これまでの近鉄の特急列車とはまったく違う、真っ赤な外観が沿線の人気の的だ。 近鉄特急の基調カラーともいえるオレンジと白ではなく、「メタリックレッド」を採用した。 選定に当たっては赤以外の色も検討したが、青は伊勢志摩への観光特急「しまかぜ」が使っており、「スピード感があり、先進的な色という理由でメタリックレッドに決まった」と近鉄鉄道本部の深井滋雄・技術管理部長が明かす。 売りは「快適さ」 ライバルは新幹線と高速バスだ。 新幹線なら所要時間は50分程度。 料金は高速バスなら2000円台で乗れる。 つまり、スピードを重視する人は新幹線を、安さを重視する人は高速バスを選ぶ。 そこで、ひのとりはスピードでも料金でもなく、「快適さ」を売り物とした。 コンセプトは「くつろぎのアップグレード」である。 プレミアム車両は全席3列シートで、前後の間隔は130cmある(撮影:ヒラオカスタジオ) ひのとりの魅力を際立たせるのは、両端の先頭車「プレミアム車両」だ。 車内は全席3列シートで、通常の4列の列車に比べて横がゆったりしているだけでなく、前後間隔も130cmと、東北新幹線や北陸新幹線の「グランクラス」並みに広がった。 現在の名阪特急で主力の「アーバンライナー」よりも25cm広い。 シートにはバックシェルが採用された。 「後ろに座っている乗客が気になり、座席の背もたれをめいっぱい倒せないという声に配慮した」と、深井部長は話す。 シートの生地は本革が使用され、電動リクライニング、電動レッグレストなどの設備も搭載された。 まさに在来線のグランクラスといってよい。 これらのシートにはヒーターも設置されている。 「座っているうちに腰のあたりが暖かくなる」(深井部長)というきめ細かな配慮が施されている。 プレミアム車両は通常より床面の高いハイデッカー構造となっており、前面、側面の大きなガラス越しの眺望も抜群だ。 ただ、その構造上、客室に入るためには階段がある。 バリアフリーの面では改善の余地がある。 「レギュラー」もグリーン車並み 通常の「レギュラー車両」の快適性も高めた。 シートの前後間隔は従来の車両より11cm広い116cmで、新幹線のグリーン車並みだ。 レギュラー車両のシートにもバックシェルを採用している。 2両あるプレミアム車両のデッキには「カフェスポット」が設けられた。 コーヒーサーバーがあり、1杯200円でコーヒーが買えるほか、スナックの自動販売機も設置している。 最近、新幹線を中心にコーヒーの車内販売を取りやめるケースが増えているが、コーヒーサーバーがあれば、豆を挽き立てのコーヒーの味と香りが楽しめる。 今回のケースがきっかけとなって、コーヒーサーバーを設置する列車が増えるかもしれない。 目に見えない部分では、無線LANによるインターネット接続にも力を入れた。 無料Wi-Fiを提供する列車が増えているが、いざ使ってみると、容量不足のせいかつながりにくいケースも少なくない。 深井部長は「その点についても考慮した」と話す。 さすがに乗客全員が動画を視聴したらつながりにくくなるだろうが、快適なネット環境が確保されていることを期待したい。 車内の快適度が増した分だけ、料金は若干の引き上げとなった。 利用者にアンケートをとって、「これくらいの値段なら乗ってくれるという設定にした」という。 定員は減っても快適性を 一方で、シートの前後間隔を広げた分、列車の定員数は名阪特急から退く12200系6両編成と比べて減った。 ひのとりのプレミアム車両の1両当たりの定員は21人、レギュラー車両は多目的トイレの有無などによって車両ごとに定員数が異なるが、40〜52人。 6両編成の場合の定員は239人となっている。 12200系6両編成の定員は400人近いので、大幅な定員減となる。 「定員の減少については、社内でも抵抗があった」と深井部長は明かす。 もっとも、利用者数が多い状況で定員が減ると利便性が下がるが、おそらく現状の名阪特急の利用状況は定員数の変化に影響されないレベルなのだろう。 むしろ、老朽化の目立つ12200系が快適性に優れたひのとりに置き換わることで、乗ってみようと考える人は増える可能性がある。 さらに言えば、239人分の上乗せ料金を合計すれば数十人分の運賃・特急料金に見合う。 従来、名阪特急を使う理由として、「大阪の南部から名古屋に向かう場合、新大阪に出る手間を考えると、名阪特急のほうが楽だ」という声があったが、それだけが名阪特急の存在意義ではない。 最近の観光列車の中には、「乗ること自体が目的となる」をコンセプトにしている列車が多い。 ひのとりは観光列車ではなく、都市間移動を目的とした列車だが、「わざわざ乗ってみたい」と思わせるだけの実力を秘めている。 外部サイト.
