最新記事 by 弁護士 堀江 哲史• - 2019年7月27日• - 2019年5月19日• - 2019年4月18日 従業員が行った不法行為について、会社が責任(使用者責任)を負うのは、どのような場合でしょうか。 従業員の行為である以上、会社は常に責任を負わなければならないのでしょうか。 ここでは、使用者責任が問われた具体的な事例を紹介しながら、使用者責任の考え方について見ていきたいと思います。 会社が使用者責任を負う場合とは まず、従業員が不法行為を行った場合であっても、会社が必ず責任をとらなければならないというわけではありません。 使用者責任に関する民法715条1項は 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う 」と定めています。 すなわち、使用者責任が生じる要件として、• 使用者と被用者の使用関係• 被用者の行為が事業の執行についてなされること• 被用者の行為によって第三者に損害が生じたこと が必要ということになります。 使用者と被用者の使用関係 「使用関係」について、分かりやすいのは雇用関係ですが、雇用関係の有無だけで決まるわけではありません。 使用者責任が生じるには、事実上の指揮監督関係があればよいとされています。 この使用関係に関して、下請けの場合に、親事業者に使用者責任が生じるかどうかという問題があります。 親事業者と下請人は、使用者と被用者の関係に立つわけではありませんから、原則として、下請人の行為について親事業者の使用者責任が認められることはありません。 しかし、第三者に損害を与えた下請人の業務が、親事業者の指揮監督下でなされていた場合には、使用者と被用者の関係と「同視できる」として、親事業者の使用者責任を認めるとされています。 例えば、親事業者が、工事現場に自社従業員を派遣し、下請人が設計どおり施行するよう指図・監督を行っていたという事例で、使用者責任を認めた裁判例があります。 被用者の行為が事業の執行についてなされること 事業の執行と外形理論 被用者の行為が事業の執行についてなされることを「事業執行性」といいます。 このような、使用者の事業の範囲や、被用者の職務の範囲については、事業又は職務の範囲内の行為だけでなく、事業又は職務の範囲そのものには属しないとしても、 その行為の外形から観察して、あたかも事業又は職務の範囲内の行為に属するものも含みます。 これは外形理論と呼ばれる考え方で、現在の裁判実務は、この外形理論を前提に判断がなされています。 この外形理論は、被害者の保護のために事業執行性を広く捉えるものなので、被害者側の悪意・重過失という要素も考慮されます。 たとえ、被用者の行為が、その行為の外形から見て、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合でも、その行為が被用者の職務権限内において適法に行われたものでなく、かつ、その行為の相手方がその事情を知りながら、または、重大な過失によって事情を知らなかった場合には、保護に値しないといえるからです。 具体的な事例 では、具体的に、裁判で事業執行性が問題になった事例を見てみましょう。 ・会社の手形係として手形作成準備事務を担当していた従業員が、手形係から異動した後に会社名義の約束手形を偽造した事案(最判S40. この従業員が、会計係として割引手形を銀行に送る等の職務を担当していたこと• 会社の施設機構• 事業運営の実情• 係員が権限なしに手形を作成することが客観的に容易である状態 等から、事業執行性を認めました。 ・会社に自動車助手として雇われ、業務上、急用の際には会社が所有する第一種原動機付自転車を運転することの許諾を得ており、その鍵を自由に持ち出せた従業員が、勤務時間終了後に、私用のため無断でこの原動機付自転車を運転して事故を起こした事案(最判S46. (通勤中の交通事故についてはこちらも参考にしてください。 ・終業後の職場外での飲み会における上司の女性社員に対する性的いやがらせ(大阪地判H10. (セクハラ行為と使用者責任についてはこちらも参考にしてください。 その従業員が担当する職務の内容• 会社の資金調達に関するその従業員の職務権限• 従業員の職務と本件欺罔行為との関連性 などの主張立証がないことから、貸金の原資の調達が客観的、外形的にみて、その従業員が担当する職務の範囲に属するとみる余地はないとして、業務執行性を認めませんでした。 使用者側の対応 少し難しい話もありましたが、使用者として覚えておきたいのは、使用者責任が、使用者の本来の事業だけでなく、事業と密接な関連を有する行為についても対象となるということ。 また、外形理論によって、その従業員の職務でない行為についても、対象となる可能性があるということです。 使用者としては、それぞれの従業員の職務の範囲を明確にするとともに、従業員の不正行為を予防する等の環境整備を行うことで、従業員の職務の範囲外の行為による損害について、使用者責任を負う余地を減らしたいところです。 具体的な検討の際に不安を感じたら、専門家である弁護士に相談することがおすすめです(社会保険労務士は、社外の第三者に対する責任であることが多い使用者責任については、専門外です)。 また、いざ使用者責任を問われる場合に備えて、使用者責任保険への加入によるリスク軽減も考えられます。
