事実、新海誠監督は『天気の子』の小説版のあとがきにて、映画というメディアにおける(小説とは異なる)表現方法について、こう記しています。 「映画の台詞は基本的に短ければ短いほど優れている(と僕は思ってる)。 それは単なる文章ではなく、映像の表情と色、声の感情とリズム、さらには効果音と音楽等々の膨大な情報が上乗せされて完成形となるからだ」と。 だからこそ、『天気の子』は1つ1つのシーンそれぞれに「これはこういうことなんだろう」と深読みができる、登場人物のそれぞれの気持ちを考えてみるとさらなる感動がある、重層的な物語構造も持った豊かな作品になったのでしょう。 なお、項目2. 参考としつつ、観た方がそれぞれの解釈を見つけていただけたら幸いです。 例えば、序盤の彼は頰と鼻にバンソウコウを貼っていて、漫画喫茶で過ごしていくうちに剥がしています。 実は、小説版では帆高が「親父に殴られた」という記述があるのです。 映画でのバンソウコウは、その殴られた時の傷を治すためのものだったのでしょう。 そんな帆高は、後に反社会的な行動を繰り返してしまいます。 しかしながら、彼は序盤でお酒を並べられ乾杯を促されても「未成年だから」とジュースを自ら選び取っていて、終盤でもバイクで二人乗りをする時にヘルメットを(あごひもは忘れていますが)ちゃんと被っています。 須賀にはご飯を奢って恩を返していますし、後にアメと名付ける迷子の猫にも栄養機能食品をあげています。 彼は客観的に見れば正しくない、はっきり犯罪と言える行動をしているようで、根っこでは最低限の社会性もあったのでしょう。 その過去を明確に描かなかったことも、観客それぞれの経験や過去を彼に投影しやすくなりという点でもプラスであったと、肯定したいです。 具体的には、彼は冨美という老婦人の家に訪れたとき、肩たたきや肩もみをしてあげているんですよね。 しかも、姉の陽菜が母を亡くしてからずっとバイトをしている理由について「きっと俺のためなんだ。 俺、まだガキだからさ」と、姉が自分のことを大切にしているということを、子供であることも自覚しつつ言葉にしているのですから。 また、凪は終盤に「カナ、こちらアヤネさん。 アヤネ、こちらカナちゃん。 こちら、婦警の佐々木さん」と丁寧にその場にいる人を紹介しています(このカナとアヤネという女の子の名前は演じている人気声優の花澤香菜と佐倉綾音から取られており、それぞれの名前と苗字が入れ替わっています)。 実は、序盤では姉の陽菜も同様に「帆高、この子、弟の凪。 この人、帆高。 私のビジネスパートナー!」と丁寧に紹介しているんですよね。 凪はお姉ちゃんの行動から素直に学び取っている、お姉ちゃんっ子であることもわかるのです。 で後述します)。 鑑賞後にお読みください。
次のぱっと目を開く。 時計を見たら、想定通りの時間。 よし、今年は俺の勝ちだ。 下で寝てる姉ちゃんを起こさないように、そっと、そっと梯子を下りて台所にいる母さんに声をかける。 「母さん!あけましておめでと!」 「凪、早いわね。 あけましておめでとう」 「ねえねえ!あれだしてよ!」 挨拶もそこそこに、俺は母さんに掌を差し出した。 「あー、はいはい、あれね」 母さんが手渡してくれたのは、ビニールに入って丸まった筒状の物体。 まだまっさらなままの、今年のカレンダーだ。 袋を破り捨て、くるくると広げると、大きく2020の文字が躍る。 ぺらぺらとめくり、8月のページを探す。 その22日は……と。 右手に黒マジック。 そこに大きく書くのは 「よし!」 姉ちゃんたん生日! 俺にとって、1年で最も大事な日の一つ。 1年の計は元旦にあり、我ながらいい仕事ができたとおもう。 