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涼海の丘ワイナリー

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奥野田ワイナリーの挑戦:なぜヨーロッパのワイン産地とは対照的な山梨で高品質のワインが作れるのか? : 富士通マーケティング

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2016年04月15日更新 「富士通GP2020ワインファーム」とは? 富士通グループでは現在、富士通株式会社が主催する「富士通GP2020ワインファーム」と呼ばれる社外活動に取り組んでおります。 「お客様・社会全体への貢献」「自ら変革」「ビジネスと生物多様性イニシアチブ」という3つの目標を掲げており、現在富士通グループではその達成に向けてさまざまな活動を展開しており、富士通GP2020ワインファームの活動も、その活動の一環となります。 2010年より、山梨県甲州市のワイナリー「奥野田葡萄酒醸造株式会社」(以下、奥野田ワイナリー)と提携し、葡萄園の一角の専用エリアでワイン用葡萄の国際品種「カベルネ・ソーヴィニヨン」の栽培にチャレンジしています。 これまでのところ、毎年無事に収穫を迎えており、この葡萄を使ったワイン「富士通GP2020ワイン」も製造されています。 毎年のように、富士通グループの多くの従業員やその家族が奥野田ワイナリーに足を運び、葡萄栽培の作業を体験したり、あるいは現地の食材を使った料理やワインに舌鼓を打つなど、都会ではなかなかできない貴重な体験を通じて日ごろの疲れを癒したり、あるいは環境保護や地域貢献への意識を高めています。 またそれだけではなく、近年では奥野田ワイナリーの葡萄園に温度や湿度などを自動計測するデバイスを設置し、より葡萄栽培の効率を高めようという農業ICTの先進事例としての取り組みも始まっています。 ひょんなことから転がり込んできたワイン醸造所経営のチャンス 東京農業大学で微生物学を専攻した中村社長は大学卒業後、地元の山梨県に帰郷してワインメーカーに就職。 製造部で日々ワイン作りに没頭していた中村社長に、ひょんなことから「ワイン醸造所を丸ごと任せたい」というオファーが飛び込んできたのが、1989年のことでした。 「奥野田ワイナリーの前身は、地元の葡萄農家がそれぞれ葡萄を持ち寄ってワインを醸造して、自分たちで飲んで楽しむための、いわば地元の『集会所兼ワイン醸造所』のような施設だったのです。 しかし、葡萄農家がどこも軒並み高齢化し、醸造所の維持が困難になってきたことから、まだ若かった私のところに『醸造所の譲渡を受けないか?』という声が掛かったというわけです」(中村社長) 千載一遇のチャンスと見た中村社長はこのオファーを受け、ワインメーカーの一従業員から、ワイン醸造所の若きオーナーへと転身を遂げます。 その後10年間、近隣の葡萄農家から供給される在来種の葡萄を使ってワインを製造してきましたが、やがて危機感を感じるようになってきたといいます。 「葡萄農家には後継ぎが現れず、高齢化が進むばかり。 一方で、ヨーロッパ産にも負けない高品質なワインを作るには、在来種の葡萄だけではなく、国際品種の葡萄を栽培する必要性を痛感していました。 また、山梨をワイン産地として世に認知させるためにも、国際品種の栽培は不可欠だと考えました」(中村社長) そこで中村社長は1999年、従来のワイン醸造所の機能に加え、自身でも葡萄園を運営して葡萄栽培にも乗り出すことにしました。 葡萄栽培を始めてすぐ、中村社長は農家が高齢化する原因の一端を知ったといいます。 「単に葡萄を栽培・収穫し、それを商品として売るだけでは、到底採算が取れないことが分かりました。 もともと山梨は中山間地域で、広い平野を持つ地域に比べれば農業の生産性は極めて低い。 これでは、若い人が農業に参入したがらないのも無理はないと思いました」(中村社長) そこで思い付いたのが、都会で働く人々に対して、農業体験をサービスとして提供するビジネス、いわゆる「都市交流型農業」でした。 もともと、都内に住むワイン愛好家と交流が深く、週末にはそうした人々を農園に招いて栽培の体験会や食事会を開いていた中村社長。 こうした活動を有料サービス化することで、葡萄栽培の採算が好転するのではと考えたのです。 