輝きにあふれた命はどれだけ湧き上がろうとも、奥底から刹那的に煌めいて疾走しようとも必ずいつか枯れ果て、倒れ伏せる。 生き物が朽ちる原因は、殆どは病により蝕まれてのものだ。 昨日まで笑顔が咲き誇ろうとも、病原菌が蔓延すれば簡単に足は動かなくなるし思考も働かなくなる。 結局、幾ら感情論を綺麗に並べても動かなくなれば、同じなのだ。 先日現れた、優しくも気高くも見える突風のように舞い降りた少女。 その度に、命が綺麗に燃えていくときを眺めると、ああ、哀れだな、と思った。 呆れ気味に。 誰かを助けたい、癒したい、その想いを胸に灯し続けて、その蝋を溶かし続けるように、何かを削りながら生きようとする姿はどうせ、と予感させるしかなかった。 失敗報告が重なると、うるさく言われるかもしれないし。 戦闘後の緩んでいる時なら、逆に、簡単にやれる。 花なんていつか萎れるもので。 ひとの命も、蝕まれれば物言わぬ無機質になる。 お前も、そうなんだろ。 安価な優しさは、枯れるのが早い。 僅かに降っていた雨がやむと、は、と息を漏らしたグレースが浄化の台詞を唱えれば、開放されたエレメントが彼女に頭を下げて喜んでいた。 とはいえ、のどかの傍にいるヒーリングアニマルは邪魔か。 悟られても面倒だ。 木の根元をゆさ、ゆさ、と歩いていた野良猫に育てきらない、ナノビョーゲンを貼り付けるとびっくりして、向こうに走っていく。 そうして、談笑していた塊へと突撃していけば、あ、ラビリン、と追いかけ回される相棒に手を伸ばしたところで、自分の足音に気付いた。 人間に形だけでも擬態するのは、簡単だ。 青白い肌に、オレンジの色素を取り込む。 この世界では異形であろう角と尻尾を隠し、黙って通りすがれば、ふと、近寄った彼女に不意を取られながらも、伸びた指先が掠めるだけに留まった。 きょとんとした少女が桃栗色の毛並みを揺らして、自分の手の甲を眺めていた。 そこには、薄ら切れた傷があった。 別に、こんなのなんともないから、」 「ええっと、良かったら手当てさせて貰えないかな」 「…は?」 「傷口から菌が入ったら、大変だし。 あ、私救急セット常備してるから!マキロンに包帯に、絆創膏…昔から、ふわっとしてて、はしゃぐとつい転んで怪我すること多かったから。 さっきの雨に、少し打たれたせいか。 強そうな身体にも見えないし、これだから人間は。 直ぐに倒れる。 病に冒される。 弱いくせに、馬鹿なくせに、面倒臭い。 でしゃばりなんだよ、かったるい、そう言おうとするもそんなそぶりに気づきもせずいる彼女にペースが乱される。 既に小さな花柄のポーチから、のどか、とネームシールの貼られた絆創膏の箱やらガーゼやらを出している。 その際も彼女に不用意に触れないよう、意識はしていた。 触れたら、病原菌そのものでもあるダルイゼンから容易く感染してしまう。 いや、寧ろその方が都合が良いのか。 触れるまでもなく、既に彼女は風邪を引いているであろうことに。 そういうものが、体質故に透けて見えた。 赤く、発熱している。 本当は、かなり辛いだろうにてきぱきと用意して、マキロンの蓋をぱき、と開けたところで。 ため息を吐いてかっさらった。 誰かの優しさを注がれると、治り、早くなるんだよ。 私もそうだったもん」 本当は、こんなもの直ぐに塞げるのだが。 目の前の少女を曇らせて、また、病で陰らせることも出来る。 きっと、彼女は以前も似たようなことになっていたのだろう。 ジオラマのような、真っ白、純白、どろりと塗りたくられたあの箱の中で、滅菌された世界の中で縛られていた。 彼女の快活さは、先天性のものというよりはそうした背景による、反動というものも感じた。 ぽってり、赤くなった頬を見つめてから彼は肩を落として、上着を羽織らせた。 これくらいならまだ、いい。 伝染ることもないだろう。 調子が、狂う。 真っ直ぐで健気で、ひとの悪意になど触れたこともないくせに。 じくりとした腹立たしさに薄っすら動揺しつつ、静かに抑え込んだ。 久しぶりに普通の人間と会話してるからおかしな方向に感化されているだけだ。 また直ぐ、塞がる。 一通りの処置を終えてから、彼女がいたいのいたいの、とんでけ、と空を指さしてからゆっくりと花のマークのついた絆創膏を貼った。 