町山智浩さんがの中で1975年のジョニー大倉さん主演映画『異邦人の河』について話していました。 (町山智浩)今日、ちょっとね、プレゼントをします。 リスナーの方々に。 1975年の日本映画で『異邦人の河』という古い映画なんですけど。 そのDVDが今度、発売されますんで。 それをちょっとプレゼントしたいんですけども。 リスナーの方、5名にね。 (赤江珠緒)うん。 40年前ですね。 (町山智浩)これはですね、なんでこの映画がいまか?っていうと、ずっといままでDVDとか出てなかったんですよ。 ビデオ化もされてなくて。 で、これはこの間亡くなったジョニー大倉さんっていうロックンロールミュージシャンの方の主演映画なんですね。 (赤江珠緒)へー。 (町山智浩)で、これ、ジョニー大倉さんっていうのはずっとキャロルっていうバンドで矢沢永吉さんと2人で・・・2人でってことはないですね。 4人のバンドですけど。 やっていた人なんですけども。 で、キャロルを解散したすぐ後に作った映画がこの異邦人の河っていう映画で。 これはあの、ジョニー大倉さんっていうのは在日韓国・朝鮮人の人なんですね。 (山里亮太)はい。 ジョニー大倉が在日韓国人青年役 (町山智浩)で、その人が、ずっとジョニー大倉っていう名前でやっていたのを初めて、『私は在日です』と表明して、在日の青年の役をやった映画なんですよ。 (赤江珠緒)うんうん。 (町山智浩)で、まあそれがきっかけでですね、ラジオのレギュラー番組を降ろされたりしたんですよね。 ジョニーさんは。 (赤江珠緒)ええっ!? (町山智浩)僕なんて『いま、ソウルにいます』って言って。 父が在日の韓国の人だったんで。 まあ、第二の故郷みたいな感じでいま、ここにこうやって里帰りみたいなのをしてるんですけど。 (赤江珠緒)はい。 (町山智浩)それを1975年で言ったら、ラジオを降ろされてたんですよね。 (山里亮太)時代背景が。 (町山智浩)そう。 そういう時代で。 それを、危険をおかしてジョニー大倉さんが出た映画で。 その在日であることをずっと隠していた青年、ジョニー大倉さんが在日の美少女と出会ってですね、自分の血に目覚めていくという青春映画なんですけど。 (赤江珠緒)うん。 (町山智浩)この映画ね、その女子高生を演じている方がですね、佳那晃子さんっていう女優さんなんですよ。 で、この方は『魔界転生』っていうホラーアクション映画のセクシー演技ですごく有名になったんですけど。 現在、すごい難病でですね、寝たきりの状態で戦ってらっしゃるんですけど。 この佳那晃子さんが非常にキレイなんですね。 この映画、異邦人の河では。 (赤江珠緒)ええ。 (町山智浩)あと、この異邦人の河のジョニー大倉さんはまるでね、前田敦子ちゃんみたいにかわいいんですよ。 (赤江珠緒)ええーっ!? (山里亮太)前田敦子ちゃんみたいなかわいさ? (町山智浩)そう(笑)。 本当にね、チャーミングなんで、ぜひ見てほしいと。 (山里亮太)あっ、いま写真ありますけど、言われてみればわかりますね(笑)。 あっちゃんっぽい。 (町山智浩)たとえがおかしいですが(笑)。 それで僕はこのDVDに解説を書いていて。 当時の時代状況とか、詳しく解説してますんで。 まあ、ぜひレンタルとか。 レンタルもしますんで。 見てください。 <書き起こしおわり>.
次の町山智浩さんが2020年2月25日放送のの中でパリ郊外に住む移民や警官たちを描いたフランス映画『レ・ミゼラブル』を紹介していました。 マルディグラというカーニバルの取材に来てるんですね。 これ、日本でもご存知の人もいるかもしれないですけども。 山車がいっぱい出てですね、みんな歌って飲んで騒いでっていうことをするんですけど。 これ、元々フランスのお祭りなんですよ。 で、このニューオリンズというのは昔はフランスだったんですね。 (赤江珠緒)メキシコ湾に面したようなところですよね? (町山智浩)そうです、そうです。 