「おはよう……」 その姉ちゃんが寝ぼけ眼をこすりながら、うめき声をあげる。 「陽菜おはよう。 あけましておめでとう」 「姉ちゃんおはよ!あけおめ!」 「おめでとう……っああああ!!!!!」 さっきまでの半寝声が嘘のような、この年ならぬこの世の終わりのような声を、姉ちゃんは上げた。 「凪にとられたあああ」 その視線は俺の手にしたカレンダーに向けられている。 「へっへー」 今年は俺の勝ちだ。 姉ちゃんにむけて、俺は得意げな笑みを浮かべていたと思う。 「むー、私も書く!」 言うなり俺の手からペンをひったくった。 「ふっふー」 俺の誕生日の欄に、凪誕生日!!と書かれていた。 競争に負けたのに、その表情はめっちゃうれしそうで、思わず吹き出しそうになる。 「ふふ、陽菜も凪も、本当に仲良しねえ……いつまでも、2人で仲良くね」 母さんの言葉に、俺と姉ちゃんはそろって頷いた。 「当たり前だよ!」 「あ、いや、お母さんも一緒だから、3人じゃね?」 「……そうね」 「あ、お母さんの誕生日、私が書いちゃおっと!」 「あっ姉ちゃんずりぃ!!」 何も疑っていなかった。 母さんの誕生日も、姉ちゃんの誕生日も、俺の誕生日も、この先も3人でお祝いしていくんだって。 [newpage] 「あれ、姉ちゃんそれ」 年末、バイトから帰ってきた姉ちゃんは、脇に筒状のものを抱えていた。 「ああ、バイト先の人からもらったの。 今年のカレンダー」 「へえ」 「……先に書いていいよ」 差し出されたペンとカレンダーを、手に取る。 「……ありがと」 2021、と大きく書かれた表紙。 やることは去年と同じだ。 8月のページを開き、22日の欄にマークを付ける。 姉ちゃんたん生日! よし、次は……ページを開きかけ、手が止まる。 ……そのまま、閉じる。 もう、母さんの誕生日を祝うことはないんだった。 「姉ちゃん!書いた……」 こぼれそうになった涙を何とか押しとどめ、無理やり笑顔を作って。 呼びかけようとしたその人は、上着だけを脱いで、机に寄り掛かるようにして眠りこけていた。 「姉ちゃん、こんなとこで寝たら……」 すう、すうと小さな寝息が聞こえる。 姉ちゃん、年末ずっとバイトだったんだよな。 そして元旦からもバイトだって聞いてる。 それはきっと、俺のためで。 無造作に投げ出された腕は、思ってたよりもずっと細くて。 俺はその背中に、そっと毛布をかけた。 むにゃむにゃと、何かを言っている。 どんな夢を、みてるんだろう? [newpage] 「そういえば、1つ気になってたんだけど」 今日は、最後の晴れ女の日。 7時にうちに来た帆高を交え、俺たちは依頼内容の最終確認をしていた。 場所は、浜松町芝公園。 喘息持ちの娘さんの為に、公園を晴れにしてほしいというお父さんからの依頼。 そして明日は、姉ちゃんの誕生日だ。 それゆえか、横に座る帆高はどこか落ち着きがない。 指輪をプレゼントにするようけしかけた身としては、申し訳ないけど笑いが少し漏れてくる。 「何?」 「帆高の誕生日って7月1日なの?ほら、このIDとかさ」 姉ちゃんが指さしたのはタブレットのユーザー名。 TokyoBoy0701。 たしかに、こういうとこに付けるのはだいたい誕生日だというイメージがあるな。 「ああ、まあそうだけど」 「あーやっぱりそうなんだ。 じゃあ私と初めて会った時は15歳で、今は16歳なんだね」 ふふっと、姉ちゃんは笑う。 そういや、歳上設定なんだっけ。 「な、なんだよ陽菜さん!」 「別に。 もう少し早く知ってたらなあって。 そしたらお祝いできたのに」 「ああそういう……」 「ところでさ、お祝い自体はしたの? ほら、よく話してる居候先の、須賀さんと夏美さん……だっけ。 