芦沢央さんの「カインは言わなかった」。 最初はプルーフで読ませて頂きました。 芦沢央さんと言えば、昨年「火のないところに煙は」が ミステリー・ホラーいずれのファンからも高い支持を受け、 本屋大賞にノミネートされました。 「火のないところに煙は」はホラーミステリー として申し分ない面白さでした。 新作「カインは言わなかった」は、 その濃密な人間描写に絶句しました。 生身の人間の感情の波がもろにぶつかってくる! そんな感じを受けました。 カリスマ演出家・誉田の新作公演、その開幕直前に主演ダンサー の藤谷誠が失踪をした。 誉田は失踪した誠の代わりに 誠とライバルの尾上数馬を指名し、レッスンを開始した。 和馬は開幕まで、誉田のパワハラと厳しいレッスンに耐えた。 舞台美術を担うのは、藤谷豪。 誠の弟だ。 男性でありながら美し過ぎる容姿。 演出家のパワハラ、カンパニー内での熾烈な主役争い。 主演ダンサーとその弟を巡る女性たちのどろどろの恋愛劇! 今回の作品のモチーフである、ダンス、絵画、そして恋愛。 いずれにしても、人間の心の奥に潜む感情の全てが表に 現れるものだと思う。 嫉妬・怒り・絶望、それらの感情が登場人物ごとに 見事に描きわけられ、やがて殺意に変わってゆく。 冒頭の殺人は誰が犯したのか? 登場人物の誰が殺意を抱いてもおかしくない。 そんな風に描かれてゆく過程が緻密に練りあげられている。 そして想像だにしなかった犯人。 さらに、ダンサー失踪の裏で何が行われていたのか? その真相に人間の冷酷さを見たような気がした。 それでも、これほど暗い闇、そして暗い激情 が迸った作品なのに、絶望の先には希望が あるという結末にものすごく救われた。 『カインは言わなかった』 著者:芦沢央 出版社:文藝春秋 価格:¥1,650(税別) カテゴリー: 作成者:.
次のContents• カインが兄、アベルが弟になります。 大まかな内容は、自分の捧げ物だけ神様に受け入れられなかったことに腹を立てた兄のカインが、弟のアベルを殺してしまうというもの。 人類初の殺人が描かれていることで知られていますね。 聖書箇所 創世記4章1節〜4章16節 登場人物 まずは、登場人物のご紹介! 神様 今回も登場しますよ、毎度おなじみ天地を造られた 創造主。 またしても、人間の罪を目の当たりにします。 カイン アベルの兄。 ヘブライ語で「鍛冶屋(かじや)」。 土を耕(たがや)す農夫だが、大きな罪を犯してしまう。 アベル カインの弟。 羊飼いで、神様に肥えた初子(ういご)を捧げる。 ストーリー さあ、内容に入ってきますよ〜! カインとアベルの誕生 これは、アダムとエバがエデンの園を追い出された後のお話。 エバは身ごもり、2人の男の子を産みました。 兄の カインと弟の アベルです。 2人はすくすくと育ち、 カインは土を耕して穀物や野菜を作る 農夫に、 アベルは羊のお世話をする羊飼いになりました。 2人とも神様に捧げ物をするが。。 さて、ある日、カインは畑でとれた 収穫物を神様に捧げました。 弟のアベルもまた、羊の中から1番良く肥えた初子を選んで神様に 捧げました。 しかし、 神様はカインの捧げ物を喜ばれず、 アベルの捧げ物だけを受け入れました。 カインはこれに対してブチ切れます。 安心しなさい。 お前を殺そうとする者は、私がゆるさん! お前を殺した者は、7倍の報(むく)いを受けるだろう。 そして、 神様は誰もカインを殺さないように 彼にしるしを付けてあげました。 こうしてカインは神のもとから去り、 エデンの東の地に住むようになりました。 なぜ神様はカインの捧げ物を受け取らなかった? なぜ、神様はアベルの捧げ物は受け入れられて、 カインの捧げ物は受け入れられなかったのでしょうか。 これには、 2つの理由が考えられます。 聖書にはこう書かれています。 「こうして、ほとんどすべてのものが、律法に従って血で清められており、血を流すことなしには罪の赦しはありえないのです。 」 (ヘブライ人への手紙9章22節) これは、が十字架で死なれたこととも関係しており、 イエス・キリストは自分の血を神様にお捧げすることで、人類の罪をゆるしていただきました。 このように、 当時の人々は、羊といった 動物をいけにえにささげることで、罪をゆるしてもらっていたのです。 