毎日日本語 多彩の時代——明治村散策 明治村は、明治建築(けんちく)を保存(ほぞん)展示する野外博物館である。 愛知県犬山市の郊外、入鹿池(いるかいけ)に面した風景の美しい丘陵地(きゅうりょうち)100万平方メートルを占め、ここに移築(いちく)復元(ふくげん)した建物は60を超えている。 明治村博物館の大門は名古屋大学の前身である旧制(きゅうせい)第八高等学校の正門だった。 1890年、森鴎外が借家して一年余りを過ごし、その後1903年から1906年まで夏目漱石が借りて住んでいた。 この家で、鴎外は『文づかい』などの小説を書き、漱石は『吾輩は猫である』を書いた。 長野県木曽郡大桑村の清水医院は、島崎藤村の姉園子が入院し、彼女をモデルにして藤村の小説『ある女の生涯』には、蜂谷(はちや)医院の名で登場している。 八角(はっかく)の尖塔(せんとう)を頂く、ドイツバロック風の木造二階建ては北里研究所本館の医学館である、日本の細菌学(さいきんがく)の先駆者(せんくしゃ)北里柴三郎博士が建てたものである。 東京湾に面した品川燈台、西園寺公望首相(しゅしょう)の別邸(べってい)「坐漁荘」、文豪幸田露伴の住宅「蝸牛(かぎゅう)庵(あん)」、六郷川鉄橋… 本郷の喜之床(きのとこ) 理髪店りはつてん)の二階に、石川啄木が住んでいた。 ここで処女歌集『一握(いちあく)の砂(すな)』を創作した。 法廷(ほうてい)、監獄(かんごく)、兵舎(へいしゃ)、天主堂(てんしゅどう)、教会堂(きょうかいどう)、銭湯(せんとう)、劇場(げきじょう)、写真館、小学校の教室… 明治村の中の宇治山田郵便局、京都市電の電車、神戸の大井牛肉店、喜之床理髪店などは、今でも営業している。 ——『明治村』.
次のウイルスはどうやって細胞に侵入するか? Vol. コロナというのも太陽のまわりに広がる太陽コロナではなく、クラウン(王冠)の意味のラテン語です。 つまり、コロナウイルスとは王冠ウイルスなのです。 それでは王冠ウイルスとはなぜでしょう。 王冠のかたちでもしているのでしょうか? コロナウイルスは小さなタンパク質の殻(カプシド)の中にRNA(リボ核酸)が収まった構造体です。 カプシドの外側にさらに膜(エンベロープ)があり、スパイクと呼ばれる突起がたくさんエンベロープに刺さっています。 実はこのスパイクの先端が膨らんでいて、王冠というか花びらのような形をしています。 それでコロナウイルスというのです。 ちなみに、エンベロープに突起のあるウイルスは他にもいます。 例えば、インフルエンザウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)などです。 それぞれ突起の形状などに特徴があります。 つまり、細胞の中に入り込むことがウイルスにとっては非常に重要です。 空中を漂い、人間の身体の表面に付着したとしてもそのままでは増殖できません。 通常、皮膚表面には表皮があり容易に侵入できるものではないからです。 まずは粘膜など入りやすい細胞がいるところに着地しなければなりません。 それでは、手頃な細胞が周りにあったとしてどうやって細胞の中に入るのでしょう。 一般的には2つの方法があります。 ひとつは、細胞の表面に付着し、エンベロープが細胞の細胞膜と融合し、中身だけが細胞の内部に入り込む方法です。 もうひとつは、細胞に食べてもらう方法です。 前者の場合、コロナウイルスでは、前述のコロナ状の部分が細胞表面のレセプターに付着して細胞の中に入り込みます。 後者(細胞に食べてもらう)の方法は次のようなものです。 細胞にはエンドサイトーシスという細胞外の物質を細胞内に取り込む働きがあります。 樹状細胞やマクロファージはこのエンドサイトーシスにより外部の異物を取り込みます。 取り込まれた異物は小胞や食胞と呼ばれるものの中に入ったまま細胞内を移動し、最終的に小胞はリソソームと融合します。 リソソームの中には消化酵素などがあるため通常、異物は分解されてしまいます。 しかし、うまく消化を逃れるなどして、細胞質の中に逃げてしまうのです。 