新型コロナウイルスの感染拡大の影響で需給が逼迫している手指用アルコール消毒液。 大手の消毒液メーカーは増産に乗り出すが、都内のドラッグストアをのぞいても品切れの札が掲げられている店舗が多い。 一方で、通信販売サイトを検索してみると、大手メーカー以外が手掛ける商品も含め、さまざまな商品がやりとりされる。 一部量販店で山積みになって売られているものもある。 「どのような商品か分からないが、新型コロナ感染症の流行で新規参入もあるようだ」とは大手メーカーの広報担当者。 一体何を基準にどんな商品を選べばいいのか、専門家らに話を聞いた。 「コロナウイルスを含めウイルスや細菌の除去にアルコールは効果があるとされていますが、肝心なのは含まれている濃度です」 アルコール消毒液の効果について尋ねると、獨協医科大学医学部公衆衛生学講座の小橋元教授はそう答える。 小橋教授によると、最も適しているとされるアルコール濃度は70~80%程度。 100%近いものであれば、消毒・除菌効果はあるものの、「揮発性が高いため、ウイルスを除去しきる前に蒸発してしまう可能性がある」という。 逆に濃度が下がると「それだけ効果は下がってくると考えられる」と説明する。 厚生労働省は同省ホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A」の中で、「アルコール消毒(70%)などで感染力を失うことが知られています」と表記している。 実際に売られている商品を調べてみた。 健栄製薬「手ピカジェル」は(76. 9~81. 4vol%)、サラヤ「ハンドラボ 手指消毒スプレーVH」は(76. 9~81. 4vol%)のように、確かに上記の範囲のエタノール濃度が表記されている。 ところが、量販店や通販で売られている一部の商品には濃度の記載がないものがあった。 記者は製造販売元に問い合わせてみた。 電話口の担当者に尋ねると「うちの商品のアルコール濃度は58%です。 化粧品として販売しており、『除菌』や『殺菌』といった文言は使っておりません」と説明。 同社HPには「新型コロナウイルスに効果があるかどうかは、現時点では他社様の多くの商品と同様、確認できておりません」との注意文も掲げている。 アルコールが含まれる以上、感染防止に効果がないとは言い切れない。 だが、感染リスクを下げる効果は、濃度が明記された商品に比べると劣る可能性が高い。 同社はこの商品について「最近販売を始めた」という。 「お客さまがどのような用途で購入されているかは把握していない」と話し、あくまでも消毒液を売っているわけではないという姿勢だった。 確かにパッケージにも「洗浄」の文字はあっても「消毒」の文字はない。 記者は販売意図を尋ねようと食い下がったが、最後は多忙を理由に電話を切られてしまった。 東京都など7都府県に緊急事態宣言が発令され、各家庭や職場での新型コロナウイルスに対する危機感は高まっている。 そうした中で、効果が判然としない商品は今後、続々と登場してくる可能性がある。 小橋教授は「自身が求めている効能と、商品の成分や効果が合っているかを冷静に確かめる姿勢が必要だ」と指摘する。 そもそも、外出機会が減る中で「基本的には、せっけんを使ってしっかりと手を洗い、十分な水で流せば、感染防止の効果は得られる」と小橋教授。 「水が使えないなど特別な環境にいる場合は別だが、何が何でもとアルコール消毒にこだわる必要はない」とも話している。
次のエビデンスを求めて三千里、着太郎 です。 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 に有効な アルコール濃度のエビデンスのまとめです。 物質表面上でのウイルスの半減期については「」でまとめています。 15 2018 , 7. 422 2017 に Early Release として 2020年4月13日に掲載された論文で、それに先立ち生物学の に査読前論文として 2020年3月17日にされています。 以下の図は SARS-CoV-2 の不活化における の効果についてのものです。 左側の A と C がエタノールベース、右側の B と D がイソプロパノールベースで、 C と D の右上の挿入図はコロナウイルスの不活性化のを示しています。 LLOQ は(適切な精度と正確さで定量分析できる試料中の分析対象物質の最低濃度)。 暴露時間はいずれも 30秒。 試験方法は 浮遊試験で、混合比率はの薬液8:負荷物1:菌液1。 また、以下の図は SARS-CoV-2 の不活化における市販のアルコールの効果についてのものです。 A がエタノールで B が イソプロパノール。 国内の新型コロナウイルスの実験 北里大学大村智記念研究所 の片山ら 2020 の研究グループは 2020年4月17日に、エタノール、界面活性剤成分を含有し、新型コロナウイルスの消毒効果が期待できる市販製品を対象にウイルス不活化評価を実施したとを出しました。 ・試験系評価のために実施したエタノールについても試験結果を開示した。 試験方法は 浮遊試験のようで、混合比率はウイルス液1:試験対象液9。 1分未満は実験していないようなので この条件での短時間での不活化効果は不明です。 「国内複数企業へ製品サンプルの提供を要請」とありますが、試験された製品は花王株式会社の製品のみのようです。 ちなみに花王はに採択され、5月末までにアルコール消毒液等の増産設備の導入を行い、 例年の1. 