でも今は信じている、これはその原因となった話。 私は二年ほど前コンビニでバイトしていた。 そのコンビニは二十三時に閉店という田舎丸出しの店。 実際は客が少ないからというより、近隣住民の苦情が多かったため その日は私と後輩の佐藤、二人でバイトに入っていた、時刻は二十二時四十五分。 「そろそろ閉めるかぁ」 「そうですね~、ジャンプ読みたいですし早く閉めましょ~」 閉店は二十三時だが実際タイムカードを押すのは二十三時三十分という決まりがあったため、 いつも私達は早く閉店準備し、漫画を読んで時間をつぶすのが恒例になっていた。 その日も売上の確認、自販機の精算、洗いものを急いで終わらした、時刻は二十三時ちょうど。 入り口の鍵を閉め、電気を落とし、私達は裏でマンガを読み始めた。 コンビニの入り口に入る時に鳴るアレです 「ん?誰か来たかな、佐藤ちょっと見てきて」 「了解でーす」 私は佐藤に見にいかせ、監視モニターを入り口に設定した。 監視モニターは店内に複数ある監視カメラの映像をテレビに映すもので、 普段は三秒間隔ほどで映像が切り替わっていきます。 この時は入り口のカメラだけを映すよう設定したわけです。 監視モニターを見ると、女の人が立っていた。 髪が長く白っぽいワンピースを着ていたのは分かったが顔までは確認できなかった。 様子を見にいった佐藤がモニターに入ってきた、佐藤は入り口の外を軽く見渡す動作をした後こちらに戻ってきた。 「女の人いたやろ?お前、あぁいう時は鍵開けて対応しやなあかんやろ」 このコンビニは店を閉めたあともしばしば客がやってくる、まさか二十三時に閉まるとは思ってないのだろう。 そのためこういうケースは頻繁にあり、そのたびにお詫びを申し上げて帰ってもらっていた。 レジ閉めて精算した後だからややこしくなるのよ なので、様子を見ただけで帰ってきた佐藤に一応先輩として注意したわけ。 「え~?俺外見たけど誰もいませんでしたよ?」 「いやいや 笑 女の人いたやろ、俺モニターで見てたから」 「ほんまですか~?俺ちゃんと見ましたよ~」 ドアの外正面に立ってたのに見えなかったはないだろうこのクソ野郎が!! なんて思っていたが、まぁこの佐藤はお調子者な奴でミスを指摘してもシラを切り通すタイプだから、 対応するのがめんどくさかったのだろうと思っていた。 「……そうか、ま、えぇわ」 監視モニターの設定を順送りに戻し、私達は再びマンガを読み出した。 ……十分経過 私はちらっと腕時計に目をやった、時刻は二十三時十五分。 あと十五分か、読みきれるかな なんて思いながらふとモニターに目を向けた、モニターにはお酒コーナーが映し出されている。 パッと画面が切り替わり週刊誌コーナーが映しだされた。 その時…… 週刊誌コーナー正面のガラスの向こう、店の外にさっきの女が立っていた…… 女はこっち 監視カメラを 見ているようだった。 監視カメラというより、監視カメラ越しに私を見ているような感覚がして気味が悪かった。 次の瞬間弁当コーナーに画面が切り替わった。 「おい……外にさっきの女いたぞ」 「え~、だからそんなんいませんでしたよ~」 「……んじゃ俺が見てくるわ」 この時点ではひやかしか、ちょっと変な人ぐらいにしか思っていなかった。 立ち上がろうとした瞬間、 「先輩……待って!!ちょ、ちょ、モニター!!」 「モニター?」 モニターに目をやるとお菓子コーナーが映し出されていた……が、 そこにはさっき店の外にいた女が立っていた……今度はカメラに背を向けていた。 「え……え……?」 佐藤はパニックだった。 無理もない、鍵は確実に閉めてあったはず、鍵を抉じ開ける音もしていなかった。 というよりさっきさっき店の外で確認してから20秒もたってない、鍵があったって不可能に近い。 「お、落ち着け……」 私はそのおかしコーナーにモニターを固定した。 女は相変わらす動かない。 私と佐藤はビクっと電話に目を向けた。 電話は2コールほどで鳴り止んだ。 ハっと思いモニターに目を向けた……女はいない。 「ちょ……先輩……お、お、お、女は……?」 私はあわててモニターを切り替えのボタンを押した。 ピ、週刊誌コーナー異常なし ピ、お菓子コーナー異常なし ピ、お酒コーナー異常なし ピ、カウンター異常あり いた、カウンターの中に。 背を向けて立っている。 「先輩……ち、ちち近づいてきてるんじゃ……」 もうこの時点で確実に人間ではない気がしていた 正直心の中では佐藤より大パニックだった。 幽霊を信じないからこそ2chのオカルト板に入り浸ったりしていたが、自分が出くわすなんてまったく考えもしていなかった。 女は相変わらず背を向けて立っている。 「……どうする?」 