アラジン アラビアン ナイト。 『アラビアンナイト』から アラジンとお菓子

「アラビアンナイト」を多彩な展開に導いた帝国主義とオリエンタリズム (2013年11月24日)

アラジン アラビアン ナイト

『アラビアンナイト』 アラブの春以来、激動が続く中東。 しかし興味はあっても、遠い国に思われてよく分からないという人も多いでしょう。 そこで11月の「100分de名著」では、中東で生まれた名作「アラビアンナイト」(千一夜物語)を取りあげます。 「アラジンと魔法のランプ」「アリババと40人の盗賊」「シンドバッドの冒険」などが有名ですが、児童文学として紹介され、広く知られている話は「アラビアンナイト」のほんの一部に過ぎません。 その中には、まるで落語のような話もあれば、推理小説のような話もあり、全体を通読すると、その豊かな文学世界に圧倒されます。 また「アラビアンナイト」には、歴史史料としての価値もあります。 9世紀に原型となる話が生まれ、時代と共に書き足されていったため、過去の人々の営みが克明に記録されているからです。 番組では、あまり知られていない「アラビアンナイト」の全貌を明らかにしながら、千年の時をつめたタイムカプセルとして、物語に秘められた様々な歴史を解説します。 当初収められていた物語の数は35話程度だったが、時代と共に物語の数が増え、今日のような物語集となった。 しかし日本人にとって馴染みがあるのはそのほんの一部に過ぎない。 というのは子ども向けではない話が多く含まれているからだ。 そこで第1回では、物語の軸となっている美女、シェヘラザードに焦点を当て、大人になった今だからこそ読めるシーンを大胆に織り込み、その意外な全体像を明らかにする。 雑談ばかりして、なかなか仕事をしない床屋が客の運勢を占う場面では、当時の最先端をいく天体観測機が登場する。 こうした技術を使って活躍したのが、シンドバッドに代表される海のシルクロードの商人たちだ。 第2回では、文明の交流点として栄えた都市と人々の活気を明らかにする。 なぜ奴隷という身分で、これほどまでの高い知識を持っているのか?第3回ではその謎に迫る。 また女の色香に翻弄される男たちの姿から、アラブ女性が持つしたたかさにも注目、アラブ社会の意外な真実に迫る。 そして時代の移り変わりと共に、様々な人が物語を書き足し、分量が増えていった。 実は今でも、物語は増え続けている。 終わりがないのが、アラビアンナイトの最大の特徴なのだ。 第4回では、アラビアンナイトが世界の人々の心を捉えるのはなぜかを探る。 そして物語の底流にある、アラブ人ならではのたくましさを描く。

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【洋楽歌詞和訳】A rabian Nights (アラビアンナイト) / Aladdin(アラジン)Will Smith(ウィル・スミス)

アラジン アラビアン ナイト

昔、 しなの都に、ムスタフという 貧乏 ( びんぼう )な仕立屋が住んでいました。 このムスタフには、おかみさんと、アラジンと呼ぶたった一人の 息子 ( むすこ )とがありました。 この仕立屋は大へん心がけのよい人で、一生けんめいに働きました。 けれども、悲しいことには、息子が 大 ( だい )のなまけ者で、年が年じゅう、町へ行って、なまけ者の子供たちと遊びくらしていました。 何か仕事をおぼえなければならない年頃になっても、そんなことはまっぴらだと言ってはねつけますので、ほんとうにこの子のことをどうしたらいいのか、両親もとほうにくれているありさまでした。 それでも、お父さんのムスタフは、せめて仕立屋にでもしようと思いました。 それである日、アラジンを仕事場へつれて入って、仕立物を 教 ( おし )えようとしましたが、アラジンは、ばかにして笑っているばかりでした。 そして、お父さんのゆだんを見すまして、いち早くにげ出してしまいました。 お父さんとお母さんは、すぐに追っかけて出たのですけれど、アラジンの走り方があんまり早いので、もうどこへ行ったのか、かいもく、姿は見えませんでした。 「ああ、わしには、このなまけ者をどうすることもできないのか。 」 ムスタフは、なげきました。 そして、まもなく、子供のことを心配のあまり、病気になって、死んでしまいました。 こうなると、アラジンのお母さんは、少しばかりあった仕立物に使う 道具 ( どうぐ )を売りはらって、それから後は、糸をつむいでくらしを立てていました。 さて、ある日、アラジンが、いつものように、町のなまけ者と一しょに、 めんこをして遊んでいました。 ところがそこへ、いつのまにか 背 ( せい )の高い、色の黒いおじいさんがやって来て、じっとアラジンを見つめていました。 やがて、めんこが一しょうぶ終った時、そのおじいさんがアラジンに「おいで、おいで」をしました。 そして、 「お前の名は何と言うのかね。 」と、たずねました。 この人は大へんしんせつそうなふうをしていましたが、ほんとうは、アフリカの まほう使でした。 「私の名はアラジンです。 」 アラジンは、いったい、このおじいさんはだれだろうと思いながら、こう答えました。 「それから、お前のお父さんの名は。 」また、まほう使が聞きました。 「お父さんの名はムスタフと言って、仕立屋でした。 でも、とっくの昔に死にましたよ。 」 と、アラジンは答えました。 すると、この悪者のまほう使は、 「ああ、それは私の弟だ。 お前は、まあ、私の 甥 ( おい )だったんだね。 私は、しばらく外国へ行っていた、お前の 伯父 ( おじ )さんなんだよ。 」 と言って、いきなりアラジンをだきしめました。 そして、 「早く家へ帰って、お母さんに、私が会いに行きますから、と言っておくれ。 それから、ほんの少しですが、と言って、これをあげておくれ。 」と言って、アラジンの手に、 金貨 ( きんか )を五枚にぎらせました。 アラジンは、大いそぎで家へ帰って、お母さんに、この伯父さんだという人の話をしました。 するとお母さんは、 「そりゃあ、きっと、何かのまちがいだろう。 お前に伯父さんなんか、ありゃあしないよ。 」と、言いました。 しかし、お母さんは、その人がくれたという金貨を見て、ひょっとしたら、そのおじいさんはしんるいの人かもしれない、と思いました。 