この目論見は見事に的中し、このサービスは瞬く間にワイン愛好家の間で評判を呼びました。 これを聞きつけた山梨県庁の農政部の担当者が、富士通の環境本部に「山梨県のワイナリーで、こんなユニークなサービスを提供していますよ」と紹介したのが、奥野田ワイナリーと富士通グループとの出会いでした。 富士通グループにとって、奥野田ワイナリーが提供するサービスは、従業員に対する福利厚生としてはもちろん、環境保護や地域貢献、生物多様性の維持などの意識を向上させる意味でも、大いに魅力的だったのです。 こうして2010年より、富士通グループは奥野田ワイナリーと提携し、富士通GP2020ワインファームの活動を始めました。 ヨーロッパとは正反対の山梨の地理的条件がなぜワイン作りに適しているのか? ところで、山梨県は葡萄や桃など果物の名産地としてよく知られていますが、現地で採れた葡萄を使ったワインも近年、ワイン愛好家から高い評価を得ているのです。 その裏には、中村社長をはじめとする地元の農家、ワイン醸造家の「ヨーロッパ産ワインに追い付け、追い越せ」というたゆまぬ努力の積み重ねがあることは言うまでもありません。 さらにもう1つ、山梨県の地政学的な特徴がワイン作りに適している点も、近年科学的に明らかになりつつあるといいます。 ちなみに、ヨーロッパ産のワインがおいしい理由として、「石灰土壌」「少ない雨量」「痩せた大地」という3つの地理的条件がよく挙げられます。 一方で、山梨県は石灰土壌ではなく、雨量は多く、土地も肥沃。 つまり、前述の3条件にまったく合致していないのです。 にもかかわらず、山梨県の葡萄がワイン作りに適しているのは、なぜなのでしょうか? 「ヨーロッパは土地が痩せていて雨が少ないが故に、葡萄の木はもっと豊かな土地へ移動するために実の糖度を上げ、動物により好んで食べてもらおうとしているのです。 こうして実った葡萄で作ったワインは、とても味わいが深くなります。 一方、山梨県の土地は肥沃で雨量も多いので微生物が多く繁殖し、栄養分を横取りしてしまうのです。 その結果葡萄の木は栄養不足となり、ヨーロッパの葡萄と同様に実の糖度を高めてほかの土地に移動しようとしているのです」(中村社長) ヨーロッパと山梨県。 地理学的にはまったく正反対の特徴を持ちながらも、結果的には葡萄の木に「ほどよいストレス」がかかることにより、実の糖度が高まる点は同じだというわけです。 中村社長は微生物学の専門家としての見地から、このことが山梨県がワインの産地に適している最大の理由だと指摘します。 自然の力を最大限生かしてじっくり時間をかけて作るワイン ちなみに、ワイン用の葡萄の木は一般的な食用の葡萄栽培とは異なり、かなり密集して植えられています。 これもまた、ワインの品質を高めるために、葡萄の木に「ほどよいストレス」を与えるための工夫の1つだといいます。 葡萄の木は一般的に、より多く水分を吸収するために、できるだけ広く根を張ろうとします。 しかし、木と木の間隔が狭いと、葡萄の木は隣の木の根の存在をストレスに感じ、やむなく横ではなく下へ下へと根を張っていきます。 すると、根は地表近くの雨水ではなく、地下深くにある地下水を吸収することになります。 地下水は雨水とは異なり、ミネラルを多く含んでいます。 実はこのミネラル成分が、ワイン作りにおいて重要な役割を演じるのです。 「ミネラルを多く含む葡萄果汁は酸化しにくいため、酸化防止剤を多く用いる必要がありません。 酸化防止剤は、人体の健康に影響を与えるものではありませんが、葡萄の実の皮にくっついて畑から葡萄工場に運ばれてきた酵母には大きなダメージを与えてしまいます。 もちろん、こうした野生の酵母だけではなく、工場で専用の酵母を添加すればワインの発酵は十分可能ですし、むしろ発酵にかかる時間は短く済みます。 しかし、私たちは野生の酵母をなるべく生かして、時間をかけてじっくり発酵させるワイン作りにこだわっています。 こうして作ったワインは、明らかに味わいや余韻が違ってくるのです」(中村社長) ヨーロッパ産にも負けないワイン作りを目指す奥野田ワイナリーのこだわりは、こうした工場における製造工程1つ1つにおいても徹底されているのです。 農薬散布を最小限に抑えることで微生物パワーを最大限に生かす ここまで見てきたように、微生物学の専門家である中村社長が手掛ける奥野田ワイナリーの葡萄栽培は、天然の微生物の恵みを最大限活用することに主眼を置いています。 