だから魚とかエビとか美味しいんですけども。 だから「ニュー・オルレアン」っていう意味なんですよ。 それで元々フランス領だったところで。 だから料理とかもフランス料理とかの影響を受けてて、すごく美味しいんですけども。 それでルイジアナ州っていうところにあるんですけどもね。 「ルイジアナ(Louisiana)」の「ルイ(Louis)」っていうのはフランスの王様の「ルイ(Louis)」ですからね。 (赤江珠緒)ああ、そうか! ルイから来ているのか! (町山智浩)そう。 だからこのへんは全部フランスだったんですけど、アメリカがフランスからお金で買いまして。 それでアメリカになったんですけどね。 だからね、フランスのいろんなものが残ってて面白いんですけれども。 ただやっぱりね、「クレオール」というフランス系アフリカ系の人たちの文化なんですよ。 ここの文化って。 だからいわゆるそのニューオリンズ料理っていうのはフランスとアフリカが合体したような料理なんですね。 ジャンバラヤとかそういうものですけども。 今回ね、ちょっと紹介する映画はちょうどたまたまなんですけど今週末に公開されるフランス映画をご紹介するんですが。 やはりそのフランスとアフリカの関係についての映画なんですね。 これね、タイトルが『レ・ミゼラブル』っていうんですよ。 あのレミゼと同じなんですよ。 (赤江珠緒)そうですよね。 (町山智浩)はい。 でもあれは150年ぐらい前の話なんですけども、今回は現代のフランスの話なんですね。 タイトルだけが同じで。 それでなぜ『レ・ミゼラブル』というタイトルなのかっていうと、舞台が同じところで。 ジャン・バルジャンが市長をやってた街でモンフェルメイユというパリから電車で1時間ちょっとぐらい離れたところなんですよ。 そこが舞台なんですが、そこはアフリカ系移民がものすごく大量に住んでるところなんですよ。 (赤江珠緒)へー! 現代のフランス・モンフェルメイユが舞台 (町山智浩)で、フランスってパリの郊外、パリの街の外ってパリの真ん中はやっぱり家賃が高くて住めないんですよ。 だからアフリカ系の移民の一世、二世、三世の人たちはパリの周りに住んでるんですね。 車とか電車で1時間くらい離れたところに。 で、そこがもう本当に団地とかがいっぱいあって、アフリカ系の人たちが多いんですけれども。 まあ、そこはいわゆる犯罪も多くなってるんですよ。 で、いろいろと問題化をしてて、暴動とかが起こったりしてるところなんですけれども。 それがその『レ・ミゼラブル』というタイトルにしたのは、『レ・ミゼラブル』はその頃……150年前もそこは貧しい人たちがいっぱいいたわけですよ。 で、それは今も変わってないんだっていうことなんですね。 この映画が言っているのは。 (赤江珠緒)うんうん。 (町山智浩)でね、この映画の監督のラジ・リさんという方と僕、トロント映画祭で会って。 僕、フランスについて全然知らないから「この映画の背景とかはどういう状況なんですか?」っていうことをいろいろと詳しく聞いたので、その話をしていきます。 で、これラジ・リ監督自身もアフリカのマリという国から来た移民の二世なんですよ。 40歳なんですけども。 で、彼自身に実際にあったことを元にした映画がこの『レ・ミゼラブル』なんですね。 それでこれね、映画自体の主人公は警察官で、犯罪防止班というパトロール部隊があるんですね。 で、それがそのモンフェルメイユのアフリカ系移民が多いところをぐるぐる回って、犯罪が起こるのを事前に防ごうとしてるんですよ。 (赤江珠緒)うん。 (町山智浩)ところが彼らは非常に暴力的で、子供とかが悪いことをしそうだと「この野郎!」って言って暴力を振るったりするような連中なんですね。 (赤江珠緒)ああ、街のお巡りさんみたいな人たちが? (町山智浩)はい。 で、特にそこに新しく入ってきたステファンという人が主人公に近い形になっていて。 