Bは全く話を聞く気がなかった。 だが親父は何ら反応する様子もなく、淡々と話を続けたらしい。 B父 「お前、自分には怖いものなんか何もないと、そう思ってるのか」 B 「ねえな。 あるなら見せてもらいてえもんだぜ」 親父は少し黙った後、話した。 B父 「お前はオレの息子だ。 母さんがお前をどれだけ心配してるかもよくわかってる。 だがな、お前が母さんに対してこうやって踏み躙る事しか出来ないなら、オレにも考えがある。 これは父としてでなく、一人の人間、他人として話す。 先にはっきり言っておくが、オレがこれを話すのは、お前が死んでも構わんと覚悟した証拠だ。 それでいいなら聞け」 その言葉に何か凄まじい気迫みたいなものを感じたらしいが、 「いいから話してみろ!」 と煽った。 B父 「森の中で、立入禁止になってる場所知ってるよな。 あそこに入って奥へ進んでみろ。 後は行けばわかる。 そこで今みたいに暴れてみろよ。 出来るもんならな」 二メートル近い高さの柵で囲まれ、柵には太い綱と有刺鉄線、柵全体にはが連なった白い紙がからまってて(独自の紙垂みたいな)、大小いろんな鈴が無数についてる。 変に部分的なせいで、柵自体の並びも歪だし、とにかく尋常じゃないの一言に尽きる。 あと、特定の日に、巫女さんが入り口に数人集まってるのを見かけるんだが、その日は付近一帯が立入禁止になるため、何してんのかは謎だった。 いろんな噂が飛び交ってたが、カルト教団の洗脳施設がある……ってのが一番広まってた噂。 そもそも、その地点まで行くのが面倒だから、その奥まで行ったって話はほとんどなかったな。 親父はBの返事を待たずに、お母さんを連れて2階に上がってった。 Bはそのまま家を出て、待ち合わせてたオレとAと合流。 そこでオレ達も話を聞いた。 A 「父親がそこまで言うなんて相当だな」 オレ 「噂じゃカルト教団のアジトだっけ。 捕まって洗脳されちまえって事かね。 怖いっちゃ怖いが……どうすんだ?行くのか?」 B 「行くに決まってんだろ。 どうせ親父のハッタリだ」 B 「A、お前だけちょっと歩いてみてくれ」 A 「?……何でだよ」 B 「いいから早く」 Aが不思議そうに一人で前へ歩いていき、またこっちへ戻ってくる。 それを見て、Bは考え込むような表情になった。 A 「おい、何なんだよ?」 オレ 「説明しろ!」 オレ達がそう言うと、Bは 「静かにしてよ~く聞いててみ」 と、Aにさせたように一人で前へ歩いていき、またこっちに戻ってきた。 二、三度繰り返して、ようやくオレ達も気付いた。 遠くから微かに聞こえてきている音は、オレ達の動きに合わせていた。 オレ達が歩きだせばその音も歩きだし、オレ達が立ち止まると音も止まる。 まるでこっちの様子がわかっているようだった。 B 「ふざけんなよ。 誰かオレ達を尾けてやがんのか?」 A 「近づかれてる気配はないよな。 向こうはさっきからずっと同じぐらいの位置だし」 Aが言うように、森に入ってからここまでの二十分ほど、オレ達とその音との距離は一向に変わってなかった。 近づいてくるわけでも遠ざかるわけでもない。 終始同じ距離を保ったままだった。 オレ 「監視されてんのかな?」 A 「そんな感じだよな……カルト教団とかなら、何か変な装置とか持ってそうだしよ」 音から察すると、複数ではなく、一人がずっとオレ達にくっついてるような感じだった。 しばらく足を止めて考え、下手に正体を探ろうとするのは危険と判断し、一応あたりを警戒しつつ、そのまま先へ進む事にした。 それからずっと音に付きまとわれながら進んでたが、やっと柵が見えてくると、音なんかどうでもよくなった。 音以上に、その柵の様子の方が意味不明だったからだ。 三人とも見るのは初めてだったんだが、想像以上のものだった。 同時に、それまでなかったある考えが頭に過ってしまった。 普段は霊などバカにしてるオレ達から見ても、その先にあるのが、現実的なものでない事を示唆しているとしか思えない。 それも半端じゃなくやばいものが。 まさか、そういう意味でいわくつきの場所なのか……? 森へ入ってから初めて、今オレ達はやばい場所にいるんじゃないかと思い始めた。 A 「おい、これぶち破って奥行けってのか?誰が見ても普通じゃねえだろこれ!」 B 「うるせえな、こんなんでビビってんじゃねえよ!」 Bは縄をくぐって六角形の中に入り、箱に近づいてった。 オレとAは、箱よりもBが何をしでかすかが不安だったが、とりあえずBに続いた。 野晒しで雨とかにやられたせいか、箱はサビだらけだった。 上部は蓋になってて、網目で中が見える。 だが、蓋の下にまた板が敷かれていて結局見れない。 さらに箱には、チョークか何かで凄いのが書いてあった。 たぶん家紋?的な意味合いのものだと思うんだが、前後左右それぞれの面に、いくつも紋所みたいなのが書き込まれてて、しかも全部違うやつ。 ダブってるのは一個もなかった。 オレとAは極力触らないようにし、構わず触るBにも、乱暴にはしないよう注意させながら箱を調べてみた。 どうやら地面に底を直接固定してあるらしく、大して重さは感じないのに持ち上がらなかった。 中身をどうやって見るのかと隅々までチェックすると、後ろの面だけ外れるようになってるのに気付いた。
