背中に生えた翼は君とともになくした。 青空てにをは辞典 「翼~」

生物の進化は退化する一方ですか?

背中に生えた翼は君とともになくした

「エテモン!お前も道連れだ!」 「…嘘!このあちきが!こんな所で!」 沙綾との戦闘を中断しピラミッドに戻ったエテモンは、太一達が去った後の隠された地下室にて、ナノモンと共にまるでブラックホールと言うべきデータの塊へと吸い込まれていく。 「そんな…そんなバカなぁぁ!」 吸い込んだ者をたちまち分解してしまう"それ"に、ナノモンは呆気なく取り込まれ、今、抵抗を続けるエテモンをも飲み込もうとしていた。 「空!光子郎!こっちだ!」 「うん!ありがとう太一、光子郎君」 そんな中、無事に空を救出することが出来た太一達は、パートナー達の力でピラミッドの壁を破壊しながら強引に外を目指す。 「いえ…それより、ナノモンとエテモンはどうなったんでしょうか…この吸い寄せられる感じと、何か関係が…」 「光子郎、とにかく今は早く此処から出てみんなと合流しよう」 「そうですね…すみません」 ブラックホールの吸引力に逆らいながら、三人は最後の外壁を壊して外へと飛び出していくのだった。 「見ろっ!太一達が帰ってきたぞ!」 ピラミッドを中心に突然発生し始めた吸い込まれるような風に耐え、ガルルモンの背中に股がるヤマトがそう言って指を指す。 「空ちゃんも一緒みたいだね…良かった」 後は歴史に任せておけば上手くいく筈 "アグモンが疲れて進化出来ない"という事になっている沙綾は、彼と、タケル、トコモンと共にガルルモンに乗せて貰い、ヤマトの後ろでひとまず安心した。 「とにかく、太一達が此処まで来たら直ぐに逃げよう。 スフィンクスの口を潜れば一気に移動できるんだ。 距離は稼げる」 「うん…さっきからピラミッドに吸い込まれるみたいなこの感じ、絶対普通じゃないもの」 ミミとパルモンと共にイッカクモンに股がる丈が声を上げ、ミミを筆頭にその場にいる全員がその提案に頷いた。 やがて、 「おーいみんな!悪い、遅くなっちまった!」 「ありがとうみんな、私達のために」 グレイモン、カブテリモン、バードラモンに乗った三人が到着する。 「よし!急いで此処から離れるぞ!走れガルルモン!」 再開を喜ぶ間もなく、砂漠の砂に足を取られてピラミッドへと引き寄せられていくティラノモン達を横目に、一行はピラミッドから離れるため動き出すのだった。 「これは一体どうなってるんだ?ピラミッドの中で何か起こったのか?」 「分かりません…でも、逃げるには好都合です」 一向に収まる気配のない強力な向かい風に逆らい、子供達は一まとまりになって元居たスフィンクスを目指す。 その途中、砂漠の中でも見通しのいい丘のような場所を横切った時、不意にタケルが声を上げた。 「みんな見て!ピラミッドが!」 その言葉に皆の足が止まる。 外壁のデータが暴走する内部のデータに引っ張られたことで、ピラミッドがその形を保てなくなり、結果、崩壊を始めたのだ。 ガラガラと大きな音を立てて崩れ落ちるその光景に、一行は息を飲む。 そして、完全に倒壊したその場所から、遂に"それ"は姿を現した。 元エテモンのネットワークの中心部、ナノモンの仕掛けにより周囲のデータを無作為に吸収し肥大化したそれが、瓦礫を突き破って宙に浮き上がる。 「ちょっと…ねえ、太一…あれ…」 、その黒い塊の頂上にいた存在を空が指差し、沙綾を除く子供達は目を見開いて固まる。 「なんだ…あれ…エテモンなのか…」 下半身は既に"それ"と同化し、自身を取り込もうとしたデータを逆に支配下に置いたエテモンが笑う。 その声はマイクも使わずに砂漠へと響き渡り、距離に関係なく皆の耳へと届いた。 「あちきがこの程度で死ぬ訳ないでしょ!…さて、ナノモンは勝手にくたばったわ…次はあんた達の番よ、あの小賢しい小娘諸とも…全員消してあげるわ!」 遠くの子供達を見据えてエテモンが吠える。 「くっ、カブテリモン、お願いします!」 「バードラモン、貴方もお願い」 光子郎、空の指示の下、直ぐ様飛行能力を持つ二体がエテモンを含む膨張したネットワークへと攻撃を仕掛けるが、成熟期と完全体、加えて、ナノモン達を取り込んだデータの塊を乗っ取る、言い換えれば『様々なデータをロードした状態』とも言えるエテモンには一切の効き目がない。 「ふん、肩凝りに調度いいわ……これが代金よ!