次の試乗会に参加した「鉄道チャンネル」華やか部門の二人から 「ひのとり」がいかに素晴らしいかという話を聞き及んでいたのですが、このご時世、大阪や名古屋へ出向くわけにもいかず……そんな折に「N700S」取材で久々に新大阪を訪れたので、この機を逃すわけにはいかぬと思いたち「ひのとり」で帰ることにしたのです。 html 「ひのとり」ってどんな車両? 「ひのとり」は今年3月14日(土)にデビューした近鉄の新型特急車両。 大阪と名古屋をつなぐ名阪特急の新たな担い手として、2021年度末までに11編成72両が新造・投入される予定です。 大阪~名古屋間の移動に関しては東海道新幹線と近鉄の名阪特急が競合しており、速さの東海道新幹線に対し安くて快適な近鉄特急という構図になっています。 2020年はJR東海が「のぞみ12本ダイヤ」や「N700S」の投入で輸送品質の向上を図り、一方の近鉄は「ひのとり」で対抗するという流れでした。 料金や所要時間を具体的に比較してみましょう。 「ひかり」指定席なら6,470円、「のぞみ」指定席なら6,680円。 所要時間は「のぞみ」なら約50分。 一方の「ひのとり」は大阪難波~近鉄名古屋間を約2時間8分で移動。 従来の近鉄特急が4,340円、デラックスシートで4,860円であったことを考えると若干割高になりましたが、過去のリリースや乗車体験記を読むに座席や車内設備に相当力を入れていることが分かります。 もちろん大阪~名古屋間の移動なら新快速を乗り継いでいく手もありますし、高速バスなら更に安い。 名阪特急は名阪間における様々な移動手段の中でも、グレードの高い選択肢として位置付けられているとみて良いでしょう。 その実力のほどを拝見しようじゃないの……ということで「プレミアムシート」に乗ろうと思ったのですが、残念ながら当日の「窓側の席」は満席。 というわけで今回はレギュラーシートに乗ります。 「ひのとり」コーヒーは200円。 お湯は無料。 コーヒーの提供時間はおよそ40秒。 普段泥水のようなコーヒーしか飲まない味音痴なので「セブンイレブンのコーヒーとあんまり変わらなくない?」という印象を抱いてしまったのですが、普通に美味しいですし、車内で買えるコーヒーというのはそれだけで100円の差額を払う価値のあるもの。 記念に一杯買っていきましょう。 その対面にはICカードロッカーがあり、ICOCAやPASMOを持っていれば無料でロッカーが使うことも。 こういう設備があることは知識としては知っていたのですが、改めてこの贅沢なサービスを目の当たりにするとちょっと真顔になりますね。 治安の悪いインターネットの住民が見たら「福利厚生じゃん、こんなの……」と呟くレベル。 その感触が腰に残っている状態で座ればさすがに見劣りするんじゃないかな……と思いながら「ひのとり」レギュラーシートに腰を落ち着けたところ、あまりの快適さに一歩も移動したくなくなってしまいました。 リクライニングした瞬間がすごいんですよ、ひのとり。 座面の先端が浮く。 膝のあたりがほんの少し持ち上げられて快適な乗り心地になってる。 しかも全席バックシェルなので後ろの人を気にせずにリクライニング出来る。 もちろん「N700S」の座席も素晴らしいのですが、ひのとりのシートからは速度で劣り快適さに賭ける近鉄特急が座席の質で負けるわけにはいかない、というプライドが伝わってきます。 腰とかに。 もちろん、サービスは座席の質によってのみ決まるものではありませんが、レギュラーでこれならプレミアムシートはグランクラスを余裕で超えていくんじゃないのか?と期待が膨らみますね。 ちなみに座席の背面には傘などをかけられるフックも搭載。 これは「N700S」の普通車にも装備されていて、全席コンセント・Free Wi-Fiなどともに令和の標準装備みたいな感覚がありますね。 雨の日は傘の置き場に困ることもたびたびですが、このフックは柄を引っ掛けて固定するのに大変使いやすくて便利でした。 びっくりするほど揺れない。 ひのとりの静けさと揺れなさは「リクライニングチェアでくつろいでいると窓の外の画面が勝手に切り替わっていく」イメージです。 あまりの揺れなさに「電車に乗っている」ことを忘れてしまうほど。 もちろん、新幹線だって揺れる乗り物じゃありません。 記者が生まれる前の話ですが、東北新幹線の試運転では「タバコが立つ」と噂になったそうで。 長野新幹線や北陸新幹線では「コインが立つ」という話もあります(実際試したことはないのですが……)。 「N700S」だって揺れの大きい車両にはフルアクティブサスペンションを備えています。 それでも乗り比べてみると「『ひのとり』はいいぞ」になってしまう。 大阪難波から近鉄名古屋まで2時間ちょっと。 しかも料金は「のぞみ」で行くのとさほど変わりない。 もっと安い移動手段も充実している。 いずれは「ひのとり」プレミアムシートと「グランクラス」で乗り比べをしてみたいものです。 文/写真:一橋正浩.
