「大塚製薬工場は輸液のリーディングカンパニーだから、臨床栄養領域の研究開発しかしていないのかな?」みなさんはそんなイメージをお持ちかもしれませんが、実は少し違います。 当社は「臨床栄養領域における患者さんや医療従事者のベストパートナーを目指す」という経営ビジョンのもとで高品質かつ安定的な製品供給を行いつつ、さらに革新的な製品をお届けするために、従来とは異なる新たな領域での研究開発にも積極的に取り組んでいるのです。 当社の研究開発センターは、他の製薬会社ではあまり類を見ないユニークな特徴を持っています。 それは、非臨床での探索研究を進める鳴門研究所と、治験や臨床研究をまとめる開発部が、研究開発センターという統合された組織として、いわばひとつ屋根の下で活動していることです。 そこには、研究者は探索の段階から患者さんや医療機関での臨床的な情報に触れるべきであり、また、逆に臨床開発のメンバーが探索段階のアイデアを共有すれば製品化もスムーズになるはず、という狙いがあります。 そうした取り組みが臨床栄養領域の新たな可能性や、臨床栄養だけでは解決のむずかしい課題へのチャレンジにつながっています。 研究開発センターでは現在、臨床栄養領域、手術周辺領域、再生医療領域の三つの重点領域を設定しています。 臨床栄養領域では基礎的医薬品メーカーとして、手術周辺領域では国内において50年ぶりに承認された新規外皮用殺菌消毒剤、再生医療領域では1型糖尿病の根治に向けた異種移植プロジェクトなど、さまざまな取り組みが実を結びつつあります。 研究開発センターは、そのゴールを「新しい市場創造ができ、日本だけでなく、グローバルに展開できる開発を目指す」と定めています。 すでに確立している市場に対してアプローチしていればよいという考え方ではなく、まだ、有効な手立てのない医療分野、いわゆるアンメットメディカルニーズにも果敢に挑戦し、新しい治療を待ち望んでおられる患者さんに届けるという信念を持っています。 あきらめずにチャレンジし続ければ実現不可能なことはないと考えています。 当社の研究開発における優位性の一つは、医療機関との距離の近さです。 例えば当社のMRは輸液という製品を持つからこそ、医療機関に必要なサポートメンバーとしてチーム医療に関わることも少なくありません。 医師をはじめ、薬剤師や看護師、栄養士などのコメディカルといわれる人たちを通じて、患者さんが本当に困っていることについての情報に触れ、それが研究開発センターにフィードバックされます。 そうした中から、これまで見過ごされてきた課題や新たなアイデアの発見につながることも多いのです。 意外かもしれませんが、私たちは世界の最先端医療分野との距離も近いのです。 現在、当社は1型糖尿病の根治に向けて再生医療領域で革新的な異種移植プロジェクトにおいて、バイオ人工膵島の研究開発にも取り組んでおります。 合弁子会社であるDiatranz Otsuka Limited(以下、DOL社)では人に移植する臨床試験を世界で初めて行っています。 大塚製薬工場はDOL社から日本、米国での独占的な開発・製造・販売権のライセンスを受け、国内のみならずグローバルに展開することを念頭に承認申請へ向けた準備を進めているところです。 鳴門研究所は、創薬を通じて新しい価値を創造することを目的に、医薬品、医療機器および再生医療製品の研究に取り組んでいます。 研究員は新たな発明に向けた探索研究レベルから、各国の規制当局に申請する非臨床試験レベルまで幅広い試験を実施しています。 アンメットメディカルニーズに応えるために、特に意識しているのは、患者さんに真に求められる製品とは何かを探ることです。 探索段階から患者さんや医療従事者の声に耳を傾け、その視線の先、未来にある課題をしっかり捉えること、そして治験や臨床研究を担当する開発部との間で活発なコミュニケーションと連携を欠かさないことです。 薬効研究や安全性研究は、もはや製品の成分のことだけを考えていればよいという時代ではありません。 薬効や安全性をより高めるためには、製品の機能的な側面である製剤や容器のデザインにも、新しい発想や技術が求められます。 そこで製剤技術と生産技術を担当する技術センターなど他部門とも、探索研究レベルから情報交換することを意識しています。 現在、臨床栄養領域では、水・電解質・各種栄養素の補給を目的とした既製品の改良にとどまらず、治療を目指した次世代の臨床栄養製品の研究に取り組んでいます。 手術周辺領域では、2015年発売の新規外皮用殺菌消毒剤をはじめ、感染症予防や術後合併症予防に寄与する次世代製品の研究を実施しています。 再生医療領域では、世界初のバイオ人工膵島の研究を鳴門とアメリカで実施するとともに、細胞治療領域において広く使われる、当社ならではの機能性の高い製品の研究を進めています。 これら重点領域に加えて、革新的な新薬の創造を目指すプロジェクトチームが立ち上がっています。 