close• 特発性血小板減少性紫斑病 特発性血小板減少性紫斑病 ITP は、基礎となる疾患や薬物など血小板減少をきたす原因の認められない血小板減少をきたす疾患です。 原因としては、自分の血小板を攻撃する自己抗体が生じ、脾臓などの網内系での血小板処理速度が亢進し、血小板の寿命が短くなることで生じるためといわれています。 但し、自己抗体の発現のメカニズムはわかっていないため、特発性と呼ばれています。 特発性血小板減少性紫斑病とはいいかえると、「血小板だけを攻撃する反応が生じている自己免疫疾患」ともいえます。 血小板減少により、出血を起こしやすくなります。 血小板数 5. 0~2. 女性の方では、生理過多を契機に診断されることもあります。 凝固因子の異常で生じる深部出血や関節内出血は、ほとんどみられないのも特徴です。 妊娠や、特に非寛解期の妊娠では、多くの場合、ITPが悪化することが知られています。 さらに、新生児においても血小板減少症が出現することも知られており注意が必要です。 急性ITPと慢性ITPの特徴 急性ITP 慢性ITP 多発年齢 10歳以下の小児 20~40歳代の成人 罹患男女比 1:1 1:3 発症誘因 ウイルス感染による上気道感染(1~3週間先行)後に発症することが多い 通常なし 出血症状の出現 突然発症、ときに口腔内出血性発疹を認める 徐々に発症 経過 2週~3ヵ月くらいで多くは治癒する。 ときに慢性型に移行する 自然治癒はなく、6ヵ月以上、血小板減少が遷延する 日本においては、年間発生率は、10万人に1. 16人。 毎年200名前後の発症といわれています。 小児では性差が認められませんが、15歳以降では、女性が2~4倍多くなります。 のように急性型と慢性型に分けられます。 皮膚の出血性病変や生理過多といった出血傾向があり、血小板数が少ない場合に疑われます。 最近では、健康診断等にて無症状でも血小板減少を契機に発見されることもあります。 特発性血小板減少性紫斑病 ITP の診断や鑑別診断、全身状態評価のために必要な検査を示します。 採血検査…血計、血清検査。 白血球数は正常範囲にありますが、赤血球数は出血により低下している 貧血 こともあります。 また、抗核抗体などの検査を行い、全身性エリテマトーデス SLE などの他の自己免疫疾患の鑑別を行います。 骨髄穿刺検査 骨髄生検 …胸骨や腸骨より採取します。 ITPにおいては、巨核球数が正常あるいは増加していることがほとんどです。 更に白血病や骨髄異形成症候群 MDS の鑑別の確認のためにも行われます。 PA-IgG Platelet-associated-IgG …血小板表面に付着している免疫グロブリン IgG を測定しています。 SLEなどでも高値の場合がありますが、ITPで特に高値となることが知られています。 但し、PA-IgGとして検出されているもののすべてが抗血小板自己抗体というわけではありません。 腹部超音波検査…肝臓や脾臓の腫大の有無などを検査します。 尿素呼気試験・抗ピロリ菌抗体検査…ヘリコバクター・ピロリ菌感染を起こしているかどうかの判定のため、検査します。 表2 ITPの診断基準• 自覚症状・理学的所見 出血症状がある。 出血症状は紫斑(点状出血及び斑状出血)が主で、歯内出血、鼻出血、下血、血尿、月経過多なども試られる。 関節出血は通常認めない。 出血症状は自覚して胃内が血小板減少を指摘され、受診することもある。 検査所見• 抹消血液• 自動血球計数のときは偽血小板減少に留意する• 赤血球及び白血球は数・形態ともに正常ときに失血性又は鉄欠乏性貧血を伴い、また軽度の白血球増減をきたすことがある• 骨髄巨核球数は正常ないし増加 巨核球は血小板付着像を欠くものが多い• 免疫学的検査 血小板結合性免疫グロブリン G PAIgG 増量、ときに増量を認めないことがあり、他方、特発性血小板減少性紫斑病以外の血小板減少症においても増加を示しうる• 血小板減少をきたしうる各種疾患を否定できる• 1及び2の特微を備え、更に3の条件を満たせば特発性血小板減少性紫斑病の診断をくだす。 