「はなまるうどん」をはじめ、関東でもすっかりおなじみになった感のある「讃岐うどん」。 地元にも当然うどんはあるのに、なぜ「外来」のうどんに 魅せられるのか。 探ってみた。 私が香川県へ旅行したのは、 2017年。 「高松へ行った」と言うと、「讃岐うどん食べました?」「本場の讃岐うどん、おいしいですよね!」と、キラキラした目で言われる。 「香川へ行く=うどんを食べる」という図式が、いつの間にか出来上がっている。 もちろんうどんは食べておいしかったが、特にどうという感慨は持てなかった。 大学時代の 1989年に琴平へ行った折も食べたが、やはり感動はなかった。 私が食べたのは、どちらのときも汁入りの温かいうどんである。 メディアでよく紹介される釜揚げに興味がないのが、感慨を持てない理由なのか? 讃岐うどんが東京でブームになったのは、 1990年代後半から 2000年代初めにかけて。 テレビで、セルフサービスの店や、山の中の小さな店が、盛んに紹介されていた。 トッピングのバラエティ豊かさや、 1杯 200円ぐらいからの驚きの安さも、魅力のポイントだった。 きっかけは、香川県の『タウン情報かがわ』で 1989年から連載された、穴場探訪記の「ゲリラうどん通ごっこ」ではないかと思う。 1993年から、『恐るべきさぬきうどん』として単行本化されて 4巻まで出た後、文庫化までされている。 連載の後半は、テレビに店を紹介したり取材に同行したエピソードが頻出し、ブームになっていくさまが見て取れる。 ブームに乗って、東京でも讃岐うどんの店が出来始めた。 大きなところでは、 2002年に香川県のうどんチェーン「はなまるうどん」が東京に進出した。 兵庫県加古川市生まれの、讃岐うどんスタイルの「丸亀製麺」も、 2000年に生まれ、全国展開を始めている。 しかしなぜ、東京人は讃岐うどんにそれほど憧れるのか。 稲庭うどん好きも多いように見受けられるので、たぶんシコシコの弾力がある麺が好きなのではないかと思う。 あるいは、うどん自体の味の良さが実は、大きなポイントか。 何しろ、東京のスーパーで売られている生麺は、少なくとも在京関西人の間ですこぶる評判が悪い。 私も 1回で買うのを止め、在京関西人の友人から「マシ」と教わった冷凍うどんを買うようにしている。 在京讃岐人の友人はいないが、同じような感覚なのではないか。 あの生麺を食べ慣れている人からすれば、讃岐うどんはかなりおいしいのではないかと思う。 あと、イリコなどを使った出汁の味だろうか。 イリコ出汁は、煮干しラーメンが流行ってからこっち、東京でも存在感を増してきた。 煮干し出汁は味が濃く出るので、カツオ昆布より簡単に味が決まる。 しかも安い。 鰹節で出汁を取るより、鍋から引き上げるのも簡単。 瀬戸内海に面した近畿・中四国エリアは、煮干しをよく使うので、兵庫県育ちの私にとっても馴染みのものだ。 もちろん、関西の麺もうま味がある。 違いはコシの強さぐらいか。 なじんだ関西のうどんと似ているから、それほど感動を覚えなかったのかもしれない。 ただ、セルフうどんの営業スタイルは、私が知る限り、関西にはない。 うどんは汁まで飲むもの、という習慣がある関西では、東京のうどんは「汁が真っ黒」と恐れられてきた。 私もその噂を怖がって、東京ではなるべく讃岐うどんの店を選んで食べてきたら、いつの間にか讃岐うどん派になってしまっていたらしい。 去年の秋に大阪へ行った折、いつものようにきつねうどんを食べた。 今までは、中に入った揚げの味と、青ネギの香りに気を取られていたが、このときなぜか、うどんの柔らかさに気がついたのである。 何だこれは、ずいぶん柔らかいやん。 大阪うどんは結構柔らかいのである。 芯はしっかりしているので、コシがないわけではないのだが。 その柔らかさが気になって、いまいち楽しめなかった時点で、讃岐うどんのコシにすっかりハマっていたのであった。 