川端裕人は、小説家としての実績はもちろん、ノンフィクション作品での高い評価も魅力の、マルチな書き手として知られています。 その多様な引き出しの理由は、彼の経歴に注目すると分かりやすいでしょう。 1964年に兵庫県に生まれた川端裕人は、1973年に引っ越した先の千葉県で子ども時代を過ごし、東京大学の教養学部に入学します。 大学卒業後は、日本テレビに入社。 科学技術庁や気象庁を担当する記者として活躍しました。 1992年からは、南極海調査捕鯨船に乗り、大がかりな取材を成功させます。 このときの経験をもとに、『クジラを捕って、考えた』を執筆。 1995年、本作が川端裕人のノンフィクション作家としてのデビュー作となったのでした。 1997年には、日本テレビを退社し、コロンビア大学のジャーナリズムスクールで一年間を過ごします。 帰国後に発表した『夏のロケット』が「サントリーミステリー大賞」を獲得し、小説家としてのデビューを飾りました。 その後も目覚ましい活躍を続け、『動物園にできること』では「大宅壮一ノンフィクション賞」の候補に、『せちやん 星を聴く人』では「吉川英治文学新人賞」の候補にも挙げられています。 二つの分野で活躍を続ける川端裕人作品の中から、特にチェックしておきたい5作品を紹介していきましょう。 砂漠の昆虫事情から、宇宙旅行を実現するためのベンチャー開発まで、多岐にわたる研究フィールドを川端裕人自身が訪れ、綿密なレポートとして書き上げた一冊です。 全6テーマの研究について、基本情報から詳細、可能性までを分かりやすく説明してくれるノンフィクション作品となっています。 「砂漠のバッタの謎を追う」の章では、モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所を訪れ、その隠された生態系を探っていきます。 「地球に存在しない新元素を創りだす」の章では、理化学研究所の超重元素合成研究チームを取材し、日本が初めて命名権を獲得した原子番号113について取り上げました。 何かひとつでも興味のある研究分野を持っている人に、是非チェックしてほしい一冊です。 生物や化学、物理学や地理学など、それぞれのジャンルのスペシャリストや、その現場から得た情報を元に、本格的かつ最先端の技術や知識を学ばせてくれる本作。 自分の専門分野について取り上げられている人にとっては、非常に魅力的な仕上がりになっているはずです。 しかし、本作の見所は、それぞれの章で取り上げている題材について、特に知識がない人でも、最後まで興味深く楽しめるという点にあります。 普段の生活ではなかなか知れないジャンルの研究について、噛み砕いて綴っています。 新しい可能性について多く取り扱っているため、本作があなたの明日からの生活に、これまでにない夢や勇気を与えてくれるかもしれません。 わくわくの気持ちを思い出す!川端裕人のデビュー作 本作は、幅広い層に人気を博したテレビアニメ『銀河ヘキックオフ!』の原作小説です。 アニメ版では、主人公はサッカー少年サイドとなっていますが、原作ではそのコーチが主人公でした。 アニメとのギャップも楽しめるため、どちらから入っても堪能できる物語となっています。 キャッチーで手に取りやすい作風ですが、実はサッカーについて、非常に詳しく、かつ専門的に取り扱っているのも、本作ならではの特長です。 登場人物の長所や身体性、ポジションごとの役割やゲームの進行など、サッカー好きにはたまらない作品となっているでしょう。 いかがでしたか?川端裕人の作品は、小説もノンフィクションも、どれもそれぞれの魅力が溢れています。 あなたも是非手にとってみてください。
次の川端裕人の『 エピデミック』です。 オススメです。 面白いです。 スピード感あります。 C県T市(千葉県館山市であろう)の、崎浜という集落で重症化する謎のインフルエンザ患者が多発? 主人公の国立集団感染予防管理センター実地疫学隊隊員の島袋ケイトとそのチームは原因を究明し拡大を阻止するために調査を開始する。 人口3000人の町で1000人が感染し、重症者が死亡していく状況でも、なかなか感染源は特定できない。 様々な感染源が検討されたが、いづれ、崎浜地区にたくさん棲む猫が感染源と判明する。 それでは、その猫は何が原因で感染したのだろうか? 崎浜にはクジラの死体が時々打ち上げられる場所があるという。 そのクジラの肉を猫が食べたのでは…? 感染症発生から10日間の緊迫した状況を疫学的な見地からリアルに描いた秀作である。 疫学とは疾病(狭義では主に感染症)の発生原因や予防などを研究する学問のことである。 エピデミックとは医学用語のひとつで感染症(ひらたく言えば伝染病ですな)が急激に地域社会に広がっていく状態のこと。 ちなみに、感染症が国をまたがって急激に拡大していくことはパンデミックという。 本書では集団感染が発生してからの保健所や行政の対応、そして専門家が原因を究明していくための手法や考え方がしっかり描かれている。 へたな感染症予防の教科書より面白いし勉強になるのではなかろうか。
次の人生最大のカルチャーショック 木村 川端さんの「PTA再活用論」はこの分野の代表的な本です。 お子さんがきっかけでPTAに関わられたとのことですが、いまおいくつなんでしょうか。 川端 中学一年生と高校一年生ですので、上の子どもが小学校に入学してから、かれこれ10年近くPTAと関わっていますね。 木村さんの朝日新聞の記事を拝見しましたが、法学の立場からPTAについて書く人がやっとあらわれたと、心の中で大きな拍手を送りました。 木村さんも子どもがきっかけで、PTAについて考えるようになったのですか。 木村 私の子どもは今、保育園に通っています。 実は、PTAに興味をもったきっかけは、保育園の保護者会なんです。 今まで、保護者会に参加せずに会費だけを払っていたんですが、年長になった瞬間に「これまで役員をやっていない人の中から、役員をやってもらうことになっています」と言われました。 