はじめに 2018年3月、芸能人の方がヒナの時に保護して飼育していたスズメについて、住所地の東京都から、違法なので放鳥するよう要請されたという事案が、マスメディアやインターネット上で話題になりました。 この時、山階鳥研にも一般の方から、保護した鳥を行政が放鳥させることについて、命を落とす確率が高いのならば放鳥するのは妥当でないのではないかというご意見を頂戴しました。 鳥類を専門に研究している立場からの意見を聞きたいというご希望です。 この方は東京都知事宛にも意見を送られたそうです。 広報担当では、このことはうやむやにすべきことではなく、野生動物の保護、生物多様性保全がどういう現状認識のもとでどういう考えで進められているかについて理解していただくことがきわめて重要なことと考えましたので、この点についてやや長文の返信をお送りしました。 そうしたところ、幸い、丁寧に書いてもらったおかげで、説明してほしかったことが説明してもらえたと感じ、ありがたかったとのご返事を頂戴することができました。 そして、ご自身が読むだけでなく,多くの人にも読んでほしい内容だと思うというお言葉をいただきました。 そこで、この回答文が多少なりとも野生動物の保護や生物多様性の保全についての多くの皆様に理解を深めていだだく助けになればと考え、1年の時間が経ってしまいましたが、スズメの繁殖期を迎えた機会に、回答の全文をインターネットで公開することとしました。 お問い合わせいただいた方からも公開について快諾いただきました。 公開にあたり、本文には手を入れず、お問い合わせいただいた方のお名前は伏せた上、いくつかの点について注を付しました(2019年5月記)。 返信が遅くなり申しわけありません。 お問い合わせのメール拝読しました。 山階鳥研は、法律や行政の専門家ではなく、基本的に鳥類の生物学の研究に取り組んでいる組織ですので、法律や行政のことについては必ずしも専門的な見識があるものではないことをまずご承知おきください。 お尋ねのメールはタイトルを「保護された野鳥の扱いが都道府県で違っている件について」とされていますが、メールを拝読して、いちばんご関心をお持ちの点は、保護した鳥を行政が放鳥させることの妥当性について、命を落とす確率が高いのならば放鳥するのは妥当でないのではないかという点と理解しました。 ですのでその点を中心に私なりに書かせていただきます。 この点について考えるには、まず、人に世話されることなく野生で巣立ったヒナがどのぐらい無事に生き延びるかについて知っておく必要があると思います。 スズメについてぱっと出てくる資料が手元にないのですが、ヨーロッパでシジュウカラについて、足環で個体識別した調査データをもとに推定された数字では、ある年に巣立ったヒナが翌年まで生き残る率は約14パーセントだそうです(「鳥類の生活」紀伊國屋書店)。 いっぽう、いったん大人になって()繁殖期を迎えた鳥が翌年の繁殖期まで生き残る率は約48パーセントとはね上がります。 スズメについても体の大きさがまずまず似たようなものですから、おおむね似たような生存率になると思います。 そうだとすると、野生の巣立ちヒナが10羽いたとして、翌年まで生き残るのはやっと1羽あまりということになります。 いったん大人になれば翌年まで生き残るのは2羽に1羽程度になるわけですね。 考えてみればこれは当然で、スズメは多少の波はあるものの数はおおむね一定を保っており、年々どんどん増えていったりはしません(スズメは年に1~3回繁殖し、1回に4~8羽のヒナを孵しますので、ひとつがいから年間に4~20羽ほどのヒナが出ることになります)。 このことから、巣立ったヒナのうちの相当数が命を落としているのは想像できます。 当のスズメも、ヒナには昆虫を与えますので、餌としてたくさんの昆虫の命を奪って生活しており、スズメ以外にも昆虫を食べる鳥がいることも手伝って、昆虫があたり一帯にあふれることもなくおおむね一定の数が保たれています。 昆虫にみんな天寿を全うさせようとすればスズメは生きてゆけないわけです。 