ダークスピリッツ!」 声を上げながら、彼は得意の闇の弾丸を複数放つ。 かすっただけでバードラモン、カブテリモンを吹き飛ばし、直撃した遠くに見える山を空間ごとネジ曲げるその威力は、歴史を知っている沙綾でさえも戦慄を覚えた。 なんて威力なの…… 更に、彼の放った複数の弾丸の内一つが、『運悪く』スフィンクスに命中してしまい、子供達は退路を絶たれてしまった。 力の違いを見せつけられ、逃げ道すらなくした子供達に焦りの表情が見え始める。 「出てきなさい小娘!さっきの決着をつけようじゃない」 エテモンにとって先程の戦いは屈辱そのものである。 『ここで消してやる』と、彼はガルルモンの背中にいる二人へと声を投げ掛けた。 それに対し、沙綾は無言を貫く。 「沙綾君!僕達じゃエテモンを止められない…なんとかアグモンを進化させられないのかい!?」 悔しそうに唇を噛み、丈は沙綾へと問いかけるが、彼女は首を横に振る。 「ごめんなさい…アグモンの体力が戻らない内は……」 ここで出ていく訳にはいかない……仮に進化したとしても、多分今のエテモンには敵わない… 沙綾はガルルモンの背中で横になるアグモンに視線を移して話す。 勿論、これは"疲れている"というアグモンなりの演技だ。 「そんな…」 「くそっ!他に手はないのか!?」 心の中で、『沙綾ならどうにかしてくれる』と淡い期待を浮かべていたミミは、彼女の言葉で目に涙を溜め始め、ヤマトは周囲を見回し打開策を探す。 そして… 「いや…一つだけ方法がある…」 重苦しい空気を断ち切るかのように、太一静かに口を開いた。 同時に彼の持つ紋章も、それに呼応するように輝き始めたのだ。 「太一…紋章が…」 自身の首から掛けた紋章の入ったタグを一度手に取って見つめた後、彼は視線をエテモンへと向ける 「沙綾…前に言ってたよな…"今は怖いかもしれないけど、いつか本当の勇気に辿り着ける"って…この気持ちがそうなのかは分からないけど、俺は、今"空や、沙綾、みんなを守りたい"って思う……」 顔を正面の敵に向けたまま、太一は背中越しに小説には書かれていない思いの内を沙綾へと告げた。 太一君… 「だから俺は逃げない!行くぞグレイモン!」 「分かった太一!」 デジヴァイスと紋章を掲げ、今、彼は走り出す。 大切なものを守るために。 その背中を見送りながら沙綾は思う。 やっぱり…貴方とアキラはそっくりだね… 勿論それは顔付きの話しではない。 他者の為に強大な敵へと向かって行くその"心の在り方"が、彼女には親友と重なって見えるのだった。 「あんた達にあちきの相手が務まる訳ないでしょ!そこをおどき!」 自身の下へと疾走する二人の姿を見下し、エテモンは彼らに標準を合わせ、再びその片手で『ダークスピリッツ』を形成、容赦なく放つ。 それを受けたグレイモンは、消滅こそしなかったものの、大きな音を上げてその場に倒れ込んだ。 「ぐおっ!」 「諦めるなグレイモン!」 太一が振り返りながら声を上げた時、デジヴァイスと紋章の輝きがより一層強くなる。 「太一の想いが…伝わってくる…」 同時にグレイモンがムクリと体を起こし、遂にその全人が光輝く。 彼の"勇気"に呼応し、紋章の強力な補助を受けて、彼の歴史通りの進化が始まったのだ。 「グレイモン、超進化!メタル…グレイモン!」 「あれが…グレイモンの進化した姿…」 グレイモンよりも一回り程大きくなった身体。 新しく背中に生えた翼、 そして、左腕を始め、もう一匹のアグモンと同じく機械で武装された全身、 体勢を低くし、遠くから彼の進化を見ていたヤマト達は、この土壇場での起死回生の一手に、その表情を明るくさせる。 また、エテモンに向かって突き進む太一をしばらく見つめていた沙綾も、これを機会に次の行動に思考を巡らせた。 後は、太一君がエテモンを倒すのを待って、彼が現実世界に戻るタイミングで、『私とアグモンも此処から飛び出す』 彼女の考えていた今後の方針、それは"太一と共に一度現実世界に戻る"事。 沙綾の本心としては、この後も旅を続ける子供達の助けになりたいところだが、そうもいかない、 未来とは違い、この時代のデジタルワールドは現実世界と時間の流れが違う。 この期を逃せば、少なくともこちらの時間で2ヶ月以上この世界を当てもなくさ迷う事になってしまうのだ。 