それで、できるかぎりのごちそうをして、その人が来るのを待っていました。 まもなくアフリカのまほう使は、いろいろめずらしい果物や、おいしいお菓子をどっさりおみやげに持って、やって来ました。 「なくなった、かわいそうな弟の話をしてください。 いつも弟がどこに 腰 ( こし )かけていたか、教えてください。 」 と、まほう使は、お母さんとアラジンに聞きました。 お母さんは、いつもムスタフが腰かけていた、長 いすを教えてやりました。 すると、まほう使は、その前にひざまずいて、泣きながらその長いすにキッスしました。 それで、お母さんは、この男はなくなった主人の兄さんにちがいない、と思うようになりました。 ことに、このまほう使が、アラジンをなめるようにかわいがるのを見て、なおさら、そうときめてしまったのでした。 「何か、仕事をしているかね。 」まほう使がアラジンにたずねました。 「まあ、ほんとうに、おはずかしゅうございますわ。 この子は、しょっちゅう町へ行って、遊んでばかりいまして、まだ何にもしていないのでございますよ。 」 お母さんが手をもみながら、そう答えました。 アラジンは、伯父さんだという人が、じっと自分を見つめているので、はずかしそうに、うつむいていました。 「何か仕事をしなきゃあいけませんな。 」 まほう使は、こうお母さんに言っておいて、さて、こんどはアラジンに、 「お前はいったい、どんな商売がしてみたいのかね。 私はお前に 呉服店 ( ごふくみせ )を出させてあげようと思っているのだが。 」と、言いました。 アラジンは、これを聞くと、うちょうてんになってよろこびました。 あくる日、伯父さんだという人は、アラジンに、りっぱな着物を一そろい買って来てくれました。 アラジンは、それを着て、この伯父さんだという人につれられて、町じゅうを見物して歩きました。 その次の日もまた、まほう使はアラジンをつれ出しました。 そして、こんどは、美しい 花園 ( はなぞの )の中を通りぬけて、 田舎 ( いなか )へ出ました。 二人はずいぶん歩きました。 アラジンは、そろそろくたびれはじめました。 けれども、まほう使がおいしいお菓子や果物をくれたり、めずらしい話を次から次と話して聞かせてくれたりするものですから、大してくたびれもしませんでした。 そんなにして、とうとう二人は山と山との間の深い谷まで来てしまいました。 そこでやっと、まほう使が足をとめました。 「ああ、とうとうやって来たな。 まず、たき火をしようじゃあないか。 かれ枝を少し 拾 ( ひろ )って来ておくれ。 」と、アラジンに言いました。 アラジンはさっそく、かれ枝を拾いに行きました。 そして、すぐ両手にいっぱいかかえて、帰って来ました。 まほう使は、それに火をつけました。 かれ枝は、どんどんもえはじめました。 おじいさんはふしぎな 粉 ( こな )を、ポケットから出しました。 それから、口の中で何かぶつぶつ言いながら、火の上にふりかけました。 すると、たちまち大地がゆれはじめました。 そして、目の前の地面がぱっとわれて、大きな、まっ四角な平たい石があらわれてきました。 その石の上には、 輪 ( わ )がはまっていました。 アラジンはこわがって、家へ走って帰ろうとしました。 けれども、まほう使はそうはさせませんでした。 アラジンのえりがみをつかんで、引きもどしました。 「伯父さん、どうしてこんなひどいことをするんです。 」アラジンは泣きじゃくりながら見上げました。 「だまって、私の言う通りにすればいい。 この石の下には 宝物 ( たからもの )があるのだ。 それをお前に分けてやろうというのだ。 だから私の言う通りにおし。 すぐに出て来るからな。 」 と、まほう使が言いました。 宝物と聞くと、アラジンは今までのこわさはすっかり忘れて、よろこんでしまいました。 そして、まほう使の言う通りに、石の上の輪に手をかけると、石はぞうさなく持ち上りました。 「アラジンや、ごらん。 そこに下へおりて行く石段が見えるだろう。 お前が、その石段をおりきるとね、 大広間 ( おおひろま )が三つならんでいるんだよ。 その大広間を通って行くのだが、その時、 外套 ( がいとう )がかべにさわらないように気をつけなきゃあいけないよ。 もしさわったが最後、お前はすぐに死んでしまうからね。 そうして、その大広間を通りぬけると、 果物畠 ( くだものばたけ )があるのだよ。 その中をまた通りすぎると、つきあたりに穴ぐらがある。 その中に一つのランプがとぼっているからね、そのランプをおろして、中の油を 捨 ( す )てて持ってお帰り。 」 まほう使はこう言いながら、おまもりだといって、まほうの 指輪 ( ゆびわ )をアラジンの指にはめてくれました。 そして、すぐに出かけるようにと 命令 ( めいれい )しました。 アラジンは、まほう使の言った通りにおりて行きました。 何もかも、まほう使が言った通りのものがありました。 アラジンは三つの大広間と果物畠を通りぬけて、ランプのあるところまで来ました。 そこで、ランプをとって油を捨てて、だいじにふところにしまってから、あたりを見まわしました。 アラジンは、ゆめにさえこんな見事な果物畠は見たことがありませんでした。 なっている果物がいろいろさまざまの美しい色をしていて、まるでそこら一面、 にじが立ちこめたように見えるのです。 すきとおって 水晶 ( すいしょう )のようなのもありました。 まっ 赤 ( か )な色をしていて、ぱちぱちと火花をちらしているのもありました。 そのほか緑、青、むらさき、だいだい色なんどで、葉はみんな金と銀とでできていました。 この果物は、ほんとうはダイヤモンドや、ルビーや、エメラルドや、サファイヤなどという 宝石 ( ほうせき )だったのですが、アラジンには気がつきませんでした。 けれども、あんまり見事だったものですから、帰りにこの果物をとって、ポケットに入れておきました。 アラジンがやっと石段の下までたどりついた時、地の上では、まほう使が一心に下の方を見つめて待っていました。 そしてアラジンが石段をのぼりかけると、 「早く、ランプをおよこし。 」と言って、手をのばしました。 「私が持って出るまで待ってくださいな。 