さらにスズメも他の生き物の餌になっていますから、スズメがみんな天寿をまっとうするような状況が実現すればスズメがあたりにあふれてしまう一方、スズメを餌にしているタカやイタチが生きてゆけません。 その意味では昆虫もスズメもその他のあらゆる生き物も、ほとんどが天寿を全うせずに命を落とすことで自然界のバランスが保たれてうまく回っていっているわけです。 今回の事例で東京都の担当者がどのような言葉で説明されたか私は存じませんが(十分丁寧な説明をなさったかも知れません)、メディアが伝えている「法律だから」とか「生態系のため」という言葉は、それ以上の議論を封じる、「問答無用」というメッセージを伝える効果しかなく、明らかに説明不足と感じます。 実際にはまさに上で説明したとおり、「環境保全、鳥獣保護の仕事は、野生の生物が、自然の中で互いに命を落とし合いながら、それでも、どの種も絶滅しない仕組み(=その仕組みが生態系ということです)を守る目的で行っている。 法律や行政もそのために動いている」というところまで噛み砕いて説明しないと多くの方にわかっていただけないと感じます()。 そして数が極端に減ってしまった、たとえばヤンバルクイナやシマフクロウについては、傷ついたり具合が悪くなったりして収容された個体がいれば、これをなんとか回復させようと関係者は懸命に努力するわけですが、それは一個体の死によって当該の種の絶滅に一歩近づくという緊急性の認識から、極端な言い方をすればやむなく行っているもので、個体が死なないことは環境保全や鳥類保護の最終目標ではないことは理解しなければいけません。 むしろこういった絶滅危惧種についても、自然な原因での死亡が起きても大騒ぎしないでもかまわない状態に早く戻そうと関係者は努力しているのです。 スズメのヒナであっても命を尊重したい、目の前に巣から落ちてしまったヒナがいればなんとか助けてやりたい、と思う方のお気持ちはもちろん人間として当然の感情ですし、尊敬に値するものです。 私もその考えに賛成します。 しかし、ここまで述べてきたような事情を考えると、たまたま救護したヒナが、その後、一見して五体満足に育った場合に、飼育の継続についてあまり強硬に主張するのは、多くの方の賛成を得られない可能性があることは理解しておく必要があると思います。 もちろん、当該の個体が放鳥できるかの判断をすることは必要でしょう(たとえば明らかに翼に故障がある個体を放せとはどなたもおっしゃらないでしょう)。 今回の個体について獣医師の方が、この個体は野生では生きてゆけないと判断されたそうですが、獣医師さんがおっしゃったことの妥当性は、当該個体を見ておりませんので私にはわかりません。 ただ一般論として言えば、翼や足が折れているとか、明らかに左右の翼の動きが均等でないといった目に見えた異常がなくて、少なくとも室内では自由に活動している場合、私自身は、個体の状況を見ながら放鳥の方向を探るという判断は支持するしかないだろうと思っています(保温の必要性についても、当該の個体の状況を知りませんので何ともいえませんが、一般論として言えば、仮に現在保温を受けていたとしても、暖かい季節を選んで放せば、その後季節が進んで寒くなっても順応するだろうと思います)。 東京都の鳥獣保護の部署での、保護飼育された鳥の放鳥の実際については、具体的な現場でのさまざまの事情を勘案して決められていることと思いますので、断片的な情報から論評するのは控えたいと思います。 仮に私自身が、こういった室内で保護飼育してきた鳥の放鳥についてアドバイスを求められた場合、一般論としては、室内で放し飼いにしたまま、窓を開けて自由に出入りできるように飼育を続け、徐々に野外にならして、最後は昼夜ともに野外で過ごさせるなど、ある程度の移行期間を置いて野外に戻すことを試すようにアドバイスすると思います。 その途中でいなくなれば、その時点で放鳥が終了したという理解をするわけです。 こういった対応は可哀相と思われるかもしれません。 