認知症の症状と言えば「もの忘れ」「徘徊」を思い浮かべる方も多いと思いますが、これら以外にも様々なものがあります。 どんな症状かを知り、ご本人がどう感じているかを理解することによって、 症状を解決する糸口が見つかることもあります。 また、症状が進行するにつれ対応がより困難になっていくため、 周囲の人が初期症状に気づくことは大切です。 このページでは、より早い段階で症状に気づき適切に対応できるように、そして認知症の症状を通して周囲の人がご本人の内面を理解できるよう、解説していきます。 【目次】 認知症の初期症状と発見のきっかけ 認知症の種類によって初期症状は異なりますが、多くの場合、下のようなできごとがきっかけで、 「もの忘れ」から気づかれることが多いようです。 また、比較的初期からものごとの 「理解や判断速度の低下」や 「集中力・作業能力の低下」も始まるため、日常的な家事や趣味などにも下記のような変化が表れます。 もの忘れ ・同じ話を繰り返す ・約束をすっぽかす ・ゴミの回収日を守らなくなる ・同じものを不必要に何度も買ってくる ・鍵や財布をなくす ・料理の味付けがおかしくなる 理解力・判断速度の低下 ・買い物の支払計算が難しくなり、小銭があっても常にお札で払う ・周囲の会話速度についていけず理解が難しくなる ・走ることができないのに、信号が赤になりそうなときに渡ろうとする 集中力・作業能力の低下 ・読書好きの人が本を読まなくなる ・テレビドラマの筋が追えなくなり、見なくなる ・趣味の手芸や工作、料理などの家事を途中で放棄してしまう 精神的混乱や落ち込み ・楽しみだった活動をやめてしまう ・人付き合いを避けるようになり、やる気がなくなる ・怒りっぽくなる ご本人にとってこうした症状はとてもつらいものです。 症状を自覚していることはなくても、周囲と話がかみ合わない、誤解されている、どうもおかしなことが起こりはじめていると、漠然と強い不安や混乱、怒りを感じていることも多いものです。 これまでできていたことができなくなった、急にわからないことが増えたことによる、恐れや自信喪失から感情や意欲にも変化が現れ、認知症ではなくうつ病などを疑われることもあります。 認知症の症状には中核症状と行動・心理症状(周辺症状)がある こうした認知症の症状は大きく 「中核症状」と 「行動・心理症状(周辺症状)」に分けることができます。 中核症状とは文字通り認知症の中核にあると想定されている症状で、 脳の病変による認知機能の低下から引き起こされます。 程度の差はあれど認知症であれば必ず起こりうる症状で、進行とともに徐々に重くなり、進行を遅らせることはできても、完全に止めることはできないとされています。 一方、そうした 中核症状と、周囲の環境や対応、その人の性格などが相互に影響し、二次的に生じるとされる症状が、行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:「BPSD」という略語も使われている)です。 中核症状に対し副次的に生じるものという側面から、「周辺症状」と呼ばれることもあります。 行動・心理症状は、その人の置かれた環境や周囲の人々、生活の歴史との関わりが深く、 現在の環境や対応が適したものであれば軽減・消失することもあり、全ての認知症の方に生じるものではないとされています。 中核症状とその進行 認知症の中核症状には以下のようなものがあります。 先に述べたように、高齢者の認知症では記憶障害(もの忘れ)が先に目立つようになることが多いですが、各症状が初期から少しずつ表れ、 並行して進行していくことが多いようです。 記憶障害 記憶を司る脳の海馬という部位が破壊され、記憶障害が生じます。 誰しも老化に伴うもの忘れがみられるようになりますが、単なる物忘れと認知症の記憶障害は以下のような違いがあります。 1.短期記憶ほど失われ、長期記憶は保たれやすい 記憶は、数分~数日のことに対する短期記憶と、数か月~数十年前にわたる長期記憶に分けられます。 認知症の初期では短期記憶が失われやすく、症状が進行すると長期記憶へ障害が広がっていきます。 短期記憶が失われたとき、残された長期記憶を利用して状況を理解しようとすることがあります。 例えば、後述する見当識障害により道に迷ったとき、昔の故郷の光景と重ね合わせて帰ろうとしさらに迷うこともあります。 見当識障害 時間や場所、周囲の人々と自分との関係を理解し見当をつける能力を「見当識」といい、それが低下することを「見当識障害」と呼びます。 見当識障害は多くの場合、以下の順に生じていくとされています。 1.時間の見当識障害 いまが何時か、何月何日かがわからなくなることから始まり、昼か夜か、今はどの季節なのかわからなくなっていきます。 2.場所の見当識障害 外出先で今どこにいるのかわからなくなり、道に迷うようになります。 徐々に自宅が自宅と認識できなくなり、他人の家と認識し帰ろうとしたり、トイレの位置がわからなくなり排泄のトラブルを起こすようになります。 3.対人関係の見当識障害 比較的、症状が進むと生じてきます。 