出たらすぐにあげますから。 ここからじゃとどかないんですもの。 」と、アラジンは答えました。 「もっと手を持ち上げたらとどくじゃないか。 さあ、早くさ。 」 おじいさんは、おこった 顔 ( かお )をしてどなりつけました。 「すっかり外へ出てから渡しますよ。 」アラジンは同じようなことを言いました。 すると、まほう使は、はがゆがってじだんだをふみました。 そして、ふしぎな粉をたき火の中へ投げこみました。 口の中で何かぶつぶつ言いながら。 そうすると、たちまち石がずるずるとふたをしてしまい、地面の上へかえる道がふさがってしまったのでした。 アラジンはまっ暗な地の下へとじこめられてしまいました。 これで、そのおじんさんは、アラジンの伯父さんではないということがはっきりとわかりました。 このまほう使は、まほうの力によって遠いアフリカで、このランプのことをかぎつけたのでした。 このランプは大へんふしぎなランプなのです。 そのことは、読んでゆくにしたがって、だんだん皆さんにわかってくるでしょう。 しかし、このまほう使は、自分でこのランプをとりに行くことはできないのでした。 だれかほかの人がとって来てやらなければ、だめなのでした。 それで、アラジンにつきまとったわけです。 そして、ランプさえ手に入ったら、アラジンを 殺 ( ころ )してしまおう、と思っていたのでありました。 けれども、すっかりあてがはずれてしまいましたので、まほう使はアフリカへ帰ってしまいました。 そして長い長い間、 しなへは、やって来ませんでした。 さて、地の下へとじこめられたアラジンは、どこかにげ道はないかと、あの大広間や果物畠の方へ行ってみましたが、地面の上へかえって行く道はどこにもありませんでした。 二日 ( ふつか )の間アラジンは泣きくらしました。 そして、どうしても地の下で死んでしまわなきゃならないのだと思いました。 そして、両方の手をしっかりとにぎりあわせました。 その時、まほう使がはめてくれた指輪にさわったのでした。 すると、たちまち大きなおばけが、 床 ( ゆか )からむくむくとあらわれ出て、アラジンの前に立ちはだかりました。 そして、 「 坊 ( ぼっ )ちゃん、何かご用でございますか。 私は、その指輪の 家来 ( けらい )でございます。 ですから、その指輪をはめていらっしゃる方のおっしゃる通りに、しなければならないのでございます。 」と、言うのです。 アラジンはとび上るほどよろこびました。 そして、 「私の言うことなら、どんなことでも聞いてくれるんだね。 よし、じゃ、こんなおそろしいところからすぐつれ出しておくれ。 」と、こうたのみました。 そうすると、すぐに地面へ上る道が開きました。 そして、あっというまに、もう自分の家の戸口まで帰っていました。 お母さんがアラジンが帰ったので、涙を流してよろこびました。 アラジンもお母さんにだきついて、何度も何度もキッスしました。 それから、お母さんにこの間からのいちぶしじゅうを話そうとしましたが、お 腹 ( なか )がぺこぺこでした。 「お母さん、何かたべさせてくださいな。 私はお腹がぺこぺこで死にそうなんです。 」と、アラジンが言いました。 お母さんは、 「ああ、そうだろうとも、ねえ。 だがこまったよ、もう家の中には、少しぽっちの 綿 ( わた )よりほかには何にもないんだよ。 ちょっとお待ち、この綿を売りに行って、そのお金で何か買って来てあげよう。 」と、言いました。 するとアラジンは、 「お母さん、待ってください。 いいことがあります。 綿を売るよりも、この、私の持って帰ったランプをお売りなさいな。 」と言って、あのランプを出しました。 けれども、ランプは大へん古ぼけていて、ほこりまみれでした。 少しでもきれいになったら、少しでも高く売れるだろうと思って、お母さんはそれをみがこうとしました。 しかし、お母さんが、そのランプをこするかこすらないうちに、大きなまっ黒いおばけが、 床 ( ゆか )からむくむくと出て来ました。 ちょうど、けむりのように、ゆらゆらとからだをゆすりながら、頭が天じょうへとどくと、そこから二人を見おろしました。 「ご用は何でございますか。 私はランプの家来でございます。 そして私はランプを持っている方の言いつけ通りになるものでございます。 」と、そのおばけが言いました。 アラジンのお母さんは、このおばけを見た時、こわさのあまり気をうしなってしまいました。 アラジンは、すぐお母さんの手からランプを引ったくりました。 そしてふるえながら、自分の手に持っていました。 「ほんの少しでもいいから、たべるものを持っておいで。 」 アラジンは、やっぱりふるえながら、こう言いました。 おそろしいおばけが、やっぱり天じょうからにらみつけていたものですから。 が、その時、ランプの家来は、しゅっとけむりを立てて消えてゆきました。 けれども、またすぐに、金のお 皿 ( さら )の上に上等のごちそうをのせて、あらわれて来ました。 この時、アラジンのお母さんは、やっと気がつきました。 けれども、このごちそうをたべるのを、大へんこわがりました。 そして、すぐにランプを売ってくれと、アラジンにたのみました。 あのおばけが、きっと何か悪いことをするにちがいないと考えたものですから。 けれどもアラジンは、お母さんのこわがっているのを笑いました。 そして、この まほうのランプと、ふしぎな 指輪 ( ゆびわ )の使い方がわかったから、これからは、この二つをうまく使って、くらしむきのたすけにしようと思う、と言いました。 二人は金のお皿を売って、ほしいと思っていたお金を手に入れました。 そして、それをみんな使ってしまった時、アラジンはランプのおばけに、もっと持って来いと言いつけました。 こうして、親子は何年も何年も楽しくくらしていました。 さて、アラジンの住んでいる町にあるお 城 ( しろ )の王さまのお 姫 ( ひめ )さまは、大へん美しい方だということでした。 アラジンも、このうわさを聞いていましたので、どうにかしてお姫さまを一度おがみたいと思っていました。 それで、いろいろお姫さまをおがむ方法を考えてみましたけれど、どれもこれもみんなだめらしく思われるのでした。 