最新の免疫学の研究で、だらだらと続く「慢性炎症」が、「がん」「肥満、糖尿病」「脂質異常症」「心筋梗塞」「脳梗塞」「肝炎・肝硬変」「関節リウマチ」「認知症」「うつ病」「潰瘍性大腸炎」などの発症にかかわる、万病の素であることがわかってきた。 健康長寿の人生を送るためには、この慢性炎症を解消することが不可欠だ。 日本の免疫研究の指導者として知られる著者が、慢性炎症の治療法と予防法を平易にわかりやすく解説 病原体などの異物が体内に侵入すると免疫反応が発動されて、組織が赤くなり、腫れて熱を持ち、痛むようになる。 いわゆる「炎症」反応だ。 これを「慢性炎症」と呼ぶが、最新の免疫学の研究で、慢性炎症が「万病の素」になっていることがわかってきた。 慢性炎症が深く関わっている疾患としては、「がん」「肥満、糖尿病」「脂質異常症」「心筋梗塞」「脳梗塞」「肝炎・肝硬変」「アトピー性皮膚炎」「喘息」「関節リウマチ」「老化、認知症、アルツハイマー病」「うつ病」「潰瘍性大腸炎」などがあり、現代人を悩ませる病気ほぼすべてに関与しているとといっていい。 慢性炎症は「サイレントキラー」と呼ばれ、はっきりとした自覚症状のないまま進行し、本人が異常を自覚したときには身体に回復不能なダメージが及んでいることが多い。 それゆえ、慢性炎症は「死に至る病」と言われる、実に怖い病気なのだ。 日本の免疫研究の指導者として知られる著者が、平易な文章と明快な図解を用いて、一般にはほとんど認知されていない「慢性炎症」のメカニズムと、その対処法をわかりやすく解説する。 話題の免疫チェックポイント阻害薬を用いたがん免疫療法や頑固なアトピー性皮膚炎に対する新しい治療法なども取り上げており、こうした病気に悩まされている患者や家族にとっても有用な情報が盛り込まれている。 目次 第1章 慢性炎症は万病のもと 第2章 炎症を起こす役者たち 第3章 慢性炎症はなぜ起こる? 第4章 慢性炎症が引き起こすさまざまな病気 第5章 最新免疫研究が教える効果的な治療法 第6章 慢性炎症は予防できるのか? 宮坂 昌之 大阪大学特任教授。 一九四七年長野県生まれ。 京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。 金沢医科大学血液免疫内科、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所を経て、大阪大学医学部教授、同・医学研究科教授を歴任。 医学博士・PhD。 著書に『分子生物学・免疫学キーワード辞典』 医学書院、共著 、『標準免疫学』 医学書院、共著 など。 定岡 恵 一九七八年オーストラリア・キャンベラ生まれ。 神戸大学理学部生物学科卒業、大阪大学大学院生命機能研究科博士課程修了。 博士 生命機能学。 独立行政法人医薬基盤研究所感染制御プロジェクト研究員を経て、現在は理化学研究所生命機能科学研究センター研究補助員、神戸大学非常勤講師。 1947年長野県生まれ。 京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。 金沢医科大学血液免疫内科、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所等を経て、大阪大学医学部教授、同大学大学院医学系研究科教授を歴任。 神戸大学理学部生物学科卒業、大阪大学大学院生命機能研究科博士課程修了。 博士 生命機能学。 独立行政法人医薬基盤研究所感染制御プロジェクト研究員を経て、現在は理化学研究所生命機能科学研究センター研究補助員、神戸大学非常勤講師 本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです 本書の共著者である、宮坂昌之氏と定岡恵氏は親子の関係にある。 (宮坂氏が父親で、定岡氏がその娘。 )この本は、二人の共同作業で出来上がったもので、本文のほとんどは宮坂氏が書き、定岡氏がそれにコメントや意見を述べつつ、本文の内容を分かり易く説明したイラストを描く、といった具合に執筆作業は進み、時には宮坂氏の奥さんからも、一般人の立場から忌憚の無い意見を寄せてもらい、本文やイラストに加筆修正を加えている。 その結果、医学に詳しくない一般読者にも伝わりやすい内容になったのではないだろうか。 本書の前半~中盤にかけては、炎症と免疫の仕組みの解説、「慢性炎症」の仕組みの解説を行い、中盤~後半にかけては、「慢性炎症」が引き起こす様々な病気、その治療法、(あるいはその可能性)予防法について解説している。 本来、炎症とは、体内の免疫系の、病原体などの侵入に対しての防衛反応であり、人体にとってはむしろ有益なものだった。 炎症が起こった時は、四つの徴候、発赤、腫脹、熱感、疼痛が見られるが、普通は一過性のもので、すぐに治まる。 これを「急性炎症」と呼ぶが、本書のテーマである「慢性炎症」は、くすぶった様に何週間も続き、しかも前述の四つの徴候が必ずしも見られないという、厄介な症状である。 この事から、海外ではサイレントキラーとも呼ばれている。 慢性的な炎症が身体にどんな悪影響を与えるのか。 簡単に述べると、以下のようになる。 著者は、「慢性炎症」を、誰も姿を見た事が無い妖怪「鵺」に例えている。 「慢性炎症」が引き起こす様々な病気とは。 著者が挙げているのは、癌(ただし炎症は二次的なもので、どこまで関与しているかは不明)肥満・糖尿病、(これらは脂肪組織の炎症が引き起こす)脂質異常症、心筋梗塞、脳梗塞、肝炎、肝硬変、アトピー性皮膚炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺繊維症、間接リウマチ、老化、認知症、アルツハイマー症、(まだはっきり炎症が原因かは判明していない)鬱病、多発性硬化症、クローン病、(原因には遺伝説、環境説もある)潰瘍性大腸炎(クローン病と同様に、原因には遺伝説、環境説あり) それらの病気の治療法について。 著者は、医学の発達によって、今までとは比較にならないほど、治療法が進展したという。 基本的に、そのほとんどが、特定の抗原だけに反応するモノクローナル抗体を活用した抗体製剤、抗体医薬品である。 「慢性炎症」の予防について。 著者は、貝原益軒の『養生訓』を引用し、過ぎたるは猶及ばざるが如し、普段から適度に健康維持に努めるべきと説明する。 最後に、慢性炎症研究の展望について語り、未だに特効薬は開発されていないが、個々の疾患に対する治療法は開発されつつあり、特に、個々の分子に対する抗体の製造が可能になった事、そして、iPS細胞に期待を寄せている。 慢性炎症だけでは説明がつかない部分もあるという事で、やや歯切れが悪い所もあったものの、分かり易い解説と、参考になる図表・イラストのお蔭で、科学が苦手な人でも最後まで読み通せる。 免疫に関する教科書としてもおススメできる本である。 慢性炎症が関わる病気について、その仕組みをもとにした新しい治療について解説しています。 最低限高校レベルの生物知識がないとスラスラとは読めないでしょう。 本書の特徴としては、免疫学や各疾患について、歴史的な背景と豊富なエビデンスによって議論しているところです。 宮坂先生の書籍では様々な論文basedなデータに基づいて多角的に議論することが多く、専門家としては真っ当であり、紹介される研究も面白いものが多いため単純に知識の幅を広げるという意味で役に立ちます。 サプリメントについての章は日本の保健機能食品についてよくまとまっており、普段漫然とサプリメントを買っている人は読む価値があるかと思います。 個人的にはコルヒチンの作用機序についての最新の知見が興味深かったです。 「慢性炎症」は一般にはまだあまり広くは知られていないが、非常に多くの病気に関与している状態で医学の領域で最もホットな研究テーマの一つである。 炎症そのものは感染が起きた時や切り傷やできものが出来た時などにみられるごく一般的な反応だが、普通は一過性に終わる(急性炎症)。 