当初はご近所の方や普段会わない方が、次第に家族や近い人間がわからなくなります。 例えばお孫さんがわからなくなり、お子さんの小さいころと認識したり、妻のことをご近所の優しいおばさんと認識したりするようになります。 ただし、その相手が 顔なじみか、安心できる人であるかどうかを把握する力は失われにくいようです。 実行機能障害 計画を立て、その工程を順序よくこなしていく能力が低下してきます。 同時並行することも苦手になります。 そのため、料理や電化製品の使用などが比較的初期から難しくなります。 次第に単純な作業(更衣の順番など)もわからなくなり、下着を衣服の上に身に付けるなどが見られるようになります。 更衣の順番が難しくなると、次第に更衣自体を避けるようになっていきます。 理解・判断力の障害 ものごとを素早く適切に理解し、判断することが難しくなります。 急かされなければ適切な理解や判断ができることも多いのですが、信号や踏切を渡るタイミング、乗り物の運転など、早く瞬時に理解、判断する必要があり、 生命の危険に直結する状況では注意が必要です。 失行、失認、失語など 道具の使い方など、適切な手順で目的を達成する動作が難しくなる「失行」、目から得た情報を適切に認識できなくなる「失認」、音声や文章からの言語の理解や表現が難しくなる「失語」などの症状もあります。 いずれも身体的には異常がみられないのに、脳神経の障害のために困難になっている状態です。 障害のタイミングや部位により症状は多様で、生じる時期にも個人差があります。 さらに、他の症状が目立たない初期からこれらの症状が生じる場合があり、周囲からは認知症による症状と理解されず、「できるのにやっていない」と思われることも多くあります。 行動・心理症状(周辺症状) 前述のような中核症状は、ご本人に強い不安や混乱、自尊心の低下をもたらします。 そのような精神状態に、 周囲の環境や人々の対応、ご自身の経験や性格などの要因が絡み合い起こってくるのが 行動・心理症状(周辺症状)です。 周囲にとっては「問題行動」とみなされる症状も多いですが、 ご本人にとっては「何とかよりよく適応しよう」と模索した結果でもあるようです。 そのため、ご本人の症状を理解し、 適切にケアされれば行動・心理症状が軽減・消失する可能性があります(ただし、行動・心理症状があるから適切なケアがされていないという判断は必ずしも適切ではありません)。 行動・心理症状には主に以下のようなものがあります。 興奮、暴力や暴言、介護への拒否 感情をコントロールする部分である脳の前頭葉の委縮や、脳の疲れやすさから、比較的初期から感情が抑えにくくなっていきます。 そんな中、ご本人にとって理解が困難な状況におかれ、尊厳が傷つけられたと感じる対応をされると、症状が強く表れます。 抑うつ、不安、無気力 上記と同様に脳が疲れやすいために、何か行動を起こそうとするエネルギーが出てこないことがあります。 また、できないことが増えたと感じ自信や尊厳が傷つくことでも症状が表れます。 外出時の道迷いや行方不明(徘徊) 場所の見当識障害が進むにつれ、外出時に道に迷うだけではなく、自宅や施設など見慣れているはずの景色が初めての場所と感じられ、「ここがどこか確かめたい」「家に帰らなければ」などの理由で外出をしたいと思うようになります。 ご本人にとっては必然的な理由があるため、無理に引き留め出かけないよう説得することはかなり困難です。 妄想 客観的にはあり得ない考えを、他人が訂正できないほど確信するようになる症状です。 例えば、記憶障害が進み置き忘れた財布やお金を周囲の人に盗られたと主張する「もの盗られ妄想」は初期からしばしばみられます。 また、理不尽な対応をされた、いじめられたなどの「被害妄想」や、配偶者が浮気をしているというような「嫉妬妄想」もみられます。 自分にとって身近で大切な人だからこそ、その関係性が悪化し維持できなくなるという不安から引き起こされることが多いようです。 幻覚 現実的にはあり得ないものをまぎれもない現実として見聞きし感じられる症状です。 衣服などを人や動物と見間違えるようなものから、見知らぬ人が話しているというようなものまで多様な症状がみられます。 レビー小体型認知症では特に多くみられますが、薬物や水分不足、睡眠不足が引き金になっているなど、その原因も様々です。 その他にも、昼夜逆転や睡眠障害、食物ではないものを口にする異食や、排せつ物をいじってしまう不潔行為などが行動・心理症状として挙げられます。 まとめ ひとくちに認知症といっても、上記のような多様な症状がどのように表れるかは個人によって大きく違います。 「百人いれば百の認知症がある」といわれるほどです。 中核症状に対し、行動・心理症状は適切なケアで防げる可能性はありますが、症状には複雑で幅広い要因が絡み合っており、確実に「適切なケアで防げる」とは言い切れません。 時にはご本人とともに、 症状のあるがままを受け止め、適切な支援を受けながらうまく症状と付き合っていくことも必要となります。 イラスト:坂田優子.
