今回は、新しい取り組みについてお話ししようと思います。 今、この研究室では、農産物の保存に関する研究に力を入れているところです。 ここで言う農産物とは、野菜や果物のことです。 冷凍の野菜というのは、スーパーでも目にすることがありますよね? 例えば、トウモロコシやニンジンなどを含むミックスベジタブル、ブロッコリー、枝豆なんかも冷凍食品であります。 ですが、すべての野菜や果物が冷凍で売られているわけではありません。 というのも、冷凍保存できる農産物は、今のところ数が限られているからです。 特に冷凍が難しいのは、イチゴや桃、それに葉もの野菜です。 例えばイチゴを冷凍して解凍すると、色が悪くなり、ドリップと呼ばれる汁が出てきて軟らかくなってしまいます。 そういう冷凍が難しい農産物を、どうすれば冷凍保存できるようになるかという研究をしています。 実際に当研究室では2つの方法を実験したのですが、その内のひとつは、浸透圧脱水凍結法というものになります。 例えば、水を凍らせて氷にすると、膨張して体積が増加しますよね。 それは農産物に含まれる水分も同じで、農産物を凍らせると、細胞の中に入っている水が膨張して細胞膜や細胞壁を壊し、結果、解凍したときに、先ほどのイチゴの例で挙げたようなドリップと呼ばれる汁が出た状態になり、軟らかくなってしまうんです。 そこで農産物の中から水分を抜いて凍らせてみようと取り組んだのが、浸透圧脱水凍結法を用いた研究です。 具体的には、濃度30%、40%、50%のスクロース溶液(砂糖水)を用意し、それぞれの中に1cm程度に切ったニンジンやキュウリのサンプルを入れて、5時間脱水し、その後、表面の砂糖水を0. その後、解凍して0. ニンジンの場合は、この方法で解凍後の軟化を防ぐことができたのですが、ニンジンと構造の異なるキュウリでは、まったく違う結果が出たんです。 レオメーターという機械を使って、サンプルの軟らかさや硬さ、つまり食感などのテクスチャーについて調べたところ、破断強度という細胞壁に関わるものは、凍結時間の長さに関係なく、一度凍ると、どれほど時間が経っても大きく変わらないということがわかりました。 また、濃度の高い砂糖水で脱水したものほど、破断強度が上がっていくことも判明しました。 一方で、初期弾性率という細胞膜に関わるものは、どちらの温度下でも低下していました。 また、この実験では驚くべき結果が出ています。 ですから、何か適切な凍結速度というものがあるのかもしれないと思って調べているところです。 もうひとつは、ガスハイドレートを利用したものです。 水の中にニンジンを入れ、そこにXe(キセノン)という不活性ガスを加圧して入れると、Xeが溶液内に入って行き温度を下げると、Xeを中心に氷のような結晶状態をつくります。 結晶状態になると、いろいろなものの動きが止まりますから、凍結状態と同じようになります。 ですからこの場合のニンジンも、Xeを使って凍結させた状態となったわけです。 それがガスハイドレートを用いた実験です。 この実験でも、サンプルの破断強度と初期弾性率について測定しました。 生鮮のニンジン、Xeガスを入れていないニンジン、Xeにかけた圧力が0. 4MPaのもの、0. 7MPaのものと、計4つのサンプルを用意し、それぞれ物性を比較したんです。 ちなみに、かけた圧力が大きいほど、Xeの量が多いことを意味しています。 比較の結果、Xeの圧力の違いは、それほど大きく食感などのテクスチャーに影響しないことと、Xeを使ったほうが使わないより結果がよいということがわかりました。 また破断強度については、Xeハイドレートしたものが、生鮮のニンジンの数値と近い値になったので、効果があると明らかにできました。 一方で初期弾性率は生鮮のものよりかなり落ちました。 また、0. 4MPaのほうが0. 7MPaより初期弾性率が生鮮のニンジンに近く、結果としてよかったということもわかっています。 今のところ、こういう形で結果が得られているので、今後、さらに研究を進めていくつもりです。 また、Xeは値段的に高いという問題があるので、こうした基礎研究に用いてメカニズムを解明した後、将来的には二酸化炭素など安価な気体を使って実用化していこうと考えています。 いずれにしても、まだ色々とブレイクスルーしなければならない部分がたくさんあって、最終目標であるイチゴや桃を保存するところまでは、ほど遠い状況です。 しかし、それが実現できれば、一年中、おいしいイチゴや桃が食べられるようになります。 私自身、桃が大好きで、一年中食べたいと思っているので(笑)、なんとか実現できるように挑戦を続けていきたいですね。 当初は、酵素の常温保存について研究をしていました。 酵素は一般的に室温に置いておくと不安定になるため、冷凍保存や冷蔵保存をしています。 また、酵素は幅広い分野で活用されているものです。 例えば医療分野においては、血糖値の高低を診断するのに、酵素反応を使って測定するなど診断薬として使用されています。 そういう酵素をもし常温で保存できるようになれば、砂漠や戦地、災害地など、冷蔵庫がないところにも持って行けるので、さまざまな医療活動ができますよね。 ですから、常温保存できるということは、すごく重要な技術ではあるんです。 その研究に取り組んだ後に、クマムシの研究を始めました。 