8倍 と同量の170万Lの増産を行うようです。 また、同研究室が花王と新型コロナウイルスに対して感染抑制能を有するVHH抗体の取得に成功したと2020年5月7日にしています。 コロナウイルスには効果が弱いとされるベンザルコニウム塩化物0. 5%含有しているようでした。 新型以外のコロナウイルスの文献レビュー 4人全員が前述の A. Kratzel ら 2020 の論文の共著者としても名を連ねている による 2020年2月6日付けで公開されたコロナウイルスに対する消毒剤の文献レビューがあります。 掲載されている のは 3. 354 2017年 です。 エタノールについて触れている文献の参照はレビュー対象22件のうち、 浮遊試験が 、、、 の4件、 表面試験が 、 の2件の合計6件。 各論文を確認する限り、Siddharta ら 2017 の研究以外は既存の消毒剤製品の原液での調査のみで、アルコール濃度の下限の調査は行われていないようです。 レビューでは以下のように総括しています。 5-2. 23-7. 62—71%エタノールによる表面の消毒は、 1分以内の露出時間で表面のコロナウイルス感染力を大幅に低下させる。 SARS-CoV-2 に対しても同様の効果が期待できる。 Saknimit ら 1988 はが発行する学会誌 Experimental Animals に掲載された論文で、ベータコロナウイルス属の、 アルファコロナウイルス属の、キルハムラットウイルス KRV および に対する消毒薬等の殺ウイルス効果を検討しています。 30年以上前の古い実験でヒトコロナウイルスは含まれていません。 に希釈した上で混合比率は1:1、室温23度で 10分間反応させているようです。 96 2018 ,3. エタノールについてはドイツの という製品で 0. 試験方法は浮遊試験で、混合比率は8:1:1。 いずれも 30秒で非感染性になったようです。 エタノールの最終濃度は 62. Rabenau ら 2005, Journal of Hospital Infection もう一つの は に掲載されており、SARS-CoVに対する8つの消毒剤の活性を調査しています。 時間は 30秒。 Siddharta ら 2017 文献レビューの共著者にも3人ほどが含まれている のエンベロープウイルスに対する実験は、試験方法は 浮遊試験で、混合比率は薬液8:負荷物1:菌液1。 文献レビューでなぜこの論文の値が言及されていないのかはよく分からないので、お分かりになる方がいたら教えて下さい。 なお、 によると WHO 製剤のグリセロース含有量1. Sattar ら 1989 表面試験は「非生体(器具・環境)表面上の乾燥菌体に対する生菌数を減少させる能力(殺菌効果)の評価法」です。 2つの表面試験のうちの一つは20年以上前の で、コクサッキーウイルス B3 型、アデノウイルス5型、パラインフルエンザウイルス3型、 の4つのヒト病原性ウイルスを使用してウイルスで汚染された無孔無生物表面の化学的消毒を調査。 Hulkower ら 2011 もう一つの 表面試験の では、2つの代理コロナウイルス、 と に対する医療用殺菌剤の有効性をステンレス鋼表面の定量的キャリア法を使用してテスト。 接触時間は 1分間。 その他のウイルスでの実験 東京医療保健大学大学院の の博士論文におけるエタノール濃度に応じた殺菌・抗ウイルス効果の調査研究があります。 pdm. 2009 No. 本論文では、各濃度のエタノール溶液に菌液またはウイルス液を混合後、すみやかに 撹拌することで 均一系とし、 作用中撹拌を継続することで殺菌効果および抗ウイルス効果の評価を行った。 エンベロープか否かなど詳細を後で確認したいと思います。 【閑話休題】キッチン用アルコール除菌スプレー 日本環境感染学会の理事の話として「キッチン用のエタノールは、濃度が50%ほどのものが多く、現時点ではコロナウイルスへの効果があるか、科学的には証明されていない」としたNHKのに対して、フマキラーが2020年3月9日にを披露しています。 フマキラー株式会社がに依頼してキッチン用アルコール除菌スプレーの ネコ腸コロナウイルスへのウイルス不活化試験実施し、2020年2月19日に効果が確認できたとして2020年2月28日に。 アース製薬もネコ腸コロナウイルスへの不活化試験を実施したとに記載しています。 9mLにウイルス液0. 1mLを混合し、 10秒作用させた。 1mL採取し、培地で100倍程度に希釈して作用を停止させた。 対照(ブランク)の初期感染価は1. SFSS(NPO食の安全と安心を科学する会)によるでは、NHKの報道について「不正確(レベル2):事実に反しているとまでは言えないが、言説の重要な事実関係について科学的根拠に欠けており、不正確な表現がミスリーディングである。 」と結論しています。 しかし、そもそもの話として、同一条件下で ノンアルコール製品でも効果があるとした試験結果ですので、エタノール濃度による失活効果を確認したものではなさそうです。 【追記】 フマキラーが広島大学大学院医系科学研究科に依頼して新型コロナウイルスで追試をしたようで、2020年4月21日に結果を確認したとして2020年4月24日にを出しています。 9 mL にウイルス液0. 1 mL を混合し、 10秒作用させた。 05 mL 採取し、培地で100倍程度に希釈して作用を停止させた。 対照(ブランク)の感染価は3. 