次のCONTENTS• 関係がありそうで、関係無い、睡眠導入剤と認知症 素人ライターが書いたと思える健康医療関連記事でよく見かけるのが睡眠導入剤と認知症の関係。 中には睡眠導入剤を飲み続けるとボケる!!なんて感じのいらん不安を読者に与えるような記事さえあります。 以前、ある一定方向の思想がある医師によって「のんではいけない薬」という本が一定方向の政治志向があると言われている出版社から出ました。 それ以降、医師が処方する薬に対する批判記事や批判本が売れる、と確信を得たのでしょうか、似たような内容の一般書籍や週刊誌ネタが増えたように感じます。 php)。 睡眠導入剤が認知症の原因になる!!なんて説が飛び交っていることは多くの医師が知っているはずです。 しかし、なんで認知症の原因になると言われている睡眠導入剤を医師は処方し続けるのでしょうか?上のグラフをよく見てください。 年をとるほど、つまり高齢者になればなるほど睡眠薬や睡眠導入剤を必要としている患者さんは増加しているのです。 ひょっとして眠れない、睡眠障害がある、との訴えで睡眠導入剤を処方されている人のうちに多くの認知症予備軍の患者さんが含まれている可能性が強く疑われます。 睡眠導入剤と認知症は本当に関連性があり、睡眠導入剤を飲むと認知症になるので服用をやめることが正しいことなのかを検証してみます。 睡眠導入剤が認知症の原因となる、現時点では否定してもよいと判断します なかなか寝付けない、ベットに入ってもすぐに目が覚めてしまう、明日寝不足だと仕事に影響が出るから医療機関を受診する方も多いです。 受診して睡眠導入剤を処方されたけど、自宅に帰ってネットを検索したら「飲んではいけない薬 睡眠導入剤」なんて感じの記事が目に入った。 駅の売店で購入した週刊誌の医療関連特集で「睡眠導入剤はボケの原因になる」なんて記事を読んで不安になった。 そんな話をよく聞きますし、実際に患者さんから 先生、この睡眠導入剤を飲むと認知症になるって友達が言っていたのですけど? を経験した医師は多数だと思います。 そもそも睡眠薬と認知症の関連性、つまり睡眠薬を服用すると認知症になる、と週刊誌が取り上げた場合に取材した医師が多分参考にしたと思われる論文は「Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study」( 2012;345:e6231)だと思われます。 週刊誌やネット記事で「最近発表されたフランスの研究によれば」的なことが書かれていたら、これが元ネタつまり一次ソースと判断して良さそうです。 6倍になっていた これを元にして 睡眠薬を服用すると認知症になるリスクが1. 6倍に高まる!! という話が流布しているのでしょうね。 つまりたった 一つの医学論文を元にして睡眠薬が認知症の原因となると決めつけるのは信頼性が低い と多くの医師は判断しているのです。 さらにこんな考え方もできます。 睡眠薬を服用して認知症になった人が1. 6倍との比較ができるのは、睡眠薬を服用していなくても認知症になった人が一定数いるから初めて比較ができるんですよね。 6・・・つまり睡眠薬を服用すると認知症になるリスクが1. 6倍!!って結論になった との解釈もできます。 睡眠薬を服用して8人が認知症になり、不眠症を抱え込んでいたけど認知症になりたくなくて睡眠薬を飲まなかったけど認知症になっちゃった人が5人、睡眠薬を飲もうが飲まないでいようが差はたったの3人、それも15年間症状を我慢して、との解釈をどう皆さんはお考えになりますか? 睡眠薬と認知症の関連性を否定する論文は多数あります。 「Consumption of psychotropic medication in the elderly: a re-evaluation of its effect on cognitive performance. 2003 Oct;18 10 :874-8. 「Benzodiazepines may have protective effects against Alzheimer disease」( 1998 Mar;12 1 :14-7. その他多数、探せばゾロゾロ出てきます。 現時点では適正な薬を適正に使用していれば認知症の恐れて睡眠障害の状態を継続する方が健康に悪いと判断している医師がほとんどなのではないでしょうか? ところで睡眠薬と睡眠導入剤の違いはあまり知られいないようです。 