もかごめが現代に 帰ってから三年間、三日に一度の割合で骨食いの井戸に入ってかごめを 待っていましたね。 あれー……、今わたしの頭の中で愛犬雑誌によく投稿されている、 飼い主から離れると寂しがってお留守番が出来ない、 分離不安の ワンコに対するお悩み相談が浮かびました。 りんからすれば、殺生丸を含む周囲の大人達( 楓や犬夜叉たち )が自分の将来を 本気で思ってくれた結果が人里での訓練なら、頑張らないと! と思っているのでしょう。 それにたまに? 頻繁に? 会いにも来てくれるし、贈り物も沢山持って来てくれるし、 これ以上好意に甘えてもいけないと気を使っているのかも。 りんも大人になりますし。 でもりんよ、 「 ふり 」でも良いから少しは甘えてあげて。 でないと「 寂しさ 」なんて今まで感じた事のない感情に何しでかすか 分からないよ? 貴女と旅をしたワンコは……。 しかし読み切りのりんは敬語で話す、ちょっとお淑やか系女子になっていましたね。 映画での十六夜さんといい、 父と長男の好みのタイプは温和で素直、従順な人 なんですかね? 女性の好みが親子で同じなんだなと思いました。 しかしこの映画でのラスト、自分に守るものなどない! と言いきっていた殺生丸。 多分、りんにも聞こえていたんじゃないんですか? あれ。 彼女が甘えない理由の 一つに自分の言動も含まれているって、気づく日がくるのでしょうか? 原作の二人は、りんが本当に嫁にでもならない限り、りんからのスキンシップって 無さそう。 何かあったら殺生丸の邪魔にならないよう、真っ先に阿吽の方に駆けて いくりんしか想像できません。 そして邪見が代わりにくっついている……。 父親の影響から脱却し、自分の刀も手に入れ、妖怪の頂点を極めた感じの 殺生丸ですが、それだけ絶対的な力を手に入れても、自分の思うように いかない事が一つくらいあっても良いですよね。 それがりんに関する事なら面白いなーと思っています。 とりあえず、嫁云々より、 身近な異性として認識してもらう方が先だと思いました。 これも心の成長のための試練ってやつでしょうか。
次の束縛 束縛 例えば、村に住むのであろう若い男の匂い、 或いは、僅かずつ身から滲み出るようになった女らしさ、 知識や風習を知り、人らしく落ち着いてゆく様、 どれもこれも予想していたことでありながら、 何れもが忌々しく、浅ましく、胸の内を攻め立てる。 りんが楓の村に預けられて幾つかの季節が過ぎた。 足繁く様子を見にやってくる預け主はこのところ機嫌が良くない。 変わらずに主を慕うりんはそのことを気に病んでいた。 会った日は嬉しくていつものように村での話をするりんに、 主はあからさまに不愉快な顔を見せたりするようになった。 優しさに変わりは無く、嫌われたようにも感じられないのだが、 自分の行いや所作がそうさせるのかと思うとりんは不安を覚えた。 「りんや、何か悩んでおるのなら話してみなさい。 」 「あ、楓さま。 私は悩みなんてありませんよ。 」 「殺生丸と会った翌日は必ず浮かない顔だ。 誰にでも想像はつく。 」 「えっ・・そうですか?それは・・お別れの後は寂しいから・・」 「近頃はそれだけではあるまい。 あやつお前に何か?」 「いつもと変わりなくりんの話を聞いてくださってます。 」 「なら何を煩うことがある?何もない訳はなかろうて。 」 「はぁ・・でも特に何もおっしゃらないですし。 」 「一つ当ててやろうか。 お前昨日は先日の祭りの話をしただろう?」 「はっはい、楓さま。 しました!」 「その話を聞いて大方あ奴は機嫌を悪くした。 違うか!?」 「どうしてそんなことがわかるのですか!?巫女のお力・・?」 「まさか、誰にでもわかることじゃよ。 しょうのない男じゃの。 」 「殺生丸さまはそんなことありません。 」 「ああ、悪かった。 しょうのないのは皆同じだよ、妖怪であろうと男はな。 」 「・・・どういうことですか?」 「なに、妬いておるのだよ。 」 「やきもち・・って、殺生丸さまが?誰にですか?!」 「このところお前が誰彼なく優しくされたりするのが煩いのであろうよ。 」 「あの・・でもそれは昔から・・」 「若い男共に限ったことじゃよ、りん。 