ひとつひとつに、愛など込めて。 そんな、ふうに。 「…馬鹿みたいって思わないの?」 「…え?」 「目に見えるもの、あふれるものに心を注いで。 優しさすり減らして、疲れないの。 俺だったらそんなの、ごめんなんだけど。 あんた、馬鹿だろ」 そう言われて、少しだけ、一瞬。 泣きそうな顔が見えて、直ぐに首を横に振った。 「…いてもたっても、いられないの。 困ってるひとがいたら、助けたい。 癒して、笑顔になって欲しい。 それが、私の笑顔にもなるから。 だから、疲れたって良いの。 そのひとが笑ってくれたら、全然平気だから」 「自分を守ろうともせずに、」 「…ふわ、っ?」 「誰かを助けたい、って。 その時、手を取られて、さらわれても。 俺に同じこと、言える?」 顔を近付けてから、風がさらりと流れる中で彼女は影が重なってなお、凛とした顔をしていた。 口を開きかけるところを見届けた、最中。 突然倒れてきた樹木に危ない、と叫んだ。 手のひらを振りかざし、彼女を突き放そうとしたところで裾を捕まれ、ち、と舌打ちすると大きい怒号音が鳴り響く。 ぱらぱら、と土埃が伝っていって、枝葉が折れては降ってくる。 そもそも、すんでで掴んだのが服だから無事だったが、一歩間違えれば腐り落ちていたのはそちらだ。 息をつきながら、彼女の顔の横に両手を突きながらそう、安堵する自分に狼狽えかけた。 その瞬間に、彼の姿もまた変貌する。 青白く、美しく月の光を浴びた肌に。 しゅる、る、と伸びるサソリのような、けものの尾と角。 血色の悪い舌をべ、と出しながらばあか、と呟いて。 裏切られて、泣きべそでもかくならそこまでだ。 優しさなど、身勝手で見返りがない。 そんな無償に、喜びを見いだせるのなら。 破滅も近いとすら、嗤われる。 早く、泣けよ、ほら。 そう、待っていると。 「…怪我、してなくて良かった」 ふわりとそれだけで、笑っていた。 「自分が何されたか、わかってるの?」 「びっくりは、したけど」 「騙されて、傷ついたみたいな顔しろよ」 「…なんでだろ。 なんにもなくて良かったって思って、ほっとしてる。 瞬間、大きく胸が高鳴るのを感じた。 熱烈に、優しく掻き混ぜられて孕みかけるその衝動に彼はらしくもなく、遅れを取った。 今度は長いため息を吐きながら、あんた、めんどくさいよ、と言えば知ってる、と返された。 それから、彼女はこてりと気を失った。 無理をしすぎたのと、疲弊もあったのだろう。 肌に直接触れないように、丁寧にベンチへと運ぶとふと、彼女の額に擦り傷があるのに気付いた。 蝕まれて、おわり、なくせに。 彼女のポケットから絆創膏を拝借して額へと添える。 のどか、とピンクのサインペンで書かれたそれを眺めながら皮肉めいた口振りで、嫌味をたっぷりにして風が前髪を攫うのを良いことに、唇を押し当てた。 傷口から間接的にだが付着した菌を吸い上げて噛み砕く。 これで、驚く程に塞がるのも早くなるだろう。 気紛れはそんなに長くは続かない。 次に会う時はまた敵同士だ。 不意に、伸びた手を乱暴にではなく、すり抜ける形で甘受すると落ちていた手を小さく握り締める自分がいた。 いちいち、道端に咲く花を儚んで憂いるなんて、疲れるだけ。 怠く、のろまになるだけ。 依然として、変わることはないが。 空から降ってきた黄色のポピーの花がゆらゆら舞いおりて彼の周りを漂い、また、旅立つ。 その姿を眺めながら、純黄色の、いつか煌めくであろうそれを運命と呼ぶのは、まだ遥かなはなし。 けれどその出逢いは確かに花を贈り、愛を寄越すものとなるのはもう、決まっていた。
