量子暗号通信がビッグビジネスをもたらすか(写真:PIXTA) 量子暗号通信は、光の粒子である「光子」を使った通信技術。 やり取りするデータの「暗号化」や元に戻す「復号」に用いる「鍵」の情報を光子に載せて送る。 光子は、光の最小単位でこれ以上分割できないうえ、不正に読み取ろうとすると状態が変化する。 盗もうとした際の痕跡が確実に残ってしまうため、理論上、情報漏洩を完全に防げるという。 東芝は1991年に英国にケンブリッジ研究所を設立し、量子暗号の基礎研究を進めてきた。 この研究成果をベースに日本で実用化研究を推進。 2020年1月14日には東北大学と共同で、世界で初めてヒトの遺伝情報を解析した全ゲノム配列データを送る実証実験に成功したことを発表している。 「実用化に耐え得る水準まで技術を高めてきた」と東芝サイバーフィジカルシステム推進部の江島克郎サブプロジェクトマネージャーは技術に自信を見せる。 量子コンピューター時代に必須の技術 ここに来て、東芝が量子暗号の実用化に踏み切る背景にあるのが「量子コンピューター」の台頭だ。 カナダのスタートアップ企業、Dウエーブ・システムズが11年に量子コンピューターを世界で初めて商用化。 米グーグルも19年10月、既存のスーパーコンピューターを超える性能を独自開発の量子コンピューターで実証したと発表した。 世界中で開発競争が活発化しており、量子コンピューター時代がいよいよ到来しようとしている。 一方で、量子コンピューターの登場で脆弱性が増すのは「暗号」技術だ。 普及している暗号技術は、短時間で解けない数学の問題を基にしているため、量子コンピューターによって容易に解読される可能性がある。 グーグルの量子コンピューター技術が発表された際には、代表的な暗号資産(仮想通貨)のビットコインが急落したのは記憶に新しい。 情報漏洩を完全に防げるとされる「量子暗号通信」は、量子コンピューター時代に必須のセキュリティー技術になり得るというわけだ。 さらに東芝は、量子暗号通信の実用化で、ビジネスモデルの変革も狙う。 サブスクリプション(定額制)サービスの導入だ。 村井プロジェクトマネージャーは、「すべてを東芝で手掛けるわけではなく現地のパートナーと組む。 ハードウエア機器を売るわけではなく、複数年の契約を結びサービスで提供していく」と話す。 量子暗号通信は、東芝が注力する新たな「デジタル事業」の1つ。 4月1日付で会長兼CEO(最高経営責任者)から社長兼CEOに就任する車谷暢昭氏も「利益率が3割、場合によっては6割に高まるビジネス」と期待を寄せる。 19年4~9月期の連結営業利益が前年同期比7. 5倍の520億円になるなど、業績は回復しつつある東芝だが、売却した半導体メモリー事業のような柱がないとの指摘は多い。 東芝では量子暗号通信の関連市場が2035年に200億ドル(約2兆2000億円)市場になると予測する。 先手を打って市場での存在感を高めることは、事業の柱を育てていくうえでも重要な意味を持つことになりそうだ。
次の電荷雑音が支配、電子スピンの量子情報損失 理化学研究所らの研究グループは2017年12月19日、シリコン量子ドット構造で世界最高レベルの演算精度を実現した電子スピン量子ビット素子を開発したと発表した。 シリコン量子コンピュータの開発に弾みをつける。 今回の研究は、理化学研究所グループディレクターで東京大学大学院工学系研究科教授も務める樽茶清悟氏と理化学研究所基礎科学特別研究員の米田淳氏らによる研究グループが、東京工業大学の小寺哲夫准教授や慶應義塾大学の伊藤公平教授、名古屋大学の宇佐美徳隆教授らと共同で行った成果である。 研究グループは、ひずみシリコン基板中に量子ドットを形成し、閉じ込められた単一電子スピンを量子ビットとして用いた。 量子ドットの真上には特殊形状の微小磁石を置き、電子スピンに対して不均一磁場を印加した。 素子にマイクロ波電気信号を印加し、不均一磁場中で電子の位置をナノメートルレベルで変調したところ、ラビ信号を観測することができた。 これにより、単一電子スピン演算は通常の時期的操作に比べて約100倍も高速に実行されていることが分かった。 量子演算の正確性を検証したデータ 出典:理化学研究所他 さらに研究グループは、量子ドットの周りにある材料から、核スピンをもつ同位体を取り除いたところ、量子情報の保持時間は20マイクロ秒を達成。 従来に比べて10倍長くなることが分かった。 量子演算の正確性を検証したところ、「高速演算」と「量子情報の長時間保持」を両立できたことで、量子演算の誤り率の最高値も、従来に比べて約1桁小さくなったことを明らかにした。 研究グループは、量子ビットの量子情報を喪失させる雑音源についても調査した。 そこで研究グループは、高速スピン操作により電荷雑音の影響を部分的に相殺したところ、3ミリ秒の量子メモリ時間を実現することができたという。 