路上のホームレスが減少している分、ネットカフェでのホームレス化が進む。 この調査は2016年11月~2017年1月の間に、都内にあるインターネットカフェや漫画喫茶など502店舗のオールナイトプランの利用者946人に対して行われた。 住居がなく、寝泊まりのために利用する人のうち、7割強(75. 8%)が派遣やパートなどの不安定就労者であること、30代が4割弱(38. 6%)を占めていることも分かった。 ネットカフェ難民に関する調査は、、5400人の「住居不安定就労者」がいることが確認されている。 2007年はネットカフェ難民が新語・流行語に選ばれ、翌年のリーマンショックを経て年越し派遣村という形で貧困が可視化された年と重なる。 当時と比べても東京都だけで4000人ということは、ネットカフェ難民の数は確実に増えてきている。 一方、路上で暮らすホームレスの数は年々減少してきていると言われる。 毎年が実施されているが、2017年、東京都では1397人が路上で確認されている。 ネットカフェ難民は路上ホームレスより3倍近く多いことからも、もはやホームレス(=住居がない人)の主流がネットカフェ難民になっていると言えるだろう。 しかし、ネットカフェに暮らすホームレスはその存在が非常に見えづらく、実態を把握することは容易ではない。 正社員を退職後にネットカフェへ 実際、ネットカフェ難民はどんな暮らしをしているのだろう? 4年ほどネットカフェで暮らした経験があるAさん(34)に話を聞いた。 Aさんは大学卒業後、正社員として就職したが、上司によるパワハラや人間関係のトラブルが原因で退職。 住居は会社の借り上げ住宅だったので、退職と同時に退去。 ネットカフェ暮らしを始めた。 その間も歩合制の送迎ドライバーの仕事をしており、月収15万円ほどを稼いでいたという。 しかし、家を借りることはできなかった。 「家を借りるには敷金、礼金、前家賃とかで25万円くらいの貯金がないと難しい。 自分の場合、日給制で収入も月によってバラバラだから家賃を払い続けられる自信がなかった。 あとは前の会社でいろいろあって、人と極力関わりたくないと思っていて……家を借りるとなると大家さんとか近所付き合いとか、煩わしいことがありそうで気が進まなかった」と振り返る。 逆にAさんは「ネットカフェ暮らしそのものは、イメージされるほどきつくなかった」という。 送迎ドライバーの仕事は時間が不規則で深夜や明け方まで働くこともあったため、都心のネットカフェは仕事をする上で便利だった。 シャワーやWi-Fi完備のネットカフェも多いため、自覚なくホームレス化が進む。 「最初は周囲の物音が気になって熟睡できないこともあったかな。 一人きりになりたい時は少し金額が高いけど、完全個室のビデオボックスを利用していましたね。 駅から遠いネットカフェとかリクライニングできないシートを選べば、安く宿泊することもできる。 ネット環境も整備され、コンビニも24時間営業の飲食店も近くにあって、便利な暮らしができるという点では、悪くないと思っていた」 Aさんは24時間利用で3500円というネットカフェに長期滞在しており、月に換算すれば10万円以上の利用料を払っていたことになる。 外食代などもばかにならない。 その日暮らしを続けていたAさんだったが、ある時、送迎の仕事を請け負っていた店舗が倒産。 現在は清掃の仕事をしているが、路上で過ごすことが多くなっている。 孤立がもたらす情報不足 話を東京都の調査に戻そう。 Aさん同様、住宅を借りられない理由として「敷金等が貯められない」62. 8%、「家賃を払い続けるための安定した収入がない」33. 3%、「入居に必要な保証人がいない」30. 9%が挙げられている。 ある程度の月収があっても、日給や歩合制のためその日暮らしから抜け出せない。 雇用形態がパートや派遣などでいつ契約が打ちきれられるか分からないため、固定費となる家賃を払い続けることが難しい現実も浮き彫りになっている。 また東京の高額な家賃も住居確保を困難にしていることも見逃せない。 さらにここに借金や奨学金の借り入れに対する返済が重くのしかかる人も少なくない。 調査では、ハローワークや区市町村などの相談窓口を利用している人が少数にとどまっていることも明らかになった。 東京・三鷹でホームレス支援を行なっている「」にもここ数年、ネットカフェ宿泊者からの問い合わせが増えているという。 「30ー40代の若い人が多くなっている印象があります。 日雇いの仕事をしながらネットカフェに泊まってきたけれど、手持ちのお金が底を尽きそうでどうしたらいいかわからないと連絡をしてくる人もいます」(びよんどネットの菊地原博さん) 菊地原さんは家を借りられない背景には、敷金などが貯められないという理由に加え、孤立しているために情報不足もあるのではないかと指摘する。 