その警官たちの移民に対する態度があまりにもひどいんで、もう辟易するっていうところから始まるんですね。 で、そこでそのジプシー……昔は「ジプシー」って言っていたんですけども、今は「ロマ」という呼び方をされている人たちがいるんですね。 ルーマニアの方から来た人たちで。 それでそういう人がフランスには昔からいっぱい住んでますけども。 大道芸とかサーカスをやってるんですよ。 ロマの人たちは。 で、そのサーカスからアフリカ系の子供がいたずらでライオンの赤ちゃんを盗じゃうんですよ。 (山里亮太)ほう! ロマとアフリカ系住民の間の緊張が高まる (町山智浩)それで、ふざけていたずらでやったんですけど。 それがきっかけでロマの集団とアフリカ系の人たちとの間で抗争が起こりそうになるんですね。 で、その移民の人たちの間には派閥がいくつもあって。 イスラム同胞団の非常に厳しい戒律のイスラム教徒もいれば、そうじゃないアフリカ系の人たちもいて。 ロマの人たちもいて。 アフリカ系でもまた細かく、白人系のあのアフリカ人……だからモロッコとかアルジェリアの人たちもいるし。 すごく細かく分かれているんですよ。 で、それぞれが一種、自治組織みたいなものを作って。 一種のギャングみたいな形で自治をしてるんですね。 (赤江珠緒)はい。 (町山智浩)で、抗争にし発展しそうになるんです。 そのライオン泥棒事件がきっかけで。 (赤江珠緒)ちょっと子供いたずらみたいなのがきっかけで。 (町山智浩)そう。 子供いたずらなんだけど、「ふざけんじゃねえよ!」みたいな話になっていくんですね。 で、みんなやっぱりピストルとか持ってたりもするんでね。 それでそのお巡りさんの犯罪防止班がまさに犯罪防止の仕事として、その子供を見つけてライオンを奪い返そうとするんですよ。 ところがその時……子供を見つけた時にですね、思わずちょっとしたアクシデントで暴徒鎮圧銃というね、死なないんですけども当たると気絶する銃があるんですね。 それを子供に撃っちゃうんですよ。 で、子供はそこで気絶しちゃうんですけども、そのその現場がドローンで撮影されていたんですよ。 (赤江珠緒)ほうほうほう……。 (町山智浩)で、その撮影されてたビデオが流出したら、ネットとかに載った途端に絶対に大変なことになる。 自分たち警察官もクビになるかもしれないし、それだけじゃなくて大暴動になる可能性がある。 警官の暴力に対して。 だから今度はそのドローンのビデオを何とか見つけて隠滅しなければならないという話になってくるんですね。 (赤江珠緒)今の時代ならでのところがまた重なってくるんだ。 (町山智浩)そうなんですよ。 で、これで面白いのはこのビデオを撮っているのは少年なんですね。 男の子なんですよ。 メガネをかけたアフリカ系の黒人のハイテクで映画が大好きなまあオタクくんなんですよ。 それで彼が撮ってしまって。 その大変なそのビデオがフランス全体を揺るがすかもしれないということでビビりまくるんですけども。 追われてね。 で、この話は事実に基づいていて。 このラジ・リ監督自身がそうやってビデオを撮っていた人なんですって。 (赤江珠緒)ええーっ! ラジ・リ監督自身を投影 (町山智浩)この人はモンフェルメイユの貧しいところでアフリカ移民の子として生まれて。 で、子供の頃からビデオカメラを持って、街じゅうのその貧しい人たちの生活を撮っていたんですけれども、途中から警官の暴力を撮るようになったんですよ。 (赤江珠緒)はー。 それはちゃんと告発目的みたいなのがあって? (町山智浩)最初は偶然撮れたらしいんですよ。 聞いたら。 ただそれが非常に大きな事件になって、映っていた警官が懲戒免職されるみたいな事件になったらしいんですよ。 彼はその頃、まだ10代とかだったらしいんですけども。 で、その後、2005年にやはり警官の暴力で……というか、警官に追われたアフリカ系とアラブ系の少年が変電所の中に逃げ込んで、それで感電死するという事件が起こったんですね。 (赤江珠緒)うわあ……。 (町山智浩)で、これは大暴動になりまして。 もうその地域だけじゃなくて、フランス全域に広がる移民の大暴動になって。 それが何日も続くというフランスという国自体が非常事態宣言するような事態にまで追い込まれたんですよ。 それも、このラジ・リ監督はその時にずっとビデオ回してその暴動の様子とか警官の暴力とかを撮りまくって。 それをドキュメンタリーにまとめてこの監督は世間に出てきたっていう人なんですね。 だからその彼にとってはこの映画の中で、そのドローンで映画を撮る映画オタクの少年は彼自身なんですよ。 で、それを自分の息子が演じてるんです(笑)。 (赤江珠緒)ええーっ! (町山智浩)だからね、すごくそこのところがその映画オタクの男の子の話っていうところでね、すごく親近感を覚えるんですけど。 これにすごく似てる映画があって、これは2002年にブラジル映画で『シティ・オブ・ゴッド』っていうかがあったんですよ。 それはブラジルのリオデジャネイロのスラム街で子供たちが人を殺しまくる実態を描いてる映画なんですけど。 その中で1人のオタクの男の子だけはそれを写真に撮りまくってるんですね。 それでみんなが人殺しとかをしてるんだけど、彼だけはどうもそういうことは嫌で。 ただそれを写真に撮りまくることで彼の戦いをしていくというちょっといい話が『シティ・オブ・ゴッド』なんですけども。 これも日本でも大ヒットしましたけど、それに非常に近い感じなんですね。 この映画では。 で、この『レ・ミゼラブル』って映画は実はカンヌ映画祭とアカデミー賞でポン・ジュノの監督の『パラサイト』の二番手にずっとついていた映画なんですよ。 (赤江珠緒)へー! 『パラサイト』の二番手だった作品 (町山智浩)だからね、敵が強すぎたんですよね。 『パラサイト』がなければたぶんこれ、アカデミー賞の外国語映画賞、国際映画賞とカンヌ映画祭でもグランプリを取れてただろうと。 カンヌ映画祭では審査員特別賞を取っているんですけども。 もう全部グランプリをね、『パラサイト』に抑えられちゃったからね。 すごくかわいそうだったんですけど。 『パラサイト』がなければたぶんどっちも取ってたと思いますけども。 (赤江珠緒)そうですか。 (町山智浩)だからすごくパワフルな映画で、基本的にはアクション映画に近いんですよ。 その3人の警官が最初はいたずらでライオンを盗んだを追いかけてたんですけども、途中からそのドローンを探さなきゃならないっていうことになって。 それでいろんなギャング集団がいる中をうまく立ち回りながら、暴動が起きたり抗争が起きたりしないようにするってい1日を描いてるんですね。 (赤江珠緒)ふーん! うん。 (町山智浩)だからすごく面白くて。 この監督に「あなたは移民として警察官に暴行される側だったし、それを告発した監督なのに、なぜ警察官たちを主人公にしたんですか?」って聞いたら、「警察官ももうすでに移民なんだよ」って言うんですよ。 (山里亮太)はー! (町山智浩)この3人の警察官のうちの1人はそのモンフェルメイユで育ったアフリカ系移民の子供なんです。 もう既に警官もそうなっているんだ。 その中で白人だの何だのっていう問題でもなくなってる。 彼らは警察官として何とかその暴動とかを起こらないようにしたいんだ。 頑張ってるだけなんだけども、どうしても暴力的になっちゃう。 要するに、彼もまた暴力の中で育ってきてるから。 だからすごく日本でも昔、「ヤクザになるか警官になるか」っていうので、同じような人がなったりするんですよね。 (山里亮太)そんな時代が? (町山智浩)あったんですけども。 それに非常に近いんですよ。 アメリカでもロサンゼルスのサウス・セントラルの地域は警官になるかヤクザになるかっていう。 だから、分けにくいんですよ。 同じような人がたまたま警官になったり、たまたまギャングになったりしているんで。 (赤江珠緒)ああ、線引きがしにくい街というか。 (町山智浩)線引きがしにくい世界。 そうなんですよ。 善と悪をはっきり分けられない世界なんですよ。 (赤江珠緒)うん。 塚田桂子と渡辺志保 ロサンゼルスのギャング事情を語る (塚田桂子)地区の自治会みたいな感じで、「ここに住んでいるから、これ」みたいな。 割り振りみたいな感じで彼も自動的にギャングのメンバーになっていて。 (渡辺志保)「町内会のお神輿担当ね」みたいな感じ? — みやーんZZ miyearnzz (町山智浩)そのへんもね、すごくリアルで。 一方的に「警官が暴力的で悪い」とか、そういう映画になってないんですよね。 彼らも彼らなりに頑張ってるんだけど、うまくいかないというところのリアリティーとかね。 それでドキュメンタリータッチなんで、本当にその現場にいるような、そのパトカーに乗せられてるような感じとかがね、すごいリアルに出てて。 結構フランスでも郊外って、フランスに行く日本人でも行かないと思うし。 それでほとんどのフランスの郊外のアフリカ系の人が多いところの状況って日本でも知られないですよね。 (赤江珠緒)たしかにそうですね。 (町山智浩)全然わかんないと思うんですよ。 でもそれが分かるとやっぱりテロがあったりね、暴動があったりする時にその背景が分かってくるという感じなんですよね。 だから滅多に見ないものですよ、これは。 でね、ただその対立であったり暴動であったり、その移民の人たちの犯罪というものはじゃあどうすればいいのかというところにひとつ、ラジ・リ監督はものすごくポジティブなメッセージも出していて。 この映画はね、一番最初に2018年のサッカーワールドカップでフランスが優勝した時に撮影した映像から始まるんですね。 (赤江珠緒)はい。 (町山智浩)それは、そのフランスのワールドカップ優勝というのは、そのフランス代表の選手の中に移民の人たちが多いんですよ。 フランスのサッカー選手は移民の人たちが昔から多いですけど。 だからそのフランスの国旗を掲げて、「フランス万歳!」っていう人たちがみんな黒人なんですよ。 この映画の中では。 その彼らはフランス人なんですよ。 で、ラジ・リ監督が言うには彼らの中には全く自分たちがセネガル人であるとか、コートジボワール人であるとか、そういう意識は全くないんだと。 (赤江珠緒)もうアイデンティティはフランス人なんだと。 パリの郊外、たしかにアフリカ系の人いっぱいいるよなー。 サッカーのフランス代表の人でそこらへん出身の人たくさんいるはず。 フランスしか知らないし。 で、「彼らはフランス人であり、フランスを愛していて。 ワールドカップの時にはもうフランスを応援して『フランス万歳!』と言う。 そこに救いはないだろうか?」って言ってるんですね。 「その時はフランス人としてみんなで喜べるのに。 ところが家に帰るとそこにはアフリカ系の人しかいなくて、白人と話すこともない。 それで対立が進んでいく。 憎しみであったりそういったものが進んでいく。 これはどうにかならないのか? そのワールドカップの優勝の時みたいにひとつになれないんだろうか」という映画になってるんですよ。 (赤江珠緒)ああー。 (町山智浩)でね、『レ・ミゼラブル』っていうタイトルだけじゃなくて、その『レ・ミゼラブル』から引用をしてて。 『レ・ミゼラブル』ってジャン・バルジャンって元々本当はいい人なのに、貧しさの中で泥棒になっちゃって。 でもまたいい人に戻るっていう話じゃないですか。 それでその中で植物についての話が出てきて。 植物を育てている人とかも出てきてね。 それで「植物にいい植物とか悪い植物ってあると思うかよ? 植物がうまく育たなかったら、それは育て方が悪かったんだ」というセリフが出てくるんですよ。 それがこの映画の中でも引用されてて。 「移民だだろうと何だろうと、元々悪い人なんていないだろう。 なぜそんな犯罪とかになってしまうのか?」