躁うつ痛は、うつ状態と躁状態の症状を繰り返すタイプのものです。 うつ状態のときの症状は、通常のうつ病の症状とほとんど同じです。 それでは、躁状態のときの症状はどのようなものでしょうか。 主な症状は以下ようなものです。 ・気分が高揚して、陽気になる ・気分が爽快になる ・活動的になり、ほとんど眠らずにものごとに熱中する ・多弁で早口になる ・話の内容が、全体としてまとまりがない ・次々にアイディアがわいてくるが、考えも次々に変わっていく ・自分はえらいと思い込み、態度が尊大になる ・感情が不安定で、ささいなことに泣いたり、怒ったり、感激してしまう ・自分の気持ちが抑えられなくなる。 このため攻撃的になり、暴力をふるったりする ・自分勝手になる。 他人の権利を平気で無視したり、社会の規範を破ったりする ・誇大妄想のようなことを言う ・血統や宗教にかかわるような妄想をいだく このように、躁状態というのは気分がかなり「ハイ」の状態です。 症状が軽いうちは、行動的でやる気があるようにみえます。 しかし、この症状が強くなると、大騒ぎをしたり、できそうもないような大きなことを言ったり、さらには気が大きくなっていますから、とんでもないことをやってしまいます。 自分が能力のある人間だと思い込んでしまうので、周囲の人が無能に思え、対応もえらそうになります。 部下をどなりつけたり、上司とけんかをしたり、とんでもなく大きな取引を勝手に決めたりしてしまいます。 気前がよくなって、高価なものを買ってしまったり、莫大な借金をしてしまうこともあります。 また、けんかも多くなります。 まわりの人々の気持ちなどは一顧だにしないため、人間関係もどんどん悪くなっていってしまいます。 しかも、こうした問題を起こしても、ほとんど自分が病気であることを自覚していませんから、始末に負えません。 言ってみれば、自分の言動にまったくブレーキがきかない状態になってしまうのです。 このため、家族をはじめまわりの人は、完全に振り回され、疲れ果ててしまうことになります。 躁うつ病の原因 発症の年齢は、比較的若い年齢層が多いようです。 原因については、従来の「内因性のうつ病」の観点からいうと、原因はわかりませんが、環境やストレスなど外部からの影響がなく、体の内側から起こるとされています。 遺伝的な体質もひとつの要素ではありますが、遺伝病ではないので、こうした体質を持っているからといって、躁うつ病になるとはかぎりません。 躁うつ病の診断と治療 躁うつ病は躁状態とうつ状態が繰り返しあらわれますが、それらが同じような間隔であらわれるというものでもありません。 どちらかといえば、うつ状態の期間のほうが長いといわれます。 診断にあたっては、躁状態で始まった人のケースでは、医師は躁うつ病の可能性を考えて、治療や対応にあたることが一般的です。 というのも、心身ともに高揚した状態、つまり躁状態だけが長く続く「躁病」がありますが、日本ではうつ病や躁うつ病にくらべると、それほど患者数は多くはないからです。 これに対して、うつ状態から始まったケースでは、うつ病なのか、躁うつ病なのかという判断はたいへんむずかしくなります。 うつ病として治療を続けていた人が、だいぶ改善してきたと思われたとき、急に躁状態に変わることがあるのです。 そのときになってはじめて、躁うつ病であったというケースもありえます。 入院が必要な場合 なお、躁状態が似ているほかの病気としては、 統合失調症や 非定型精神病、 甲状腺機能亢進症などがあり、区別がむずかしく、医師は慎重に診断し対応することになります。 躁うつ病の治療は、休養と薬が基本となります。 患者の躁状態があまりにも強すぎる場合には、医師が入院をすすめるケースも出てきます。 入院させることで、十分に休養させることばかりでなく、患者に前述のようなトラブルを起こさせないようにすることができます。 また、家族が振り回されて、対応に疲れ果ててしまわないようにするためにも、入院は必要な措置といえます。 躁うつ病の治療薬 治療薬は、 炭酸リチウム(商品名・リーマス)が中心となります。 吐きけや下痢などの副作用はありますが、躁状態の治療にはたいへん効果があります。 このほか、 カルバマゼピン(商品名・テグレ トールなど)や パルプロ酸ナトリウム(商品名・デパケンなど)など、てんかんの治療薬も使われます。 医師は、患者の症状をみながら、こうした薬を処方していきます。 むずかしいのは、一方の症状からほかの症状に移るときや、両方の症状が同時にみられる混合状態のケースなどです。 こうした場合の薬の処方にあたっては、医師は慎重に患者の状態をみながら対応していくことになります。 躁うつ病は、きちんと薬物治療を行っていれば、一般的には数カ月で治ります。 ただし、注意しなければならないのは、躁うつ病はたいへん再発しやすいということです。 再発予防には、炭酸リチウムを中心とした薬をかなり長い期間、飲み続けることが、最も効果的といわれています。 これを 維持療法と呼んでいます。