「借金から逃げてきたので住所を設定したくない人、ネットカフェ暮らしで住民票がないため家を借りられないと思っている人、若者の中には家を借りた経験がなく、どうすればいいか分からない人もいるでしょう」 例えば借金の問題を抱えているならば、無料法律相談を利用するなどの方法があるし、住民票も役所の窓口で相談すれば解決できる場合が大半だ。 しかし、孤立していて、情報が入ってこないため、最初から無理だと諦めてしまっていたり、相談するという発想自体がなかったりする人も多い。 ある程度の収入はあるのだが、ギャンブル依存症でお金を貯められず、ネットカフェで暮らしている人もいるという。 重度のギャンブル依存は病であり、医療につながらなければ治癒は難しいのだが、ネットカフェでその日暮らしをしている限り、病は放置され、支援を受けることはできない。 菊地原さんは「ネットカフェにソーシャルワーカーを配置すべき」と言う。 住居支援、就労支援も重要だが、ネットカフェに長期滞在している人の中には、借金、心の病、障がいなど複合的な問題を抱えている人もいるため、一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな対応が必要になってくる。 私はリーマンショック直後にホームレス状態に陥った若者50人に対する聞き取り調査をしたことがあるのだが、あの時も、ネットカフェ経由で路上に出たという若者が大半だった。 当時は日雇いの仕事すらなく、路上に押し出されてきたという現実があったように思う。 一方、今は選ばなければ、その日暮らしができる程度の仕事はある。 とりわけ若ければ、ネットカフェ暮らしに問題を感じないこともあるのだろう。 しかし、ネットカフェに暮らしている以上、ホームレス状態であることに変わりはなく、派遣やバイト切り、体調不良など、ちょっとしたきっかけによって、路上生活へ突入していってしまう。 実際、東京都調査では、ネットカフェ難民の4割(43. 8%)が「寝泊まりに路上を利用することがある」と答えており、うち週1~2日程度路上で過ごす人が57%に及んでいる。 この結果からも路上ホームレスとネットカフェ難民の境界はあいまいだとわかる。 非常に見えづらい形で広がっているホームレス化。 周囲からはもちろん、当事者すらも自覚がないまま、進行していく。 それゆえ支援につながることは難しい。 どうすれば孤立している一人ひとりに必要な情報と支援が届くのか、対策を講じていく必要がある。 (文・飯島裕子、写真・今村拓馬) 飯島裕子(いいじま・ゆうこ):東京都生まれ。 大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。 雑誌編集を経てフリーランスに。 「ビッグイシュー」等で人物インタビュー、ルポルタージュを中心に取材、執筆を行う。 大学講師も務めている。 著書に『ルポ貧困女子』『ルポ若者ホームレス』、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』。 一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
次の東京都は10日、緊急事態宣言を受けてネットカフェに営業停止を要請したため、都内では多くの店舗が休店。 いわゆる「ネットカフェ難民」と呼ばれる、住む家を持たず、ネットカフェなどに寝泊まりする人たちが今、行き場を失って困っているのをご存知だろうか。 都内でネットカフェなどに寝泊まりしている(いた)人は4000人ほど。 圧倒的に男性が多いとされているが、なかなか声をあげにくくて調査などから は漏れてしまう女性も多くいて、特に若い女性が目立つ。 年代別では30代が最も多く 、50代や20代と各年代に散らばる。 そうした人たちはもともと、正社員で働いていたのに会社が倒産したり、派遣の雇い止めに遭ったりして、そこにたどり着いた。 そういう事態は今や、誰にとっても他人事ではないだろう。 劣悪な環境に人を収容 そこで東京都は、その人たちを一時的にビジネスホテルなどに無料で宿泊してもらう措置をとると発表し、やれやれこれで一安心……と思っていたら、実はそうは動いていないんだという話を、生活困窮者の支援活動を行っている一般社団法人『つくろい東京ファンド』の小林美穂子さんから聞いて、驚いた。 小林さんはスタッフやほかの支援団体の人たちと一緒に、10日から支援のためにずっと忙しい日々を送っている。 一般社団法人『つくろい東京ファンド』の小林美穂子さん 「今、いちばんの問題はネットカフェから出されて福祉事務所に助けを求める人たちが、次々に無料低額宿泊所に送り込まれていることです。 そこがどういう所かの説明も受けず、『迎えの車が来てるから、さぁさぁ』と連れていかれ、契約書にサインをさせられています」 無料低額宿泊所。 聞きなれない言葉だが、小林さんの説明によると 、無料低額宿泊所、通称・無低は、生活保護受給者を中心に受け入れる、施設で、良心的な施設もいくら かはあるものの、その多くは、悪名高き「貧困ビジネス」の場になっていることが多いという。 