単純に推測すると水道水(不純物)による希釈の影響が大きいと考えられますが、Kratzel らの実験は妨害物質を1割混ぜているため、もし水道水が原因であれば水道水が妨害物質以上に悪影響を及ぼしていたことになるため、エタノールの希釈は蒸留水によるのが望ましい可能性がより高くなることを意味するかと思います。 また、論文化されていないので詳細なデータが分からないこと、同意が得られなかったという体で花王製品のみしか取り扱っていないこと、エタノールの下限の評価の幅が広いことなどがつらいところです。 ちなみに、経済産業省の要請で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 NITE が行っている「」にオブザーバーとして当該の片山和彦氏が名を連ねており、当該研究所が国立感染症研究所と並行して試験を担うなどしているようです。 このレビューで参照されている6つの文献のうち5つはアルコール濃度の調整は行っておらず、濃度の下限を検証している訳ではありません。 残りの1つである A. Siddharta ら 2017 が濃度の下限を探っている訳ですが、何故これの数値がレビューで言及されていないのかよく分かりません。 神明 2019 の実験は異なるエンベロープウイルス間でどの程度違いが出るのかが分かるので参考になります。 惜しむらくは細菌なども含めているためウイルス自体の種類が少ないことですが、株の違いでも差があることが見て取れるのは興味深いですね。 ただ、ずっとかき混ぜてるっぽいので、日常でのスプレーでの吹きかけや拭き取りでも同等と見做すことはできなそうです。 フマキラーの件は、ノンアルコールでも結果が同等であり、感情的な表現やファイティングポーズなども含めて完全に パブリシティ(マスメディアに情報を提供し、報道してもらうことで消費者に宣伝するのと同じ効果を得ること)が狙いかと思います。 SFSS のファクトチェックも、この辺りの文脈を理解せずにフマキラーのリリースを真に受けて科学的な評価に終始しており、試みや周辺情報は大変興味深いのですが、そもそもの大前提として アルコールについて最初から何一つ検証していない、ということに気づいて欲しいなと心配になりました。 普通に考えたらノンアルコール製品を同一条件で一緒に検証実験しているのは失敗のはずですが、フマキラーに利する形で見事にまるめこまれており残念感が半端ありません。 ちなみにこの話題の発端になった菅原氏は、今回紹介した神明氏の博士論文の指導をした1人のようで、ご自身でもを書かれており、その辺のつながりも面白い要素でした。 85wt%, グリセリン 0. 01wt%, 精製水 32. 22wt%, クエン酸 1. 93wt%, グリセリン脂肪酸エステル 0. 20wt%, 硫酸マグネシウム 0. 06wt%, クエン酸ナトリウム 0. 06wt%, 精製水 40. 1wt%, グリセリン脂肪酸エステル 0. 2wt%, ブドウ種子エキス 0. 03wt%, デキストリン 0. 01wt%, 乳酸ナトリウム 0. 003wt%, 乳酸 0. 001wt%, 精製水 49. 8vol%〜 480ml [] センケン エタノール 99. 1~96. Emerging Infectious Diseases, Volume 26, Number 7, April 2020. 片山 和彦ら 2020. 北里大学大村智記念研究所プレスリリース, 2020年4月17日. , Volume 104, Issue 3, March 2020, Pages 246-251. Morakot Saknimit, 稲月 一高, 杉山 芳宏, 八神 健一 1988. , Volume 37, Number 3, 1988, Pages 341-345 Holger Felix Rabenau, Jindrich Cinatl, Birgit Morgenstern, Gabi Bauer, Wolfgang F. Preiser, Hans Wilhelm Doerr 2005. Medical Microbiology and Immunology. 2005; 61: 107-111 Anindya Siddharta, Stephanie Pfaender, Nathalie Jane Vielle, Ronald Dijkman, Martina Friesland, Britta Becker, Jaewon Yang, Michael Engelmann, Daniel Todt, Marc Peter Windisch, Florian Holger Hubert Brill, Joerg Steinmann, Jochen Steinmann, Stephan Becker, Marco P. Alves, Thomas Pietschmann, Markus Eickmann, Volker Thiel, Eike Steinmann 2017. Journal of Infectious Diseases, Volume 215, Issue 6, 15 March 2017, Pages 902—906 Miranda Suchomel, Michael Kundi, Didier Pittet, Manfred L. Rotter 2013. 245-250. 神明 朱美 2019. 東京医療保健大学大学院 医療保健学研究科 医療保健学専攻 博士論文.