お前に虫が付かぬかと心配なのさ。 」 「ええっ!?まさか、そんな。 」 「男の話をせんことだ。 しかし変に隠しても疑うか・・」 「そういえば匂いがするので、誰と一緒に居たかとか聞かれたことがあります。 」 「そうか、鼻が利くと余計な邪推もするかもしれんな。 やれやれ。 」 「殺生丸さまが・・・やきもち・・」 人としての暮らしにも慣れ、大方の知識も身に付いた。 「嫉妬」という言葉も理解しているつもりのりんだったが、 その知識を主に結びつけるとなると、どうにも腑に落ちない。 おまけにその通りだとするならば、益々わからなくなる。 次に会うときに伝えなければとりんはとあることを密かに決心した。 ほんの数日後、空を駆け抜けて妖怪はりんのいる村へ降り立った。 それを察知したりんは、いつもの小高い丘で手を振って待っていた。 「殺生丸さま。 」 りんの再会を喜ぶ声に妖怪は無表情ではありながら、ほっとしたように見えた。 大事な娘に変わりないことを既にその鼻で嗅ぎ分け安堵したのかもしれない。 しかしりんの顔から何か言いたげだと悟ると、ほんの僅かに眉を動かした。 「・・どうした?」 不思議なことに、りんの様子から殺生丸は色んなことがわかるのだ。 そしてそれを良く知るりんだからこそ、今回のことが腑に落ちなかったのだ。 しかしいくら鼻の聞く大妖怪であろうと、伝えねばわからぬこともあるだろう。 殺生丸から尋ねてくれたことに勇気を得て、りんはゆっくりと口を開いた。 「あ、あの・・殺生丸さまはりんが大きくなったらまた旅に連れて行ってくれますよね・・?」 「・・・おまえが望むならば。 」 「ありがとうございます!良かった。 待ってます、りんはずっと。 」 「・・それが訊きたいことか?」 「殺生丸さまが私と村の人とが仲良くなると心配される、と聞いて心配になったんです。 」 「くだらん。 」 「そうですよね!?良かった。 ・・まさかと思ったんですけど。 」 「・・りん、琥珀に会ったな。 」 「え?・・あっはい!」 「まだ間もないだろう。 誤魔化しはきかん。 」 「ごまかすなんて。 今朝お仕事の途中で寄ってくれたんです。 」 「わざわざここを通ってか。 」 「ここにお姉さんとお義兄さんたちがいらっしゃるからでしょう?」 「おまえに会う必要はないだろう。 」 「・・でも・・」 「会いに来られて嬉しいのか。 」 「ええ、それはもちろん・・」 りんが微笑んでそう答えるのを遮るかのように、殺生丸は片手でりんを引き寄せた。 突然のことにりんはわずかにだが抵抗してしまった。 見上げた先には不機嫌な顔があった。 切れ長い両の眼の深い色をした瞳がりんを射るかのように見つめているのに気付いた。 「あの・・りんは何か・・いけないことを言いましたか?」 「何も言っておらぬ。 」 抱き寄せられている肩が少し痛いと感じたが、耐えながらりんは考えた。 けれど、何がいけなかったのかがわからない。 その上抱き寄せられて胸まで痛み始めた。 「殺生丸さま・・離して?」 「私が触れるのが不快か。 」 「そうじゃなくて・・胸が苦しいの・・」 りんは心細い表情であったが、嘘偽りなく言った。 殺生丸の険しかった視線がその言葉とりんの様子に緩やかになっていく。 「おまえは何も案ずるな。 私にはわかっている。 」 「はい・・りんは殺生丸さまのものだから・・・」 「・・まだ私のものではない。 」 「ううん、命をくださったときからずっとそうなの。 」 「・・・・ならば忘れるな、おまえは私のものだ。 」 「はい、殺生丸さま。 」 「いっそ誰にも微笑むな。 ・・煩わしい・・」 「殺生丸さま?笑うなって言ってるの?」 「これは命令ではないから聞かずとも良い。 黙っていろ。 」 「はい・・」 りんの肩に頭を乗せるようにして殺生丸はしばらくの間りんを抱いていた。 もう痛みはなく、その穏やかな主の作った檻のなかでりんは幸福を感じていた。 その思いが届けばおそらくは叶えられるのだが、そのときのりんにはわからない。 大切な少女を包んだまま、殺生丸は長いこと己の想いの強さに打ちのめされていた。 久しぶりに書くと甘さが増します。 私の場合このことは確実かと!(^^).