大部屋にぎっしり二段ベッドを並べたり、6畳ほどの部屋を3つに区切って 敷きっぱなしの布団に寝かせるだけといった、劣悪な環境に人を収容する施設が多く、 以前から問題になっている。 「しかも入居者が受給された生活保護費のほとんどを持っていかれます。 門限もあり、外出外泊には許可も必要。 場 所によっては長くそこに逗留する牢名主みたいな人がいて、小銭やタバコをかすめとられたりもしますし、弱いものいじめはあたりまえ。 人間トラブルから死亡事件が起きたこともあります。 一般の人たちは、こんなところを役所が重宝しているなんて、とても信じられないでしょうが、そこに留め置かれ、いつまでもアパートへの転宅を許されない人達が全国で3万人いるといわれています」 生活保護費のほとんどをむしり取り、自由も制限し、高齢者が多くて心身ともに治療が必要な人も放置される。 これまで何度かニュースになってきたのに、現在も生活困窮者救済の対策として大手を振ってド真ん中にいる。 福祉のダークサイドだ。 「大雨が降った月曜日、ネットカフェを出た青年が福祉窓口を訪れて、生活保護の申請をしたんです。 ネットカフェを出てから2日間、野宿をしたあとだそうです。 すると、何の説明もされないまま、彼は無低に連れていかれました。 連れていかれた先は衛生面もひどく、高齢者がたくさんいて誰もマスクなんてしていない。 咳き込む人も多い中、もちろん相部屋。 そして風呂、トイレは共同。 メンタルの問題も抱える青年は出された食事をひと口も食べられず、一睡もできずに朝を迎え、私たちにSOSの連絡をしてきました。 しかも所持金がない彼に一週間分の昼食だとして福祉事務所の担当者から渡されたのは 、ウイダーインゼリー2個だったそうです。 こうした例は彼だけではありません」.
次の「三密の温床」とされ、休業要請を受けたネットカフェ。 とりわけわずか300m四方のエリアに風俗店や飲み屋、遊興施設などが密集する新宿区・歌舞伎町はまさに自粛の象徴的な土地となり、街の灯は消え、人通りは激減した。 だがさらに深刻なのは、ネットカフェやカラオケボックスなどを寝床としている「(以下、ネカフェ難民)」と呼ばれる人たちだろう。 彼らにとって、遊興施設の休業は雨露を凌ぐ屋根を失うことと同義だ。 東京都の推計では、東京都内のネカフェ難民は、一日当たり約4000人に上るという。 歌舞伎町近辺の主なネカフェは12店あるが、「Booth Net Cafe & Capsule」は、4月3日にいち早く休業。 続いて、緊急事態宣言の翌4月8日に1店、週末土曜の4月11日には、1日の客数が1000人を超える大箱の「グランカスタマ」を含めて4店舗が臨時休業に入った。 そして週明けの4月13日、12時間パックで1810円という安価が売りでネカフェ難民の拠りどころだった「まんが喫茶ゲラゲラ」までもがドアを閉ざし、このエリアで営業中のネカフェは5軒となった。 歌舞伎町ガイドの仙頭正教氏に、コロナ真っ只中(4月23日現在)の歌舞伎町のネカフェ事情を聞いた。 「現在、歌舞伎町エリアで営業しているのは、マンボー3店舗、ポパイ、サイバーアットカフェのみ。 明日に不安を感じながら営業している店が多いなか、マンボーだけはちょっと異質で、店内でマスクを販売してコロナ対策万全の姿勢をアピールしながら、商魂たくましく営業しています。 そこに暮らしていた人々はどこへ向かうのか。 ゲラゲラが臨時休業に入った4月13日朝、店舗前の階段に座っていた50代の男性に声をかけた。 彼は飲食店に派遣される調理師として生計を立てていたが、外国人観光客が消えた3月に仕事を失い、経済苦に陥っているという。 「カネがあるときは歌舞伎町の飲み屋に行って、サウナ『AKスパ』(15時〜翌12時、2500円)に泊まるのが定番で、カネがないときはゲラゲラに泊まるという生活を送っていました。 去年は外国人観光客がいっぱい来ていて仕事があったから、家なんてなくていいと思っていたけど、さすがにキツい。 今日はこれから役所に行って相談したいと考えてます」 同13日の深夜には、営業中の「メディアカフェポパイ」の前に佇む女性が。 40代後半の彼女は、近くのラブホの清掃員パートを2つかけもちしているそうだ。 「自宅アパートにいちいち帰るのが面倒になって、昨年夏頃から職場に近いゲラゲラで寝泊まりするようになりました。 通勤電車に乗らないのはやっぱり楽で、アパートを引き払っちゃったんですよ。 だけど新型コロナのせいでパートのシフトを削られて、貯金もほとんどなくてこのザマです。 都が無料でホテルに泊まらせてくれる救済措置をとっているらしいというのは知ってました。 でも、そんな施しを受けたくないって気持ちがあって、結局行かずじまいで……」 そうしてやってきたのが、ポパイ。 なぜ店の中に入らないのか。
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