なぜかというと、お姫さまは、いつも外へお出ましになる時は、きまったように、深々とベールをかぶっていらっしゃったからであります。 けれども、とうとう、ある日、アラジンは王さまの 御殿 ( ごてん )の中へ入ることができました。 そして、お姫さまが ゆどのへおいでになるところを、戸のすきまからのぞいてみました。 それからアラジンは、お姫さまの美しいお顔が忘れられませんでした。 そしてお姫さまがすきですきでたまらなくなりました。 お姫さまは夏の夜のあけ方のように美しい方でした。 アラジンは家へ帰って来て、お母さんに、 「お母さん、私はとうとうお姫さまを見て来ましたよ。 お母さん、私はお姫さまをおよめさんにしたくなりました。 お母さん、すぐに王さまのお城へ行って、お姫さまをくださるようにお 願 ( ねが )いしてください。 」と言って、せがみました。 お母さんは、息子のとほうもない望みを聞いて笑いました。 そしてまた、アラジンが気ちがいになったのではないかと思って、心配もしました。 しかし、アラジンはお母さんが「うん」と言うまではせがみ通しました。 それで、お母さんは、あくる日、王さまへのおみやげに、あのまほうの果物をナフキンにつつんで、ふしょうぶしょうにお城へ出かけて行きました。 お城には、たくさんの人たちがつめかけて、うったえごとを申し出ておりました。 お母さんは何だかいじけてしまって、進み出て自分のお願いを申し上げることができませんでした。 だれもまた、お母さんに気がつきませんでした。 そうして、毎日々々、お城へ出かけて行って、やっと一週間めに王さまのお目にとまりました。 王さまは 大臣 ( だいじん )に、 「あの女は何者だな。 毎日々々、白いつつみを持って、来てるようだが。 」と、おたずねになりました。 それで大臣は、お母さんに王さまの前へ進むように申しました。 お母さんは、少し進んで、地面の上へひれふしてしまいました。 お母さんは、あんまりおそれ多いので、何も言うことができませんでした。 けれども、王さまが大そうおやさしそうなので、やっと 勇気 ( ゆうき )を出して、アラジンにお姫さまをいただきたいとお願いしました。 それから、 「これはアラジンが王さまへのささげ物でございます。 」と言って、まほうの果物をつつみから出して、さし上げました。 あたりにいた人々は、こんなりっぱな果物を生れて一度も見たことがなかったものですから、びっくりして声を立てました。 果物はいろいろさまざまに光りかがやいて、見ている人たちがまぶしがるほどでした。 王さまもおおどろきになりました。 そして大臣を別のへやへお呼びになって、 「あんなすばらしいささげ物をすることができる男なら、姫をやってもいいと思うが、どうだろうな。 」と、ご 相談 ( そうだん )なさいました。 ところが大臣は、ずっと前から、お姫さまを自分の息子のおよめさんにしたいと思っていたものですから、 「そんなにいそいで約束をあそばないで、もう 三月 ( みつき )ほど、待たせなさいまし。 」 と、申し上げました。 王さまも、なるほどそうだとお思いになりました。 それで、アラジンのお母さんに、もう三月待ったら、姫をやろう、とおっしゃいました。 アラジンは、お姫さまがいただけると聞いて、自分くらい仕合せ者はないと思いました。 それからは、一日々々が矢のように早くすぎてゆきました。 ところが、それから二月もすぎたある夕方、町じゅうが大そうにぎやかなことがありました。 アラジンは何事かと思って人にたずねました。 するとその人は、今晩、お姫さまが、大臣の息子のところへおよめにいらっしゃるからだ、と教えてくれました。 アラジンはまっ 赤 ( か )になっておこりました。 そしてすぐ家へ帰って、まほうのランプをとり出してこすりました。 すると、じきにあのおばけが出て来て、何をいたしましょうかと聞きました。 「王さまのお城へ行って、お姫さまと、大臣の息子をすぐつれて来い。 」と、言いつけました。 たちまちおばけは御殿へ行って、二人をつれて帰って来ました。 そしてこんどは、 「大臣の息子をこの家からつれ出して、朝まで外で待たしておけ。 」と、 命令 ( めいれい )しました。 お姫さまはこわがって、ふるえていました。 けれども、アラジンは、けっしてこわがらないでください、私こそはあなたのほんとうのおむこさんなのでございます、と申し上げました。 あくる朝早く、アラジンの言いつけた通りに、おばけは、大臣の息子をつれて家の中へ入って来ました。 そして、お姫さまと一しょにお城へつれて帰りました。 それからまもなく王さまが、 「お早う。 」と言って、お姫さまのおへやへ入っていらっしゃいますと、お姫さまは涙をぽろぽろこぼして泣いていらっしゃいました。 そして大臣の息子は、ぶるぶるふるえていました。 「どうしたのかね。 」と、王さまがおたずねになりました。 けれども、お姫さまは泣いていて、何にもおっしゃいませんでした。 その晩もまた、同じようにアラジンはおばけに言いつけて、二人をつれて来させました。 そしてもう一度、大臣の息子を家の外に立たせておきました。 次の日もやはり、お姫さまが泣いていらっしゃるのを見て、王さまは大そうおおこりになりました。 そして、お姫さまが何を聞いても、やっぱりだまっていらっしゃるので、なおなおおこっておしまいになりました。 「泣くのをおやめ、そして早くわけをお話し。 話さないと殺してしまうよ。 」と、おしかりになりました。 それで、やっとお姫さまは、おとといの晩からの出来事を、すっかりお話しになりました。 大臣の息子はふるえながら、どうぞおむこさんになるのをやめさせてくださいまし、とお願いしました。 もうもう一晩だって、あんな目にあうのは、いやだと思ったものですから。 そういうわけで、ご 婚礼 ( こんれい )はおとりやめになりました。 そしていろんなお祝いもないことになりました。 さて、いよいよ約束の三月の月日がたってから、アラジンのお母さんは、王さまの前へ出ました。 それで、やっと王さまは、お姫さまをこの女の息子にやると、お約束なすったことを、お思い出しになりました。 「それでは、わしが言った通りにすることにしよう。 だが、わしの 娘 ( むすめ )をおよめさんにする者は、四十枚の 皿 ( さら )に宝石を山もりにして、それを四十人の黒んぼの どれいに持たせてよこさなければいけない。 