【まほやく】魔法使いの約束キャラ呪文一覧
疲れが溜まっていると、なかなか眠りに付けない。 そういう日は誰にでもある。 最近は各国の魔法生物退治で魔法使い達について回っていたお陰で、肉体的には相当疲れていた。 魔法使い達はいきいきと害となる魔法生物を退治しているのだが、賢者はそうはいかない。 各国の情勢や雰囲気等を自分で記録にまとめるのはもちろん、戦う魔法使い達の邪魔にならないようにするのだけで精一杯だ。 出来るだけ邪魔にならないようにしているが、それでも庇われることは多々あるが。 更に最近はリケと共にルチルにこの世界の字を教わり、他の魔法使い達とコミニュケーションをはかったり、日々多忙に過ごしていた。 自分でも思っているより疲れているのかもしれない。 そう思いながら誰もいないキッチンでお茶でも飲もうと、お湯を沸かす。 だが、戸棚を覗き込み困ってしまった。 肝心のお茶の葉がわからない。 普通のお茶の瓶とハーブの入った瓶が同じ棚に沢山置かれているのだ。 ラベルの文字も、賢者はまだ読めない。 「うぅーん…どれだ？これかな？少しずつ食べれば分かるか？」 何種類かのガラス瓶を取り出して、クンクン匂いを嗅いでみる。 これは明らかにハーブと思われるものは棚に戻すが、それでもいくつかの瓶が残った。 「どうしよう。 もう水飲んでお茶を濁すか………お茶だけに」 「なんですか、それ」 「ぎゃあ！？」 オヤジギャグを呟いた瞬間、背後から声をかけられ賢者は持っていた瓶を落としてしまった。 瓶の中の大きめの葉が数枚、床に落ちる。 賢者は思わず口元を引き攣らせ、振り返ると声を掛けてきた男も、賢者を見ていた。 「な、なんですか。 いきなり声をかけないでください」 「…はぁ」 「あぁ、ビックリした。 あぁ、葉っぱが落ちちゃった」 しゃがんで落ちた葉を拾い、テーブルの上に置く。 このまま瓶の中に戻していいものか分からなかったからだ。 賢者が立ち上がると同時に、ミスラが億劫そうに口を開いた。 「何してるんですか」 「お茶を飲もうと思ったんです。 でもお茶が分からなくて困ってしまって」 「はぁ、そんな事ですか」 ミスラが長い腕で賢者の頭の上から手を伸ばす。 棚の端に置いてある瓶を取り出して、賢者に手渡す。 「コレです」 「ありがとうございます」 ミスラに渡された瓶からポットに茶葉を移すとお湯を入れる。 賢者はミスラに視線を向けた。 なぜここに居るのかは分からないが、ミスラに「眠れないのか？」と聞くのは野暮だろう。 絶対に殺されそうだ。 「ミスラもお茶飲みます？」 「…頂きます」 2人分の茶器を出して、お茶を注ぐ。 そしてミスラに片方差し出して、自分の分として残りのカップを手に取る。 「ミスラは何故ここに？」 「腹が減ったので来たら、光が漏れていたので」 「ミスラらしいですね」 「はぁ、どうも」 ズズっと行儀悪く茶を飲むミスラを眺めつつ、賢者もカップに口をつけた。 冷ましながら飲む賢者を見やり、今度はミスラが聞く。 「眠れないんですか」 「えぇ、まぁ…なんだか目が冴えてしまって」 苦笑しながらカップに入った茶を眺める。 琥珀色の液体が揺れる。 「なら早く言ってくださいよ」 「え？」 「ほら、行きますよ」 ガタンと立ち上がるミスラに賢者は慌てる。 まだ飲みきってないカップを置き、ミスラに問いかける。 「行くってどこに」 「《 アルシム》」 「人の話を聞きましょう？」 ミスラは賢者の言葉をまるっと無視して、扉を作って開ける。 そして賢者の腕を引っ付かみ、問答無用で扉の中に連れていく。 「ちょっとミスラ！後片付けが」 「そんなの知りませんよ。 えい」 「おぶっ！」 いきなり賢者の視界が闇に染まる。 そして柔らかい物で顔を強打された。 慌てて顔から引き剥がすと触り心地がいい。 「ミスラ？何も見えません」 「アイマスクです。 それは抱き枕」 「え？じゃあここは？」 「俺の部屋です」 いきなり連れてこられたのはミスラの部屋だったらしい。 ミスラはそのままその場に立っている賢者に視線を向ける。 「何してるんです。 早く来てください」 「いや、何も見えないんですけど」 「面倒ですね」 長い足で立ったままの賢者に近寄ると、ミスラは賢者をいきなり抱き上げた。 