そうすると、生物として最強になるのです。 何が最強かというと、10年くらいそのまま放っておいても生きているし、液体窒素をかけてもX線を照射しても生きていられるんです。 そして、水をかけてやると、乾燥状態から解かれて元に戻り、生命活動を再開します。 そこで、どのようにしてクマムシ自体が保存されているのか、そのメカニズムを解明しようと研究をしてきましたが、謎のままです。 そこから最近、野菜や果実の保存へと移ってきたという流れです。 ですから扱う対象は違っていますが、大きくは保存に関する研究をしてきたということになります。 研究室では、ハチミツの物性に関する基礎研究も行ってきました。 ハチミツの大もとである花の蜜はショ糖で、それを蜜蜂が吸って体内でグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)の2つに分解し、80%くらいの糖水溶液にするわけです。 それがハチミツです。 単純に考えるとその糖水溶液は、室温で結晶化しそうなものなのですが、冬にならないとあまり結晶化しませんよね。 ハチミツの中には、アミラーゼやインベルターゼという酵素が入っていて、安定的に存在しています。 ですからハチミツには、もしかしたら酵素を安定的に保存させる能力があるのかも知れないと私は睨んでいて、それを使ってハチミツの中で人間に必要な酵素を安定的に常温保存できないかと考えています。 それによって、例えば食後、リパーゼやプロテアーゼなどの消化酵素を保存したハチミツを舐めることで、消化を助けるというようなことができないかと。 今、その実験方法について、考えているところです。 この研究は、昨年始めたところで、データ的にはまだうまくいっていません。 この研究も大きく言えば保存シリーズですが、今後はこのハチミツを利用した保存について、ちょっと力を入れて研究を進めていこうかと思っています。
次の今回は、新しい取り組みについてお話ししようと思います。 今、この研究室では、農産物の保存に関する研究に力を入れているところです。 ここで言う農産物とは、野菜や果物のことです。 冷凍の野菜というのは、スーパーでも目にすることがありますよね? 例えば、トウモロコシやニンジンなどを含むミックスベジタブル、ブロッコリー、枝豆なんかも冷凍食品であります。 ですが、すべての野菜や果物が冷凍で売られているわけではありません。 というのも、冷凍保存できる農産物は、今のところ数が限られているからです。 特に冷凍が難しいのは、イチゴや桃、それに葉もの野菜です。 例えばイチゴを冷凍して解凍すると、色が悪くなり、ドリップと呼ばれる汁が出てきて軟らかくなってしまいます。 そういう冷凍が難しい農産物を、どうすれば冷凍保存できるようになるかという研究をしています。 実際に当研究室では2つの方法を実験したのですが、その内のひとつは、浸透圧脱水凍結法というものになります。 例えば、水を凍らせて氷にすると、膨張して体積が増加しますよね。 それは農産物に含まれる水分も同じで、農産物を凍らせると、細胞の中に入っている水が膨張して細胞膜や細胞壁を壊し、結果、解凍したときに、先ほどのイチゴの例で挙げたようなドリップと呼ばれる汁が出た状態になり、軟らかくなってしまうんです。 そこで農産物の中から水分を抜いて凍らせてみようと取り組んだのが、浸透圧脱水凍結法を用いた研究です。 具体的には、濃度30%、40%、50%のスクロース溶液(砂糖水)を用意し、それぞれの中に1cm程度に切ったニンジンやキュウリのサンプルを入れて、5時間脱水し、その後、表面の砂糖水を0. その後、解凍して0. ニンジンの場合は、この方法で解凍後の軟化を防ぐことができたのですが、ニンジンと構造の異なるキュウリでは、まったく違う結果が出たんです。 レオメーターという機械を使って、サンプルの軟らかさや硬さ、つまり食感などのテクスチャーについて調べたところ、破断強度という細胞壁に関わるものは、凍結時間の長さに関係なく、一度凍ると、どれほど時間が経っても大きく変わらないということがわかりました。 また、濃度の高い砂糖水で脱水したものほど、破断強度が上がっていくことも判明しました。 一方で、初期弾性率という細胞膜に関わるものは、どちらの温度下でも低下していました。 また、この実験では驚くべき結果が出ています。 ですから、何か適切な凍結速度というものがあるのかもしれないと思って調べているところです。 もうひとつは、ガスハイドレートを利用したものです。 水の中にニンジンを入れ、そこにXe(キセノン)という不活性ガスを加圧して入れると、Xeが溶液内に入って行き温度を下げると、Xeを中心に氷のような結晶状態をつくります。 結晶状態になると、いろいろなものの動きが止まりますから、凍結状態と同じようになります。 ですからこの場合のニンジンも、Xeを使って凍結させた状態となったわけです。 それがガスハイドレートを用いた実験です。 この実験でも、サンプルの破断強度と初期弾性率について測定しました。 生鮮のニンジン、Xeガスを入れていないニンジン、Xeにかけた圧力が0. 4MPaのもの、0. 7MPaのものと、計4つのサンプルを用意し、それぞれ物性を比較したんです。 ちなみに、かけた圧力が大きいほど、Xeの量が多いことを意味しています。 