このことは、農薬散布の方法にも表れています。 農薬を多く散布すれば、畑や作物を病害や害虫からより確実に守ることができます。 しかしその代償として、畑に住む天然の微生物に大きなダメージを与えてしまいます。 そのため、奥野田ワイナリーでは農薬散布の回数を最小限に抑えています。 中村社長によれば、このことが高品質なワインを作るためにはもちろんのこと、農作物全般にとっていい影響を与えるのではないかと述べます。 「微生物の存在が知られるようになって、まだ200年ほどしか経っていませんが、ようやく微生物が農作物の味や品質に与える影響が明らかになってきました。 しかし昔の人は当然のことながら、微生物の存在など知らなかったはずですし、現代のように科学的な分析を行う手段も持ち合わせていませんでした。 にもかかわらず、微生物や食品の研究をしていると、『ひょっとしたら農薬のない時代に生まれた人々の方が、現代よりおいしいものを食べていたのではないか?』と思い当たることがあるのです」(中村社長) とはいえ、農薬を一切使わないとなると、最悪の場合「病害で畑が全滅」「その年の収穫はゼロ」ともなりかねません。 そうしたリスクを回避しながら農業経営を継続させていくためには、やはり農薬にはある程度頼らざるを得ないのも事実です。 そこで中村社長らは現在、昔の人々と同じように大地の豊かな恵みを享受しつつ、同時に病害や害虫のリスクも最小化できる方法はないか模索しています。 そしてそのための強力な武器として期待されているのが、富士通グループのICT技術なのです。 葡萄園に設置したセンサー機器で病害の危険性をいち早く察知 冒頭でも紹介したように、奥野田ワイナリーの葡萄園内には現在、富士通製のセンサー機器が設置されており、温度や湿度、雨量、カメラで撮影した静止画などのデータを10分おきに取得しています。 これらの計測データは、機器に設置された無線デバイス(子機)から、無線を通じて事務所内に設置されている親機に送られ、さらにそこからインターネットを通じて富士通が運用しているクラウドサーバにアップロードされています。 中村社長をはじめ、奥野田ワイナリーのスタッフは、スマートフォンからインターネット経由でこのクラウドサーバにアクセスすることで、いつどこにいても畑の最新の状態をリアルタイムで把握できるというわけです。 この取り組みは現在、農業ICTの先進事例として各方面から注目を集めていますが、そもそもの目的は、実は別のところにあったそうです。 「葡萄の栽培にとって、気温は極めて大事な要素です。 実は山梨県の気温は葡萄栽培に極めて適しているのですが、残念ながらそのことがあまり知られておらず、ワイン産地としてまだまだ認知されていないのが現状です。 そこで、機器を使って計測した客観的な気温データを示すことで、山梨をワイン産地として広く認知してもらおうと考えたのです」(中村社長) 富士通の環境本部では、この中村社長のアイデアに応えるべく、早速葡萄園内にセンサー機器を設置しました。 当初は1台のみの設置でしたが、ほどなくしてさまざまな効果が見込めることが判明したといいます。 「湿度と温度の両方が高い状態が続くと、畑にはカビ系の病害が発生しやすくなります。 そのため、湿度と温度の動向には常に気を配る必要があるのですが、たまたま目を離して家でくつろいでいる隙にそうした天候に見舞われ、病害が一気に広がってしまう危険性もあります。 しかし、私たちが導入した仕組みでは、いつどこにいても常に畑の状態をリアルタイムで確認できますから、いち早く危険を察知して先手を打つことができます。 このおかげで、山梨全域の畑が病害にやられた年でも、私たちの葡萄園だけは例年通りの収穫をあげることができました」(中村社長) ビッグデータ分析で畑に迫る危機の予兆を早期に検知 こうして、畑に迫る危機をいち早く察知できるようになったことで、奥野田ワイナリーでは農薬散布の回数が劇的に減りました。 いつ病害に見舞われるか分からない状況下では、どうしても安全マージンを取るために定常的に農薬を散布せざるを得ません。 しかし、このセンサー機器の導入で危機の到来をいち早く察知できるようになったことで、本当に必要なときだけピンポイントで散布すれば済むようになったといいます。 