反対される方の論点のまとめを拝見しました。 私が梨農家である為、例が果樹、特に梨となることお許しください。 まず前提に「一般品種と登録品種の境界が曖昧である」との問題があるようです。 しかしそもそも一般品種を簡単に登録できるのであれば、種苗登録と言う制度自体が成り立たないはずです。 例えば梨の一般品種である皆さんもよく知る幸水は古くからありますが、今なお梨の栽培面積の多くを占めています。 市場性のある品種は廃れないのです。 これは最大の需要期であるお盆の時期において幸水を上回る品種が出てきていない事の裏返しでもあるのですが、それはともかくとして幸水を別の名前で品種登録をするのは広く知れ渡っている為、不可能です。 そうなると一般品種を登録品種として新たに登録するにはあまり知られていないような品種に限られます。 しかしそのような品種はごく一部の地域で生産される伝統品種であったり、消費者の嗜好の変化、耐病性、収量で劣る、または栽培が難しいなど様々な理由で消え去っていった品種だと思われます。 そこに市場性を見出せるでしょうか。 似た品種を作り品種登録をし、既存の一般品種の栽培者相手に訴訟を起こそうとする悪意ある育成者がいたとしても、まず登録の際には似た品種との区別性が求められます。 殆ど知られていない品種を登録できたとしても、懲罰的賠償の認められていない日本では損害賠償請求額は生産者の利益分くらいでしかありません。 ひっそりと代々地域で受け継がれてきたような品種ではその額は知れています。 その上、一般品種であることを知りながら登録すれば罪に問われる可能性があります。 「経済的利益のみを追求する悪辣な多国籍アグリ巨大企業」がとる合理的な行動とは思えません。 植物は環境により形状が変化するから分からない、との意見もありましたが、それなら同一環境にて栽培を行い、それぞれどのような形状となるか試験すれば良いのです。 現在でもDNA鑑定などで判別出来ない場合にはそのような方法が取られているようです。 naro. affrc. html 交雑するとの問題については種を採ることのない果樹農家の私には知識がありませんので、意見は差し控えます。 次に「海外流出は現行法でも十分防ぐことが可能で、海外流出を完全に防ぐ為には各国で種苗登録するしかない」との意見ですが、これは私も一部同意します。 しかしそれならば政府に求めるべきは、「新たな国際的な種苗登録の枠組みの構築を促すこと」「個人育成者や中小企業育成者の海外での種苗登録へのアクセスを容易にする施策」なのではないでしょうか。 今の状態は例えれば、多くの箇所で水漏れしている上、蛇口の開きっぱなしの水道です。 根本的な解決は蛇口を閉めることですが、かと言って目の前の水漏れを放っておいていい訳ではありません。 山形のさくらんぼの登録品種であった紅秀峰(現在では登録期限切れで一般品種です)がオーストラリアに流出したことがありましたが、穂木を渡した栽培者に悪意は無かったのだと思います。 私もそうですが他県から圃場見学に来てもらうのは嬉しいのです。 それがわざわざオーストラリアからとなると尚更です。 軽い気持ちでお土産として穂木を渡したのではないでしょうか。 これは現行法でも勿論禁止されています。 種苗法が現場に周知されていなかったが為に起こった悲劇です。 ただかつて無登録農薬が問題になり、農薬取締法違反が厳罰化された際にも感じたのですが、農家であっても知らなかった、では済まされない時代になってきたのです。 次の論点として「食分野において開発者(育成者)と農家が対立している構造が問題」だとされています。 果たして育成者と農家は対立しているのでしょうか。 別の記事に書いた私が新たに導入をはかる登録品種「甘太」ですが、きっかけは同時期に収穫できる「新高」という品種が夏の高温で焼けてしまい、商品化出来なかったことです。 袋を変えてみたり、灌水の時間を変えてみたりしましたがうまくいきませんでした。 育成者側の意見としてよく拝見する林ぶどう研究所の林氏も「そのような環境の中で、品種の力は大変大きい」と述べられていますし、私も全面的に同意します。 この点は野菜や米などでも同じではないでしょうか。 育成者に利益が還元される仕組みを作ることで、育成者に新たな品種を作って貰い、私達生産者はそれを栽培する。 対立ではなく協調です。 新規参入も増えるかも知れません。 それが多国籍アグロバイオ企業であっても国内法を遵守し、合法的に活動するのであれば当然保護の対象とすべきです。 品種が増えれば登録品種も当たり前に増えます。 先の記事でも述べましたが、それは生産者の選択肢を広げることにも繋がります。 もっとも現代農業に掲載されていた花卉分野での育成者権の濫用ともいうべき事態も見受けられました。 いち早く権利ビジネスとなり、育成者権者側が圧倒的に優位な花業界では育成者権の切れた品種に対しても、自家増殖の手数料を請求されることがあるようです。 これは独占禁止法での優先的地位の濫用にあたるのではないでしょうか。 