ところが、免疫や炎症のブレーキ機構などの破たんにより炎症がくすぶり型で長期間ダラダラ続く状態になることがあり、慢性炎症と呼ばれている。 慢性炎症が怖いのは、急性炎症で見られる発赤、腫脹、熱感、疼痛といった徴候がないまま長期間にわたり炎症が進行し、気が付いた時には臓器の機能不全が始まり、場合によっては命を脅かす状態にまでなってしまうことである。 このようなことから慢性炎症は欧米でシークレット・キラー、あるいはサイレント・キラーと呼ばれている。 本書は、慢性炎症についてどのように起き、なぜ長期間炎症が持続するのか、慢性炎症が関係する病気にはどのようなものがあるのか、予防法はあるのかなどについて、科学的に解説した本である。 慢性炎症が起きたり続いたりするメカニズムを理解するためには、免疫や炎症に関する理解が不可欠ということで第2章、第3章で最新の免疫学に関する解説が続く。 多くの細胞や分子の名前が登場し、あまり基礎知識のない読者には理解が難しいようにも思われるが、昨年本庶先生がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで注目を集めているがんの免疫療法についての解説もあり、免疫や炎症の複雑さ、奥深さを実感できるのではないかと考えられる。 慢性炎症は、がんや、肥満・糖尿病、脂質異常症、アルツハイマー病といった非常に一般的で死因の多くを占める疾患に関連しているということが本書を読み良く理解できたが、第5章でいくつかの疾患の最新の治療法を紹介する際に、慢性炎症をターゲットにした治療法の動向にほとんど触れられていないのは少し残念であった。 勿論まだまだ分かっていないことが多く具体的に臨床試験まで至っているものは限られているかもしれないが、動物実験レベルでも良いので最新の研究成果を紹介してあれば、慢性炎症の解説を主目的とした本としてはより適切であったと思われた。
次の29-30 細胞・組織にみられる変化に関する記述である。 正しいのはどれか。 1つ選べ。 (1)急性細菌感染の浸潤細胞は、主にリンパ球である。 (2)急性炎症では、血管の透過性は低下する。 (3)アミロイド変性は、胞肪変性の1つである。 (4)アポトーシスは、ブログラムされた細胞死である。 (5)過形成は、組織を構成する細胞の容積が増大する。 急性炎症の浸潤細胞は、主に好中球である。 一方、慢性炎症の浸潤細胞は、主にリンパ球である。 好中球は、白血球の中でもっとも多く、化学走性と貪食作用(食作用)により病原細菌などの異物をとり込んで消化・分解する。 膿は、病原細菌などの異物を処理して死滅した好中球の残がいである。 急性炎症の特徴は古代から知られている。 紀元1世紀頃ケルススが、急性炎症の四徴候として、発赤、腫脹、熱感、疼痛を記載した。 続いて、2世紀頃ガレノスが、これに機能障害を加えて急性炎症の五徴候とした。 発赤は、毛細血管の拡張により、局所の血液量が多くなった状態である。 局所のヘモグロビン量が増えるので赤く見える。 腫脹は、毛細血管の透過性が亢進して、滲出液が増加し、間質に浮腫が起こった状態である。 熱感は、局所の血流増加による皮膚温度の上昇である。 疼痛は、物理的、化学的損傷が、局所の痛覚をつかさどる神経を刺激することよって起こる症状である。 機能障害は、上記の4徴候の結果、炎症を起こしている局所の機能障害が起こる。 アミロイド(amyloid)の「アミロ(amylo-)」は、「デンプン」のことである。 「オイド(-oid)」は、「-のような物」という意味である。 当初、ヨウ素でんぷん反応と似た反応をすることから、「アミロイド(デンプンのような物)」という名前が付けられたが、その後の研究で、実は、たんぱく質が細胞間質に沈着したものであることが分かった。 アミロイドが細胞間質に異常に蓄積することをアミロイド変性という。 アミロイド変性の代表例は、アルツハイマー型認知症の老人斑である。 「アポ(apo-)」は、「離れて」という意味である。 「トーシス(ptosis)」は、「下降」という意味である。 枯れた木の葉が枝から落ちる様が、まさにアポトーシスである。 