この嘔吐感は飲みすぎたせいだ。 吐いた方が楽になるはずだ。 そしてカラ松が居酒屋の便器に吐き出したのは色とりどりの花だった。 驚きのあまり、声も出なかった。 続いて、戦慄した。 これは夢だ。 夢であってくれ。 酔っ払いの見た幻覚だ。 そう願うカラ松は、その花を流した。 最早酔いも冷め、その後は気が気でなかったが、孤独と静寂を愛するカラ松が多少挙動不審だからといって、気にするような兄弟はいなかったため、何も悟られずに済んだ。 あれは本当に夢だったのではないか? そう思い始めた頃、再びその花を吐き出した。 しかもその日からは3日連続だ。 流石に夢とは思えない。 現代人の情報収集の基本はネットである。 「花 吐く」と入力して検索した。 そしてそれはすぐに見つかった。 花吐き病。 正式名称は「嘔吐中枢花被性疾患」 花を吐き出す以外の症状は確認されていない。 吐き出された花に触れると感染。 片思いを拗らせると発症。 昔から感染と潜伏を繰り返して来たものの、治療法は未だ見つからず。 「こんな病気が本当にあるとは…。 」 一先ずは命には関わらないことが解り、安心した。 検索履歴を削除し、PCの電源を落とす。 治す方法はただ一つ。 両想いになること。 一つ下の弟に、カラ松は恋をしていた。 いつからだったかは最早わからない。 しかし、同性な上に兄弟しかも六つ子のうちの一人。 さらに、相手は兄弟の中では最も常識を重んじる三男だ。 まさか言えるわけがない。 黄緑色の小さな花をひとつ、つまみ上げた。 言えないなら、一生花を吐いて生きるのか? いっそ今、死んでしまおうか? そうしたらチョロ松は泣いてくれるだろうか。 [newpage] 結局のところ、カラ松に死ぬ勇気などはなかった。 花を吐く事には既に慣れた。 しかし日に日に頻度が増えていることに、カラ松は恐怖を感じていた。 言えない言葉のその数だけ、伝えたい言葉のその数だけ、喉の奥からぽろりとこぼれ落ちる花。 でも言えない。 ある日そんなカラ松をどこか不審に思ったチョロ松が尋ねた。 「カラ松、大丈夫?最近やけに大人しいよ?」 「大丈夫だ、心配には及ばないぜマイブラザー…。 」 ここ数日でわかった事がある。 1、チョロ松の事を好きだと思った瞬間に吐きそうになる。 2、チョロ松との会話はせいぜい三往復が限界。 それがたとえ事務的な会話だとしても。 3、チョロ松が他の誰かと会話していると吐き気がする。 4、まるで別の事を考えていても発作的に症状が起こる。 まるで好きという言葉を伝える以外の行動を制限されているようだ。 想いを伝える事以外に、愛する人と関わることができないなんて まるで脅迫だ。 早くしろと急かす花。 だが、それはできない。 「心配には及ばないって…だって、お前、今どんどん顔色が…。 」 「すまない、少し野暮用がある。 」 「おい、カラ松!ちょっと待てって!」 立ち去ろうとしたカラ松の腕が引かれる。 久々に合わせた眼は不安げに揺れていた。 嗚呼、お前のそういうところが好きで好きで…本当に困る。 そう思った瞬間にこみ上げた吐き気。 トイレまでかけていく余裕もなく掴まれていた腕を振り払い、そこにあったゴミ箱に吐き出したのは、小さくカラフルな花々と一際目立つ真っ青な薔薇。 青い薔薇の花言葉は「不可能」 「カラ松…何、これ。 」 嗚呼、結局見られてしまった。 チョロ松の声が震える。 同じように震えるその手が花弁に伸びたのをカラ松の目が捉えた。 「それに触るなチョロ松!」 手を咄嗟に掴み、チョロ松を引き倒したカラ松はその直後、またも色とりどりの花を増やした。 6、チョロ松に触れると直ぐに吐く。 どうして想うだけじゃ駄目なんだ。 [newpage] 「俺はどうやら、花吐き病というやつに罹っているらしい。 」 「花吐き病…?」 「あぁ。 なんでも、片思いを拗らせると発症するらしい。 」 2回も吐いたせいか、それとも想いの丈である花を見せたからかは解らないが、不思議と吐き気はなくなっていた。 