ruralnet. htm。 このような事態を避ける為には育成者権の濫用とも言える場合に対しては農水省の断固たる指導が必要ですし、種苗法上のペナルティの制定も必要かと思います。 追記 (優先的地位の濫用に関して根拠法として不正競争防止法をあげていましたが、正しくは独占禁止法です。 訂正しました。 ) さて記事ではここで何故か欧米に比べて日本における農業への公的補助の少なさをあげておられますのでそれについても述べたいと思います。 これだけ見ればフランスやイギリスは手厚い保護だな、と思われるかもしれませんが、フランス、イギリスの主食である小麦農家の平均経営面積は200haと書かれています。 日本の米農家の平均面積は少し古いデータですが2010年で1ha。 今は農業法人に集約が進みつつある状況ですが、有名な大規模法人の横田農場でも平成30年で142haとのことです。 英仏の小麦農家はデカイのです。 これはどういうことかといえば、フランスやイギリスでは大規模集約化により、農家の数自体を減らしたからでしょう。 大型農機のない時代からこの経営規模だったわけでは無いと思います。 大規模農家に投資を集中し補助金の給付先を減らしたわけです。 これを可能にしたのが「地形」でしょう。 日本の耕地面積はこれらの国に比べて圧倒的に少なく、中山間地も多く大規模集約には限度があります。 集落営農を進めたり、担い手たる認定農家、さらに農業法人に集約化を進めているとはいえ、日本の現状でそれらの国並みに公的補助を引き上げることには国民の同意が得られるでしょうか。 次に書かれておられたのがモンサント社その他多国籍アグロバイオ企業への恐怖。 こればかりは何も言えません。 お化けが怖い人もいればそうでない人もいますし。 それでも多いとは思いますが、大手マスコミの記事としてはどうかと思います。 次にこの記事では触れられてませんでしたが、農業競争力強化支援法について書きたいと思います。 この法律の8条4項に基づいて外資を含む民間企業に農研機構や都道府県の開発品種に売り渡される、との主張があります。 多くの条文参照では 「独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること」と書かれていますが、この条文には前半部分があります。 全文は 「種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること」 前半部分では民間事業者への品種育成を始めとする種苗生産供給への参入を促しています。 それを受けての後半なのですから「種苗の生産に関する知見」とは登録品種の提供ではなく、生産ノウハウを提供しましょう、ではないのでしょうか。 農林水産事務次官による通知です。 8条4項については「都道府県は、官民の総力を挙げた種子の供給体制の構築のため、民間事業者による稲、麦類及び大豆の種子生産への参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術等の種子の生産に係る知見を維持し、それを民間事業者に対して提供する役割を担うという前提も踏まえつつ、都道府県内における稲、麦類及び大豆の種子の生産や供給の状況を的確に把握し、それぞれの都道府県の実態を踏まえて必要な措置を講じていくことが必要である。 」と書かれています。 非常に分かりにくいですが、種そのものを渡せ、と解釈するには無理があるように思えます。 その為、他の措置も必要。 濫用する者は何らかのペナルティも必要。 となります。 立場や考えが違うのですから賛成反対あっていいと思います。 今回の議案がどうなるかは分かりませんが、これで終わりではなくこれからもトコトン議論して自分の考えをブラッシュアップしていけば良いと思います。 そして政治家の方には決して反対の為の反対、ではなく法律をより良くする為にこれからも考えていって貰いたいです。 今回は間に合わないかも知れませんが、国会議員にはせっかく法案の提出権があるのですから。 以下にリンク張ります。
次の「日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます」 「新型コロナの水面下で、『種苗法』改正が行われようとしています」。 柴咲さんは2020年4月30日、ツイッターでこう切り出した。 ネット上では、感染拡大への対応ぶりに注目が集まる陰で、政府が論議のあるいくつかの重要法案を国会で通そうとしていると、話題になっている。 柴咲さんは、そのことを意識したらしく、次のように問題提起した。 「自家採取禁止。 このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます。 これは、他人事ではありません。 自分たちの食卓に直結することです」 著名人の発言だけに、柴咲さんのツイートは大きな反響を呼び、その反応を報じたスポーツ紙もあった。 しかし、その意見については、賛否が分かれている。 