がん細胞でのみ増殖するウイルスをつくり、それを体内に送り込みます。 このウイルスは通常の細胞では増殖できませんが、がん細胞内で増殖するように遺伝子を操作しておきます。 その結果、正常細胞には害を与えずがん細胞の中でのみ増殖し、細胞を殺して細胞外に出てきます。 これでがん細胞を殺してしまおうという狙いです。 参考文献 1. 田口 文広「コロナウイルスの細胞侵入機構:病原性発現との関連」ウイルス第56巻 2 号 pp. 165-172, 2006 2. 宮内 浩典「エンベロープウイルスの宿主細胞への侵入過程」ウイルス 第59 巻 第2 号,pp. 205-214,2009 3.
次のやっぱり、しっかりしてるほうの古明地とよばれているだけはあるね。 霊烏路空のたすけをきいて、地霊殿からとびだしてきたのかな。 よくもまあそんなとおくのこころのこえがきこえるね。 そんなかのじょは、すぐにどっかにいっちゃったんだ。 ま、どこにいったのかは、こころをよめなくてもわかったんだけどね。 霊烏路空をいりょうしつにはこんでいったんだよ。 すごいはやさだった。 きっと、いむしつにいるぺっとたちはびっくりするだろうね。 だけど、しょうがないかな。 血の池地獄にひとりのこされたわたしはね、どうしようかなってかんがえてたんだ。 でもね、かんがえているうちに、じかんがたってたみたいで、ねちゃったんだよ。 それで、めがさめたら、いつのまにか、あの子がかえってきてたの。 「ねえ、どうして」 なんでかな。 あの子はないてたんだ。 じめんによこたわるわたしをみて、なぜかないてたの。 みっつのめからなみだがぼろぼろこぼれてたね。 血の池地獄の血なんかより、わたしにはそっちの涙のほうがよっぽどきつかったよ。 「どうしてお空にあんなことをしてたの? ねえ、どうして」 「どうしてっていわれてもなー」 わたしはね、ひょいってたちあがったんだ。 げんきにね。 ぜんぜんげんきじゃなかったけど、げんきにたちあがったの。 てんしんらんまんに。 まるでわたしがたのしんでいるかのように。 「霊烏路空をころすためにきまってるじゃん」 「だから、どうして」 「だって、ちじょうをせめるっていってたんだよ! せっとくもむりだったの。 だったら、ころすしかないよね」 「なんで」 かのじょはとてもかなしんでたの。 なんでここまでかなしんでるだろうね。 「ねえ、10-1ってなんだとおもう?」 わたしのこえは、なんでかしらないけど、すごいたのしそうだった。 「こたえてよ」 「え?」 「はやく」 こんなかんたんなもんだいなのにね、こたえてくれなかったんだ。 ただ、うつむいくだけで。 ぜんぜんしっかりしてないじゃん。 そんなんじゃ、しんぱいだよ。 「こたえは9! かんたんでしょ」 「ねえ、どうして」 「ああそうそう。 にんげんって、マムシに噛まれたら死んじゃうんだって。 だから、うでをかまれたらそれをきっちゃうんだよ。 しぬよりましだからって」 「なんでこんなことを」 「霊烏路空がうでだったからだよ!」 わたしはおおごえをだしたの。 そんなつもりはなかったんだけどね。 なぜかおおごえだったんだ。 どうしてかな。 ごまかしたかったのかな。 なにを? さあ。 なんだろうね。 「だって、霊烏路空はちじょうをせめるきだったんだよ。 こわいね。 おそろしいね。 そんなことをしたら、せんそうになっちゃうかもしれないじゃん。 あのおにたちが、だまってるはずないじゃん。 八雲紫が、なにもしないわけないじゃん」 「ねえ、答えてよ」 「せんそうになったら、たくさんしんじゃうかもね。 しなないかもしれないけど、それでもちていはたいへんだよ。 ちじょうもね。 だったら、しょうがないじゃん」 そう。 しょうがない。 「しぬよりはうでがなくなるほうがましなんだよ。 ならさ、ちていがなくなるよりは、霊烏路空がいなくなったほうがいいでしょ?」 「そんな子じゃなかったじゃん。 あなたは、もっと」 「10-1は9なんだよ! 1をきって9がたすかるのはごうりてきなんだって! ほら、これでいいじゃん。 霊烏路空をころせば、みんなたすかるんだよ! だったらころすしかないんだよ」 そもそも、ころさなくてもだれもしなないかもしれないでしょ。 