時間操作をする人を咎めようというわけではない。 むしろ、なぜこの制約がおもしろさを産むのか語りたいのだ。 「どうぶつの森」のリアルタイム連動による制約 最新作となる『あつまれ どうぶつの森』にも毎日の制約がある。 1日にできることは限られており、ショップで売られているものも日替わり。 本作では初日に川の向こう側に行けず、翌日以降に高跳び棒を手に入れて行けるようになるのだ。 このように、物事が進むには次の日を待たねばならない。 なぜこのような間があるのか。 いわゆるソーシャルゲームにも似たようなシステムがあるものの、あれはビジネルモデルからくる制約なので性質がまったく違う。 『あつまれ どうぶつの森』はソーシャルゲームが出現する前から続く買い切りタイトルのため、リアルタイム連動ゲームとして考えるべきだろう。 通常のゲームは遊べば遊ぶだけ進行するわけだが、リアルタイムと連動させればゲームの進行はゆっくりになる。 カノジョと日常を過ごす「ラブプラス」シリーズなどもそうだし、リアルタイム連動ではないのだが、作中の時間の流れが遅い「シェンムー」シリーズも似たような意図があると思われる。 しかし、アクションゲームで「今日は2ステージしか遊べません!」となったら不満だらけになるのは当然である。 なぜわざわざそんな問題になりうる制約をつけるのかといえば、むしろそうしたほうがおもしろくなる作品もあるからだ。 誕生日、クリスマス、旅行でもなんでもいい。 筆者の場合は勉強机を買ってもらったのがうれしくて、届くのは数カ月後なのに時計の針を眺め続けたことがある。 「まだかなあ」と思う間はドキドキしたし、今になってみると楽しみな時間があんなにも続くことは幸福だったと思う。 『あつまれ どうぶつの森』も同様だ。 たとえば特定シリーズの家具を揃えたいと思ったプレイヤーがいたとして、一気にそれを手に入れられたらうれしいだろうか? もちろん喜ぶだろう。 しかし、毎日待ちながら少しずつ揃えていって、時間をかけて全部揃ったらさらにうれしいのだ。 不便や待ち時間はときに楽しみを増幅させる。 『あつまれ どうぶつの森』をプレイし始めると、すぐに高跳び棒やマイホームが欲しくなる。 しかし、それが手に入るまでに間があったほうが後の喜びも増すし、「手に入れたら何をしよう」とじっくり計画を練る時間も手に入るのである。 ほかのゲームのように、次から次へとおもしろいことがワッと押し寄せてくるものも楽しい。 けれども、強い刺激はすぐに慣れてしまう。 何より、ひとつの喜びをしみじみと味わうゲームには向いていないのだ。 だからこそ、「どうぶつの森」シリーズは特別なスローライフゲームなのである。 種を植えたらちょっとずつ花が成長して数日後に咲く。 雑草だらけだった島が少しずつキレイになっていく。 ある日たまたまもらった家具でインテリアデザインの方向性が見つかる。 こういった日常のなかにある小さな喜びをじっくりと味わう、機微を感じやすくするためにあえて制約を用意しているのだ。 また、『あつまれ どうぶつの森』はNintendo Switchのセーブデータお預かり機能(バックアップ)に対応していない(ただし、)。 これはリセットできなくすることと同義だ。 本作ではプレイヤーに後者を選んでもらいたいのだ。 なぜなら、そういったふつうの楽しみと違う部分が魅力なのだから。 毎日を噛みしめることができる稀有なゲーム とはいえ、「島を工事で自由に変えられる」という事前情報を知っているとなると、一刻も早く改造に着手したくなるかもしれない。 それでもひとつ踏まえておきたいのは、何もない無人島なのは最初だけであり、最初ほどむしろ珍しい状況なのだ。 本作は何度もやり直すタイプのゲームではないので、序盤の喜びは本当に最初だけのものである。 テントで過ごすはじめての夜、はじめてDIYしたアイテム、ハチに何度も挑戦して捕まえたときの興奮。 それらに価値を感じられるのは、最初の数日だけだろう。 現実にたとえてみよう。 はじめて小学校に行った日はどう感じただろう? 実家を離れて一人暮らしをはじめたときには不安を感じた? それとも喜びを覚えた? もし時間の流れがとてつもなく早かったら、そのときの気持ちは一瞬で消え去って、喜びも悲しみもあっさり忘れてしまうはずだ。 だからこそ『あつまれ どうぶつの森』はスローライフなのだ。 制約はプレイヤーに嫌がらせするためにあるのではない。 楽しみをよりふくらませるために待つ。 起こった事実を受け入れることが結果的にいい思い出になる。 そういう小さな幸せに気づいてほしくて、あえてそうしているのである。 それでも「今日できることが少ない」と思う場合は、違うプレイ方法を考えてみるのもいいだろう。 本作はサウンドもかなりパワーアップしており、木々のざわめきや波の音を聴いているだけでも時間が過ぎていくほどうっとりできるのだ。 夜中に外へ出てのんびりBGMを聴いたり、星や雲を眺めてみたり、どんな島にしようか考えてSNSでつぶやいたりするのもいい。 他のプレイヤーとのコミュニケーションも豊かになる作品なので、このゲームにまつわる話をするだけでも楽しいのだ。 そもそも『あつまれ どうぶつの森』は制限がだいぶゆるくなっている。 最序盤は夜中でもアイテムの買取が機能していたり、遅い時間に住人が出歩いていることもある。 手紙は専用のボックスが用意されているし、木の植え替えなんかも過去作を遊んだ人からすれば便利すぎてびっくりするだろう。 素早く進めたい人向けの要素もあり、だいぶ譲歩はしている。 にも関わらず、リアルタイム連動やリセット不可の仕様を貫いているのは、そこが『あつまれ どうぶつの森』の楽しみのキモだからである。 待つ楽しみ、日々の小さな変化、明日に新しい何かが待っている幸せ。 まさしくスローライフであり、そこにこのゲームでないと味わえないおもしろさが存在するのだ。 渡邉卓也()はフリーランスのゲームライター。 本当は一秒でも早くに会いたいが、彼女が来るのをあえてゆっくり待っている。
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