そして王さまの召使らしい、りっぱな着物を着た西洋人のどれいが、その黒んぼのどれいの手を引いて来るのだぞ。 」 と、おっしゃいました。 アラジンのお母さんは、こまったことになったと思いながら家へ帰って来て、アラジンに王さまのお言葉をつたえました。 「アラジンや、そんなことは、とてもできないことじゃないかね。 」 そう言ってため 息 ( いき )をつきました。 するとアラジンは、 「いいえ、お母さん、だめじゃありませんよ。 王さまにはすぐおおせの通りにしてごらんに入れますよ。 」と、いさぎよく言いました。 それから、まほうのランプをこすりました。 そしておばけが出て来た時、宝石を山もりにした四十枚のお皿と、王さまが言われただけのどれいをつれて来いと言いつけました。 さて、それから、このりっぱな 行列 ( ぎょうれつ )が町を通ってお城へ向いました。 町じゅうの人々はぞろぞろと見物に出て来ました。 そしてみんな、黒んぼのどれいが頭の上にのせている、宝石を山もりにした金のお皿を見て、びっくりしました。 お城へついて、どれいたちは王さまに宝石をさし上げました。 王さまはずいぶんおおどろきになりましたけれど、また大そうおよろこびになって、アラジンとお姫さまとがすぐに婚礼するようにとおっしゃいました。 お母さんが帰って、このことをアラジンにつげますと、アラジンは、すぐにはお城へ行かれないと言いました。 そして、まずランプのおばけを呼んで、 香水 ( こうすい )ぶろと、王さまがお召しになるような金の ぬいとりのある着物と、自分のお供をする四十人のどれいと、お母さんのお供をする六人のどれいと、王さまのお馬よりもっと美しい馬と、そして、一万枚の金貨を十 箇 ( こ )のさいふに分けて入れて持って来いと命じました。 さて、これらのものがみんなととのってから、アラジンは着物を着かえてお城へ向いました。 そして、りっぱな馬に乗って四十人のどれいを召しつれて行くみちみち、両がわに見物しているたくさんの人たちに、十箇のさいふから金貨をつかみ出しては、ばらばらとまいてやりました。 見物人たちは、きゃっきゃっと言って大よろこびで、それを拾いました。 しかし、その中のだれにだって、昔、町でのらくらと遊んでばかりいたなまけ者が、こんなになったとは気がつきませんでした。 これはきっと、どこかの国の王子さまだろうと思っていました。 こんなものものしいありさまで、アラジンがお城へつきますと、王さまはさっそくお出迎えになって、アラジンをおだきになりました。 それから家来たちに、すぐお祝いの 宴会 ( えんかい )と、婚礼の用意をするようにとおっしゃいました。 するとアラジンは、 「 陛下 ( へいか )、しばらくお待ちくださいまし。 私はお姫さまがお住みになる 御殿 ( ごてん )を立てますまでは、婚礼はできません。 」と、申し上げたのでありました。 そうして、家へ帰って、もう一度ランプのおばけを呼びよせました。 そして、 「世界一のりっぱな御殿を作れ。 その御殿は、 大理石 ( だいりせき )と、緑色の石と、宝石とで作らなければいけない。 そしてまん中に、金と銀とのかべとまどが二十四ついている大広間を作るのだ。 それからそのまどは、ダイヤモンドだの、ルビーだの、そのほかの宝石でかざらなければいけない。 けれども、たった一つだけは何にもかざりをしないで、そのままにしておけ。 それから、また馬やも作らなければいけない。 そして、御殿の中には、たくさんのどれいもいなければいけない。 さあ、これだけのことを早くやってくれ。 」 と、言いつけました。 あくる朝、アラジンは、世界一かと思われるほどの御殿が立っているのに気がつきました。 御殿の大理石のかべは、朝日の光を受けて、うすもも色にそまっていました。 まどには宝石がきらめいていました。 アラジンはさっそく、お母さんと一しょにお城へまいりました。 そして、きょう婚礼をさせていただきたいと申し入れました。 お姫さまはアラジンをごらんになって、アラジンと 仲 ( なか )よくしようとお思いになりました。 町じゅうはお祝いで大にぎわいでした。 そのあくる日は、王さまの方からアラジンの新御殿をおたずねになりました。 そしてまず大広間へお通りになって、金の銀とのかべと、宝石をかざりつけたまどとをごらんになって、大へんご 感服 ( かんぷく )なさいました。 そして、 「これは世界で一ばん美しい御殿にちがいない。 わしには、この御殿の中にあるたった一つのものでさえ、世界第一の宝物のように思われる。 だが、ここにたった一つ、かざりつけをしてないまどがあるのは、どういうわけだね。 」 と、おたずねになりました。 するとアラジンは、 「陛下、それは、陛下のとうといお手で、かざりつけをしていただきたいと存じまして、わざわざ残しておいたのでございます。 」 と、お答えしました。 王さまは、大へんおよろこびになりました。 そしてすぐにお城の 装飾 ( そうしょく )がかりの人たちに、このまどをほかのまどと同じようにかざりつけるように、お言いつけになりました。 装飾がかりの人たちは、何日も何日も働きました。 そして、まだ、まどのかざりつけが半分もできないうちに、持っていた宝石をすっかり使ってしまいました。 王さまにこのことを申し上げますと、それでは自分の宝石をみんなやるから使うように、とおっしゃいました。 それを、使いはたしても、なおまどは出来上りませんでした。 それで、アラジンは、かかりの人たちに仕事をやめさせて、王さまの宝石を全部返してしまいました。 そして、その晩もう一度ランプのおばけを呼びました。 それで、まどは夜のあける前に出来上りました。 王さまと、装飾がかりの人たちは、おどろいてしまいました。 けれども、アラジンはけっして自分のお金持であることをじまんしませんでした。 だれにでもやさしく、 礼儀 ( れいぎ )ただしくつきあっていました。 そして貧乏人にはしんせつにしてやりました。 それでだれもかれもアラジンになつきました。 アラジンは、また王さまのために、何度も何度も、戦争に行っててがらを立てました。 それで、王さまの一番お気に入りの家来になりました。 けれども、遠いアフリカでは、アラジンをいじめる悪だくみが、ずっと考えつづけられていました。 