夕暮れ時、見覚えのある子猫を追い掛けて私は城下の外れに来ていた。 子猫は迷うことなく、一直線に森の入り口へと走っていく。 その先には私が会いたい人が居る。 私の大好きなあの人が。 「またミケを追い掛けて来たのか、お嬢さん」 「はい。 そうすれば顕如さんに会えますから」 息を切らす私の姿を見ると、顕如さんはふぅと溜め息を吐いた。 「お前にミケを見られたのは失敗だったな」 先ほどまで私が追い掛けていた子猫のミケは、顕如さんが定期的にご飯をあげている動物のうちの一匹だ。 森の中でこっそりミケにご飯をあげている姿を目撃した時以来、私はこうしてミケを追って顕如さんに会いに来ている。 「顕如さんが安土に来るとすぐに気づけるなんて、ミケはすごいね」 私は顕如さんの傍らにしゃがみ込み、顕如さんのご飯を美味しそうに食べるミケを頭を撫でる。 ミケはにゃあんと一鳴きして、ゴロゴロと喉を鳴らす。 「ミケは普段城下にいるんだ。 森までわざわざ追って来なくても、お嬢さんがミケにご飯をあげても構わないんだぞ…?」 「でもこうしないと…顕如さんに会えませんから…」 思わず零れた本音に恥ずかしくなるけれど、顕如さんの声が冷たく頭上から降って来た。 「あまり私に心を許すな。 お嬢さん」 「っ…」 「何度も言ってるが…私には何よりも優先すべき目的がある。 その為ならば、私は鬼にもなるだろう」 この言葉は今までに何度も言われていた。 顕如さんはその目的を詳しくは教えてくれない。 ただ苦しそうに、私を突き放す。 「顕如さんの夢がいつか叶いますようにって、祈っててもいいですか」 私は立ち上がり、縋るように顕如さんを見つめた。 (なんでもいい、少しでも可能性があるのならこの恋を諦めたくない) 「…駄目だ。 私の願いは御仏に祈るようなものではない」 顕如さんは顔を背け、闇の霞む空を見上げた。 「顕如さん…」 「堪忍な…」 胸の奥がズキッと痛んだ。 (やっぱり顕如さんにとって私は迷惑なのかな…) 顕如さんは空を見つめながら、静かに言葉を続けた。 「私の目指す道が…仮に今と道が違っていたのなら…、お嬢さんと私の…今とは違う縁があったかもしれん…そう思うときはある…」 「それって…どういう意味ですか…」 胸の痛みが高鳴りに変わっていく。 けれどその甘い期待を消し去るように、顕如さんは冷たい視線を私に向けた。 「…お喋りは終わりだ。 もうじき日が暮れる。 夜の森には鬼が出ると教えただろう」 「また…会えますか?」 「…いや、お嬢さんはもう私とは会うべきではない」 「そんなっ…」 顕如さんは身を屈ませ、私の顔に顔を近づけた。 そして苦しそうに表情を歪ませて、哀しい言葉を口にした。 「縁がなかったんだと…諦めるんだ」 胸が痛い。 この気持ちに気付く前にそう言われていれば。 そんな考えが浮かぶほどに苦しい。 けれど、もうこの恋に気付く前には戻れない。 「今の私と顕如さんにも…縁があると願いたいですっ…」 私は顕如さんの腕を掴んで思いきり引き寄せた。 体勢を崩したその一瞬の隙を突いて、顕如さんの額に唇を寄せる。 「っ…?」 顕如さんは目を見開いて私を見た。 恥ずかしいよりも、苦しさが勝っていた私は涙を堪えながら必死に微笑みを作る 「知ってますか?今城下で流行ってるおまじないがあるんです」 「まじない…?」 「はい…今のは、また私が顕如さんに会えるようにっていう、おまじないです」 「お嬢さん…」 顕如さんが息を飲んだ瞬間、大きな腕が私の身体を引き寄せて強く抱き締めてくれた。 「っ…」 私はこの腕の温かさを知っていた。 その温かさに触れる度に、胸の奥から止めどなく愛しさが溢れて来て、私はこの人が好きなんだと思い知らされる。 けれど…私達は自分の気持ちを伝えるどころか、次の約束すら出来ない。 どんなに惹かれ合っていても、顕如さんは私を拒絶し続ける。 こんなに優しい腕で抱き締めてくれるのに。 こんなに温かい気持ちを私にくれるのに。 「顕如さん…」 視界が滲み、瞳から涙が零れ落ちる。 私の涙が顕如さんの着物を温かく濡らした。 「……堪忍な」 これからもきっと私達は人目を忍んで抱き合うしか出来ないのだろう。 顕如さんの苦しそうな声が暗い森に消えて行った。
次のProfile CV: 新垣 樽助 誕生日: 1月7日 身長: 178. 0cm 血液型: O型 趣味: 動物に餌やり 特技: 裏工作 チャームポイント: 森によく出没 目次 各話別に目次は分けておりません。 ご要望があれば分けます!!• 顕如の僧衣• 特別ロングボイス 両ルート恋度MAX特典• 特別ストーリー&激甘ボイス• 物語券 エンディング分岐点 各値60以上で選択可能• 特別ロングボイス• 蓮の香り感じる和室 両ルート恋度MAX特典• 特別ストーリー&激甘ボイス• 物語券.
