65歳から支給される老齢基礎年金には「満額」という言葉があります。 国民年金は20歳から60歳までの40年間が強制加入の期間になりますが、40年間すべて国民年金保険料を支払うと、65歳から満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。 ところで、老齢基礎年金の満額は年度ごとに変わってきます。 老齢基礎年金の満額の決まり方については後でご紹介するとして、まずは2019年度と2020年度の満額をお伝えしたいと思います。 老齢基礎年金の満額 2019年度 780,100円 月額65,008円 2020年度 781,700円 月額65141円 2019年度と2020年度を比較すると、2020年度 令和2年度、2020年4月~2021年3月 の老齢基礎年金は年額1,600円 月額133円 の引き上げ。 率にして0. 2019年度と2020年度を比較すると、ほんの僅かですが老齢基礎年金の満額は引き上げられています。 Contents• 老齢基礎年金の満額はどのようにして計算するの 老齢基礎年金の計算式は次のとおりです。 では、この分子に入れることができる月数とはどのようなものでしょうか。 国民年金法上、被保険者は3つに分類することができます。 国民年金第1号被保険者 20歳以上60歳未満で第2号・第3号以外の人 国民年金第2号被保険者 厚生年金に加入する20歳以上65歳未満の人 国民年金第3号被保険者 20歳以上60歳未満で第2号被保険者に扶養されている配偶者 第2号被保険者は、会社員・公務員・私立学校の教職員が該当します。 この方々は厚生年金保険料・長期掛金などを納めているので、老後に老齢厚生年金を受け取ることができます。 また、第2号被保険者で20歳以上60歳未満の方は 給与明細などには書かれていませんが 厚生年金保険料・長期掛金の中に国民年金保険料も含まれています。 第3号被保険者は、自身で国民年金保険料を支払っているわけではありませんが、支払ったことになっています。 このように、第2号被保険者と第3号被保険者に未納は発生しません。 20歳以上60歳未満の第2号被保険者と、第3号被保険者の期間は上記の分子に加えることができます。 一方、自営業者などの第1号被保険者は自分で国民年金保険料を支払う必要があるので、20歳~60歳の40年間という期間を考えると未納が発生することが往々にしてあります。 未納だと分子に月数を加えることができないので、老齢基礎年金の満額を受け取ることができなくなります。 老齢基礎年金の満額を決める要素 老齢基礎年金の決まり方はとても複雑です。 ここでは2020年度の決まり方をできるだけ簡単にご紹介していきたいと思います。 まず、老齢基礎年金の計算は年齢区分で異なります。 この年齢区分を「新規裁定者」「既裁定者」と称しています。 新規裁定者は、その年度において67歳以下の方。 既裁定者は、その年度において68歳以上の方です。 現役世代により近い方が新規裁定者、少し離れた方が既裁定者になります。 それでは、老齢基礎年金の満額を決める5つの要素をご紹介します。 老齢基礎年金の満額を決める5つの要素 1 老齢基礎年金の法定額 780,900円 2 物価変動率 3 賃金変動率 4 マクロ経済スライド調整率 5 前年度改定率 1 老齢基礎年金の法定額 老齢基礎年金の額 満額 は平成16年の年金法改正で規定されていて、その額は780,900円です。 各年度の老齢基礎年金の満額は、780,900円に物価変動率・賃金変動率・マクロ経済スライド調整率・前年度改定率により得られた改定率を乗じて計算することになっています。 2 物価変動率 年金額改定に用いる物価変動率は「前年の消費者物価指数変動率」を用います。 2020年度の場合は「2019年平均の全国消費者物価指数」を用いますが、前年比0. 3 賃金変動率 賃金変動率は「名目手取り賃金変動率」を用います。 2020年度の場合、物価変動率0. 999。 賃金変動率は、1. 003なので、2020年度の賃金変動率は0. 4 マクロ経済スライド調整率 マクロ経済スライド調整率は、少子高齢化によるものです。 保険料を納める人が少なくなり、年金を受け取る方が多くなったことによるスライド率で年金額を抑制する働きがあります。 マクロ経済スライド調整率の計算要素は、公的年金被保険者数の変動率 平成28年度~30年度の平均 と平均余命の伸び率です。 2020年度の場合、公的年金被保険者数の変動率0. 999 になります。 5 前年度改定率 前年度改定率はその名前のとおり、前年度の改定率です。 2020年度の老齢基礎年金の計算をする際には、この前年度改定率も要素になります。 2020年度の計算対象になる前年度改定率は0. 999です。 2020年度の老齢基礎年金の満額の決まり方 新規裁定者と既裁定者の年金額計算式 老齢基礎年金の満額は年度ごとに変わりますが、計算の方法は上記4つの要素で決まってきます。 ところで、毎年度の老齢基礎年金の計算は「新規裁定者」「既裁定者」で異なると書きました。 簡単に言えば「新規裁定者」の老齢基礎年金の満額は賃金変動によって決まります。 