あの食べ応えのある弾力に、東京人はハマっているのではないか。 感動しなかっただけで、私もやっぱり讃岐うどんラバーではないか。 東京では、江戸時代に蕎麦より先にうどんが流行った。 しかし、濃口醤油が生まれ、カツオ出汁が使われる東京の味は、うどんより蕎麦向きだったので、蕎麦のほうが人気になったと言われている。 蕎麦は何といっても濃口醤油が合う。 武蔵野うどんというのもある。 一度東京都市部で食べた具だくさんのうどんは、やはりコシがあっておいしかったように思うが、 23区内で武蔵野うどんに出会ったことはない。 農村部で発達したうどんは、都心にあまり進出していないようだ。 ローカルなうどんもあるのに、讃岐うどんが流行るのは、何でも流行する東京だからか。 それとも、出汁にうまみにコシと、三拍子そろった讃岐うどんが完璧だからか。 東京のブームでは、一過性に終わるものと、新たに定着するものがある。 ブームから 20年経った讃岐うどんは明らかに後者だ。 確固たる理由がこれ、とは結局分からないけれど、おいしいものは、どんどん採り入れて自分たちのものにしてしまう、その吸収力こそ、東京の恐ろしいところかもしれない。 (第5回・了) 本連載は、隔月で更新します。 次回、2020年9月15日(火)ごろ更新予定• 東京人はなぜ讃岐うどんを愛するのか? 1•
次の雨続きでやる気が出ないし、食欲も落ち気味…そんな梅雨疲れにぴったりの一品をご紹介します!じめじめした今の時期はさっぱりしたものが食べたくなりますよね。 でもスタミナもつけたい。 そんなときは 「肉吸い」がおすすめ。 朝の情報番組でも取り上げられたことで、クックパッドの検索数も上昇中なんです。 肉吸いって? 「肉吸い」という言葉を初めて耳にする人もいるのではないでしょうか。 肉吸いとは、大阪の名物グルメで、鰹節や昆布などを使った関西風のお出汁に牛肉とねぎを入れたシンプルな料理。 いわば、 肉うどんのうどん抜きのようなもの。 お店によっては、半熟卵やお豆腐を入れているところもあるのだとか。 さっぱり味で、食欲がないときでもペロッと食べられちゃうおいしさ。 クックパッドにある100以上のレシピの中から、選りすぐりの3レシピをお届けします。 出汁の旨味とお肉が絶妙マッチ.
次の「はなまるうどん」をはじめ、関東でもすっかりおなじみになった感のある「讃岐うどん」。 地元にも当然うどんはあるのに、なぜ「外来」のうどんに 魅せられるのか。 探ってみた。 私が香川県へ旅行したのは、 2017年。 「高松へ行った」と言うと、「讃岐うどん食べました?」「本場の讃岐うどん、おいしいですよね!」と、キラキラした目で言われる。 「香川へ行く=うどんを食べる」という図式が、いつの間にか出来上がっている。 もちろんうどんは食べておいしかったが、特にどうという感慨は持てなかった。 大学時代の 1989年に琴平へ行った折も食べたが、やはり感動はなかった。 私が食べたのは、どちらのときも汁入りの温かいうどんである。 メディアでよく紹介される釜揚げに興味がないのが、感慨を持てない理由なのか? 讃岐うどんが東京でブームになったのは、 1990年代後半から 2000年代初めにかけて。 テレビで、セルフサービスの店や、山の中の小さな店が、盛んに紹介されていた。 トッピングのバラエティ豊かさや、 1杯 200円ぐらいからの驚きの安さも、魅力のポイントだった。 きっかけは、香川県の『タウン情報かがわ』で 1989年から連載された、穴場探訪記の「ゲリラうどん通ごっこ」ではないかと思う。 1993年から、『恐るべきさぬきうどん』として単行本化されて 4巻まで出た後、文庫化までされている。 連載の後半は、テレビに店を紹介したり取材に同行したエピソードが頻出し、ブームになっていくさまが見て取れる。 