「こうした取り組みを続け、計測データが年々蓄積されてくると、本当に危機的な状況は1年のうちにせいぜい3、4回しかないことが分かりました。 このタイミングできちんと対処さえできれば、常に農薬を散布し続ける必要はないのです。 これは蓄積したデータを後から分析してみて分かったことですが、実は日本は、農作物の栽培に極めて適した土地柄だということを改めて実感しました」(中村社長) そして現在、この取り組みはさらなる進化を遂げつつあります。 これまで蓄積してきた5年分の計測データを、富士通の社員が解析することで、より早い段階で危機の予兆を検知し、通知するシステムが実現しています。 具体的には、危機の予兆となるデータパターンが計測されると、農園スタッフのスマートフォンにその旨がメール通知されるようになっています。 この取り組みは、先進的な農業ICTの事例として脚光を浴びているだけでなく、2015年6月には数値解析の学会で事例発表を行うなど、さまざまな企業、団体、省庁から高い注目を集めています。 中村社長も、この取り組みが「日本のワイン作りだけでなく、農業全体にとって有益なものになってくれれば」と抱負を述べます。 「リスクの予知が可能になれば、農薬散布などのコストや手間を減らしながら、収穫を維持できるようになります。 また、農業への新規参入リスクもかなり低減できますから、多くの農家の悩みの種である『後継者問題』にも解決の糸口が見付かるのではないかと期待しています」(中村社長) 2016年ヴィンテージのぶどう収穫とワイン作りに向けて ちなみに富士通GP2020ワインファームの活動は、例年、以下のようなスケジュールで行われています。 11月 予備剪定 既に2015年ヴィンテージの葡萄の収穫は無事終わり、後はワインの出来上がりを待つばかりとなっています。 そして年明け早々から、また2016年ヴィンテージの新たな葡萄栽培がスタートします。 「ICTのmikata」では今後も、この富士通GP2020ワインファームの活動を折に触れて紹介していければと考えています。 なお、富士通グループではこのほかにも、さまざまな環境保護活動、社会貢献活動に力を入れています。 こうした活動についても、今後は積極的に紹介していく予定です。

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社会貢献活動からICT農業まで 富士通と奥野田ワイナリーの“マリアージュ”

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2016年04月15日更新 「富士通GP2020ワインファーム」とは? 富士通グループでは現在、富士通株式会社が主催する「富士通GP2020ワインファーム」と呼ばれる社外活動に取り組んでおります。 「お客様・社会全体への貢献」「自ら変革」「ビジネスと生物多様性イニシアチブ」という3つの目標を掲げており、現在富士通グループではその達成に向けてさまざまな活動を展開しており、富士通GP2020ワインファームの活動も、その活動の一環となります。 2010年より、山梨県甲州市のワイナリー「奥野田葡萄酒醸造株式会社」(以下、奥野田ワイナリー)と提携し、葡萄園の一角の専用エリアでワイン用葡萄の国際品種「カベルネ・ソーヴィニヨン」の栽培にチャレンジしています。 これまでのところ、毎年無事に収穫を迎えており、この葡萄を使ったワイン「富士通GP2020ワイン」も製造されています。 毎年のように、富士通グループの多くの従業員やその家族が奥野田ワイナリーに足を運び、葡萄栽培の作業を体験したり、あるいは現地の食材を使った料理やワインに舌鼓を打つなど、都会ではなかなかできない貴重な体験を通じて日ごろの疲れを癒したり、あるいは環境保護や地域貢献への意識を高めています。 またそれだけではなく、近年では奥野田ワイナリーの葡萄園に温度や湿度などを自動計測するデバイスを設置し、より葡萄栽培の効率を高めようという農業ICTの先進事例としての取り組みも始まっています。 ひょんなことから転がり込んできたワイン醸造所経営のチャンス 東京農業大学で微生物学を専攻した中村社長は大学卒業後、地元の山梨県に帰郷してワインメーカーに就職。 製造部で日々ワイン作りに没頭していた中村社長に、ひょんなことから「ワイン醸造所を丸ごと任せたい」というオファーが飛び込んできたのが、1989年のことでした。 