#体調不良 #デイヴィス・クルーウェル 監督生の生理痛がひどい話
つらい。 いたい。 このままもとの世界に帰れなくなったらどうしよう。 お父さんとお母さんに会いたい。 さみしい。 なんで私がこんなことにならないといけなかったの？ つらい。 ひどい。 泣きそう。 「ぶなぁ……ユウ、大丈夫なんだゾ……？」 ボロボロの部屋で薄いシーツにくるまった監督生。 いつもならもう起きているはずなのに、まったく動く気配のない彼女にグリムは心配そうに声をかけた。 「う……」 監督生は小さく声をもらすばかりで、グリムに顔を見せることはない。 「体調わるいのか？ だれか呼ぶんだゾ？」 「っ……ごめんね、ぐりむ」 シーツの塊から手が伸びて、グリムの頭を撫でる。 「大丈夫だから、……今日は一人で行ってくれる……？」 「……わかったんだゾ。 無理しちゃダメなんだゾ」 「うん……ありかとね……」 やっぱり監督生の声はいつもより元気がなかった。 つらい。 いたい。 ツイステッドワンダーランドなる異世界に監督生が飛ばされて、はや数ヶ月が経っていた。 気付いたら男子校の入学式。 しかも異世界。 わけのわからないままオンボロ寮に入れられて、生活していた。 幸いなのはこの世界は女性が大切にされていたことだろう。 女の子である監督生はこの世界の常識すら知らなかったが、なんとか周囲の人たちに助けられて、やってこれていた。 ちょっとした事件に巻き込まれつつも、なんとかやってきた。 だれもが女の子である監督生に優しかった。 それでも知らない常識の世界でストレスが全く無いわけではなく、こっちに来てから女の子特有の生理が来なくなっていた。 でも相談できる人がいるわけもなく、異世界だから周期が変わったりしてるのかもしれない、なんて自分に言い聞かせていた。 いつもなら何回かの生理を迎えているはずなのに、と不安に思いながら日々を過ごしていた。 なるべくバランスのいい食事を選んで、決まった時間に寝起きできる規則正しい生活を心がけた。 そうしてやっと、昨夜どろり、とした経血をみて安心した。 ーーよかった。 ちゃんと健康だ。 ほっとして、眠りに就いたのだから、夜中から腹部の激痛で寝られなかった。 なんとも言えない違和感と、まるで捻りきられるような痛み。 末端がひどく冷たいのに、変な汗が止まらなかった。 最初は横になれなくて、壁に背中をつけて丸まっていた。 薄いシーツを手繰り寄せて、身体をどうにか暖めようとした。 眠いのに痛くて寝れなくて、意識が朦朧とした状態で朝を迎えたのだが、ベッドから降りれそうになくて動けなかった。 グリムが心配そうに声をかけてくれるが、反応しようにも頭も回らなくて、なんとか声を出した。 いってらっしゃい、とほとんど空気が漏れたような声でグリムを見送って、目を閉じた。 いたい。 いたい。 さむい。 すこし収まってきた腹痛。 今のうちにとベッドを降りて、ナプキンを変えた。 それから暖かいものが食べたくてキッチンに向かおうとしたのに、動けなくなった。 「ぅう……」 急に寒気を感じて、下腹部に激痛。 思わずその場にうずくまった。 どろりと流れる感覚が気持ち悪い。 そのまま立てなくなって、廊下で座り込む。 軋む床板が冷たくて、シーツにくるまって集めた熱が奪われていく感覚がする。 「ーー！ ！」 どのくらいそのままだったのか、すっかり身体は冷たくなって、でも汗が首筋をベタつかせていた。 がたん、と扉が開くのが聞こえたと思うと、焦ったような声で呼ばれた。 ふわり、と大きな上着が監督生の身体を包む。 「っ……せん、せ……？」 白と黒。 クルーウェル先生だ。 「大丈夫か？ 動けるか？」 上着越しにクルーウェル先生の手が背中を擦ってくれる。 「す、みません……っ」 いますぐ動きます、と身体に力を入れようとするが、なぜか動けない。 「っ、すみませ、……すぐ、う……ごめんなさい……」 「大丈夫だ、仔犬。 無理しなくていい。 辛いな。 よしよし」 感情が制御できなくて、涙が溢れ出す。 クルーウェル先生は静かな声で慰めてくれる。 「ごめんなさ、……すみません……せんせ……っ」 「謝るな。 仔犬はなにも悪くない」 ぼろぼろで所々逆剥けている床板に膝をついている。 それどころか身体を包む上着はほとんど床についていて、きっと埃でひどく汚れていまう。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 譫言のように呟く監督生に、クルーウェル先生はただ背中を擦ってくれた。 「……体温のわりに手が冷えきっているな……」 そういって、クルーウェル先生がペンを振る。 保温魔法だ。 それから、すこし動くぞ、と監督生の身体を抱き上げ、クルーウェル先生は監督生の部屋に戻っていく。 薄い枕とシーツしか乗っていないベッド。 ペンを振って、どこからともなく綺麗な布団や毛布をベッドに乗せた。 優しい手付きで監督生を寝かせて、布団をかけてやる。 「風邪、ではなさそうだな。 ……仔犬、しゃべれるか？」 「っ……う」 ベタついた額をクルーウェル先生が触れる。 「ん？」 「ひさしぶり、のせ、……せいり、で……」 顔を赤らめて、小声で伝える監督生の言葉にクルーウェル先生の表情が一瞬凍った。 「…………、…………ひさしぶり、とは？」 長い沈黙のあと、なんとか絞り出した。 「……こっちにきてからこなくなってて、昨日、やっと……それで……くすりも、ないから……」 「………………そうか……」 監督生の言葉がか弱くも、クルーウェル先生に鋭く刺さった。 フリーズしかけた思考をなんとかフル回転させる。 室内の温度を調整して、ジンジャーベースの紅茶を呼び寄せる。 「寒くないか？」 「は、はい」 「Good girl. これを飲むといい。 ジンジャーが入っているから身体が暖まる」 「あ、ありがとうございます……」 「校医を連れてこよう。 なにかほしいものはあるか？」 「えっ、いや……大丈夫です。 ちょっと重いだけなので、保健の先生は呼ばなくても」 「却下だ。 一番は病院に行ったほうがいいが、今は校医に診てもらうんだ」 いい子で寝ているように。 ぽん、と監督生の頭を撫でてから、クルーウェル先生は颯爽とオンボロ寮を後にした。 目指すは校医のいる保健室と、学園長室だ。 その反動で非常に重い。 つらい。 クルーウェル先生 珍しくグリムだけが在席していて、話を聞いてみれば朝起きれないほどの体調不良だと言うのですっ飛んできた。 チャイムをならしても反応がなく、緊急事態だと中にはいれば倒れこむ 座り込む 監督生がいてびっくり。 しかも部屋には薄いシーツしか掛けるものがないので、なおびっくり。 あの鴉野郎。 話を聞けばいままで生理が止まっていたというのでフリーズしかけたが、それを目の前にしてフリーズするわけにいかないと気力で戻った。 「監督生の生活環境改善計画」を早急に立てなければと思いながら学園長室へ殴り込みに行った。 鴉 ホリデー計画を立てている。 学園長室の扉が吹き飛ぶことをまだ知らない。 本当は情緒不安定でこれからの不安をぶちまけて、周囲にさらに大切にされるまでを書きたかった。
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