め め あべ 小説。 『どんでん返しがすごい』おすすめミステリー小説をまとめて紹介!【定番作品から最新作まで】

『どんでん返しがすごい』おすすめミステリー小説をまとめて紹介!【定番作品から最新作まで】

め め あべ 小説

凪いでいる黒い海はどこか恐ろしい。 ジャズグルが描いた、一本の線と真っ黒に塗りつぶされた絵を思い出した。 視ている景色に当て嵌めて不吉な方向に考えてしまう。 波の音と船の軋む音が不気味で、来ない待ち人を想って毒づきそうになる。 「待たせたな」 目の前に酒瓶が現れる。 滅多にお目に預かれない上等な酒だ。 目の前にぶら下がっていたら掴みとるものだろう。 歓喜の言葉を呑みこんで身を乗り出し掴み取ろうとしたとき、波で船が傾いて身が半分ほど海の上を舞った。 「猫猫!」 力いっぱい腰を引き寄せられ、甲板に二人で尻もちをついた。 「あいたた・・」 「何をやってる!」 左右とも蟀谷を拳でぐりぐりされる。 尻も痛いのにやめて頂きたい。 「い゛たたたたた」 あまりの痛さに身を捩りながらもんどりうって倒れる。 酒はしっかり抱きしめたままだ。 大の字で仰向けになると、空には月と星が浮かんでいた。 黒い海しか目に入らなかったが、月はいつから空にあっただろう。 花街の夜空にこんなに星はあっただろうか。 酒が手にあるからかわくわくした気持ちになってくる。 呑む前から酔っているのだろうかと自分のことを苦笑してしまった。 「・・気でも触れたか?」 くふふと笑いながら起き上がろうとしない猫猫へちょっとやりすぎたか、と申し訳なさそうに壬氏が声を掛けてくる。 いつもなら半目で見返すところだが、ご機嫌なので微笑みながら壬氏の目を見ると、壬氏は固まって瞳を合わせたまま動かなくなってしまった。 黒曜の瞳は夜の海のようだった。 瞳を合わせたのは一瞬だったけど何だかとても長く感じて、そう感じさせる壬氏はやはり天仙なのかもしれない。 壬氏が喉をごくんと鳴らしたので、喉が渇いているのかと起き上がりいそいそお酌の準備を始めると、今度は壬氏がうつ伏せで甲板に倒れていた。 今度は猫猫が上から見つめる番だった。 「ご気分が悪いのですか?」 「・・全然元気だ・・」 壬氏は仰向けに寝なおす。 行儀が悪いと水蓮が怒りそうだが、彼女は今は近くにいないのだろう。 大型犬のような護衛は居るらしいが少し離れている。 耳に意識を傾けると、相変わらず訓練で剣を振っているのか、波の音の合間にヒュッヒュッと風の音がする。 それにしても星が綺麗だ。 「壬氏さまが星だとすると、あの辺りの星でしょうか?」 ひときわ輝いている星の周囲を指差す。 星は人をあらわし、一番輝いているものは天子さまだと小さい頃おやじに教えてもらった。 「うーん・・俺の真名を知っているだろ?」 「知りません」 もちろん知っているがここは知らないことにしよう。 そうしよう。 だが、沈黙はいつものことだが、空気がじめじめとしてきたので仕方なく溜息とともに会話を紡ぐ。 「壬氏さまが生まれた日は、きっと月がとても綺麗な夜だったのでしょうね」 言いながら迂闊な言葉に後悔する。 その日はきっともう一人の皇弟が生まれた日でもある。 猫猫の気持ちとは裏腹に、今度は空気がそわそわしだす。 話を逸らすため「私は下賤のものなので、あのあたりの星かもしれません」といって、月から一番離れているあたりの星を指さす。 「お前は羅の姫だろう」 「姫ではありません」 「では俺も月であることを辞めよう、お前の近くの星になろう」 「やめてください・・」 壬氏を見る、見るというより見下ろす形になる。 今度は壬氏は瞳を逸らした。 沈黙を破ったのは、壬氏の突拍子も無い言葉だった。 「なあ、次の港で二人でこっそり抜け出して、旅に出ないか?」 「何を言ってるんですか・・」 「もっと世界を見たいんだ。 七色に輝く夜空もあると聞いたし、青くなくて透き通っている海があるとも聞いた。 日が沈まない国もあるらしいし、誰も終わりを見たことが無い森もあると聞いた」 「壬氏さまが居なくなったら、残された高順さまが罰せられます」 「そうされないように、手順は考えてある。 何とかなる。 いろんな国を巡っていろいろなものを見たいんだ」 何とかなるわけないだろうと猫猫は思ったが、ああそうか、この貴人は夢を語っているのだ。 望まない玉座を巡って日々憂鬱な戦いをしているのだ。 たまにはのってやっていいだろう。 海には月の道ができている。 その道はどこの異国に繋がっているのだろうか。 月の光が優しく照らしていて、まるで普段の世界とは別世界なのだ。 だから夢の話をしてもいいだろう。 「私は薬師をしながら旅ができますが、壬氏さまはどうやって旅をしますか?」 「うーん・・稼ぐとすると剣舞ぐらいか。 用心棒とか」 「旅先の一夜限りの間男でも十分稼げると思いますよ」 思わずこの口が言ってしまったのだが、頬を捻られ直ぐに謝罪をした。 捻った手を取ると、手を組んだ形になった。 直ぐに手を引っ込めようとしたが、ぎゅっと掴まれる。 壬氏の顔を見ると、赤くなっていた。 「・・踊らないか?」 「い、今ですか・・」 「前に俺ではない男と踊っていたじゃないか」 「・・わかりました」 いつの話をしているのか、と言いたくても言えない言葉を顔に思い切り出しながら、二人で立ち上がった。 腰に手が回される。 陸孫のときと違って何だかこそばゆい。 「下手で申し訳ありません」 「構わない。 誰も見てないしな」 壬氏の鼻歌であの日の曲が再現される。 流石というか、全く踊りを知らない猫猫でも問題ない足取りになる。 壬氏の手を必死で掴みながら踊っていると、またわくわくする気持ちが湧き上がってくる。 不気味だった波の音と船の軋む音も、旋律に聞こえてくるから不思議だ。 踊り終わるとどちらからともなく、くしゅんとするといつの間にか背後に高順が居た。 「そろそろお部屋にお戻りください」 「わかった」 壬氏は背筋を伸ばし、凛と声を張る。 遊びの時間は終わりなのだろう。 猫猫も壬氏に続いて部屋に戻ろうとすると、ふっと辺りが暗くなった。 月が雲に隠れたかと想ったら目の前に壬氏の顔があった。 宦官でも皇弟でも野犬でもない、少年のような表情に弱いうえ、きっと黒曜の瞳が星みたいに煌めいていたから動けなかったのだ。 されるがままに下唇に軽く噛みつかれる。 驚いて目を開く。 壬氏はざまあみろとばかりの顔をしたかと思うと、すぐに皇弟の顔に戻り踵を返して離れていった。 大きな魚が跳ねた音がする。 後姿に、続きをおもわず強請りたくなった。 きっと月が出ている夜は気持ちが高揚するのだろう。

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