次の新型コロナウイルスの感染拡大の影響で需給が逼迫している手指用アルコール消毒液。 大手の消毒液メーカーは増産に乗り出すが、都内のドラッグストアをのぞいても品切れの札が掲げられている店舗が多い。 一方で、通信販売サイトを検索してみると、大手メーカー以外が手掛ける商品も含め、さまざまな商品がやりとりされる。 一部量販店で山積みになって売られているものもある。 「どのような商品か分からないが、新型コロナ感染症の流行で新規参入もあるようだ」とは大手メーカーの広報担当者。 一体何を基準にどんな商品を選べばいいのか、専門家らに話を聞いた。 「コロナウイルスを含めウイルスや細菌の除去にアルコールは効果があるとされていますが、肝心なのは含まれている濃度です」 アルコール消毒液の効果について尋ねると、獨協医科大学医学部公衆衛生学講座の小橋元教授はそう答える。 小橋教授によると、最も適しているとされるアルコール濃度は70~80%程度。 100%近いものであれば、消毒・除菌効果はあるものの、「揮発性が高いため、ウイルスを除去しきる前に蒸発してしまう可能性がある」という。 逆に濃度が下がると「それだけ効果は下がってくると考えられる」と説明する。 厚生労働省は同省ホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A」の中で、「アルコール消毒(70%)などで感染力を失うことが知られています」と表記している。 実際に売られている商品を調べてみた。 健栄製薬「手ピカジェル」は(76. 9~81. 4vol%)、サラヤ「ハンドラボ 手指消毒スプレーVH」は(76. 9~81. 4vol%)のように、確かに上記の範囲のエタノール濃度が表記されている。 ところが、量販店や通販で売られている一部の商品には濃度の記載がないものがあった。 記者は製造販売元に問い合わせてみた。 電話口の担当者に尋ねると「うちの商品のアルコール濃度は58%です。 化粧品として販売しており、『除菌』や『殺菌』といった文言は使っておりません」と説明。 同社HPには「新型コロナウイルスに効果があるかどうかは、現時点では他社様の多くの商品と同様、確認できておりません」との注意文も掲げている。 アルコールが含まれる以上、感染防止に効果がないとは言い切れない。 だが、感染リスクを下げる効果は、濃度が明記された商品に比べると劣る可能性が高い。 同社はこの商品について「最近販売を始めた」という。 「お客さまがどのような用途で購入されているかは把握していない」と話し、あくまでも消毒液を売っているわけではないという姿勢だった。 確かにパッケージにも「洗浄」の文字はあっても「消毒」の文字はない。 記者は販売意図を尋ねようと食い下がったが、最後は多忙を理由に電話を切られてしまった。 東京都など7都府県に緊急事態宣言が発令され、各家庭や職場での新型コロナウイルスに対する危機感は高まっている。 そうした中で、効果が判然としない商品は今後、続々と登場してくる可能性がある。 小橋教授は「自身が求めている効能と、商品の成分や効果が合っているかを冷静に確かめる姿勢が必要だ」と指摘する。 そもそも、外出機会が減る中で「基本的には、せっけんを使ってしっかりと手を洗い、十分な水で流せば、感染防止の効果は得られる」と小橋教授。 「水が使えないなど特別な環境にいる場合は別だが、何が何でもとアルコール消毒にこだわる必要はない」とも話している。
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