視界が効かないのにいきなり不安定な状態にさせられた賢者はたまったものではない。 「ぎゃあぁ！？」 「煩いですよ」 「いきなり何するんですか！」 「抱いただけです」 「言い方！」 ぎゃあぎゃあ喚く賢者を鬱陶しい顔で見つつも途中で投げ出すことはせず、ベッドに横たえる。 柔らかいベッドに降ろされた賢者はアイマスク越しに首を傾げた。 「あの、ミスラは何をするつもりなんですか」 「何って、寝るんですよ」 「誰が」 「俺が」 だからといってなぜ私がミスラの部屋で？という真っ当な問いを発する前に、賢者の隣に潜り込む気配がした。 そしてごく自然に賢者の頭の下に意外と筋肉質な腕を差し込む。 つまりは腕枕状態だ。 それならばまだしも、賢者を抱え込むようにもう片方の腕も賢者に回している。 「………ミスラ？なぜこの状態になっているのか説明をお願いします」 「今朝、フィガロが人肌恋しいと言っていたんですよ。 自分より体温が高い人物とくっつくとよく眠れるんだそうです」 「フィガロ…」 「それと、適度な重しがあった方がいいと言っていたので。 もう少し重くてもいいとは思いますが」 フィガロの助言 ？ に従った結果がこれらしい。 しかし、この体勢だと密着しすぎて苦しい。 呼吸が、ではなく、胸が、である。 いくら何でもこの体勢は未婚の女性としてはどうかと思うのだが。 「み、ミチルやリケでもいいじゃないですが」 「あの二人は肉がないので、抱き枕の代わりにはなりません」 「肉………」 肉という言葉にこっそり賢者は傷つき落ち込んだ。 年頃の女性にとって肉という言葉は禁句である。 「いいからもう寝てください」 「で、でも…」 ミスラは言葉を聞くつもりは無いようだ。 場所的にミスラの心臓の音が聞こえる。 とくとくとくとくとく… 賢者は絶対眠れないと思っていたが、ミスラの心臓の音を聞いてるうちにいつの間に眠ってしまっていた。 「はぁ…どこでも眠れるなんて羨ましい人ですね」 ミスラの声がする。 ぼんやりと目を開けると、賢者の間近にミスラの顔があった。 ピシッと固まる賢者を見つつ、ミスラは取ったばかりのアイマスクを片手でクルクル回す。 もちろん、未だに腕枕状態である。 「あっ、えっ、おぅ？？？」 「おはようございます」 「おは、ようございます？」 「いい加減どいて下さい」 「は、はい」 賢者は慌ててミスラの腕枕から起き上がる。 ミスラは軽く手を握ったり開いたりしながらため息をついた。 「ダメでした」 「あ、あの。 すみません、私、寝てました？」 「貴女は爆睡してましたね。 俺の腕の中で」 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 その場に恥ずかしさから崩れ落ちる賢者を億劫そうに眺めてミスラも起き上がる。 「床と仲良しなんですか？」 「今は同化したい気分です…」 「はぁ、まぁいいですけど」 ミスラは興味無さそうに相槌を打つと欠伸をした。 いつもの癖で自分の肩に手をやる。 「人肌は、まぁ、悪くはありませんでしたね」 「はぁ…」 「今夜も試したら眠れるかな……賢者様」 「はい？」 「今夜も試します」 「…誰とです？」 「賢者様とですが何か？」 ということは何か。 私は今日もミスラと一緒に寝るのか。 賢者は床に蹲ったまま、泣きそうな顔になる。 「ミスラ？その、今日は私は1人で寝ようかと」 「何故です？」 「何故ですと聞かれるとは思いませんでしたね」 既に賢者も面倒になってきていた。 どうせミスラは賢者が何を言っても気にせずにベッドに連れ込むだろう。 それに、ミスラの腕枕が案外気持ち良かったせいもある。 だからといって一緒に寝たいかと言われたら困るところだが。 「凄い心臓に悪い起こし方は辞めてくださいね」 「はぁ。 どんな起こし方がいいんです？」 「ミスラの顔の暴力がない起こし方ですね」 「意味がわかりませんが」 「私はミスラの意味の方がわかりません」 「…面倒だな」 明日の朝もミスラの無駄に良い顔の良さを見せられ、羞恥に悶えるのだろうと賢者は諦めた。
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