しかしすでに述べたように自然界の仕組みとはそういうもので、野外で生きているあらゆる生き物のめんどうを人間が見続けることはできません。 そして、人間に飼育されていれば餌にも困らず、外敵にも襲われないというのはそのとおりですが、そのように仲間のスズメから隔絶されて、1羽で部屋の中で暮らしているのが野鳥のスズメ本来の生活なのかということもあるわけです。 人間として「情」を忘れないことは大きな美徳であり、大切なことです。 私もそのことを大切にする方を尊敬します。 傷病鳥の救護をする理由は、「見過ごすのには忍びない」という人道的、あるいはお子さんたちへの教育上の配慮という側面があると思います(もちろん「窓ガラス衝突や交通事故、開発や環境汚染物質の放出など人間活動によって自然状態より多くの鳥がけがをしたり体調を崩したりするから人間が助けなければいけない」とか「希少種の絶滅を防ぐことが必要」という保全上の側面もあります)。 そういった点も含め、傷病鳥獣救護のために行政や民間でも枠組みが作られいろいろな方たちが活動されていることは大変尊敬すべきことだと思っています。 その一方で、自然の仕組みを守る仕事については、理性に従って、筋道によってものごとを進めることが求められていることも忘れてはいけないと私は思います。 私たちはこの、情と筋道の間にどこかで一線を引かなければいけないのです。 基本は、野鳥は野外で自活しているのが本来の姿という点です。 ありとあらゆることで情を優先して進めることはできないことを理解しなければいけません。 社会的な影響力のある有名な方にも、ぜひこの点を理解していただき、社会的な発言についてもそのことを踏まえてしていただきたいと、環境保全、鳥類保護に従事する関係者一同は願っていることと私は思います。 平岡考 広報コミュニケーションディレクター.
次の放鳥は貴重な運動の機会 放鳥とは、「室内などの区切られた空間に、飼い鳥のインコや文鳥をケージから出すこと」です。 ちなみに、愛鳥家ではない人は、 「放鳥=外に放つこと」と誤解しているケースもあります。 飼い鳥の一日の生活の様子を見ていると、その殆どがケージの中で過ごしています。 いくら広いケージを用意しても、ケージ内では飛び回ることは難しく、それほどの運動量を確保することはできません。 インコを放鳥しないまま飼育していると、運動不足に陥ります。 さらに、飼い鳥は食事が毎日与えられているので、脂肪がたまって肥満になるケースもよく発生します。 肥満の原因となる、運動不足を解消するのにインコに必要なのが、 放鳥です。 放鳥の効果・メリット 放鳥がインコに及ぼす効果について、2つのメリットを紹介します。 放鳥がインコの運動不足を解消 1つ目のメリットは、運動不足解消です。 インコはケージの中だけで暮らしていると、運動不足に陥りがちです。 特にケージ内では、飛ぶといった鳥の基本行動ができません。 そのため、食べたごはんのカロリーを消費できず、脂肪がついて肥満になるといった問題も発生します。 放鳥することで、室内などの限られた空間内ですが、飛んだり移動できるので、鳥に必要な運動量を確保することができます。 それによって、肥満になるのを予防し、肥満を改善することが可能です。 放鳥がインコのストレスを発散 2つ目は、ストレス発散です。 普段はケージの中にいることで、ストレスが溜まります。 人間でも、室内にずっと籠っていると、ストレスが溜まり、気分転換に外に出掛けたくなります。 インコや文鳥も同じです。 むしろインコや文鳥は、人間でいうところの2歳児程度なので、もっと外に出たいと思っているかもしれません。 狭い空間から、広い空間の中で、行動することによって、愛鳥はストレスを解消することができます。 放鳥の方法・やり方 放鳥の方法は、それほど難しいものではありません。 愛鳥が生活しているケージに設置されている扉・入り口を開け、中から出てくるのを待ちます。 手乗りのインコの場合は、ケージの入り口に指を持っていてあげて、手に乗るのを待ってあげてもよいです。 放鳥すると、室内の色々なところに飛んでいきます。 