(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使) 文在寅政権は、日韓関係において歴史問題にこだわり、元慰安婦問題、元朝鮮半島出身労働者問題(いわゆる「徴用工」問題)など、既に解決済みの問題を繰り返し持ち出し、日本側から新たな譲歩を引き出そうとしてきた。 しかし、こうした問題は日韓請求権問題の根幹に触れる問題であり、日本側が取り合うはずもなく、現在も宙に浮いたままの状態となっている。 旧称・韓国挺身隊問題対策協議会[挺対協])の尹美香(ユン・ミヒャン)前理事長が寄付金を慰安婦のために使わず、私的に流用したのではないか等の疑惑を提起したため政府与党は当惑した状態になっている。 当初、与党は正義連とその元理事長を庇う姿勢をとり、「この問題を積極的に取り上げるのは親日勢力の野党・未来統合党と保守メディアだ」と逆に批判するような有様だったが、尹氏の疑惑が深まるにつれ、このまま静観できないとの雰囲気が広がってきた。 市民団体の告発を受け検察が動き出したことも、政府与党を焦らせたはずだ。 これまで、国内で政権に対する問題が持ち上がると、国内世論を宥めるため、韓国政府与党は「親日批判」と「反日」を利用してきた。 こうした見地に立つと、日本の韓国への輸出規制強化の問題はこれまで固有の貿易管理の問題として通商当局の間で対話を進めてきたわけだが、そこで片付かないとなると、再び元徴用工問題の報復との議論にすり替えてくる可能性もある。 それは日本としては看過できない事態となる。 貿易管理の問題が燃え上ったのは1年前であるので、詳細を忘れてしまった読者も少なくないと思う。 そこで、当時の経緯を含め、その後の対話、韓国における制度是正の動き、現在の両国の立場、そして残された問題について解説してみよう。 日本政府は昨年7月に半導体・ディスプレー材料であるフッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト(感光材)の3品目の韓国への輸出規制を強化し、8月には輸出管理の優遇対象である「グループA(ホワイト国)」から韓国を除外した。 日本はその理由として(1)両国間の輸出管理に関する政策対話が3年間開かれておらず、信頼関係が損なわれたこと、(2)通常兵器に転用される可能性がある物質の輸出を管理するキャッチオール規制の法的根拠の不備、(3)輸出管理体制、人員の脆弱性を挙げていた。 成長官は、規制強化の撤回を求めるにあたり、「この5か月間、両国の輸出管理当局は課長級会議や局長級の政策対話などを通じ、韓国の輸出管理に関する法規定、組織、人員、制度などについて十分に説明し、両国の輸出管理に対する理解を深めて十分な信頼を構築した」と述べた。 実際、韓国国会では、輸出管理の実効性を高める対外貿易法改正案が成立した。 これによって戦略物資の輸出許可に関する条文に、大量破棄兵器とともに「通常兵器」も厳しく審査することを明記した。 早ければ6月にも施行される。 その後4月には産業通商資源部内に貿易安保政策官の下に30人規模の組織を設けた。
次の(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使) 文在寅政権は、日韓関係において歴史問題にこだわり、元慰安婦問題、元朝鮮半島出身労働者問題(いわゆる「徴用工」問題)など、既に解決済みの問題を繰り返し持ち出し、日本側から新たな譲歩を引き出そうとしてきた。 しかし、こうした問題は日韓請求権問題の根幹に触れる問題であり、日本側が取り合うはずもなく、現在も宙に浮いたままの状態となっている。 旧称・韓国挺身隊問題対策協議会[挺対協])の尹美香(ユン・ミヒャン)前理事長が寄付金を慰安婦のために使わず、私的に流用したのではないか等の疑惑を提起したため政府与党は当惑した状態になっている。 当初、与党は正義連とその元理事長を庇う姿勢をとり、「この問題を積極的に取り上げるのは親日勢力の野党・未来統合党と保守メディアだ」と逆に批判するような有様だったが、尹氏の疑惑が深まるにつれ、このまま静観できないとの雰囲気が広がってきた。 市民団体の告発を受け検察が動き出したことも、政府与党を焦らせたはずだ。 これまで、国内で政権に対する問題が持ち上がると、国内世論を宥めるため、韓国政府与党は「親日批判」と「反日」を利用してきた。 