次のその幹部として第1話に登場したのがビョーゲンキングダムの少年幹部 「ダルイゼン」です。 プリキュアNL勢は覚悟しておけ。 左の方が 田村睦心さんです!• NARUTO -ナルト- 疾風伝:はたけカカシ幼少・少年期• 忍たま乱太郎:忍たま• 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:ライド・マッス• 宝石の国:モルガナイト• クジラの子らは砂上に歌う:ネズ 2020年には 「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」の泉光子郎役も担当します! 少年役が多いことから、ファンの間では 田村少年と呼ばれているようです。 今回敵役のダルイゼンに決まり、田村睦心さんからコメントがあったようですね。 伝統あるプリキュアの、しかも悪役幹部になれるなんてすごく嬉しいです! 悪役をやらせて頂く事が少ないのでとても張り切っています。 アフレコ時には彼が出てくるたび女性陣が黄色い声を上げてくれるので、 きちんとかっこよく、そして悪く演じられるように頑張りたいです。 そして1話の時点で2人共「生きてるって感じ」を使ってるのがもう… — ティセラ merusepi00q ダルイゼンやっぱかっこいい 声も好みだし、やばい、すき。 確かにかなり慕っていましたね。 しかもグアイワルに対する態度もなんだか可愛い…。 ダルイゼンに容姿が似ているけど、姉弟 兄妹 …? 声優は 伊藤静さんです。 敵キャラ、シンドイーネに決定した時のコメントはこちら。 敵幹部の一人というお役を任せていただけてとてもうれしく思っています。 マッチョで3幹部の中で一番武人的性格をしているんだとか…。 見るからの悪役。 演じていて楽しいです。 現場の温度を上げられるよう踏ん張ります。 頑張れば、オレだってプリキュアになれるはず。 キュアマッスル目指して努力を重ねます。 応援してください。 どうやらキュアマッスルを目指しているようです。 体を取り戻すためにビョーゲンズを使って地球を攻撃しているみたい…? 声優は不明です。 敵キャラも病気を連想されるような 「ダルイゼン」「シンドイーネ」「グアイワル」「キングビョーゲン」。
次のダルイゼンの照れ顔かわいくないですか?ヤバイですよね、ね、ね!!! 表紙に合うように、ツンデレ全開ダルイゼンとかわいいのどかちゃんの微笑ましい ? お話を書きました。 バレンタインの話なので、もう時期はズレてしまいましたが、どうかお許しください。 ダルイゼン、グレースの名前はちゃんと覚えてるけど、他メンバーは色でしか把握してないのがエモい、という私の願望が途中で少し現れています。 [newpage] バレンタイン。 人間には一大イベントの行事も、俺には関係ない。 「はぁー……この、街じゅうが沸いてる雰囲気。 生きてるって感じ………」 いつもにも増してイライラとするのは、笑顔、幸せ、愛、という嫌いなものが揃っているから。 いや、それだけじゃない。 花寺のどか。 馬鹿面のあいつが、学校の男どもにヘラヘラとチョコレートを配っていたのが気に食わない。 「義理チョコだよ」とかなんとか言ってたけど、そんなの関係ないだろ。 あの阿婆擦れ女。 高台から道行くカップルを見下ろしていると、更にイライラが募って貧乏ゆすりが始まった。 なんで俺があいつなんかのことで、こんなにイライラしなきゃならないんだよ。 だっるい。 一刻も早くこの空間を絶望に変えたくてシュタッと地上に降りると、手近にあった巨木に手を当てた。 「進化しろ。 ナノビョーゲン」 幸福に満ちた街に悲鳴が溢れたのは、直後のことだった。 [newpage] 「待ちなさい!メガビョーゲン!」 「はぁ……また来たの………」 まるで餌を撒くと集まる魚だな。 プリキュア。 いや、花寺のどか。 今日こそこいつらを倒して、キングビョーゲン様に良い報告をしよう。 いつもは怠くてあんまりヤル気出ないけど、今日は俺、あんたを潰したい気分だからさ。 「やれ、メガビョーゲン」 でかい図体を左右に揺らしてプリキュアに突進するメガビョーゲン。 いつもにも増して苦戦しているプリキュアの傷は増えていくばかり。 何度も叩きつけられ、殴られ、それでも立ち上がる真っ直ぐなところ、虫酸が走る。 痛いなら逃げ出せばいいのにさ。 そうしたら逃げた背中に斬り込んで、痛いとも思わないうちに殺してやるのに。 青と黄色は気を失ったみたいだ。 あんなグズを庇うからだよ、バーカ。 さあ、一人残ったあいつがどうするか、高みの見物でもさせてもらおうか。 [newpage] 「ダルイゼン、あなたに話があるの」 メガビョーゲンに背を向けて、こちらをキッと睨みつけながら叫んだグレースは、一歩、二歩、と俺に近付いた。 