売上消滅 新型コロナの営業自粛の影響での売上高が壊滅的な減少を記録した。 日本百貨店協会が6月23日に発表した5月の全国百貨店売上高は、前年同期比65. 6%のマイナスになった。 東京や大阪などでは食料品売り場など一部を除いて営業を停止したことから、かつて経験したことのない減少となった。 photo by Gettyimages もともと昨年10月からの消費税率引き上げで、売上高の伸びはマイナスに転じており、5月まで8カ月連続の減少。 1月までは訪日外国人旅行客の「インバウンド消費」があったことから、減少率はひとケタに止まっていた。 ところが新型コロナウイルスの蔓延が世界に広がり始めた2月以降は外国人客が激減。 売上高は2月12. 4%減とつるべ落としで悪化した。 消費増税の影響が出た昨年10月でも17. 5%減だったので、3月時点でそれを大きく上回る打撃になっていたことがわかる。 さらに4月には緊急事態宣言が出されたことで営業自粛が広がり、売上高は72. 8%減を記録、前述の通り5月も65. 6%減った。 売上減少というよりも「売上消滅」といった状態に陥った。 頼みのインバウンドも消えた この間の外国人旅行客によるインバウンド消費の「消滅」も凄まじい。 百貨店で免税手続きをして購入された「免税売上高」は1月の316億円から2月には110億円と3分の1近くに減少。 3月は47億円となった。 日本政府観光局(JNTO)の集計では日本を訪れた外国人旅行客は4月、5月とも99. 9%減となり、免税売上高も4月がわずか5億円、5月が7億7000万円と事実上「消えた」に等しい金額となった。 地域別で見ても、新型コロナの影響が鮮明に見て取れる。 2月に感染が拡大し、営業自粛を要請した北海道は2月に25. 8%減と全国に先駆けて大幅なマイナスとなった。 3月にはクラスターが発生した大阪の百貨店売上高が42. 2%減と大きくなった。 大阪の百貨店の場合、インバウンド消費の恩恵を大きく受けてきただけに、その反動も大きかった。 緊急事態宣言が全国に広がった4月には、全国各地の百貨店が7割から8割の売上減少を記録。 5月もそれが続いた。 細々ながら営業を続けた食料品は落ち込みが小さいものの、4月は53. 0%減、5月は45. 2%減と、これまで経験したことがない減少率であることには変わりない。 インバウンドが消えたこともあり、高級品の「美術・宝飾・貴金属」の売上減少が著しく、4月、5月とも前年同月比80. 0%のマイナスになった。 衣料品も4月は82. 7%減、5月は74. 1%となった。 「終わっているビジネスモデル」本当の終焉 これだけの「売上消滅」で百貨店の経営は大丈夫なのだろうか。 4月、5月に休業した場合は雇用調整助成金で休業従業員の人件費は補填されるものの、すべてのコストを政府がみてくれるわけではない。 自治体から休業補償が出たとしても焼け石に水だ。 むしろ問題は6月以降だ。 4月、5月と比べれば改善したように見えるものの、前年同月と比べれば売上高は2ケタのマイナスが続く。 新型コロナが完全に終息する見通しはたたず、百貨店での消費が平常に戻るには相当な時間がかかりそうだ。 しかも営業を再開することで、光熱費や人件費なども大幅に増加することになる。 むしろ、経営的にはこれからが正念場だと言えるだろう。 そのうえ、新型コロナをきっかけに人々の消費行動が大きく変化し、元に戻らないのではないか、という見方も広がっている。 人混みが発生する旧来型の大型商業施設が敬遠される傾向が強まれば、「ビジネスモデルの終焉」が言われて久しい百貨店の経営が一気に苦境に立たされる可能性が高い。 「新しい日常」の中に居場所はあるか ここ数年、百貨店は訪日外国人客の免税売り上げが急増。 インバウンド依存を高めていた。 2019年4月には百貨店売上高の7. 7%を免税売り上げが占めた。 中国からの旅行者を中心に、旅行客は高級ブランドの衣料品や時計・宝飾品などを購入する傾向が強く、比較的利益率の高い「上顧客」だった。 2020年は本来ならば東京オリンピック・パラリンピックが開かれ、訪日外国人旅行者は過去最多の4000万人を超える皮算用を立てていた。 ところが新型コロナに伴う国境を越えた移動の消滅で、1月から5月までの訪日客の累計は394万人。 新型コロナの世界での感染拡大が続いている現状を考えると、今年は1000万人どころか500万人にも届かない可能性が高い。 旅行客の大幅な増加による「インバウンド消費」の取り込みを狙ってきた百貨店にとって、戦略の見直しが急務になっている。 特に、インバウンドの恩恵を受けてきた大阪、福岡、札幌、東京といった地域で、今もなお新型コロナの罹患者が発生し続けており、こうした地域に元のように外国人旅行者が大挙して押し寄せることは想定できない。 おそらく元に戻るには数年を要するか、あるいは、国際間の人の動きも劇的に変わってしまうことになりかねない。 米国では百貨店の多くが店を閉め、スーパーもデリバリーに活路を探るなど、商業の業態転換が模索されている。 日本でも居酒屋やファミリーレストランなど外食チェーンの店舗閉鎖が相次いでいる。 長年、日本の消費の中心として持続してきた百貨店という業態が、新型コロナをきっかけにやってくる「新しい日常」の中で存在し続けて行くことが出来るのか。 付け焼き刃の合従連衡ではもはや乗り切れないところに追い込まれつつある。 外部サイト.