除外診断に当たっては、血小板寿命の短縮が参考になることがある 表2. の基準が厚生省より示されています。 鑑別疾患が重要となります。 薬剤性、放射線障害、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群 MDS 、発作性夜間血色素性尿症 PNH 、全身性エリテマトーデス SLE 、白血病、悪性リンパ腫、骨髄癌転移、播種性血管内凝固症候群 DIC 、血栓性血小板減少性紫斑病 TTP 、脾機能亢進症、巨赤芽球性貧血、敗血症、結核症、サルコイドーシス、血管腫、先天性血小板減少症 Bernard-Soulier症候群、Wiskott-Aldrich症候群、May-Hegglin症候群、Kasabach-Merritt症候群 などが挙げられます。 特に小児のウイルス感染症やウイルス生ワクチン接種後に生じた血小板減少は特発性血小板減少性紫斑病に含めます。 原則的に出血症状の認められるものが治療対象となります。 抗血小板抗体の産生を抑制するか、血小板の破壊を抑制することが治療の基本となります。 副腎皮質ステロイド プレドニソロン PSL Rプレドニン 代表的な免疫抑制剤です。 経過良好な例では中止も検討することとなります。 副作用としては、日和見感染症 免疫力低下によりおきる感染症 、高血糖、肥満、高脂血症、高血圧、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死、不眠などが挙げられます。 様々な副作用がありますが、治療効果が高いこともあり、合併症予防の薬を行いつつ治療することとなります。 ピロリ菌除菌療法 ヘリコバクター・ピロリ菌は、消化性潰瘍や胃癌の原因として知られている細菌ですが、ITPの患者さんで、ピロリ菌感染を起こしている方に除菌療法成功群で血小板数回復が期待できることが知られています。 平成16年のガイドラインでは、ピロリ菌感染例 尿素呼気試験陽性例 では、第一選択として施行されるべき治療法とされています。 しかしながら、6ヵ月以内にはほとんど消失する所見ともいわれています。 摘脾術 最近は、腹腔鏡下手術が行われることが主流となりつつあります。 開腹手術よりも侵襲が少なく、術後の回復が早いことが特徴ですが、実施に当たっては外科医師と相談しつつ決定することになります。 適応は、ステロイド治療の効果が不十分な方、ステロイドが減量できない方、ステロイドの副作用が強い方となります。 摘脾術決定の時期は、通常、診断から最低6カ月経過したあととされています。 ステロイド治療との組み合わせにより、ステロイドの減量が図れるなどの相乗効果も期待できます。 その他の免疫抑制剤 いずれも保険適応外ですが、シクロスポリン Rネオーラル 、シクロホスファミド Rエンドキサン 、アザチオプリン Rイムラン などの有効性が報告されています。 いずれも副作用があり、実施に当たっては主治医とよく御相談の上、検討して下さい。 リツキシマブ Rリツキサン 抗体を産生するBリンパ球を特異的に破壊するために有効と考えられています。 本来、CD20陽性B細胞性悪性リンパ腫に対して、保険適応のある抗体療法薬です。 非常に高価な薬剤であること、保険適応外の治療法でもあり、実施に当たっては、主治医とよく御相談の上、検討されて下さい。 血小板輸血 一番、速効性がある治療法です。 抗血小板抗体が存在するため、通常の血小板輸血よりも大量の輸血が必要となる可能性があります。 