タイにおける土壌汚染・地下水汚染問題とは? タイでは、鉱山開発や工業発展に伴って引き起こされた土壌汚染や地下水汚染が各地で問題となってきました。 代表的な公害問題として、以下の事例があります。 北部 工業団地の VOCs による地下水 汚染 JICAの支援のもと、電気電子産業を中心とした日系企業が多く入居する北部工業団地(ランプーン県)にて地下水の汚染状況が調査されました。 結果、トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物(VOCs)による工業汚染が見つかり、後に地下水環境基準が制定される契機となりました。 鉛選鉱場 に よる公害 問題 カンチャナブリ県には鉛亜鉛鉱床があり、その一部は鉱山開発されました。 しかし、選鉱場下流に位置するクリティクリーク(小川)周辺で、鉛に起因する健康被害が発生し、社会問題となりました。 2018年現在、タイ天然資源環境省を中心に、浄化プロジェクトが進行中です。 マプタプット工業団地の公害問題 世界第5位の規模を誇るマプタプット(ラヨーン県)の石油化学工業地帯では、公害が社会問題に発展しました。 工場から排出される有害化学物質により甚大な健康被害を受けているとして周辺住民が訴訟を提起。 2009年9月、中央行政裁判所が総額でおよそ100億ドル(約1兆円)にのぼる76件のプロジェクトに中断を命じました。 この決定は、日系企業にも大きな影響を与えました。 当局は200を超える観測井戸を設置し、地下水汚染状況を監視しています。 新たな法規制の制定 タイに限らず中国や東南アジアの新興国でも同様ですが、環境に対する社会の意識の高まりとともに環境規制が強化されつつあります。 2016年4月29日、タイ工業省は他の東南アジア諸国に先駆けて、を公布しました。 本工業省令に基づき、日系を含む特定業種(化学、金属、電気電子、廃棄物など12業種)の工場には、定期的な土壌および地下水の調査義務が課されます。 対象工場は、地下水については毎年、また土壌については3年毎にサンプルを採取・分析し、結果を工業省に報告しなければなりません。 なお、本省令の運用のため、2016年11月にはが公布されています。 工業省令(2016)の対象事業者: 本省令が適用される特定事業者とは、以下の12種の事業を営む事業者です(No. は、タイの工場法にて定められる産業分類番号のこと)。 工場法に基づく工場の区分または種類 規模 1 No. 22 1 2 3 4 織物、糸、又は非アスベスト Asbestos 繊維に関する工場 第3種工場 2 No. 38 1 2 パルプ又は紙の製造工場 第3種工場 3 No. 42 1 2 化学品、化学物質、又は肥料以外の化学材料に関する事業の工場 第3種工場 4 No. 45 1 2 3 塗料 Paints 、ワニス、セラックニス、ラッカー又は塞ぐ若しくは詰める用途のための製品に関する事業の工場 第3種工場 5 No. 48 1 2 3 4 6 12 化学製品に関する事業の工場 第3種工場 6 No. 49 石油精製工場 第3種工場 7 No. 60 鉄又は鋼鉄以外の金属の精錬、混合、純化、熔解、鋳造、圧延、引延し又は初期段階の製造に関する工場 第3種工場 8 No. 74 1 4 5 電気器具に関する事業の工場 第3種工場 9 No. 100 1 2 5 製品又は製品の構成要素の装飾又は特性変更に関する事業の工場 第3種工場 10 No. 101 中央廃棄物処理施設 第3種工場 11 No. 105 廃品又は不用品の分別又は埋立てに関する事業の工場 第3種工場 12 No. 106 工業製品の不用品又は工場から出る廃棄物を、工業的製造工程を経て原材料又は新製品に再生する事業の工場 第3種工場 対象事業者の義務:• 既存工場:• 工場情報(使用化学物質および取扱量等)の届出(省告示付属書3書式、2017年5月29日までに提出)• 土壌調査・地下水調査の結果報告(省告示付属書4書式、2017年10月24日までに提出)• 汚染軽減対策を提案する報告書(省告示付属書5書式、汚染が見つかった場合のみ、見つかった日から180日以内に提出)• 新規工場:• 操業開始前の土壌・地下水調査および記録保管。 