その人たちと」 「いや、聞かれてないし……何もしてない」 「ああ、そうなんだ」 話にきいてる限り、須賀さんと夏美さんは知っていたら、絶対お祝いしてくれるような人たちなんだと思う。 だからこそ聞かれない限り答えない、自分から言うのも憚られたんだろう。 なんだか、帆高らしいな、と思う。 姉ちゃんと一緒に明日祝えればいいんだけど、今から何か買いに行くってのも厳しいな。 となると 「じゃあ、来年!」 「え?」 2人が、同時に俺の顔を見る。 来年の7月。 帆高がそれまでずっと家出をし続けるのか、このビジネスをいつまで続けられるのか。 俺たちが1年後どうなってるのか、誰もわからない。 「来年の帆高の誕生日は、3人で祝おうぜ」 所詮は現実が見えてない、ガキの願望に過ぎないけど。 母さんが死んでから久しく忘れていた暖かさを思い出させてくれたこいつを、一緒に祝いたいんだ。 「じゃあさ、忘れないように書いとくね」 姉ちゃんが席を立ち、持ってきたのは今年のカレンダー。 もう過ぎてしまったけど。 ページを1枚戻し、7月を開く。 そこの1番最初、1日の欄に、帆高の誕生日!と書き加えていく。 「あ、ありがと」 「来年、ね」 俺たちの中で、もう1つ特別で、大事な日ができた。 [newpage] あと1分で、新しい年が始まる。 俺たちはそろってこたつに入って、さっきまで年越しそばを食べていた。 目をこすりながらテレビのカウントダウンを見つめる。 保ってくれ俺の……意識…… 「あけましておめでとう!」 「おめでとう陽菜さん、センパイ。 今年もよろしく……あれ、センパイ?」 テレビのわっという歓声、姉ちゃんと帆高の声がどこか遠く聞こえる。 「おめでとう、姉ちゃん、帆高……」 俺が覚えてるのはそこまでで、暫くの空白の後にばっと跳ね起きたそこは、いつものベットだった。 「おはよ凪」 「おはよ、センパイ」 時計を見ると9時すぎだ。 あれ、俺昨日はどうしたんだっけ 「帆高、姉ちゃん? 俺は……」 年が明けたとこまでは覚えているんだけど、そこで寝落ちをかましてしまったらしい。 「帆高が運んでくれたのか? すまねえ……」 「ううん、全然」 えーっと今日は元旦で……ということは…… 「あっ姉ちゃん! あれは?」 今の今までもやがかかっていた意識が一気に晴れる。 背筋がピンと伸びる。 「ちゃんと待ってたよ」 姉ちゃんは笑いながら筒状の「あれ」を取り出す。 もちろんそれは2025のカレンダーだ。 「陽菜さん、それカレンダー? 何するの?」 「私と凪が毎年やってたんだけどね、カレンダーのお互いの誕生日に、姉ちゃん誕生日!凪誕生日!みたいに印をつけるの。 毎年、どっちが先にやるかで競争になっててさあ……」 「へえ……楽しそうじゃん。 今年もやるの?」 「んー書きはするけど、今年は帆高もいるからなあ……」 「いや、俺にはお構いなく……」 「なに言ってんだよ帆高」 お前の誕生日も、俺たちにとっては同じくらい大事なんだぜ。 「3年前も言っただろ。 ……今度こそお祝いやるんだから」 せっかくあの時の約束を、3年越しで守れる時がきたんだし。 「……じゃあ、俺も参加させてもらおうかな」 「そうこなくちゃ」 「じゃあさ、誰が誰のを書く?」 姉ちゃんが書きたいのは当然帆高のだろう。 帆高が書きたいのも当然姉ちゃんだろうし。 となると…… 「えーっと、じゃあ俺は自分のを書くから、2人はお互いのを……」 「いや、それはないでしょ……あ、じゃあさ」 姉ちゃんは、いいこと思いついた、というように手を打つ。 普段は滅多にしないしぐさだ。 なんだなんだ。 その笑顔をみるかぎり、よほど会心のアイディアなのか? 「3人で、2人分ずつ書こう」 7月1日に、「帆高誕生日!」「帆高誕生日!」 