次のこのページのまとめ• 百貨店は仕入れ形態によって粗利率が変わる• 売上高は右肩下がり• 専門店化、ショッピングセンター併設、オムニチャネル戦略などの変革が迫られる 三越、伊勢丹、高島屋などで知られる「百貨店」。 良質・高級な商品が華やかに陳列されている空間に足を踏み入れた瞬間、胸が高鳴る高揚感を抱く方もいるでしょう。 経済産業省によると、百貨店の定義は下記のように定められています。 ショッピングセンターとよく混同されますが、日本ショッピングセンター協会によるショッピングセンターの定義は下記のとおりで、小売業ではなく賃貸による収益を得る商業施設を指します。 本記事の執筆者 山中健(やまなか・たける) 山中コンサルティングオフィス代表。 大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。 ファッションビジネス、百貨店、SC(ショッピングセンター)業界などにおいて、マーケティングやMD、リテールのコンサルティングを手掛ける。 百貨店業界の業態と収益の考え方 百貨店は、立地やグレードによって業態が分かれます。 立地では「都市型百貨店」と「地方百貨店」、グレードでは「中高級百貨店」と「大衆百貨店」に大別できます。 ・都市型百貨店 ・地方百貨店 ・中高級百貨店 ・大衆百貨店 百貨店は、小売業。 仕入れた商品の売上から「仕入れ原価」や「ロス(値下げ、万引き、紛失など)」を引いたのが粗利となり、人件費や宣伝費、賃料、包装費などの「経費」を引いて、残った金額が利益となります。 注意点としては、「仕入形態」によって粗利率が異なること。 仕入形態は主に3つに分けられます。 完全買取 仕入先から商品を買い取る形態。 仕入先の過失がない限り、返品することができないのが特徴です。 インポート商品やブランド商品など、在庫が確実に残らない売れ筋商品に適用されます。 委託買取 仕入先から商品を買取りますが、返品や交換ができる形態。 販売・在庫管理を百貨店が行う場合と、仕入先が派遣した販売スタッフが行う場合があります。 売上仕入れ(消化仕入れ) 売れた商品のみに仕入れ代金を支払う形態。 仕入れ段階では仕入先に対する支払いは発生しません。 仕入先が販売スタッフを派遣して、販売・在庫管理をおこなう場合があります。 仕入形態はこれら3種類のいずれかで、百貨店・バイヤー側が責任を問われる完全買取は、非常に少ないのが現状です。 百貨店業界の採用選考を受ける上で、仕入形態の知識は最低限覚えておきましょう。 百貨店や担当店舗がどのような仕入形態を多く採用しているかによって、仕事の内容も異なるからです。 百貨店業界の現状と課題 百貨店業界の売上の現状は、残念ながら右肩下がりです。 「百貨店協会データ」によると、2018年の売上は5兆8,870億円(前年比-0. 出所:日本百貨店協会 しかし、近年では、 インバウンド(海外旅行客による買上)のおかげで復調する傾向も見られ、2018年には過去最高の免税売上高を記録。 日本の百貨店は、これまで国内需要が力強いのが特徴でしたが、今後はさらにインバウンドが占める比率が増えると推測されています。 しかし、為替レートや中国の関税政策などによって上下するため、不安定な業界であることは否めません。 そもそも、百貨店を支えてきたのは、現在の60歳以上、いわゆる団塊の世代と呼ばれる人たちが中心です。 この世代が高齢化によって人口減少と購買意欲の減退を招き、売上が減少し続けています。 一方で、若い世代は2000年から増えた「ショッピングセンター」に移行、さらに近年では、「ネット通販」や「フリマアプリ」などの需要が高まり、百貨店の厳しい立場は今後も変わらないと予想されます。 実際、ここ数年で百貨店大手の地方店や郊外店の撤退が続いており、大都市の基幹店(それぞれの百貨店の中心となる店)や地方中核都市の一番店以外は成立しないとされています。 百貨店業界の今後の動向について 厳しい状況に置かれている百貨店業界。 今後、どのような戦略をとっていくべきなのでしょうか。 具体的には以下4つの考え方が挙げられています。 専門化戦略 百貨店内の品揃えを特定の客層やテーマ、商品カテゴリーに絞っていく方法です。 