種苗法については、政府が3月3日に改正案を閣議決定して国会に提出した。 農水省サイトの説明によると、日本で開発されたブドウやイチゴなどの優良品種が海外に流出し、第3国に輸出・産地化されるケースがあるなどとして、国内で品種開発を滞らせないよう、新品種を保護するのが目的としている。 米や果物、野菜の9割前後の一般品種は制限せず、ゆめぴりかのような米やシャインマスカットのようなブドウといった登録品種について、自家採種などを制限する内容だ。 ところが、国会上程の前後から、農水相経験者や農業ジャーナリストらがブログなどで問題点を指摘し、地方議会からも慎重な審議を求める意見書が可決されるようになった。 「農家の経営圧迫につながる」「権利者を保護するための改正だ」 札幌市議会は、3月30日付の意見書で、農家の自家増殖の権利を著しく制限したり、許諾の手続きに負担が生じたりして、農家の経営圧迫につながる懸念もあると指摘している。 東京新聞も、問題点を追及しており、4月25日付社説では、「農業崩壊にならないか」のタイトルで、農家は民間の高価な種を毎年購入せざるをえなくなり、自給率の低下にもつながるなどと疑問を呈した。 一部の農民団体も、外資企業が日本になだれ込むといった批判をツイッターなどで繰り返し、改正に反対するネット署名運動も始まっている。 一方、種苗法改正に理解を示す声も、農業研究者やジャーナリストらから次々に寄せられている。 新しい品種の権利が侵害され海外に流出するケースがあって権利者を保護するための改正だ、国際競争力を持つ日本の種苗企業に対してその開発力を育てる発想が必要になる、といった意見だ。 こうした声が柴咲さんのツイッターにも寄せられ、柴咲さんは、前出のツイートを削除したうえで、「何かを糾弾しているのではなく、知らない人が多いことに危惧しているので触れました」と説明した。 そして、「きちんと議論がされて様々な観点から審議する必要のある課題かと感じました」としている。 農水省「国内からの持ち出しを止めるための非常に重要な改正」 農家が窮地になるとの批判に対し、農水省の知的財産課は5月1日、J-CASTニュースの取材にこう反論した。 「プロが作った種で品質が下がるのを止めることが可能で、むしろ産地形成にプラスになります。 農業を発展させるための改正ですので、農業崩壊はしないと考えています。 許諾などの手続きが煩雑になる懸念は確かにありますので、煩雑さをできるだけ少なくしたいです。 一般品種については自家増殖できますので、誤解が解ければ反対する理由はないのではと思っています」 そのうえで、種苗法改正の意義をこう説明した。 「国内からの持ち出しを止めるための非常に重要な改正であり、もちろん海外での品種登録も進めたいと考えています。 日本の品種は、海外に比べても優れていますので、外資企業などから高価な種を買わないといけないということは考えられません。 海外に負けない品種を作るためのモチベーションになりますので、制限しないことは逆に外資の攻勢を許すことにもつながります」 (J-CASTニュース編集部 野口博之).
次の現在、柴咲のツイートは削除されているが、「これは、他人事ではありません。 自分たちの食卓に直結することです」とあったことから、SNSで大きな議論を呼んだ。 種苗法とは、一体どのような内容なのか。 まず、種苗とは、植物の種や苗のことを指す。 誰でも知っている「コシヒカリ」をはじめ、農作物にはさまざまなブランドがある。 このブランドを守ろうというのが「種苗法」の根本だ。 勝手に栽培されないように、勝手に外国に持ち出されないようにするため、今回、法改正が目指された。 日本が誇る品種は、これまで数多く海外流出している。 「シャインマスカット」や「とちおとめ」は、すでに韓国や中国で栽培されている。 2018年2月の平昌五輪で、カーリング女子日本代表が韓国のイチゴを食べる場面が話題になったが、当時の斎藤健農水相は「日本から流出した品種をもとに、韓国で買われたものだ」と指摘している。 つまり、日本の財産が勝手に持ち出された、ということだ。 今回の法改正で大きく変わるのは2つある。 1つは、新品種を登録する場合、輸出先や栽培地域を自分で決定できること。 これにより、意図しない海外流出が防げる。 もう1つが、柴咲が「日本の農家が窮地に立たされる」と指摘した自家採種の禁止。 農作物を育てれば、当然、種ができる。 その種を再び使う場合、開発者に許諾が必要になるのだ。 このため、農家は種や苗のコストが余分にかかってしまう。 ただし、禁止される品種はコメの16%、みかんの2%、ぶどうの9%程度で、残りは自由に自家採種してかまわない。 具体的には、お米の「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「あきたこまち」はOKだが、「ゆめぴりか」は許可がいるということだ。 種苗法改正案に対し、当事者はどのような見方をしているのか。 