「NIU疾患検査センター」の検査機器を紹介する隈教授=佐世保市、同センター 長崎国際大(佐世保市)は26日、蛍光LAMP法を用いた検査機器で、新型コロナウイルス感染の有無を調べる「NIU疾患検査センター」を大学敷地内に設置し、7月1日から運用を始めると発表した。 8月には学内に診療所も開設し、学生や一般市民を対象に抗体検査や抗原検査の実施も目指す。 感染が再流行する「第2波」に備え、大学として感染者の早期発見と感染拡大防止を図り、学生や地域の安全安心につなげるのが目的。 厚生労働省によると、医学部や大学病院などの医療機関を持たない大学が、検査所を設置するのは全国でも珍しいという。 センターは、薬学部の隈博幸教授(臨床検査学)をセンター長に、検査技師2人の計3人体制。 蛍光LAMP法を用いた検査機器2台を導入し、1日最大100検体を検査できる。 25日に佐世保市の「衛生検査所」に登録され、公的な検査機関と認められた。 7月中は、必要に応じて保健所が採取した検体を調べる。 8月1日には、学内に診療所を開設する予定。 医師の資格を持つ安東由喜雄学長らが学生や市民らを対象にオンラインで診察。 感染が疑われる患者の検体を採取し、センターで検査する一連の機能を整える。 新型コロナの感染歴の有無を調べる抗体検査や、短時間で判定可能な抗原検査の実施も目指す。 安東学長は記者会見で「医学部を持たない大学でも知恵を絞れば、ウイルス検査を実施することは可能。 地域の安全安心に貢献したい」と述べた。 県によると、県内では15日時点で、行政機関や医療機関計22カ所で1日最大634件の検査ができる体制が取られている。
次の戦争にもたとえられてきた、ウイルスとの闘い。 猛威を振るう新型コロナウイルスは、世界中の政治や経済を混乱に陥れています。 私たちは、この脅威とどう向き合えばよいのでしょうか。 医師として、感染症が流行する世界各地の最前線で活動してきた長崎大学教授の山本太郎さんです。 (ニュースウオッチ9 和久田麻由子 西山泰史) これほどまでの「世界的大流行」をどう見るか 和久田 すごく率直に伺いたいんですが、私自身はこんな事態になるって思ってもみなかったんですね。 今回、新型コロナウイルスが、世界でここまで大流行しているこの状況をどうご覧になっていますか。 山本教授 ある種の感染症のパンデミックが起こる可能性というのは、ずっと言われていて、危機感はありました。 2009年には、メキシコから始まった新型のインフルエンザもありました。 けれども、 実際に起きてみると、その危機感を超えたさまざまな問題が出てきているというのが今の状況です。 普通は起きないことに関して、ずっと強い緊張感を持ち続けられるわけでもないんですよね。 もしかすると、私を含めた専門家が、一般の人が危機感を持てるように発信するべきだったのかもしれないという反省もあります。 和久田 日本でも日に日に感染者が増えていますが、日本での感染拡大のフェーズは、いまどの辺りにあると見ていますか? 山本教授 すでに根絶(ができる)というフェーズは超えていると思います。 いまは、流行の速度を遅らせることが最も重要なフェーズに入っています。 流行の速度を遅らせるということは、すごく大切な意味があって、1つは、 社会インフラの破綻を防ぐということです。 2つめは、流行のピークを遅らせることによって、 ワクチンの開発や治療薬の開発を進められるということです。 いま我々ができることは、自分が感染しないこと。 そして、人に感染させないこと。 人っておそらく、人とのコミュニケーションが最も楽しいことなんですけど、最も楽しくて、人らしい部分を犠牲にしてでも、流行の速度を遅くしようと決めて、実践しているわけです。 1つの万能薬のような解決策はなくて、小さなことの積み重ねでしか、もうパンデミックとは向き合えないと思います。 人類と「感染症」との歴史は 山本さんは、医師として25年にわたって、アフリカやアジア、中南米など、50を超える国々でエイズの対策や研究に取り組んできました。 その一方で、感染症と人類の関わりについても研究してきた第一人者です。 その山本さんに聞いてみたかったのが…。 和久田 歴史上、人類って数々の感染症に直面してきて、そのたびに薬やワクチンを開発してきましたよね。 ウイルスには人類はもう打ち勝ったと思ってしまっていたんですけれども、そうではなかったということですか。 山本教授 1970年代の後半ぐらいに、人類が感染症を征服したという考え方が実はあったのだけれども、現状を見るとそうではなかった。 そもそも、人間が自然の一部である以上、こうしたウイルス感染というのは必ず起こってくるものです。 人間に感染するコロナウイルスは4つあるんですけれども、そのコロナウイルスは風邪の症状を起こすだけで重篤な症状を起こすことはほとんどありません。 かつて、そうしたコロナウイルスはパンデミックを起こし、人社会が免疫を獲得することによって、いまのような状況になってきていると思うんですね。 ただし、そうは言いつつも、過去の20年間を見てみると、SARS、MERS、そして今回の新型コロナウイルスのように3回も出てきているんですね。 これは、少し度を超えた頻度です。 和久田 そもそも、ウイルスというのは自然界からもたらされるものですよね。 山本教授 そうです。 生態系への人間の無秩序な進出であるとか、地球温暖化による熱帯雨林の縮小、それによる野生動物の生息域の縮小によって、人と野生動物の距離が縮まってきた。 それによって、野生動物が本来持っていたウイルスが、人に感染するようになってきた。 それが、ウイルスが人間の社会に出て来た原因だろうと思います。 