「ど、どうするって先輩……どうにかしてくださいよ……」 「……逆のドアからダッシュで逃げるか」 今私達がいる裏に入るにはカウンターからと、カウンターの向かいに位置する奥のドアから、二つの入り口がある。 しかし、逆のドアから出ても、店内を通って入り口の鍵を開けて外へ出なければならない。 その時に女と出くわすことになる、それは危険…… などと考えをめぐらせていたその時、 「ぎゃぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああ!!」 佐藤が叫んだ。 モニターを見ると体は背を向けているのに顔だけ180度回転してカメラを見ている。 口は笑っている……ように見えた。 「……ッ!!」 私は声にならなかったが、正直ちびるかと思った。 女は相変わらず不自然な格好でこちらを見ている。 「あかん……あかんあかんあかんあかんあかんてぇぇぇぇ!!」 佐藤は半狂乱しながらモニターの電源を落とした。 「し、しばきましょ!!あいつあかんあかんあかんしばいて逃げましょ!!」 佐藤大パニック。 「お、落ち着けて!!……裏から思いっきりダッシュするぞ!」 正直この時は、カギ開けるまでに女と絶対会うことになるし、なんとなく俺らは死ぬんだと思ってた。 幽霊なんて架空のものだと思ってた、それが今すぐそこにいる。 俺はカギを手にとった、その時……モニターの電源が勝手についた、 映し出されたのは……女のドアップ。 顔は全く笑ってない、これ以上ないってぐらい無表情、それが余計に怖かった。 肌は白っぽい、つか、死んだ人って感じの顔色、でも目だけマジ綺麗、吸い込まれそうだった。 (あ、目が動いた、俺見た……あ、佐藤の方も見た…… つかどうやって天井近くにあるカメラに顔だけ映ってんだろう?) なんてムダなことを一瞬のうちに考えていた、走馬灯みたいなもんかな。 あまりの恐怖と驚きでなぜか冷静だった。 あ、そうだ、佐藤は…… 「……む……むりむりむりむりむりむりむりむり!!殺されるぅぅぅぅ!!」 佐藤は錯乱しながら裏のドアに走りだした。 「ちょ……待て!!」 佐藤は裏のドアに猛ダッシュし、ドアノブに手をかけ…… 「……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁああああ!!!」 佐藤は絶叫し、その場に倒れこんだ。 「お……おい!!佐藤!!」 私は意識を失っている佐藤のもとに駆け寄った。 頭を抱えて起こそうとするが佐藤に返事はない……気を失っているのか。 ふと、私はドアを見た。 「……う、うわぁぁあぁ!!」 佐藤が見たものが分かった……。 ドアの窓から女が……こちらを見ている。 それもケタケタケタケタ、バカにしてるような笑みを浮かべながら。 ドアについてるこの四角い窓だけど、後でよく考えたらマジックミラーだった。 だから店内からは鏡に見えるはずなんだけど。 私は恐怖と共に、「何故こんな目に合わなくちゃいけないんだ」と怒りがこみ上げてきた。 「……やねん……なんやねんお前!!何がしたいねん!!どっか行けや!!」 私は勇気を振り絞って全力で叫んだ。 すると、ケタケタ笑っていた女の笑みが止んだ。 そして……一瞬睨むような恐ろしい目つきになり、スーっと窓から立ち去った。 「はぁっ……はぁ……どっか行ったか……」 安心……したのもつかの間。 店内から激しい物音が聞こえてきた、棚が倒れる音だ。 -バタン!!バターン!!……ドスン!! (怒らせてしまったのか) 俺は佐藤の傍に座り込んでガタガタと震えていた。 正直精神的にどうにかなりそうだった。 -ドスン!!バリッ!!メキ……バタン!!…… …… ………… どれくらいの時間だったろうか、たぶん一分ほど激しくなり続けていた音が止んだ。 (気がすんだのか……) 私は立ち上がろうとした。 その時、 -プルルルルル、プルルルルルル 電話が鳴り出した。 -プルルルルル、プルルルルルル 鳴り止まない、私はとるのを躊躇った。 さっき電話がかかってきた時、モニターから私達の気をひくような不自然なコールだった そして、静かになったと思ったらこれだ、タイミングがよすぎる。 しかし、もうどうにでもなれ、そんな気持ちで私は電話をとった。 「……もしもし」 「……………………」 「もしもし!!」 「……………………」 私は確信した。 「早く……早くこっから消えろ!!」 「……あ……あ……あああ」 (しゃべった?!) 「あ・・あ……ひ・ひ・・ひィィひひひひひィィひィひひひひひィィィひひひひひひひひひひひ」 (や、やばいやばいやば……) その瞬間、私は頭の全思考がストップした。 声が……声が……受話器からだけじゃない。 すぐ……私の……後ろからも…… ゆっくりと振り向く。 