あの伯父さんだといってだました悪者のおじいさんのまほう使は、まほうの力によって、自分が地の下へとじこめてしまった男の子が、あれから助かって、大へんな金持になったということを知ったからであります。 そして、おこって自分のかみの毛を引きむしりながら、 「あいつめ、きっとランプの使い方をさとったのにちがいない。 おれは、ランプをとり返す方法を考えつくまでは、いまいましくって、夜もおちおちねむることができない。 」 と、どなっていたのでありました。 それから、やがてまた、 しなへやって来ました。 そしてアラジンの住んでいる町へ来て、すばらしい御殿を見ました。 御殿があんまり美しいのと、アラジンがお金持らしいのに腹が立って、 息 ( いき )がとまってしまうほどでした。 そこで、まほう使は 商人 ( しょうにん )にばけました。 そして、たくさんの 銅 ( どう )で作ったランプを持って、 「ええ、新しいランプを古いランプととりかえてあげます。 」 町から町へ、こう言いながら歩きました。 この呼び声を聞いて、町の人たちは、ばかげたことだと笑いながらも、めずらしそうにまほう使のそばへたかって来ました。 こんなことを言う男は、気ちがいかもしれないと思ったものですから。 ちょうどこの時、アラジンは かりに出て、るすでした。 お姫さまはただ一人、大広間のまどによりかかって、外の 景色 ( けしき )をながめていらっしゃいました。 町から聞えてくる呼び声が、耳に入ったものですから、さっそくどれいをお呼びになりました。 そして、 「あれは何と言っているのか聞いておいで。 」と、おっしゃいました。 すぐにどれいは聞いて帰って来ました。 そして、さもさもおかしくてたまらないというふうに笑いながら、 「ずいぶん、へんなおじいさんなのでございますよ。 新しいランプを古いランプととりかえてあげます、と申すのでございます。 そんなばかげたあきないがございますでしょうかねえ。 ほほほ……」と、申し上げたのでございました。 お姫さまも、これをお聞きになって、大そうお笑いになりました。 そして、すみの方のかべにかかっていたランプを、指さしになって、 「そこにずいぶん古ぼけたランプがあるじゃないか、あれを持って行って、そのおじいさんが、ほんとうにとりかえてくれるかどうか、ためしてごらん。 」と、おっしゃいました。 どれいはランプをとりおろして、町へ走って行きました。 まほう使は、まほうのランプを両手でしっかり受けとってから、 「どれでも、おすきなのをお持ちください。 」 と言って、新しい銅のランプをたくさんならべたてました。 そして古いランプをだいじそうにだきしめて、ほかのことは何にも気がつかない 様子 ( ようす )でありました。 このどれいが、新しいランプをみんな持って行ったって、きっと気がつかなかったでしょう。 それからまほう使は、少し歩いて、町はずれへ出ました。 そして、だれも通っている人がないのを見すまして、まほうのランプをとり出しました。 そしてしずかにこすりました。 するとたちまち、あのおばけが、目の前へ立ちはだかって、「何のご用ですか。 」と聞きました。 「お姫さまを入れたまんま、アラジンの御殿を、アフリカのさびしいところへ持って行って立ててくれ。 」と、まほう使が言いました。 すると、またたくまにアラジンの御殿は、お姫さまや、家来たちを入れたまんま、見えなくなってしまいました。 まもなく、王さまが、お城のまどから外をおながめになって、アラジンの御殿がなくなっているのにお気づきになりました。 「しまった。 アラジンはまほう使だったのだな。 」 王さまはこうおっしゃって、すぐに家来を召して、アラジンをくさりでしばってつれて来い、とお命じになりました。 家来たちは、 かりから帰って来るアラジンに行きあいましたので、すぐにつかまえて、王さまの前へつれて来ました。 町の人々は、アラジンになついていたものですから、アラジンが引かれて行くそばへよって来て、どうか、ひどい目にあわないようにと、おいのりをしてくれました。 王さまはアラジンをごらんになって、大へんおしかりになりました。 そして家来に、すぐアラジンの首を切れとおっしゃいました。 けれども、町の人たちがお城へおしかけて来て、そんなことをなすったら、しょうちしません、と行って王さまをおどかしました。 それで仕方なく王さまは、アラジンのくさりをといておやりになりました。 アラジンは、どうしてこんな目におあわせになったのかと、王さまにおたずねしました。 王さまは、 「かわいそうに、何にも知らないのか。 まあここへ来てごらん。 」と、おおせになりました。 そしてアラジンをまどのところへつれて来て、アラジンの御殿が立っていたところが原っぱになっているのを、指さして教えておやりになりました。 「お前の御殿はともかく、姫はどこへ行ったのだろう。 わしのだいじなだいじな娘はどこへ行ったのだろう。 」と言って、王さまはお泣きになりました。 アラジンはおどろきのあまり、しばらくは口がきけませんでした。 どこへ御殿が行ってしまったのだろうかと、原っぱを見つめたまんま、だまって、ぼんやり立っていました。 しかし、しばらくして、やっと口をきりました。 「陛下、どうか私に 一月 ( ひとつき )のおひまをくださいませ。 そして、もしもその間に私がお姫さまをつれもどすことができませんでしたならば、その時、私をお殺しになってくださいませ。 」 と、申し上げたのであります。 王さまはおゆるしになりました。 アラジンはそれから三日の間は、気ちがいのようになって、御殿はどこへ行ったのでしょうか、とあう人ごとにたずねてみました。 けれども、だれも知りませんでした。 かえって、アラジンが悲しんでいるのを笑ったりしました。 それでアラジンは、いっそ身を投げて死のうと思って、川のほとりへ行きました。 そして、 土手 ( どて )にひざまずいて、死ぬ前のおいのりをしようとして、両手をしっかりとにぎりあわせました。 その時、知らずにまほうの 指輪 ( ゆびわ )をこすったのでした。 するとたちまち、指輪のおばけが目の前につっ立ちました。 「どんなご用でございます。 」と、言うのです。 アラジンは大そうよろこびました。 