問題なのは、この間に起こった出来事が小説にはほとんど書かれてはいない事である、小説の知識を頼りに行動してきた彼女にとってこれはリスクが高い。 不意に戦闘に巻き込まれ、本来死ぬ筈のないデジモンを誤って倒してしまえば取り返しがつかないことになる。 パートナーが強化されている今なら尚更だ。 太一君の近くまで走っていけば、私達も一緒に戻れる筈…アグモンには伝えきれてないけど、私が動けば絶対にこの子は付いてきてくれる アグモンが沙綾に絶対的な信頼を寄せるように、沙綾もまたアグモンに対してそれに負けない程の信頼を置いている。 例え何も言えずとも、彼は自分に付いてくるという自信が彼女にはあった。 飛び出すタイミングは、メタルグレイモンがエテモンを倒した瞬間だけ… アグモンが『戦えない』以上、沙綾達はまだ動けない。 彼女はガルルモンの背中に捕まるように寝そべるアグモンを横目で確認した後、目の前で繰り広げられる完全体同士の戦いに視線を移した。 「うおぉぉ!」 進化を果たしたメタルグレイモンが、エテモンの『ダークスピリッツ』を左手の爪で切り裂き、咆哮を上げながら彼に向かって突進を浴びせた。 エテモンは大きく後退し、憎々しげに彼を睨み付ける。 「よくもやったわね!踏み潰してくれるわ!」 彼が反撃を試みようとしたその時、メタルグレイモンの身体が再度光を放つ。 「見て!メタルグレイモンの身体が!」 「光ってる!?」 この戦いに決着をつけるため、紋章の力によって遥かに強化された彼は胸部のハッチを開き、自身に"も"搭載されたその必殺の名前を叫ぶ。 「ギガ…デストロイヤー!」 「あっ!ボクのとおんなじだ!」 もうすぐ…… メタルティラノモンと同種のミサイルに嬉しさを覚えたのか、もう一匹のアグモンは無邪気に喜び、子供達はこれから起こるであろう爆風に備えて頭を抱え込んだ。 しかし沙綾は、飛び出すタイミングを逃さないようその戦いの決着を見守る。 メタルグレイモンの胸部から打ち出されたその必殺は、数秒とせずにエテモンと繋がったデータの塊へと命中し、 「嘘…消えたくない、あちきは大スターなのよ!なんでこんなところでぇぇ!」 想像通りの爆発音と共に、エテモンを中心に空間が歪む。 今の一撃で更に暴走が加速したネットワークが、遂に時空に穴を開け、エテモンを取り込んだまま自分自身すら吸い込み始めたのだ。 「うわぁぁぁ!」 エテモンの真近くにいた上、体重の軽い太一は巻き込まれる形でみるみるそこへと引き寄せられていく。 そして、正に今が、沙綾が出ていくべきベストなタイミングである。 今だ! 「太一君が危ない!アグモン!付いてきて!」 「沙綾!危険だ!」 子供達に不審がられないよう、あくまで"太一を助ける"という名目で彼女はその場から走り出し、振り返る事なくアグモンに指示を送る。 子供達に心配をかけるとわかっていて尚、それを行う事への罪悪感を振り払うかのように、彼女は全力で加速した。 「待って!沙綾ちゃん!」 後方で聞こえる声を全て無視して彼女は砂漠を駆け抜ける。 ごめん…ヤマト君、空ちゃん、みんな… 「太一!うおっ!」 やがて、太一と、彼を引き留めるメタルグレイモンの身体がフワリと宙に浮き上がり、それに続くように彼らに向かって走る沙綾の足が地面から離れる。 「うわっ!……と、よかった、上手くいったみたい…ねぇアグモ……」 取りあえず上手くいったと、身体を捻るように振り返ったところで彼女は絶句する。 アグモンがいないのだ。 えっ?…… ふと子供達の方を見ると、彼は先程の位置からほとんど動いておらず、うつ伏せに地面へと突っ伏し、その足にはガルルモンが彼を引き留めるかのように噛みついていたのだった。 彼は付いてきてはいなかった。 いや、付いて来れなかったのだ。 「マァマー!」 「待つんだアグモン!」 沙綾が走り出した事で、確かに彼女の予想通りアグモンもそれを追いかけようした。 しかし、作戦が上手く伝わっていなかった事が災いし、慌ててガルルモンの背中から飛び降りたはいいが、スタートが一瞬遅れてしまったのだ。 それに気づいたガルルモンが反射的に首を伸ばして彼に足に噛き、結果アグモンは転倒してしまう。 「離してよガルルモン!マァマが!」 「駄目だ!君まで巻き込まれるぞ!」 「離せったら離せ!」 足をバタつかせてどうにか逃れようとするものの、流石に成長期の力でガルルモンを振り切る事は難しい。 "進化するな"と沙綾に指示されているアグモンはどうすればいいのかが分からず、走り去る彼女の背中を見つめる事しか出来なかった。 沙綾が気づいた時にはもう遅く、太一とメタルグレイモンは既にゲートの奥へと消え、必死に戻ろうとする沙綾の意思とは裏腹に、彼女の身体はぐんぐんとゲートに向かって引き込まれていく。 「アグモーンッ!」 「マァマ!マァマー!」 遥か遠くに見えるパートナーに向かってお互いに手を延ばすが、それは届かない。 『現実世界』へと繋がるゲートは今、沙綾だけを飲み込んで、 「マァマァァァ!」 音もなく、デジタルワールドから消滅したのだった。