「ぎ、ぎゃぁぁぁぁあああぁああぁあああああああああああああ」 そこには……気味の悪い笑い声を発しながらも、この世のものとは思えない形相で睨む女の顔があった。 ……私は気を失った。 私は気を失った。 「……い……おい!!起きろ!!」 「先輩!!起きてください!!」 誰かに呼ばれている、私はゆっくりと起き上がった。 そこにいたのは佐藤と店長だった。 時刻は四時五十分、六時に店が開くため店長が出勤してきたのだろう。 それにしても何て長い間気を失っていたのかと自分でも思う。 「何があった!!何で店の中があんなことになってる!?」 店長は驚きと怒りでいっぱいといった様子だ。 「佐藤、お前店長に何があったか言ってないんか?」 「はい……まだ信じられなくて……先輩から言ってくださいよ」 さすがの佐藤も気が滅入ってるようだ。 「実は……」 私は店長に一部始終を伝えた。 「そんなあほなことが……そうや!!監視カメラ見れば……!!」 「や、やめときましょ!!」 佐藤が叫ぶ。 そりゃそうだ、もうあんな顔は見たくない。 そういうわけで、私は二十三時から見てくださいとだけ伝え、佐藤と共に店の外で頭を冷やして待つことにした。 -二十分後 「佐藤!!本田!!入ってこい!!」 店長が言った。 「お前らが言ってた女は映ってなかった。 ……ただ、棚はひとりでに倒れていった。 どうやら嘘じゃないみたいやな……」 「女は映ってなかったんですか……?」 「あぁ……でも、俺もこういうことを全く信じないほど頭が固いわけでもない。 実際勝手に棚も倒れてる、お前らの言うことを信じないわけにもいかない」 どうやら店長も信じてくれたようだ。 「お前らはもう帰れ、とりあえずみんな アルバイト に電話して片付け手伝ってもらえる奴いないか聞いてみる。 あと、このことはみんなには言うな。 ビデオも俺が処分する、大丈夫、みんなには適当にごましとくさ」 「わかりました……佐藤帰ろうか」 「はい……そうですね……」 「おう、気をつけてな!!もう忘れろよ!!」 私達は外に出た、五時すぎだが冬だったためまだ空は暗かった。 「佐藤、送るわ、乗ってけよ」 佐藤は徒歩で十分ぐらいかけて通っているが、さすがに心細いだろうと思って佐藤を車に乗せた。 ……うん、もちろん私が怖かったのもあるけどね。 まぁ、いつまでもくよくよしてても意味がない。 きっぱり忘れるのが正解だ!! 私は力強く自分に言いきかせ、車に乗り込んだ。 「よっしゃ!!帰るか!!さ……と……」 佐藤が口を大きく開き、目を見開いて店の中を見ている。 「あ……あ……」 「佐藤!?……ま……まさ……か」 私はゆっくりと振り返り店内を見た。 店長が掃除を始めている……その後ろにいたのは…… 私は光のごとき速さでエンジンを入れ車を出した。 佐藤は終始無言だった。 佐藤を送り、帰宅した私はベッドに倒れこんだ。 「正登!!いつまで寝てるの!?お昼過ぎてるよ、授業あるんちゃうの!?」 母の声が聞こえてきた、時刻は十三時前、ずいぶん寝ていたようだ。 あ……そうだ、私にはしなければならないことがある。 店長に電話して無事を確かめること、あと……バイトをやめると伝えること。 さすがにもう続けることはできない。 電話をかけた。 「もしもし、本田です」 「おぉ、どうだ、寝て少しはスッキリしたか?」 「えぇ……まぁ……それよりあれから何も起こらなかったですか?」 「何か?……あぁ……大丈夫、何もなかったぞ」 私は店長の話すトーンに何か違和感を感じた……が、あえて触れようとはしなかった。 「それで店長……バイトなんですか、やめさせていただきたいです」 「なんだ、お前もか……佐藤もついさっき電話があったよ、やめるってな」 どうやら佐藤も考えてることは同じだったようだ。 私はバイトリーダーだったため、一度店に来てほしい、話がしたいと言われたが拒否した。 もうあの店には行きたくない。 私はそれっきり店に行くことにはなくなった…… ちなみに私たちが辞めて一ヶ月がたったころ、店は潰れた。 バイトしてた人に聞いてみると営業不振が原因だったらしい。 やはり気になったので店長に連絡をとった。 バイトの人には営業不振と伝えてあるが、実際は違うようだった。 理由を聞いても店長は言いたがらない……私はおそらく女が原因だろうと思っている。 そのコンビニは今も残っている、土地は店長のものだろうが建物はそのまま。 時がたった今も、車でその店の前を通ることがあるのだが、 私は絶対店の方は見ないようにしている。 ……たとえどれだけ目線を感じても。 (了).
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