「奥野田ワイナリーの前身は、地元の葡萄農家がそれぞれ葡萄を持ち寄ってワインを醸造して、自分たちで飲んで楽しむための、いわば地元の『集会所兼ワイン醸造所』のような施設だったのです。 しかし、葡萄農家がどこも軒並み高齢化し、醸造所の維持が困難になってきたことから、まだ若かった私のところに『醸造所の譲渡を受けないか?』という声が掛かったというわけです」(中村社長) 千載一遇のチャンスと見た中村社長はこのオファーを受け、ワインメーカーの一従業員から、ワイン醸造所の若きオーナーへと転身を遂げます。 その後10年間、近隣の葡萄農家から供給される在来種の葡萄を使ってワインを製造してきましたが、やがて危機感を感じるようになってきたといいます。 「葡萄農家には後継ぎが現れず、高齢化が進むばかり。 一方で、ヨーロッパ産にも負けない高品質なワインを作るには、在来種の葡萄だけではなく、国際品種の葡萄を栽培する必要性を痛感していました。 また、山梨をワイン産地として世に認知させるためにも、国際品種の栽培は不可欠だと考えました」(中村社長) そこで中村社長は1999年、従来のワイン醸造所の機能に加え、自身でも葡萄園を運営して葡萄栽培にも乗り出すことにしました。 葡萄栽培を始めてすぐ、中村社長は農家が高齢化する原因の一端を知ったといいます。 「単に葡萄を栽培・収穫し、それを商品として売るだけでは、到底採算が取れないことが分かりました。 もともと山梨は中山間地域で、広い平野を持つ地域に比べれば農業の生産性は極めて低い。 これでは、若い人が農業に参入したがらないのも無理はないと思いました」(中村社長) そこで思い付いたのが、都会で働く人々に対して、農業体験をサービスとして提供するビジネス、いわゆる「都市交流型農業」でした。 もともと、都内に住むワイン愛好家と交流が深く、週末にはそうした人々を農園に招いて栽培の体験会や食事会を開いていた中村社長。 こうした活動を有料サービス化することで、葡萄栽培の採算が好転するのではと考えたのです。 この目論見は見事に的中し、このサービスは瞬く間にワイン愛好家の間で評判を呼びました。 これを聞きつけた山梨県庁の農政部の担当者が、富士通の環境本部に「山梨県のワイナリーで、こんなユニークなサービスを提供していますよ」と紹介したのが、奥野田ワイナリーと富士通グループとの出会いでした。 富士通グループにとって、奥野田ワイナリーが提供するサービスは、従業員に対する福利厚生としてはもちろん、環境保護や地域貢献、生物多様性の維持などの意識を向上させる意味でも、大いに魅力的だったのです。 こうして2010年より、富士通グループは奥野田ワイナリーと提携し、富士通GP2020ワインファームの活動を始めました。 ヨーロッパとは正反対の山梨の地理的条件がなぜワイン作りに適しているのか? ところで、山梨県は葡萄や桃など果物の名産地としてよく知られていますが、現地で採れた葡萄を使ったワインも近年、ワイン愛好家から高い評価を得ているのです。 その裏には、中村社長をはじめとする地元の農家、ワイン醸造家の「ヨーロッパ産ワインに追い付け、追い越せ」というたゆまぬ努力の積み重ねがあることは言うまでもありません。 さらにもう1つ、山梨県の地政学的な特徴がワイン作りに適している点も、近年科学的に明らかになりつつあるといいます。 ちなみに、ヨーロッパ産のワインがおいしい理由として、「石灰土壌」「少ない雨量」「痩せた大地」という3つの地理的条件がよく挙げられます。 一方で、山梨県は石灰土壌ではなく、雨量は多く、土地も肥沃。 つまり、前述の3条件にまったく合致していないのです。 にもかかわらず、山梨県の葡萄がワイン作りに適しているのは、なぜなのでしょうか? 「ヨーロッパは土地が痩せていて雨が少ないが故に、葡萄の木はもっと豊かな土地へ移動するために実の糖度を上げ、動物により好んで食べてもらおうとしているのです。 こうして実った葡萄で作ったワインは、とても味わいが深くなります。 一方、山梨県の土地は肥沃で雨量も多いので微生物が多く繁殖し、栄養分を横取りしてしまうのです。 その結果葡萄の木は栄養不足となり、ヨーロッパの葡萄と同様に実の糖度を高めてほかの土地に移動しようとしているのです」(中村社長) ヨーロッパと山梨県。 