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背中に生えた翼は君とともになくした

「エテモン!お前も道連れだ!」 「…嘘!このあちきが!こんな所で!」 沙綾との戦闘を中断しピラミッドに戻ったエテモンは、太一達が去った後の隠された地下室にて、ナノモンと共にまるでブラックホールと言うべきデータの塊へと吸い込まれていく。 「そんな…そんなバカなぁぁ!」 吸い込んだ者をたちまち分解してしまう"それ"に、ナノモンは呆気なく取り込まれ、今、抵抗を続けるエテモンをも飲み込もうとしていた。 「空!光子郎!こっちだ!」 「うん!ありがとう太一、光子郎君」 そんな中、無事に空を救出することが出来た太一達は、パートナー達の力でピラミッドの壁を破壊しながら強引に外を目指す。 「いえ…それより、ナノモンとエテモンはどうなったんでしょうか…この吸い寄せられる感じと、何か関係が…」 「光子郎、とにかく今は早く此処から出てみんなと合流しよう」 「そうですね…すみません」 ブラックホールの吸引力に逆らいながら、三人は最後の外壁を壊して外へと飛び出していくのだった。 「見ろっ!太一達が帰ってきたぞ!」 ピラミッドを中心に突然発生し始めた吸い込まれるような風に耐え、ガルルモンの背中に股がるヤマトがそう言って指を指す。 「空ちゃんも一緒みたいだね…良かった」 後は歴史に任せておけば上手くいく筈 "アグモンが疲れて進化出来ない"という事になっている沙綾は、彼と、タケル、トコモンと共にガルルモンに乗せて貰い、ヤマトの後ろでひとまず安心した。 「とにかく、太一達が此処まで来たら直ぐに逃げよう。 スフィンクスの口を潜れば一気に移動できるんだ。 距離は稼げる」 「うん…さっきからピラミッドに吸い込まれるみたいなこの感じ、絶対普通じゃないもの」 ミミとパルモンと共にイッカクモンに股がる丈が声を上げ、ミミを筆頭にその場にいる全員がその提案に頷いた。 やがて、 「おーいみんな!悪い、遅くなっちまった!」 「ありがとうみんな、私達のために」 グレイモン、カブテリモン、バードラモンに乗った三人が到着する。 「よし!急いで此処から離れるぞ!走れガルルモン!」 再開を喜ぶ間もなく、砂漠の砂に足を取られてピラミッドへと引き寄せられていくティラノモン達を横目に、一行はピラミッドから離れるため動き出すのだった。 「これは一体どうなってるんだ?ピラミッドの中で何か起こったのか?」 「分かりません…でも、逃げるには好都合です」 一向に収まる気配のない強力な向かい風に逆らい、子供達は一まとまりになって元居たスフィンクスを目指す。 その途中、砂漠の中でも見通しのいい丘のような場所を横切った時、不意にタケルが声を上げた。 「みんな見て!ピラミッドが!」 その言葉に皆の足が止まる。 外壁のデータが暴走する内部のデータに引っ張られたことで、ピラミッドがその形を保てなくなり、結果、崩壊を始めたのだ。 ガラガラと大きな音を立てて崩れ落ちるその光景に、一行は息を飲む。 そして、完全に倒壊したその場所から、遂に"それ"は姿を現した。 元エテモンのネットワークの中心部、ナノモンの仕掛けにより周囲のデータを無作為に吸収し肥大化したそれが、瓦礫を突き破って宙に浮き上がる。 「ちょっと…ねえ、太一…あれ…」 、その黒い塊の頂上にいた存在を空が指差し、沙綾を除く子供達は目を見開いて固まる。 「なんだ…あれ…エテモンなのか…」 下半身は既に"それ"と同化し、自身を取り込もうとしたデータを逆に支配下に置いたエテモンが笑う。 その声はマイクも使わずに砂漠へと響き渡り、距離に関係なく皆の耳へと届いた。 