鳥は糞を我慢できず、色々なところにしてしまうので、放鳥時には、服などが汚れないようカバーを用意しておきましょう。 さらに、お気に入りの止まり木のスタンドや、バードアスレチックを用意してあげると、そこを重点的に遊ぶようになります。 放鳥にかける時間はどれぐらい? 放鳥時間ですが、これだけ必要といった時間の基準はありません。 1日1時間といったケースや、愛鳥が満足してケージに戻るまでといった場合もあります。 ただ、愛鳥は規則正しい生活を好むため、朝起きてきた後や、夕方といった、毎日同じ時間帯にできるだけ放鳥してあげるのがオススメです。 放鳥で気をつけたい注意点 放鳥は、愛鳥にとって楽しい時間ですが、注意したいポイントもあります。 窓や扉は開いていないか• 鳥に危険なものはないか• 常に鳥を見守るーながら放鳥はNG 1. 窓や扉は開いていないか 放鳥する前に必ず、窓や扉が開いていないか確認しましょう。 迷子の原因は、放鳥時に窓や扉が開いていた、開けてしまったケースが多いです。 必ず、窓が閉まっているか確認しましょう。 また、網戸にしている場合も注意が必要です。 鳥が勢いよく飛び、網戸を突き破って外に出てしまった事例もあります。 網戸だからといって、安心してはいけません。 さらに家族などがいる場合、放鳥していることを知らず、急に扉や窓を開けることもあります。 そのタイミングで飛び出していく恐れもあるため、放鳥中は家族に知らせるか、わかるようにお知らせを用意しましょう。 鳥に危険なものはないか 家の中、室内は鳥にとって危険なものだらけです。 人間の食べ物• 金属製の小物 クリップなど• 電気ケーブル• カーテンの重しの鉛 インコは、興味が湧いたものをかじる傾向があります。 上記の室内に当たり前にあるものをかじってしまうと、感電してしまったり、金属中毒を引き起こす可能性があります。 放鳥するスペースにインコに危険なものがないか、見回して放鳥する前に別の場所に移動させましょう。 リビングなど置かれていることも多い観葉植物の中にも、インコや文鳥に有害なものがあります。 鳥に有害な観葉植物をまとめた記事がありますので、併せてお読み下さい。 常に鳥を見守るーながら放鳥はNG 放鳥時、鳥は色々なところに出没します。 高いところから、床など色々なところに移動します。 2で紹介した危険なものを取り除いても、すべて取り除くことは難しく、残っていたりします。 そういったものがあったときに、すぐに見つけて、取り除けるように鳥の行動をしっかりチェックしておくことが大切です。 インコの場所を確認しておかないと、飼い主が移動するときに、踏んでしまう事故も発生します。 インコは飛ばずに地面を歩いていることも多く、気づかないで不幸な事故を招くこともあります。 そのため、放鳥時はインコがどこにいるか、きちんと把握しておきましょう。 テレビを見ながらや、作業しながらの「ながら放鳥」は絶対にNGです。 さらに、インコは狭い空間を好むので、壁の隙間など、人の手の届かないところに行ってしまうこともあります。 そういった時に気づくためにもきちんと放鳥している間は、他の作業などはせずに、きちんと鳥の様子を見守り、観察しておきましょう。 多頭飼いの同時放鳥は、要注意! 多頭飼いの放鳥した際の事故がありましたので、多頭飼いの放鳥の注意点を追加します。 複数のインコや文鳥を飼われている、多頭飼いの愛鳥家の方も多くいます。 その場合、すべての愛鳥を個別に放鳥させることは、時間も手間もかかり大変です。 インコ同士の相性も良く、お互いにケンカ等しなければ、同時に放鳥させるケースも多いと思います。 しかし、それまでは仲良く過ごしていても、 事故は突然訪れます。 ふとしたことで、噛みついてケガをさせるといったことは、起こりえます。 特に、サイズの違う、異なる種類の鳥の場合、小さい方の鳥の命が危険にさらされる可能性があります。 そういった事故を防ぐため、異なる種類の鳥、特にサイズ差がある鳥たちを同時に放鳥することは、控えましょう。 