次の夕暮れ時、見覚えのある子猫を追い掛けて私は城下の外れに来ていた。 子猫は迷うことなく、一直線に森の入り口へと走っていく。 その先には私が会いたい人が居る。 私の大好きなあの人が。 「またミケを追い掛けて来たのか、お嬢さん」 「はい。 そうすれば顕如さんに会えますから」 息を切らす私の姿を見ると、顕如さんはふぅと溜め息を吐いた。 「お前にミケを見られたのは失敗だったな」 先ほどまで私が追い掛けていた子猫のミケは、顕如さんが定期的にご飯をあげている動物のうちの一匹だ。 森の中でこっそりミケにご飯をあげている姿を目撃した時以来、私はこうしてミケを追って顕如さんに会いに来ている。 「顕如さんが安土に来るとすぐに気づけるなんて、ミケはすごいね」 私は顕如さんの傍らにしゃがみ込み、顕如さんのご飯を美味しそうに食べるミケを頭を撫でる。 ミケはにゃあんと一鳴きして、ゴロゴロと喉を鳴らす。 「ミケは普段城下にいるんだ。 森までわざわざ追って来なくても、お嬢さんがミケにご飯をあげても構わないんだぞ…?」 「でもこうしないと…顕如さんに会えませんから…」 思わず零れた本音に恥ずかしくなるけれど、顕如さんの声が冷たく頭上から降って来た。 「あまり私に心を許すな。 お嬢さん」 「っ…」 「何度も言ってるが…私には何よりも優先すべき目的がある。 その為ならば、私は鬼にもなるだろう」 この言葉は今までに何度も言われていた。 顕如さんはその目的を詳しくは教えてくれない。 ただ苦しそうに、私を突き放す。 「顕如さんの夢がいつか叶いますようにって、祈っててもいいですか」 私は立ち上がり、縋るように顕如さんを見つめた。 (なんでもいい、少しでも可能性があるのならこの恋を諦めたくない) 「…駄目だ。 私の願いは御仏に祈るようなものではない」 顕如さんは顔を背け、闇の霞む空を見上げた。 「顕如さん…」 「堪忍な…」 胸の奥がズキッと痛んだ。 (やっぱり顕如さんにとって私は迷惑なのかな…) 顕如さんは空を見つめながら、静かに言葉を続けた。 「私の目指す道が…仮に今と道が違っていたのなら…、お嬢さんと私の…今とは違う縁があったかもしれん…そう思うときはある…」 「それって…どういう意味ですか…」 胸の痛みが高鳴りに変わっていく。 けれどその甘い期待を消し去るように、顕如さんは冷たい視線を私に向けた。 「…お喋りは終わりだ。 もうじき日が暮れる。 夜の森には鬼が出ると教えただろう」 「また…会えますか?」 「…いや、お嬢さんはもう私とは会うべきではない」 「そんなっ…」 顕如さんは身を屈ませ、私の顔に顔を近づけた。 そして苦しそうに表情を歪ませて、哀しい言葉を口にした。 「縁がなかったんだと…諦めるんだ」 胸が痛い。 この気持ちに気付く前にそう言われていれば。 そんな考えが浮かぶほどに苦しい。 けれど、もうこの恋に気付く前には戻れない。 「今の私と顕如さんにも…縁があると願いたいですっ…」 私は顕如さんの腕を掴んで思いきり引き寄せた。 体勢を崩したその一瞬の隙を突いて、顕如さんの額に唇を寄せる。 「っ…?」 顕如さんは目を見開いて私を見た。 恥ずかしいよりも、苦しさが勝っていた私は涙を堪えながら必死に微笑みを作る 「知ってますか?今城下で流行ってるおまじないがあるんです」 「まじない…?」 「はい…今のは、また私が顕如さんに会えるようにっていう、おまじないです」 「お嬢さん…」 顕如さんが息を飲んだ瞬間、大きな腕が私の身体を引き寄せて強く抱き締めてくれた。 「っ…」 私はこの腕の温かさを知っていた。 その温かさに触れる度に、胸の奥から止めどなく愛しさが溢れて来て、私はこの人が好きなんだと思い知らされる。 けれど…私達は自分の気持ちを伝えるどころか、次の約束すら出来ない。 どんなに惹かれ合っていても、顕如さんは私を拒絶し続ける。 こんなに優しい腕で抱き締めてくれるのに。 こんなに温かい気持ちを私にくれるのに。 「顕如さん…」 視界が滲み、瞳から涙が零れ落ちる。 私の涙が顕如さんの着物を温かく濡らした。 「……堪忍な」 これからもきっと私達は人目を忍んで抱き合うしか出来ないのだろう。 顕如さんの苦しそうな声が暗い森に消えて行った。
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