「あちきがこの程度で死ぬ訳ないでしょ!…さて、ナノモンは勝手にくたばったわ…次はあんた達の番よ、あの小賢しい小娘諸とも…全員消してあげるわ!」 遠くの子供達を見据えてエテモンが吠える。 「くっ、カブテリモン、お願いします!」 「バードラモン、貴方もお願い」 光子郎、空の指示の下、直ぐ様飛行能力を持つ二体がエテモンを含む膨張したネットワークへと攻撃を仕掛けるが、成熟期と完全体、加えて、ナノモン達を取り込んだデータの塊を乗っ取る、言い換えれば『様々なデータをロードした状態』とも言えるエテモンには一切の効き目がない。 「ふん、肩凝りに調度いいわ……これが代金よ!ダークスピリッツ!」 声を上げながら、彼は得意の闇の弾丸を複数放つ。 かすっただけでバードラモン、カブテリモンを吹き飛ばし、直撃した遠くに見える山を空間ごとネジ曲げるその威力は、歴史を知っている沙綾でさえも戦慄を覚えた。 なんて威力なの…… 更に、彼の放った複数の弾丸の内一つが、『運悪く』スフィンクスに命中してしまい、子供達は退路を絶たれてしまった。 力の違いを見せつけられ、逃げ道すらなくした子供達に焦りの表情が見え始める。 「出てきなさい小娘!さっきの決着をつけようじゃない」 エテモンにとって先程の戦いは屈辱そのものである。 『ここで消してやる』と、彼はガルルモンの背中にいる二人へと声を投げ掛けた。 それに対し、沙綾は無言を貫く。 「沙綾君!僕達じゃエテモンを止められない…なんとかアグモンを進化させられないのかい!?」 悔しそうに唇を噛み、丈は沙綾へと問いかけるが、彼女は首を横に振る。 「ごめんなさい…アグモンの体力が戻らない内は……」 ここで出ていく訳にはいかない……仮に進化したとしても、多分今のエテモンには敵わない… 沙綾はガルルモンの背中で横になるアグモンに視線を移して話す。 勿論、これは"疲れている"というアグモンなりの演技だ。 「そんな…」 「くそっ!他に手はないのか!?」 心の中で、『沙綾ならどうにかしてくれる』と淡い期待を浮かべていたミミは、彼女の言葉で目に涙を溜め始め、ヤマトは周囲を見回し打開策を探す。 そして… 「いや…一つだけ方法がある…」 重苦しい空気を断ち切るかのように、太一静かに口を開いた。 同時に彼の持つ紋章も、それに呼応するように輝き始めたのだ。 「太一…紋章が…」 自身の首から掛けた紋章の入ったタグを一度手に取って見つめた後、彼は視線をエテモンへと向ける 「沙綾…前に言ってたよな…"今は怖いかもしれないけど、いつか本当の勇気に辿り着ける"って…この気持ちがそうなのかは分からないけど、俺は、今"空や、沙綾、みんなを守りたい"って思う……」 顔を正面の敵に向けたまま、太一は背中越しに小説には書かれていない思いの内を沙綾へと告げた。 太一君… 「だから俺は逃げない!行くぞグレイモン!」 「分かった太一!」 デジヴァイスと紋章を掲げ、今、彼は走り出す。 大切なものを守るために。 その背中を見送りながら沙綾は思う。 やっぱり…貴方とアキラはそっくりだね… 勿論それは顔付きの話しではない。 他者の為に強大な敵へと向かって行くその"心の在り方"が、彼女には親友と重なって見えるのだった。 「あんた達にあちきの相手が務まる訳ないでしょ!そこをおどき!」 自身の下へと疾走する二人の姿を見下し、エテモンは彼らに標準を合わせ、再びその片手で『ダークスピリッツ』を形成、容赦なく放つ。 それを受けたグレイモンは、消滅こそしなかったものの、大きな音を上げてその場に倒れ込んだ。 「ぐおっ!」 「諦めるなグレイモン!」 太一が振り返りながら声を上げた時、デジヴァイスと紋章の輝きがより一層強くなる。 「太一の想いが…伝わってくる…」 同時にグレイモンがムクリと体を起こし、遂にその全人が光輝く。 彼の"勇気"に呼応し、紋章の強力な補助を受けて、彼の歴史通りの進化が始まったのだ。 「グレイモン、超進化!メタル…グレイモン!」 「あれが…グレイモンの進化した姿…」 グレイモンよりも一回り程大きくなった身体。 新しく背中に生えた翼、 そして、左腕を始め、もう一匹のアグモンと同じく機械で武装された全身、 体勢を低くし、遠くから彼の進化を見ていたヤマト達は、この土壇場での起死回生の一手に、その表情を明るくさせる。 