カラ松は、チョロ松に花吐き病について簡単に説明した。 「つまりカラ松は随分大変な片思いをしてるわけだ。 で、両想いにならないと治らない、と。 」 「あぁ、全国のカラ松ガールには申し訳ないが、俺にはずっと愛し続けている人がいる。 …叶うはずもないのに。 」 「…あのさ、カラ松。 無理にその相手とかは聞かないけどさ、」 次に出る言葉が手に取るように解る。 だってずっとチョロ松を見てたのだから。 「僕に出来ることがあれば協力するよ。 」 ほらみろ。 花たちよ、お前らの言葉はまるで伝わっていない。 そしてもちろん俺の想いも伝わってはいない。 伝わらなくていい。 だって、伝わってはいけない。 そして花はさらにゴミ箱を溢れかえらせた。 気付けよとばかりに。 言えない言葉を花にしてふり積もらせる。 優しく背中をさする手に、花でなく想いがこみ上げてくる。 どうしようもなく好きだ。 好きで好きでたまらない。 でも叶うはずがない。 言ってしまえば、今この背中に感じている温もりすらも喪うことになる。 さらに吐き出したのはまたも青い薔薇。 花言葉は「不可能」 やっぱりお前らもわかってるんじゃないか。 [newpage] 花吐き病であることを知ってから、チョロ松がそばにいる事が多くなった。 ほかの兄弟が居る時はそっとしておいてくれる。 二人の時は体調を気遣ってくれる。 しかしチョロ松が側にいればカラ松は当然、花を吐く。 そしてそれを見たチョロ松はどこか辛そうな顔をする。 その表情に気付いたカラ松は、さらに自分を責める。 堂々巡りだった。 花を吐く頻度はさらに増えた。 それでもチョロ松の好意が嬉しかった。 そのせいか日に日に増大していくこの気持ちはそろそろ、花を吐くだけでは消化しきれない程だ。 カラ松が吐くのは殆ど青い薔薇になっていった。 「当たって砕けろと言っているんだろうな…。 」 「え?なにが?」 相変わらず背中をさする手は温かい。 「青い薔薇の花言葉は不可能、だろう?」 「…うん。 」 「不可能だとわかっていても、告白しろというんだろう?酷い話じゃないか?」 両想いにならなくては治らないというのに。 「もう、やめちゃいなよ。 」 「何をだ?」 「片想い。 」 「え…。 」 辞めれるものならとっくに辞めている。 それならこんなに拗らせてはいないのだ。 「もう辞めてさ、新しい恋をしなよ。 」 お前にそれを言われてしまったら… 「だって、辛いんだよ。 こんな状態のカラ松を見てるのが…。 」 あぁ、優しい俺の弟。 心から愛おしい。 でももう駄目なんだろう。 だってこれ以上苦しめたくはない。 ならばせめて、お前の手で枯らしてくれ。 「好きだ。 」 見開かれた目に映るのは青。 青い薔薇の花言葉は「不可能」 「…好きなんだチョロ松、お前のことが。 」 ほろりとまるで花のようにこぼれ落ちたのは熱い水滴。 嗚呼、愛している。 [newpage] 「チョロ松。 本当に、すまない。 もう片想いは終わり、に…」 言いかけた言葉は花によって遮られた。 こぼれ落ちたのは青い薔薇。 花言葉は「 」 「カラ松、聞いて。 」 涙を流したのは一人だけではなかった。 はらはらと溢れる涙を拭い、チョロ松は語る。 カラ松の制止も聞かず、その鮮やかな青を掌に乗せた。 「青い薔薇は昔、つくるのは不可能と言われていたんだって。 だから当初の花言葉は不可能だった。 」 掌に乗った薔薇のその花弁を、一枚一枚優しくなぞる。 まるで慈しむかのように。 「でも技術の進歩でついに、青い薔薇は作られたんだ。 だから今、青い薔薇には…奇跡とか、神の祝福という花言葉が加えられてるらしい。 」 そしてその花にそっと口付けた。 ずっと前から。 」 嗚呼、これを奇跡と言わずして、なんと言おうか。 最後に吐き出したのは青い薔薇。 チョロ松の掌にあるものと異なるのは、花弁にまぶされた銀色。 光を反射しキラキラと輝く。 青い薔薇の花言葉は「神の祝福」.