そして、 「お姫さまと、御殿を、すぐにとり返して来てくれ、そして私の命を助けてくれ。 」 と、たのみました。 ところが、指輪の家来は、 「それは、あいにく、私にはできないことでございます。 ただ、ランプの家来だけが、御殿をとりもどす力を持っているのでございます。 」と、答えたのであります。 「それでは、御殿があるところまで私をつれて行ってくれ。 そして、お姫さまのへやのまどの下へ立たせてくれ。 」 アラジンは仕方がないので、こうたのみました。 この言葉を、言いきってしまわないうちに、もうアラジンはアフリカについて、御殿のまどの下に立っていました。 アラジンは大へんくたびれていたものですから、そこでぐっすり 寝 ( ね )こんでしまいました。 しかし、ほどなく夜があけて、小鳥の鳴く声で目をさましました。 その時は、もうすっかり、もとのような元気になっていました。 そして、こんな悲しい目にあうのは、きっとまほうのランプがなくなったせいにちがいない、だれがぬすんだかを見とどけなければならぬ、と、かたく 決心 ( けっしん )しました。 さて、お姫さまは、この朝は、ここへつれて来られてからはじめて、きげんよくお目ざめになったのでした。 太陽 ( たいよう )はうらうらとかがやいて、小鳥は楽しそうにさえずっていました。 お姫さまは、外の 景色 ( けしき )でもながめようと思って、まどの方へ歩いておいでになりました。 そして、まどの下にだれか立っている者があるのを、ごらんになりました。 よくよく見ると、それはアラジンでありました。 お姫さまは声を立てておよろこびになって、いそいで、まどをお開きになりました。 この音でアラジンは、ふっと上を見上げたのであります。 それから、アラジンは、いくつもいくつもの戸をうまく通りぬけて、お姫さまのへやへ入って行きました。 そして、うれしさのあまり、お姫さまをしばらくだきしめていましたが、やがて顔を上げて、 「お姫さま、あの大広間のすみのかべにかけてあった、古いランプがどうなったか、ご存じではございませんか。 」と、申しました。 するとお姫さまは、 「ああ、だんなさま、私どうしましょう。 私がうっかりしていたので、こんな悲しいことになってしまったんです。 」と言って、あのおじいさんのまほう使が、商人の風をして来て、新しいランプと古いランプととりかえてあげると言って、こんなことをしてしまったお話をなさいました。 そして、 「今も持っていますよ。 いつだって、 上着 ( うわぎ )の中へかくして、持ち歩いていますよ。 」と、おっしゃいました。 「お姫さま、私はそのランプをとり返さなきゃなりません。 ですから、あなたもどうか私にかせいしてくださいませ。 今晩、まほう使があなたとご一しょに、ごはんをたべる時、あなたは一番いい着物を着て、そしてしんせつそうなふうをして、おせじを言ってやってくださいまし。 それから、アフリカのお 酒 ( さけ )が少し飲みたいとおっしゃいませ。 するとあの男が、それをとりに行きますからね。 その時が来たら、私がまたあなたのおそばへ行って、こうこうしてくださいませ、と申し上げますから。 」 と、アラジンが申しました。 さてその晩、お姫さまは一番いい着物をお召しになりました。 そして、まほう使が入って来た時、にこにこして、いかにもしんせうそうなふうをなさいました。 まほう使が、これはゆめではないかと思ったほどでした。 なぜかというと、お姫さまは、ここへつれて来られてからというものは、いつもいつも悲しそうな顔をしているか、そうでない時は、おこった顔をしていらっしゃるかでしたから。 「私、たぶん、アラジンは死んでしまったのだろうと思いますの。 ですから、私、あなたのおよめさんになりたいと思っています。 まあ、それはともかく、さあ、ごはんにしましょう。 おや、きょうもやっぱり、しなのお酒ですのね。 私、しなのお酒にはもうあいてしまいましたから、アフリカのお酒を持って来てくださいな。 」 と、お姫さまがおっしゃいました。 アラジンは、そのまに、粉を用意して来て、お姫さまに、ご自分のおさかずきの中へ入れてください、とたのみました。 そして、まほう使がアフリカのお酒を持って帰って来た時、お姫さまは、粉を入れたおさかずきに、そのお酒をなみなみとおつぎになりました。 そして、これから仲よくなるしるしですから飲んでください、と言って、まほう使におさしになりました。 まほう使はよろこんで、それに口をつけました。 しかし、それをみんな飲みほさないうちに、 床 ( ゆか )の上にたおれて死んでしまいました。 アラジンは、かくれていた次のへやからとんで出て来て、まほう使の上着の中をさがしまわしました。 そして、まほうのランプをとり出して、大よろこびでそれをこすりました。 おばけが出て来ますと、すぐに御殿をしなへ持って帰って、もとの場所に立てるようにと言いつけました。 次の朝、王さまは大そう早く目をおさましになりました。 王さまは悲しくておねむりになることができなかったのです。 そして、まどのところへ行ってごらんになると、アラジンの御殿が、もとのところに立っているではありませんか。 王さまは、うそではないかとお思いになりました。 それで何べんも何べんも目をこすっては、じっと御殿の方をごらんになりました。 「ゆめではないのかしら。 朝の光を受けて前よりももっと美しく見える。 」とおっしゃいました。 それからまもなく、馬に乗って、アラジンの御殿をさして、走っていらっしゃいました。 そして、アラジンとお姫さまとを両手にだきしめて、およろこびになりました。 二人はアフリカのまほう使の話をしてお聞かせしました。 アラジンはまた、まほう使の死がいもお目にかけました。 それからまた、昔のような楽しい日がつづきました。 しかし、まだもう一つアラジンに心配が残っていました。 それは、アフリカのまほう使の 弟 ( おとうと )も、やっぱりまほうを使っていたからです。 そして、その弟は、兄さんよりももっと悪者だったからであります。 はたして、その弟がかたきうちのために、しなへやって来ました。 アラジンをひどい目にあわせて、まほうのランプをぶんどって来ようと決心して来たのであります。 そして、しなへつくとすぐに、こっそり、まずファティマという 尼 ( あま )さんをたずねて行きました。 