また、エテモンに向かって突き進む太一をしばらく見つめていた沙綾も、これを機会に次の行動に思考を巡らせた。 後は、太一君がエテモンを倒すのを待って、彼が現実世界に戻るタイミングで、『私とアグモンも此処から飛び出す』 彼女の考えていた今後の方針、それは"太一と共に一度現実世界に戻る"事。 沙綾の本心としては、この後も旅を続ける子供達の助けになりたいところだが、そうもいかない、 未来とは違い、この時代のデジタルワールドは現実世界と時間の流れが違う。 この期を逃せば、少なくともこちらの時間で2ヶ月以上この世界を当てもなくさ迷う事になってしまうのだ。 問題なのは、この間に起こった出来事が小説にはほとんど書かれてはいない事である、小説の知識を頼りに行動してきた彼女にとってこれはリスクが高い。 不意に戦闘に巻き込まれ、本来死ぬ筈のないデジモンを誤って倒してしまえば取り返しがつかないことになる。 パートナーが強化されている今なら尚更だ。 太一君の近くまで走っていけば、私達も一緒に戻れる筈…アグモンには伝えきれてないけど、私が動けば絶対にこの子は付いてきてくれる アグモンが沙綾に絶対的な信頼を寄せるように、沙綾もまたアグモンに対してそれに負けない程の信頼を置いている。 例え何も言えずとも、彼は自分に付いてくるという自信が彼女にはあった。 飛び出すタイミングは、メタルグレイモンがエテモンを倒した瞬間だけ… アグモンが『戦えない』以上、沙綾達はまだ動けない。 彼女はガルルモンの背中に捕まるように寝そべるアグモンを横目で確認した後、目の前で繰り広げられる完全体同士の戦いに視線を移した。 「うおぉぉ!」 進化を果たしたメタルグレイモンが、エテモンの『ダークスピリッツ』を左手の爪で切り裂き、咆哮を上げながら彼に向かって突進を浴びせた。 エテモンは大きく後退し、憎々しげに彼を睨み付ける。 「よくもやったわね!踏み潰してくれるわ!」 彼が反撃を試みようとしたその時、メタルグレイモンの身体が再度光を放つ。 「見て!メタルグレイモンの身体が!」 「光ってる!?」 この戦いに決着をつけるため、紋章の力によって遥かに強化された彼は胸部のハッチを開き、自身に"も"搭載されたその必殺の名前を叫ぶ。 「ギガ…デストロイヤー!」 「あっ!ボクのとおんなじだ!」 もうすぐ…… メタルティラノモンと同種のミサイルに嬉しさを覚えたのか、もう一匹のアグモンは無邪気に喜び、子供達はこれから起こるであろう爆風に備えて頭を抱え込んだ。 しかし沙綾は、飛び出すタイミングを逃さないようその戦いの決着を見守る。 メタルグレイモンの胸部から打ち出されたその必殺は、数秒とせずにエテモンと繋がったデータの塊へと命中し、 「嘘…消えたくない、あちきは大スターなのよ!なんでこんなところでぇぇ!」 想像通りの爆発音と共に、エテモンを中心に空間が歪む。 今の一撃で更に暴走が加速したネットワークが、遂に時空に穴を開け、エテモンを取り込んだまま自分自身すら吸い込み始めたのだ。 「うわぁぁぁ!」 エテモンの真近くにいた上、体重の軽い太一は巻き込まれる形でみるみるそこへと引き寄せられていく。 そして、正に今が、沙綾が出ていくべきベストなタイミングである。 今だ! 「太一君が危ない!アグモン!付いてきて!」 「沙綾!危険だ!」 子供達に不審がられないよう、あくまで"太一を助ける"という名目で彼女はその場から走り出し、振り返る事なくアグモンに指示を送る。 子供達に心配をかけるとわかっていて尚、それを行う事への罪悪感を振り払うかのように、彼女は全力で加速した。 「待って!沙綾ちゃん!」 後方で聞こえる声を全て無視して彼女は砂漠を駆け抜ける。 ごめん…ヤマト君、空ちゃん、みんな… 「太一!うおっ!」 やがて、太一と、彼を引き留めるメタルグレイモンの身体がフワリと宙に浮き上がり、それに続くように彼らに向かって走る沙綾の足が地面から離れる。 「うわっ!……と、よかった、上手くいったみたい…ねぇアグモ……」 取りあえず上手くいったと、身体を捻るように振り返ったところで彼女は絶句する。 アグモンがいないのだ。 えっ?…… ふと子供達の方を見ると、彼は先程の位置からほとんど動いておらず、うつ伏せに地面へと突っ伏し、その足にはガルルモンが彼を引き留めるかのように噛みついていたのだった。 彼は付いてきてはいなかった。 いや、付いて来れなかったのだ。 