私たちは大塚グループ発祥の地である鳴門において、既存の枠組みにとらわれない柔軟な発想で、患者さんに真に求められる製品を生み出していきます。 開発部は、治験と臨床研究に関わる組織です。 長い年月にわたり考え抜かれた製品開発の最終ステップとして、私たちは倫理面に十分配慮しながら治験を実施し、有効性と安全性をしっかりと見極め、少しでも早く患者さんに製品を届けなければなりません。 より厳密には「開発戦略に則った臨床試験計画の立案、法令を順守した質の高い治験の遂行、早期承認および早期上市を達成する」という使命があります。 そのために「開発目標を共有する」「医療の場を知る」「リスクと課題を共有する」「グローバルに展開する」という方針を定めています。 開発目標の共有によって、探索研究から臨床研究、治験、承認を経て上市するまで同じ目的に向かって集中できるため、プロセスは効率的でスピーディになります。 医療の場を知ることは、患者さんや医療従事者の方々が本当に求めていることは何かを知るということです。 私たちが医療機関を通して得た情報は鳴門研究所にも共有され、開発中の医薬品、医療機器等の製品プロファイルを明確にする上ではもちろん、次世代の医薬品、医療機器等の開発に生かしています。 リスクと課題の共有は、治験をやり遂げるために絶対必要なことです。 臨床試験は何年もかかる大プロジェクトですから、開始前に想定されるリスクと課題を徹底的に洗い出し、共有していても、終了までには医療技術の変化や規制当局の対応などによってしばしば想定外のことが起こります。 開発部内のみならず社内のさまざまな部門の協力も得ながら、粘り強く課題を解決していく総合力が試されます。 グローバルな展開は、そもそも医療ニーズに国境はないのだから当然です。 当社では新規外皮用殺菌消毒剤をはじめ画期的な製品を国内のみならず海外の患者さんに届けたいと考えています。 開発部は、薬事部門や国際本部などの関連部署とも協力して、各国の規制要件を十分に把握し効率的な臨床開発計画を立案、実施できるよう取り組んでいます。
次の(以下、TGI社)が創製したヒト他家軟骨細胞を用いた細胞治療薬で、関節腔内に注入することで変形性膝関節症の疼痛緩和が確認されています。 加えて、軟骨破壊進展抑制作用が期待されています。 KLS社は韓国において本剤のフェーズ3試験を終了し、2016年7月に韓国の食品医薬品安全処(Ministry of Food and Drug Safety)に生物製剤許可申請を行いました。 米国においてもTGI社がフェーズ2試験を終了し、フェーズ3試験を準備中です。 当社は日本において変形性膝関節症を適応症として、軟骨破壊進展抑制作用の評価を含めて開発を進める予定です。 当社では、開発中のMT-5547(抗NGF抗体「ファシヌマブ」)と合わせて変形性膝関節症の患者さんにとってのアンメット・メディカル・ニーズに応えることをめざします。 今回の契約締結により、当社はKLS社に対して契約締結時一時金 25億円を支払います。 また、開発および販売マイルストン、さらに、販売額に応じたランニングロイヤリティを支払う予定です。 なお、本件に関する業績への影響については、織り込み済みです。 なお、本件による当社の業績予想への影響はありません。 本剤は変形性膝関節症の治療薬として開発されています。 変形性膝関節症は、加齢とともに関節軟骨が弾力性を失い、物理的な摩擦が生じて軟骨がすり減ることを主な原因として発症します。 主な症状は膝の痛みや浮腫、可動域の制限などです。 現在の治療は疼痛緩和が中心であり、病態の進行抑制を適応とする治療薬はありません。 変形性膝関節症の疼痛緩和効果が確認されており、さらに軟骨破壊進展を抑制することが期待されます。 KLS社が実施した韓国フェーズ3試験では、関節機能改善の指標であるIKDC(International Knee Documentation Committee)スコアおよび疼痛指標であるVAS(Visual Analog Scale)について、プラセボ群と比較しており、KLS社はこの結果を以って2016年7月に韓国の食品医薬品安全処に対し生物製剤許可申請を行っています。 重点疾患領域である「自己免疫疾患」「糖尿病・腎疾患」「中枢神経系疾患」「ワクチン」を中心に、アンメット・メディカル・ニーズに応える医薬品の創製を通じて、世界の患者さんの健康に貢献していきます。 また、バイオ医薬品事業に加えて、API(医薬品原料)製造、エコケミカル、更には、水事業を展開しております。 より詳しい情報は、ホームページを参照下さい。