睡眠薬と睡眠導入剤の違いはこれ!! 私のように古い人間にとって「睡眠薬」という言葉はなんとなーく抵抗があります。 睡眠薬殺人・睡眠薬自殺・睡眠薬強盗・睡眠薬遊びなど反社会的な行動と言われるような背景に睡眠薬が使用されていたからです。 現在の不眠症を治療する薬は以前のような呼吸抑制作用がかなり抑えられており、ちょっとやそっとの量を間違えて服用しても死に至ることは無いと考えていいでえす。 睡眠薬強盗はいまだに時々報道されますが、メインとして使用されているのは睡眠導入剤のようです。 睡眠薬遊びはいわゆる「ラリっている」状態を楽しむものであり、今はこんな古めかしい名前は若い人は聞いたことないでしょうね。 yahoo. 作用している時間が短いものを睡眠導入剤、作用している時間が長いものを睡眠薬と呼んでいます。 現在よく処方される睡眠導入剤であろうと、睡眠薬であろうと主成分はほとんど同じもの(ベンゾジアゼピン)です。 この主成分をちょいとばかりアレンジすることによって様々な睡眠薬・睡眠導入剤が作られています。 基本となるベンゾジアゼピンの薬効は眠りを誘導する作用と不安を取り除く作用の二つであり、どっちの特徴が強いか弱いかによってその不眠症に処方するか、精神疾患系の病気に使用するか判断することになります。 上記の参考文献はいつもはネットのURLを記載していますが、中には悪用するやつがいるといけないので医師向けの「今日の治療薬2017年度」を参考文献としておきます。 睡眠薬と認知症の関係は無いと考え問題ありません。 でも乱用した場合は別問題!!ってことをご承知おきくださいね。
次のA 人の体内時計は「視交叉上核 しこうさじょうかく 」 人の体内時計は脳の「視交叉上核 しこうさじょうかく 」という部分にあると言われ、血圧やホルモンの分泌、自律神経の調節機能を果たしています。 この昼夜のリズムを作っている体内時計の調節機能も加齢とともに低下し、認知症ではその働きが更に悪化し日常生活に悪影響を及ぼすことがあるのです。 日本は諸外国と比べて安易に眠剤が処方されている!? 代表的な精神安定剤のデパス(一般名:エチゾラム)はベンゾジアゼピン系薬剤に分類され、睡眠障害改善薬の代表格であるマイスリー(一般名:ゾルピデム)は非ベンゾジアゼピン系薬剤に属しますが同じくベンゾジアゼピン系受容体に結合して作用するためベンゾジアゼピン系類似薬に分類されます。 これらの薬剤は以前の睡眠薬と比して重篤な副作用も少なく使い勝手が良いため、精神科領域のみならず多くの科において睡眠薬、抗不安薬、筋弛緩薬などとして広く使われています。 しかし、長期間続けて内服すると耐性や依存性などの弊害が報告されていて、特に効果が強いものほど、また半減期(作用時間)が短いものほど、内服期間が長いほど、服用量が多いほど依存性となり易い傾向があります。 従って諸外国の多くではこれらの薬の使用は2~4週間の短期間にとどめるよう厳しく規制されています。 他方我国では継続投与期間の制限は無く、ベンゾジアゼピン系薬剤はアメリカの8倍、スペインの3倍、韓国の20倍も処方されているというデータもあるように、諸外国と比べて安易に処方されてきた経緯があります。 従って耐性や依存性形成の観点に加えて、今後は認知症予防も考慮しながらこの種の薬剤の使用は短期間にとどめるべきで、実際累積暴露期間3か月以下の群ではアルツハイマー型認知症発症とは関連なしという結果も同じ論文の中で報告されています。 睡眠障害の原因には他の疾患が潜んでいる可能性あり また睡眠障害の原因には、不眠のほかに睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など他の疾患が潜んでいる可能性がありますので、安易に睡眠薬に頼るのではなく最初に正しい診断をすることがとても大切です。 睡眠薬だけでなく、生活環境全体の見直しも含めた総合的な対処が肝要 そして認知症の昼夜逆転に対しては、昼寝を減らす、デイケアなどで日中の活動を高める、十分に太陽光を浴びて睡眠リズムを整える、就寝前に入浴等で体を温める等の生活療法が薦められています。 睡眠薬だけでなく、生活環境全体の見直しも含めた総合的な対処が肝要と考えられます。
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