影山裕樹 かげやま・ゆうき 1982年、東京生まれ。 編集者、文筆家、メディアコンサルタント。 著書に、編著になどがある。 一般社団法人地域デザイン学会参与。 コミュニティメディアのつくりかた オンラインサロンの隆盛、大手紙誌のサブスクの採用など、メディアは大変革の時を迎えている。 そこにあるのは、一方通行の情報発信から読者コミュニティとつながる双方向型メディアへ、という大きな流れだ。 本連載では、サロンからネット、雑誌、新聞、ラジオまで、読者とともに成長する「コミュニティメディア」を編集者の影山裕樹がレポートする。 オンラインサロンがもてはやされ、大手メディアもサブスクリプションの採用を始めるなど、現在、メディアの世界には大きな変化の波が押し寄せています。 しかしその一方で、読者をつなぎとめておくための日々の運用に疲弊しているメディアも多いのではないでしょうか。 一方通行の情報発信メディアから、読者コミュニティとともに成長する双方向型のメディアのあり方を「コミュニティメディア」と名付け、取材していく本連載。 『 』などで知られる編集者の影山裕樹さんがレポートします。 前回まで、既存の出版社がコミュニティとつながる様をレポートしてきましたが、今回取り上げるのは月間1600万PVを誇るECサイト「」。 実は同サイトを運営するは、読者に向けたコンテンツ制作にも精力的で、記事のみならずリトルプレスやラジオ、ドラマなども手掛けているといいます。 いったいなぜ、そこまでやるのでしょうか。 代表の青木耕平さんのお話から見えてきた、メディアと読者コミュニティの本当の関係とは。 「北欧、暮らしの道具店」が多くのファンを惹きつける理由はなんだろうか。 東京都国立市にあるオフィスにて、代表の青木耕平さんに話を伺った。 クラシコム代表の青木耕平さん クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、当初は北欧ビンテージの一点ものの食器などを販売していたが、現在は実に売上の4割がオリジナル商品で占められている。 その他、メディアが提供するライフスタイルに関心のあるユーザーを対象とした、企業によるタイアップ記事などが売上の多くを占めているが、 通常のECサイトと「北欧、暮らしの道具店」が決定的に違うのは、物販だけでなくライフスタイルを提供しているところだ。 青木さんはこう語る。 「それが美味しいジャムの時もあれば、素敵な食器の時もあれば、お洋服の時もあれば、コンテンツの時もある。 お客様が『フィットするくらし』だと感じるものであれば、なるべく広く、多くのサービスを提供したいと考えています」(青木さん) 実際、クラシコムが手掛ける商品の幅は広く、 雑貨や衣料だけでなく出版物も多数発行している。 「日常のなかに、ひとさじの非日常を」というコンセプトのもと、「」というレーベル名で、リトルプレスを発行する他、ラジオ、動画コンテンツの配信まで幅広く手がける。 昨年公開した、女優の西田尚美らが出演するオリジナルドラマ「」第1話の再生回数は125万回を超えている。 それにしてもECメディアがなぜ動画、それもドラマを手がけようと考えたのだろうか。 「これまで映像は『放送』と『配給』しかなかったので、いかに有限の枠を取るか、の競争でした。 そうなると当然マスを対象とした作品が儲かるのでニッチなコンテンツの居場所がない。 ところが今そこに『配信』というプラットフォームが生まれて、供給が無限に増えた。 するとお客さんは書籍や音楽のように無数にあるコンテンツの中から自分に合うものを探すようになる。 そこで、僕らのお客さんが好きなスタイルで雑貨や洋服を売るのと同じ感覚で、映像コンテンツを提供することができるのではないか、と考えたんです」(青木さん) 北欧、暮らしの道具店」のユーチューブチャンネル。 