8月22日に、「姉ちゃん誕生日!」「陽菜さん誕生日!」 そして俺の日に「凪誕生日!」「センパイ誕生日!」 「よし!!」 書き終えた俺たちは互いにハイタッチを交わす。 いままで、決して幸せなだけじゃなかった日だけど。 楽しみにしてくれる人が、一緒に祝うっていってくれる人がいる。 「なんだか今から楽しみになってきたよ。 まだ半年も先なのにさ」 「そうだろ、俺もだよ」 それだけでなんだか一層、待ち遠しくなる。 大事な日に、大事な人と一緒にいられる。 それってとっても特別で、幸せなことだと思う。 「じゃあ凪、帆高、初詣行こうか。 お礼でも言いに行こう」 「お礼か……そうだね」 今こうして、3人で一緒にいられる幸せに これから、3人で一緒にいられる未来に [newpage] おしらせなど ずいっぶんというかあれから4か月くらい経ちましたが、大阪こみトレ35にお越しくださった方、いまさらですがありがとうございました。 ひだまりマリッジ、お楽しみいただけましたでしょうか。 初めてのサークル参加だったのもあり、開場間もなくは私もるぅさんも黒猫さんもあまり余裕がなく、満足にご挨拶もできないかんじで、来ていただいた方申し訳ございません。 多くの方に手に取ってもらえて、雨のちアメメンバー一同、感謝感激雨のちアメ!!ってかんじです。 booth. pixiv. が、必ず近いうちにお届けしたいと思ってます。 完成の目処が立ったらまた、お知らせします。 円盤よりはあとかな…… C99も、コロナの終息を願って申し込むつもりです。 以上、ご報告とお礼でした.
次のお久しぶりです。 書かねば!と思うものはあるのですが、 年明けからやる事が多かった。 と言うより、時間以上に気持ちに余裕がなくなってしまい、 文字書きする余裕までなくなってしまっていました。 今もそう変わりませんが 遂に天気の子上映されましたね。 感動と言うよりもアツさ感じる映画だなってのが初見の感想です。 そして、その映画の二次創作小説を書きたいなと思い、 やっと仕上げました。 しかし、長いブランクとネタバレを恐れながら作って出来上がったのはコレでした。 クロスオーバー作品ですが、 タイトルを見た地点でピンと来た方もいらっしゃるかと思います。 映画初見の序盤でふと感じたことを膨らませました。 『間もなく、海上にて非常に激しい雨が予想されます。 甲板にいらっしゃる方は、安全のため船内にお戻りください』 東京へ向かうフェリーのエンジン音響く狭い2等客室の中、 都内で割の良いアルバイトはないか?と、質問を書いていた時に、 天候悪化を知らせるアナウンス放送を耳にした。 「やった。 行くか」 狭い客室に飽きていた僕は、 この天気なら甲板を独り占め出来る。 そう考え、客室に戻っていく乗客とすれ違いながら甲板へ向かった。 階段を上りきると強い海風、 機械油とフェリーの煙突から上がっているだろう煙の匂いが入り交じった独特な匂いが時折僕の鼻を刺す。 そして、広い甲板には僕一人、 ここには誰もいない。 息苦しかったあの島から出られた実感を感じながら空を見上げる。 陽光と青空がみるみる灰色の雲に覆われていく そして、額に雨粒が当たるや否や、 ドドー! ザー!なんてレベルではない大粒の雨が降り注いだ。 「すっげぇ!」 島に住んでいてこんな大雨に見舞われることはよくあった。 でも、その時は逃げなきゃ!という意識があっただろうが、 今の僕にはそんな事を考えたりしない。 おもいっきり浴びていたい。 この雨が僕には息苦しい島の何もかもを洗い流してくれるシャワー。 そんな気持ちすら感じていた。 が、そんな気分もつかの間、 頭上から降ってきたのは、 ドゴォ! 