ガンマグロブリン大量療法 補充するIgGのFc部位が網内系細胞のFcレセプターと結合し、抗体と結合した血小板の網内系における破壊を競合阻害することで、血小板数を増やすことになるとされています。 但し、治療効果の持続期間は数日間であり、薬剤が極めて高価なこともあり、保険上も使用は緊急時に限定されています。 入院中 治療経過に伴い、状況が変わります。 強い血小板減少期には、安静等が必要となることもあります。 主治医・担当看護師にご確認下さい。 外来通院中 血小板数が少ない状況では、抜歯・手術などの際に事前の準備が必要となる場合があります。 主治医に御確認下さい。 また、ステロイド使用中においては、以下のような注意が必要となります。 自己判断での中止・減量によりITPの病勢が際増悪することもあるため、行わないようにして下さい。 ステロイドは解熱作用もあるため、肺炎などの重篤な感染症を起こしていても、発熱しないことがあります。 体調の異常があれば、早期に医療機関を受診して下さい。 ステロイド服用中は食欲が亢進することが多く、退院後は摂食量が増加し、体重増加傾向や血糖の上昇等が生じることも多くなります。 食事量等には御注意下さい。
次の, Inc. , Kenilworth, N. , U. Aは、米国とカナダ以外の国と地域ではMSDとして知られる、すこやかな世界の実現を目指して努力を続ける、グローバルヘルスケアリーダーです。 病気の新たな治療法や予防法の開発から、助けの必要な人々の支援まで、世界中の人々の健康や福祉の向上に取り組んでいます。 このマニュアルは社会へのサービスとして1899年に創刊されました。 古くからのこの重要な資産は米国、カナダではMerck Manual、その他の国と地域ではMSD Manualとして引き継がれています。 私たちのコミットメントの詳細は、をご覧ください。 必ずお読みください:本マニュアルの執筆者、レビュアー、編集者は、記載されている治療法、薬剤、診療に関する考察が正確であること、また公開時に一般的とされる基準に準拠していることを入念に確認する作業を実施しています。 しかしながら、その後の研究や臨床経験の蓄積による日々の情報変化、専門家の間の一定の見解の相違、個々の臨床における状況の違い、または膨大な文章の作成時における人為的ミスの可能性等により、他の情報源による医学情報と本マニュアルの情報が異なることがあります。 本マニュアルの情報は専門家としての助言を意図したものではなく、医師、薬剤師、その他の医療従事者への相談に代わるものではありません。 ご利用の皆様は、本マニュアルの情報を理由に専門家の医学的な助言を軽視したり、助言の入手を遅らせたりすることがないようご注意ください。 本マニュアルの内容は米国の医療行為や情報を反映しています。 米国以外の国では、臨床ガイドライン、診療基準、専門家の意見が異なる場合もありますので、ご利用の際にはご自身の国の医療情報源も併せて参照されるようお願い致します。 また、英語で提供されているすべての情報が、すべての言語で提供されているとは限りませんので、ご注意ください。
次の見逃してはいけない血算(下) [診内研より] 聖路加国際病院 血液内科 岡田 定先生講演 (前号よりつづき) 〈症例6〉61歳男性 高度疼痛と紫斑 3週間前より腰部、胸部、腹部に鋭い疼痛が出現。 全身性に多発性の数㎝大の紫斑もあり。 受診時の血算。 WBC 14,600 赤芽球 16 骨髄球 9. 5 後骨髄球 6. 0 桿状核球 6. 5 分葉核球 69. 0 好酸球 1. 5 好塩基球 0 リンパ球 3. 5 単球 4. 0 Hb 4. 7 MCV 95. 3 PLT 1. 1万 Ret 13. 4% Ret 19. 97万 白血球分画異常の鑑別のポイント 癌の全身骨転移を考える全身性の疼痛、DICを疑う血小板減少と出血傾向があり、幼若な好中球と赤芽球の出現(白赤芽球症)から、癌の骨髄転移を疑う。 