2019年12月には、オリジナルドラマシリーズ2作目となる『』が公開された。 長編映画を作る!? クラシコムが考えるコンテンツのあり方 いわゆるブロックバスター的なコンテンツ、著名人や人気原作にあやかった「儲かるマス向け映画」が氾濫している時代、かつてのミニシアター映画のように、「自分たちにフィットするコンテンツがない」という感覚を持つ人は多いだろう。 「北欧、暮らしの道具店」がこれまで培ってきたファンコミュニティにズバリハマるコンテンツが存在すれば、そこに商機はある。 実際、「青葉家のテーブル」が好評だったことから、なんと「青葉家のテーブル」の長編映画化を進めているそうだ(2020年秋公開予定)。 長編映画化も決まった「青葉家のテーブル」(クラシコム社プレスリリースより) 「映画って制作費と同じくらい宣伝にお金がかかるんですよ。 僕らの場合は、宣伝は自分たちでできる。 たとえば予告編を数百万人の人に見てもらうのは僕らにとっては特別難しいことじゃない。 今の映画って監督かタイトルにしかファンがつかない。 だからシリーズ化したりしますよね。 でも、僕らはタイトルの上位概念としての『レーベル』を作っている感覚。 このレーベルなんとなく好きだな、と思ってもらえるお客さんが一定数見えているから、タレントのネームバリューに頼る必要もない」(青木さん) もちろん、大幅に利益が出なかったとしても、トントンになれば最低でも無料のマーケティングツールになる。 「映像のレーベルでは、海外から映画を買い付けをして、配給もやろうと考えています。 お店と一緒で、オリジナルから始めちゃダメなんですよね。 映像はオリジナルから始めちゃいましたが(笑)。 そもそも『北欧、暮らしの道具店』も、まずは自分たちがこれだと思うものを仕入れるところから始まったのを思い出しました」(青木さん).
次の影山裕樹 かげやま・ゆうき 1982年、東京生まれ。 編集者、文筆家、メディアコンサルタント。 著書に、編著になどがある。 一般社団法人地域デザイン学会参与。 コミュニティメディアのつくりかた オンラインサロンの隆盛、大手紙誌のサブスクの採用など、メディアは大変革の時を迎えている。 そこにあるのは、一方通行の情報発信から読者コミュニティとつながる双方向型メディアへ、という大きな流れだ。 本連載では、サロンからネット、雑誌、新聞、ラジオまで、読者とともに成長する「コミュニティメディア」を編集者の影山裕樹がレポートする。 オンラインサロンがもてはやされ、大手メディアもサブスクリプションの採用を始めるなど、現在、メディアの世界には大きな変化の波が押し寄せています。 しかしその一方で、読者をつなぎとめておくための日々の運用に疲弊しているメディアも多いのではないでしょうか。 一方通行の情報発信メディアから、読者コミュニティとともに成長する双方向型のメディアのあり方を「コミュニティメディア」と名付け、取材していく本連載。 『 』などで知られる編集者の影山裕樹さんがレポートします。 前回まで、既存の出版社がコミュニティとつながる様をレポートしてきましたが、今回取り上げるのは月間1600万PVを誇るECサイト「」。 実は同サイトを運営するは、読者に向けたコンテンツ制作にも精力的で、記事のみならずリトルプレスやラジオ、ドラマなども手掛けているといいます。 いったいなぜ、そこまでやるのでしょうか。 代表の青木耕平さんのお話から見えてきた、メディアと読者コミュニティの本当の関係とは。 「北欧、暮らしの道具店」が多くのファンを惹きつける理由はなんだろうか。 東京都国立市にあるオフィスにて、代表の青木耕平さんに話を伺った。 