次のプロポーズに花束を贈られるのは嬉しいものです。 薔薇が大好きという女性は多いですので、美しい薔薇を贈られたならば一層ロマンチックで、ずっと記憶に残る瞬間になるはずです。 歴史的にみると、薔薇にまつわるエピソードはたくさんあります。 ギリシャ神話では愛の女神アフロディーテが大きな貝の中から生まれた時に、空から降ってきた花とされています。 また、ローマ神話ではジュピターに沐浴する姿を覗かれた美の女神ヴィーナスが、頬を赤らめたことから赤い薔薇が生まれたと言われています。 このように薔薇の花は、愛や美のイメージと結びついています。 薔薇全体の花言葉は「愛」「美」であり、まさにプロポーズにはぴったりの花です。 薔薇は花の色や花の形状によっても、それぞれに花言葉が異なります。 特にプロポーズに贈る花の色としては赤い薔薇がポピュラーですが、ピンクや白などの花束も女性に好まれる色で可愛らしいですね。 今回は薔薇の花言葉を使って、印象に残るプロポーズをする方法をご紹介していきます。 その1:赤い薔薇の花言葉で 赤い薔薇はプロポーズの際に贈る花として、最も代表的です。 ヨーロッパでは昔から、赤い薔薇は愛を伝える花として親しまれています。 赤い薔薇の花言葉は「情熱」「愛情」「あなたを愛します」という意味があります。 情熱を相手に伝えるには、真っ赤な薔薇の花が最適です。 ゴージャスな赤い薔薇にあなたの想いを託して贈ってみましょう。 「赤い薔薇の花には『あなたを愛しています』という花言葉があります。 ずっとずっと、あなたを大切にします。 結婚しよう」 その2:赤い薔薇のつぼみの花言葉で 同じ赤い薔薇の花言葉ですが、赤い薔薇のつぼみには「純粋さと愛らしさ」という意味や「純粋な愛に染まる」などの意味があります。 咲き誇る赤い薔薇は豪華ですが、開き始めたばかりの薔薇のつぼみには独特の愛らしさと初々しさがあります。 これから新しく、二人一緒の人生を歩んでいこうとするイメージにぴったりです。 薔薇のつぼみで作る花束は可愛らしく、徐々に咲いていくという楽しみもあります。 「赤い薔薇のつぼみには『純粋さと愛らしさ』という花言葉があるそうです。 そんな花言葉にぴったりな君と一緒に、これからの人生を歩んでいきたい」 その3:ピンクの薔薇の花言葉で ピンクの薔薇はたいへん愛らしく、女性に人気のある色の花です。 ピンクの薔薇の花言葉には「美しい少女」「しとやか」「上品」などがあります。 可愛らしい雰囲気の女性や、優しくて穏やかな女性には、強い印象の赤い薔薇よりも柔らかい印象を与えるピンク色の薔薇が似合うかもしれません。 また、ロマンチックで甘い雰囲気でのプロポーズにふさわしい花の色です。 「愛らしい君には『しとやか』『上品』という花言葉を持つピンクの薔薇が似合います。 優しい君と暖かい家庭を作っていこう」 その4:白い薔薇の花言葉で 白い薔薇の花束も、清純でとても美しいですね。 白い薔薇には「純潔」「心からの尊敬」「私はあなたにふさわしい」などの花言葉があります。 白はまっさらなところから新しく何かをスタートさせるというイメージがあり、プロポーズの決意を表明するのにぴったりです。 白い薔薇には気品があり、思わずはっとするような美しさがあります。 「あなたとこれからの人生を一緒に過ごしていきたいです。 結婚しよう。 白い薔薇の『純潔』という花言葉に想いを託して」 その5:青い薔薇の花言葉で 長い間、青い薔薇を作ることは不可能とされていましたが、近年この分野の開発が進んで青い薔薇が誕生しました。 青い薔薇の花言葉が「奇跡」「夢かなう」「神の祝福」などとされている背景には、このような経緯が反映されています。 青い薔薇はただ美しいというだけではなく稀少性も高いので、ありきたりではないプロポーズを考えている方にはおすすめです。 「『夢叶う』『神の祝福』という花言葉がある青い薔薇を贈ります。 結婚してください。 