そういいたいのがね、わかったんだ。 そんなの、わたしだってわかってるよ。 「これはね、意味のある殺しなんだよ。 なかまをうらぎったりきずつけたりするやつはころしてもいいんだって。 だから、しょうがないんだよ」 「お空は、べつに裏切ってないじゃん。 傷つけてないよ」 なきながら、そううったえてきたの。 みじかいかみを、ばさってゆらしながらね。 血の池地獄にいるからか、そのかみの色がいつもより濃くなっているようなきがしたの。 おこってるからかもしれないけどね。 「たしかにお空のようすは変だったよ。 凄い力を持っているのもそうだった。 だけど、何も殺そうとしなくても。 まだ地上には指一本触れてないじゃん。 強い力を、不穏な力を持っているだけで、あんな目に。 あんな酷いことをするなんて」 「馬鹿だなあ」 「え?」 かのじょはきょとんとしてたんだ。 はじめてみたよ、そんなかお。 どんなかお? ぜつぼうのかおさ! 「そんなんだからだめなんだよ。 待ってばっかでじぶんはなにもしないから手遅れになるんだ」 「なにをいって」 「だからね。 迷ったらやった方がいいよ。 よくいうでしょ。 迷ったらやれって」 そうだよね。 まよったらやらなきゃいけないの。 「それにね、ふくざつなのはだめなんだよ。 てのこんだようかんはからくなっちゃうの。 だからこうしたんだ」 「どういうこと?」 「え? だって、霊烏路空がちじょうをせめるかもしれないんだよ。 ちていとちじょうのあらそいになるかもしれないんだよ? だったら、そのげんいんをころせばいいだけじゃん。 かんたんでしょ? しんぷるでしょ? ただころすだけだもん」 あの子は、しばらく、そのばにたって、ないてたんだけどね、いきなりかおをあげてこっちをみてきたんだ。 すごいかおだったね。 だけど、それでも、ゆっくりちかづいてきたんだ。 そして、むかしみたいに、ぎゅってだきしめてきたの。 ぼうしのうえからあたまをなでてくる。 いみがわからなかった。 どうしてそんなことをしてくるんだろう。 なんでこのごにおよんで。 よそうがいだ。 「ねえ、覚えている?」 ぬけだそうともがくけどね、なぜかうまくいかなかったんだ。 「いつも、あなたはしっかりしてなくてさ。 無茶苦茶で馬鹿でどんくさくて、放っておけないような子だったけど、それでもさ。 優しい子だったじゃん。 覚り妖怪とは思えないほどに」 「やさしいさとりようかいなんているわけないじゃん」 「だから、珍しかったんだよ」 かのじょのなみだが、わたしのふくまでぬらしてきたんだ。 つめたかったね。 これいじょうなくつめたかった。 いままででいちばん。 なんでだろうね。 「あなたは優しすぎたの。 だから、壊れてしまったのかもね」 「わたしがやさしい? じょうだんでしょ」 じょうだんにしてもわらえないかな。 「やさしくなんかないよ。 だって、やさしいひとは、みんなに好かれるでしょ? わたしはすかれないもん。 きらわれるのさ。 だから、わたしはやさしくないよ」 「大丈夫。 きっと大丈夫。 あなたは優しいよ」 なにがだいじょうぶなんだろうね。 きっと、なにもかもがておくれで、もうまにあわないんだ。 なのに、だいじょうぶなわけがないのに。 「謝ろう」 かのじょはそうやさしくいってきたの。 ほんと、おかしくなっちゃいそうだった。 ほんとうに。 ほんとうになりそうだった。 「お空に謝ろう。 私も一緒に謝るから、ね」 ああ。 なんてやさしいんだ! わたしなんかより、よっぽどやさしいよね。 さすが、しっかりしてるだけある。 きっとかのじょは、ほんとうにやさしいんだ。 さとりようかいなのに、さとりようかいだからこそ、やさしいんだ。 だから、わたしよりはきらわれてないんだね。 ひとのこころを、ようかいのこころをよめる。 なのに、ここまでじゅんすいで、ここまでしんせつで、きっとだれよりもやさしい。 だからこそ、食糧不足のときに、わたしをたすけてくれたんだね。 そして、それでわたしがきらわれちゃったことを、きにしてたんだね。 そのあとのちゃばんもしっぱいしちゃったからかな。 