今回の成果について研究グループは、「シリコン量子ドット構造において、超高精度の電子スピン量子ビットの実装方法を確立したことで、超電導量子ビットと同程度の単一量子演算を実現することが可能になる」という。 また、電荷雑音への対応も踏まえて、シリコン量子コンピュータの開発が加速される見通しとなった。 関連記事• 理化学研究所(理研)は2017年3月10日、東芝、NEC、富士通の各社と、理研革新知能統合研究センター内に連携センターを開設する。 設置期間は、2017年4月1日から2022年3月31日までの予定だ。 理化学研究所(理研)は、殺菌用深紫外LEDの効率を、従来に比べて約5倍に高めることに成功した。 殺菌灯に用いられている現行の低圧水銀ランプに迫る効率となる。 理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、高品質な酸化亜鉛が磁性伝導電子を持っていることを発見した。 低消費電力デバイス用の新たな材料として注目される。 理化学研究所(理研)らの共同研究グループは、極めて高い圧力環境で、単一成分の分子性結晶が「質量のないディラック電子」系となることを発見した。 東京大学工学系研究科教授の古澤明氏と同助教の武田俊太郎氏は2017年9月22日、大規模な汎用量子コンピュータを実現する方法として、1つの量子テレポーテーション回路を無制限に繰り返し利用するループ構造の光回路を用いる方式を発明したと発表した。 国立情報学研究所らの研究グループが、量子ニューラルネットワーク(QNN)をクラウド上で体験できるシステムを構築、一般ユーザーに公開する。
次の量子暗号通信がビッグビジネスをもたらすか(写真:PIXTA) 量子暗号通信は、光の粒子である「光子」を使った通信技術。 やり取りするデータの「暗号化」や元に戻す「復号」に用いる「鍵」の情報を光子に載せて送る。 光子は、光の最小単位でこれ以上分割できないうえ、不正に読み取ろうとすると状態が変化する。 盗もうとした際の痕跡が確実に残ってしまうため、理論上、情報漏洩を完全に防げるという。 東芝は1991年に英国にケンブリッジ研究所を設立し、量子暗号の基礎研究を進めてきた。 この研究成果をベースに日本で実用化研究を推進。 2020年1月14日には東北大学と共同で、世界で初めてヒトの遺伝情報を解析した全ゲノム配列データを送る実証実験に成功したことを発表している。 「実用化に耐え得る水準まで技術を高めてきた」と東芝サイバーフィジカルシステム推進部の江島克郎サブプロジェクトマネージャーは技術に自信を見せる。 量子コンピューター時代に必須の技術 ここに来て、東芝が量子暗号の実用化に踏み切る背景にあるのが「量子コンピューター」の台頭だ。 カナダのスタートアップ企業、Dウエーブ・システムズが11年に量子コンピューターを世界で初めて商用化。 米グーグルも19年10月、既存のスーパーコンピューターを超える性能を独自開発の量子コンピューターで実証したと発表した。 世界中で開発競争が活発化しており、量子コンピューター時代がいよいよ到来しようとしている。 一方で、量子コンピューターの登場で脆弱性が増すのは「暗号」技術だ。 普及している暗号技術は、短時間で解けない数学の問題を基にしているため、量子コンピューターによって容易に解読される可能性がある。 グーグルの量子コンピューター技術が発表された際には、代表的な暗号資産(仮想通貨)のビットコインが急落したのは記憶に新しい。 情報漏洩を完全に防げるとされる「量子暗号通信」は、量子コンピューター時代に必須のセキュリティー技術になり得るというわけだ。 さらに東芝は、量子暗号通信の実用化で、ビジネスモデルの変革も狙う。 サブスクリプション(定額制)サービスの導入だ。 村井プロジェクトマネージャーは、「すべてを東芝で手掛けるわけではなく現地のパートナーと組む。 ハードウエア機器を売るわけではなく、複数年の契約を結びサービスで提供していく」と話す。 量子暗号通信は、東芝が注力する新たな「デジタル事業」の1つ。 4月1日付で会長兼CEO(最高経営責任者)から社長兼CEOに就任する車谷暢昭氏も「利益率が3割、場合によっては6割に高まるビジネス」と期待を寄せる。 19年4~9月期の連結営業利益が前年同期比7. 5倍の520億円になるなど、業績は回復しつつある東芝だが、売却した半導体メモリー事業のような柱がないとの指摘は多い。 東芝では量子暗号通信の関連市場が2035年に200億ドル(約2兆2000億円)市場になると予測する。 先手を打って市場での存在感を高めることは、事業の柱を育てていくうえでも重要な意味を持つことになりそうだ。
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