なんだよ、そこに這いつくばって命乞いでもしてみろよ。 「今日は何の日か知ってる?」 「は?」 「そう。 バレンタイン」 いや、俺、答えてないんだけど。 「好きな人にチョコをあげる日なの」 ああ、あんたがばら撒いてたアレね。 花寺さんは博愛主義なんだなー、クラスの男全員を好きとは、恐れ入ったわ。 「で?別に興味ないんだけど」 話をするうちに、メガビョーゲンがグレースの真後ろまで迫っている。 「ダルイゼン、あなたにチョコを渡したいの」 聞いた瞬間、グレースを背に守り、メガビョーゲンが振り上げた拳から庇っていた。 「え………?」 ピンクの瞳が目一杯に見開かれる。 当たり前だ。 俺だって自分の行動に驚いてる。 「早くしてくれる?浄化」 「あ!う、うん!!!」 いつものようにうさぎのステッキを振り回して浄化を始めた彼女は、あっけなくメガビョーゲンを倒すと俺に一歩近付いた。 [newpage] 「のどか、気をつけるラビ!これはきっと罠ラビ!」 うっさい奴が一匹。 まじで邪魔。 「ラビリンはちょっと黙ってて」 しばらく言い合いをしていたけど、ムスッと膨れっ面をしたウサギは遠くに離れていく。 いつのまにか変身が解けたあんたは、小さな箱を俺に差し出した。 「なに、これ」 「バレンタインのチョコ!」 「ふーん」 他の男と同じ扱いをされるのも釈な気がして、素直に手を伸ばせない。 「何人にチョコ渡したの?そういうのウザいんだけど」 「これは、ダルイゼンだけ!」 「は?」 見せ付けるように箱をパカっと開けて、あんたはニンマリ笑った。 「ほかの男の子はチロルチョコ」 華奢な指が不格好なチョコを一粒摘んで、口元へと持ってくる。 「ダルイゼンには、手作り」 赤く蒸気した頬を隠すためか、斜めに首を傾げながら「食べて」と言う。 なんでお前のチョコなんか…という気持ちと裏腹に勝手に開いた俺の口は、チョコの欠片をパクリと食べた。 「おいし?」 甘い。 甘すぎ。 おいしくない。 絶対おいしいなんて言ってやらない。 「このチョコの味が、私の気持ち。 レシピよりも甘く作ったの」 どおりで……… 「おいしく出来たか、確かめてもいい?」 爪先立ちになったあんたの顔が間近に迫って、チュッと音を立てて離れた。 口………今、なんか…触れた……………? 恥ずかしくなって口元を隠すと、箱を奪い取ってキングビョーゲン様のところへ帰る扉を開く。 こんな顔、絶対人には見せられない。 「帰る」 一言残して扉を抜けた。 はぁーーー。 出てきたのは深い深いため息。 唇に指を当てると、柔らかい感触と甘い香りが思い出されてカッと身体が熱くなる。 「なんだよ、あいつ……」 呟きながら、チョコを一粒舌で転がす。 うまい……… なんて絶対言ってやらないけど、胸の奥で芽生えた微かな灯火が、徐々に燃え上がっていくような熱情を感じずにはいられなかった。 ダルイゼンの照れ顔かわいくないですか?ヤバイですよね、ね、ね!!! 表紙に合うように、ツンデレ全開ダルイゼンとかわいいのどかちゃんの微笑ましい ? お話を書きました。 バレンタインの話なので、もう時期はズレてしまいましたが、どうかお許しください。 ダルイゼン、グレースの名前はちゃんと覚えてるけど、他メンバーは色でしか把握してないのがエモい、という私の願望が途中で少し現れています。 [newpage] バレンタイン。 人間には一大イベントの行事も、俺には関係ない。 「はぁー……この、街じゅうが沸いてる雰囲気。 生きてるって感じ………」 いつもにも増してイライラとするのは、笑顔、幸せ、愛、という嫌いなものが揃っているから。 いや、それだけじゃない。 花寺のどか。 馬鹿面のあいつが、学校の男どもにヘラヘラとチョコレートを配っていたのが気に食わない。 「義理チョコだよ」とかなんとか言ってたけど、そんなの関係ないだろ。 あの阿婆擦れ女。 高台から道行くカップルを見下ろしていると、更にイライラが募って貧乏ゆすりが始まった。 なんで俺があいつなんかのことで、こんなにイライラしなきゃならないんだよ。 だっるい。 一刻も早くこの空間を絶望に変えたくてシュタッと地上に降りると、手近にあった巨木に手を当てた。 