ブームに乗って、東京でも讃岐うどんの店が出来始めた。 大きなところでは、 2002年に香川県のうどんチェーン「はなまるうどん」が東京に進出した。 兵庫県加古川市生まれの、讃岐うどんスタイルの「丸亀製麺」も、 2000年に生まれ、全国展開を始めている。 しかしなぜ、東京人は讃岐うどんにそれほど憧れるのか。 稲庭うどん好きも多いように見受けられるので、たぶんシコシコの弾力がある麺が好きなのではないかと思う。 あるいは、うどん自体の味の良さが実は、大きなポイントか。 何しろ、東京のスーパーで売られている生麺は、少なくとも在京関西人の間ですこぶる評判が悪い。 私も 1回で買うのを止め、在京関西人の友人から「マシ」と教わった冷凍うどんを買うようにしている。 在京讃岐人の友人はいないが、同じような感覚なのではないか。 あの生麺を食べ慣れている人からすれば、讃岐うどんはかなりおいしいのではないかと思う。 あと、イリコなどを使った出汁の味だろうか。 イリコ出汁は、煮干しラーメンが流行ってからこっち、東京でも存在感を増してきた。 煮干し出汁は味が濃く出るので、カツオ昆布より簡単に味が決まる。 しかも安い。 鰹節で出汁を取るより、鍋から引き上げるのも簡単。 瀬戸内海に面した近畿・中四国エリアは、煮干しをよく使うので、兵庫県育ちの私にとっても馴染みのものだ。 もちろん、関西の麺もうま味がある。 違いはコシの強さぐらいか。 なじんだ関西のうどんと似ているから、それほど感動を覚えなかったのかもしれない。 ただ、セルフうどんの営業スタイルは、私が知る限り、関西にはない。 うどんは汁まで飲むもの、という習慣がある関西では、東京のうどんは「汁が真っ黒」と恐れられてきた。 私もその噂を怖がって、東京ではなるべく讃岐うどんの店を選んで食べてきたら、いつの間にか讃岐うどん派になってしまっていたらしい。 去年の秋に大阪へ行った折、いつものようにきつねうどんを食べた。 今までは、中に入った揚げの味と、青ネギの香りに気を取られていたが、このときなぜか、うどんの柔らかさに気がついたのである。 何だこれは、ずいぶん柔らかいやん。 大阪うどんは結構柔らかいのである。 芯はしっかりしているので、コシがないわけではないのだが。 その柔らかさが気になって、いまいち楽しめなかった時点で、讃岐うどんのコシにすっかりハマっていたのであった。 あの食べ応えのある弾力に、東京人はハマっているのではないか。 感動しなかっただけで、私もやっぱり讃岐うどんラバーではないか。 東京では、江戸時代に蕎麦より先にうどんが流行った。 しかし、濃口醤油が生まれ、カツオ出汁が使われる東京の味は、うどんより蕎麦向きだったので、蕎麦のほうが人気になったと言われている。 蕎麦は何といっても濃口醤油が合う。 武蔵野うどんというのもある。 一度東京都市部で食べた具だくさんのうどんは、やはりコシがあっておいしかったように思うが、 23区内で武蔵野うどんに出会ったことはない。 農村部で発達したうどんは、都心にあまり進出していないようだ。 ローカルなうどんもあるのに、讃岐うどんが流行るのは、何でも流行する東京だからか。 それとも、出汁にうまみにコシと、三拍子そろった讃岐うどんが完璧だからか。 東京のブームでは、一過性に終わるものと、新たに定着するものがある。 ブームから 20年経った讃岐うどんは明らかに後者だ。 確固たる理由がこれ、とは結局分からないけれど、おいしいものは、どんどん採り入れて自分たちのものにしてしまう、その吸収力こそ、東京の恐ろしいところかもしれない。 (第5回・了) 本連載は、隔月で更新します。 次回、2020年9月15日(火)ごろ更新予定• 東京人はなぜ讃岐うどんを愛するのか? 1•
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