クラシコム代表の青木耕平さん クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、当初は北欧ビンテージの一点ものの食器などを販売していたが、現在は実に売上の4割がオリジナル商品で占められている。 その他、メディアが提供するライフスタイルに関心のあるユーザーを対象とした、企業によるタイアップ記事などが売上の多くを占めているが、 通常のECサイトと「北欧、暮らしの道具店」が決定的に違うのは、物販だけでなくライフスタイルを提供しているところだ。 青木さんはこう語る。 「それが美味しいジャムの時もあれば、素敵な食器の時もあれば、お洋服の時もあれば、コンテンツの時もある。 お客様が『フィットするくらし』だと感じるものであれば、なるべく広く、多くのサービスを提供したいと考えています」(青木さん) 実際、クラシコムが手掛ける商品の幅は広く、 雑貨や衣料だけでなく出版物も多数発行している。 「日常のなかに、ひとさじの非日常を」というコンセプトのもと、「」というレーベル名で、リトルプレスを発行する他、ラジオ、動画コンテンツの配信まで幅広く手がける。 昨年公開した、女優の西田尚美らが出演するオリジナルドラマ「」第1話の再生回数は125万回を超えている。 それにしてもECメディアがなぜ動画、それもドラマを手がけようと考えたのだろうか。 「これまで映像は『放送』と『配給』しかなかったので、いかに有限の枠を取るか、の競争でした。 そうなると当然マスを対象とした作品が儲かるのでニッチなコンテンツの居場所がない。 ところが今そこに『配信』というプラットフォームが生まれて、供給が無限に増えた。 するとお客さんは書籍や音楽のように無数にあるコンテンツの中から自分に合うものを探すようになる。 そこで、僕らのお客さんが好きなスタイルで雑貨や洋服を売るのと同じ感覚で、映像コンテンツを提供することができるのではないか、と考えたんです」(青木さん) 北欧、暮らしの道具店」のユーチューブチャンネル。 2019年12月には、オリジナルドラマシリーズ2作目となる『』が公開された。 長編映画を作る!? クラシコムが考えるコンテンツのあり方 いわゆるブロックバスター的なコンテンツ、著名人や人気原作にあやかった「儲かるマス向け映画」が氾濫している時代、かつてのミニシアター映画のように、「自分たちにフィットするコンテンツがない」という感覚を持つ人は多いだろう。 「北欧、暮らしの道具店」がこれまで培ってきたファンコミュニティにズバリハマるコンテンツが存在すれば、そこに商機はある。 実際、「青葉家のテーブル」が好評だったことから、なんと「青葉家のテーブル」の長編映画化を進めているそうだ(2020年秋公開予定)。 長編映画化も決まった「青葉家のテーブル」(クラシコム社プレスリリースより) 「映画って制作費と同じくらい宣伝にお金がかかるんですよ。 僕らの場合は、宣伝は自分たちでできる。 たとえば予告編を数百万人の人に見てもらうのは僕らにとっては特別難しいことじゃない。 今の映画って監督かタイトルにしかファンがつかない。 だからシリーズ化したりしますよね。 でも、僕らはタイトルの上位概念としての『レーベル』を作っている感覚。 このレーベルなんとなく好きだな、と思ってもらえるお客さんが一定数見えているから、タレントのネームバリューに頼る必要もない」(青木さん) もちろん、大幅に利益が出なかったとしても、トントンになれば最低でも無料のマーケティングツールになる。 「映像のレーベルでは、海外から映画を買い付けをして、配給もやろうと考えています。 お店と一緒で、オリジナルから始めちゃダメなんですよね。 映像はオリジナルから始めちゃいましたが(笑)。 そもそも『北欧、暮らしの道具店』も、まずは自分たちがこれだと思うものを仕入れるところから始まったのを思い出しました」(青木さん).