どうしても同時放鳥する場合は、すぐに介入できる体制が必要です。 常に愛鳥たちに気を配り、何かあった時は止められる位置でスタンバイします。 もし、それが難しい場合は、時間や手間はかかりますが、個別に放鳥した方が安全です。 放鳥後のケージの戻し方には工夫が必要 放鳥というのは、愛鳥にとって、とても楽しい時間です。 飼い主の方がそろそろ放鳥時間を終了しようと思っていても、帰りたくないとアピールすることがあります。 そんなとき、 強制的に捕まえてケージに戻すと、鳥との信頼関係を崩す可能性があります。 インコなどはとても賢いので、自分がされたことをしっかり覚えています。 一度、嫌がる状態で戻したことで、手に乗らなくなったり、手を嫌うようになるケースもあります。 そこで、しっかり愛鳥が自発的に喜んでケージに戻るような工夫が大切です。 例えば、食事が大好きなインコの場合、放鳥した後、ごはんを交換しておくと、新しいごはん食べたさに戻るかもしれません。 それほど食への欲求が強くない愛鳥の場合は、放鳥後のケージに大好物のおやつを用意しておいてあげます。 すると、放鳥後に特別なおやつがもらえると学習して、喜んで戻るようになったりします。 まとめ・終わりに 今回は、放鳥について、効果・メリットと放鳥のやり方に加え、放鳥時の注意点を紹介しました。 放鳥は一日の大半をケージ内で過ごす飼い鳥にとって、運動不足を解消できます。 しかし、家から飛び出してしまったり、鳥に有害なものを誤飲したりと、注意しなければならない点もあります。 特に、インコの迷子の大多数は、放鳥時に起こります。 細心の注意を払って放鳥が必要です。 最後に、ケージに戻るまでが放鳥です。 ケージに戻すところで、無理矢理捕まえて強制的に戻そうとすると、信頼関係が崩れる恐れがあります。 最初から最後まで愛鳥が楽しく、かつ自発的・喜んでケージに戻る工夫をぜひ心がけましょう。
次の「犬の日」「猫の日」などと日々盛り上がっている犬好き、猫好き界ですが、「鳥好き」の話題はなかなか聞きません。 あまり知られていない鳥好きですが、マイノリティーならではの濃い世界が育っています。 ここ数年は特に、全国各地で鳥カフェや鳥フェスなどを開き、じわじわと表の世界にも姿を現しつつあるのです。 知られざる鳥好き界をご紹介します。 (朝日新聞松江総局記者・富岡万葉) 「なんでそんなに太いんや?ん?」 記者は、実家で文鳥を10羽以上飼育する鳥好き。 エサを部屋にまき散らかされても、髪や肩にフンをされても気になりません。 丸々太った体が指に飛び乗ってくるだけで満足できます。 指にとまった文鳥がリラックスして目をつぶる瞬間のために何分も動かずに石と化してみたり、がまんできずに手の中に閉じ込めて思いっきりにおいを嗅いだり。 話しかけると鳴き声で答えるので退屈しません。 不機嫌でも、文鳥たちに「なんでそんなに太いんや?ん?」などと話しかけていると、いつのまにかイライラもおさまっています。 記者の実家の文鳥たち。 写真も慣れたものでカメラ目線をくれる 「文鳥のにおいがするアイス」だとっ! 家族そろって鳥好きの記者ですが、鳥好きの友だちはいません。 「鳥って目リアルでキモない?ハトとか」「生理的に無理やわ」という声を周りから聞くこともあり、鳥が好きとは言い出せませんでした。 先日、ひっそりとネットで鳥の写真を眺めていたところ、「鳥フェス」という言葉が目に入りました。 鳥好き作家による鳥グッズの即売会、鳥好きが集まる祭典といいます。 「文鳥のにおいがするアイス」というあおり文句につばを飲み込みながら、別タブでググります。 とりあえず値段を確認し、その月の生活費の残りと貯金残高を頭の中で計算します。 買い占めてクール宅配便で実家に送れば、記者のかわいい妹も喜ぶでしょう。 早速足を運んだのは、神戸市で開催された「鳥フェス神戸2017」。 飲食店を貸し切りにした会場は、汗をかくほどの熱気です。 小学校の教室を細長くしたような狭い店内には鳥グッズを売る約10ブースが並びます。 