もちろん、2人ともこのことは知っていたはずです。 しかし、 カインは神の御心に従わず収穫物を捧げ、アベルは神の御心に従い血のいけにえである子羊を捧げたのです。 その結果、カインの捧げ物は受け入れられなかったということですね。 それは、 どのような心で捧げたか です。 アベルは良い心を持っていて、 捧げ物も本当に良い羊を選んで心から神様に捧げました。 しかし、 カインはそうではなかったのです。 詳しくは書かれていませんが、 もしかしたら収穫物の余り物を捧げたのかもしれません。 適当な気持ちで捧げたのかもしれません。 このお話から、 神様はあくまでも捧げる者の気持ちを重視されるお方だということ が分かりますね。 もし、 カインが神様から言われた時にすぐ反省していれば良かったのです が、その怒りを弟のアベルに向けてしまいました。 表面的な捧げ物は喜ばれないのか。。 それらをご紹介していきましょう。 人類初の殺人 最も代表的なのはやはり、 人類初の殺人です。 初代のもいくつか罪を犯しましたが、2代目にしてもう殺人が起きてしまいました。 カインが加害者、アベルが被害者ですね。 人類初の兄弟 また、カインとアベルは 人類初の兄弟です。 ですから、現在でも、 カインとアベルは 兄弟の代名詞として使われます。 ちなみに、この2人にはセトという弟もいたと言われています。 カインに関しては、人間から産まれた 初めての赤ちゃんでもありますね。 人類初の嘘 さらに、カインは 人類初の嘘もついています。 ろくな人類初がないにゃ〜。 それが、神様から弟アベルの居場所を聞かれたシーンです。 カインは、アベルを殺したにも関わらず、知らないフリをして嘘をついたんですね。 しかし、当然神様には全てお見通しでした。 にも関わらず、 あえて聞いたのは カインを試すためでしょう。 人類初の殉教(じゅんきょう) さらに、アベルは 人類初の殉教(じゅんきょう)者とも言われています。 殉教というのは、 神への信仰のために命を捨てること。 アベルは神への信仰を持っていましたが、その信仰ゆえにカインに殺されてしまったんですね。 とはいっても、この言葉自体にあまりなじみがないかもしれませんが(笑) これは元々、心理学者 ユングが提唱した概念です。 まとめ アダムとエバに続き、今回も様々な罪が出てきましたね。 聖書にはこうした人間の罪がたくさん描かれています。 人間ですから、罪を犯すことは避けられません。 でも、 問題は罪を犯した後どうするかです。 そこで反省して、神様にかどうかでその後の運命が決まってくるんですね。 きちんと悔い改めれば、神様もゆるして祝福してくださるというのに。。 人間はやはり愚かですね。 ではまた次回!.
次のここからネタバレ注意! カインは言わなかったの感想(ネタバレ) 誉田率いるHHカンパニー公演『カイン』 旧約聖書において、 「人類最初の殺人者」として描かれる男、カイン。 HHカンパニーはクラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスを融合させるアプローチで意欲作を次々と発表してきた団体です。 そんなHHカンパニーの集大成ともいえる「カインとアベル」のエピソードを元にした舞台に向けて物語は始まります。 作品の究極を目指すには表現者はどうなるべきなのでしょうか。 全てを舞台に捧げてきた男達が登場します。 それぞれ己の限界を突破したいと願い、誉田を崇め、求められるものに応えようとします。 誉田は役柄を表現させるために演者を精神的にも肉体的にも追い込んでいきます。 その一つ一つの様子を描いた場面が迫真で読んでいてこちらが緊張してしまうほどの厳しさを感じました。 狂気すら感じるようなレッスンは、例えば一般社会の集団(企業など)であればパワハラなどで問題視されるに間違いありません。 HHカンパニーでも過去に追い込まれていた形跡を残して亡くなった穂乃果と残された家族の想いも描かれています。 でもこの表現者の世界は特殊で、それでも優れた作品を作ることを求める異様な空気が流れています。 だから追い込まれる主役の演者を見ても、いつか自分も選ばれたいと思って見ています。 そして読者である私も読んでいて、そんな間違いにも見える雰囲気の末にできた作品でも、その発表の場で文字で読んでいるだけなのに 身震いするような興奮を感じてしまいました。 