工場情報(使用化学物質および取扱量等)の届出(省告示付属書3書式、操業開始後180日以内。 工場の操業開始後の土壌調査・地下水調査(省告示付属書4書式、操業開始日から 180 日が経過した時点で、2 回目の土壌及び地 下水の質的検査を実施し、120 日以内に操業開始前に行った調査の結果と合わせて報告)• 汚染軽減対策を提案する報告書(省告示付属書5書式、汚染が見つかった場合のみ、見つかった日から180日以内に提出) 汚染が見つかった場合の対応について: 土壌および地下水の汚染基準を超えることが明らかになった場合には、汚染軽減対策を提案する報告書を作成し、汚染が見つかった日から180日以内に当局に提出しなければならなりません。 当該報告書では、土壌及び地下水の汚染基準以下に抑えることが可能になると予測される時期を示すことが求められます。 エンヴィックス・アジアのサービスについて エンヴィックス・アジアは、タイ国内における土壌調査、地下水調査および浄化工事をお受けしております。 日本およびタイの土壌・地下水汚染に詳しい専門家が、調査計画の立案から調査の実施、汚染が見つかった際の対策まで一貫して実施いたします。 規制対象に該当するかわからない• 規制対象だが何をしたらいいのかわからない。 新たに工場を設立するが、土地購入前に汚染状況を調べておきたい• 汚染が見つかったが、工業省の担当者と調整がうまくいかず困っている など、お困りのことがございましたらまずはご相談ください()。 個々の事情にあわせて、日本やタイの関連法令あるいは企業の社内基準を考慮したアプローチをご提案いたします。 規制の策定により、企業の意識も高まってきていますので、土地取引の際にはご注意ください。 写真:法令に基づく土壌・地下水汚染状況調査のための観測井戸設置作業(2017年8月@バンコク近郊の化学工場) 資料ダウンロード なお、タイにおける土壌・地下水汚染対策法令の背景・規制概要・最新動向について弊社がまとめた資料は以下よりダウンロード可能です。 Download:.
次の水に振り回される東電 そびえる原子炉建屋4号機の影が海に向かって長く伸びる。 日中の暑熱がやっと和らぎ始めた午後5時すぎ、赤い掘削機がうなり地下に穴を掘る作業が始まった。 これからの季節、東京電力福島第1原子力発電所の戸外作業は午前や夕方の涼しい時間に限られる。 防護服を着た作業は過酷だ。 東電は2014年7月8日、福島第1原発を報道陣に公開した。 6月に工事が始まった「凍土遮水壁」の作業現場。 掘削機が掘る穴には冷凍管を埋め込む。 建屋周辺の地下をぐるりと囲む氷の壁だ。 周辺の地下にたまる高濃度汚染水が地下水と混じり合って汚染が広がるのを防ぐ。 じっと現場を見つめていた東電の担当者は「汚染水対策がようやく本格化する」と感慨深げにつぶやいた。 専門外の「水」を扱うという慣れない作業に、東電は翻弄され続けてきた。 爆発で周囲に飛び散った放射性物質は雨水に混じり、一部が太平洋に流れ出た。 高濃度汚染水は、ためたタンクのあちこちの隙間から漏れ出した。 事故で破壊された原発の解体に手を付ける前に、まず東電は汚染水問題の解決に忙殺されている。 現場を視察した国際原子力機関(IAEA)は汚染水問題に深い憂慮を表明。 東電に任せきりにせず、政府を交えた総力戦で国家プロジェクトを完遂しなければならないと助言した。 こうして国が関与することになった汚染水対策の切り札が凍土壁だ。 税金約320億円を投じ、このほど着工した。 今秋には汚染水を浄化する施設も大量に増設される。 福島第1原発の汚染水対策は正念場を迎える。 凍土壁は「アイスキャンディー1500本」 巨大なアイスキャンディーが原子炉建屋付近の地下をぐるりと取り囲む様子を想像してほしい。 1メートルおきに地下30メートルまで差し込む凍結管は全部で1500本、全長は1. 5キロ。 これだけの規模の氷の壁は世界でも前例がない。 年度内には凍結管を埋める工事を終える。 来年度には凍結管に冷たい不凍液を流し、周りの土壌をアイスのように固める作業が始まる予定だ。 