キーホルダーやぬいぐるみといった小物やメモ帳などの文具、モバイルバッテリーや便座カバーなどもあります。 見渡す限りが鳥、鳥、鳥です。 インコをイメージした入浴料「Inこの湯」 さっそく記者も、熱気の中心へ。 人混みをかき分け、かき分け、ブースに近づきます。 「このモミ心地まさに『文鳥』 迷菓ぶんちょう」 「インコイメージ入浴料Inこの湯 あらやだボディーがインコクサイ!」 「早く帰ってインコ揉みたい」 商品のうたい文句に思わず足が止まりました。 さすがは鳥好きの祭典、ツボを心得ています。 鳥をもんだり、鳥のにおいをつけたりしたいなどという感覚は、鳥好きにしかわからないでしょう。 インコ臭さはじける「インコクサイダー」。 「チーズケーキを食べながら梅酒を飲んだような」インコの風味を忠実に再現した LINEスタンプ、コラボケーキも 飲食スペースもすごい人だかりです。 インコのオムライスや人気のLINEスタンプ「ふろしき文鳥」とコラボしたケーキがテーブルに並んでいます。 写真撮影に夢中で、みんななかなか口をつけません。 奥には、朝日新聞デジタルで写真特集「シマエナガちゃん」コーナーを持つ写真家小原玲さんの姿が。 サインをもらってファンもうれしそうです。 小原さんによると、野生の鳥の場合は、飛んでくる方向や場所を考えて、動かず待ち伏せするとうまくいくようです。 佐賀県のグッズ作家かんたろうさんのブースで扱っているのは、Tシャツやファイル、バッジなど。 鳥のドアップ写真を使ったグッズ以外にも、鳥を家紋風に表現したステッカーなどがあります。 かんたろうさんは大型インコ15羽と暮らし、「フンまみれでも気にしない!」という猛者ですが、世間へのカミングアウトは女性より難しいといいます。 「女性なら鳥グッズもアクセサリーって言えるけど、男だとそうはいかないじゃないですか」 「そうそう」 「こういうパッと見てわからないものでアピールするのも一つの手ですよ」 中高年の男性客がうんうんとうなずいています。 鳥好きに潤いを与えた功労者 2日間でのべ千人が訪れた今回の鳥フェス。 主催は、東京や大阪で4店舗を展開する「ことりカフェ」。 神戸市の「とりみカフェ ぽこの森」も協力しています。 どちらも鳥を眺めながら食事ができるカフェです。 ことりカフェでは、鳥の「スタッフ」と触れ合うこともできます。 ホームページを見るだけでも、鳥好きにはたまりません。 ぽこの森を経営する梅川千尋さん(37)は、鳥好き界では名の知れた人。 鳥好きが集まるイベントを作ろうと声を上げた立役者で、点々としていた鳥好きに潤いを与えた素晴らしい功績の持ち主です。 「とりみカフェ ぽこの森」のブースで、鳥の帽子をかぶって接客する梅川さん。 お客さんの話に「素晴らしインコ!」などと相づちを打っていました 不遇の時代、鳥インフルに高齢化 今でこそ大盛況の鳥フェスですが、鳥界には不遇の時代もありました。 梅川さんによると、05年以降に大流行した鳥インフルエンザが、鳥にマイナスイメージをつけました。 同時に、街中にあった個人経営の鳥屋も高齢化が進んで激減したようです。 内閣府が実施する世論調査によると、鳥の飼育数は調査が始まった1979年当時は犬の次に人気の37. 6%でしたが、その後は減り続け、2010年には犬、猫、魚類に負けて全4種類中最下位の5・7%まで落ちています。 記者は不人気の時代しか知りませんが、昔は人気者だったんですね。 1959年、天才九官鳥として話題になった「キューちゃん」。 「ハトポッポ」を歌い、「アラアラ、イイコダ」と赤ん坊のあやし方まで心得て最近は「ハロー」で始まる英会話までやる、と報じられた 出典: 朝日新聞 最初はグッズ作りから 「花鳥風月という言葉にあるような奇麗な物の象徴としての鳥は消えつつありました。 鳥を扱う店も減り、このままでは鳥をめでる文化や飼育の技術が途絶えてしまう」と危機感を抱いていた梅川さん。 07年にぽこの森をオープンさせたのを機に、知り合いの鳥好きやイラストレーターなどに呼びかけ始め、数年かけて、個人の鳥好きや作家たちが関西を中心に集まりました。 