次の石を投げられることを覚悟の上で、 近隣住民に聞き込みをしようと思い集落に戻った。 俺とCは、集落からしたら村八分以上、 というか大罪を犯した罪人のようなものだ。 何をされても不思議じゃないし。 隣の八百屋に行ってみたが、やはり話も聞いてもらえなかった。 何しに来た。 あんたと関わるのはごめんだ。 帰ってくれ、と。 祖父母家とC家の間にあった雑貨屋にも行ってみたが、 当時の女将さんではなく見知らぬ中年女性が居たが、 こちらも門前払いされてしまった。 その後も数軒まわったが、いずれも門前払いされてしまうか、 若い人で話が通じなかったりで収穫は無かった。 話が通じる人はどちらかというと、俺の訪問に対してビクビクしてるようだった。 俺とCだけじゃなく、この集落でもあの事件はまだ続いてるんだと実感した。 そして集落内の美容室へ行ってみたとき、 昔可愛がってくれたおばちゃんが、 ビクビクしながらも少しだけ話をしてくれた。 おばちゃんの話によると、当時の神主が亡くなたあと、 集落内でも良くないことが立て続けに起こったようだ。 集落の人たちは厄災を鎮めてもらう為、近隣の神社を尋ね懇願したらしい。 しかしどの神社でも何かと理由をつけて断られてしまい、 絶望した住民数世帯が集落を離れたという。 そして神主が亡くなってから半年ぐらいしたある日、 あの神社に新しい神主がやってきた。 そして集落内に厄災が起こらないよう鎮めているらしい。 おばちゃんに礼を言い謝罪すると、死ぬんじゃないよ、と複雑な笑顔で言ってくれた。 神社の鳥居をくぐると、神主が一直線にこちらへ歩いてきた。 それを見て、あぁこの人も先代同様、 本物なんだなと思い少し体が軽くなった。 神主に頭を下げると、 「あなたのことは存じ上げないが、何か非常に大きなものを抱えているようだね。 」 とやさしい口調で語りかけてきた。 俺は18年前廃屋に忍び込んだものです、と言うと、 その言葉で全て理解したようで、本殿へ招き入れてくれた。 神主は先代から「こんな話があって、今鎮めている」という話は聞いていたようだ。 そして集落住民からもおよその内容は聞いて居たので、 そして集落へ力が向かないよう、そして呪術そのものを弱めるため、 先代神主がやっていたようにあの家を封印してるという。 だが、俺やCは集落と完全に縁を切ってしまっているので、 生死すらもわからずどうにもしようが無かったと。 何故、俺とCは生きているのか。 神主は憶測だが、と前置きをした上で、 恐らくBの力がそうさせるのだろうと。 元の呪術にBの意向が合わさっているようなかたちになり、 俺とCに降りかかる厄災は、 「自らが死ぬよりも辛いことが起こり続ける」 という内容だったのではないかと。 それが結果的に、俺とCの命を護ることに繋がっているのではないか、と。 確かに、俺は立て続けに近しい人間が命を落とし続ける状況に、いっそ殺してくれと思い続けていた。 今回も、殺されに来たぐらいの腹づもりだった。 そしてそれは今後も、俺が寿命を迎えるまで続くのか。 絶望的な気持ちで俺は「俺が死ぬまで、続くんですね。 」と呟いた。 そしてもうひとつ、どうしても聞いておきたかったこと。 妻と子供は、やはり呪術によって命を落とすことになるのか。 それを防ぐにはどうすればいいのか。 もう久しく親しい友人すら作らなかった俺がまさか嫁をもらうことになるとは、 一年前の俺には想像もできなかった。 妻にはこの話をしていない。 ただ、しつこいぐらい俺と一緒になっては命だって危ないと警告した。 理由を話してくれと何度も言われたが、巻き込みたく無いので話せなかった。 話すことで、恐ろしいことに、それこそ自分が死ぬよりはるかに恐ろしいことが起こるとわかっていたから。 だが妻は受け入れてくれた。 妻は幼い頃、両親と妹を自動車事故で失っている。 同乗していた妻も瀕死の重傷だったが、一命を取り留めている。 「一度無くなってたはずの命だし、ちょっとのことじゃ死なないから、安心して。 彼女と知り合ったのが去年の夏、正式に付き合うことになったのが半年前。 妊娠発覚が1月で今は妊娠6ヶ月だ。 妻と付き合うことになってから、俺は幸せだった。 幸せだった故に恐ろしかった。 いつ妻が死んでしまうか。 いつ我が子が死んでしまうか。 毎日怯えていた。 一番近い、そして唯一の近しい人間。 いまや家族となった妻と我が子、すぐにでも厄災が降り注ぐのではないかと気が気ではなかった。 だが妻はもお腹の子も、今はまだ無事だ。 あともうひとつ。 2chにスレを立てたことをオブラートに包みながら神主に聞いてみた。 不特定多数の人間が見れる場所で、 インターネット上でこの話をした場合、どうなるか。 これも神主の憶測だが、何か起こる可能性は低いようだ。 ただ、特別感受性が強い人や、 何か良からぬものを抱えている人には影響が出ることも有り得ると。 そして、俺が考えたように「受け皿」を広めることによって、 俺の周囲への厄災が弱まる可能性もあると。 ただ、広めることによってさらに大きな影響が出る可能性もあるから、辞めておけと言われた。 もしかしたら読んだことによって何か良くないことが起こっている人もいるかもしれない。 それについては、申し訳ないと思う。
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