アポトーシス(apoptosis)とは、障害を受けた細胞が壊死に陥る前に、自ら死んでいく方法である。 壊死が殺人事件だとすると、アポトーシスは覚悟の自殺である。 アポトーシスでは、まず、細胞内でDNAやたんぱく質の分解が起こり、細胞自体も小さく断片化する。 しかし、細胞膜は最後まで保たれているので周囲の組織に炎症が起こることはない。 断片化した細胞は、マクロファージによりきれいに処理されるので、アポトーシスになった細胞は跡形もなく消えてしまう。 障害を受けた病的な細胞だけでなく、私たちの体の発生の段階では、不必要になった組織の細胞はアポトーシスによって消失する。 これは正常な生命現象としてプログラムされていることから、プログラム細胞死と呼ばれる。 過形成とは、組織を構成する細胞一つひとつの大きさは変わらないが、細胞数が増加して臓器・組織が大きくなることである。 これに対し、肥大とは、組織を構成する細胞数は変わらないが、一つひとつの細胞の容積が増大して臓器・組織が大きくなることである。 正解(4).
次のもくじ 炎症 炎症の一般• 炎症の分類• 滲出性炎• 炎症の一般 炎症は私たちにとって、日ごろ経験する風邪(上気道炎)、下痢(腸炎)に始まり、肺炎、口内炎、食道炎、胃炎、虫垂炎、肝炎、膵炎、腎炎、膀胱炎など身近なものが多数含まれています。 炎症( inflammation)とは、生体の細胞、組織に障害をもたらした種々の刺激や侵襲に対する生体の反応、そして障害された組織の修復過程です。 炎症反応は、局所の毛細血管を中心とする微小循環系の 循環障害に始まり、血漿の 滲出、血球の 遊出と局所の細胞 増殖、ならびに 修復からなっています。 たとえば細菌に感染したとき、組織は一時発赤・腫脹しますが、局所では炎症反応としての滲出液によって細菌が洗い流され、食細胞により貪食され、こわれた組織や細菌は清掃され、線維芽細胞などの増生により修復へと向かっていきます。 古代ローマ時代にすでに炎症の概念があり、四大徴候をあげて定義づけられました。 発赤( rubor)、 発熱( calor)、 腫脹( tumor)、 疼痛( dolor)です。 のちに 機能障害( functiolaesa)を加えて 五大徴候とよばれます。 この定義は現在でも正しく、炎症反応を理解するのに有用です。 近年の免疫学の著しい進歩によって、多くの炎症性反応は免疫応答と深くかかわっていることが理解されるようになりました。 1.炎症の原因 1. 病原微生物の感染 ウイルス、リケッチア、スピロヘータ、細菌、原虫、真菌、寄生虫、昆虫などです。 細菌とウイルスによる感染症がもっとも多い。 細菌の傷害作用は、細菌が産生する外毒素( exotoxin)、菌体崩壊により遊離する内毒素( endotoxin)や、その代謝産物などによります。 2. 物理的刺激 機械的障害、温熱や寒冷、放射線、電気刺激などがあります。 3. 科学的刺激 強酸、強アルカリ、腐蝕毒などの化学物質によるもの。 2炎症の形態学的変化 組織の障害 炎症の原因の直接的作用や炎症反応によって細胞、組織は変性や壊死を生じます。 原因の直接障害によるもの• 炎症性反応において生ずる循環障害(虚血)によるもの• 免疫的学的機構によるもの などがあります。 (例:ある種の細菌やウイルスは細胞内で増殖し、細胞の変性・壊死を生じます。 ウイルス性肝炎においてウイルスが肝細胞で増殖し、細胞性免疫が働くことによって細胞壊死を起こします。 四塩化炭素は肝細胞の変性・壊死を起こします。 ) 循環障害および滲出機転 炎症性刺激が働くと血管運動神経が刺激され、ごく短い一過性の細動脈の血管収縮が起こり、血行が静止し、虚血となり組織は 蒼白となります(第1相)。 ついで局所の細動脈が拡張し、毛細血管に多量の血液が供給されるため血量が増大、すなわち動脈性 充血(炎症性充血)を生じます(第2相)。 これが 発赤です。 さらに毛細血管の透過性が亢進し、血漿蛋白成分の滲出が生じます。 