次のりんを囚えたのは金の瞳。 甘く囁くように口づけられ、殺生丸のすべてを受け入れたあの日から、りんの暮らしは一変した。 決めたのは殺生丸自身。 殺生丸が口に出さなくても、りんは誰よりも、殺生丸がりんと引きかえに、望んでいない荷を負ったことを知っていた。 「本当にいいの?」 「ねぇ、殺生丸さま、いいの?」 指と指をからめ、殺生丸の胸に顔を埋め、謝った。 たかが、人間の娘。 しかし、迎えに行ったあの時から決めていた。 少し前に、結ばれた報告もかね村を訪れたときは、殺生丸自身が連れて行った。 庵から煙がなびき、駆けまわる子どもたちの声が聞こえる。 にぎやかさが懐かしい。 楓に頼まれた薬草を携えてきた。 楓は、いまはかごめがかわって看てくれている。 「そういえば、この先にいい温泉を見つけたのよ。 行かない?」 「えっ、温泉ですか?」 かごめの湯好きは有名だ。 かごめの国では、人は毎日湯に入るのだという。 普段、妖怪の世界で暮らすりんが、人と話す機会はない。 寡黙すぎる殺生丸は話し相手にはならず、話しかけるばかりでつまらない。 かごめや珊瑚たちと久しぶりに話せることは楽しかった。 「殺生丸、いないんでしょ? 泊まっていけば?」 「あ…はい。 でも……」 村に行くとは言ってきた。 殺生丸は遅くなるとも聞いていた。 でも泊まるとは言っていない。 「明日、帰れば?」 「うん…そうですよね…。 えっと、あの………ねぇ、邪見さま、いい?」 たびたびは来られないし、残りたい。 でも、一人では、何も決められない。 安全になったとはいえ、殺生丸がりんを残して出かけるようになったのはごく最近のことなのだ。 話を振られた邪見も困っていた。 主の機嫌が、悪くなるのはどちらだろう。 りんを村に残すこと。 または、 りんの望みを叶えないこと。 誰よりも殺生丸を理解している邪見でさえ、りんに関しては、殺生丸の行動は、常に邪見の推測の範囲を超える。 といって、期待を込めて見つめるりんに、反対もしずらい。 「朝早く帰るから……。 ねっ?」 りんは楽観的に願い出た。 「わぁーーー。 気持ちいいーー」 木立に囲まれ滾々と湯が吹きあがる温泉は、見晴らしのいい場所にあった。 「楓さまも連れてきてあげればよかった…」 りんは、頑なに断った楓を置いてきたことに後悔する。 「大丈夫よ。 楓ばあちゃんは、私たちが、連れて来るもの」 楓を泣かせ、許しを請うた日は、いまは遠い。 弥勒が後を押してくれた。 皆がいたから、思い切れた。 季節がめぐった野山は、すがすがしい空気に包まれている。 かごめ、珊瑚、りんの三人は、語らいながら温泉の湯を存分に楽しんだ。 かごめと珊瑚は、艶が増したりんの白い肌に目を向ける。 「りんちゃん、また、きれいになったみたい」 子を産みすっかり円熟した二人には、初々しく匂い立つようなりんの輝きが、眩しい。 「殺生丸とはうまくいってるの?」 りんは、明るくほほ笑んで、頷いた。 「意地悪なことしない?」 「えっっっ…!?」 鋭く飛ぶ質問に答えを窮する。 経験のないりんに対し、殺生丸はそうではない。 そもそも生きている年数が圧倒的に違うのだ。 「……あの…」 なんと答えればいいのだろう。 優しいといえば、優しいのだけれど…。 首筋に残った、かすかな痣をかごめが見つけりんに問い詰める。 「これ、殺生丸がつけたの?」 りんさえ気づいていない痣。 りんは覚えていない。 見まわしても体にはほかにはない。 「ふーん、優しいんだ…」 思わず下を向いたりんに、容赦のないからかいの声が、楽しそうに飛んだ。 冬に村に寄った時には、進まない二人の関係を訝って、かごめは殺生丸を問い詰めたのだ。 妖の深い想いを知ったのはその後だった。 殺生丸と離れるのは寂しい。 でも、家を出てから、一度も村には泊まっていない。 何年も暮らしてきた家でぐっすり眠れるのは楽しみだった。 翻弄されることもない。 「子どもたちがいない湯あみなんて久しぶり。 気持ちいい」 「うん、本当」 三人は湯からはとうにあがり、岩に腰掛けて暮れゆく夕日を眺めながら涼んでいた。 「りんちゃん?」 