「マァマー!」 「待つんだアグモン!」 沙綾が走り出した事で、確かに彼女の予想通りアグモンもそれを追いかけようした。 しかし、作戦が上手く伝わっていなかった事が災いし、慌ててガルルモンの背中から飛び降りたはいいが、スタートが一瞬遅れてしまったのだ。 それに気づいたガルルモンが反射的に首を伸ばして彼に足に噛き、結果アグモンは転倒してしまう。 「離してよガルルモン!マァマが!」 「駄目だ!君まで巻き込まれるぞ!」 「離せったら離せ!」 足をバタつかせてどうにか逃れようとするものの、流石に成長期の力でガルルモンを振り切る事は難しい。 "進化するな"と沙綾に指示されているアグモンはどうすればいいのかが分からず、走り去る彼女の背中を見つめる事しか出来なかった。 沙綾が気づいた時にはもう遅く、太一とメタルグレイモンは既にゲートの奥へと消え、必死に戻ろうとする沙綾の意思とは裏腹に、彼女の身体はぐんぐんとゲートに向かって引き込まれていく。 「アグモーンッ!」 「マァマ!マァマー!」 遥か遠くに見えるパートナーに向かってお互いに手を延ばすが、それは届かない。 『現実世界』へと繋がるゲートは今、沙綾だけを飲み込んで、 「マァマァァァ!」 音もなく、デジタルワールドから消滅したのだった。

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魔法先生ネギま!~闇の剣と星の剣

背中に生えた翼は君とともになくした

何一人前の口を利いているんだかw >昆虫のえらが羽になったのはもともとえらを羽ばたかして程度は飛ぶ事に使えた為で それまでえらを水中で泳ぐ為に使えていたのも、もともとえらが水をかいて泳ぎには多少は使えていたからで、もともと出来ていた事が発達したのではないですか? だから泳ぐ為にもともと利用していたえらを多少飛ぶ事に利用した結果飛翔距離は伸びて飛ぶのに適した形態をとるようになったのではないですか? 真面目に返答するのも馬鹿らしいが・・・ 陸生の無翅目類の昆虫に鰓が有るか? パタパタと鰓を動かして歩いているか? 何を都合の良い事をこうもりの様にフラフラとw 自分の発言で是と言った後に非と言っている愚かさを気付けない間抜けさは驚嘆に値するよ。 私には恥ずかしくて出来ないから。 >もともと持っていた器官を転用して使う事で進化した 転用できなかった器官は退化した 退化した器官を転用する事は出来ないから退化した部分から何か使える器官に発達する事は無いのではないですか? 退化は消失ではないのだが、君は其れを理解する大脳を持っていない事は理解した。 まぁ、正確には、君は科学的に完全な証明のされていない「進化」の問題をやじっているだけだ。 つまりいわるゆ知識層と言えるだけの人間の書き込みに対して、アラを捜してケチをつけるだけの事しか出来ない無能な訳だ。 君の理論と言うか立場は、私は完全に論破した。 鳥の翼と虫の翅を同列に語りたいみたいだが、世代交代の時間単位が違う生物を同列に扱う根拠は? 同じ目線で捕らえるなら、其れを証明しな。 そろそろ私も切れるよ?w そもそも陸生に適応した時点で、鰓は無くなっているだろう? 其れとも何かい?君は使わなくなった鰓を持ち続け、翅になるまで振り回し続けたとでもほざくのか?w 君の会話には「時間軸」が完全に欠落してるんだよ。 百万年の進化と億年の進化の区別が、全く出来ていない。 平均棍から翅が生えないのはいいが、では何から翅が生えたんだい? 遺伝情報が残っている平均棍と、何も無い状態と、どっちが確立が高い? 君の人生の喪失感を、他の生物の歴史に投影して語るのは止めな。 君には心理カテが似合っている。 空を獲得した生物が空を捨てるのは、脊椎動物では珍しくも無いですが、昆虫では少数派ですし、そもそも甲虫か寄生性の生物にしか居ないはずだと思います。 そもそも幼虫時には翅が無く、成虫になって繁殖可能な時に、より広範囲を移動する為の手段としての高効率の飛行を手にした訳ですから、飛行を捨てる選択肢は有り得ません。 其れに何度も言いますが、退化は矮小化であって消失では無く、ハエ目では「平均棍」と呼ばれる器官として残っています。 再獲得の可能性は残っています、するかしないかは出来るか出来ないかの唯のギャンブルです。 唯、流体力学・航空力学的に複葉にするメリットは通常は無いですが。 