診断と経過 癌の骨髄転移、DIC。 骨髄検査で集塊した癌細胞あり、骨シンチで全身の骨に転移巣を認めた。 明らかな原発巣は不明であり、原発不明癌として化学療法を施行。 2カ月後に退院。 見逃してはいけない 白赤芽球症を見たら、癌の骨髄転移や造血器腫瘍を見逃さない。 近医で、シプロキサンとカロナールを処方。 解熱したが、脱水状態となり入院。 入院時の血算と生化学。 WBC 1,700 好中球 51. 0 好酸球 0. 5 好塩基球 0. 5 リンパ球 43. 0 単球 3. 0 異型リンパ球 2. 0 Hb 14. 8 PLT 5. 7万 CRP 0. 通常の感冒にしては、白血球減少や血小板減少が高度で、肝障害もある。 よく面接すると、MSM(男性と性交渉をもつ男性)であることが判明。 急性HIV感染症を疑った。 診断と経過 急性HIV感染症。 HIV抗体陰性、HIV-RNA1. 急性CMV感染症の共感染が判明。 肝機能も正常化。 見逃してはいけない 異型リンパ球+ウイルス感染症状+HIVリスクを見たら、急性HIV感染症を見逃さない。 〈症例8〉66歳女性 腰痛、血小板減少 3カ月前から腰痛あり、他院のCTで多発性骨転移疑い。 口腔内に粘膜下出血、全身性に多発性の紫斑あり。 入院時の血算。 WBC 7,200 骨髄球 1. 5 後骨髄球 1. 5 桿状核球 2. 5 分葉核球 61. 5 好酸球 0 好塩基球 1. 5 リンパ球 21. 0 単球 10. 5 Hb 11. 4 MCV 83. 4 PLT 7. 7万 血小板減少症の鑑別のポイント 血小板7. 病歴から基礎疾患に進行癌が考えられ、DICの病態を最も疑う。 診断と経過 癌の骨髄転移、DIC。 消化管内視鏡検査で胃癌と診断され、胸腰椎MRIで椎体の広範囲にびまん性骨硬化性骨転移巣を認めた。 見逃してはいけない 基礎疾患+血小板減少+FDP増加を見たら、DICを考えよう。 紹介受診時の血算。 WBC 8,900 好中球 70. 5 好酸球 4. 5 好塩基球 3. 5 リンパ球 16. 5 単球 5. 0 Hb 13. 6 PLT 90. 5万 血小板増加症の鑑別のポイント 基礎疾患がなさそうで、軽度の白血球増加と慢性的な著明な血小板増加あり。 まず、本態性血小板血症を疑う。 慢性骨髄性白血病の可能性もある。 診断と経過 本態性血小板血症。 見逃してはいけない 慢性的な高度の血小板増加症を見たら、まず本態性血小板血症と慢性骨髄性白血病を見逃さない。 〈症例10〉38歳男性 関節痛、発熱、出血 10日前から右肩関節痛が続き、8日前から紫斑、口腔内出血が徐々に悪化。 前日から38. ER受診時の血算。 WBC 600 Hb 6. 8 MCV 94. 6 PLT 1. 1万 汎血球減少症の鑑別のポイント 高熱と高度の汎血球減少症からは、重症感染症、造血器疾患、血球貪食症候群を最も疑う。 高度の出血傾向からはDICを考える。 汎血球減少症+DICからは、急性前骨髄球性白血病を最も疑う。 診断と経過 急性前骨髄球性白血病(APL)、DIC、敗血症。 すぐに抗菌薬を開始したが、数時間後に敗血症性ショックとなり集中管理を要した。 APLと診断後、レチノイン酸+化学療法を施行。 約10年間寛解持続。 高度の汎血球減少症と高熱を見たら、重症感染症、急性白血病、血球貪食症候群を疑う。 おわりに 以上、10症例をご紹介しましたが、血算のもつ情報にお気づきいただけたでしょうか。 血算には、意外なほど重要な情報が隠れています。 どうかお見逃しなく。 文献 岡田 定『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』医学書院、2011 (おわり).
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