「進化しろ。 ナノビョーゲン」 幸福に満ちた街に悲鳴が溢れたのは、直後のことだった。 [newpage] 「待ちなさい!メガビョーゲン!」 「はぁ……また来たの………」 まるで餌を撒くと集まる魚だな。 プリキュア。 いや、花寺のどか。 今日こそこいつらを倒して、キングビョーゲン様に良い報告をしよう。 いつもは怠くてあんまりヤル気出ないけど、今日は俺、あんたを潰したい気分だからさ。 「やれ、メガビョーゲン」 でかい図体を左右に揺らしてプリキュアに突進するメガビョーゲン。 いつもにも増して苦戦しているプリキュアの傷は増えていくばかり。 何度も叩きつけられ、殴られ、それでも立ち上がる真っ直ぐなところ、虫酸が走る。 痛いなら逃げ出せばいいのにさ。 そうしたら逃げた背中に斬り込んで、痛いとも思わないうちに殺してやるのに。 青と黄色は気を失ったみたいだ。 あんなグズを庇うからだよ、バーカ。 さあ、一人残ったあいつがどうするか、高みの見物でもさせてもらおうか。 [newpage] 「ダルイゼン、あなたに話があるの」 メガビョーゲンに背を向けて、こちらをキッと睨みつけながら叫んだグレースは、一歩、二歩、と俺に近付いた。 なんだよ、そこに這いつくばって命乞いでもしてみろよ。 「今日は何の日か知ってる?」 「は?」 「そう。 バレンタイン」 いや、俺、答えてないんだけど。 「好きな人にチョコをあげる日なの」 ああ、あんたがばら撒いてたアレね。 花寺さんは博愛主義なんだなー、クラスの男全員を好きとは、恐れ入ったわ。 「で?別に興味ないんだけど」 話をするうちに、メガビョーゲンがグレースの真後ろまで迫っている。 「ダルイゼン、あなたにチョコを渡したいの」 聞いた瞬間、グレースを背に守り、メガビョーゲンが振り上げた拳から庇っていた。 「え………?」 ピンクの瞳が目一杯に見開かれる。 当たり前だ。 俺だって自分の行動に驚いてる。 「早くしてくれる?浄化」 「あ!う、うん!!!」 いつものようにうさぎのステッキを振り回して浄化を始めた彼女は、あっけなくメガビョーゲンを倒すと俺に一歩近付いた。 [newpage] 「のどか、気をつけるラビ!これはきっと罠ラビ!」 うっさい奴が一匹。 まじで邪魔。 「ラビリンはちょっと黙ってて」 しばらく言い合いをしていたけど、ムスッと膨れっ面をしたウサギは遠くに離れていく。 いつのまにか変身が解けたあんたは、小さな箱を俺に差し出した。 「なに、これ」 「バレンタインのチョコ!」 「ふーん」 他の男と同じ扱いをされるのも釈な気がして、素直に手を伸ばせない。 「何人にチョコ渡したの?そういうのウザいんだけど」 「これは、ダルイゼンだけ!」 「は?」 見せ付けるように箱をパカっと開けて、あんたはニンマリ笑った。 「ほかの男の子はチロルチョコ」 華奢な指が不格好なチョコを一粒摘んで、口元へと持ってくる。 「ダルイゼンには、手作り」 赤く蒸気した頬を隠すためか、斜めに首を傾げながら「食べて」と言う。 なんでお前のチョコなんか…という気持ちと裏腹に勝手に開いた俺の口は、チョコの欠片をパクリと食べた。 「おいし?」 甘い。 甘すぎ。 おいしくない。 絶対おいしいなんて言ってやらない。 「このチョコの味が、私の気持ち。 レシピよりも甘く作ったの」 どおりで……… 「おいしく出来たか、確かめてもいい?」 爪先立ちになったあんたの顔が間近に迫って、チュッと音を立てて離れた。 口………今、なんか…触れた……………? 恥ずかしくなって口元を隠すと、箱を奪い取ってキングビョーゲン様のところへ帰る扉を開く。 こんな顔、絶対人には見せられない。 「帰る」 一言残して扉を抜けた。 はぁーーー。 出てきたのは深い深いため息。 唇に指を当てると、柔らかい感触と甘い香りが思い出されてカッと身体が熱くなる。 「なんだよ、あいつ……」 呟きながら、チョコを一粒舌で転がす。 うまい……… なんて絶対言ってやらないけど、胸の奥で芽生えた微かな灯火が、徐々に燃え上がっていくような熱情を感じずにはいられなかった。
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