というのをその『レ・ミゼラブル』の頃から考えてほしいという話になってるんですが。 (赤江珠緒)そうか……。 (町山智浩)あのね、後半にすごいことになっていくんですけど。 ちょっと予想もつかなかった展開になってきて。 まあジョン・カーペンターという監督は昔作った『要塞警察』という映画があって……あ、これ以上言うとネタがばれるんですが。 ものすごいことになっていくんですよ。 スケールが急に拡大していって大変なことになっていくんですが、そのへんの恐怖描写というかですね、パニック映画的な迫力とかもすごいんで。 ちょっとね、「『レ・ミゼラブル』ってそれ、あれでしょ? ミュージカルでしょ?」と思う人はね、ぜひこれを見ていただきたいなと思います。 (赤江珠緒)そうか。 『ああ無情』のあの場所でまだそういうことが起きているんですね。 (町山智浩)今現在のフランスの問題なので。 2月28日から新宿武蔵野館ほかで公開です。 (赤江珠緒)はい。 Bunkamuraル・シネマほかですね。 町山さん、ありがとうございました。 (町山智浩)どもでした!.
次の(町山智浩)ソウルはいま、不動産価格は東京より高いぐらいになっています。 だからマンションの平均価格が7800万円だから、ソウルは東京よりも高いですよね。 (赤江珠緒)ええっ? そうですか。 (町山智浩)だからその半地下から抜け出せない人がいっぱいいるんですね。 で、最悪なのが排水の問題で。 韓国では日本と同じで洪水が連続して起こっているんですよ。 地球温暖化の影響で。 (赤江珠緒)ああ、気象状況がね。 (町山智浩)もう次々と起こっていて。 2001年にも2008年にも起こって。 なんかもう5年おきぐらいにものすごい洪水がソウルで起こって。 それで地下に浸透しないもんだから雨水が全部半地下の方に流れ込んでくるんですよ。 (赤江珠緒)怖っ! 冠水どころの騒ぎじゃないですね。 ソウルでのその都市水害での問題は大問題になっているんです。 特にこの半地下があるところというのは、街でもいちばん山の手ではなくて下町のいちばん安いところにあるので。 そこに全部洪水が流れ込んじゃうんですよ。 36万人以上だそうです。 (赤江珠緒)そんなにも! (町山智浩)そう。 だけど、お金持ちのパク家っていうのはもう丘の上に住んでいるんですよ。 彼らはどのくらい金持ちかというと、まず犬に人間の食べ物を与えているだけじゃなくて、お手伝いさんに「インスタントのジャージャー麺を作って」っていう風に言うシーンがあるんですよ。 「でも、サーロインステーキも入れてね」って言うんですよ。 インスタント麺にサーロインステーキを入れているんですけども。 それぐらい、その格差ができてしまっているんですね。 で、その金持ちの家はIT企業のCEOなんですよね。 これは、この間僕が『たまむすび』で紹介した『国家が破産する日』という映画の後、韓国はこういう社会になってしまったんですよ。 (赤江珠緒)はー! (町山智浩)あれは1998年に国際通貨基金、IMFが韓国を指導して構造改革をやったんですよね。 それは大規模なリストラと非正規雇用の拡大と大企業の優遇なんですね。 で、中小企業は全部潰れて、それから20年経ってますから格差がものすごく拡大しちゃったんですよ。 で、いわゆる輸出系の大企業……サムスンとかヒュンダイとかLGとかにどんどんとその富が集中して行って。 で、もう就職に関してはほとんどコネ就職だけになっちゃったんです。 で、金持ちの家でないと勉強ができても、よっぽどできない限り大企業には入れない。 で、大企業以外の中小企業がなくなっていて、正規雇用の減っているから、もうみんな貧乏です。 (赤江珠緒)うーん……なんかどこもかしこも似たような話が起きちゃってますよね。 (町山智浩)全くそうなんですよ。 91万円対13万円ってどんだけ酷いの、これ? だからこの『パラサイト』っていう映画は全くその韓国の状況をわかりやすく描いているんですね。 