次のTechnique 国民健康保険とは? 社会保険(被用者保険)とはどう違う? 主に自営業や短時間労働のアルバイト、フリーターの方などが加入する「国民健康保険」とは、どのような制度なのでしょうか。 「被用者保険」とはどのような違いがあるのかなど、加入する条件や保険料についてまとめました。 国民健康保険(国保)とは? 「国民健康保険」に加入していると、病気や怪我、出産または死亡に際して、医療機関で支払う医療費が自己負担割合(現行3割)で済みます。 そのため、正社員、契約社員、派遣社員募集の求人広告で見かけることは少ない用語と言えるでしょう。 国民健康保険は主に自営業の方や、短時間労働のアルバイト、フリーターの方、または無職の方などが加入することになります。 個人単位で加入する社保(被用者保険)とは異なり、世帯単位で加入者の数、年齢、収入などにより算出されます。 また、一定の保険料で家族を扶養できる社保に対し、国保は世帯内の加入者数によって保険料が変わります。 収入や家族構成によっても変わりますが、家族を扶養でき保険料を雇用者と折半できる社保の方が、保険料を抑えられる場合が多いです。 配偶者が社保に加入している場合は、扶養に入る方が良いいのか、国保に入る方がよいのか、収入と保険料を計算して転職後の労働時間や勤務体系を決めると良いでしょう。 呼び方は社会保険のことを「社保」、国民健康保険のことを「国保」ということが多いです。
次の(2017年9月5日) 経営者層の老齢年金に関する相談として、毎週全国から 多数相談が寄せられるもののうちの一つが次の質問です。 「現役社長(役員)です。 報酬との調整で年金が支給停止となっています。 まだまだ現役で働きたいと思います。 老齢厚生年金(報酬比例部分)は何歳からもらえるのでしょうか。 」 「70歳になったらもらえるようになるのでしょうか。 」 とか、 「75歳になったらもらえるようになるのでしょうか。 」 という形の質問も多いです。 70歳になったら、厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、 厚生年金保険料がかからなくなりますので、何か節目年齢 のような感じがしますよね。 ですから、 70歳からは報酬が高くても老齢厚生年金(報酬 比例部分)が支給停止にならずに全額もらえると思っている 方がとても多いです。 70歳になったら厚生年金被保険者ではなくなりますが、 社長等は引き続き「 70 歳以上被用者」という報酬・賞与 と年金との調整の対象者となります。 75歳になったら、健康保険の被保険者資格も喪失します。 (後期高齢者医療制度の被保険者となります。 ) ですから、 70歳時以上に、節目年齢のような感じがしま すので、 75 歳からは報酬が高くても老齢厚生年金(報酬 比例部分)が支給停止にならずに全額もらえると思って いる方も多いです。 しかし、 75歳以上であっても何歳であっても、法人から 社長等として報酬を受けているのであれば、引き続き 「 70 歳以上被用者」という報酬・賞与と年金との調整の 対象者となります。 なお、中には、 70歳以上 75歳未満の社長様や 75歳以上の 社長様から、報酬を一定額以上引き上げて 3 か月連続支給 したのに年金が引き続き全額支給されているがなぜか、 という質問をいただくことも結構あります。 これは、次のような理由によることが多いです。 ・会社が届出すべき「厚生年金保険 70歳以上被用者月額 変更届」の提出漏れ ・同届の提出遅れ 特に、 70歳以上 75歳未満の方の場合は、健康保険について はまだ被保険者のままですので、健康保険については 被保険者報酬月額変更届を提出する必要があるわけですが、 それとは別に「厚生年金保険 70 歳以上被用者月額変更届」 も提出する必要があります。 なお、 70歳以上 75歳未満の社長様からも、 75歳以上の 社長様からも次のような質問をいただくことが多いです。 「社員と違って、営業日の 4分の 3未満しか会社に出勤 しないのですが、それでも年金は支給停止となりますか。 」 社長の年金が支給停止となるかどうかは、報酬・賞与と 報酬比例部分の年金額とに応じて決まるものであって、 会社に出勤する日数は一切関係がありませんので、ご注意 下さい。 このタイプの質問は、おそらく、従業員の場合の厚生年金 に加入しなくてもよい要件のことが念頭にあってのもの だと思われますが、社長・役員が厚生年金被保険者や 70 歳以上被用者になるかどうかには、 1 週間の所定労働日数・ 1 月間の所定労働時間の 4 分の 3 要件は関係がありません。 先日も、 FPさん向けのセミナーで社長の年金の特殊性に ついてお話をしたのですが、その際にも改めて社長の 年金の特殊性が一般にほとんど理解されていないことを 強く感じました。 ねんきん定期便、年金証書、年金額改定通知書、 制度共通年金見込額照会回答票等、日本年金 機構の発行する年金に関する資料のほとんどに、社長向け の注釈をつけたい位だと個人的には思っています。 老齢年金を受けている方の中で高額報酬で働いている社長の 割合は限られていますので、どうしても年金に関する資料 は退職した元従業員向けの記述となっています。 そのような記述が、現役社長の年金に関するよくある誤解を 生み出す一つの原因になっているのではないかと思い書籍を出版 したわけですが、紙幅の都合で書籍からはカットせざるを得なかった 注意点・事例も数多くあります。 経営者向けのメールマガジンでは、書籍に掲載できなかった内容や、最新の 注意点等についても随時触れています。 また、事業主団体等からの依頼に応じて社長の年金セミナー を開催したり、社長の年金に関する指導ができる人材 (社労士・ FP ・税理士)を育成するための講座を開催する ために、理念を同じくする社労士仲間と、「一般社団法人 社長の年金コンサルタント協会」を設立し、奥野が代表理事に 就任いたしました。 (次回は10月に東京・大阪にて開催予定です。 また、10月には、「社長の年金インストラクター講座」も開催予定です。 ) また、2017年9月にはFPさん向けの「社長の年金アドバイザー講座」・「社長の年金コンサルタント講座」を東京・大阪で開催いたします。 事業主団体様等からの「 社長の年金セミナー」講師のご用命や専門誌等への執筆依頼のご用命がございましたら、お気軽にお問合せ下さい。
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