次の精神医学におけるリチウム使用の歴史 オーストラリアの医師、ジョン・ケードが1949年、躁病性興奮の治療にリチウムが有効であることを報告し、精神医学に始めて導入しました。 当時、丁度心臓病に対して食塩の代替え物質として塩化リチウムが使用された結果、いくつかの死亡例が報告されたことは、ケードの発見にとっては大変不都合となりました。 4人の患者が死亡し、数名が中毒症状を引き起こしました。 当時、リチウムは体内に蓄積し、心臓病にとっては有害であることはわかっていませんでした。 このような結果、オーストラリアでは1960年の始めまでリチウムは完全に無視されていました。 その後、この物質は見直され、精神障害の治療に安全にしかも効果的に使用する方法が臨床的に検討されました。 アメリカの食料・医薬品局は1969年リチウムを精神科の治療薬として公認しました。 近年の精神医学におけるリチウムの使用のされ方 リチウムは躁うつ病(両極性障害)に有効な治療薬です。 この病気の患者は躁病相とうつ病相を繰り返します。 躁病相の特徴は、過活動、気分高揚、多弁、エネルギーの増加、眠らずに活動できる、そして時には常識的な判断力が低下することがあげられます。 躁病相は通常1〜3ヶ月間持続します。 うつ病相の特徴は、持続する絶望感、悲哀感、それまでは重要であった人、物および考えに対して興味を失ってしまうことです。 このような感じは次のような身体症状や精神症状と一緒になってみられます:倦怠感とエネルギーの喪失感、不眠または過眠、食欲減退、体重変化(減少または増加)、物事を決定することが出来ない、性欲減退、イライラ感、自殺を考える。 このような症状が2〜3週間から数カ月間持続します。 躁うつ病は、躁病相の繰り返しと1回だけのうつ病相であったり、またその反対であったりします。 気分の変調は突然起こることもありますし、ゆっくりと変化することもあります。 病相が何回起こるかとか、いつ躁病相が起こり、そして、いつうつ病相が起こるかといった決まったことは何もありません。 しかし、病相を繰り返す度にその間欠期がだんだん短くなっていくということが研究によってわかっています。 うつ病相だけで躁病相のない患者は単極性うつ病と呼ばれています。 この病気は躁病相もうつ病相もある両極性障害とは別の病気と考えられています。 リチウムは躁病に大変効果があると考えられています。 しかし、効果発現に時間がかかり、4〜10日が必要であることが欠点です。 重症の躁病には、リチウムの効果が出てくるまで症状を抑えるためにハロペリドールやクロールプロマジンといったメジャートランキライザーが使用されます。 リチウムはこのようなメジャートランキライザーの副作用を全く示すことなく気分を正常化します。 リチウムの最大の価値は躁うつ病(両極性障害)の発症を予防したり弱めたりすることです。 このようなリチウムの使用法をリチウムの予防療法と読んでいます。 リチウムの単極性うつ病の再発予防効果や病勢を弱める作用も最近わかってきました。 リチウムは再発性うつ病の予防効果はありますが、現在目の前にあるうつ状態に対して著明な効果があるかどうかは明らかにされていません。 一般的には、リチウムはさしあてり現在見られるうつ病相に著明な効果があることは認められてはいませんが、他の治療法で良くならない場合には使用されます。 リチウムの再発予防効果とは何ですか? リチウムの再発予防治療においては、リチウムは患者が躁またはうつ病相から回復した後も投与されます。 これによりその後の病相を予防したり、またそこまではできなくても病勢を弱くすることが出来ます。 かなりの数の患者は、治療に迅速に反応しその後、病相を示しません。 しかし、治療の反応がゆっくりしており、治療開始後数カ月してもまだ中等度の気分変調を示す患者もいます。 