その結果、組織液の浸透圧は亢進します。 また拡張による毛細血管静水圧の上昇などが起こり、毛細血管から血清が滲出して組織内に貯留します。 これを 炎症性水腫( 浮腫)といいます。 滲出液により障害因子が希釈され、毒素は中和されます。 ついで、内皮細胞間から血球の血管外への遊出が始まります。 これを 細胞滲出といい、血球成分としては白血球がまず滲出し、遅れて単球、リンパ球も血管外に遊出します。 この遊出した白血球は、組織障害の強い部分に遊走。 集簇します。 とくに、好中球(多核白血球)が多量に滲出することを 化膿といいます。 白血球は細菌類に対して食作用を示します。 白血球浸潤は、急性炎症におけるもっとも重要な防御反応です。 1)炎症細胞 炎症に関与する細胞として、流出中には白血球(好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球)、組織内には肥満細胞と組織球があります。 白血球は血管内皮細胞へ付着し、内皮細胞間隙からアメーバ様に出てきます。 炎症で最初に遊走してくる細胞です。 貪食作用〔小(貪)食細胞〕のほか、炎症や免疫の調節を行います。 好酸球 好中球大の大きさで、細胞体内に赤色(HE染色)顆粒をもちます。 アレルギー反応や寄生虫疾患で多い。 好塩基球、肥満細胞 肥満細胞は粘膜や結合組織内に多く存在し、好塩基球は流血中に存在します。 両者は細胞表面にIgE(免疫グロブリンE)対するレセプターをもち、抗原刺激に対して細胞内顆粒( ヒスタミンなど)を放出します。 単球、組織球 単球は白血球の一種で、環境により著しくその形態を変えます。 食作用を有し、マクロファージ(大食細胞)や組織球ともよばれます。 異物を貪食(清掃作用)します。 また免疫作用や抗腫瘍など多彩な作用をもちます。 T細胞とB細胞、またナルセル( null cell)に分かれます。 T細胞はさらにヘルパー細胞、サプレッサー細胞などに分かれ、炎症反応や免疫反応に役割を果たします。 B細胞は分化して形質細胞となり、 抗体を産生する細胞となります。 2)滲出反応の伝達物質 急性炎症反応に際して、刺激を受けた細胞やこわれた細胞から種々の活性物質が分泌、放出されます。 ヒスタミン( histamine) 主として 肥満細胞に、また好塩基球にも保有されています。 血圧降下作用と 毛細血管透過性亢進作用が著しい。 機械的刺激や紫外線といった物理的刺激、細菌毒素や蛋白分解酵素といった科学的刺激、またIgEで感作された肥満細胞への抗原刺激といった免疫的刺激で分泌されます。 類似の物質としてセロトニンがあります。 セロトニンは血小板にあり、逆に血管収縮、血圧上昇に働いて調節します。 ブラジキニン( bradykinin) キニンの一種、カリクレイン(蛋白分解酵素の一種)の働きによりつくられます。 血管透過性亢進のほか血管拡張、疼痛惹起などの作用があります。 プロスタグランジン( prostaglandin:PG) アラキドン酸から合成される物質です。 PGE 1、PGE 2には血管透過性亢進や血管拡張作用、PGI 2には血小板凝集の解離や血管平滑筋の弛緩などの作用があります。 組織の増生 炎症では、細胞傷害、循環障害および滲出に引き続いて血管、組織球、線維芽細胞など種々の細胞組織の増生が起こります。 滲出物の吸収、、に陥った細胞や組織の除去、消失した細胞・組織の補充を目的とする修復性変化です。 繊維芽細胞の新生、毛細血管新生を伴う結合組織細胞〔線維芽細胞( fibroblast)〕の増殖といった、いわゆる 炎症性肉芽( inflammatory granula-tion)の形成が起こります。 炎症を火事にたとえるなら、燃えるときが細胞傷害、滲出は消化で、肉芽形成は後片付けと再建に相当します。 炎症性肉芽には多核白血球、リンパ球、形質細胞、大単核細胞などの浸潤が強い。 清掃除去などの修復に必要な酸素、エネルギーの運搬のために毛細血管の新生が起こります。 