汚染した区域の地下を氷の壁で囲えば、地下水が外から流入して放射性物質と混じり、新たな汚染水が際限なく増える現状を打開できる。 さらに汚染水が海側に流れ出るのを氷の壁で妨ぐ効果も見込む。 これが凍土壁の目的だ。 当初は鉄板や粘土で壁を造ることも考えた。 だが、原子炉建屋付近の地下にはたくさんの配管やトンネルが走り、中には汚染水で満たされているものもある。 そこに鉄板などを打ち込めば汚染が拡大してしまう。 配管などを傷つけず土壌を固めるために選んだ手法が凍土壁だ。 もともとは水分の多い場所でトンネルなどを掘るための技術。 運用期間は2020年度までを想定している。 しかし、凍土壁はここにきて不安材料がでてきた。 「なぜ凍らないのか」。 東電の関係者は首をひねる。 福島第1原子力発電所の原子炉建屋と海の間には、高濃度汚染水がたまる地下坑道(トレンチ)がある。 東電は4月からトレンチ内に凍結管を差し込んで汚染水を凍らせる工事を始めた。 いわばミニ凍土壁だ。 ところが、2カ月以上たってもトレンチ内にたまった汚染水の一部が凍らない。 汚染水が流れ続けているのが原因と考えられ、凍結管を増やす対策などを検討中だ。 前例のない大規模な凍土壁計画には様々な関門が待ち構えている。 巨大な「アイスキャンディー」が汚染水対策のカギを握る。 ずらりと並ぶタンク、中に汚染水 なぜ福島第1原子力発電所は汚染水問題でこんなにてこずるのか。 その最大の理由は、原子炉の真下をとうとうと地下水が流れ続けているという同原発の特殊な立地だ。 事故で溶け落ちた核燃料はまだ原子炉の中に放置されたままで、熱を発し続けている。 放置して過熱すれば危険なため、1時間に数トンの水を常に浴びせて冷やしている。 この冷却水は放射性物質に触れて汚染水になるが、同じ冷却水(汚染水)を循環しながら使い続けていれば汚染水が増えることはなく、何の問題もなかった。 だが、原子炉建屋は爆発の衝撃で破壊され、ひびが入っている。 ここに福島第1原発特有の大量の地下水が押し寄せ、隙間から建物の中に流れ込む。 その量は1日に400トン。 原子炉を冷やした汚染水に日々地下水が混じり込み、汚染水は毎日400トンずつ増え続けている。 東電は汚染水をためるためのタンクを自転車操業で増設し、止めどなく増える汚染水を片っ端から貯蔵している。 しかし、急ごしらえのタンクには不具合が発生。 鉄板をボルトでつないで造ったタンクはあちこちで隙間が開き、汚染水が土壌に漏れ出した。 作業ミスも相次いだ。 整地が不十分なままタンクを傾けて置いた場所では、誤って汚染水を満タンまで注水し、天板からあふれてしまった。 タンク同士をつなぐバルブの開閉を誤り、汚染水が土壌に流出したこともある。 東電はタンクからの汚染水漏洩の見回り強化や作業手順の改善、溶接して造る丈夫なタンクへの置き換えなどの対策を相次ぎ実施。 タンクからの漏洩事故はひとまず収まった。 だが、敷地内にずらりと並ぶタンクにいつまでも汚染水を保管し続けるわけにはいかない。 リスクと隣り合わせだ。 手間取った井戸水の海洋放出 12番の井戸。 東電を悩ませているのがこの番号を割り振られた井戸だ。 原子炉建屋に流れ込む地下水を少しでも減らそうと、東電は建屋の上流側に12本の井戸を掘り、汚染前の井戸水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」を計画した。 しかし、風評被害を心配する地元漁業関係団体との協議は難航。 海洋放出にあたり、放射性物質濃度の厳しい自主基準を設定することとした。 予定より大幅に遅れ、やっと放出にこぎ着けたのは今年5月だった。 12本の井戸のうち、一番南に位置する12番の井戸だけは放射性物質の一種であるトリチウム濃度が高止まりしている。 6月30日の計測では、自主基準値の1リットルあたり1500ベクレルを上回る2300ベクレルに達した。 昨年に汚染水漏れを起こしたタンクに近く、地下水が汚染されていることが理由とみられている。 もっとも、法令が定めるトリチウム濃度の基準は1リットルあたり6万ベクレル。 世界保健機関(WHO)の水質ガイドラインは同1万ベクレル。 2300ベクレルという数値ははるかに低く、生態系や健康への影響は極めて限定的と考えられる。 