大粒どころか水の塊だった。 その水の塊に僕はバランスを崩した。 いや、バランスを崩したのは、フェリーそのものだった。 「うわぁぁ!」 大きく傾いた船体によって僕は甲板から滑り落ちそうになる。 その瞬間、 誰かに手首をつかまれた。 それによって僕の動きは止まった。 「あ……ありがとうございます」 滑り落ちそうになった僕を助けた人の姿を見た。 ……え? [newpage] 僕を助けてくれた人の姿を見て思ったのは、 「この島で何かイベントあったっけ? それともその趣味の人って東京へ向かう前からこの格好なのか?」 「おめぇ、何してんだ?」 その人は口を開いた。 銀髪の天然パーマに 死んだ魚のような目、 下に黒いシャツのような物を着て、 上は、白く縁に渦巻きの模様をあしらった着物みたいな服、 腰には……刀!? 「あ・あの……それって?」 僕は、その人の腰に差した物を指さした。 「ああ?木刀のことか? おめぇ、刀とでも思ったのか? 廃刀令以来刀腰に下げてるのは真選組か見廻組か攘夷の連中だけだ」 「え……ず・随分……役に入り込んでいるみたいですけど…… 何かのイベントに出るのですか?」 どう見てもその格好、コスプレにしか見えない。 東京でコスプレイベントでもあるのだろうか? 「イベント? 役に入るって何言ってんだ? 俺たちは、江戸へ帰るところだ。 おめえもそうだろう? この船に乗ってるのだから」 「え・江戸!? 江戸って、今から……150年前の東京のことでしょう。 幾らなんでも今は201ゅぅ……あれ?」 僕はその時になって気付いた。 ついさっきまでいたのは金属製のフェリーだった筈が、 今乗っているのは木造……船? ってか、船の先に海が見えない…… 僕は船の縁に近づいて見る。 え? ええ?? ええええええええ!? 船が、 空を、 飛んでる…… 僕は、夢を見ているのか? いや、ひょっとして僕は海に落ちてそのまま死んでしまって、 三途の川を渡ろうとしているのか? そ・そんなぁぁぁ……痛っ! 絆創膏を付けた頬に触れて感じた痛み。 少なくとも今生きているって事だよな。 「銀さーん。 どうしたんですか? 何か叫び声が聞こえましたけど」 遠くから誰かの声がした。 [newpage] そこに新たに現れたのは青色の袴姿をした丸眼鏡の少年……僕と同じくらいか? 「おー新八、 このガキがな、船から落っこちそうになってたから助けたんだけどな、 何かおかしな事言ってるんだ。 トウキョウって何のことか知ってるか?」 「トウキョウ?何ですかそれ? 京の聞き間違いじゃないですか?」 ……え?キョウ? 今日? 橋? 京……京都!? 「いや、京都のことを言っているんじゃないんです。 日本の首都は東京でしょ?」 周りの状況の変化について行けていない状況だが、 僕は思わず言葉を返す。 「キョウト?ニホン? なんだそれ? 新八、コイツもしかして家出してきた天人なのか?」 「ちょっ銀さん、 キョウトとかトウキョウは僕も知らないけど、 日本は江戸を含めたこの国の名前ですよ! ……って、君は一体何処から来たの」 シンパチ?って言う眼鏡の少年が僕に尋ねた。 っていうかアマンドってなんだ? 「あ・あの僕は、神津島って言う 一応東京都の中に属している所に住んでいて……」 「いや、だからそのトウキョウってなんだよ?」 すぐさま「ギンさん」と呼ばれる男から突っ込まれる。 うう、だから東京ってのは、今から向かおうとしている場所なんだけど。 それを説明しようにも、何だか自分の住んでいた世界と異なっているとしか考えられない今の状況。 それをどう説明したら分かってくれるのだろうか? 「銀さん・新八。 この少年、今流行りの異世界転移小説みたいに、 違う世界から来たんじゃないアルか?」 