一人空を見上げ、いきなりりんが駆けだしていく。 木立に囲まれた湯の向こうに、殺生丸が降り立つ姿が見える。 かごめと珊瑚は、二人で顔を見合わせた。 「帰らないんじゃなかったの?」 「わざわざ迎えにきたとか…?」 思わぬ殺生丸の来訪に、邪見があわてて出迎える。 「って、殺生丸さまっっ。 あのっ、申し訳ありませんっっ。 りんが、どうしても残りたいと申しましたものでっっ…」 「……」 殺生丸の配下から連絡がいったに違いない。 蛇に睨まれた蛙のように、ひれ伏しながら、報告する邪見の姿は気の毒だった。 「私が勧めたのよ。 たまには、実家に泊まるのもいいでしょう?」 見かねてかごめが声をかける。 「一緒に泊まっていく? お義兄さん」 「……」 冷やかな視線を送る殺生丸に、かごめは、怯んだ。 しかし、りんはさすがに臆することはない。 「ねぇ、明日までここにいてもいい? もっとお話したいし…。 殺生丸さまも泊まる?」 邪見が、りんを諌めようと、後ろで手をばたつかせている。 殺生丸は、ちらりとりんを見て息を吐き出した。 「……いらん。 おまえだけ残るがいい」 「ほんとっ?」 殺生丸の姿を見たときから、迎えに来たものと思っていた。 思わぬ許可に、りんの顔が輝く。 「かごめさま、泊まってもいいって」 しかし、心配そうに見ている二人に報告しようと歩き出した時、りんは、殺生丸の強い腕に阻まれた。 「……?……なぁに…?」 振り向いて見上げた金の双眸に、嫌な予感がした。 りんについた守りの力は強く、いまは安全だ。 りん一人残しても問題はない。 反対するつもりはなかった。 当然、自分は留まるつもりはない。 (…ふん) りんが長年過ごした村を出て、まだ一年も経っていない。 殺生丸が積年の想いを遂げたのは、ついこの前のことだというのに…。 ただでさえ短い人間の一生。 一日たりと無駄にする気は、殺生丸にはさらさらない。 (第一、望んだのはおまえだ。 二度と離すなと) 殺生丸の導きだした結論は単純だった。 強い視線を受け、りんの居心地は悪くなる一方だった。 息を吸い込み、無理にでもほほ笑もうと、顔を上げると、間近に殺生丸の顔があった。 息遣いを感じ、りんはすっかりうろたえた。 「ちょっ……、ちょっと、殺生丸さまっ……?」 「ここに泊まりたいのだろう?」 「そうだけど…、でも…」 抜け出そうとしても、りんの体は、殺生丸の腕の中にしっかり捕えられていて、身動きできない。 意志を持った殺生丸の行動に、りんは慌てふためいた。 (……止めはせん。 が、それには…) (……何年待ったと思っているのだ) 「ねぇ、殺生丸さま、皆、見てるし〜〜」 言葉は何も返ってこない。 「朝早く、帰るから…」 「……」 「……〜んっっっ!」 緩められることのない腕からは、もがいても抜け出せそうにない。 殺生丸の手が優雅に動き、りんの帯を解いたとき、りんのささやかな望みはすっかり消え失せていた。 「うわぁぁああああ。 待って。 帰る! 帰りますっ。 「あれ、りんはどうしたのです?」 「殺生丸が連れて帰った…」 「ほぉ…それは、それは…」 弥勒が去ったのを確かめてから、かごめと珊瑚は声を顰めて話しはじめた。 思い出すだけで、二人の顔はほてってくるようだ。 「ねぇ。 もしりんが、帰るって言わなかったらどうなっていたと思う?」 「それは…あのまま、いっちゃったんじゃない…? 殺生丸に、やめる気なんて、なさそうだったもの」 「殺生丸って、全然気にならないんだね…」 「…うん。 なんか、もう一日も手放せないって感じだった……」 「りんも苦労するねぇ…」 かごめと珊瑚は、二人が飛び去った空を眺めて、溜息をついた。 二人を隔てる障害はもう何もない。 願ったのは、人間の娘。 そしてそれは、妖の隠された深い想いと重なった。 分かれて浮かぶ雲二つ、風になびき、まじり、まじわり一つとなった。 結ばれた雲は、流されても離れることなく、 恥じらい染まる肌のようにほんのり茜色に色づきながら、空の果てへと、たゆたっていった。
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