「これはおかしい」とおもい、調べてみたんです。 保護者会というのはマイナーな組織なのでインターネットで検索してもほとんど出て来ませんでした。 しかし、似たような組織のPTAについて調べてみると、「PTAに勝手に入れられた」「とても大変なおもいをしている」といった意見がたくさん出てきました。 そして、どうもこの問題を本格的に最初に検討したのが川端さんであるということがわかったんです。 今回は、ぜひ経験豊富な川端さんにPTAのお話をいろいろ伺えればとおもっています。 小学校入学以前は、保護者会などに関わっていましたか。 川端 息子も娘も保育園だったのですが、保護者会がなかったんです。 だから、その時はPTAや保護者会といった組織について考えることはありませんでした。 話によると、何年か前までは全員加入の保護者会があったそうなんですが、役員のなり手がいなくて、たまたまその時の会長がすごく胆力のあるお母さんで、「なり手がいないなら保護者会を休止します」と総会で通したんですね。 そのあとも、もちろん手がいる時もあるので、その時々でボランティアという形で参加を募っていました。 しかし、小学校に息子が入ったとたん、頭をガツンと殴られたようなカルチャーショックを受けました。 給食費のために口座をつくったのですが、そこからいつの間にかPTA会費も落ちていたんです。 第一回保護者会というのに行ってみると、全員が会員であることを前提に、なんらかの役をやらなければいけないことを知りました。 しかも、驚いたことに、役員選出委員会という委員会があって、次の年の会長や副会長を選ぶために、1年かけて活動するっていうんですよ。 役員決めの時に、周りを見ていてもあんまりやる気のある感じではなかったので「毒を食らわば皿まで」といった感じで、その役員選出委員会を引き受けたんです。 それが、ぼくのPTAに関わったきっかけですね。 木村 「あなたはPTAの会員です」と言われたのはどういう段階なんですか。 川端 それが、言われてないんです。 木村 保護者会に行ってみたら、会議をやると言われて、そこで自分がPTAに入っていたことをはじめて知ったと。 川端 入っているという説明もなかったですし、会費も知らない間に引き落とされました。 保護者会の前に、「調査票」のようなものがくばられましたが、「入会しますか?」というものではなく、「どの委員会や係を希望しますか?」というものでした。 さらにいうと、「当日出席しなかった方は、委任状を出したものと見なし、役をやっていただくことがあります」と書いてありました(笑)。 PTAだって、基本的には「日本野鳥の会」と変わらないわけです。 自分の子どもの育ちと学びに寄り添いたい人達の会も、野鳥に興味がある人達がつくる会も、入退会については同じはずです。 ある日、前触れもなく、あなたは「野鳥の会」の会員ですと言われたら、びっくりしますよね。 でも、PTAではそれがまかり通っている。 今まで自分の人生で培ってきた世界観を根本レベルで否定されたみたいな衝撃でした。 注:保育園の「保護者会」と、小学校の「保護者会」の機能は異なっています。 保育園・幼稚園の「保護者会」はPTA的な「組織」で、保護者が会員となり役員の選抜なども行います。 一方で、小学校の「保護者会」は学校によっては「学級懇談会」と呼ばれることもあり、学校が主催した保護者と教員の話し合いの「場」で、本来ならばPTAとは独立した会合です。 入会なんて聞いてない 木村 PTAに勝手に自動加入させられるというお話でしたが、川端さんが関わられた学校ではどのように加入が行われているのでしょうか。 川端 本当に「いつの間にか」入れられているんです。 というのも、入会希望を書面で出さなくても、PTAは名簿をもっているんです。 学校の児童名簿を使っています。 それで、きょうだい関係も把握できますし、学校に何世帯の家族がいるのかわかりますよね。 その世帯数を「PTA会員数」といってそのままカウントしているという感じですね。 しかも、副校長先生が「あの家が転出した」「今度はここは転入した」と、PTAに教えてくれるんです。 絶えず最新の世帯数を把握していました。 木村 学校が管理している児童名簿をPTAに流し、そのまま自動加入にしている場合が多いということですね。 入会の説明もないまま、役員選出の作業に移ってしまうと。 川端 その通りです。 最初から名簿があって、全員加入。 自分にとって一番近い例なので言いますと、ぼくが住んでいる世田谷区の64校の区立小学校のPTAでは、すべてが全員加入を前提とした運営をしています。 それはちょっとおかしいですよね。 木村 それは変ですね(笑)。 先日、某テレビ局の朝の情報番組で、文部科学省のPTAを管轄していた部門のOBの方が、はっきりと、「PTAは任意加入の団体です。 」とおっしゃっていました。 それにもかかわらず、全員加入ではないPTAというのはそれ自体珍しいものだということですね。 川端 ぼくが知っている限り、全員加入を前提にしていないPTAはとても珍しいですね。 岡山市の西小学校PTA、札幌市の札苗小学校PTAが、自由に入退会できると宣言して、この2、3年話題になりました。 また、余談ですが、八王子のみなみの小学校のPTAは、会員名簿はつくらず、会長がだれかも決めずに、枠組みはつくるけれど、委員会を必ずしもやる必要はない、と規約前文に書いているんです。 木村 そんなに崇高な理念をうたった前文があるというのは、憲法みたいですね。 川端 そうですね。 そこに取材しようと、学校の事務方である副校長に問い合わせてみたら「困ったなぁ」と言われました。 「だれに話をしたらわからない。 責任者がいないから」って(笑)。 その後、小中一貫校になって、ウェブサイトも消えてしまったので、どうなっているのかはわからないんですけど、当時はその緩さがなんとも心強かったように思えました。
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