マクロファージは壊れた血球や組織を貪食し、消化し、運び去ります。 線維芽細胞は膠原繊維をつくり、組織欠損部を補充していきます。 肉芽組織は、線維芽細胞の産生した膠原繊維によりしだいに置換されます( 線維化)。 長時間経過した線維化組織は硝子化し、 瘢痕( scar)となり、炎症の治癒は終結します。 慢性炎症 炎症による障害の進行が穏やかで長く持続する場合を 慢性炎症とよびます。 これには結核や梅毒、癩など特殊な肉芽腫を形成するものが含まれます。 循環障害、滲出は急性炎症に比べて軽い。 浸出する細胞はリンパ球、単球、線維芽細胞といった急性炎症の組織増生で出現する細胞が多く、組織像も類似します。 増生 > 修復 炎症の分類 炎症の経過による分類 炎症の経過により 急性、 亜急性、 慢性炎に分けます。 その移行は連続的で、明瞭な区別はありません。 炎症の形態による分類 1.滲出性炎 滲出性変化を主とする炎症で、滲出液、滲出細胞および変性崩壊物の種類と量により病変は異なります。 1. 漿液性炎( serous inflammation) 滲出物の主成分に細胞成分を含まず、液性成分(漿液、主として血清成分)よりなります。 すなわち炎症性浮腫を主体とします。 好発部位は、体腔、結合組織、肺胞などで、体腔(心嚢、胸腔、腹腔、脳室、関節腔、陰嚢腔)には漿液が貯留します。 滲出液は水様透明で、右心不全などにより生じる漏出性に比し、比重は大きく蛋白質量が多い。 漿液性炎は炎症が経度の場合や、他の滲出性炎(たとえば、線維素性炎や化膿性炎など)の初期・前駆状態として発生します。 2. カタル性炎( catarrhal inflammation) 呼吸器(鼻腔、喉頭、気管支など)、消化管(口腔、胃腸管など)などの粘膜の炎症で、漿液の滲出のほか 粘液分泌の亢進が著しく、粘液流出が多量で目立つ場合、カタル性炎といいます。 肉眼的に粘膜面は充血、腫脹し、多量の粘液がみられます。 組織学的には粘膜および粘膜下組織の充血、炎症性水腫、炎症細胞浸潤、粘液分泌細胞の粘液産生、分泌亢進像などがみられます。 3. 線維素性炎( fibrinous inflammation) 滲出液として線維素(フィブリン fibrin)の析出が顕著な炎症です。 粘膜、漿膜、または肺胞などにみられます。 滲出した線維素が漿膜面や粘膜面に膜状に付着したとき、 偽膜炎( pseudomembranous inflammation)といわれます。 ジフテリアによる喉頭咽頭病変、大腸の偽膜炎など知られます。 偽膜性大腸炎は薬剤性大腸炎の1つとして知られ、抗生物質投与中に起こり、原因は Clostridium difficileです。 肺炎では線維素性炎の典型例を示すことがあります。 線維素性心外膜炎では析出した線維素が絨毛状を呈し、 絨毛心( cor villosum)といわれます。 4. 化膿性炎( purulent or suppurative inflammation) 滲出物が 大量の好中球を含む炎症。 組織内あるいは表面に膿汁( pus)、または膿性滲出物を滲出します。 膿汁は無数の白血球や組織破砕物などからなっています。 原因菌はブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎双球菌、淋菌、髄膜炎球菌などいわゆる化膿菌です。 膿瘍( abscess): 炎症部分の組織が壊死に陥り、生じた空隙に多量の膿汁が貯留している状態。 切開により排膿すると治癒が早い。 深部の膿瘍が組織の表面や皮膚面に管状の排膿路を形成している場合、通路を 瘻孔とよびます。 蜂巣〔織〕炎(蜂窩織炎)( phlegmonous inflammation,phlegmon): 組織内に多量の好中球がびまん性に浸潤した炎症。 化膿性炎症が広く組織中に浸潤拡大している状態で、 皮膚(表皮下の結合組織)、 胆嚢、 虫垂などにしばしば認められます。 肉眼的に組織は腫大、水腫状で、割面は淡黄白色混濁し、膿汁を圧出します。 