たとえば、「新宿伊勢丹 メンズ館」や「阪急メンズ東京」など。 既存業態、既存店舗ではこの戦略をとっていくしかありません。 ハイブリット百貨店戦略 ショッピングセンターと百貨店の融合を意味します。 既存百貨店の中に、テナント(貸借スペース)を増やし、賃料で収益改善を図るというものです。 たとえば、「マルイ」、「旧プランタン銀座」、「池袋東武」、「立川髙島屋」など。 どちららかというと苦戦してきた店が、減収増益を狙って取り組む方法です。 また、新規開発でショッピングセンターを作ったり、ショッピングセンターを併設するという積極派もあります。 ヒカリエの中の「シンクス(東急百貨店)」、名古屋の「タカシマヤゲートタワーモール」、「日本橋髙島屋SC」などが事例に挙げられます。 専門店戦略 百貨店が専門店を開発してチェーン展開する方法。 百貨店の強みである平場(特定の商品やテーマで自社編集した売場)を専門店化してショッピングセンターや駅ビル、他の百貨店に出店していくというものです。 たとえば、伊勢丹による「イセタンミラー(化粧品専門店)」、東急百貨店による「フードショー(食品物販店)」、大丸松坂屋による「シジェーム(セレクトショップ)」、京王百貨店による「ミ・デゥー(アパレルブランド)」などが挙げられます。 オムニチャネル戦略 オムニチャネル(店頭、ネット、カタログなど、チャネル「流通経路」を問わない)を採用する方法です。 たとえば、Web事業に積極的に取り組んでいるのが「マルイ」と「三越伊勢丹」。 業界先駆者である「マルイ」は元々雑誌通販などをしており、通販に強い百貨店でした。 2006年にECサイト「マルイウェブチャネル」を開設した後、ECで買ったものを店頭で試着・購入できるクリック&コレクトをいち早く導入したのもマルイです。 「三越伊勢丹」も10年以上前に開設された「伊勢丹オンラインショッピング」を立ち上げたり、Amazonとの協業などさまざまな挑戦をしてきました。 そのほか、SNSやスマートフォンアプリとコラボしてキャンペーンを展開している百貨店もみられます。 AmazonやZOZOTOWNのようなネット大手事業者に遅れをとっていること、仕入先が他社のECサイトや直営サイトで販売していることなど、脅威要素はあります。 しかし、中元歳暮などのギフトニーズ、カタログやテレビ通販などに強みを持っている企業が多いのが百貨店側の強み。 また、Webでの売上はまだまだ未知数がゆえに、 今後はオムニチャネル戦略を採用するケースが増えていくと予想されます。 以上、今後の戦略について紹介しました。 売上が右肩下がりの百貨店業界ですが、インバウンド需要が期待されること、立地、歴史、思想といった特徴を活かした戦略を採用することなど、まだまだ伸びしろのある業界であることも確かです。 百貨店業界に進む場合は、今後の展望をどのように考えているのか、それに対して、自分自身がどのようなことを貢献できると思うか、企業研究と自己分析に取り組むのがキーポイントになるはずです。
次のadobe. com 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、百貨店業界は窮地に陥っている。 長期にわたる休業により、売り上げは8~9割減にまで落ち込み、まさに瀕死の状況だ。 緊急事態宣言の解除とともに、ようやく営業再開に向けて動き出した百貨店業界は、未曾有のダメージを回復していけるだろうか。 売上9割減!コロナショックが与えた百貨店への影響 近年、オンラインサービスの普及などとともに消費構造が変化し、百貨店業界は売上の低迷に頭を抱えていた。 インバウンド需要にようやく息を吹き返そうとしていたところに、トドメを刺したのがコロナショックだ。 三越伊勢丹ホールディングスが5月11日に発表した2020年3月期決算によると、売上高は1兆1,191億9,100万円で前期比6. 5%減、さらに営業利益は156億7,900万円で前期比46. 4%減となっている。 その後、5月15日に発表された売上確報によると、国内百貨店の売上は前年比20. 