賛成と反対の意見を聞いてみた。 「私自身、『マスカットジパング』という新品種のぶどうを作った経験がありますが、開発には10年かかりました。 品種登録の手続きは膨大ですし、その権利を守ることは容易ではありません。 新品種の開発には、ものによっては数千万円、数億円かかるんです。 それでも、果樹の民間育種では、利益は数十万程度。 100万円を超えて返ってくるケースはほとんど見たことがありません。 現状、育種家の方で、開発にかかった費用を回収できている人は、民間では少ないでしょう。 私自身、育種の恩師から『育種をすると貧乏になる』と言われたこともありました。 農業の生産現場は共支えです。 育種によって、環境の変化に対応したり、生産管理しやすい品種を開発すれば、生産現場はコストダウンできて、リスクを減らして生産できる。 育種する人間と生産する人間が揃ってこそ、初めてお互いに利益を生み出せるんです。 そういった意味で、今回の法改正は、育種家サイドに今よりも適切な利益をもたらしながら、いい意味での自由競争を促そうとしているものだと考えています」 柴咲に対して、ツイッターで「アーティストの楽曲をパクってもコピーしてもいいってことかな」といったコメントがあったが、要は、農作物の著作権を認めてほしい、という立場なのだ。 「新型コロナの影響で、海外では食糧の輸出を禁止し始めています。 たとえばロシアは、6月末まで穀物の輸出停止を表明しています。 世界で特に小麦は状況が厳しく、スパゲッティの生産もままならなくなってきた。 日本では、家畜のエサとなるトウモロコシも大豆もはほとんど輸入ですから、これらが今後入ってこなくなれば、日本で家畜を育てることも難しくなるでしょう。 今までは輸入に頼ってきたし、これからもどんどん頼っていく方針でした。 しかし、今後これまでどおりに輸入ができるかは不透明です。 そのために、自家増殖の禁止などせず、国内の農家が自由に生産できるようにすべきです。 そして、外国人観光客が戻ってくれば、日本の種の価値が上がってくる。 種を育成するための助成をおこない、地域を活性化していく施策を進めるべきなんです」 白井さんが、種苗法改正では日本の品種を守れないと考えるのは理由がある。 それは、農水省に日本の農業を守る意思が感じられないからだ。 「今回の種苗法改正案は、2017年の『種子法』の廃止とセットで考えなければいけないんです。 種子法の廃止で、公的機関による種苗事業が民間に移され、種子の開発が止まりました。 同時に、『農業競争力強化支援法』により、日本の財産である種苗を、外国企業も含めた民間企業に提供を促すことが決まったんです。 そこにきて、今回の種苗法改正案です。 自家採取に規制をかければ、国内の自由な生産が抑制され、日本の農業は衰退する一方です。 でも、政府としたら、日本の種子を日本企業や海外企業に買ってもらって、海外で生産してもらえばいい。 海外の大規模な生産でより大きな利益が出ますから」 SNSでは、種苗法改正で「海外企業に日本の農業が乗っ取られる」という意見が頻出した。 たとえば、海外の種子メーカーが、最初は安く種子を売り、その後、一気に値段を上げたとしても、農家はそれを買うしかない。 実際に海外では、農民が種子メーカーに隷属するような状況も起きている。 賛成派の林さんは、「実際問題、僕らも苗が売れなければ収入はない。 苗の値段を法外に引き上げることにはならないと考えています。 農業も、市場原理のなかで動いていますから」と話す。 現実には種苗法で日本の種子は守れない」とも話す。 賛成派の林さんも「コストを考えれば、裁判なんかやらないだろう」との意見だ。 実は、林さんも白井さんも、「日本の農業力を高めたい」という思いは一緒なのだ。 「農業は、平均年齢が60代、70代になってしまうような業界です。 国内で生産を完結させるためにも、新規就農者が少ない現状を変え、ほかの業種からの参入も含めた振興が必要だという国の意図を、種子法廃止から一連の法改正で感じています。 今の状況が10年続けば、日本の農業人口はおそらく10分の1になってしまう。 そうなったとき、国民全員の食料を担保できるのか、僕は非常に疑問です」(林さん) 「農業人口は高齢化していますし、近年は異常気象も著しい。 リスクを減らすという意味で、もう一度国内の生産力を高めることが大事になってくるでしょう」(白井さん) 目指す地点は一緒だが、賛成派と反対派の議論がかみ合わないのは、この法案がほとんど国民の間で議論されてこなかったからだ。 柴咲コウも、「賛成、反対だけでなく、その間にある声も聞きながらベストを探っていく。 その時間が必要だと思うのです」とツイートしている。 政府は、通常国会の会期を延長しない方針を固めたため、今国会での種苗法改正は絶望的となった。 次の国会まで、「ベストを探っていく」ような議論を深めたい。
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