一方、「既裁定者」の老齢基礎年金の満額は物価変動によって決まります。 ただし、この決まり方にはいくつかのルールが存在します。 まずは2020年度の計算要素となる、物価変動率と賃金変動率を再度お示ししたいと思います。 2020年度の物価変動率 0. そして2つを比較すると、物価変動率が賃金変動率を上回っています。 物価変動率も賃金変動率もプラス、かつ物価変動率が賃金変動率を上回っている場合は、新規裁定者・既裁定者とも賃金によって年金額が改定されることになっています。 したがって2020年度の場合、新規裁定者・既裁定者とも同じ計算式を使って老齢基礎年金の満額を算出することになります。 そうすると2020年度の場合、新規裁定者の年金額の伸びは0. 現役世代に近く支出も多いであろう新規裁定者の年金額が少なく、現役世代に遠い既裁定者の年金額が多くなると世代間の不公平感が助長されることから、このような仕組みが作られています。 2020年度の老齢基礎年金の満額の計算式 老齢基礎年金の満額の計算式は次の通りです。 そうすると改定率は次の計算式で求めることができます。 賃金変動率 1. まとめ この記事では、2020年度の老齢基礎年金の満額はいくらになるのかをお伝えしてきました。 2019年と2020年を比較すると、金額では年額1,600円、割合では0. 年金相談をしているとお客様から「年金額は毎年下がっていくんでしょ」というご質問を度々承ります。 2020年度の場合、僅かながらも老齢基礎年金の満額は増えているので、必ずしも年度ごとに年金額が下がっていくわけではありません。 ただ、老齢基礎年金の満額の計算要素の中にはマクロ経済スライド調整率があります。 マクロ経済スライド調整率は少子高齢化を背景として年金額の伸びを抑制する仕組みです。 老齢基礎年金の満額は今後も上がる可能性はあります。 ただし、マクロ経済スライド調整率の影響で、物価や賃金の伸びほどには上がらない。 マクロ経済スライド調整率はまだまだしばらく続きそうです。 老後の年金が老齢基礎年金だけという方は、より自助努力が必要になってきそうです。
次の年金満額の誤解その1「40年以上加入しても仕方がない!? 」 ある日、Yさん(男性・58歳)からこんな質問がありました。 「国民年金って、40年で満額(参考記事「」)なんだそうですね。 私は18歳から厚生年金に加入して、今年で加入期間は40年になりました。 これ以上納めても意味がないので、今後は納めないでおこうと思うのですが……」 Yさんは高校卒業後、会社員として30年間勤務し、その後脱サラし自営業を営んでいます。 脱サラ後は国民年金に加入し、保険料は欠かさず納めているそうです。 Yさんは18歳から年金制度に加入したので、58歳まで確かに40年間加入していることになります。 しかし、国民年金に60歳まで加入し続けなければなりません。 Yさんにしてみれば、40年加入しているのだから、これ以上加入しても意味がなく、保険料がもったいないと思われるようです。 これって、一見もっともなことのように思えますが、実際はどうなのでしょうか? 「20歳まで」と「60歳以降」は、国民年金の年金額に反映されない 確かに国民年金は40年間(480月)加入で満額となります。 そして40年以上加入しても年金は増えません。 それは事実です。 しかし、注意をしなければならないのは、「国民年金の加入期間」の考え方です。 国民年金の40年間(要は年金額に反映される期間)とは、「20歳から60歳まで」の40年間を指します。 ですから、Yさんのように、18歳から会社員として年金(厚生年金)に加入した場合、厚生年金は18歳から年金に反映されますが、国民年金として反映される期間はあくまでも20歳からとなります。 Yさんは現在58歳ですから、年金制度には40年加入しているけれど、国民年金の年金に反映される期間としては、まだ38年でしかないわけです。 今から国民年金を払わなかったとすると、満額の国民年金は受け取れないことになります。 ちょっとした誤解をしていたわけですね。 Yさんはこのことを理解して、「60歳まで払い続けます」とおっしゃっていました。 このように、年金の加入期間が40年以上あったとしても、「20歳まで」と「60歳以降」の年金加入期間は、国民年金の年金額には反映されないことをしっかり理解しておきたいものです。 年金満額の誤解その2「厚生年金にも満額(上限)はある!? 」 国民年金を40年全て納付した場合に受け取れる老齢基礎年金額(満額)は、77万9,300円(平成28年度)です。 では、厚生年金に「満額」というものはあるのでしょうか? 答えは、「特に決まっていない」です。 厚生年金の額は「加入期間」と「加入期間の平均給料」によって決まります。 加入期間には事実上の上限(70歳まで)がありますし、平均給料も上限(標準報酬月額62万円)が設定されていますので、青天井とはいきません。 しかし、基本的には加入期間が長ければ長いほど、平均給料が高ければ高いほど年金額が増える仕組みとなっています。 60歳以降は厚生年金に加入しても国民年金は増えない! 国民年金の加入期間は20歳から60歳までの40年間で、全て保険料を納付していたら「満額」受け取れることになりますので、この40年間のうち、保険料の滞納もしくは免除期間があれば、その期間に応じて受け取れる年金額は減額されます。 