地理学的にはまったく正反対の特徴を持ちながらも、結果的には葡萄の木に「ほどよいストレス」がかかることにより、実の糖度が高まる点は同じだというわけです。 中村社長は微生物学の専門家としての見地から、このことが山梨県がワインの産地に適している最大の理由だと指摘します。 自然の力を最大限生かしてじっくり時間をかけて作るワイン ちなみに、ワイン用の葡萄の木は一般的な食用の葡萄栽培とは異なり、かなり密集して植えられています。 これもまた、ワインの品質を高めるために、葡萄の木に「ほどよいストレス」を与えるための工夫の1つだといいます。 葡萄の木は一般的に、より多く水分を吸収するために、できるだけ広く根を張ろうとします。 しかし、木と木の間隔が狭いと、葡萄の木は隣の木の根の存在をストレスに感じ、やむなく横ではなく下へ下へと根を張っていきます。 すると、根は地表近くの雨水ではなく、地下深くにある地下水を吸収することになります。 地下水は雨水とは異なり、ミネラルを多く含んでいます。 実はこのミネラル成分が、ワイン作りにおいて重要な役割を演じるのです。 「ミネラルを多く含む葡萄果汁は酸化しにくいため、酸化防止剤を多く用いる必要がありません。 酸化防止剤は、人体の健康に影響を与えるものではありませんが、葡萄の実の皮にくっついて畑から葡萄工場に運ばれてきた酵母には大きなダメージを与えてしまいます。 もちろん、こうした野生の酵母だけではなく、工場で専用の酵母を添加すればワインの発酵は十分可能ですし、むしろ発酵にかかる時間は短く済みます。 しかし、私たちは野生の酵母をなるべく生かして、時間をかけてじっくり発酵させるワイン作りにこだわっています。 こうして作ったワインは、明らかに味わいや余韻が違ってくるのです」(中村社長) ヨーロッパ産にも負けないワイン作りを目指す奥野田ワイナリーのこだわりは、こうした工場における製造工程1つ1つにおいても徹底されているのです。 農薬散布を最小限に抑えることで微生物パワーを最大限に生かす ここまで見てきたように、微生物学の専門家である中村社長が手掛ける奥野田ワイナリーの葡萄栽培は、天然の微生物の恵みを最大限活用することに主眼を置いています。 このことは、農薬散布の方法にも表れています。 農薬を多く散布すれば、畑や作物を病害や害虫からより確実に守ることができます。 しかしその代償として、畑に住む天然の微生物に大きなダメージを与えてしまいます。 そのため、奥野田ワイナリーでは農薬散布の回数を最小限に抑えています。 中村社長によれば、このことが高品質なワインを作るためにはもちろんのこと、農作物全般にとっていい影響を与えるのではないかと述べます。 「微生物の存在が知られるようになって、まだ200年ほどしか経っていませんが、ようやく微生物が農作物の味や品質に与える影響が明らかになってきました。 しかし昔の人は当然のことながら、微生物の存在など知らなかったはずですし、現代のように科学的な分析を行う手段も持ち合わせていませんでした。 にもかかわらず、微生物や食品の研究をしていると、『ひょっとしたら農薬のない時代に生まれた人々の方が、現代よりおいしいものを食べていたのではないか?』と思い当たることがあるのです」(中村社長) とはいえ、農薬を一切使わないとなると、最悪の場合「病害で畑が全滅」「その年の収穫はゼロ」ともなりかねません。 そうしたリスクを回避しながら農業経営を継続させていくためには、やはり農薬にはある程度頼らざるを得ないのも事実です。 そこで中村社長らは現在、昔の人々と同じように大地の豊かな恵みを享受しつつ、同時に病害や害虫のリスクも最小化できる方法はないか模索しています。 そしてそのための強力な武器として期待されているのが、富士通グループのICT技術なのです。 葡萄園に設置したセンサー機器で病害の危険性をいち早く察知 冒頭でも紹介したように、奥野田ワイナリーの葡萄園内には現在、富士通製のセンサー機器が設置されており、温度や湿度、雨量、カメラで撮影した静止画などのデータを10分おきに取得しています。 これらの計測データは、機器に設置された無線デバイス(子機)から、無線を通じて事務所内に設置されている親機に送られ、さらにそこからインターネットを通じて富士通が運用しているクラウドサーバにアップロードされています。 中村社長をはじめ、奥野田ワイナリーのスタッフは、スマートフォンからインターネット経由でこのクラウドサーバにアクセスすることで、いつどこにいても畑の最新の状態をリアルタイムで把握できるというわけです。 