もしその興奮が、異様な空気の中でしか作られないものなのだとしたら……と考えれば誉田を単純に非難するのではなく、認めてしまうような気持ちにもなってしまう。 誉田は誠が今まで他人に話せずにいた話を口にしようとするときく前に 「それは、絶対に誰にも話すな」と制されます。 『いいか、おまえの華を作っているのは、その沈黙だ』 誉田は、誠を指差しながら言った。 『言えない言葉が内側に渦巻いているから、踊りが饒舌になるんだ』 あの瞬間が人生のピークだったのかもしれない、と誠は思う。 誉田に認められ、主役に抜擢され、これから始まるリハに胸を高鳴らせていた、あの瞬間。 善と悪を越えた世界で描かれていく物語の世界は異様なのに真剣そのもので惹きつけられてしまいます。 錯綜する登場人物の思い 立場の違う登場人物のそれぞれの思いが錯綜して物語は進んでいきます。 中心は『カイン』の舞台なのですが、舞台に関わる人、その周りの人のまるで方向の違うような思いが描かれることで、お互いの気持ちが深堀りされていくようでした。 藤谷誠、豪、尾上和馬は勿論ですが、誉田や穂乃果、望月澪など主体として描かれなかった人物の想いも読んでいく内に浮かび上がってくるように感じられました。 話の軸は一つなのに何冊もの物語を読んでいるような気持ちです。 そしてどの人物の気持ちもけして軽くない。 共通して言えるのは舞台にしても画にしても芸術に魅入られた人間やそんな人間の周りにいる人間の魂の叫びのようなものが描かれていることです。 だから『カインは言わなかった』が誰の物語かと言われても私には答えられません。 それくらいそれぞれの想いが強く感じられた物語だったからです。 ただ救いが欲しいと願いながら読み進めていた人物もいて、それは松浦と松浦の妻のことです。 エピローグの最後は真実に近い部分を知った後、松浦の妻の表情が見えようとするところで終わりました。 その視線の先を確かめるように、松浦も窓へと顔を向けると、窓枠に区切られた外の景色はひどく明るかった。 そこに背を向けている妻の表情は、逆光になっていてよく見えない。 妻が、ゆっくりと顔を上げる。 頬に風を感じた瞬間、視界の端でカーテンが大きくはためくのが見えた。 穂乃果が亡くなった事実を変えることはできないですし、誉田のやってきたことを受け入れることもできるはずはないのだと思います。 ただ松浦が松浦が至った「それでも穂乃果は、最後まで希望を持って戦っていたのだ。 」という前に進めるような気持ちを妻も持っていてくれればと思います。 冒頭と終りで書かれた「カイン」の評論文 冒頭は藤谷誠が演じた「カイン」、終りは尾上和馬が演じた「カイン」の評論文でしょう。 公演初日が終えると書かれる檜山重行のいち早い評論はまっさらな作品としての評価として作り手から捉えられています。 誠の「カイン」前の練習では殻を破ろうと四苦八苦する尾上和馬が描かれていたので最後の「カイン」の評論を読むと尾上和馬に光を当たっていくような感覚になりました。 表現はこうやって苦しみぬいた末にさらなる高みを目指していくものだと感じた場面でもあります。 ますます誉田を正当化してしまいそうな気持ちになっているのは怖くもあるのですが、夢を追うものが叫ぶ魂の声が聞こえるような物語は最後まで面白かったです。 カインは言わなかったの感想まとめ ダンサー、画家、男女の想い、才能、芸術、夢……。 それぞれの要素が好みの物語でした。 しかも人がもがいていく末に謎が明らかになっていく流れが面白くて空き時間に必ず本を開いてしまうような魅力を感じました。 苦しみを知らない人間に苦しんでいる人を表現することはできないのでしょうか。 それをこれ以上ないくらい高い質で表そうとしたらそれこそ物語上の人間以上に自身を追い込むことが必要なのかもしれません。 正しいとは言えないのだと思います。 でもきれいごとだけではなくて、不適切でもそれくらいの苦しみの末にできた作品は美しいのだと思います。 書いている最中、苦しくて仕方がなかったという作家さんのコメントがついた作品に感動したことも多くあり、複雑ながら色々と思い浮かべながら『カインは言わなかった』の世界を楽しむことができました。
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