次の広告 「アーバンライナー」を置き換え 近鉄の名阪特急は大阪難波~近鉄名古屋間を約2時間で結ぶ全席座席指定の有料特急で、同社の看板列車です。 現在は、「アーバンライナー・ネクスト」「アーバンライナー・プラス」の車両で運行しています。 近鉄では、これを置き換え、新たに新型車両「ひのとり」を投入すると発表しました。 運行開始は2020年3月14日です。 近鉄が名阪間に新たな特急車両を投入するのは、「アーバンライナー・ネクスト」が投入された2003年以来、17年ぶりです。 画像:近畿日本鉄道 全座席「バックシェル」 新型車両の形式名は「80000系」で、「ひのとり」は愛称です。 スピード感ある車体フォルムや、メタリックレッドの外観デザインが特徴。 ゆったりとして気品ある車両のイメージを、翼を大きく広げて飛翔する「ひのとり」に重ね合わせて命名しました。 「ひのとり」は、プレミアム車両とレギュラー車両を備えます。 鉄道車両としては日本初の全座席で「バックシェル」を装備。 後部座席にはみ出さず、気がねなくリクライニングできます。 広告 客席仕様は? プレミアムシートは2人掛けと1人掛けの横3列の座席配置。 ハイデッカー構造で大型ガラスを使用したことにより、広い眺望を確保しました。 画像:近畿日本鉄道 画像:近畿日本鉄道 シートには本革を使用。 座席の前後間隔は130cmあり、日本の鉄道座席で最大級です。 電動リクライニング、ヒーター、コンセント、読書灯などを備えます。 車両には横揺れを低減するフルアクティブサスペンションを設置し、乗り心地も改善しました。 画像:近畿日本鉄道 レギュラーシートは2人掛けが2列の横4列で、一般的な優等車両の配置です。 レギュラーシートでも座席の前後間隔は116cmあり、新幹線のグリーン車並み。 フットレストやテーブル、コンセントなどを備えます。 画像:近畿日本鉄道 広告 無料Wi-Fiも提供 車内にはサービス設備として多目的に使えるベンチスペースや、コーヒーサーバーなどを設置したカフェスポット、ロッカーなどの大型荷物置き場を用意。 喫煙室は1箇所設けます。 無料Wi-Fiも提供し、全客室に空気清浄機ナノイーを装備します。 ベンチスペース。 画像:近畿日本鉄道 カフェスペース。 画像:近畿日本鉄道 トイレは温水洗浄便座とベビーチェアを設置。 多目的トイレにはチェンジングボードやベビーベッド、オストメイト対応設備を配備しています。 セキュリティ対策として、客室やデッキ、大型荷物置き場には防犯カメラが取り付けられます。 客室両端の上部には大型液晶ディスプレイを2画面設置し、乗換案内などを4ヶ国語で情報提供します。 関連記事 11編成72両を投入 6両編成が8編成と、8両編成が3編成の全11編成72両を投入します。 先頭車両がプレミアム車両で、中間車両がレギュラー車両です。 6両編成の場合、1号車と6号車がプレミアム車両、2~5号車がレギュラー車両です。 8両編成の場合は、中間車両が2両増えます。 編成定員は6両編成が239人、8両編成が327人です。 画像:近畿日本鉄道 現行アーバンライナー21000系は6両が306名、8両が414名なので、定員は約2割も減少します。 シートピッチをゆったり取って、全席バックシェルシートにした結果でしょう。 運行開始時は6両編成3本でスタートし、2020年度中に6両編成5本、8両編成3本を増備し、投入を完了します。 料金は? 定員が減ったことにより、特急料金は値上げとなります。 「ひのとり」には特別車両料金が設定され、難波~名古屋間の場合、プレミアム車両で900円、レギュラー車両で200円が加算されます。 プレミアム車両の特別車両料金は、アーバンライナーのDX車両より380円高く設定されています(消費税増税後の比較)。 運賃とあわせた大人1人の総額(運賃・料金合計)は、難波~名古屋で、プレミアム車両が5,240円、レギュラー車両が4,540円となります。 価格的には、「新幹線より安く、高速バスより高い」という水準です。 「速さよりも、安さよりも、快適に移動したい」という人をターゲットにした列車といえそうです。 画像:近畿日本鉄道 画像:近畿日本鉄道.
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