8%と、およそ8割の減少にまで落ち込んでいる。 特にインバウンドの恩恵を受けている三越銀座店にいたっては、売上が前年比5. 1%と、9割超えの減収となり、桁違いの数字だ。 そんな主力店のインバウンド需要がコロナショックを機に消失し、さらには長期休業にまで追い込まれてしまったのは、もはや察するに余りあるほどのダメージである。 3月度売上速報によると、大丸松坂屋の免税売上は前年比97%減、髙島屋の免税売上は前年比92. 5%減と、インバウンド消費がほぼ消失していることを示している。 特にインバウンド需要が高い分野、たとえば化粧品などは大きな打撃を受けていることだろう。 コロナ禍で変化した顧客の消費心理 6月以降、たとえ百貨店が通常営業を再開したとしても、コロナ前の需要がすぐに戻るとはいいがたい。 さらに第2波の懸念も拭えないなか、インバウンド需要が戻ってくる時期もまだ読めない。 そして、これだけ厳しい不況となってしまうと、消費者も財布のひもを固く締めているため、国内消費は頼りにならない。 このような状況から、業界では、店舗営業を再開した後もしばらく消費減少は続くとみており、コロナ後のビジネスモデル転換も見据え、手元資金の調達を始めている様子もうかがえる。 米老舗百貨店の倒産 百貨店業界が厳しいのは、国内だけではない。 5月には、米百貨店大手JCペニーが破産した。 ネット通販や大型ディスカウントストアなどを相手に苦戦していたところへ、新型コロナウイルス感染拡大の影響による一斉休業がトドメを刺し、現金収入が途絶えてしまったのだ。 同社ではリストラなどを進めて再建をめざす方針だが、雇用情勢への悪影響が懸念されている。 再建どうなる?改装ラッシュにも深刻な打撃 バブル崩壊以降、構造不況業種の代表格として挙げられる百貨店業界では、再建を目指して基盤強化や抜本的な構造改革を進めている。 特に近年は、各社で基幹店への大型投資を重ねている最中であった。 三越伊勢丹ホールディングスでは、伊勢丹新宿店を約40年ぶりの大改装として力を入れているタイミングだ。 ここへコロナショックとなると、手元資金が枯渇するのも時間の問題であり、ビジネスモデルの転換と同時にその資金繰りにも注目が集まる。 「新しい生活様式」で百貨店はどうなる? コロナ後は、新しい生活様式が各所で求められている。 百貨店ではどのようなサービスを提供していくのだろうか。 感染防止対策に追われる各店 首都圏では、緊急事態宣言の解除にともない、早期から高島屋が営業再開に向けて動き出した。 高島屋では、消毒や検温を実施し、接客体制を整備した。 このほか、商品の消毒や飛沫防止対策用シートの設置など、他社も同様に感染対策に追われている。 対面販売の「おもてなし」が変化? また、百貨店ならではの「おもてなし」の在り方も「新しい生活様式」に合わせて変化しようとしている。 客への声掛けは控え、距離をあけて、正面にならない位置で接客し、現金は手渡ししない。 また、試着の手伝いはしないなど、これまでの百貨店では考えられなかったサービスの在り方がマニュアル化されている。 ソーシャルディスタンスを保つ条件のもと、いかに他社と差別化をはかる「おもてなし」を提供できるかが問われそうだ。 賃貸業で再建?新たな事業展開の模索も 百貨店業界では、デジタル戦略としてECサイトの充実に取り組む一方、価格の面でアパレル各社にはかなわないといった印象もある。 そこで、顧客と販売員がオンラインで直接つながる仕組みを導入し、通常のアパレルECとは差別化をはかる施策も検討されている。 販売員の代わりにAIが接客する機能など、新たな顧客体験を創造するサービスも登場するだろう。 アフターコロナにおいて、百貨店をとりまく環境が一層加速して変わっていくことは火を見るより明らかだ。 百貨店は、その大半が街の一等地に土地を所有している。 これを生かして不動産賃貸で収益をあげていくことになれば、それはもう従来の「百貨店」ではない。 今後、ビジネスモデル変革のタイミングを逃さないことがカギとなりそうだ。 文・THE OWNER編集部.
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