その時後ろから女の子の声がした。 [newpage] 「神楽?なんだその……異世界転移小説って?」 「銀さん知らないアルか? 小説の新しいジャンルで、 主人公一人だけが今まで住んでいた世界と全く違う世界に飛ばされて、 そこで生活しながら元の世界に戻る方法を探す話アル。 それで今流行りなのは、道ばたに現れた魔方陣に触れたら、 魔法が使える世界に飛ばされちゃって、 その男を召喚したのが、魔法をロクに使えない口うるさいガキ女で、 その召喚した男を、「バカ犬」呼ばわりして 男はガキ女にコキ使われる話アル」 「何ですかその夢も希望もない話は? 何か微妙に神楽ちゃんに通じる物が……」 「新八、何言ってるアルか?」 「いや、なんでも」 シンパチと呼ばれる少年と、 カグラと呼ばれる ピンク髪を両側に髪まとめのアクセサリーらしき物で留めた 色白なチャイナ服っぽい格好した割と美少女だろうが、口が悪そうな女が言い合っている。 「あ・あの、僕確かにそうかも知れません。 僕が神津島から出航した船は鉄製で、空に浮かんでなんかいなかったし…… そもそも、東京を未だに江戸って呼んでいるって事はもしかして年号も違うって事じゃないのかな? 僕の住んでいた世界は、令和3年。 あ・西暦だと2021年だったのですが……」 「「「れい?……に・2021年!?」」」 三人とも同じように驚愕した。 「ああ、やっぱり違うんですね。 僕の時代よりも未来じゃないとこんな船は……」 「いやいや! 君の方が、えーっと……150年以上未来から来ているんだよ!」 「え!? そ・そ・そんな訳ないでしょう? 150年前の過去って……江戸時代の終わりか明治時代になる前ぐらいの時代のはずでは……?」 今乗っている船には飛行機のような翼はない。 かといって上にプロペラがある訳でもない。 こんな海に浮くように設計された形をしている船が、 空を飛ぶだなんて、 今のテクノロジーでは想像できない。 やっぱり夢でも見ているのじゃないか? あ・でも痛み感じたから、そうでもないや。 森嶋帆高の頭は混乱の中にあった。 [newpage] 「メイジ? もしかしたら……その……君が知っている歴史と、 この世界の歴史はどうも違うんじゃないかな? 確かに20年ぐらい前までは、 君の知っている江戸時代だったかも知れない。 君の歴史ではこの国に何がやって来た?」 「何が?って、江戸時代末期に浦賀に東の海の向こうにあるアメリカという国から大きな黒船がやって来て、 それまで他国とあまり交流していなかった日本が開国することになったんだ」 つい最近まで歴史の勉強ではそれを「鎖国」と読んでいたけど、 僕の頃からはその表現はなくなった。 歴史研究が進み、当時の状況を正確に言い当てた表現ではなくなったからだと、 先生が言っていたな。 「ああ、じゃあここで歴史が違ってしまっているんだ。 実は、この世界で20年ぐらい前にやって来たのは宇宙からやって来た天人なんだ。 そしてその結果この国、日本はガラッと変わってしまったんだ」 え?宇宙からって…… 「天人って宇宙人のことですか!?」 「私もその天人と呼ばれている人アルよ」 カグラと呼ばれている少女が口を挟んだ。 「え?そんなに人間と変わらないんですかその、「天人」って?」 「いや、姿はやって来る星で異なるよ」 「そ・そうなんですか……」 「で、その天人がたくさん来てその科学技術もやって来たものでこの国の生活環境が激変したんだ。 この船も確かに天人の科学技術で動いているんだ」 「そ・そうなんですね……」 信じられない……。 と言いたかったけど、 向こうに言わせれば、僕の世界の方が信じられないかも知れない。 