次のエトヴォス 取締役COO田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく連載企画。 第15回は、クラシコム 代表取締役の青木耕平氏が登場する。 青木氏は、2006年にクラシコムを創業し、翌年に北欧のインテリア雑貨を中心としたECサイト「北欧、暮らしの道具店」をスタート。 独自の世界観を構築して、女性を中心にファンを獲得。 最近は、インテリア雑貨のオンライン販売にとどまらず、新たに始めた広告事業が軌道に乗るなど、事業領域を広げている。 ECの枠を超えて新たな挑戦を続ける青木氏に、クラシコムの在り方や事業展開のスタンスなど、その裏にある思考法を聞いた。 信頼を預けられるプラットフォームはどこか? 田岡 まずは、青木さんの経営方針からお伺いしていきたいと思います。 青木さんは、さまざまなインタビュー記事で「北欧、暮らしの道具店」の経営において「無理をしない」「リソースに合わせて施策を打つ」といった考えをお話されています。 青木 そうですね。 成長さえしていれば、そのスピードは遅くてもかまわないと考えています。 今期も前年比30%で成長していますが、それでも私としてはブレーキを踏んでいるという感覚です。 青木耕平氏 クラシコム 代表取締役 2006年、実妹である佐藤と株式会社クラシコム共同創業。 2007年秋より北欧雑貨専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業。 「フィットする暮らし、つくろう。 」というコンセプトのもと、北欧に限らず、世界各地、そして日本の、実用的でありつつ暮らしを彩るものを独自の視点でセレクトして販売している。 現在は、EC事業のみならず、オリジナル商品の企画開発、WEBサイト上での日々の暮らしに関するコンテンツ配信や、企業とのタイアップ広告、リトルプレスの発行など多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。 田岡 わざと成長スピードを抑えているわけですね。 青木 今は急激な成長を目指すのではなく、もともと少なかった広告費をさらに絞ったり、SNSの投稿数を減らしたりしつつ、その分のリソースをYouTubeの公式チャンネルや自社アプリの開発、LINE公式アカウントに割くようにしています。 田岡 既存の取り組みへのリソースを減らして、新しい取り組みを積極的に行っているのですね。 北欧、暮らしの道具店。 暮らしの中で道具として使われてこそ輝くという考えのもと、イッタラ、アラビア、ロールストランドなどの北欧食器、北欧家具、アルメダールス、マリメッコなどの北欧雑貨などを紹介している。 青木 そうです。 そもそも、誘導元のプラットフォームも最初はFacebookでフォロワー数が伸びて、次にInstagram、LINE@へと3年ぐらいのスパンで移行しています。 こうした動きを私は「銀行」に例えて説明しているんです。 例えば、当初はお客さまからの信用をFacebook銀行に預けていました。 ただ、Facebook銀行に全財産を預けるのは不安だなと思っているところに、Instagram銀行が現れたので口座を開設しました。 でもこのご時世何が起こるかわからないし…思っていたところにLINE@銀行が出てきたので、こちらも預けてという流れです。 LINE@も従量課金化してしまう予定ですし、今の私たちとしては「明確に次は、これだ!」と言えるプラットフォームはないので、ずっと覚悟がいる分野として触れないようにしていたアプリ開発に取り組んでいるところでもあります。 田岡敬氏 エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者) リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。 2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。 青木 はい、YouTubeは今のところ、「価値をストックできる唯一のプラットフォーム」だと考えています。 AIの精度が高く、しっかり過去動画も含めてレコメンドしてくれるんです。 この先どうなるかはまだ分かりませんが、少なくとも投資しがいのある場所として捉えています。 『青葉家のテーブル』第1話:トモダチのつくりかた【主演・西田尚美】「北欧、暮らしの道具店」オリジナル短編ドラマ 田岡 TikTokは、どうでしょう。 青木 TikTokもありうるとは思っていて、研究しています。 田岡 大人の女性も使うようになるということですか。 青木 その可能性は、あると思っています。 あとは、Pinterestも研究しています。 Pinterestは、すでに「北欧、暮らしの道具店」に関する投稿がされていたので、アカウントを開設したところ、すでに月間130~140万人ユーザーが閲覧していたことが分かりました。 開設前にPinterest側から成功ケースとして紹介されたアカウントの閲覧者数が約100万人だったので驚きました。 現在は、確実性があるプラットフォームが少ないため、いくつか並行して運用して、どこかが当たればと思っているところです。
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