ただ、社会の安心を勝ち得て風評被害をぬぐい去るには、科学的なデータだけでは不十分だ。 東電や政府には丁寧な説明が求められている。 汚染水の次に立ちはだかる水問題は「トリチウム水」。 汚染水は専用の装置を使った浄化が進むが、トリチウムだけは除去し切れず、汚染水は最終的にトリチウム水になる。 処理方法が決まっていないため、東電はとりあえずタンクにためて保管し続けることにしている。 海側遮水壁、地下水の流れ乱す? 福島第1原子力発電所では今、地下水が不気味な動きを見せている。 地下水の上下の流れが逆転している可能性があるのだ。 原子炉建屋の周辺では、地表付近より地下深くの方が水圧が高いため、上部にとどまっている汚染水が下部の層に向かうことはないと東電は説明してきた。 しかし、最近の調査で汚染は地下30メートルを超えるような深くまで拡大していることがわかった。 「地表に近い層から深部に向けた地下水の流れがある」(東電) その異常の理由として考えられるのが、福島第1原発の護岸に沿って海の底深くまで打ち込んだ鉄の壁「海側遮水壁」だ。 汚染水が地下を通じて海に流れ出るのを防ぐ目的で、東電が設置工事を進めている。 最終的には凍土壁と地下で連結し、内部に閉じ込めた汚染水が外に漏れるのを防ぐ役回りを期待されている。 ところが、鉄管を打ち込む工事の過程で地下を掘り起こしたため地層は大きく乱された。 この結果、地下水の流れが変わり、東電が想定していなかった深部に向かって汚染水の移動が生じたと考えられている。 実は、福島第1原発の地下構造や地下水の流れはほとんどわかっていない。 建設時のデータなどをもとに想像しているにすぎないのだ。 様々な汚染水対策が施されているが、予期せぬ副作用も東電を悩ませている。 浄化装置ALPS、切り札になるか 敷地の西側に、水をためる無機質なタンクが立ち並ぶ。 その数、900基超。 同じ場所にかつては緑の樹林が広がっていたが、今となってはそれを想像するのも難しい。 日々発生する汚染水との苦闘ぶりを象徴する光景だ。 事故を起こした1~3号機の原子炉は、今も冷却のための水を必要としている。 核燃料に触れた水は建屋に流れ込む地下水と混ざり合い、新たな汚染水を生み続ける。 移送先のタンクにたまった汚染水は放射線の発生源となり、廃炉に向けた作業を阻んでいる。 対策の切り札とされるのが、昨秋に本格的に稼働した東芝製の浄化装置「ALPS(アルプス)」だ。 汚染水に含まれる63種類の放射性物質からトリチウム以外の62種類を取り除き、フル稼働すれば1日750トンを浄化できる能力を持つ。 ところが、これまでの働きぶりを見る限り、期待通りの実力を発揮しているとは言い難い。 「これは一体……」。 3月中旬、作業員らは驚いた。 3系統ある装置のうち、1つの系統でトラブルが見つかった。 浄化したはずなのに、放射性物質の濃度がほとんど下がっていないのだ。 装置内で使用するフィルターの不具合が原因だった。 このトラブルはその後、やっかいな展開をたどる。 残る2系統にも同様の異常が生じていることが判明したのだ。 復旧作業を終え、全系統で運転を再開したのが6月下旬。 ちょっとした部品の不具合で作業が滞る現実に3カ月も振り回されてしまった。 「14年度中に浄化を完了させます」。 昨年、東電の広瀬直己社長は安倍晋三首相にこう誓った。 浄化が必要な汚染水は現時点で約36万トンにのぼる。 東電や政府は今秋以降にALPSを増設して処理量を1日2千トンに引き上げる計画だ。 廃炉完了まで30~40年 続く挑戦 8日、報道陣に公開された凍土壁造成の工事現場の真横に、原子炉4号機建屋を覆うように建てられた巨大なやぐらがそびえる。 建屋の上階に残されたままの使用済み核燃料を取り出す作業は昨年秋に始まった。 核燃料は別の建物の安全なプールに年内にはすべて移される予定だ。 福島第1原子力発電所の事故後、米国はこの核燃料を心配した。 核燃料は建屋屋上のプールに収められているが、再び大地震に見舞われてプールが割れたりすれば、またしても重大な事故が起きかねない。 だが1~3号機の使用済み核燃料はまだ手つかずで、すべての使用済み核燃料の搬出が終わるのは22年度以降。 