かぞく。 これいじょうないほど、さいこうのかぞく。 だからこそ、わたしは。 「あやまらないよ」 はっきりそういったんだ。 あたりまえだよね。 「なんであやまらなきゃいけないのさ」 「大丈夫。 たぶん許してもらえないけど、それでも」 「ゆるしてもらえない?」 そんなことはわかってたよ。 こんなことしてゆるしてくれるやつなんているわけないよね。 それに、わたしはしっているんだ。 誰かがあくいをもって、それでなかまを不意打ちしたやつが、この地底でどんなめにあうか。 みをもって、しっていたの。 「いったいだれがゆるすの? 霊烏路空? かのじょがゆるしても、もうおそいよ。 ちていがゆるさないんだ」 「それでも、謝ろう」 「いやだよ」 「どうして?」 どうしてって、そんなのきまってるよね。 「だって、べつにゆるしてもらわなくていいじゃん」 「え?」 「わたしはべつにわるいことなんてしてないんだよ。 そうなんだ。 そうなんだよね。 わたしはわたしがしたいことをしただけなの。 だからあやまらなくてもいいんだよ」 「何を言って」 「だって、かんがえてもみなよ。 わたしはちていがきらいなんだよ。 なのに、わざわざこうやってたすけてあげたのさ! かんしゃしてもらってもいいけど、あやまるひつようなんてないね。 それに、おもしろかったし」 「おもしろ、かった」 めがねがないからかな、ぜんぜんこころがよめなかったんだ。 でも、ふしぎなことにね、なんでか、むこうもこころをよめていないみたいだったんだ。 もしよめてたなら、きっと、いますぐにでもとめてくるもんね。 でも、なんでこころがよめないんだろ。 ふしぎだよね。 なきすぎちゃったのかな。 「そう。 おもしろかったの。 霊烏路空。 すごかったよ! たすけて、たすけてってずっといってた」 「やめて」 「およげないのにね、せいいっぱいてをのばして、もがいてたんだ。 つらそうだったよ。 みじめだったね。 めをみひらいてさ」 「やめてって」 「つばさなんてもう、とけてたんだ。 すごいいたみだったみたいだよ。 いたすぎて、すぐに失神してたんだけどね、ほら。 いしきをうしなっちゃったら、しずんじゃうじゃん。 そしたら、血がかおにかかって、それがまたいたくて、いしきをとりもどしてたんだ。 そのくりかえしだったよ。 なるほど。 じごくだね」 「やめてって言ってるじゃん!」 「あーあ。 こころをおたがいよめていたら、あの時の霊烏路空の顔を見せてあげられたのになー。 ざんねんだよ。 しんそこざんねんだよ。 がっかりだ。 霊烏路空は、ずっとね、よんでたんだよ。 さとりさま、さとりさまって」 かのじょはわたしをだきしめていた手を離したの。 ばってね。 そして、すごい勢いでわたしからはなれていった。 そのかおは、すごくあおざめていたんだ。 まゆがハのじにさがって、くちをわなわなさせてたの。 すごいみおぼえがあるかおだったね。 そう! こころをよめなくてもわかるほどに! 「ねえ。 あなたはお空をあんなめにあわせて、なにもかんじないの」 たぶん、かんじないはずはないって、そういいたいんだろうね。 そりゃあそうだよ。 かんじるにきまってるじゃん。 「かんじないよ」 「え?」 「そりゃそうでしょ。 霊烏路空はわたしのことがきらいなんだよ。 どうして、そんなやつのことを。 むしろせいせいしたね。 かってにわたしのいえにすみついた、ちれいでんにすみついたぺっとにふさわしいさいごだとおもったのにな。 おしかったよ。 よけいなことしちゃってさ」 「それ、ほんき?」 「こころをよめばいいじゃん! あ、よめないのか。 わたしはほんきだよ。 いつだってほんき。 ぎゃくに、ほんきじゃなかったら、わざわざ霊烏路空をこんなところによびだしたりするわけないじゃん。 ほんとうはわかってるんじゃないの? わたしがほんきだってことを。 あきらめなよ」 そう。 あきらめなきゃだめだよ。 なにを? わたしのいのちを。 「わたしはやさしくないよ。 なにをいまさら。 なんねんいっしょにいるとおもってるの。 