そして、上着とベールとを、むりやりにかしてもらいました。 それから、このことがほかの人に知られてはいけないと思って、尼さんを殺してしまいました。 さて、この悪者のまほう使は、尼さんの上着とベールとをつけて、アラジンの御殿の近くの町を通りました。 町の人々は、ほんとうの尼さんだと思って、ひざまずいてその上着にキッスしました。 まもなく、お姫さまは、ファティマが町を通っているということをお聞きになりました。 それで、すぐ御殿へ来てくれるようにと、使をおやりになりました。 お姫さまは、ファティマをしじゅう見たい見たいと思っていらっしたものですから、尼さんが来た時、大へんていねいにおもてなしなさいました。 そして大広間へつれておいでになって、同じ長 いすに 腰 ( こし )かけながら、 「このへやがお気に召しまして。 」と、お聞きになりました。 まほう使はベールを深くかぶったままで、 「ほんとうに、目がさめるほどおきれいでございますこと。 ですけれども、私このおへやに、たった一つほしいと思うものがございますのよ。 それはほかでもございません、ロック 鳥 ( ちょう )の卵が、あの高い天じょうのまん中からぶらさがっていたら、もう申し分なしだと思いますわ。 」と、答えました。 これをお聞きになってお姫さまは、何だか急に、この大広間がものたりないように思いはじめになりました。 そして、アラジンが入って来た時、大へん悲しそうな顔をしていらっしゃいました。 アラジンは、何事が起ったのですか、とたずねました。 お姫さまは、 「私、この天じょうから、ロック鳥の卵がぶらさがっていなきゃあ、何だか悲しいんですもの。 」と、おっしゃいました。 「そんなことなら、ぞうさないじゃございませんか。 」と、アラジンはこともなげに言ってランプをおろして、 廊下 ( ろうか )へ出てあのおばけを呼びました。 けれども、ランプのおばけは、その命令を聞くと、大へんおこりました。 顔をぶるぶるふるわせながら、アラジンをしかりつけました。 「大ばか者、そんなものを私がやられると思っているのか。 お前は私のご主人を殺して、あの天じょうからぶらさげてくれというのか。 そんなばかは、死んでしまうがいいや。 」 おばけの目は、まるで石炭がもえている時のように、まっ赤になっていました。 しかし、やがて言葉をやわらげて、 「だけれども、それはお前の心から出た願いでないということを、私はよーっく知っているのだよ。 それは 尼 ( あま )さんの風をしている、悪者のまほう使が言わせたのだろう。 」 と、言いました。 そして、おばけは消えました。 アラジンは、お姫さまが待っているへやへ、いそいで行きました。 そして、 「私は、ずつうがしてなりません。 尼さんを呼んでくださいませんか。 あの方のお手でさすっていただいたら、きっとなおるだろうと思います。 」と、お姫さまに申しました。 すぐに、にせのファティマが来ました。 アラジンはとびついて、その胸へ、 短刀 ( たんとう )をつきさしました。 「どうなすったのです。 まあ、あなたは尼さんを殺すのですか。 」 お姫さまは泣き声でとがめました。 「これは、尼さんではございません。 これは私たちを殺しに来たまほう使です。 」と、アラジンが申しました。 こんなにして、アラジンは二人の悪いまほう使の悪だくみからのがれました。 そして、もうこの世の中には、だれもアラジンの仕合せのじゃまをする者はなくなりました。 アラジンとお姫さまは、長い間たのしくくらしました。 そして、王さまがおかくれになった時、二人はとうとう、王さまとおきさきさまになりました。 そして国をよくおさめました。 いつまでもいつまでもその国はさかえたということであります。

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【徹底解剖】実は残虐だった!? 童話〝アラビアンナイト〟の真実

アラジン アラビアン ナイト

現在、世界に流通している「アラビアンナイト」は、18世紀にフランス人東洋学者アントワーヌ・ガランが中東の古写本を翻訳し、本国で販売したものが元となっている。 しかし、この写本は途中で切れており、アラビアンナイトの別名「千一夜物語」には遠く及ばない二百八十二夜分しかなかったという。 出版社から続きを訳すよう矢の催促を受けたガランは、シリア出身の人物から、アラビアンナイトのような故郷の民話をいろいろ聞き取り、それを翻訳の続きに加えていった。 この中には「アラジン」「アリババ」「空飛ぶ絨毯(じゅうたん)」といった、現代人がアラビアンナイトの代表作として認識している物語が含まれていた。 この大ヒットを受けて18世紀以降、ヨーロッパではアラビアンナイトブームが盛り上がったが、国立民族学博物館教授の西尾哲夫(にしお・てつお)氏によると、それは純粋に文学的な関心からではなかったという。 そこには、西欧列強の植民地政策という大きな歴史的要因があったのだ。 * * * 多くのみなさんは、中東よりもヨーロッパのほうが合理的精神に富んでいて、いろいろな意味で先進的であるというイメージを持たれているかもしれません。 しかし、それはルネサンス以後のことで、それ以前の中世においてはイスラーム世界のほうが文化や科学技術など、さまざまな点において一歩二歩先んじていたのです。 それが、近世に入ると次第に形勢が逆転していきます。 ヨーロッパの優位と中東の劣勢が明らかとなったのは、ナポレオンのエジプト遠征(1798~1801)がきっかけでした。 ガラン版のアラビアンナイトが出版されたほぼ1世紀後のこと。 このころ中東はオスマン帝国の時代でしたが、そのあと凋落(ちょうらく)が進み、なし崩し的に帝国主義国家の進出を許すことになります。 ガランのころには、ヨーロッパの中東を見る目はまだ「東洋趣味」の域を出ていなかったのですが、植民地化の流れにともなって、相手を支配するための思惑に満ちたまなざしへと変わっていきました。 ある意味から言うと、アラビアンナイトは奇しくもこのような時期に西洋人に見出されたために、多彩な展開をとげていったともいえるのです。

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