比較の結果、Xeの圧力の違いは、それほど大きく食感などのテクスチャーに影響しないことと、Xeを使ったほうが使わないより結果がよいということがわかりました。 また破断強度については、Xeハイドレートしたものが、生鮮のニンジンの数値と近い値になったので、効果があると明らかにできました。 一方で初期弾性率は生鮮のものよりかなり落ちました。 また、0. 4MPaのほうが0. 7MPaより初期弾性率が生鮮のニンジンに近く、結果としてよかったということもわかっています。 今のところ、こういう形で結果が得られているので、今後、さらに研究を進めていくつもりです。 また、Xeは値段的に高いという問題があるので、こうした基礎研究に用いてメカニズムを解明した後、将来的には二酸化炭素など安価な気体を使って実用化していこうと考えています。 いずれにしても、まだ色々とブレイクスルーしなければならない部分がたくさんあって、最終目標であるイチゴや桃を保存するところまでは、ほど遠い状況です。 しかし、それが実現できれば、一年中、おいしいイチゴや桃が食べられるようになります。 私自身、桃が大好きで、一年中食べたいと思っているので(笑)、なんとか実現できるように挑戦を続けていきたいですね。 当初は、酵素の常温保存について研究をしていました。 酵素は一般的に室温に置いておくと不安定になるため、冷凍保存や冷蔵保存をしています。 また、酵素は幅広い分野で活用されているものです。 例えば医療分野においては、血糖値の高低を診断するのに、酵素反応を使って測定するなど診断薬として使用されています。 そういう酵素をもし常温で保存できるようになれば、砂漠や戦地、災害地など、冷蔵庫がないところにも持って行けるので、さまざまな医療活動ができますよね。 ですから、常温保存できるということは、すごく重要な技術ではあるんです。 その研究に取り組んだ後に、クマムシの研究を始めました。 そうすると、生物として最強になるのです。 何が最強かというと、10年くらいそのまま放っておいても生きているし、液体窒素をかけてもX線を照射しても生きていられるんです。 そして、水をかけてやると、乾燥状態から解かれて元に戻り、生命活動を再開します。 そこで、どのようにしてクマムシ自体が保存されているのか、そのメカニズムを解明しようと研究をしてきましたが、謎のままです。 そこから最近、野菜や果実の保存へと移ってきたという流れです。 ですから扱う対象は違っていますが、大きくは保存に関する研究をしてきたということになります。 研究室では、ハチミツの物性に関する基礎研究も行ってきました。 ハチミツの大もとである花の蜜はショ糖で、それを蜜蜂が吸って体内でグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)の2つに分解し、80%くらいの糖水溶液にするわけです。 それがハチミツです。 単純に考えるとその糖水溶液は、室温で結晶化しそうなものなのですが、冬にならないとあまり結晶化しませんよね。 ハチミツの中には、アミラーゼやインベルターゼという酵素が入っていて、安定的に存在しています。 ですからハチミツには、もしかしたら酵素を安定的に保存させる能力があるのかも知れないと私は睨んでいて、それを使ってハチミツの中で人間に必要な酵素を安定的に常温保存できないかと考えています。 それによって、例えば食後、リパーゼやプロテアーゼなどの消化酵素を保存したハチミツを舐めることで、消化を助けるというようなことができないかと。 今、その実験方法について、考えているところです。 この研究は、昨年始めたところで、データ的にはまだうまくいっていません。 この研究も大きく言えば保存シリーズですが、今後はこのハチミツを利用した保存について、ちょっと力を入れて研究を進めていこうかと思っています。
次の空中栽培 スカイファームのいちごは『空中栽培』で育てています。 果実が地面に接触しないようにすることで、土からの害虫がつきにくく農薬の使用回数を減らすことができます。 また、いちごは皮が無いので痛みやすいのですが、宙に浮かせることで傷もつきにくく、美しいいちごに育ちます。 昆虫のおかげ 花の受粉はミツバチに働いてもらいます。 ダニやアブラムシ(アマコ)を食べる天敵昆虫も飼っています。 自然と同じような環境を作ることで、農薬を減らすことができます。 太陽と気温 寒い冬でも二重にハウスを覆わず、太陽光をしっかり浴びせるため真っ赤に色付きます。 夜は低温にあわせることにより昼夜の温度差を大きくし、よくしまったコクのある美味しい果実を作っています。 完熟朝採り 昼間葉っぱいっぱいに太陽の光をあびて作られた栄養分が、夕方から夜にかけてゆっくりと転流し、朝日を浴びる頃にいちごはパンパンに膨らみます。 スカイファームの『完熟朝採りいちご』は、1日のうちで1番艶と張りのある状態の早朝に収穫し、その日のうちにお届けしています。 枝付月 果物の中でも特にデリケートないちご。 手間と時間はかかりますが、傷つけてしまわないよう全て枝つきで収穫しています。 果実に触れることなく収穫が出来るので傷が少なく、見た目も華やか、鮮度も長持ちします。
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