この取り組みは現在、農業ICTの先進事例として各方面から注目を集めていますが、そもそもの目的は、実は別のところにあったそうです。 「葡萄の栽培にとって、気温は極めて大事な要素です。 実は山梨県の気温は葡萄栽培に極めて適しているのですが、残念ながらそのことがあまり知られておらず、ワイン産地としてまだまだ認知されていないのが現状です。 そこで、機器を使って計測した客観的な気温データを示すことで、山梨をワイン産地として広く認知してもらおうと考えたのです」(中村社長) 富士通の環境本部では、この中村社長のアイデアに応えるべく、早速葡萄園内にセンサー機器を設置しました。 当初は1台のみの設置でしたが、ほどなくしてさまざまな効果が見込めることが判明したといいます。 「湿度と温度の両方が高い状態が続くと、畑にはカビ系の病害が発生しやすくなります。 そのため、湿度と温度の動向には常に気を配る必要があるのですが、たまたま目を離して家でくつろいでいる隙にそうした天候に見舞われ、病害が一気に広がってしまう危険性もあります。 しかし、私たちが導入した仕組みでは、いつどこにいても常に畑の状態をリアルタイムで確認できますから、いち早く危険を察知して先手を打つことができます。 このおかげで、山梨全域の畑が病害にやられた年でも、私たちの葡萄園だけは例年通りの収穫をあげることができました」(中村社長) ビッグデータ分析で畑に迫る危機の予兆を早期に検知 こうして、畑に迫る危機をいち早く察知できるようになったことで、奥野田ワイナリーでは農薬散布の回数が劇的に減りました。 いつ病害に見舞われるか分からない状況下では、どうしても安全マージンを取るために定常的に農薬を散布せざるを得ません。 しかし、このセンサー機器の導入で危機の到来をいち早く察知できるようになったことで、本当に必要なときだけピンポイントで散布すれば済むようになったといいます。 「こうした取り組みを続け、計測データが年々蓄積されてくると、本当に危機的な状況は1年のうちにせいぜい3、4回しかないことが分かりました。 このタイミングできちんと対処さえできれば、常に農薬を散布し続ける必要はないのです。 これは蓄積したデータを後から分析してみて分かったことですが、実は日本は、農作物の栽培に極めて適した土地柄だということを改めて実感しました」(中村社長) そして現在、この取り組みはさらなる進化を遂げつつあります。 これまで蓄積してきた5年分の計測データを、富士通の社員が解析することで、より早い段階で危機の予兆を検知し、通知するシステムが実現しています。 具体的には、危機の予兆となるデータパターンが計測されると、農園スタッフのスマートフォンにその旨がメール通知されるようになっています。 この取り組みは、先進的な農業ICTの事例として脚光を浴びているだけでなく、2015年6月には数値解析の学会で事例発表を行うなど、さまざまな企業、団体、省庁から高い注目を集めています。 中村社長も、この取り組みが「日本のワイン作りだけでなく、農業全体にとって有益なものになってくれれば」と抱負を述べます。 「リスクの予知が可能になれば、農薬散布などのコストや手間を減らしながら、収穫を維持できるようになります。 また、農業への新規参入リスクもかなり低減できますから、多くの農家の悩みの種である『後継者問題』にも解決の糸口が見付かるのではないかと期待しています」(中村社長) 2016年ヴィンテージのぶどう収穫とワイン作りに向けて ちなみに富士通GP2020ワインファームの活動は、例年、以下のようなスケジュールで行われています。 11月 予備剪定 既に2015年ヴィンテージの葡萄の収穫は無事終わり、後はワインの出来上がりを待つばかりとなっています。 そして年明け早々から、また2016年ヴィンテージの新たな葡萄栽培がスタートします。 「ICTのmikata」では今後も、この富士通GP2020ワインファームの活動を折に触れて紹介していければと考えています。 なお、富士通グループではこのほかにも、さまざまな環境保護活動、社会貢献活動に力を入れています。 こうした活動についても、今後は積極的に紹介していく予定です。

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