生態系と人間のつきあい方というか、開発という名の下に生態系に人が足を踏み入れ、野生動物が本来住むべき生態系を温暖化なんかによって狭めている。 そうしたことが合わさって、人と野生動物の距離がすごく近くなって、ウイルスを野生動物から人に持ち込む大きな原因になっているということなんだと思います。 そしてもう1つ、そうしたウイルスが出てきたところに、グローバル化があって、人口の増加、都市の出現で、人の移動が加わって、世界同時パンデミックに至ったと考えています。 和久田 開発に伴って、新型コロナウイルス以外にも、新たなウイルスというのは見つかっているものなのでしょうか。 山本教授 過去100年で見ると、エボラウイルスもそうですね。 エイズも野生動物から人に入ってきて、パンデミックを引き起こしたウイルスとして知られています。 感染症が変えてきた社会 私たちの人間の営みが、未知のウイルスを人間界にもたらしてきたと指摘する山本さん。 パンデミックのあと、社会が一変した過去の例についても語ってくれました。 山本教授 中世のペストの流行は、中世ヨーロッパ社会を大きく変えていきました。 ペストはヨーロッパの人口を3分の1ぐらいに減少させたんですね。 そして、流行を抑えることができなかった教会の権威が失墜して、一方で、国民国家というのが出てくるきっかけになった。 ヨーロッパの中世は終えんを迎えて、近代が始まるということが起こったのだと思います。 今回の新型コロナも、コロナ終息後の世界をおそらく変えるというか、いまと違う世界が恐らく現れてくるのではないかと個人的には思っています。 和久田 開発を進めてきた人類は、方針転換を迫られているということにもなるのでしょうか。 山本教授 どう変わっていくかは別として、 個人的には、発展を至上とした価値観というのは、変わる時期に来ていたのかなという気がしています。 必ずしも発展ということではなくて、 環境の中において、我々が変わりながら常にそこに適応するというか、その中で生きていく、生き方を模索する。 経済的な拡大とは違う価値観であるべきなんだろうという気がしています。 持続可能な開発がおそらく必要なんだろうと思うんですね。 人間が地球の中で、こんなに多様な環境の中に進出できたのも、我々が感染症に対する免疫を失わずに獲得してきた結果である。 そういう意味では、今回のコロナウイルスについても人的被害を最小にしつつ、集団としての免疫を獲得していくっていうのが、目指すべき方向だと思っています。 ウイルスとの「共生」 山本さんは、著書などでたびたび「ウイルスとの共生が必要」としてきました。 その真意を聞きました。 和久田 世界や日本で、日々苦しんでいる人がいる状況を見ると、なかなか「よし、共生しよう」という気持ちにはなれないんですけれども、山本さんの真意を、私たちはどう理解したらいいでしょうか。 山本教授 私たちが自然の中の一員である限り、感染症は必ず存在する。 まず、第1の論点は、感染症は撲滅できない。 撲滅できないところで感染症とつきあうにはどうすればよいか、それは 全面的な戦争をすることではなくて、ウイルスの感染に対して、人的被害を最小化しつつ、ウイルスと共生していくことなんだろうと考えています。 ウイルスが打ち勝つ相手かどうか、たぶんそこが一番重要な点かも知れないと思います。 我々はウイルスの被害を最小化したいんですけども、ウイルスを我々の社会の中に取り込んで社会全体が免疫を持つことによって、社会自体が強固になっていく。 そんな視点が必要なのかなと思います。 目指すべきはウイルスに打ち勝つことではなくて、被害を最小化しつつ、ウイルスと早く共生関係に入っていくということではないかなと思います。 和久田 撲滅ではだめなんですね。 山本教授 回避しなくてはならないことというのは人的被害をもたらすこと、あるいは、社会機能の破綻をもたらすことであって、感染症そのものが存在することではない。 社会機能を破綻させなければ、我々はうまくつきあっていける可能性があるわけです。 そのために、いまある知識あるいは技術を使っていくことが大切だろうと思っています。 希望をどこに見い出すか 和久田 最後に、いま感染症の流行で混とんとしていますけども、私たちの社会に明るい未来とか希望をこれから見い出すとしたら、どういうところに見い出しますか。 山本教授 すごく難しい質問で、答えがないのかもしれないんですけれども、たぶん、 1人1人が希望を持っているっていうことが、将来に対する希望になる。 1人1人が明るい未来を思い描くことによってしかたぶんできなくて、未来が暗いものであると考えている中では、明るい未来は絶対来ないと思うんですよね。 未来への希望ってすごく大切で、昔、アフリカでエイズ対策をやってたんですけれども、なかなかうまくいかない。 それは(患者が)10年後の自分が想像できないから。 10年後には、エイズじゃなくても飢餓とか暴力とか、戦争とかで亡くなっているとすれば、「10年後にあなたが生きていくために、今エイズの予防しましょう」という言葉が、むなしくしか響かなかったんですね。 社会がどうあるか、どう変わっていくか、どういう希望のもとにあるべきかっていうのは、1人1人の心の中にあるような気が個人的にはします。 そういう意味では、今、大変な状況なんだけれども、その次の社会をどういうふうな社会にしていけばいいかっていうことを考えることによって、それが未来への希望につながると思います。 科学者である山本さんが、「希望が大切」とおっしゃったのがとても印象的でした。 新型ウイルスのあとの社会を、希望を持って想像することで、あすからの行動につなげていくという、非常に大切なメッセージだと感じました。
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