むりに、こんなわたしにやさしくしなくてもいいんだよ」 「無理なんかじゃない」 「どうせざいあくかんでしょ」 わたしはおもってもいなことをくちにしたんだ。 うそだね。 でも、かのじょはそれにきづいてないみたいだった。 「かぞくだから。 わたしのせいだから。 そんなふうにおもってるんでしょ? それでやさしくしてるんでしょ。 いいめいわくなんだよ。 どうじょう? なんておぞましい! そんな下劣なかんじょうをわたしにむけているなんて! とても姉妹とはおもえないよ。 だからわたしは」 まえ、八雲紫にきかれた質問をおもいだしたんだ。 あなたたちはなかがいいのかしら、という質問。 あの子はもちろん、なかがいいと答えたんだ。 だけど、わたしはそれをきょぜつする。 ほんしんからね。 「わたしは、おまえのことがきらいなんだよ」 おとがきえたんだ。 こころがこわれるおとが。 わたしたちはなにもいわずに、ただたっていたの。 あの子のかおはまっさおになってたね。 そのまっさおなかおのまま、くるってうしろを向いちゃったの。 かおをみれなくなっちゃった。 「もう、むりかもね」 そのまま、そう言ってきたんだ。 なにがむりなんだろうね。 そして、そのまま、わたしにせをむけてあるきはじめたんだ。 「ねえ。 私はあなたと一緒で楽しかったよ。 確かに、他のみんなに嫌われてたし、辛かったときもあったけどさ、それでも楽しかったんだ」 わたしはなにもいわなかったの。 いえなかったっていったほうがいいかな。 「だから、今でも後悔はないし、恨んでもいないよ。 本当に、姉妹でいられてよかった。 最高の家族だったよ」 だった。 かこけい。 そういうこと。 わかってたのにね。 ああ、かなしくなんてないさ。 「だから、最後はね、お礼でお別れ。 今まで」 彼女はそこでなみだをぬぐったんだ。 なんのなみだだろうね。 「今までありがとう。 そして、さようなら。 こいし」 そういって、一目散にさっていったんだ。 わたしをおいてね。 さようなら。 さようなら。 これでいいんだ。 こうかいなんてしていない。 していないよ。 していないんだ。 なんでだろうね。 むしょうにわらえてきちゃって。 おおごえでわらったんだ。 あははってね。 おもしろいね。 ふしぎだね。 めがねをしてなかったのにね、さいごのさいご。 さよなら、って言われるしゅんかんだけ、かのじょのこころがみえたんだ。 よめたんだよ。 よめてしまった。 なんだとおもう? かのじょのこころには、なにがうかんでたとおもう? しょっく? いかり? しつぼう? かなしみ? そんなんじゃないよ。 そんなあまくないよ。 けんかじゃないんだから。 かのじょのこころにうかんでいたかんじょうはただひとつ! もっともわかりやすくて、もっともみおぼえのあるかんじょうだったんだ。 嫌悪だよ。 やったね。 うれしいね。 わらえるね。 わたしはかのじょのうじむしになれたんだ。 なってしまったんだ。 きらわれたんだ。 これいじょうなく! 血の池地獄にわたしのこえがひびいてたんだ。 わらいごえが。 さいこうだね! もういいんだ。 おもいきり、あたまをたたいて。 そして、わたしはさーどあいをなぐる。 なにもかんじない。 そうだよ! なにをいまさら! きらわれることなんて、いつものことじゃないか。 わかってたよ。 わかっていたんだよ。 だから、どうして。 どうしてこんなに悲しいんだろう。 わかんないや。 そして、わたしはさーどあいをなぐる。 なにもかんじない。 わらいがね、とまらないんだ。 でも、ふしぎとめからなみだがでたの。 なぜかね、おもいだしたんだ。 ほらあなで、あのこといっしょにくらしていたときのことを。 かのじょの夕闇色のかみが、なんでか懐かしかった。 でも、もういいんだ。 もう、いいんだよ。 そして、わたしはさーどあいをなぐる。 なにもかんじない。 なぐる。 なにもかんじない。 なぐる。 なにもかんじない。 なぐる。 なにもかんじない。 なぐる。 なにもかんじない。 なぐる。 なにもかんじない。 なぐる。 なにもかんじなくなった。
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