最初はグッズ作りから。 鳥グッズがほしいけど、市販の既製品では満足できないという鳥好きたちが、自前でグッズを作り始めました。 既製品は決まった型を使い、色を変えて違う種類の鳥を作り分けるものが多く、例えばインコと文鳥という全く異なる種類の鳥が同じ顔でできあがってしまいます。 鳥好きたちは、鳥の目や羽の色、脚の指の数、表情や体の膨らみ方など、既製品では表現されない部分の再現にこだわったといいます。 今では全国各地で年に約20件の鳥イベントが開かれるほど、コミュニティーは成長しました。 鳥を飼っているという人も増え、人気が目に見えるようになってきた鳥好き界。 一過性のブームに終わらせたり、鳥の飼育放棄につながったりしないよう、鳥好きたちも慎重です。 フェスでは、アヒルなど珍しい鳥を飼っているが飼育の大変さを紙にまとめて安易に飼わないでと伝えていました。 自分の死後、長生きする大型の鳥を誰に託すのか。 飼育費用はどうするのか。 鳥好きたちは、そんなまじめな話も避けずに話題にします。 かわいいと浮かれているだけでなく、ちゃんと鳥のことを真剣に考えている人ばかりです。 文鳥とセキセイインコの色みなどをイメージした炊き込みご飯。 常温でも食べられるため、非常食としても使えるという 次世代の育成も 梅川さんは、動物の専門学校に通う学生を研修生としてカフェに迎えています。 1カ月間、飼育や店の手伝い、経営やイベント運営の進め方を失敗談を交えて教えます。 鳥界の不遇の時代は、鳥を扱う店がビジネスの知識や経験を後進に伝えてこなかったことも一因だと考えるからです。 昨年の研修生で東京動物専門学校に通う西幸樹さん(20)は「飼育方法は学校で勉強できるけど、世間に出て、ニッチな分野でどうやっていくかはここでしか教われない」と手応えを感じています。 将来は好きな料理と鳥の飼育を両立できるカフェを持ちたいと夢を話してくれました。 取材当初は鳥フェスの楽しさに興奮するばかりだった記者。 取材を通して、現在の盛り上がりにたどり着くまでには地道な努力が積み重ねられた歴史があると知りました。 「小鳥を口に入れたような」風味が堪能できるインコアイス。 オニオオハシやヨウム、スズメなどニッチ層の心をつかむ風味も充実。 「スズメ踊りが うまく きまる」などスズメからの適当なメッセージが詰まった「フォーチュンチュンクッキー」も人気商品の一つ。 文鳥とセキセイインコの色みなどをイメージした炊き込みご飯。 常温でも食べられるため、非常食としても使えるという。 インコ臭さはじける「インコクサイダー」。 「チーズケーキを食べながら梅酒を飲んだような」インコの風味を忠実に再現した。 トートバック「早く帰ってインコ揉みたい」シリーズ。 各ブースでは、鳥好きの欲望を落とし込んだグッズがあちこちに見られた。 ところ狭しと並ぶ鳥グッズ。 コーナーごとに「かわいい!」などと悲鳴が上がっていた。 ところ狭しと並ぶ鳥グッズ。 小物の転がり方一つに「脚がかわいい!」などと悲鳴が上がった。 「とりみカフェ ぽこの森」のブースで、鳥の帽子をかぶって接客する梅川さん。 お客さんの話に「素晴らしインコ!」などと相づちを打っていました 「鳥フェス神戸2017」の会場。 店内に所狭しと並んだブースに人が詰めかけ、ごった返していた 下野さんが集めているモモイロインコ「2人」の抜けた羽根=下野さん提供 記者の実家の文鳥。 よく慣れているので手の上で寝ることも 記者の実家の文鳥たち。 写真も慣れたものでカメラ目線をくれる 身も心も鳥になりきって記念撮影を楽しむ鳥好きたち。 オニオオハシをモチーフにした園のマスコットキャラクターを囲んだ。 文鳥のモミ心地を堪能できる「迷菓 ぶんちょう」の握り方を実演する「とりみカフェ」の梅川千尋さん。 小鳥の顔がプリントされたTシャツは手作りだ=いずれも松江市大垣町 おすすめ記事(PR)•
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