このような気分の高揚や低下はしかし治療とともに段々激しさが消失していき、多くは完全に消えてしまいます。 一部の患者では、躁またはうつ病相の予防が出来ない場合もあります。 しかし、その激しさを和らげ日常生活には差し支えなくするぐらいの効果を発揮します。 しかし、リチウムが全く効かない患者群があります。 そして、服薬しても服薬前と同じような頻度と強さで病相を相変わらず起こす患者があります。 医師はリチウムが効くかどうかを個々のケースで確実に予測することは出来ません。 これは実際に薬を投与してみなければわからないことです。 医師に相談なしにリチウムをやめてしまうとどの様なことが起きるのでしょうか? リチウムを中断し、軽い躁状態の時に経験した調子の良い感じとなることを知ると、治療をやめてしまう患者がいます。 リチウムを中断してしまって再び躁状態になり仕事が出来なくなることを経験した患者は、大部分の人が、リチウム治療を再開します。 治療はもう必要ないと考えリチウムをやめてしまう患者もいます。 何週間も調子がよい状態が続くと、薬を飲み忘れたり、自分はもう健康だと思いこみ、治療は必要ないと考えてしまうことは理解できます。 しかし、もし、服薬をやめてしまうと、リチウム治療を始める前と同じくらい躁やうつになる危険性は高いのです。 長い間治療したから再発しないということはないのです。 定期的な血液検査は大切なのでしょうか? 有効血中濃度を得るために服用するリチウムの量は患者間により異なっています。 医師はときどき採血してリチウムの血中濃度を調べ、その患者にはどれくらいリチウムを飲むことが必要かを決定します。 このような血中濃度測定は最も有効な服薬量を決定するためだけではなく、リチウム中毒を引き起こさないように必要最小限の投薬量を決めるのにも必要です。 もしリチウムを1日だけでも服用するのをやめてしまうとリチウム血中濃度は有効量の半分になってしまいます。 もしリチウムを服用するのを1回だけ忘れても、その次に飲む量を倍にしてはいけません。 なぜならば、リチウム血中濃度が急に上昇して副作用が出現する危険があるからです。 リチウムは服用すると急に血中濃度があがるので、服薬してすぐに血液検査を受けると、服薬量が多すぎるように医師に誤解されてしまいます。 定常状態の血中濃度を正確に知るために、服薬後8〜12時間後採血を受けることが大切です。 夕食後のリチウムを服用して、その後は服薬せずに診察にいき、採血を受けるのが正しい検査の受け方です。 リチウムにはどんな副作用がありますか? リチウム治療を始めるとほとんどの患者は多少とも副作用を経験をします。 はじめに、吐き気、軽い胃けいれん、口の渇き、手足に力が入らない、多少疲労し易い、ぼうっとする、軽い眠気などがあります。 このような副作用は普通、ほんのわづかなもので治療開始後数日で消失します。 しかし、この初期の副作用の一部がその後も続くことがあります。 軽い手指の振戦、多飲多尿、または体重増加を来す人があります。 体重増加は適当なダイエットでコントロールすることが出来ます。 しかし、極端なダイエットをすると、リチウム血中濃度に大きな影響を与えるのでそれは避けなければなりません。 また極端な体重増加も避けなければなりません。 リチウムによる口渇に対処するため砂糖の含有量の高いコーラやジュースを何本も飲むこともやめなければなりません。 甲状腺ホルモンの低い人や甲状腺が腫れている人はその病気が進行することがありますが、医師の診察をきちんと受ければそれほど深刻な副作用ではありません。 最近、リチウムによる腎障害が報告されているので、今までに腎臓病があったかどうか、また最近排尿の回数が変化していないかどうかを医師に知らせる必要があります。 リチウムを大量に飲むと中毒がおきます。 リチウムは最適治療量と中毒量が近いので、処方量を超えて服用しないようにしなければなりません。 中毒量になると、嘔吐、下痢、極端な口渇、体重減少、筋肉のピクピクや異常な動き、言葉のもつれ、眼のかすみ、めまい、意識もうろう、脈拍異常が出現します。 服薬上の注意を良く守り、定期的に血液検査を受け、ここに述べたような症状に気をつけておれば全く心配はありません。 リチウム服用前にどの様なことに注意したら良いでしょうか? リチウムは腎臓から体外に排出されます。 