「って事は、これみたいなのも有るって事ですか?」 と、僕は懐からスマホを取り出した。 「なんだ?この黒い……ってこんな小さいテレビがあるのか!?おめえの世界には?」 銀さんという男が僕のスマホに映し出された画面を見て驚嘆した。 「ええ!?この世界にもテレビがあるのですか!?」 僕にとっては、この時代にテレビというメディアが有るって事の方がずっと衝撃だ。 「うん、有ることにはあるけど、お茶の間に置く大きさのもの位なんだよ。 でも、そのテレビよりもずっと絵が綺麗じゃないのかな?」 新八という少年も、興奮しながら話す。 「い・いや、見られる機種もあるけど、 これにはテレビを見る機能は無いんです」 「じゃぁソレ何アルか?」 カグラって子が尋ねる。 「これは、スマホ。 いや、正式にはスマートフォンって言って、 本来は電話をする道具なんですが、 ……電話って分かります?」 まさかと思うがこれだけのテクノロジーがあるのなら電話はありそうな気がするが。 「ああ、なんだ携帯電話のことか。 ここに有るのとは違うんだな」 「ええ!!携帯電話もあるんですか!?」 「普通にアルよ。 これ」 と、カグラって子が見せたのは 折りたたみ式の携帯。 「ちょ!?これって僕の世界で10年前にあった機種と変わらないのがあるのですか? ってか、メール機能に、カメラ機能も!?」 電話があるとしても有線程度と思っていたのだが、 まさか携帯電話まであるなんて。 この世界ってもしかして150年以上進んでいないか? 「それにしちゃあ電話やメール出来るくらいならそんな画面必要ないんじゃないか?」 銀さんって言う男は問う。 「いや、僕の世界では、これは電話以外の機能を使うことが多いんです。 カメラ・動画撮影・音楽再生機能・地図情報・インターネット・ゲームとか……」 「なんか知らないものもあるが、これ一つでいろんな事できるんだな。 にしても、そのインターネットってなんだ?」 「えーっと……なんて言うか、 世界中の情報……文字や画像や動画を見たり出来るものなんですが、 ここは……やっぱり対応している電波はないから、 見ることが出来ないですね」 「なんだソレじゃああまり使い物にならないな」 ……確かにそうなんだよな。 色々出来るったってそれは、電波があって出来ること。 今の僕自身もこのスマホのようにエリアの外にいるようなものだけど。 「それよりもボタンがないのにどうやって動かすの?」 シンパチが尋ねる。 「ああ、これはタッチパネルで操作するんだ。 音楽機能は使えるからを……」 僕はスマホ内に保存されている音楽データを再生すべくスマホ画面を操作すると、 「す・スゲぇ!」 「ボタンがなくても操作出来るの!?」 「流石未来の道具アル!」 三人それぞれにリアクションする。 タッチパネルまでは無いようだ。 そして僕は音楽を再生する。 それに食いついたのはシンパチだった 「すげぇ……聴きたい音楽が手の平で聴けるのか…… って事は、お通ちゃんの歌も聴けるのかな?」 「え?えーっと、 今の状態ではボイスレコーダー機能で録音するか 動画撮影機能で録画することしか出来ないと思うけど」 「ええ?そんな事も出来るの!? これで歌って踊る姿も持ち歩けるのか? すごい!すごすぎる!」 シンパチという少年は、スマホでは当たり前となった機能に興奮している。 「ええ……っていうかお通ちゃんって……もしかしてこの世界にはアイドル歌手がいるの!?」 「ああ、いるぞ。 それで新八はその親衛隊隊長だ」 ギンさんはサラッと答えたが、僕にはかなり衝撃だった。 「ええ!?この20年でその文化が出来上がっているんですか!?」 この世界は、学校で習った150年位の歴史がこの20年の間に凝縮されて進歩しているようだ。 