二人の未来が祝福されたものでありますように」 その6:数本の薔薇の花言葉で 薔薇には贈る本数によっても花言葉が決まっています。 1本なら「あなたしかいない」、3本なら「愛しています」、5本「あなたに出会えて心から嬉しい」、7本「密かな愛」、10本なら「あなたはすべて完璧だ」などです。 ゴージャスな花束もいいですが、花言葉を添えればたとえ数本の薔薇でも、心のこもった贈り物になります。 薔薇は1輪でもきれいな花ですので、ぜひ活用してみましょう。 「3本の薔薇の花は『愛しています』という花言葉があります。 結婚してください。 一生愛して、幸せにします」 その7:たくさんの薔薇の花言葉で とにかくたくさんの薔薇の花でインパクトのあるプロポーズをしたいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。 99本の薔薇は「ずっと一緒にいよう」、100本の薔薇は「100パーセントの愛」、101本の薔薇は「最高に愛している」、108本の薔薇は「結婚してください」という花言葉があります。 言葉がいらないくらいの豪華な贈り物ですが、花言葉を添えて贈ることで生涯忘れられない瞬間になること間違いなしです。 「君のために108本の薔薇の花を贈ります。 108本の薔薇の花言葉は『結婚してください』です」 いかがでしょうか。 今回は、薔薇の花言葉を使ったプロポーズの方法をご紹介してきました。 日本では薔薇の花を贈るプロポーズが欧米ほど定着していないかもしれませんが、あまり習慣化していないからこそ、贈られる方の喜びも大きいものです。 薔薇は愛と美の象徴であり、プロポーズにふさわしい花ですが少し注意したい点もあります。 黄色の薔薇には「愛情の薄らぎ」や「嫉妬」といった花言葉があるので、プロポーズには不向きです。 色ごとの花言葉をふまえた上で、あなたの想いを表現するのにふさわしい薔薇の花を選ぶようにすると良いでしょう。 恥ずかしい気持ちもあるでしょうが、臆することなく薔薇の花を贈ってみてください。 きっと相手の心に響くプロポーズになるはずです。 まとめ 薔薇の花言葉を使ってプロポーズを成功させる7つの方法 その1:赤い薔薇の花言葉で その2:赤い薔薇のつぼみの花言葉で その3:ピンクの薔薇の花言葉で その4:白い薔薇の花言葉で その5:青い薔薇の花言葉で その6:数本の薔薇の花言葉で その7:たくさんの薔薇の花言葉で.
次の「デク君、お誕生日おめでとう!」 「緑谷君!おめでとう!」 「緑谷ーっ、ハッピーバースデー!」 「……おめでとう、緑谷。 」 教室に足を踏み入れるや、パン!と小さくクラッカーのなる音と、続いてドアの周り、円を描くように僕を待ち構えていたらしいクラスメートたちからの祝福の声。 いつもならこの時間騒がしいはずの教室が妙に静かだったので少し不思議に思いながらドアを開けたら、まさかのサプライズ。 僕は驚きに目を丸くした。 「うわー、みんなありがとう!」 照れながらお礼を言うも、それと同時にふと疑問が湧いてくる。 ……7月15日。 僕の誕生日。 今日がまさにそうなわけだけど……入学以来、それを誰かに話したことがあっただろうか? 「あの、でもみんな、なんで僕の誕生日知って……?」 「それはねー!」 「わー、芦戸さんダメ!」 「むぐ、」 周りからの制止と、咄嗟に隣にいた耳郎さんが芦戸さんの口を手で塞いだために、言いかけたセリフは最後まで言葉にはならなかったけど。 チラ……と窺うような多数の視線が教室の端で一人興味なさげに椅子に座ってたかっちゃんに注がれていたから、きっとかっちゃんがみんなに教えてくれたんだろうな、と合点がいった。 あるいは、かっちゃんとしてはなんの気なしに口に出したのが、クラス内に広まっただけかもしれないけど。 それでも、『僕の誕生日覚えててくれたんだなぁ』となんだか嬉しくなって、「ありがとね、かっちゃん!」と声をかけたら、「あぁ!?別に俺はテメーの誕生日なんざ祝っちゃねーよクソが!