そこで、60歳以降も年金制度に加入し続けて増やす仕組みがあります。 それが「任意加入」と言われるものです。 このケースでも誤解が見受けられます。 それが「60歳以降も会社員として厚生年金に加入しているから、任意加入は必要ない」というものです。 厚生年金に加入していることで、国民年金の保険料を納めたことになるのは「60歳まで」です。 60歳以降厚生年金に加入し続けたとしても、国民年金(老齢基礎年金)の額は「増えない」のです。 したがって、60歳以降に厚生年金へ加入している人が、老齢基礎年金額を増やすには「別途、国民年金に任意加入しなければならない」ことになりますが、残念ながら厚生年金と任意加入の同時加入はできません。 ただ、厚生年金加入中でも、過去の国民年金の滞納期間や免除期間の納付は可能です。 過去の国民年金の滞納や免除期間がある方は、納付することで増額が可能となります。 さて、「任意加入」できるのは、老齢基礎年金額の満額までです。 満額を超えて更に増やすことはできません。 これも注意が必要ですね。 これら様々な誤解を生んでしまう原因は、現在の年金制度が複雑すぎるため。 この複雑さの改善に是非取り組んでほしいと思います。 【関連記事】•
次の年金は最大でいくら受け取れるのか? 国民年金(老齢基礎年金)の満額は78万1700円 まず、国民年金から支給される老齢基礎年金の受給額についてです。 答えは 「上限あり」。 その額は 78万1700円(令和2年度)です。 国民年金(基礎年金)は日本国内に住所があると、20歳から60歳まで強制的に加入(保険料を支払う)することになります。 その間、滞納や免除期間がない限り、全員がこの満額を受け取ることになりますので、満額というより「定額」といったほうが正しいかもしれません。 年金の満額は毎年変わる この満額は前年の物価や賃金の変動をもとに決まるため、毎年変動しています。 平成16年以降は78万900円を基準として、これに毎年度の物価や賃金の変動を加味した改定率を乗じて計算されています。 ちなみに令和元年度の満額は78万100円でしたから、少し増額になったことになります。 国民年金のスタート時に比べて保険料は110倍、年金額は33倍 では、国民年金がスタートした昭和36年時点での老齢基礎年金の満額はいくらだったか、想像がつきますでしょうか?答えは「2万4000円」です。 一方、保険料はたったの「150円」(35歳未満は100円)だったのです。 令和元年度の保険料は1万6410円ですから、 年金額は約33倍になったのに対し、保険料は約110倍となっています。 年金額の上昇よりも保険料の上昇ぶりが目につきますね。 老齢基礎年金の満額を受け取るための要件 満額を受け取るには、20歳から60歳までの40年間、 1. 保険料を納めている 2. 会社員、公務員であった 3. 第3号被保険者(会社員、公務員の被扶養配偶者)であった のいずれかである必要があります。 この40年間の中で、保険料を滞納もしくは免除されていると、その期間分が減額されます。 ただ、40年の期間が足りない場合、要件はありますが、滞納や免除期間についてさかのぼって納付したり、60歳以降任意加入したりすることにより、満額(に近づける)ことも可能です。 基礎年金額の推移で見えるもの 先ほど、制度スタート時の満額が2万4000円だと説明しました。 その後の推移をみると、 昭和48年 24万円 昭和51年 39万円 昭和55年 50万4000円 と高度経済成長時にかけて満額も大幅アップしていることがわかります。 そして、さらに平成に入っても上昇は続きます。 平成元年 66万6000円 平成6年 78万円 平成11年 80万4200円 この80万4200円というのが、今までの満額の中での最高額となります。 その後、デフレとともに年金額が微減していき、令和2年度の78万1700円という流れになります。 従って、『概ね「78万円」』が老齢基礎年金の満額と言ってもよいでしょう。 老齢厚生年金に満額はない!? 一方、会社員、公務員の皆さんが加入する厚生年金(老齢厚生年金)には満額というものは存在するのでしょうか?老齢厚生年金は、加入期間と加入期間中の平均給料によって決まります。 加入期間が長ければ長いほど、平均給料が高ければ高いほど年金額が多くなる仕組みです。 したがって、「満額」という概念はありません。 ただ、加入期間については70歳という上限がありますし、平均給料についても、月額給料が62万円、1回の賞与が150万円という上限が設けられています。 加入期間とは、「会社員、公務員であった期間」を指します。 極端な話、中学を卒業してから70歳までずっと会社員か公務員で、給料と賞与がずっと上限だというのが「満額」といえるかもしれません(「上限」という言い方が正しいのでしょうが)。 仮に、こういった人がいるとして計算すると、現在の計算方法で年300万円ぐらいになると思われます。 ただ、そんな人はほとんどいないでしょうが……。 そうすると、「満額」という概念は老齢基礎年金にのみあるものといえますね。 【関連記事】•
次の