でも、ここまで自分いた世界と変わらない物があると、ひょっとしたらこれは壮大なドッキリでこれも大がかりなセットで……と思ってしまうが、 「あ・江戸が見えてきたアル」 カグラの声に船の進行方向へ目を向けた。 そして、そんな僅かな希望は打ち砕かれた。 遠くにはビルみたいな建物があるが、 その手前には立派なお城。 もしかしてこれが江戸城? それ以上に目を向いたのは飛行機の形状と異なる浮遊する物体があちこちを飛び交っていたこと そして、眼下には近代的な建物ではなく、 時代劇にありそうな瓦葺きの屋根に茶色い道。 アスファルトの道路ではないのは確かだろう。 それが眼下一面に広がっていた。 「ああ……僕は本当に、僕の知らない日本に来てしまったんだ……」 神津島から家出する時……、 雨の中その隙間から零れる光の筋、 それは追いかけても追いつけず、 追いついたと思っても、すぐに島を抜けて海の向こうへ行ってしまう。 あの光の中心、僕はそれを東京の中心と重ねていた。 そこへ行きたい。 そう思ってフェリーに乗った。 でも、今たどり着こうとしているのは、 まるで異国のような日本。 東京でもなく、日本史で学んだ内容とは異なった姿をした江戸。 持ってきたお金もスマホも役に立たないだろう。 もう、帰りたくない。 そう思っていたけど、 元の世界にもう帰れないかも知れない。 そう思うと僕は、力なく座り込んでしまった。 [newpage] 「そういや少年。 あんたの名前聞いていなかったな」 ギンさんって人が声をかけた。 「ああ……そうでした。 僕は……帆高。 森嶋帆高と言います」 「俺は坂田銀時だ」 「僕は志村新八」 「私、神楽アルよ」 ここに来て互いに自己紹介することになった。 「で、帆高さあ、お前行くところないだろ?」 「え・ええ、確かにそうですね」 「だったら、これも何かの縁だから、 俺の所に来るか? 俺はかぶき町で、『万事屋銀ちゃん』っていう何でも屋をやっているんだよ。 そこの従業員として働いてみるか?」 「ええ!?良いんですか?」 「ちょ!?銀さん!これ以上財政を逼迫させないでくださいよ!」 「新八、お前スマホって奴に食いついていたろ? この世界とは違う人間が来たんだ。 俺たちの知らない考えが出てくるんじゃないのか?」 「銀さん違うアルよ。 万事屋に帆高が来たら、自分のポジションを奪われるかも知れないと焦っているネ 今のところ、新八の下位互換だろうけど、 結構活躍しそうな気がするアル」 「ちょっとー!それどっちに対しても失礼でしょ!?」 キレ気味にツッコミを入れる新八。 このやりとりで、この3人の役割が分かった気がする。 「よし、そろそろ江戸の町に着地するぞ」 僕はあの日、水の塊をかぶった瞬間から、 世界の形が決定的に異なった地に足を…… 「定春、行くアルよ」 え? 僕の後ろに何かの気配が。 「うわぁ!」 振り向いたらそこには大きく真っ白でもふもふな物体が。 熊?いや、犬? 「忘れていたアル。 コイツ、定春って言って私のペットアルね」 「でも餌代こっちが出しているんですよ」 「必要経費アル」 は・ハハハ…… もう戸惑ってなんかいられないや…… 僕は世界の形が決定的に変わってしまったもう一つの日本を受け入れていきながら、 生きるしかないのだろうな。 ……そう思いながら帆高は、 未知の世界、未知の日本、未知の江戸に足を踏み入れたのであった。 [newpage] 『銀魂ワールドに迷い込んでしまった森嶋帆高』 『幾度となくつぶやく「……江戸って怖えな」』 『そこは歌舞伎町とは別の意味で魑魅魍魎が蠢くかぶき町』 『果たして帆高は新海ワールドへ生きて帰ることが出来るのであろうか?』 続かない。
次の