半地下に住んでる人たちと丘の上の大金持ちたちとを。 だからこれ、半地下に住むしかないという人たちがいっぱいいるわけですよ。 (赤江珠緒)うんうん。 だからこれね、「こんなところになんで住んでいるの? 働けばいいじゃん」って思うんですけども、働いても働いてもワーキングプアなんですよ。 で、この映画の中で何度もその息子がですね、「プランはあるの? なんかプランを考えなきゃ!」って言うんですね。 「ここから脱出するプランは?」とか「彼らのところに潜入するプランは?」って言うんですけども、このソン・ガンホ扮するお父さんは「プランなんかないよ」って言うんですよ。 (赤江珠緒)ないの? (町山智浩)「何かを計画したって、どうせうまくいかないから」って言うんですよ。 (山里亮太)諦めちゃっているんだ……。 (町山智浩)そう。 僕ね、この間、ポン・ジュノ監督に会って話を聞いたんですけども。 「あのセリフは強烈だ」っていう風にポン・ジュノ監督は言っているんですよ。 というのは、韓国人というのは……まあ日本人もそうですけども。 「とにかく勉強して、一生懸命真面目にやっていい大学に入っていい会社に入れば、結婚して家も建てて子供も持てて。 豊かな生活、豊かな老後を送れる。 その人生の大きな計画通りに生きろ」っていう風に教えられてきた。 それによって韓国の高度成長っていうものは成り立ったんですね。 日本でもそうでしたよね。 とにかく勤勉。 ところが1998年以降にそれが成立しなくなっちゃったんですよ。 (赤江珠緒)そうか。 それってもう「希望がない」っていうことですもんね。 何か計画をしてもしょうがないっていうのはね。 (町山智浩)そう。 いくら勉強したところで、真面目にやったところで、金持ちになれない。 将来は全くわからないという状況になっちゃっているんですね。 だから「計画しても無駄だ」って言うんですけども。 で、なぜポン・ジュノ監督は韓国でこの映画を作ろうと思ったかっていうと、いま韓国では若者たちが「三放世代」って言われているんですよ。 まず、恋愛と結婚と出産を諦めたという。 で、そこからさらに進行して、さらに正規雇用と家を持つことを諦めた。 だから5つを諦めているので「五放世代」っていうことですね。 ところがその後にはさらに、人間関係。 友達を持つこと。 つまり、非正規雇用で働いているから、忙しくて友達なんかできないんですよ。 だから友達を持つことも諦めて。 会社で正規雇用で入れないから、同僚も持てない。 どこに飛ばされるかわからない。 派遣だから。 で、友達を持つことともうひとつ、夢を諦めたので「七放世代」とまで言われているんですよ。 (赤江珠緒)うわあ……どんどん悪化していますね。 (町山智浩)どんどんと悪化していて、もう大変な事態になっている。 で、だからね、左派の野党だったムン・ジェイン政権がいま、成立したんですよね。 で、ムン大統領は「最低賃金を世界基準にする。 (赤江珠緒)そうですね。 高かったんですね。 (町山智浩)だからその三放世代から支持をされたんですけど、実際にやってみたら全く状況はよくならないんです。 (赤江珠緒)ならないのか……。 (町山智浩)ならないんですよ。 というのは、中小企業がその最低賃金だと会社を維持できないんです。 お金が全然儲からないから。 だから逆に雇用が減っちゃったんです。 それで中小の企業も潰れてしまった。 (赤江珠緒)じゃあもっと上から流さなきゃいけなかったということなんですか? (町山智浩)それもあるんですけど、上の方に行ったらダメなんですよ。 下から上げなきゃダメなんですよ。 (赤江珠緒)大企業が下にもっとお金を流すように……。 放送で僕が「上の方に行ったらダメなんですよ。 下から上げなきゃダメ」と言ってるのは、大企業や富裕層に高く課税して貧困層への福祉や教育に回しすんです。 戦後の日米英韓はそうして中流を大きくしたんです。 