危険な状態が続く。 さらに、原子炉の中で溶け落ちた燃料「デブリ」の取り出しが始まるのは最短でも20年度。 全号機で完了するのは40年度ごろになる見込みだ。 今後10年以上にわたり、水を循環させて冷やし続けなければならない。 東電を悩ませてきた汚染水対策は、解決のための手立てがほぼ出そろった。 だが、その後にも原発を解体して更地に戻す廃炉作業という難関が待ち構える。 作業が完了するのは42~52年度ごろとみられている。 福島では廃炉に関する研究開発拠点となる施設の建設が近く始まる。 燃料の取り出しや処理を研究し、訓練するための模擬装置などが設置される。 世界では老朽原発の廃炉が相次ぐとみられ、福島の経験は無駄にはならない。 挑戦は続く。 取材: 古谷茂久、生川 暁 制作: 鎌田健一郎、河本浩、清水明、秋山領.
次の砒素に汚染されたチューブウェル 1980年に中国・新疆ウイグル自治区、1982年にインド・西ベンガル州、1987年にタイのロンピブン村、1989年に中国・内モンゴル自治区で砒素中毒患者が発見されました。 その後、バングラデシュで約3,500万の人びとが砒素に汚染された水を飲んでいることがわかり、他の国でも調査が始まりました。 その結果、地下水の砒素汚染は、アジアの大河流域で、共通して起こっていることがわかってきました。 中国の黄河流域、ベトナムのレッドリバー流域、カンボジアとベトナムのメコン川流域、ミャンマーのエーヤワディー川流域、ネパールとインドのガンジス川流域、パキスタンンのインダス川流域、ガンジス川とブラマプトラ川とメグナ川の3つの大河が合流してできたデルタの国バングラデシュなどです。 こうした河川をさかのぼると、世界の屋根ヒマラヤ山脈にたどりつきます。 ヒマラヤ山脈はおよそ4,500万年前、漂流していたインド亜大陸とユーラシア大陸が衝突し、ユーラシア大陸の南にあったテチス海が隆起してできたといわれています。 大昔は海底だったヒマラヤの岩石に砒素が含まれていて、長い年月の間に岩石は風化し、大河に運ばれて中・下流域に堆積しました。 砒素は、酸化・水酸化鉄や粘土に吸着されたり、植物が枯死してできた泥炭に取り込まれたりして地下に眠っていました。 20世紀の後半になって、飲料水が地表水から地下水に転換するのにともない、眠っていた砒素がチューブウェル(管井戸)で汲みだされて、住民の健康を脅かすことになりました。 地下水を灌漑に使っている地域では、砒素による土壌や農作物の汚染も懸念されています。 地下水砒素汚染のメカニズム 地下に安定した状態で眠っていた砒素がどうして地下水に溶けだしたのか? そのメカニズムに関して、「酸化説」と「還元説」の2つの説があります。 酸化説は、砒素汚染地の地層から砒素を付随する硫化鉄が見つかったことを根拠にして、乾季の灌漑用地下水の大量汲みあげによって地下水層に空気がおりていき、その酸素が硫化鉄を酸化することで、硫化鉄は3価の鉄と硫酸イオンに分解し、そのときに付随していた砒素が離れて地下水に溶けだす、というものです。 この説に対し、井戸水から硫酸イオンが検出されないことや、井戸水は酸化ではなく還元状態にあることなどから異論がだされ、「還元説」の主張が強まりました。 還元説は、砒素濃度の高い井戸水が同時に高濃度の鉄を含んでいることや、地下を還元的な環境にかえるバクテリアの活動に着目して、地上から浸透してきた汚水やし尿や肥料などを栄養素とするバクテリアが活性化して、鉄を3価から2価に、砒素を5価から3価に還元する結果、酸化・水酸化鉄に吸着されていた砒素が解き放たれて地下水に溶けだす、というものです。 現在、アジアの地下水砒素汚染のメカニズムは還元説で説明されています。 は、 近年、チューブウエルで地下水をくみあげて飲料や灌漑に使い始めてから、アジアで砒素汚染が深刻になったと警告しています。 同書には、世界銀行が2004年4月にネパールで開催した「砒素ワークショップ」における報告をもとに作成した下表が掲載されています。 アジアの地下水砒素汚染の重大さがわかります。
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