せいぜい今日一日そうやってヘラヘラ気持ち悪い笑み浮かべて過ごしてろ!」と不機嫌そうな声が返ってきた。 ……それを受けて、「聞いたか今の、あれたぶんアイツなりに祝ってるつもりだぜ。 」「爆豪、ホント素直じゃねえよなー!」なんて話す瀬呂君と切島君に対して、かっちゃんは「違えわ!」とブチ切れながら、それぞれの背中に消しゴムを見事なコントロールでぶつけてみせた。 「そうそう、デク君!はい、これみんなからのプレゼント!」 そう言って麗日さんから手渡されたのは、青い薔薇の花束。 「うわー、綺麗だね!ありがとう!」 その吸い込まれそうなほど美しい青色に感動しつつ、『女の子へのプレゼントならまだしも、なんで僕なんかに花束を……?』という疑問がふと浮かぶ。 「実は、緑谷ちゃんへのプレゼントを選ぶにあたって、オールマイト先生に何がいいか相談しに行ったの。 」 僕の疑問を汲み取ったように、蛙吹さ……梅雨ちゃんが口を開いた。 「緑谷ちゃん、オールマイト先生の大ファンでしょう?だからと思って相談しに行ったんだけど、そしたらコレがいいんじゃないかって。 アナタにぴったりの花だから、って言ってたわ。 」 「僕に、ぴったり……? 」 「俺らも最初なんのことかわかんなかったんだけどさ。 ……ほい、これ見てみ。 青い薔薇の花言葉。 」 そう言って上鳴くんにスマートフォンを手渡され、僕は画面に映し出された文章を読み上げた。 「………『かつて、青い薔薇を生み出すことは不可能とされていた。 」 「なんつーか、俺らよく知らねえけど、お前個性の調整きかないせいで今まで色々苦労してきたんだろ?」 「入試のときとか体力テストのときとか、見てるこっちまでハラハラしたしねー!」 「うむ、でもそれを乗り越えてきた君だからこそふさわしい花だと、先生はおっしゃっているんじゃないかな!? 」 ……そう口々に話すクラスのみんなは、知らない。 僕が、オールマイトに出会うまで無個性だったこと。 周りに馬鹿にされ続けて、一方でヒーローに憧れる気持ちを捨てきれないまま、でも心の何処かできっと、僕自身「無理だ」って諦めてたこと。 だけど、あの日……不可能は、可能性に変わった。 「……僕は、恵まれてるなぁ。 」 オールマイトから受け継いだ個性のことも、こうして夢を追いかける日々を送れていることも、こんな風にクラスのみんなに生まれた日を祝ってもらえることも、全部全部、奇跡みたいに思えて。 思わず呟いた言葉と、目から溢れそうになる涙。 それに気づいたらしい轟君が、ぽつりと呟いた。 「……お前、そうやってよく『ラッキーだった』とか『人に恵まれた』とか言ってんの聞くけど。 でもそれって、諦めずに手を伸ばしたヤツにしか与えられねーもんだと思うぞ。 ……もうちょっと胸はってていいと、俺は思う。 」 「………うん、」 ありがとう、ときちんと言葉にできてたかはわからない。 その時にはもう僕はぼろぼろと涙を流していたし、気づいたみんなが慌てて騒ぎ出すしでてんやわんやだったから。 その後、もらった花束は家に持ち帰るまでの間、相澤先生の許しを得て教室の後ろに花瓶に入れて飾らせてもらった。 家に帰ったら、真っ先に母に見せてあげようと思う。 きっと、僕と同じくらい……もしかしたらそれ以上に、涙を浮かべて喜んでくれるんじゃないかな、って思った。 緑谷少年へのプレゼント、私青い薔薇がいいんじゃないかなんて生徒たちに言っちゃったんだけど、アレ失敗だったかなぁ……。 思えば、男子高校生がもらって嬉しい代物じゃないよねぇ。 」 「……そうでもないと思いますよ。 緑谷も嬉しそうにしてましたし、ようは気持ちが大事ですから。 ……それにしても、アンタ見かけによらず結構ロマンチストなんですね。 」 「……相澤君のお誕生日にもお花、贈ろうか?」 「いや、俺は結構です。 」 「えー。 」 出久君、ハッピーバースデー!.
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