もちろん消費税は贅沢税だけにして、正規雇用も増やすんです。 — 町山智浩 TomoMachi (町山智浩)下から行かなきゃダメ。 下から持ち上げなきゃいけないんだけども、要するに中小企業自体がお金がないわけだから。 だからね、この中で半地下よりも低いレベルの人が出てくるんですよ。 彼らはもう努力を諦めて、金持ちからのおこぼれだけを期待して、その富裕層を神のようにリスペクトする人たちとして出てくるんですよ。 (赤江珠緒)えええっ……。 (町山智浩)すごい状況になっていて。 ただね、ポン・ジュノ監督に会った時に彼が言ったのは、「この映画を作っている時に是枝裕和監督の『万引き家族』を見てちょっとびっくりした。 テーマが非常によく似ている。 貧困のどん底にいる家族たちが非常に不正な手段でなんとか生きていこうとする話だったんで」っていう。 「それでこの映画ができた後、これもたまむすびで紹介したジョーダン・ピール監督の『アス』という映画をびっくりした」という。 それは貧困層におかれている家族が暴力で金持ちの家を乗っ取ろうとする話で。 (赤江珠緒)そうだ。 (町山智浩)すごくよく似た映画がこの『パラサイト』の前後に作られているわけですけど、そのポン・ジュノ監督は「これは僕らがつるんでいるわけじゃないよ」って言っていたんですよ。 世界各国で似たよううな作品が作られる (赤江珠緒)そうなんですよね。 だって町山さんが前に紹介してくださった『家族を想うとき』という作品もそんな話でしたもんね。 (町山智浩)そうなんですよ! 『家族を想うとき』の監督はケン・ローチっていうイギリスの監督なんですが。 彼がその前に撮った『わたしは、ダニエル・ブレイク』という映画もやっぱり貧困家族がなんとか生き延びようとするという話なんですね。 貧困の人たちが家族を形成して。 で、そっちもカンヌ映画祭でグランプリを取っていて、『万引き家族』もカンヌ映画祭のグランプリ。 で、この『パラサイト』もカンヌ映画祭でグランプリ。 3年連続で貧困家族の話なんですよ。 グランプリが。 (赤江珠緒)示し合わせたわけでもないのに、世界のあちこちでいろんな監督がこれを取り上げざるをえない題材になっているということですね。 (町山智浩)そういうことなんです。 それと、この監督たちはさっき言ったみたいに、ケン・ローチがイギリスの人なんですよ。 で、ジョーダン・ピールはアメリカで是枝裕和監督は日本、ポン・ジュノは韓国なんですけども。 この4ヶ国に共通することがあるんですよ。 それは、貧困率の高さなんですよ。 貧困率はアメリカが17. 8%、イギリスが11. 1%、韓国が17. 6%、日本は15. 7%なんですよ。 これ、先進国ですよ? だからこの4ヶ国から似たような映画が出てきたんです。 世界の貧困率 国別ランキング・推移 — みやーんZZ miyearnzz (赤江珠緒)そうか……。 (町山智浩)それで貧富の差を表すジニ係数は韓国が0. 36、日本が0. 34、イギリスが0. 35、アメリカが0. 39なんですよ。 先進国の中でこの4ヶ国が最悪の状況なんですよ。 (町山智浩)そうなんです。 まあ、これは大変なことになっているなと思いますけども。 ゲラゲラ笑って、ゾッとするんですよ。 で、最後は非常に論争を呼ぶ終わり方になっているので、見た後でみなさんで話し合うといいと思いますけども。 で、この映画は2020年1月10日公開です。 で、僕はポン・ジュノ監督にインタビューしてきて、それがいま掲載されている雑誌があるので。 それをプレゼントします。 『週刊文春エンタ! 』という雑誌でローソンだけで売っているんですけども。 これを5名様にプレゼントします。 (プレゼント情報は割愛します) (山里亮太)見たいな、これ。 (町山智浩)これは面白いですよ。 (赤江珠緒)これがまた中身の濃い映画で……。 (町山智浩)もうこれは今年のベスト3に入りますね。
次の