こうした見地に立つと、日本の韓国への輸出規制強化の問題はこれまで固有の貿易管理の問題として通商当局の間で対話を進めてきたわけだが、そこで片付かないとなると、再び元徴用工問題の報復との議論にすり替えてくる可能性もある。 それは日本としては看過できない事態となる。 貿易管理の問題が燃え上ったのは1年前であるので、詳細を忘れてしまった読者も少なくないと思う。 そこで、当時の経緯を含め、その後の対話、韓国における制度是正の動き、現在の両国の立場、そして残された問題について解説してみよう。 日本政府は昨年7月に半導体・ディスプレー材料であるフッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト(感光材)の3品目の韓国への輸出規制を強化し、8月には輸出管理の優遇対象である「グループA(ホワイト国)」から韓国を除外した。 日本はその理由として(1)両国間の輸出管理に関する政策対話が3年間開かれておらず、信頼関係が損なわれたこと、(2)通常兵器に転用される可能性がある物質の輸出を管理するキャッチオール規制の法的根拠の不備、(3)輸出管理体制、人員の脆弱性を挙げていた。 成長官は、規制強化の撤回を求めるにあたり、「この5か月間、両国の輸出管理当局は課長級会議や局長級の政策対話などを通じ、韓国の輸出管理に関する法規定、組織、人員、制度などについて十分に説明し、両国の輸出管理に対する理解を深めて十分な信頼を構築した」と述べた。 実際、韓国国会では、輸出管理の実効性を高める対外貿易法改正案が成立した。 これによって戦略物資の輸出許可に関する条文に、大量破棄兵器とともに「通常兵器」も厳しく審査することを明記した。 早ければ6月にも施行される。 その後4月には産業通商資源部内に貿易安保政策官の下に30人規模の組織を設けた。
次の韓国政府は日本政府の輸出規制に対して「最後通牒」を発した。 写真は2013年8月、韓国・釜山の港の風景(写真:ロイター/Lee Jae-Won) 韓国政府は5月12日、日本政府の輸出規制に関して、問題を解決するための方法と立場を5月末までに明らかにせよと日本側に要求した。 具体的な期限を示したことで、韓国政府が日本に対して事実上の「最後通牒」を出したとの見方が広がっている。 日本は2019年7月から、半導体やディスプレイの主要素材となるEUV(極紫外線)用フォトレジストやフルオリンポリイミド、高純度フッ化水素など3品目について、韓国へ輸出する際には個別に許可をとるように規制を強化した。 また、ホワイト国(輸出手続き優遇国、グループA)リストから韓国を除外するなど、厳しい輸出規制を現在も維持している。 日本は輸出規制の原状復帰を 韓国・産業通商資源省のイ・ホヒョン貿易政策官は5月12日の記者会見で、「日本政府が輸出規制強化措置を発表してからまもなく1年を迎え、懸案の解決をこれ以上遅らせることはできない。 5月末までに3品目とホワイトリストに関する問題を解決する方法について、日本側の具体的な立場を明らかにするよう促した」と述べた。 イ政策官は2019年12月と2020年3月に行われた日韓輸出管理政策対話において、韓国側の首席代表として出席、輸出規制問題について日本と議論をかわした。 日本から出席した経済産業省の飯田陽一・貿易管理部長らとそれぞれ10~16時間のマラソン会議となったものの、結論を出すことはできなかった。 韓国大統領府は2020年4月28日の国務会議で、「日本が輸出規制を行う中、日本側の指摘を韓国政府はすべて解消した。 輸出規制の原状復帰などの措置を速やかにとるべきだ」と促したが、日本側はこれといった反応を示さなかった。 イ政策官は「日本政府が懸案の解決に積極的になるための必要十分条件を韓国側はすべて示した。 輸出管理分野での懸案を速やかに結論づけ、より発展的な方向へ日韓両国が進むことを希望する」と述べた。 日本が5月末までに回答しない場合、韓国政府は暫定的に留保しているGSOMIA(軍事情報包括保護協定)終了を再び検討、あるいはこれも留保している世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きを再開する可能性がある。 イ政策官は「現在としては予断は許さない。 日本側の肯定的な回答を期待している」と述べた。
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