蓄膿( empyema): 身体にある腔所に膿が貯留している状態。 体腔や副鼻腔、胆嚢、虫垂内などの中空臓器に好発します。 〔例: 慢性化膿性副鼻腔炎、膿胸(胸腔)〕。 5. 出血性炎( hemorrhagic inflammation) 炎症性滲出物に少量の赤血球はみられますが、多量にみられる場合、出血性炎といわれます。 組織障害が強いために、微小血管壁の破壊が生じていること示しています。 出血性炎は皮膚、消化管粘膜、漿膜、肺などの諸臓器に認められます。 6. 壊疽性炎( putrid inflammation) 腐敗菌が感染し、著しい組織の壊死・腐敗を生ずる炎症を壊疽性炎、あるいはたんに 壊疽( gangrene)といいます。 病巣は汚い灰緑~暗緑色で組織の破壊が強く、悪臭があります(例:肺壊疽、壊疽性虫垂炎、壊疽性胆嚢炎など)。 2.増殖性炎 proliferative inflammation 細胞・組織の障害や滲出機転が比較的軽微で、細胞増殖が全面に出る炎症を増殖性炎といいます。 すなわち肉芽組織にみられる変化が主体となります。 反応は徐々に起こり、経過は慢性です。 反応はおもに間質の血管結合組織に生ずるので、増殖性炎は 慢性間質性炎とよぶことができます。 結合組織の増生がおもな変化で、終局的には臓器の硬化を示します(例: 肝硬変や萎縮腎)。 通常、実質細胞は萎縮消失します。 3.特異性炎 肉芽腫性炎( granulomatous inflammation)ともよびます。 特異な炎症という意味で、特異性ないし特殊性炎ともよばれます。 かなり早期から増殖性炎を示し、マクロファージないし組織球(大型細胞で類上皮細胞ともよばれます)と多核の巨細胞の塊を中心に、それを取り囲むリンパ球や形質細胞といった炎症細胞の層よりなる結節が形成されます。 これが 肉芽腫( granulomatous)とよばれ、肉芽腫性炎を特徴づけます。 結核、野兎病、鼠径リンパ肉芽腫、梅毒、ハンセン病〔癩(らい)〕、サルコイドーシスなどで、リウマチ結節、特異性肉芽腫()も含まれます。 肉芽腫は結核の結核結節、梅毒のゴム腫、リウマチ熱のアショフ( Aschoff)結節などとそれぞれ特徴があります。 1. 結核 特異性炎のなかでしばしば遭遇するのは結核( tuberculosis)です。 結核はかつては亡国病ともいわれ、樋口一葉、正岡子規、宮沢賢治など結核に罹患して倒れた著名人は多い。 結核性肉芽腫(結核結節)の中心部はチーズのように黄白色を呈することから、 乾酪壊死( caseous necrosis)とよばれます。 乾酪壊死巣を取り囲むように組織球(大食細胞、 類上皮細胞)の層があり、なかにこれらの細胞が融合した特徴的な ラングハンス( Langhans) 巨細胞がみられます。 さらにその周囲にはリンパ球層があります。 巨細胞もときにみられます。 最外層では形質細胞が目立つのが特徴的です。 またその周囲は線維形成が豊富で硬化するので、ゴム腫(グンマ、 gumma)ともよばれます。 梅毒第3期にみられます。 3. ハンセン病 Hansen disease(癩、らい) 癩腫とよばれる肉芽腫が形成されます。 中心部壊死は形成されません。 この疾患はゆっくり進行し、末梢神経を侵害して重篤な結果を生じます。 熱帯や亜熱帯地方にまだ広く分布しています。 その感染は、密接な長い期間の接触によって起こり、原因菌は、ほっそりした抗産生および抗アルコール性の桿菌(癩菌 Mycobacterium leprae)です。 4. サルコイドーシス ( sarcoidosis) 結核に比して小型の肉芽腫が形成されます。 中心部に壊死巣はなく、類上皮細胞を中心とする小肉芽腫を多く形成します。 肉芽腫内の巨細胞には、しばしば星状体( asteroid body)とよばれる封入体がみられます。 肺、リンパ節などがおかされます。 原因は不明です。
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