次のキュア・アップ代表取締役で医師の佐竹晃太さん。 医療とITを結びつける新ジャンル医療インフォマティクスを学び、修士号を取得。 治療アプリの開発を進めてきた。 (撮影:的野弘路) 2018年9月4日の日本経済新聞第一面に掲載された、安倍晋三首相の発言を紹介した記事で、「生涯現役」という言葉が見出しになった。 それを実現するには、人々がいつまでも健康で働ける必要がある。 ヘルスケア分野で医薬品や医療機器の革新には目覚ましいものがあるが、それだけでは足りないものがある。 それが食事改善、運動習慣、禁煙など患者自身が行う生活改善だ。 医師による生活指導はあるが、通院と通院の間には医療機関と患者の接点がなく、患者のモチベーションを維持することが難しかったといえる。 そこでキュア・アップ代表取締役の佐竹晃太医師が挑戦しているのは、患者にスマートフォンのアプリを処方することで、通院と通院の間ずっと患者の生活改善をサポート。 病気の改善につなげるという新たな治療法の開発だ。 まず、佐竹さんが、こうした「治療アプリ」の可能性に気づいたきっかけについて教えてください。 佐竹 私が「治療アプリ」という存在に出合ったのは、米国に留学したときでした。 2013年、医療ITをアカデミックに研究する「医療インフォマティクス」を学ぶために、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院に留学しました。 そこで目を通した1本の論文によって、医療系テクノロジー企業「WellDoc」が開発したスマートフォンアプリ「BlueStar」の存在を知ったのです。 米国で先行する治療アプリ「BlueStar」は新薬に匹敵する効果も どのようなアプリだったのですか。 佐竹 一言でいえば、糖尿病患者の行動変容を促すアプリです。 患者は、日々の血糖値、食事の量、体重、運動量などのデータをスマートフォンに入力します。 データはクラウドに保存され、ソフトウエアが患者の状態を診断。 患者の状態に合った生活改善のガイダンスをスマートフォンに送ります。 患者にとっては、今何をすべきかが明確に分かり、続けると食事・運動習慣など行動変容が起こるのです。 論文に掲載されていた臨床成績も驚くべきものでした。 糖尿病の重症度を表す検査データの一つにヘモグロビンA1c値があります。 「BlueStar」を使った人と、使わなかった人とを比べると1. 2も差がありました。 内科医が見れば糖尿病の新薬と同じぐらいの効果が出ていることが分かります。 一介の医師である私にとって、病気の治療法といえば「薬」か「医療機器」しか頭にありませんでしたが、そこにスマートフォンのアプリという第3の治療が登場したのです。 この第3の治療は、米国ではヘルスケアビジネスの一つとして成り立っているのでしょうか。 佐竹 「BlueStar」は、FDA(米国食品医薬品局)では医療機器のなかの「治療アプリ」として承認を得ています。 保険会社が保険適用を認めており、ビジネスとしてはまずまずの立ち上がりを見せています。 そして今、米国では糖尿病以外にもいくつかの医療用ソフトウエア事業が進められています。 今後、医療の一分野として大きく成長すると期待しています。 「治療アプリ」は患者にとって心強い存在になりますが、入力データやアプリの評価項目を医師が常にチェックすることで、さまざまな慢性疾患の治療経過を「見える化」していくことにもつながりそうですね。 佐竹 医師にとって診察中の患者からは多くの情報が得られますが、通院と通院の間の期間は、患者がどういう生活をしているか、ブラックボックス状態でした。 「治療アプリ」で得られる情報で、それが見える化していく。 生活改善指導などより踏み込んだことが行えると思います。 FEATURES of THEME テーマ別特集• 激痛に襲われる「急性膵炎」や、発見しにくく5年生存率が極めて低い「膵がん」など、膵臓の病気には厄介なものが多い。 今回は、膵臓という臓器の役割や、膵臓の代表的な病気である「膵炎」「膵がん」の怖さ、早期発見のコツをまとめていく。 中高年にさしかかった男性にとって、病気が心配になる臓器の1つが「前立腺」だ。 前立腺の病気のツートップ、前立腺肥大症と前立腺がんは、いずれも中高年になると急増する。 前立腺肥大症は夜間頻尿などの尿トラブルの原因になり、前立腺がんは、進行が遅くおとなしいがんと思われているが、骨に転移しやすいという特徴があり、怖い一面もある。 今回のテーマ別特集では、前立腺の病気の症状から、具体的な治療法までを紹介していこう。 健康診断で多くの人が気にする「コレステロール」。 異常値を放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や狭心症のリスクが高まっていく。 数値が悪くても自覚症状がないため、対策を講じない人も少なくないが、異常値を放置しておいてはいけない。 では、具体的にどのような対策を打てばいいのだろうか。 今回のテーマ別特集では、健診結果のコレステロール値の見方から、具体的な対策までを一挙に紹介していこう。
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