もし何らかの理由で腎臓が充分にリチウム排泄をしなくなったら、この薬物は体内に蓄積し危険な状態を引き起こします。 腎臓におけるリチウムの排泄はナトリウム(食塩は塩化ナトリウム)の排泄と密接な関係を持っています。 体内のナトリウムが少なければ少ないほどリチウムの排泄は少なくなり、リチウムの蓄積が増加し中毒の危険性が高まります。 利尿剤はナトリウムの腎臓からの排出を促進し、その結果リチウム濃度が上昇します。 汗をかくこと、発熱、低塩食、嘔吐、下痢、これらはすべて体内のナトリウム濃度を低下させ、そして、その結果リチウム濃度を高めます。 重篤な腎障害のある患者はリチウムを服用してはいけません。 心臓病のある人、ダイエットや汗をかくことで体内のナトリウム濃度に変化をきたし易い人は、リチウム血中濃度の測定を頻回に行う必要があります。 妊娠初期3ヶ月間のリチウムの使用は原則としては禁止です。 しかし、リチウム服用のメリットがその危険性に比べ明らかに大きいと医師に判断された場合には使用されます。 特別に医師の許可がない限り、リチウム服用中の女性は授乳してはいけません。 医師に処方された量をきちんと服用していますか? 定期的にリチウム血中濃度検査を受けていますか? 血中濃度検査の採血は最後に薬を飲んでから8〜12時間後にしていますか? もし他の薬を服用中であればそれがリチウム血中濃度に影響するのできちんと医師に知らせていますか? ダイエットをしているならば医師に知らせてください。 リチウム血中濃度に影響しますから。 排尿回数とか下痢、嘔吐、多汗の生ずるようなことおよび何か病気があれば医師に話してください。 リチウム血中濃度を測定し投薬量を調節する必要がありますから。 もし妊娠する予定があるならば医師に話してください。 リチウムによる気分変調を完全にコントロールするには時間がかかるので、途中で服薬を中断せずに医師の指示どうりに根気よく薬を飲み続けてください。 Information on Lithium. National Institute of Mental Health U. Department of Health and Human Services Public Health Service Alcohol,Drug Abuse,and Mental Health Administration5500 Fishers Lane,Rockville,Maryland 20857 U. 翻訳 医療法人 和楽会 理事長 貝谷 久宣.
次の高齢になると、環境の変化に加え、加齢に伴う衰えや病気なども増え、うつ病になりやすいと考えられています。 環境的な原因としては、「退職」「家族、友人などの病気や死」「子どもの自立」など大きな生活環境の変化によって、気分が落ち込む理由が増えることが挙げられます。 身体的な原因としては、「体力の衰え」や「病気」、加齢に伴う「脳の機能の衰え」などが挙げられます。 また、高齢者に多い、がんや脳卒中、認知症、パーキンソン病、糖尿病などの病気は、うつ病を併発しやすく、うつ病の発症をきっかけに持病が悪化することもあります。 そのため、高齢者の場合は、うつ病と併発している病気も併せて治療していくことが必要となります。 高齢者のうつ病の治療は、基本的にほかの年代と変わりません。 うつ病の治療の柱になるのは、「心理教育」と「支持的精神療法」です。 心理教育では、患者さん本人や家族に「うつ病はどんな病気か」「どんな治療が必要か」という情報を与え、うつ病について理解してもらいます。 支持的精神療法では、医師が患者さんの訴えに耳を傾け、悩みを共感します。 これらに併せて、必要に応じて「薬物療法」や「認知行動療法」など、ほかの治療を組み合わせることもあります。 薬物療法は、高齢者に多い食欲不振や睡眠障害、そして不安・緊張などの改善に効果的です。 ただ、若い人に比べて副作用が出やすく、効果が出にくいというデメリットがあります。 また、持病の治療薬とののみ合わせが悪い場合には薬が使えない場合もあります。 抗うつ薬を服用する場合は、1種類の薬を少量からスタートし、効果や副作用を見極めます。 うつ病の症状が重い場合は、入院し、場合によっては脳に電気を流す「修正型電気けいれん療法(ECT)を行うことがあります。
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