翅という器官をジャンプして手に入れた「瞬間(百万年位w)」に、昆虫は其れまでの無翅目のニッチを完全奪取した様で、此の期間が短すぎるのか、化石が見つかっていません。 取り敢えず、翅を持った昆虫の方が、後発のグループです。 尚、鰓から翅が進化したという学説は、オキアミ等の甲殻類の特に幼生の鰓が、翅の様にせり出している事からのモノから来ていると思われます。 ミジンコが諸に鰓で「泳ぎ」ますよね。 ちなみに現代の水生昆虫の鰓構造は、種によって方式がまちまちで、水生の昆虫が分化して増えたというよりは、陸生から再獲得して水に帰ったと考えるのが妥当ですし、更に昆虫は腹部で呼吸しますが、甲殻類は胸部で呼吸します。 此れも恐らくは三葉虫レベルか其の前後か何処かで分化したか、ジャンプしたか?もうわやくちゃですw 鰓の遺伝子情報がジャンプして翅になったは、比較的可能性の高い説ではあります。 此れは陸生になった後で、鰓の遺伝子の発現がジャンプして翅になったという学説です。 選択肢は減りませんよ。 確立が減るだけで、ゼロにはなりません。 まあ節足動物全体で見て羽根を持ってるのが昆虫に限られることを考えれば「昆虫以外が羽根をなくした」と考えるより「昆虫が羽根を獲得した」と考える方が妥当であることはほぼ自明. もちろん「羽根を持っている最初の生物」は「羽根を持たない生物」からしか進化できない. あと, すくなくともハエやカについては適当な選択圧があれば容易に羽の枚数を 4枚に戻すことができる... というか, もともと 4枚持ってるわけだから「4枚に戻す」も変な表現ではある. >生物の構成がどんどん単純化していってると思います こういうのが生物の歩んだ歴史ですですよね? 此れは「最適化」ですね。 例えばハエや蜂は羽が二枚に減っていますが、飛翔能力は速さやホバリング能力等、非常に高くなっています。 ところが、トンボは四枚羽なのに、ハエを捕食するほどの運動性能を持っています。 蝶は飛翔能力は高くはありませんが、独特の飛行運動で捕食圧を下げています。 カブトムシは硬い前翅で防御力と揚力を生み、後翅で推進力を生みます。 皆全て最適化をしているのであって、単純化をしている訳ではありません。 ただし増やすよりも減らす方向への進化の方が起き易いという事はあります。 何故なら増やす為のジャンプの成功率が単純に低いのと、使用目的が合致する可能性、更に増えた器官の製造コストも摂取カロリーを要求します。 ですので確立が低いのは事実ですが、別に複雑化がいけない訳ではありません。 対して単純化は、製造コストは下げられますし、大きなジャンプは要求されませんので、成功率は格段に上がり、結果、生存競争上に於いて非常に有利です。 しかし羽の無い昆虫は、ジャンプに成功した羽根を持った昆虫に其の生活の場の殆どを奪われてしまいました。 つまり「最適化」は別に単純でも複雑でもどちらでも良いのですが、より早くニッチを独占した物が勝者になる為に、単純化した生物が結果的に多いという事です。 あぁ、家畜の世界ではジャンプは比較的簡単に起きますよ。 (自然界でも起きてはいるのでしょうが) 人間が選別という淘汰圧を掛けるので、野生では見られない変化が往々にして起きています。 生物はあらゆる可能性の選択肢を、常に模索し続けています。 12の者です。 >生物は現在a,b,cと言うパーツを持っていたとします (中略) > すると生物を構成するパーツはb,cだけになります それでは最初にあったa,b,cというパーツは、本当に最初から あったのでしょうか? もちろん、「最初」は古細菌という単細胞生物であった事が、 遺伝子を用いた系統解析において明らかとなっており、「a,b,c」は 後から発達したのです。 ご指摘の、特定のパーツに対する選択圧は、前の書き込みで ふれた「収斂進化」であり、一方で種の多様化や個体内の器官の 多様化などを可能にする、遺伝子の機能の発達(ホメオボックス、 遺伝子カスケードetc. )や、環境変動によるニッチの発生などに おいて、形質の複雑化・多様化を生じる「放散進化」が起きた事が、 化石や遺伝子解析から明らかとなっています。

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